教育・育成事業:アーカイブ
2024年09月10日
2024年8月21〜24日、第40回国連大学グローバル・セミナー「持続可能な地球と社会へ向けてー能登、金沢、白山から学ぶレジリエンスとイノベーション」が石川県金沢市と白山市にて開催され、日本をはじめとする6か国から21名が参加しました。
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開会式では国連大学サステイナビリティ高等研究所(UNU-IAS)・所長の山口しのぶが開会の言葉を述べ、持続可能な開発における地域の課題を理解し、それに応じた最適な解決策を見出す重要性について語りました。
続いて、国連大学学長のチリツィ・マルワラの基調講演では人工知能などの技術、持続可能性、社会的公平性がどのように交わり、私たちが世界の課題に取り組むために役立つかについて説明しました。さらにマルワラ学長は、生物多様性が持続可能な開発において果たす重要な役割を指摘しました。その喪失が気候変動や都市化の進展に伴って深刻なリスクを引き起こす可能性があることを強調し、政策立案における生物多様性の考慮や、さまざまな関係者の協力による保全活動の推進が未来の世代にとって重要であると述べました。
講義1:
1つ目の講義は国連大学OUIKのフアン・パストール・イバルス研究員が担当し「生物多様性 – 気候ネクサスアプローチと金沢における持続可能な都市自然」というタイトルで発表しました。金沢での研究を例に庭園や鎮守の森などの都市に存在する自然が気候変動への適応策を実施する上で重要な役割を担っているという点を強調しました。さらに都市自然は生物多様性、さらには文化の多様性にも貢献していると述べました。
フィールドビジットと文化体験
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フアン研究員の講義の後、一同は玉泉院丸庭園にて伝統的な日本茶道を体験しました。この庭園は明治期に廃絶されたのち、発掘調査や文献に基づき2013年に再現された、都市自然の再生サイトでもあります。参加者は美味しい抹茶や季節の上生菓子を楽しみながら、金沢の歴史について学びました。その後、一同は金沢城公園や兼六園を訪れ、金沢独特の庭園文化や庭園が生物多様性に果たす重要な役割について学びました。
講義2:
2日目は 国連大学OUIKの小山明子研究員の講義でスタートしました。「世界農業遺産能登の里山里海 ― 現状と震災からの創造的復興」というテーマで過疎化や耕作放棄地といった震災前から地域が抱えていた課題を紹介し、若い世代が地域の魅力や価値、課題を理解し、復興に向けて主体的に関わっていくことの重要性を強調しました。2024年能登半島地震からの復興に向けて、生態系を活用した防災・減災の視点や、これまで進められてきた世界農業遺産やトキの放鳥に向けた取組との連携の重要性も述べました。小山は、震災後に進めている断水期間中の井戸水の利用に関する調査についても紹介し、レジリエントな社会の実現に向けて非常時の水の確保の重要性を強調しました。震災後の復旧・復興プロセスの中で新たな交流人口が生まれていることにも言及し、今後の能登における創造的な復興への歩みは、他地域のモデルにもなりうると述べました。
講義3:
次に奈良教育大学 ESD・SDGsセンター 副センター長及川幸彦准教授は、「災害リスク軽減と気候変動、及びESD」というテーマで講義を行い、災害リスク軽減と気候変動教育をESDに統合する重要性を説き、東日本大震災の教訓を紹介しました。また、SDGsの気候変動対策と教育が他の目標達成に不可欠であり、地域の持続可能性向上には多様な関係者の協力が必要だと述べました。
その後一同は後半の会場である白山市白峰に移動しました。
白山しらみね自然学校の山口隆理事より、オリエンテーションがあり、白峰地域の暮らしや文化、伝統の説明がありました。
講義4:
次の講義はUNU-IAS の勝間靖より「気候変動と健康」のテーマで行われました。気候変動が健康に与える影響を特に若者の「気候不安」について焦点をあてた議論が行われました。若者が気候変動に関する活動に参加することで精神的健康に良い影響を与える一方、問題の規模に圧倒されることもあると指摘されており、今後、気候変動と精神的健康の関係に対するさらなる研究が求められています。
講義5:
翌日セミナー3日目は「自然保護の動向と将来の方向性」というテーマでUNU-IAS OUIKの渡辺綱男所長が講義を行いました。自然保護の出発点として国立公園制度が強調され、特に日本の国立公園制度の歴史や、生物多様性の保全の重要性が議論されました。また、里山や里海といった人間活動と自然が共存する環境が生物多様性保全に寄与することが指摘されました。講義では、若者を含む多くの人々が自然保護活動に関わることの重要性が強調され、2030年までに生態系回復を目指す国際的な目標「30by30」にも言及されました。これにより、若者が自然保護の最前線で役割を果たし、持続可能な未来のための行動が促されています。
講義6:
「白山手取川ユネスコ世界ジオパークと白山生物圏保存地域の特徴と活動」というテーマで行われた白山手取川ユネスコ世界ジオパーク協議会のスーザン・メイ氏の講義では、白山地域の自然保護活動が紹介されました。この地域は、世界ジオパークと生物圏保存地域の両方に指定されており、自然環境の保全や持続可能な地域発展が推進されています。ジオパークでは、教育や研究、観光を通じて地域の自然遺産を活用し、自然と人が共存する持続可能な社会を目指しています。また、学生や地元住民の参加を促し、地域の誇りと知識を高めるための活動が行われています。特に高校生によるポスター発表や、国際フォーラムでの活動が注目されており、若者が自然保護の未来に貢献しています。
講義7:
「ジオパークと生物圏保存地域を活用したESDの推進」というテーマで行われた金沢大学のアイーダ・ママードウア准教授の講義では、持続可能な社会に向けた教育(ESD)の重要性が強調されました。特に、ユネスコの生物圏保存地域(BR)やジオパークをフィールドとして活用し、地域の問題解決や文化を学びながら持続可能な開発目標(SDGs)の達成を目指す教育が紹介されました。
若者を対象とした活動も活発であり、ユネスコMABユースフォーラムや若手科学者賞などを通じて、若者が地域や国際社会で生物多様性や気候変動に関する議論に参加する機会が増えています。講義では、金沢大学が地元コミュニティや国際機関と連携し、持続可能な発展に向けた教育プログラムを提供していることも紹介されました。
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3日目の午後はグループにわかれ、ディスカッションセッションと発表を行いました。生物多様性や防災とレジリエンス、教育などのグループに分かれ、課題を解決するための提案を行いました。
4日目の最終日は白山国立公園内を散策し、里山の利活用や、砂防などの防災システムについて学びました。
今回の第40回国連大学グローバル・セミナーは、持続可能な地球と社会の実現に向け、地域の知見や自然との共生の重要性を深く学ぶ貴重な機会となりました。参加者たちは、金沢や白山の自然と文化を通じて、レジリエンスやイノベーションについて考察し、具体的な課題に対する新たな視点を得ることができました。この学びが、各国の持続可能な開発目標の達成や地域の発展に寄与することを期待しつつ、今後も多様な国や地域を超えた協力が続いていくことを願います。
2023年10月29日
2023年10月6日、OUIKのフアン研究員が、金沢市立犀桜小学校の生徒約50名を対象に1時間の講義を行いました。この講義は、2019年からこの地域を中心に展開されている「持続可能な自然プロジェクト」の活動の一環で、生き物調査・データ収集として子どもたちが鞍月用水でホタルを数え記録する市民科学者活動などを行っています。講演は「金沢の生物多様性とSDGs」をテーマに行われました。まず、生物学的多様性と文化的多様性、そしてそれらの関連性について説明した。このメッセージを若い学生によりよく伝えるため、ホアン博士は金沢市立犀桜小学校の近くにあるいくつかの事例を紹介した。具体的には、生き物と芸術家が共存し、自然と文化の結びつきを強めている2つの庭園を紹介した。最後にホアン博士は、SDGsと生物文化多様性の保全にどのように貢献できるかについて、若い学生たちにいくつかのアイデアを提案した。都市の自然がもたらす多くの恩恵について子供たちを教育することは、金沢に残るユニークで貴重な社会的・環境的システムを根付かせるために不可欠である。SUNプロジェクトは、今後も世代間のつながりを強化し、未来に向けて自然を保全していくことに焦点を当てていく。
2023年10月30日
2023年11月10日に石川県七尾市で「農業遺産シンポジウム」が開催されます。このイベントのサイドイベントとして石川県と国連大学OUIKは「農業遺産認定地域の高校生による意見交換会(ユースセッション)」を共催する予定です。
この世界農業遺産7地域、日本農業遺産1地域、11校の高校生が集うイベントの事前学習会として、10月19日に21名の高校生がオンラインで集い「農業遺産とは何か?どのような経緯で今回ユースセッションが開催されるのか?当日どのようなことをするのか?」について理解を深めました。
はじめに国連大学OUIKのリサーチフェローの永田明より「農業遺産ってなに?」というタイトルで講義がありました。世界農業遺産の認定制度、国内外の世界農業遺産、認定を受けることによってどのような波及効果があるのか、などの説明がありました。
続いて、国連大学OUIKの小山研究員より2021年度に開催されたGIAHSユースサミットの概要や成果、そして昨年度実施された「農業遺産認定地域の高校生による意見交換会」について紹介しました。
後半はグループに分かれ、自己紹介、そして前半の発表を聞いた感想や意見を交換し、最後はグループごとでの意見を発表し合いました。「世界農業遺産がアジアに多いことを知り驚いた」という意見や、「高校生同士で話し合う機会があるのは嬉しい」、「大人に意見を発表する機会があるのはありがたい」という声が上がりました。
最後に石川県の福田さんと小山研究員から当日の流れや準備などを説明して閉会しました。11月に石川県に行くのが楽しみになったという声も聞くことができ、対面でのユースセッションに向けた良い事前準備の会となりました。
2023年10月31日
2023/10/31
10月3日に七尾市で、石川県と能登地域9市町で構成される能登GIAHS(ジアス)推進協議会と、国連大学OUIKや生物多様性に関する専門家が参加する能登GIAHS生物多様性ワーキンググループ(以下、WGと表記)による合同の研修会が行われました。
国連大学OUIKリサーチフェロー・永田明氏より
「世界農業遺産(GIAHS)について」の講義
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永田明氏
永田明氏は、世界農業遺産の日本導入当初から関わり、現在は国連大学OUIKの客員リサーチフェローを務めるとともに、東アジア農業遺産学会の日本事務局を務め、「農業遺産の伝道師」を自認して国内外で活動されています。
GIAHSには、①食料と生計の保障(経済の側面)、②農業の生物多様性(環境の側面)、③知識システム(技術の側面)、④文化、価値観、社会組織(社会の側面)、⑤ランドスケープとシースケープ(土地利用の側面)の5つの基準があり、これらを全て満たす必要がある上に、伝統的な農業システムを保全するためのアクションプランも求められると紹介しました。
また、GIAHSの類型区分について、永田氏の案として、「農法型」、「遺伝資源保全型」、「ランドスケープ型」の3つを挙げました。ランドスケープ型は、特定の田んぼや畑だけではなく、後背の森林や河川、海、集落なども含み、トータルで伝統的な農業を保全しているもので、能登をはじめ、日本にはこの区分が多いと述べました。
「物」ではなく「システム」を対象にしているGIAHSは、世界文化遺産とは違い、未来思考であり、新しい技術も取り入れながら、コアなものが残せればいいという考え方です。「昔のまま、ツライ農業を続けることがGIAHSではありません」と、永田氏は言います。
2010年に「里山と世界農業遺産」というワークショップを国連大学が金沢市で開催。当時の北陸農政局局長が世界農業遺産に関心を示し、北陸農政局の管内で候補を探して、その時に出てきたのが能登と佐渡だったそうです。
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「世界農業遺産」という名称は谷本前石川県知事と当時の武内国連大学副学長が提唱したものであり、また、国連食糧農業機関(FAO)のプロジェクト(事業)の一つだったGIAHSが、2015年にレギュラープログラム(制度)に昇格した契機となったのは、2013年に石川県で開かれた世界農業遺産国際会議が大いに盛り上がったことなど、「GIAHSが今、世界的にも定着してきたのは、能登から始まっています。ぜひみなさん、大きな自信と誇りを持っていただきたい」と永田氏は強調しました。
里山里海システムは人間活動の影響を受けて形成・維持されている二次的自然環境。人と自然の共生が、まさに里山里海の考え方であり、能登GIAHSの特徴だと言います。
途上国では開発圧力が伝統農法の最大の脅威ですが、日本では過疎化や高齢化、後継者不足、野生鳥獣害などが脅威となっています。そのためにもGIAHSを農山漁村の振興に役立たせることがとても重要であり、それをどう活用していくかも一体的に考えることが、日本の農業遺産の保全の特徴だと述べました。
そのためには、農産物の付加価値をあげたり、ブランド力を強化したり、グリーンツーリズムなど観光にも活用したりして、経済に活かしていくことだと述べ、さらに、アジアのGIAHSと東アジア農業遺産学会などの紹介も行って、講義を締めくくりました。
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能登GIAHS生物多様性ワーキンググループ(WG)
これまでの流れを紹介
続いて国連大学OUIKの小山明子研究員から、WGのこれまでの流れについて紹介しました。
能登GIAHSでは現在、第3期のアクションプランを実施中ですが、第2期のアクションプランには、「研究機関と連携した調査検討実施体制を確立」という具体的な活動内容が示されていて、これにより2021年5月に、能登地域GIAHS推進協議会の中にWGが発足しました。
農林水産省が5年ごとに実施する「GIAHSのモニタリングと評価」では、世界農業遺産等専門家会議による評価と助言がなされます。これまでに出された能登GIAHSへの助言の中で、生物多様性に関するものは、「生き物調査の手法の統一や、今後の活用方法を検討し、保全に活かしていくこと」、「保全計画の見直しについて、取組項目や目標数値の設定、モニタリング手法のあり方を検討していくこと」、「保全計画の認証制度の要件に、生物多様性調査の持続性を担保するための手法についても検討すること」というものがありました。
2016年から、認定基準としての生物多様性の定義が「農業生物多様性」と、より農業に関係している生物の多様性に焦点が当てられるようになりました。
「能登の里山里海の農業生物多様性」を定義すると、食用や農林漁業で利用している生き物や遺伝子の多様性に加えて、それを支えるその他の生き物や生態系の多様性ということになります。
WGの活動を進める上では、調査することそのものが目的にならないよう、
・能登GIAHSにとっての生物多様性の影響、効果の実感
・地元住民の生物多様性意識に関する認識や理解を高める
という目的を果たせるように、生物多様性が保全されていくということを念頭に置きます。
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そこで、WGの役割を整理すれば、
・農業生物多様性の調査、データ管理、普及啓発活動を企画、実施する
・能登GIAHSに関連する各種活動に関して生物多様性の観点から、助言、協力を行う
となります。
このような形で発足したWGがこの2年間に具体的に行ってきた活動として、「情報を一元化するための仕組みづくり」や、「GISによるデータベース化」、「アプリツールを活用した市民参加型調査」、「指標種の選定や調査」、「指標種の教材などを作成し、観察会のサポート」などがあり、また、「在来作物に関する情報を発掘したり、それに関するアクションを考えたりすること」や、「専門家によるトピック調査」などは着手できていないと小山研究員が述べ、発表は終了しました。
この後、「今後私たちが取り組むべき課題と現状の課題」をグループごとに話し合うワークショップを行い、それぞれがその結果を発表しました。
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「能登GIAHSの何がすごいのかを紹介する情報がほしい」、
「生きもの調査で講師や同定ができる人が足りない。人材育成もできていない」、
「自治体ではトキの担当部署と世界農業遺産の担当部署が違い、情報共有など連携がうまくできていない」、
「9市町それぞれで行っているトキのモデル調査の内容を比較したり、困っていることを話したりする場所がほしい」、
「調査を依頼している地域の人たちに、トキを放鳥するメリットの説明をするのが難しい」などといった課題や意見が出ました。
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午後は、アプリを使って
実際に田んぼの生き物調査を体験
七尾市トキモデル地区の西三階地区で、WGの専門家メンバーでいしかわ自然学校インストラクターの野村進也氏が講師を務め、田んぼの用水路と田んぼ脇のビオトープの2地点で生き物採取を行いました。
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野村進也氏
WGが制作した下敷き教材と「iNaturalist」という生き物を識別して観察記録を共有できるアプリや、WGで制作した下敷き教材、記入シートを用いながら、観察できた生き物を記録していきました。長年有機栽培に取り組んでいる場所ということもあり、ビオトープではタイコウチやコオイムシ、ガムシなど、沢山の水生昆虫が見つかりました。のなかまもケースに入りきらないぐらい捕れました。野村さんには、腹部や羽の先の違いを見ることで、赤とんぼの種類を見分けられることなど、観察ポイントを紹介頂きました。
観察会の後は、アプリの使い勝手や下敷き教材および、WGで制作中の副教材についての意見交換の場をもちました。
アプリについては、「写真をアップして情報共有できるのは楽しい」という意見もありましたが、「判別してもらうように写真がうまく撮れない」、「同定された種があっているのかどうかがわからない」など、課題も多く上がりました。
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下敷き教材については、「種類の見分けるポイントを解説する情報も欲しい」といった意見が、また生き物の見つかる場所なども教える副教材については、「観察会の最初に使用した方がいい」などという意見がありました。
最後にWGの座長で石川県立大学の柳井清治特任教授が、「今後も市町の方々と意見交換をしながらより良い能登GIAHSを作り上げ、農業生物の多様性に富む環境づくりを行いたいと考えているので、これからもご協力をお願いいたします」と述べ、長時間に及んだ研修会は終了しました。
2023年10月27日
2023年10月27日
今年度から、石川県内の大学生を対象に能登の里山里海GIAHSを通して国際的な視点を持つ若者の育成と地域への貢献を促進することを目的に「世界農業遺産(GIAHS)スタディ・ビジットプログラム」が石川県と国連大学OUIKの共同プログラムとしてスタートしました。 7月に開催された第一回講義、8月9日~10日の1泊2日の世界農業遺産「能登の里山里海」について学ぶ現地研修に続いて、石川県内の大学生の5名が参加するイタリア研修が9月10日~17日の日程で実施されました。 この訪問の目的は様々な国連期間の食に関する取り組みについて学び、実際にイタリアのGIAHS地域を訪れ、持続可能な農業について学ぶことです。
これまでのGIAHSスタディ・ビジットプログラムの活動は以下よりご覧ください。
2023 世界農業遺産スタディビジットプログラム・第一回講義
世界農業遺産スタディ・ビジットプログラム 能登現地研修
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ローマでは、ローマに本部を置く食糧関連の国連3機関、国連世界食糧計画(WFP )、国際連合食糧農業機関(FAO)、国際農業開発基金(IFAD)を訪れ、世界が直面する食料や農業の課題や各機関の取り組み内容について学びました。FAO本部で学生たちは国内研修を通して学んだ、能登GIAHSに関するプレゼンテーションを英語で行いました。FAOのプログラムスペシャリスト、クレリアさんは千枚田の次世代継承について研究したチームの発表について「とても興味深い。現代のテクノロジーを用いた提案を現地の人とも共有するべき」とコメントしました。以下はWFP, FAO, IFADの本部訪問での学びの記録です。
IFAD(国際農業開発基金)
IFADでは発展途上国、特に農村地域を支援するIFADの活動について学びました。小規模農家や農村コミュニティに主に向けられた資金調達と能力構築の取り組みについてのレクチャーの後、IFADは、貧困層と低所得者に対するインフラ改善とマイクロファイナンスサービス提供のアプローチについて議論しました。特にジェンダー平等の実現は、途上国の持続可能な開発を実現するうえで重要な課題であり、その実現に向けて様々なプロジェクトを通じで途上国の女性を支援しているそうです。そして、若者には資本となる土地がないなどの課題があり、若者の雇用を生み出し、エンパワーメントを後押しするためのプロジェクトも進められているとのことです。
WFP(世界食糧計画)
WFPでは「命を救い、人生を変える(Saving lives, changing lives)」というポリシーのもと、戦地や被災地に72時間以内に対応しているそうです。特に学校給食プログラムを通じた教育の重要性、栄養不良の対策と子供たちの教育へのアクセス支援に焦点を当てました。給食が学習成果の向上とSDG 4の達成に果たす重要な役割を認識するとともに国際機関と民間企業の協力の重要性を認識しました。また、「Share The Meal」というアプリにを通し、個人が食糧支援プログラムに簡単に貢献できることを知りました。
FAO(食品農業機関)
FAOでは食品に関連する課題に対処するために持続可能な農業の実践と革新の必要性について学びました。世界的な食に関する問題に取り組むために学術界、研究機関、国際機関との協力の重要な役割にも焦点を当てました。学生たちはFAOの環境に配慮した農業の促進と栄養価の高い食品へのアクセスを確保する取り組みについてより深い理解を得ました。
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ローマ訪問の後半はウンブリアを訪問し、GIAHSに認定されているアッシジとスポレートの間の斜面にあるオリーブ畑などを訪問しました。
オリーブ農家から地域に古くから伝わるオリーブの栽培方法についても学びました。斜面を活用して太陽の光を最大限に利用し、雨水を効果的に排水する方法や、石で土地を固定する伝統的な方法は、土壌流出を防ぐために重要です。また、気候変動との関係についても学び、持続可能なオリーブ栽培の重要性を理解しました。オリーブオイルテイスティングでは、オリーブオイルにはさまざまな味があり、気温やオリーブの品種によって変化することを学びました。さらにオリーブオイルの生産工場を見学したり、博物館や伝統的な建築を訪問し、オリーブ栽培やオリーブオイル生産の歴史について探求しました。農家の方とのディスカッションでは地域の獣害問題や若者の農業人口など、能登での課題と関連性のあるトピックにつても議論しました。
学生たちはこの訪問やこれまでの能登での学びを活かし、能登GIAHSでの課題解決に関する研究を進め、最終発表へ挑みます。
2023年09月28日
2023/9/28
2023年9月8日、七尾市立和倉小学校の6年生の児童たちによる「里海の生きもの調査」が実施されました。この調査には能登GIAHS生物多様性ワーキンググループの専門家のメンバーである金沢大学環日本海域環境研究センターの坂井さん、石川県立大学の柳井先生、のと海洋ふれあいセンターの荒川さん、金沢大学能登学舎の木下さん、国連大学の小山研究員が参加し、生き物調査の実施を支援しました。
調査では、班に分かれ、最初に堤防で岩場の生き物を探しました。網を使用して海中の生き物を採集する児童や、軍手で捕まえている児童もいました。そしてついつい夢中になって勢い余ってお尻まで水に浸かってしまう児童も!堤防からはアマモ場も見ることができました。
次に、捕まえた岩場の生き物をトレーに出して、観察しました。ワーキンググループで作成した下敷きや、今年度新たに作成している副教材も用いながら、今回見つかった生き物について坂井さんに解説してもらいました。能登半島では食材としても用いられているしただみの仲間や、アラレタマキビガイ、スガイ、レイシガイなどの貝類が沢山見つかりました。そして小ぶりなサザエを見つけた班の児童は、貝を見つめながら「食べたいなぁ」と何度も言っていました。小さなシマイサキの幼魚も見つかりました。
続いては、人工の砂浜にどんな生き物が住んでいるかを観察しました。坂井さんから砂浜にある無数の穴はスナガニが空けたものであることを教えてもらい、スナガニ探しがスタートしました。なかなか見つけることができませんでしたが、荒川さんが見つけた個体を観察することができました。大きな目の可愛らしいスナガニの姿に興味津々の表情を見せていました。
そして生き物だけでなく、どんな漂着物があるかについても考察しました。沢山落ちていた切れたチューブの様な漂着物が、カキの養殖で使われているものであることなどを教えてもらいました。和倉小学校では、SDGs学習も進めているので、先生も児童も漂着物に大変興味を持って観察し、目立つ漂着ゴミは持参したゴミ袋に入れて持ち帰ってくれました。
海のすぐ近くに住んでいても、子供たちが生活の中で海の生き物を観察する機会というのは少なくなっているため、観察会で自分で生き物を見つけて、直接触れてみることで、生物多様性への理解やSDGsへの関心も深まったのではないでしょうか。今後も、SDGs学習を進めていく中で、今回の観察会をきっかけに、身近な里海の環境の重要性、そこに生息する生き物たちと私達の暮らしの繋がりなどについても学びを深めていってもらえたらと思います。
今回使用した副教材は、講師や学校の先生からのフィードバックを得て、今年度内に完成予定です。
2023年09月28日
2023/9/28
2023年9月7日、珠洲市が市内の9つの全ての小学校で行っている生き物観察会が、珠洲市立蛸島小学校の3,4年生を対象に行われました。今回は能登GIAHS生物多様性ワーキンググループで今年度作成している副教材を使用し、いしかわ自然学校インストラクターの野村さん、金沢大学能登学舎の岸岡さん・木下さん、のと海洋ふれあいセンターの荒川さん、国連大学の小山研究員が参加し、観察会の実施をサポートさせてもらいました。
珠洲市の小学校では春と夏に2回の観察会を行い、その後にまとめの授業も行っていて、今回はその2回目の観察会でした。
調査では、2班に分かれ、一つの班はため池へ、もう一つの班は稲刈り後の田んぼへ移動しました。田んぼの班では、まず田んぼの管理をされている農家の方にご挨拶をして、今の田んぼの状況を教えてもらいました。田んぼはすでに刈り取りが終わっていて、乾いた状態のため、たも網ではなく捕虫網を使って生き物を捕まえます。乾いていて一見何もいないように見えた田んぼでも沢山の生き物を見つけることができました。赤とんぼの仲間やバッタ、シジミなどの昆虫、ニホンアカガエル、トノサマガエル、アマガエルもいました。
学校に戻って、ため池の班が見つけてきた水生昆虫をグループごとに仕分ける作業をしました。最初は素手で生き物を触ることをためらっていた児童が多かったですが、「かわいい」といいながらゲンゴロウを移動させる児童も出てきて、最終的にはみんなで全ての生き物をグループ分けすることができました。見つかった生き物について、ワーキンググループの野村さんに昨年度作成した下敷きと、今年度作成中の副教材を用いながらそれぞれの生き物について解説してもらいました。
副教材では、下敷きに示されている生き物がどんな環境にいるのか、その生き物がいるということがどのような意味をもっているのか、親しみやすいイラストで説明しています。興味持って教材を読んでくれている様子が印象的でした。
珠洲市ではすべての小学生が3,4年生の時にこのような体験型プログラムを基に、「普段食べているお米が作られる環境にどのような生き物が暮らしているのか」を学び、地域の環境、生物多様性について考察します。そしてこの学習の成果は毎年学習発表会で発表する機会が設けられ、学校間での実践事例の共有も進められています。
ワーキンググループでは、今回制作した教材が、このような既存の学習プログラムにて今後ますます活用されるよう、講師や先生からのフィードバックを得て、改善と発展を促進しています。
2023年08月29日
2023年8月29日
今年度から、石川県内の大学生を対象に能登の里山里海GIAHSを通して国際的な視点を持つ若者の育成と地域への貢献を促進することを目的に「世界農業遺産(GIAHS)スタディ・ビジットプログラム」が石川県と国連大学OUIKの共同プログラムとしてスタートしました。
7月に開催された第一回講義に続いて、8月9日~10日の1泊2日の日程で世界農業遺産「能登の里山里海」について学ぶ現地研修が行われ、今回も石川県内の大学生の7名が参加しました。
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一番目の訪問先は、能登の世界農業遺産のシンボル的な存在になっている白米千枚田です。まずは、白米千枚田愛好会の小本さんに現状や課題、そしてオーナー制度や観光地として活用していくための様々な取り組みについて説明していただきました。県内の学生さんでも白米千枚田に来たことがなかった学生さんがほとんどで、「海の塩分の稲作への影響はないのか?」など積極的に質問も出ていました。潮風に含まれる適度な塩分や伝統的な稲架干しがお米を美味しくしていることなどを教えて頂きました。事前に学生さんから「米作りに関わる作業を体験したい」とリクエストを受けていたので、千枚田で草刈り作業も体験させてもらいました。非常に暑い日だったので短い時間ではありましたが、鎌を使った作業を体験しました。
昼食後は、イカの魚汁(いしる)を作っている舳倉屋さんを訪問しました。まずは、イカの内臓と塩を使用して魚汁を作るプロセス、そして加工業で発生する内臓を有効利用し、魚汁絞り後の残渣も再活用するSDGsに基づく取り組みが紹介されました。その後、実際に魚汁を味見し、イカを捌き魚汁で漬けるという体験をしました。魚汁を口にするのも、イカを捌くというのも初めての経験という学生が多かったです。
次に、能登の獣害やジビエの活用について学びたいという学生さんからのリクエストに応えて、輪島市有害鳥獣処理施設を訪問しました。まずは、センター長の宮地さんから能登のイノシシ捕獲頭数の推移や捕獲されたイノシシがどのように処理されているのかの説明を受け、実際に処理施設も見せてもらいました。続いて、狩女の会の福岡さんからイノシシを食肉としてだけでなく、皮も革製品に利用するなど、命を無駄なく活用するために取り組んでいる様々な活動についてお話し頂きましました。
その後、宿泊先の新橋旅館に移動し、ワークシップを行い、中間発表に向けてテーマごとのグループに分かれて学習内容の整理や議論を行いました。
2日目は同じく輪島市内の里山まるごとホテルを訪問しました。集落散歩や野菜収穫体験などもさせて頂きながら、山本さんがこれまで里山まるごとホテルで取り組んできたこと、そして地元の谷内さんからも地域の暮らしや文化についてお話し頂きました。その後、自分達が取ってきた野菜も調理していただいた里山まるごと定食を堪能しました。
昼食後には七尾市に移動し、定置網漁を行っている鹿渡島定置を訪問しました。船頭の新田さんから定置網漁の歴史や仕組み、メリットやデメリット、そして持続可能な定置網漁を行うために取り組むべき内容などのお話をして頂きました。お話の後には、漁師さんからロープワークも教えて頂きました。船にも乗せて頂き、里海の美しい景観を堪能しました。
最後に、のと里山里海ミュージアムを訪問し、能登の里山里海の全体像、そして、その中に含まれている様々な要素について、映像を見たり、実際に展示物に触れたりしながら学びました。
あっという間の2日間でしたが、これまで学んできた能登の里山里海について、実際に地域の方から直接お話を聞き、自分の目で見て、触れて、味わって、五感をフルに使って学ぶことができたのではないでしょうか。
今回の研修で学んだことを踏まえてグループごとに発表内容を取りまとめ、8月末には中間発表会が開催され、9月のイタリア研修への準備を進めていきます。
2023年07月31日
2023年6月29日、七尾市立石崎小学校の6年生の児童たちによる「里海の生きもの調査」が実施されました。この調査には能登GIAHS生物多様性ワーキンググループの専門家のメンバーである金沢大学環日本海域環境研究センターの坂井さん、のと海洋ふれあいセンターの荒川さん、金沢大学能登学舎の岸岡さん、国連大学の小山研究員が参加し、生き物調査の実施を支援しました。
調査は、七尾市石崎町漁港周辺で行われました。児童たちは石崎小学校から先生と一緒に歩いて到着しました。天気にも恵まれ、心地よい風とともに生き物たちの姿を観察する準備が整いました。
まず初めに、七尾市農林水産課の澤野さんからその日のスケジュールの案内がありました。そして、坂井さんから観察場所や採集・観察方法、注意事項などについて説明を受けました 。
調査では、4班に分かれて、網を使用して海中の生き物を採集したり、海岸沿いの砂浜や岩場で生き物を探して軍手で捕まえたりしました。そして生き物だけでなく、その場所がどんな環境か、どんな漂着物があるかなどについても班ごとに考察しました。一見あまり生き物がいないように見える海岸でも、じっくり探すことで色んな生き物を見つけることができていました。児童たちは、カニや貝などの生きものを目の前にして、興味津々の表情を見せていました。
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※写真右:見つかったスナガニ
講師の坂井さんや荒川さんが、採集した生き物の種判別や解説を行い、児童たちの質問にも丁寧に答えてくれました。児童たちは、生き物たちの生態や生息環境について深く理解するとともに、里海の環境や生き物の状況を見守り、守り活用していく重要性についても学びました。また、普段は巣穴しかなかなか見ることができないスナガニですが、今回は実物を捕まえることができました。児童たちは初めて見るスナガニを前に、「目が飛び出してる!」と他の岩場のカニとの違いにも直ぐに気が付くなど、鋭い観察力を発揮していました。
最後には、iNaturalistというアプリを使った生き物調べとデータ投稿も体験してもらいました。小さな貝類の撮影はなかなか難しく、間違った同定もありましたが、アプリの使用も楽しんでいる様子でした。
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※アプリを使った生き物調べ
この里海の生き物調査は、児童たちにとって貴重な体験と学びの機会となったのではないでしょうか。自然の中で直接生き物と触れ合うことで、環境への関心や生物多様性への理解も深まりまったのではないでしょうか。今後も、このような体験を通じて自然とのふれあいを大切にし、身近な里海を見守り、保全・活用していく取り組みを自治体や学校でも続けていってもらえたらと思います。私達も、今後も地域の里山や里海における教育や環境活動において、さまざまな経験と学びが子供たちに提供されるよう、サポートしていきたいと思います。