2024年8月21〜24日、第40回国連大学グローバル・セミナー「持続可能な地球と社会へ向けてー能登、金沢、白山から学ぶレジリエンスとイノベーション」が石川県金沢市と白山市にて開催され、日本をはじめとする6か国から21名が参加しました。
開会式では国連大学サステイナビリティ高等研究所(UNU-IAS)・所長の山口しのぶが開会の言葉を述べ、持続可能な開発における地域の課題を理解し、それに応じた最適な解決策を見出す重要性について語りました。
続いて、国連大学学長のチリツィ・マルワラの基調講演では人工知能などの技術、持続可能性、社会的公平性がどのように交わり、私たちが世界の課題に取り組むために役立つかについて説明しました。さらにマルワラ学長は、生物多様性が持続可能な開発において果たす重要な役割を指摘しました。その喪失が気候変動や都市化の進展に伴って深刻なリスクを引き起こす可能性があることを強調し、政策立案における生物多様性の考慮や、さまざまな関係者の協力による保全活動の推進が未来の世代にとって重要であると述べました。
講義1:
1つ目の講義は国連大学OUIKのフアン・パストール・イバルス研究員が担当し「生物多様性 – 気候ネクサスアプローチと金沢における持続可能な都市自然」というタイトルで発表しました。金沢での研究を例に庭園や鎮守の森などの都市に存在する自然が気候変動への適応策を実施する上で重要な役割を担っているという点を強調しました。さらに都市自然は生物多様性、さらには文化の多様性にも貢献していると述べました。
フィールドビジットと文化体験
フアン研究員の講義の後、一同は玉泉院丸庭園にて伝統的な日本茶道を体験しました。この庭園は明治期に廃絶されたのち、発掘調査や文献に基づき2013年に再現された、都市自然の再生サイトでもあります。参加者は美味しい抹茶や季節の上生菓子を楽しみながら、金沢の歴史について学びました。その後、一同は金沢城公園や兼六園を訪れ、金沢独特の庭園文化や庭園が生物多様性に果たす重要な役割について学びました。
講義2:
2日目は 国連大学OUIKの小山明子研究員の講義でスタートしました。「世界農業遺産能登の里山里海 ― 現状と震災からの創造的復興」というテーマで過疎化や耕作放棄地といった震災前から地域が抱えていた課題を紹介し、若い世代が地域の魅力や価値、課題を理解し、復興に向けて主体的に関わっていくことの重要性を強調しました。2024年能登半島地震からの復興に向けて、生態系を活用した防災・減災の視点や、これまで進められてきた世界農業遺産やトキの放鳥に向けた取組との連携の重要性も述べました。小山は、震災後に進めている断水期間中の井戸水の利用に関する調査についても紹介し、レジリエントな社会の実現に向けて非常時の水の確保の重要性を強調しました。震災後の復旧・復興プロセスの中で新たな交流人口が生まれていることにも言及し、今後の能登における創造的な復興への歩みは、他地域のモデルにもなりうると述べました。
講義3:
次に奈良教育大学 ESD・SDGsセンター 副センター長及川幸彦准教授は、「災害リスク軽減と気候変動、及びESD」というテーマで講義を行い、災害リスク軽減と気候変動教育をESDに統合する重要性を説き、東日本大震災の教訓を紹介しました。また、SDGsの気候変動対策と教育が他の目標達成に不可欠であり、地域の持続可能性向上には多様な関係者の協力が必要だと述べました。
その後一同は後半の会場である白山市白峰に移動しました。
白山しらみね自然学校の山口隆理事より、オリエンテーションがあり、白峰地域の暮らしや文化、伝統の説明がありました。
講義4:
次の講義はUNU-IAS の勝間靖より「気候変動と健康」のテーマで行われました。気候変動が健康に与える影響を特に若者の「気候不安」について焦点をあてた議論が行われました。若者が気候変動に関する活動に参加することで精神的健康に良い影響を与える一方、問題の規模に圧倒されることもあると指摘されており、今後、気候変動と精神的健康の関係に対するさらなる研究が求められています。
講義5:
翌日セミナー3日目は「自然保護の動向と将来の方向性」というテーマでUNU-IAS OUIKの渡辺綱男所長が講義を行いました。自然保護の出発点として国立公園制度が強調され、特に日本の国立公園制度の歴史や、生物多様性の保全の重要性が議論されました。また、里山や里海といった人間活動と自然が共存する環境が生物多様性保全に寄与することが指摘されました。講義では、若者を含む多くの人々が自然保護活動に関わることの重要性が強調され、2030年までに生態系回復を目指す国際的な目標「30by30」にも言及されました。これにより、若者が自然保護の最前線で役割を果たし、持続可能な未来のための行動が促されています。
講義6:
「白山手取川ユネスコ世界ジオパークと白山生物圏保存地域の特徴と活動」というテーマで行われた白山手取川ユネスコ世界ジオパーク協議会のスーザン・メイ氏の講義では、白山地域の自然保護活動が紹介されました。この地域は、世界ジオパークと生物圏保存地域の両方に指定されており、自然環境の保全や持続可能な地域発展が推進されています。ジオパークでは、教育や研究、観光を通じて地域の自然遺産を活用し、自然と人が共存する持続可能な社会を目指しています。また、学生や地元住民の参加を促し、地域の誇りと知識を高めるための活動が行われています。特に高校生によるポスター発表や、国際フォーラムでの活動が注目されており、若者が自然保護の未来に貢献しています。
講義7:
「ジオパークと生物圏保存地域を活用したESDの推進」というテーマで行われた金沢大学のアイーダ・ママードウア准教授の講義では、持続可能な社会に向けた教育(ESD)の重要性が強調されました。特に、ユネスコの生物圏保存地域(BR)やジオパークをフィールドとして活用し、地域の問題解決や文化を学びながら持続可能な開発目標(SDGs)の達成を目指す教育が紹介されました。
若者を対象とした活動も活発であり、ユネスコMABユースフォーラムや若手科学者賞などを通じて、若者が地域や国際社会で生物多様性や気候変動に関する議論に参加する機会が増えています。講義では、金沢大学が地元コミュニティや国際機関と連携し、持続可能な発展に向けた教育プログラムを提供していることも紹介されました。
3日目の午後はグループにわかれ、ディスカッションセッションと発表を行いました。生物多様性や防災とレジリエンス、教育などのグループに分かれ、課題を解決するための提案を行いました。
4日目の最終日は白山国立公園内を散策し、里山の利活用や、砂防などの防災システムについて学びました。
今回の第40回国連大学グローバル・セミナーは、持続可能な地球と社会の実現に向け、地域の知見や自然との共生の重要性を深く学ぶ貴重な機会となりました。参加者たちは、金沢や白山の自然と文化を通じて、レジリエンスやイノベーションについて考察し、具体的な課題に対する新たな視点を得ることができました。この学びが、各国の持続可能な開発目標の達成や地域の発展に寄与することを期待しつつ、今後も多様な国や地域を超えた協力が続いていくことを願います。