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能登GIAHS・フィールド研修会を実施しました

10月3日に七尾市で、石川県と能登地域9市町で構成される能登GIAHS(ジアス)推進協議会と、国連大学OUIKや生物多様性に関する専門家が参加する能登GIAHS生物多様性ワーキンググループ(以下、WGと表記)による合同の研修会が行われました。 

 

国連大学OUIKリサーチフェロー・永田明氏より
「世界農業遺産(GIAHS)について」の講義

永田明氏

永田明氏は、世界農業遺産の日本導入当初から関わり、現在は国連大学OUIKの客員リサーチフェローを務めるとともに、東アジア農業遺産学会の日本事務局を務め、「農業遺産の伝道師」を自認して国内外で活動されています。

GIAHSには、①食料と生計の保障(経済の側面)、②農業の生物多様性(環境の側面)、③知識システム(技術の側面)、④文化、価値観、社会組織(社会の側面)、⑤ランドスケープとシースケープ(土地利用の側面)の5つの基準があり、これらを全て満たす必要がある上に、伝統的な農業システムを保全するためのアクションプランも求められると紹介しました。

また、GIAHSの類型区分について、永田氏の案として、「農法型」、「遺伝資源保全型」、「ランドスケープ型」の3つを挙げました。ランドスケープ型は、特定の田んぼや畑だけではなく、後背の森林や河川、海、集落なども含み、トータルで伝統的な農業を保全しているもので、能登をはじめ、日本にはこの区分が多いと述べました。

「物」ではなく「システム」を対象にしているGIAHSは、世界文化遺産とは違い、未来思考であり、新しい技術も取り入れながら、コアなものが残せればいいという考え方です。「昔のまま、ツライ農業を続けることがGIAHSではありません」と、永田氏は言います。

2010年に「里山と世界農業遺産」というワークショップを国連大学が金沢市で開催。当時の北陸農政局局長が世界農業遺産に関心を示し、北陸農政局の管内で候補を探して、その時に出てきたのが能登と佐渡だったそうです。

「世界農業遺産」という名称は谷本前石川県知事と当時の武内国連大学副学長が提唱したものであり、また、国連食糧農業機関(FAO)のプロジェクト(事業)の一つだったGIAHSが、2015年にレギュラープログラム(制度)に昇格した契機となったのは、2013年に石川県で開かれた世界農業遺産国際会議が大いに盛り上がったことなど、「GIAHSが今、世界的にも定着してきたのは、能登から始まっています。ぜひみなさん、大きな自信と誇りを持っていただきたい」と永田氏は強調しました。

里山里海システムは人間活動の影響を受けて形成・維持されている二次的自然環境。人と自然の共生が、まさに里山里海の考え方であり、能登GIAHSの特徴だと言います。

途上国では開発圧力が伝統農法の最大の脅威ですが、日本では過疎化や高齢化、後継者不足、野生鳥獣害などが脅威となっています。そのためにもGIAHSを農山漁村の振興に役立たせることがとても重要であり、それをどう活用していくかも一体的に考えることが、日本の農業遺産の保全の特徴だと述べました。

そのためには、農産物の付加価値をあげたり、ブランド力を強化したり、グリーンツーリズムなど観光にも活用したりして、経済に活かしていくことだと述べ、さらに、アジアのGIAHSと東アジア農業遺産学会などの紹介も行って、講義を締めくくりました。

 

能登GIAHS生物多様性ワーキンググループ(WG)
これまでの流れを紹介

続いて国連大学OUIKの小山明子研究員から、WGのこれまでの流れについて紹介しました。

能登GIAHSでは現在、第3期のアクションプランを実施中ですが、第2期のアクションプランには、「研究機関と連携した調査検討実施体制を確立」という具体的な活動内容が示されていて、これにより2021年5月に、能登地域GIAHS推進協議会の中にWGが発足しました。

農林水産省が5年ごとに実施する「GIAHSのモニタリングと評価」では、世界農業遺産等専門家会議による評価と助言がなされます。これまでに出された能登GIAHSへの助言の中で、生物多様性に関するものは、「生き物調査の手法の統一や、今後の活用方法を検討し、保全に活かしていくこと」、「保全計画の見直しについて、取組項目や目標数値の設定、モニタリング手法のあり方を検討していくこと」、「保全計画の認証制度の要件に、生物多様性調査の持続性を担保するための手法についても検討すること」というものがありました。

2016年から、認定基準としての生物多様性の定義が「農業生物多様性」と、より農業に関係している生物の多様性に焦点が当てられるようになりました。

「能登の里山里海の農業生物多様性」を定義すると、食用や農林漁業で利用している生き物や遺伝子の多様性に加えて、それを支えるその他の生き物や生態系の多様性ということになります。

WGの活動を進める上では、調査することそのものが目的にならないよう、
・能登GIAHSにとっての生物多様性の影響、効果の実感
・地元住民の生物多様性意識に関する認識や理解を高める
という目的を果たせるように、生物多様性が保全されていくということを念頭に置きます。

そこで、WGの役割を整理すれば、

・農業生物多様性の調査、データ管理、普及啓発活動を企画、実施する
・能登GIAHSに関連する各種活動に関して生物多様性の観点から、助言、協力を行う
となります。

このような形で発足したWGがこの2年間に具体的に行ってきた活動として、「情報を一元化するための仕組みづくり」や、「GISによるデータベース化」、「アプリツールを活用した市民参加型調査」、「指標種の選定や調査」、「指標種の教材などを作成し、観察会のサポート」などがあり、また、「在来作物に関する情報を発掘したり、それに関するアクションを考えたりすること」や、「専門家によるトピック調査」などは着手できていないと小山研究員が述べ、発表は終了しました。

この後、「今後私たちが取り組むべき課題と現状の課題」をグループごとに話し合うワークショップを行い、それぞれがその結果を発表しました。

「能登GIAHSの何がすごいのかを紹介する情報がほしい」、
「生きもの調査で講師や同定ができる人が足りない。人材育成もできていない」、
「自治体ではトキの担当部署と世界農業遺産の担当部署が違い、情報共有など連携がうまくできていない」、
「9市町それぞれで行っているトキのモデル調査の内容を比較したり、困っていることを話したりする場所がほしい」、
「調査を依頼している地域の人たちに、トキを放鳥するメリットの説明をするのが難しい」などといった課題や意見が出ました。

午後は、アプリを使って
実際に田んぼの生き物調査を体験

七尾市トキモデル地区の西三階地区で、WGの専門家メンバーでいしかわ自然学校インストラクターの野村進也氏が講師を務め、田んぼの用水路と田んぼ脇のビオトープの2地点で生き物採取を行いました。

野村進也氏

WGが制作した下敷き教材と「iNaturalist」という生き物を識別して観察記録を共有できるアプリや、WGで制作した下敷き教材、記入シートを用いながら、観察できた生き物を記録していきました。長年有機栽培に取り組んでいる場所ということもあり、ビオトープではタイコウチやコオイムシ、ガムシなど、沢山の水生昆虫が見つかりました。のなかまもケースに入りきらないぐらい捕れました。野村さんには、腹部や羽の先の違いを見ることで、赤とんぼの種類を見分けられることなど、観察ポイントを紹介頂きました。

 

 

 

観察会の後は、アプリの使い勝手や下敷き教材および、WGで制作中の副教材についての意見交換の場をもちました。

アプリについては、「写真をアップして情報共有できるのは楽しい」という意見もありましたが、「判別してもらうように写真がうまく撮れない」、「同定された種があっているのかどうかがわからない」など、課題も多く上がりました。

下敷き教材については、「種類の見分けるポイントを解説する情報も欲しい」といった意見が、また生き物の見つかる場所なども教える副教材については、「観察会の最初に使用した方がいい」などという意見がありました。

最後にWGの座長で石川県立大学の柳井清治特任教授が、「今後も市町の方々と意見交換をしながらより良い能登GIAHSを作り上げ、農業生物の多様性に富む環境づくりを行いたいと考えているので、これからもご協力をお願いいたします」と述べ、長時間に及んだ研修会は終了しました。

 

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