地域との研究活動:アーカイブ
2022年05月26日
2022年5月24日、能登島小学校5年生の皆さんと、長崎町の岩礁海岸にて里海の生物多様性について知ってもらうための生きもの調査を行いました。国連大学も活動を支援している能登GIAHS生物多様性ワーキンググループと七尾市で企画・準備を進め、ワーキンググループの専門家メンバーである坂井恵一さん(金沢大学環日本海域環境研究センター)に講師をお願いしました。現地では他のワーキンググループのメンバー、国連大学の小山明子研究員、柳井清治さん(石川県立大学)、木下靖子さん(金沢大学)、源内伸秀さん(能登島の里ながさき)
に加え、国連大学の富田揚子と小林秀輝さん(金沢大学)も活動をサポートしました。
はじめに坂井さんのお話を聞きながら、今日のスケジュールを確認しました。「里海で発見できる生きものを知っていますか?」という質問に対して、児童たちは「タイ」、「フグ」と色々な生きものを挙げていました。坂井さんが「今から行く海岸にはたくさんの生きものがいます。同じ種類のものを沢山採集するのではなく、いろいろな種類の生きものを採集して、観察してみましょう。」と説明しました。
一同はマリンブーツに着替え、箱メガネと採集した生きものを入れるバケツを持って海岸に移動しました。岩場の浅瀬にて生きもの観察の開始です。
小さな石ころのように見えるものも、近くで見てみると貝だったり、水の中を箱メガネで見てみると、小さなエビや魚がたくさん泳いでいたりと、次から次へと色々な生きものを見つける児童たち。
「魚はいっぱいおるけど、早くて捕まえれん」、「貝がおるけど、岩にくっついとって取れん」と、苦戦しながらも、後で種判別するため、グループで協力して、なるべく多くの種類の生きものを採集しました。
たくさんの生きものを入れたバケツを持って、次は種判別の時間です。講師の先生のお話を聞きながら、同じ種類の生きものをバットの上でまとめました。ワーキンググループのメンバーで作成した里海の生きものの下敷きを見ながら「この貝、同じに見えるけどちょっと違う」、「これヤドカリかな?」と児童たちは観察し、種類が判別したものをワークシートに書き込みました。講師の先生からも「石畳みたいな柄がある貝はイシダタミっていう貝やぞ」、「細長い、たくさん見つかった貝がウミニナの仲間です」と説明を受けました。シロウミウシという小さくてプニプニした生きものが、珍しかったのか児童たちは興味津々で観察していました。「3、4cmほどの小さくて可愛らしいシロウミウシがこれで大体大人のサイズなんだよ」と聞いて驚いた様子の児童たちでした。
最後はスマートフォンのアプリ(Biome)を使って、生きものの名前調べと情報投稿も体験しました。「ムラサキウニ」や「クモヒトデ」などの種類が判別できました。
国連大学では世界農業遺産「能登の里山里海」活用した持続可能な未来へ向けての教育活動をサポートしています。身近な生きものに触れ、観察したり、地域の方のお話を聞く、このような機会は能登の自然、伝統、文化を次世代に継承するための第一歩と考えています。今回の生きもの調査を経て、児童たちがより一層、自分達が住む地域に興味を持ち、今後もさまざまな活動を通して理解を深めてくれることに期待しています。
2022年06月12日
2022/3/25
IMAGINE KANAZAWA 2030パートナーズ の第10回目の交流会が2022年3月25日に開催されました。2022年度最後の交流会は、COVID-19も落ち着き、久々に会場にて開催できました。今回の交流会では、以下の団体の方がピッチプレゼンを行いました。
●発表団体
1)花王グループカスタマーマーケティング株式会社
Kirei Lifestyle Planの実現
2)株式会社こみんぐる
地域社会の持続可能な発展に貢献する宿泊業のあり方
花王グループカスタマーマーケティング株式会社さんは本交流会では2回目のご登壇です。花王グループは生活者向けのコンシューマープロダクツ事業や産業界向けのケミカル事業を行うなど、様々な商品を生み出し続けています。ESG戦略としてKirei Lifesytle Planを掲げ、社会コミュニケーション部門を設置。多様なコミュニティーとの積極的なコミュニケーションを行い、環境、健康、衛生、多様性の観点から社会貢献活動を行っています。生活者の身近なところから貢献すべく、啓発講座を行い、持続可能なライフスタイルを送りたいという思いや行動に応えることを目指しています。
株式会社こみんぐるさんは、100年後も、家族で暮らしたい金沢をつくることを目指し、金沢市旧市街地を中心に24棟の宿泊施設を運営する「旅音」事業を展開しています。「旅音」を旅行者と金沢のきっかけを生むための事業として捉え、金沢ファンを世界中に作ることを目指しています。宿泊施設として、金沢の木造の歴史的建造物である「町家 」を活用し、金沢市の景観保全にも貢献している事業ですが、その町家の運営物件数を増やしていきたいと考えているそうです。
また、自然環境に負荷をかけない取り組みを進めていきたいと考えているとのこと。特に、アメニティの素材や備品、それに伴うゴミの取り扱いなどに配慮しつつ、宿泊者のより良い体験を維持し、満足度を保つための方法について検討中とのことです。
IMAGINE KANAZAWA 2030パートナーズは、2021年度は合計8回の交流会を開催し、延べ22団体がプレゼンテーションを行い、243名が参加しました。交流会では、参加者同士の対話を通してつながりが生まれ、参加者の抱える課題が解決へと向かい、SDGs達成に貢献するというオープンイノベーションが起こっています。交流会に参加した団体同士がつながり、いくつかのプロジェクトも動き出しました。
パートナーズ交流会は2022年度はよりパワーアップして開催していく予定です。課題を抱えている団体、地域の社会課題に取り組み、ビジネスを拡大したい団体、またネットワークを形成したい団体はふるってご参加ください。
2020年11月30日
国連が定めた10月16日の世界食料デーにちなんで、そして能登の食文化と自然や農業とのつながりを伝える絵本「ごっつぉをつくろう」の動画版の公開を記念し、国連大学OUIKでは世界と日本の食料をめぐる課題について学び、石川県の世界農業遺産「能登の里山里海」で暮らす人々の営みと食とのつながり、そして子供たちの学びの場としての可能性について考えるウェビナーを開催しました。
セミナー紹介
セミナー主催者を代表して国連大学サステイナビリティ高等研究所いしかわ・かなざわオペレーティング・ユニット(国連大学OUIK)の永井事務局長から開会の挨拶がありました。
「国連大学OUIKは、国連サステイナビリティ高等研究所(UNU-IAS)が唯一地方に持つ機関として2008年から活動しています。能登では2011年に世界農業遺産(GIAHS)に認定され、様々な里山里海の保全活用に関する取組を地域の方々と一緒に行っています。その活動の一環として一昨年に「ごっつぉをつくろう」という本を作り、今回のウェビナーはそれにまつわる取組の紹介と10月16日の世界食料デーにちなんで、食から能登の文化や生物多様性、そして教育の可能性や世界へ繋がる議論を考えてみたいと思います。」と挨拶がありました。
続いて小山明子(国連大学 OUIK研究員)から、このセミナーの趣旨説明がありました。本日のセミナーには2つのテーマがあり、まず一つ目のテーマの「世界食料デー」について紹介がありました。世界の食料を考える日として国連が指定している日で、10月は「世界食料デー」月間として、世界中で飢餓の問題や食料の課題について考える期間となっており、国連機関が中心となって様々なキャンベーンや取組が進められていること、そして、この後国連食糧農業機関(FAO)の方に世界や日本の食料について紹介頂く旨が説明されました。
次に、もう一つのテーマである「ごっつぉをつくろう」について説明がありました。「ごっつぉ」とは能登半島で「ご馳走」という意味で、同じく食がテーマになっています。
世界農業遺産(GIAHS)「能登の里山里海」には色々な構成要素が含まれ、それが9つの自治体に広く分布しているということが能登GIAHSの良さでもあり、逆に伝えるという点では難しい部分もあるということが紹介されました。能登GIAHSアクションプランにも子供達や住民にGIAHSの価値を分かりやすく伝える必要性が示されており、このような流れを受けて2018年に絵本が作られたことが説明されました。絵本は、食という切り口で能登の農業や自然、文化の豊かさや面白さを子供達に伝えるために能登地域GIAHS推進協議会と国連大学OUIKで制作し、翌年には絵本の実践プログラムとして「SDGs三井のごっつぉProject」が輪島市三井小学校で実施されました。そして、今年度、さらに活用の幅を広げ、より多くの国内外の方々に「能登の里山里海」について知ってもらうために、日英の動画版が制作されたことが紹介されました。
世界の食料問題を考える上でも、能登半島の様な多種多様な農作物を生産することができ、食料生産に関わる知恵や伝統が引き継がれている地域の重要性は高く、そしてこのような地域が生物多様性も守っているという認知度が上がってきていることに触れ、そして、今回のウェビナーが、このような視点から能登GIAHSの価値をさらに考えるきっかけになれば、と発表を締めくくっていました。
基調講演「世界と日本の食料をめぐる課題」
基調講演は、世界食料デーの取組を進めている国連機関の一つであり、そして世界農業遺産の認定機関である国際連合食糧農業機関(FAO)の駐日連絡事務所のリエゾン・オフィサーの三原香恵氏から、「世界と日本の食料をめぐる課題」との題で講演いただきました。
SDGsゴール2では、飢餓を終わらせ食料安全保障と栄養改善を実現し、持続可能な農業を促進するということを目標にしているが、現在世界では20億人以上の人が安全で栄養価の高い十分な食料を定期的に入手することができておらず、現在の飢餓人口は推定約7億人、11人に1人という高い割合で、そして残念ながら近年も増加傾向にあることが紹介されました。
FAOが設立された75年前は、「食糧危機」というのは「生産の危機」とも言えていたが、その後数十年の間に環境的、また持続可能性の懸念によりビジョンはより複雑化し、より包括的な開発への理解が必要となってきているとお話がありました。2014年頃までは減少させることができてきていた飢餓が、それ以降は紛争や気候変動の影響、経済後退などの複数の要因によって上昇していること、そして、農業食料システムのバランスが失われてきており、飢餓と同時に肥満、環境悪化、食料のロスと廃棄などの様々な問題が存在し、また同時にコロナ禍の影響でフードチェーンに従事する人々の安全が脅かされるなど、様々な問題や課題が混在しているそうです。新型コロナウィルス感染症の大流行による景気後退の結果として、年末までに1億3000万人が新たに飢餓に陥るという可能性があり、より良い復興に向けて私達すべてが世界規模で連帯し行動することの重要性が述べられました。
FAOの調査によると、収穫後から小売りまでに約14%の食料ロスが発生しており、小売り以降でも大量のディスプレイや外観への要求、無責任な購入など様々な理由により沢山の食料が廃棄されていることが分かっているそうで、食品ロスから排出される温室効果ガスは、年間3.6ギガトンと推定されているそうです。日本における年間食料廃棄は、約612万トンと算出されており、国民1人1日当たり約お茶碗1杯分のご飯に相当する食料が捨てられているという計算になり、ぜひこの機会に自分たちに何ができるのかということを考えてもらいたいと話していらっしゃいました。
新型コロナウィルス感染症の拡大に伴う世界の食料供給の不安定化も世界の食料安全保障へのリスクとなっているそうです。日本は多くの食料を輸入に頼っており、食料自給率はカロリーベースで38%とかなり低いレベルになっているため、私達の食料の安定確保には生産・流通・消費面での変革やより持続可能なフードサプライチェーンの構築などが必要と話されていました。また地産地消の概念が、このコロナ禍においてますます重要になっているとおっしゃっていました。
そして、最後に世界農業遺産(GIAHS)についてお話し頂きました。GIAHSは、FAOが2002年から取り組んできた活動で、国際的に顕著な特色を有し、次世代に引き継ぐべき農業生産システムを指定し保全をうながすとともに、取り巻く環境への適応や更なる発展を目指すものであると紹介がありました。GIAHS地域では、幾世代にもわたり持続可能な農業生産を形成・維持してきており、その結果農村地域の食料安全保障や生計に大きく貢献しているそうです。現在世界では22か国、62地域に、日本には11地域にGIAHSが認定されており、能登GIAHSは2011年に佐渡市と共に日本で初めて認定されたことが紹介されました。日本では少子化のために農業労働者が不足しており、農業の後継者の問題は共通の課題であるということ、そしてFAOでは農業のデジタル化も促進しており、IT技術を活用してより効果的・効率的な活動を農業分野でも促進していることが説明されました。こうしたIT技術を活用することによって農業が若者にとっても魅力的で身近なものとして感じられるようになるのではないかとのお話でした。「今後も能登の里山里海での活動を次世代に引き継ぎ、独自のすばらしい魅力を発信し、スタディーツアーの受け入れなどを通じて国際貢献も積極的に行って頂きたい」と期待を述べて、発表を締めくりました。
事例紹介「 SDGs三井のごっつぉ Project」
「ごっつぉをつくろう」の絵本の制作段階からアドバイザーとして関わって頂き、輪島市三井町で活動するまるやま組の萩野由紀氏より「SDGs三井のごっつぉ Project」と題して、「ごっつぉをつくろう」の実践プログラムとして昨年度実施された三井小学校での活動について、お話いただきました。
まず、 輪島市三井町市ノ坂の里山地域で萩野さん達が10年間近く行ってきている、「土地に根差した学びの場」の取組の紹介がありました。具体的には、地域内外の老若男女に集まってもらい、集落の植物などのモニタリングを行い、その結果を境省に送るということ、そして地域の方がしている伝統的な農業や祭礼など、生活の中にある知恵を集めたり、共有したりということをしてきたそうです。そして、2018年にはそういうものを次世代に伝えるためのツールとして絵本「ごっつぉをつくろう」の制作にも携わり、2019年にはその絵本をつかって子供たちに具体的な授業を実施し、その報告資料として「ごっつぉ草紙」を制作し、「世界食料デー」に合わせて発行したとの説明がありました。その資料を用いて、具体的な授業内容を紹介頂きました。
この報告書は、三井小学校と実施した授業7回とフィールドトリップ1回をまとめたものであり、表紙には「今伝えたい能登の食べごとの記録」という言葉が添えられています。この集落の人々の暮らしの中は、食料というのは食べることだけでなく、そのために種をまくこと、畑を耕すこと、草刈りをすること、煮炊きをすること、神様に食べ物を捧げて感謝することなど、全てが繋がっているため、ここでは「食べごと」という言葉を用いたことが紹介されました。世界では、生物の絶滅や生物多様性が危ぶまれていますが、生き物が失われるのと同時に、地域に根差してきた「食べる」ということにまつわる事も消えかかっているため、この取組は、その様な食べ物にまつわることを子供たちと一緒に記録し、次の世代に伝えていこうという思いで実施されたことが話されました。
最初の5月の授業は、学校を出る前に「ごっつぉをつくろう」の絵本を地域の方に読み聞かせをしてもらいスタートしました。最初に絵本に触れておくことで、予備知識も入ると同時に、ただただ遠足に行くというのではなく、これから何をしに行くのかという心構えを持って出かけていくことができたそうです。そして、事前にごっつぉの先生としてその土地の事をよく知っている集落の方にお願いし、わらびの見つけ方・見分け方、傷つけずに運び、塩漬けする方法など、食べるための知恵を五感を通じて伝授して頂いたとのことです。報告書には季節ごとに採れる食材も紹介されており、同じ時期に出会った食材のことを能登では「合口(あいくち)」と呼ばれていることも紹介されています。「イワシ」と「アサツキ」を合わせた「ぬた」や、「ワカメ」と「タケノコ」を合わせた「若竹汁」などがあるそうです。季節の食材を活かしながら健やかに暮らしていく知恵が見られる授業を行っているとお話になっていました。6月の授業では、ゴリという川魚を獲ることを学びました。子供たちは、ゴリをとるために使う道具について学んだり、実際に捕まえて生きているものから命を頂くということを体験したりしたそうです。
7月には、珠洲の海辺へフィールドトリップに行き、トビウオを使った能登の伝統的なあご出汁作りを地域の方に手ほどきを受け学び、お昼にはあご出汁を使った素麺を食べたりしたことが紹介されました。能登SDGsラボも訪問し、OUIKの永井事務局長から能登の自然資源や伝統の知恵を、SDGsという視点から見るとどんな風に見えてくるかという話を聞き、子供たちはSDGsとのつながりについても学びました。そして最後に、トビウオを焼くために使っていた能登の珪藻土コンロの工場、そして魚を捌くための包丁を作っている鍛冶屋さんを訪問し、食を支える様々な調理器具や農業や漁業に欠かせない道具についても学んだことが説明されました。次の回は、同じく7月に輪島の里山で実施され、農村の風景の中には様々な絶滅危惧種がいるということを学びました。
そして10月の秋の回では栗やキノコを収穫したり、ゆでた栗に糸を通して干す「かち栗」を作ったりしたそうです。そして、一通り里山と里海の恵みについて学んだ後で、11月には国連大学の富田さんや元青年海外協力隊の方などから世界の食や飢餓について学び、能登の食について振り返る機会を設けたこと、そして最終回の12月には農耕儀礼「アエノコト」に参加し、田んぼの神様に自分達で集めた「あご出汁」、「かち栗」、「ワラビの塩漬け」をお供えし、1年間の豊かさに感謝したことなどが紹介されました。
「地域の方を先生に、五感を使ってリアルで学ぶ入口としてこの絵本を取り入れた学びの場が各地域でできるととても入りやすく、今回1年生から6年生まで学年を問わず対応できたので、とても有効なツールだと思っている」と述べ、取組紹介を締めくくっていました。
動画「ごっつぉをつくろう」
休憩時間と合わせて、次の対談セッションに移る前に参加者には動画「ごっつぉをつくろう」を視聴して頂きました。
対談セッション「ごっつぉつくろうの制作と里山里海を活かした教育活動の可能性」
小山明子研究員がモデレーターを務め、「ごっつぉをつくろう」の絵本制作段階からアドバイザーとして関わって頂いた岐阜大学地域協学センター助教の伊藤浩二氏、動画の鳥の声のアドバイスを頂いた金沢大学先端科学・社会共創推進機構の岸岡智也氏、絵本のイラストと動画制作を担当頂いたイラストレーターの松村有希子氏、絵本と動画のネイティブチェックをお願いした(株)ポリゴン・ピクチュアズ/元石川県国際交流員のカルム・ガルト氏、絵本と動画の方言のアドバイスをお願いした いしかわ自然学校インストラクターで保育士の中村真由美氏、そして事例紹介をいただいた萩野由紀氏に加わって頂き、後半は対談を行いました。
小山:動画制作に関わった感想を伺いたいと思います。
伊藤:先ほど私も動画を視聴しましたが、絵本が動き、祭囃子の音楽が聞こえるというのは非常に面白く、楽しく観ることができました。主に、生き物のリアルな描写などの監修役として関わりましたが、皆さんの努力でこのような本ができたことは本当に素晴らしいことだと思っています。2009年から萩野さんと里山の植物のモニタリングを行っていて、そこで学んだ里山の知恵というものがこういった絵本や動画、ごっつぉ草紙の様な形で皆さんの手に取ってもらえるということが感無量だと思っています。そして、これが英語版の絵本や動画となってさらに広く多くの人に能登の豊かさが伝えられるというで、モニタリングということが持つ大きな可能性を感じた機会でした。
岸岡:珠洲市にある金沢大学能登学舎でスタッフをしていて2016年に能登に移住してきましたが、能登は自然と深く関わった人々の暮らしが身近にあり、季節感を感じられ心が豊かになる場所だと感じています。その経験を少しでも今回の動画制作の中で役立てることができたということを嬉しく思っています。動画内で田植えの時期にホトトギスという鳥の「テッペンカケタカ」という鳴き声が流れるのですが、この鳥の鳴き声は田植えの時期を知らせる鳥として枕草子にも出てきます。動物と人との関わりというのはすごく昔からあったということがこの動画を通じて皆さんに伝わればいいなと思いました。
松村:実は去年の夏から夫の転勤で他県に住んでいるのですが、それまで7年弱七尾市に住んでいました。難しかった点なのですが、絵本にも動画にも共通して言えることは、経験していたことは描きやすかったのですが、経験したことがないことは細かいところを詰めるときに戸惑いました。ただ、制作に関わっていたメンバーに詳しく説明してもらえたので、とても助けられました。難しさもありましたが、同時にそれは面白さで、例えばウミゾウメン採りのことや、のりの作り方が地域によって異なることなど、初めて知ることが沢山あり、もともと能登の文化には興味がありましたが、今回関わることでますます惹かれました。
ガルト:現在はアニメーションの仕事で翻訳通訳をしていますが、1年ぐらい前まで5年間石川に住んでいて、津幡町教育委員会で国際交流員として、そしてその後3年間石川県国際交流協会で国際交流員として働いていました。能登半島には、仕事の関係で通訳や留学生のツアーのアテンドなどで何回か行ったり、お祭りが大好きなのでプライベートで毎年お祭りに行ったりしました。ネイティブチェックをしていて難しかった点ですが、この地域でしかしゃべられていない方言は英語に置き換えることができず、残念だったということです。そして、英語には概念がない、もしくは存在しない「お神輿」などの言葉については、それを説明しなくてはいけなかったことも難しかったです。そして、絵本を訳すのは初めてだったので、子供向けの言い回しや表現の仕方などが、いつもの仕事と異なり面白く刺激的でしたが、難しい所でもありました。
中村:方言の部分で関わらせてもらいました。絵本を見て、ここならこういう風に言うかな、と思いながら自分で読んだものを送らせてもらいましたが、今動画を見て地元の人がしゃべっているのではないかと思うくらい、ナレーターのイントネーションが素晴らしかったです。そして松村さんの絵とともに、能登の優しい所が出ているような動画になったと感じました。自分が教えている子供達にもぜひ見せてあげたいと思いました。
小山:伊藤先生は、植物の専門家として能登に長く関わっていらっしゃいますが、人々の生活と植物の関係性に関する部分で視聴者の方に伝えたいことはありますか?
伊藤:絵本の中でも植物と農作業など人との関りが紹介されるシーンが幾つかあったかと思います。子供たちが里山の植物の知識を、経験を通して学ぶというのは非常に価値があることだと思います。このような豊かな里山の環境が残る能登でも、その様な知識を学ぶ機会というのは減ってきていると思います。地域と学校が連携して里山の事をリアルに学ぶ教育機会を作った、三井小学校とまるやま組の取組はとても素晴らしいと思います。
絵本の中で紹介された「ネムの木の花が咲くころに小豆の豆をまきましょう」というエピソードや「タウエバナ」という花が咲いた時期に田植えをするという話は、私達がまるやま組の活動で、モニタリングや観察会をしている中で地元の方に教わった知恵です。こういう絵本の中で紹介された知恵を、実際に子供たちがチャレンジして自分で感じるというのは、とても面白い体験になったのではないかと思います。こういった取り組みは能登だけでなく他地域でも展開可能だと思います。その地域ならではの植物と人の関係があると思うので、地域ならではの関係性というのを探し出すというのも、クリエイティブで楽しい経験になるのではないかと思います。
小山:岸岡さんは鳥に詳しいですが、鳥と能登の方々の関係性はどうなのでしょうか?
岸岡:鳥の写真を撮るのが趣味で、能登でも鳥ばかりを追いかけているので、鳥を事例に話したいと思います。動画を見て、人々の豊かな暮らしが自然の恵みから成り立っているということが良く理解できたかと思いますが、逆に人々の里山里海での営みによって生き物の暮らしや多様性が守られているという逆の側面もあると思います。先週辺りから、白鳥が能登にも渡ってきていますが、冬の間はため池で夜を過ごしたり、田植え後の田んぼで餌を探したりと、人々が活動している暮しの場所を生活の場所として利用しています。人々と生き物の関係というのは一方的なものではなく、お互いに影響し合っているという視点はとても重要かと思います。
小山:松村さんが、能登半島の地域の方と色々と仕事をしてきて感じていることを紹介していただけますでしょうか?
松村:特に印象的なのは、地元愛が強いというのをどなたからも感じたということです。今、過疎化が進んでいて若い人も減ってきている中で、移住や地元の方が連携して、賑やかにしようとしている印象を受けました。
小山:そうですね。新しく移住してきた方達の活動もどんどん始まってきているので、そういう部分も能登の魅力かと思います。ガルトさんは、海外から日本にお越しになっていますが、海外から来た方の目線で能登を見ると、どんな感じでしょうか?
ガルト:まず、能登半島は非常に自然が豊かでとてもきれいな場所です。第一印象は、食べ物が美味しく、お祭りなどが非常に楽しく、都会から離れた場所ではあるが、誰でも受け入れてくれるような温かい人たちが住んでいる地域で、個人的にとても好きです。能登出身の友達がいて、彼の故郷の富来の集落では若者が足りていないため、外国の友人何名かと一緒に祭りに参加させてもらい、思い出に残るとても良い経験をさせてもらいました。お祭りの文化も歴史的なもので好きですし、人の温かい心もとても好きです。
小山:ガルトさんに、「海外にも地域ごとのご馳走はあるのでしょうか?」と視聴者からの質問がきていますが、お答え頂けますでしょうか?
ガルト:スコットランド系アメリカ人なのですが、日本では地域ごとに言葉が違ったり、祭りの文化が違ったりしますが、スコットランドの北の地方に行くと昔ゲール族が住んでいた地域があったり、バイキング族とゲール族の文化が混ざっている島などもいくつかあり、独特な祭りなどの文化もあります。東海岸には島が沢山あり、島ごとに祭りなどの文化的なイベントがあります。
小山:中村さんは、保育士や石川自然学校のインストラクターとして日頃から子供と接する機会が多いと思いますが、能登の里山里海について、子供の学びの場としてどのように感じていますか?
中村:最近イノシシや熊が出るなどの面で危険度が上がってきたという部分はあるのですが、普段の保育の中で山や海に行くことが毎日のようにできる地域で、頻繁に外に出ることができています。その活動を通じて生き物や草花に触れるなどの実体験ができる、というところが子供達に一番いいことではないかと思っています。私が住む能登島では、普段の生活に自然が密着していて、先日一人の子供が「サザエの刺身を食べてきた」という話から、子供たちみんなが食べたことがある、という話に発展したのですが、私が「サザエを食べたことがない人もいる」ということを話すと皆が驚いていました。普段の生活が海や山に密接していて、子供たちも採ってきたものが料理されて食卓に上がるということが、何となく見えているということを感じています。そういう実体験ができるというところが能登の一番良い所と、今感じています。
小山:萩野さんから高齢の方の知識が若い世代に全ては受け継がれていない、という話はありましたが、全国レベルでみると、能登には地域に根差した食など地元のことを知っている子供達がいるのかと思います。
中村:それが先ほど松村さんが話していた地元愛というところに繋がっていくのかなと思います。
小山:子供たちとの活動をされていて、そして能登に子連れで移住してきた萩野さんは、能登の地域をどう感じていますか?
萩野:東京生まれ、東京育ちで、子育て中はアメリカで過ごし、能登へ移住したという経緯をもっています。3人の子供を能登で子育てをした中で、自分の子供たちに伝えたいこと、ここにいるからできることは何だろうと思ったときに、学校で学んでいる普通の教科は日本では皆がしていることで、できて当たり前、やって当たり前のこと。やはりこの豊かな自然があるということ、そしてそれと関わってきたその土地にしかない知恵というのが子供を送り出す前にどうしても伝えたいこと、と思いながら日々暮らしてきました。自然はあり、知恵はあるのだから、教育を自給自足してしまえばいいのではないか、と思いました。地域ごとの子供に伝えたいこと、というのを地域の人が集まって考え伝えていく、そしてグローバルになった時にその土地らしさを持った子供を育てていく、ということがその地域を守ることにつながると思います。
そういう風に日本の端っこに住んでいる子育て中の一人のお母さんが思ったことを、国連大学の方が受け取って下さり、絵本や動画が日本語や英語でできてしまいました。個人レベルの小さなことを受け取って、垣根無しに混ざり合い、この3年間でこれだけの成果ができているというのは結構すごいことなのではないかと思っています。どの地域でも自分達が子供に伝えたい教育、学びの形を自分たちで作ればいいのではないかと思いました。
小山:最後に能登の可能性や期待することを一言ずつお願いします。
岸岡:先ほど萩野さんからも生活の知恵がすでに失われ始めているとの話がありましたが、私達の世代でもすでに失われているので、子供だけでなく私達の世代も含めて自然との付き合い方、自然からの知恵というのを改めて学んでいかなければいけないと感じました。
松村:能登を離れてこの一年間は能登で見てきた、梅の土用干しや秋の稲架干し、冬の朝や能登島近辺でナマコ獲りをしている風景などを思いながら過ごしてきました。能登を離れても能登の仕事を頂いているので、引き続き能登の魅力を発信できるよう力をいれていきたいと思っています。
ガルト:能登半島や日本全体で、地方で人口が減ってきています。コロナの影響で、今自宅から仕事をしないといけないという状況だと思いますが、逆にポジティブに考えると、ある意味強制的に日本の働き方を変えてくれているとも言えます。若者たちはわざわざ都会に引っ越さなくても、どこに住んでいても色んな仕事ができる、というのが普通になったら、お金や人が全て東京に集まってしまうという現象はよくなるのではないでしょうか。地域愛を持って地域に残って仕事をしたいという人が将来的に増えていくかもしれません。ぜひそうなって欲しいと思っています。
中村:私の住む能登島では地域の繋がりの強さを感じています。今年は、そういう人が集まるということが、できなかったと思います。お祭りで子供たちが自分の頑張ってきたことを披露する場も今年は無くなってしまって、お兄さんお姉さんから伝承してきたものを繋げることの難しさを今年は感じました。色んなことを伝承するというのが途切れ始めているということを感じましたし、今私の年代の人が80代90代の人から学び、それを次の世代の人に繋げるという活動が大事、ということを今日改めて感じさせてもらいました。この状況の中でも子供たちに伝えたいこと、というのは沢山あるので、少しずつでも発信していけたらと思います。
萩野:今日改めて動画を見て、絵本が先に出来ていたのに、先に動画があったかのようなすばらしい完成度だと感じました。絵本はやはり動かないもので、割と一方的なもので、私が本当に伝えたいものはプログラムでしてきたような人間同士と自然とのやり取りです。ただ、なかなかそこまでが難しい状況にいる人たちにとってはその中間の素材として、鳥の声が聞こえたり、煮炊きする音がしたり、五感を刺激される感覚を疑似体験できるので、素晴らしいツールになったことが嬉しいです。そしてこのツールを使って、また能登を発信して頂けるということでとても楽しみにしています。
小山:それでは、最後に伊藤先生から総括のコメントを頂けますでしょうか?
伊藤:今回のウェビナーを通して重要だと思った3つの点についてお話したいと思います。まず1つ目は、動画作りを通じて世界農業遺産「能登の里山里海」を伝える非常に楽しいツールができたと思います。世界農業遺産というのは単に千枚田や海女さんという単体のものを示すものではなく、農業、文化、生物多様性など、色々なものの繋がりを認証した制度です。それを「繋がり」というと、なかなか人に伝えるのが難しいのですが、この絵本はその繋がりを分かりやすく、そして魅力のある形で表現できていると思います。祭りの文化がストーリーの軸として出てきていますが、それは能登の人にとっては馴染みのあることで、分かりやすかったと思います。学術的に言うと「生物文化多様性」というコンセプトがるのですが、これから里山里海の大事さというのを皆さんに共感して頂く上で、祭りなどを軸に伝えていくということがすごく大事になるのではないかと思いました。
2つ目としては、里山里海の豊かさを自分事にするというのを大事にしていったらよいと思っています。最初、絵本を基に学校現場で使える教育ツールを作ろうということで議論を始め、当初はボードゲームなどを作って遊べたら子供たちが喜ぶのではないかという話もしていたのですが、議論を重ねる中で、やはり実体験を伴う体験をビジュアルで見える「ごっつぉ草紙」の様な形でまとめるというのがいいのではないかということで、今回こういう形になりました。先ほども「繋がり」というキーワードを言いました。子供たちがワラビ採り体験をするという場面が紹介されていましたが、それをきっかけにワラビは明るい環境に生えるということを子供たちが知り、その環境を維持するために草刈りをし、そしてワラビが生える環境に生える「トモエソウ」という絶滅危惧種があるということも、観察を通して知りました。里山を手入れしていくことが周りの生き物を守っているのだということを、体験的に学ぶことができたと思います。このように点と点の知識や体験が頭の中で繋がった時に、実感として里山の豊かさを理解できたのではないかと思います。
3つ目ですが、共通の目標を持つことの重要性についてです。先ほど中村さんから、里山里海の生きた知恵というのを、子供たちに伝えるということが途絶えようとしているのではないか、というコメントがありました。伝えるのが難しい家族構成などになりつつあるのではないかと思います。それゆえに、三井小学校でやられたように、学校現場でそういう機会を作っていくということが、これからとても重要な意味を持ってくるかと思います。その時に行政・民間・学校現場が連携してそういう機会を作っていくということが、すごく大事だと思います。この様な活動を継続してやっていくというのは、なかなか苦労が伴うと思うので、継続化できるように行政が支援していくというのが重要かと思います。私から一つ提案できるのは、文科省で「地域学校共同活動」という、学校と地域が一体となって学ぶようなプログラムを予算的に支援していく制度があります。この様なものを能登地域でもぜひ広めていって欲しいと思います。県内でも導入されていますが、能登ではまだ広がっていないので、この「ごっつぉ」の体験的な学びというのをぜひ能登でも広げられるように、地域の方も含めて学校をサポートしていけたらよいのではないかと思いました。
閉会の言葉
国連大学OUIKの渡辺綱男所長から閉会の言葉がありました。
数年前にOUIKが能登で開催した里海セミナーで講演頂いた九州大学の清野先生とお話しする機会があり、福岡の宗像や長崎の対馬などの地域の里山里海の話を聞いたとお話がありました。清野先生は、「それぞれの地域が持っているかけがえのない資源を守り活かし、未来につないでいくために、科学的な価値の理解を深めていくことはとても重要だが、同時に地域の歴史や祭り、信仰、暮らし、そしてなによりも地域の方の思いや誇りに結びついた、文化的な価値をみんなで見つめ直し、共有していくことが欠かせない。」と、お話になっていたとのことです。今日皆さまの話を聞き、正に里山と里海の資源を活かしてきた知恵や「ごっつぉ」作りなどを子供たちと見つめ直し、学んでいくことは、里山里海を保全・活用し、継承していくために、そして地産地消を進めていくために、とても大切な意味があると改めて感じた、と述べて、セミナーは終了しました。
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2022年04月01日
金沢市でのSDGs推進に向けて、多くの方のアイディアが集まって完成した金沢ミライシナリオ 。その実践に向けて、チャレンジしていることや困りごとを持ち込み、対話を通して新しいプロジェクトを育てていくIMAGINE KANAZAWA 2030パートナーズ 交流会が、1月と2月に開催されました。本年度も気づけば7回目、通算で9回目の開催となりました。COVID-19の影響もあり、残念ながらオンラインでしたが、感染拡大傾向が収まりましたら、また対面で開催して、アイディアが広がっていくと良いなと思います。
今回の交流会#8&9では、以下の団体の方がピッチプレゼンを行いました。
●交流会#8発表団体
1)一般社団法人PADAYON
「開発途上国の課題」と「地方の課題」を同時に解決するプロジェクトについて
2)E.N.N. Co., Ltd.
空き家・空きビル対策
3)北陸ESD推進コンソーシアム
院内学級の子ども達に体験を!
●交流会#9発表団体
ヴィスト株式会社
生活困窮者の就労支援について
また、交流会#9では、これまでの1年間のパートナーズ交流会活動を振り返り、交流会がより発展するにはどうしたら良いか、議論も行いました。
今回も各団体のユニークで先導的な取り組みについて、深くお話を聞くことが出来、新しいパートナーシップやプロジェクトのきっかけとなるような交流も生まれていました。
各団体からは次のような団体の活動内容やチャレンジしていることをお話いただきました。
一般社団法人PADAYONさんは、社会的投資の手法の1つであるインパクト投資を活用してフィリピンと日本の社会的課題を目指して活動しているソーシャルスタートアップ。団体名のPadayonはフィリピンの現地の言葉で「一緒にやろう」を意味していて、一緒に活動を進める中で「プロセスを楽しめるまちづくり・人づくり」の考え方を大切にしています。
フィリピン出身のご家族とのつながりの中で、フィリピンのミドル世代の働く場所が見つからないという就労問題に直面します。そこで、地元金沢に貢献しつつ、フィリピンの方が能力を発揮できる場が生まれるような共存共栄の社会投資のエコシステム形成を目指すようになりました。そして、SDGs貢献や海外販路拡大、人材不足解消を目指したい金沢の企業と提携して、フィリピンで小規模店向けの貸店舗スペースを投資運営するインパクト投資事業を行い、現地の方に就労と学びの機会を提供するという仕組みを考え、実証を進めています。この仕組みは一つの例で、金沢の企業とフィリピン側の実際のマッチングのあり方は個別にご相談しているとのことでした。投資事業のほかにも食べ物をフィリピンに直接支援する寄付事業も行っているそうです。
E.N.N. Co., Ltd.さんは、建築設計事務所としてのビジネスを核としつつ、空間を見つけ、企画・創造し、空間の使い方を実践して広め、「まち・都市」をつくっていくソーシャルデザインの会社です。金沢でも空き家、空きビルが増え続け、社会課題となっている中で、注意喚起したいとのことで、登壇いただきました。
欧米諸国と比較して、新築住宅市場が著しく優位の日本では、毎年100万戸程度の住宅が新築されています。一方で、人口は増えないため、空き家や空きビルもそのまま横流しで増加している傾向にあります。金沢市では金澤町家 といった昭和25年以前に建てられた木造建築物の保全と活用が進められていますが、壊されて毎年少しずつ数が減り、そして、空き家や空きビルも増えて、まちなみが壊れていっています。建物撤去による二酸化炭素排出も懸念されます。問題解決のために、E.N.N. Co., Ltd.さんの「古ビル調査室」と「木造たてもの調査室」では、身近な中古ビルや木造建築物の調査を行うサービスを提供しているそうです。
交流会#8の最後は、北陸ESD推進コンソーシアムさん。北陸ESD推進コンソーシアムさんは、2014年に金沢大学が事務局となって設立されました。SDGsの達成のためにESD (持続可能な開発のための教育)を進めていくことを目的としています。今回は、金沢大学付属病院内学級の子どもたちの院外教育活動についてお話いただきました。
金沢大学付属病院内学級の子どもたちは長期入院を必要としていて、感染症対策などの観点から外へ出ることが出来ない子どもも多い状況です。そのため、野外活動や自然観察など、屋外での活動を通して色々なことに触れて学ぶことが困難でした。しかし、撮影機器や通信機器の性能が上がり、安価に利用できるようになったことから、遠隔地からも天体観望を楽しむことも可能になりました。そこで、北陸ESD推進コンソーシアムさんは、2021年に、金沢市キゴ山ふれあい研修センター や星の会 と協力のうえ、子どもたちが院内からも楽しめるよう、オンライン天体観望を複数回行いました。今後は、子どもたちのニーズに応えて、天体観望以外にも美術館や博物館見学、社会見学や自然観察にも広げていきたいとのことでした。
交流会#9ではヴィスト株式会社さんがご登壇。「あらゆる人に働く希望を、心豊かなStoryを」を経営理念として、障害がある方など、働きづらさを感じている方への就労支援を行っています。ピッチプレゼンでは生活困窮者等の就労支援について取り組みの内容や課題を共有いただきました。ヴィスト株式会社さんは、金沢市からの委託事業である令和3年度生活困窮者等就労準備支援事業 を通して、「生活保護受給者」と「生活困窮者」が日常、社会、そして仕事の場に参加していけるよう促す支援を行ってきました。金沢市には「生活保護受給者」は約4,000人、そして「生活困窮者」はおよそその10倍の人数にのぼるそうで、昨今はCOVID-19の影響で更に増えてきているそうです。
ヴィスト株式会社さんは、支援の1つとして、社会の中で自立して生活していけるよう、対人スキル向上を促し、自己肯定感向上につなげるために就労体験やボランティアの機会を提供しています。しかし、受け入れ先として協力してくれる団体を確保するのが難しい場合もあるそうです。ボランティア実施の際には、活動がスムーズに進むよう、ヴィスト株式会社さんのスタッフも同行するそうで、協力してくださる団体を募集しているとのことでした。
交流会#8と#9でも多様な団体から多様な課題を共有いただきました。金沢市の状況について勉強になるとともに、話題がきっかけとなって新しいアイディアや交流も生まれていました。IMAGINE KANAZAWA 2030 パートナーズ交流会の場をきっかけに、更にパートナーシップの輪が広がり、新しいプロジェクトが生まれていくと嬉しいです。
2022年03月18日
2022/3/18
今月末で9年半の国連大学サステイナビリティ高等研究所での任期を終えるにあたり、ここで能登での研究生活を生涯忘れることのない実り多いものにしてくれた友人、同僚、石川県民の皆さんに感謝の気持ちを表したいと思います。
初めて能登半島を訪れたときのことを思い出します。2011年の夏、「能登の里山里海」は日本で最初の世界重要農業遺産(GIAHS)に指定されたばかりでした。私は当時、東京大学大学院の修士課程の夏休みを利用して、国連大学OUIKでインターンをしていました。里山と里海が近いことに興味を持ち、その素朴な風景、魅力的な建築物、美しい工芸品に魅了されました。もちろん、美味しい料理や温かいおもてなしも、私の心を一瞬で捉えたことは言うまでもありません。
その時は、まさか自分が能登を研究フィールドにするという素晴らしい機会に恵まれるとは思ってもみませんでした。卒業後、2012年に国連大学高等研究所東京事務所に入所し、研究チームとともに日本におけるGIAHSの普及に努め、以来、すべての日本のGIAHSの指定申請を技術的に支援しきました。2013年からは、日本や海外でGIAHSに携わった経験を生かし、国連大学OUIKのチームと緊密に連携して、能登の人々の生活や暮らしに役立つ政策研究を行うようになりました。東京に住み、東京を拠点に活動している私が、能登のために何ができるのか、能登への理解は表面的なものになるのではないか、という不安もありました。しかし、能登を訪れたとき、目にした光景や話しかけてくれた人々を思い出しながら、研究活動に励みました。能登に滞在中は車で移動することもありましたが、なるべく地名を覚えるために路線バスで移動しました。農家、漁師、旅館の主人、住民、能登のあらゆる分野の人々が、私のような見ず知らずの研究者に率直な意見を述べ、知識を教えてくれたことにとても感謝しています。
私は、このような能登の豊かな知恵とストーリーをもっと多くの人に知ってもらいたいと思いました。一方、住民からは「世界農業遺産の認定後、里山の保全は活発に行われているが、里海保全にはどう貢献したらいいのかわからない」という声も多く届きました。そこで2015年にOUIKは「能登の里海ムーブメント」をスタートし、2015年から2017年にかけて、七尾市、穴水町、珠洲市、能登町、羽咋市、輪島市で里海に関して学びを深めるためのセミナーシリーズで実施し、専門家や地域の関係者の皆さんと里海に関するさまざまなテーマについて学び、議論しました。海苔、伝統漁業、貝類、里川、ブルーツーリズムから海女さんまで、さまざまなテーマを扱いました。しかし、これらのテーマは能登の里海の驚くべき豊かさと多様性の表面に触れたことに過ぎませんでした。
2018年からこの「里海ムーブメント」は、石川県や日本を超えた発信活動に力を入れました。2020年から2021年にかけては、COVID-19の感染拡大にもかかわらず、「里海の保全から考えるSDG14の達成」をテーマに、能登の里海がSDGs14 「海の豊かさ」の達成へのつながりを探る「能登の里海ヴェビナー」の新シリーズを開催しました。この活動にご協力いただいた専門家、講演者、関係者の皆様に心から感謝いたします。現在、国内外の多くの研究者が「里海」と能登を結びつけて考え始めていることを誇りに思い、この関心がさらに高まることを願っています。
私のような研究者は、知識や経験を共有する人がいなければ、何も伝えることができません。長年、能登や石川県でお世話になり、本当にありがたく思っています。石川県外に住む外国人の私がGIAHSに貢献することを許していただき、ありがとうございます。能登は私の心の中で常に特別な場所であり、能登のGIAHSの生涯のサポーターであり続けることでしょう。「能登はやさしや土までも」の本当の意味を体験させてくれてありがとうございました。心から感謝しています。
2020年10月27日
新鮮でおいしいし、地元を応援したいという気持ちもあって、積極的に地元産の野菜を買うという方も多いでしょう。
では、電気はどうでしょうか?
SDGsゴール7では「エネルギーをクリーンにそしてみんなに」という目標が掲げられています。化石燃料由来ではなくて、再生可能エネルギーを選んだ方がよいのはわかっていても、具体的なアクションはなかなか取りにくいものではないでしょうか。
今回は金沢、あるいはもう少しひろげて北陸での地域で使うエネルギーの地産地消について考えます。エネルギーのもったいないがないまち、そして気候変動というグローバル課題に貢献できるまち金沢の実現に向けて、2030年をIMAGINEしてくださったのは、石川で太陽光、風力発電所を市民出資で立ち上げ活動している金沢市民発電所の永原伸一郎さん。
そしておひさま進歩エネルギー株式会社の谷口彰さんから、市民共同発電所の国内外の先進事例をアイデア提供として紹介してくださいました。
金沢で着実に動き始めているSDGs
まずは国連大学サステイナビリティ高等研究所いしかわ・かなざわオペレーティング・ユニット(UNU-IAS OUIK)の永井事務局長から、今までの13回+番外編1のSDGsカフェの振り返りと、SDGsのおさらいを。
内閣府SDGs推進本部が2018年からSDGs未来都市認定を開始し、今年は金沢市もSDGs未来都市に認定されました。そして、持続可能な観光を行っていくことがモデル事業に採択されたことを紹介。
また、IMAGINE KANAZAWA 2030では、金沢ミライシナリオをパートナーシップで実践する、パートナー会員を募集していることもご案内しました。企業、NPOやサークルなどの団体、個人の方などどなたでもご入会いただけますので、ご興味があれば、まずは下記をご覧ください。
IMAGINE KANAZAWA 2030パートナーズ
2030年の金沢をIMAGINE
「市民の力で持続可能な社会へ!」〜金沢市民発電所の取り組みから〜
持続可能なエネルギーを市民の手でつくる意義とは
金沢SDGsには「5つの方向性 」があります。その2、「“もったいない”がないまち 環境への負荷を少なくし 資源循環型社会をつくる」が今回のSDGsカフェのテーマとなります。まずは、合同会社金沢市民発電所代表社員の永原伸一郎さんに、どのような活動をしてきたかということと、永原さんが想像する2030年の金沢についてお話をしていただきました。
「市民発電所」とは聞き慣れない言葉かもしれません。地域エネルギーの地産地消と自立を目指し、市民や地域コニュニティが、再生可能エネルギー事業に出資し、建設・運営を行う取り組みのことです。福島原発事故および2012年7月から再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)が施行されたことで大きく広がりました。永原さんたちは石川県で最初にこの取り組みをはじめました。
永原さんは2003年から3年間、金沢まちづくり市民研究機構の環境グループに所属し、2005年には環境グループで、風力発電の割合が世界一のデンマークへ視察に行きました。 デンマークは発電の50%以上が風力で、日によっては100%以上となり、輸出もしている風力大国です。そして特徴的なのは、風車の80%以上が地元の共同組合(つまり地域の人)が所有していること。大企業がほとんどを所有している日本とは全く違っているそうです。
デンマークでの視察が転機となり、帰国後、メンバーは政策提言だけではなく、実際に自分たちも何かをやりたいと思うようになったそうで、2006年にNPO法人市民環境プロジェクトを設立しました。そして、2010年には北陸初の市民風車「のとりん」をつくることができました。しかし、2006年に建設が決まった翌年に能登半島沖地震が起こり、そのあともリーマンショックがあったり、野鳥の通り道となるので移動を余儀なくされたり、ほかにもいろいろあったそうですが、なんとか完成にこぎつけることができました。建設費約5億円のうちの約3億円を405人の市民出資者でまかなったそうです。
環境と経済を両立させて、持続可能となる市民発電所
「環境に優しいまちづくりには住民の意識の変革が必要だと考えています」と述べる永原さん。市民の手によって発電する“市民風車”という仕組みはすばらしいものだと勉強で学んでいましたが、のとりんによってそのことを実感できたといいます。
のとりんをつくった当時は、自然エネルギーに対しての意識・関心が低く、出資者もほとんどが県外でした。また、金沢から離れていて、地元・門前町の人とのコミュニケーション不足だったことも課題だと言います。そういった中で、今度は金沢周辺でもぜひやりたいと思うようになったそうです。
2011年に東日本大震災が発生して、国民の目が変わり、金融機関の見方もガラリと変わり、のとりんへの取材が殺到しました。その翌年には、再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)が始まり、これにより市民発電所の取り組みにも大きくはずみがつきました。
2012年度、「保育所等に市民発電所をつくろう」と金沢市環境政策課が行政提案を行い、受諾団体に応募して受諾。そこで、市民出資の太陽光発電事業等を行うために合同会社金沢市民発電所が設立されました。金沢市内の公立を除く全保育園・幼稚園134園に太陽光発電の設置に関するアンケートを送り、81園という高い割合で回答があり、現地見学や園長・理事長と交渉を開始。しかし、アンケートでは好印象だったにもかかわらず、実際に交渉に入るとさまざまな問題が出てきて難航。1年半が経ち諦めかけていたところ、2014年ようやく2つの園に市民発電所をつくることができました。
翌年、2015年には保育園・幼稚園はもう無理なので、介護福祉施設に設置をしました。この時は2回めでしたので少し余裕ができ、エネルギーの地産地消だけでなく、食の地産地消もやろうということになり、地域環境保全に取り組む農業生産者の地元農産物や加工品が配当として選択できるようになりました。
さらに2016年にはかほく市民発電所をつくりました。この時は固定価格が27円の時代で採算が悪く、「やるつもりはなかった」と永原さんは振り返ります。しかし、かほく市の元公務員の方から、かほく市にとってもこの上ない取り組みだと熱烈なラブコールを受け、行うことにしたそうです。1口20万円で、100口を募集。契約期間は15年で目標分配利回りは2.0%。農産物での現物分配も選択可とし、さらに、抽選で出資者の中から毎年1人に、ルビーロマン1房をプレゼントしているそうです。さらに、かほく市に通勤・通学・在住の方にかほく市商工会が発行している共通商品券を毎年贈与し、地域経済の循環に弾みをつける取り組みも実施しています。また、地域連携協定を締結して災害時には設置している地域に電力供給を行います。
「市民発電所は地域に役に立つ、親しまれる事が大事だと思います」と永原さん。
家庭では電気の自給自足があたり前となる2030年
太陽光以外に木質バイオマスにも取り組んでいるといいます。石川県、特に金沢は放棄竹林が増えており、これを地産地消の木質バイオマスのエネルギーとして利用できないか、関係者を集めて策定委員会を開催。竹チップを温浴施設のボイラーで燃やす実験を実施しました。その結果、竹チップと廃材チップの混合比を工夫すれば、既存のボイラーでも問題なく燃焼することが確認できました。この成果は日本エネルギー学会でも発表しているそうです。
2030年の金沢は、ZEH(ゼロエネルギーハウス)が普及して、災害に強く、環境にやさしいまちになっているのではないかとIMAGINEする永原さん。ZEH(ゼッチ)とは発電量が1次エネルギーよりも多い住宅のことで、電力の自給自足が可能になるといわれているそうです。大規模災害が起こり、停電した場合でも電気の使用が可能で、実際、2018年の北海道胆振東部地震のブラックアウト時も、ZEHに住んでいて停電に気づかなかった人もいたそうです。省エネ性能が高く、太陽光発電を活用するZEHは、温室効果ガスの削減効果がとても大きく、環境負荷を小さくできます。
「私が環境に取り組む最大の目的は地球温暖化防止ですので、これは非常に期待できますし、これから一気に普及するのではないかと思っています」と述べて、発表を締めくくりました。
話題提供
再生可能エネルギーで地産地消 〜地域をエネルギーで豊かに〜
北陸の電気は地産地消率で全国No.1
全国に約800カ所ある市民共同発電所のうち、その半数を運営しているおひさま進歩エネルギー株式会社の谷口彰さんから話題提供として、市民共同発電所の海外での先進事例や、実際に運営していく上での苦労話なども踏まえつつ、再生可能エネルギーについてお話をしていただきました。谷口さんは、金沢に2年半ほど滞在して、金沢市民発電所の協力をしたこともあり、金沢ともゆかりのある方です。
まずは全体的な話を。2018年度の国内の自然エネルギーの比率は17.5%となっています。太陽光発電がFITで非常に伸び、大規模水力を抜いています。ただし、太陽光や風力は24時間発電しているものではなく変動します。一方で、バイオマスや地熱、小水力は同じ自然エネルギーでも24時間安定した電気を供給することができるのです。しかし、自然エネルギーの比率が増加しているといっても、石炭やLNG、石油といった化石燃料による発電が全体の4分の3以上を占めているのが実情です。
続いて北陸の自然エネルギーについて紹介がありました。自然エネルギーの率は全国よりも高く、30%を超えています。その理由は豊富な水資源を利用した水力発電によるものです。再エネ比率は高く、地産地消率も全国トップという北陸の電気は一見エコに思えますが、実はCO2 排出も多いそうです。それは全国に比べると石炭火力発電の比率が高いためで、CO2 の排出係数を伸してしまっています。石炭からのシフトで、さらに地産地消でエコな電気への転換を考えていく必要がありそうです。
さらに海外での状況の紹介がありました。世界で自然ネルギーの比率は、電気、交通、熱の3つの用途別の分野に分けてみると、熱分野が半分を占めていることがわかり、その熱の1割にしか自然エネルギーが使われていません。エネルギー全体で見ると自然エネルギーが占める割合はまだ少ないと言えそうです。
その一方で変動する自然エネルギーの割合が50%を超える国もあります。中にはデンマークのサムソ島のように自然と共生するエネルギーが地域に全て揃い、エネルギー自給率が100%を超えているところも。スウェーデンのルンドエナジーという会社ではバイオマス燃料を中心とした温水による熱供給を行っており、地区の50%に達しているそうです。
「日本にも木質エネルギーなどが豊富にあるため、このようなことを為していけると考えています」と谷口さんは言います。
再エネ先進諸国の一つ、ドイツの再エネ発電設備への投資主体を見ると、個人が一番多く、その次が農家、さらに中小企業など、8割以上が地域につながる主体であり、実際に伸びている先進諸国の事例を見ると、市民の力が再エネ省エネの裾野を広げるのに必須だということがわかります。
地域の個人から始まってできた市民共同発電所など、省エネ・再エネに人がどのような動機で協力しているかというと、地域課題解決や地球温暖化防止もありますが、やはり経済効果というのが大きな柱として存在しています。問題解決をするといっても、発電所をつくるためには初期投資が大きく、お金が成り立たないとなかなか難しいという状況があります。
飯田市には市民が出資する発電所があちこちに
飯田市は長野県南端の市で、年間日照時間約2,000時間という日照時間に恵まれた地域です(全国平均が1,900時間程度、金沢は1,800時間程度)。市民ファンドを使って太陽光を中心としている市民共同発電所が400カ所以上もあります。もともとはNPO法人が寄付を募って市民共同発電所を1カ所つくったときに、飯田市が環境省の「環境と経済の好循環モデル事業」の補助金をとったのがきっかけでした。このモデル事業を地域で実際にやっていくプレイヤーがなかなかおらず、結局、おひさま進歩エネルギーという会社を立ち上げて、この事業の委託を受けることになりました。
市民出資のおひさまファンドによる太陽光発電事業の仕組みは、地域を中心に全国の人々からおひさま進歩エネルギーが出資を受けて、そのお金をもとに、屋根に太陽光発電パネルを設置していくというもの。発電した電気は保育園や公民館などの施設に直接供給して販売するという、現地供給の事業をモデル化したものです。おひさま進歩エネルギーは電気代で回収して、それを出資者にお返ししています。事業開始からはすでに15年程度経っていて、最初のファンドは昨年、15年間で完済。こういった事業がきちんと回ることを立証しています。このことは、20年の長期契約や22円/kWhの買取契約など、飯田市が前例にとらわれない行政決断をしたことで、事業性が保てて、ファンドも募集することができているのです。
市民の意思で飯田市を中心に長野県内や全国に設置された太陽光発電所の規模は、419カ所で、9,089.5kW。メガソーラーの場合、1カ所で1MW(1,000kW)とか10MW(10,000kW)の発電をしていますが、これは9MWを400カ所以上に分けて発電していることになります。1カ所平均20kW程度のサイズで設置をしているから、屋根から直接施設に電気を供給でき、非常時ももちろんそれを使うことができるということになります。
さて、これによって地域経済が実際に活性化できたのでしょうか? 2030年までのおひさま進歩エネルギー事業による地域経済付加価値の累計ポテンシャルの予測を研究した立命館大学等の分析データを見ると、年間17.7億円の経済付加価値が出ているそうです。
こういったことを1つのステップとして、飯田市では地域住民が主体となって、地縁団体(地域の地区など)がこういった事業をできるようにする「地域環境権」を条例で定め、その事業も行われているそうです。
「地域住民を中心にせず、利益中心で考えると、どうしても地域に害を及ぼしてしまうようなものができてしまいがちです。地域に役立つエネルギーを地域のみんなでつくっていくということ、それを条例等で行政と一緒になってやっていけるのが、非常に大きな一歩になっているのかなと思います。市民の力で、エネルギーを変え、未来を変えていきたいと思っています」と述べて、発表は終了しました。
参加者の質問に答えつつ、盛り上がりをみせたトークセッション
お二人の発表を受け、永井事務局長がモデレータを務めてトークセッションとなりました(以下敬称略)。
永井:永原さんへお聞きしたいのですが、永原さんは谷口さんが発表してくださった市民発電を金沢で初めてやったということですが、1000世帯相当の発電した電力は北陸電力に売っているという理解でよろしいのでしょうか?
永原:全てを北陸電力に売っています。自分で消費するよりも売ったほうが高く売れるということと、もうひとつは「のとりん」の場合、自家消費に適した安定して大量に電気を使う場所が近くにないためです。
永井:発電と送電を分けて考える必要があると思いますが、おひさま進歩エネルギーの場合、400カ所以上で9MWを発電という話でしたが、これらは基本的に発電した近くの場所で使っているということになりますか?
谷口:そうなりますね。送電網には特別高圧(特高)と、その下の高圧(6600V)や低圧(200V)を送電するのでは全くシステムが異なっていまして、私たちがつくっているのは高圧と低圧の分野であり、それは変電所内の近隣で使われています。
永井:市民発電をした場合、一般電気事業者(北陸電力や中部電力など)との関係はどうなのでしょうか? その辺りの利害関係といいますか、ここが一番エネルギーの政策で難しいところなのではないでしょうか。
永原:私たちのところは非常に発電量が小さいですから、ライバルでもなんでもなく、お互いが売ったり買ったりという、お客様同士の関係となります。
永井:たとえばすべての家がZEHになった場合、電力会社のビジネスモデルはどうなるのでしょうか?
永原:家庭用は3割だけです。産業用の7割については、ゼロエネルギーなどはなかなか難しいので、すべての家がZEHになっても、産業用は残ることになります。
谷口:産業用のところには発電も入るので、家庭それぞれが賄っていければ、発電側の1次エネルギーということでは削減ができ、それは大きいです。
永井:私のオフィスがあるビル(公共施設)にはソーラーパネルが設置されていますが、ここで発電されたものはこのビルの中で消費されています。一方、飯田市の場合は公共施設でもそこで使わないのに発電する場所として20年間貸してくれています。金沢市や石川県ではこのような政策はないのでしょうか?
永原:屋根を貸して発電することを「屋根貸し」といいますが、石川県や県内市町の公共施設で屋根貸し事業をしているところはありません。自然エネルギー普及ということで、学校の屋根などにソーラーパネルは置かれてますけれど。
谷口:おそらく公共施設に置かれているものは自家消費のためのものだと思います。公共施設が付けると通常の単価の2倍以上がかかっています。基本的にそれは補助金でまかなうことになって、補助金でまかなっているものは自家消費となります。
永井:金沢市でも都市部となると、建物の上に建てるという発想がないと、なかなかまとまった発電量にいかないなと思いますが、そういう政策というのは飯田市にはありますが、金沢市にはないということでしょうか?
永原:民間なら自分たちでやっているところはありますが、県内の行政ではそういうのはないですね。ちなみに長野県や新潟県では行政が積極的に屋根貸しをしています。
谷口:屋根を貸してビジネスをさせるということが、行政の政策上はなかなか通らない状況があります。また、行政が自ら自家消費のために投資をするという形となると、初期費用が高くなります。屋根全体につけるような規模になるととても直接には予算化できませんので、そのためにも民間とパートナーシップを組むモデルづくりが必要だと思います。
永井:飯田市の事例で質問が来ています。飯田市ではFITが終了してもこの価格で買い取っていただけるのでしょうか。また、ソーラーパネルの耐用年数が過ぎたものはどうしているのでしょうか?
谷口:飯田市の方はもともと20年間で契約していますが、FITが始まる前からやっている事業につきましてFITは関係ありません。ただ、サイズによっては余剰の買取制度が利用できたりするものも一部あります。FIT前の買取価格というのは当時の電力価格とトントンくらいでしたが、長い目で見た持続可能性というのもありますし、地域経済循環というのも、防災も、CO2 削減もあって、行政が判断したということです。飯田市の場合、地域経済循環が柱にあり、その理由としては地理的な環境も大きいと思います。他の都市との交流がなかなかしにくいという中で、経済をきちんと地域の中で潤していくというのが生きる術ともいえます。
また、20年間経ってもパネルは問題なく使えまして、使えるものであれば無償譲渡してそのまま自家消費の太陽光という形で使っていただくことになっています。もちろん契約終了で撤去を希望される場合は、撤去してどこかに再設置するというモデルも考えています。
永井:パネル自体の寿命はどのくらいでしょうか?
谷口:今は非常に性能も良くなってきていますので、全体的には30年は持つといわれています。
永井:100%石川で生まれた再生可能エネルギーを契約したいのですがどうすればよいでしょうかという参加者からの質問が来ています。
永原:私の知る限り、石川県100%という新電力はないですが、全国ではやっているところはあります。
永井:このウェビナーのテーマである再生可能エネルギーの地産地消を実現するような契約は今すぐにはできないけれども、県外の100%再生可能エネルギーのプランはあるということですね。
谷口:ぜひ永原さんのところがそういう新電力会社になるように皆さんが応援してくださればいいですね。飯田市ではそういう形で、飯田まちづくり電力株式会社という会社を立ち上げています。野菜と同じように再エネでつくられた電気も地域で循環させていこうというもので、送電は中部電力の送配電会社に頼っていますが、つくることと地域で使うことの入口と出口をしっかり回していくことをめざして、進み出しています。
永井:電力会社は送電だけで、売るのはあくまでも飯田まちづくり電力ということで、電気も回り、お金も回るということですね。そして今は石川にはその仕組がないということ。再エネで発電した電気を電力会社に売って、石炭火力で発電された電気とも混ざって、でもちょっと安く供給されているという状況なのですね。
このような新電力の会社を設立する際、一般電気事業者との関係はどうなりますか?
谷口さん:中部電力の小売の会社とはバッティングしますが、地域課題を解決するために共同してやっていくことがいいという考えを持ち合わせていて、長野県伊那市では中部電力も地域電力として入っています。ただ、出資はするけど運用は地域の会社に任せるという立ち位置をとり、共存共栄の道を双方で模索しているような状況です。
締めくくりは、金沢市が抱えている再エネに関する問題を議論
ほかにもごみ発電や太陽光や風力の自然環境などへの影響に関する議論も行いました。
永井:最後に金沢ならではの質問を。金沢市は全国でも唯一市営の水力発電所を持っています。それを民間に売却することになっていて、背景としては赤字のガス事業と一緒に黒字の水力発電事業を民間に売るということですが、反対の意見も多く、私自身も疑問符があります。サスティナビリティという観点から、お二人はこのことについてどう思われますか。
永原:唯一市営の水力発電ということでとても自慢に思っていますし、金沢市民にとっては誇りではないでしょうか。金沢の水力発電は1kW6円ちょっとで売っていますが、10円以上で売っているところもあって、少しでも値上げをすれば大きな黒字になるものを、なんで民間に売るのかなという思いもありますが、経営が誰になっても、水力発電というものをきちっと長く運営してくれることが重要だと思います。目先の利益にとらわれずに、大切に運用してほしいということしかいえないなと思います。
谷口:自治体が水力発電をやっているということは地域の誇りではないかと思っています。そこに地域が持っている地産地消の再エネがあって、それをどういうふうに維持しながら経営していくかというところかと思います。誰が持つかということもありますが、どういう理念でそれを経営していくのかというところも非常に大事だと思っていまして、例えば海外では地域の市民や会社が出資するという動きもあります。日本でもそういった動きというのは少しずつ起ころうとしていますので、ぜひ、そういう地域のものとして経営していけるような動きも取り入れて、進めてもらえたらいいなと思います。ただし、経営が続かなければ持続可能ではありません。市民共同発電所も持続可能にしていくためには、組織自体も持続可能にしていく必要があります。
永井:あっという間に時間が来てしまいました。エネルギーの地産地消というのでは、CO2を出さないという意味の物理的な地産地消、そして経済を回していくという意味の地産地消と、この2つの意味から貴重な事例とお話が聞けたと思います。本日はありがとうございました。
【登壇者プロフィール】
永原 伸一郎(ながはら しんいちろう)
(同)金沢市民発電所代表社員、(特非)市民環境プロジェクト副代表理事
1999年に(株)PFU退社、独立。2006年に仲間と一緒にNPO法人市民 環境プロジェクト設立、2013年には金沢市民発電所を設立して代表社員就任。これまで石川県内で市民風車1基と太陽光市民発電所4基の建設に携わる。
セミナーの動画もこちらから試聴いただけます。
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2022年03月17日
3月10日に、のと海洋ふれあいセンターにて石川県内で活躍されている料理人6名を中心とした団体NOTOFUEのメンバーの里海に関する勉強会が開催され、国連大学OUIKも開催に向けてコーディネートのサポートをしました。
まず、金沢大学環日本海域環境研究センター研究員の坂井恵一さんから、能登の里海の特徴や海産物活用の歴史などについてお話しがありました。普段から能登の里海の食材に真剣に向き合っているシェフ達とあって、講義の後には「温暖化の影響はどうなのか?」「自分たちにできることは何か?」など、沢山の質問が飛び交う熱い勉強会となりました。話は尽きず、またこのような場を設けようという事で、前半の講義の時間は終了となりました。
里海の講義の様子
後半は野外に出て、のと海洋ふれあいセンターの東出幸真さんに海辺の生き物について解説していただきました。海岸沿いに生息する様々な生き物を観察しながら、実際に触れたり、食べられる海藻を少し味見してみたりもしました。「これはうまい!」という声も聞こえてきて、新しい発見も沢山あったようです。天候にも恵まれ、暖かい日差しの中、充実した観察会を行うことができました。
真剣な眼差しで海藻の解説を聞くシェフ達
これからどのような取組がスタートするのか、今後の展開が楽しみです。
2022年03月17日
小山研究員が中心となって制作を進めてきたe-ラーニング教材「2021年度 地域の食・文化からつながる海外交流!」(前半・後半)が北陸ESDコンソーシアムのYouTubeチャンネルで3月10日に公開されました。
国連大学OUIKがこれまで能登で取り組んできた世界農業遺産(GIAHS)に関する教育の取組(前半)と、能登SDGsラボと国立イフガオ大学GIAHSセンターと連携して行っている能登とイフガオのGIAHS地域の子ども達のオンライン交流(後半)について紹介しています。地域の特徴を活かしたSDGs学習や海外交流などに関心がある先生方や子供の教育活動などに関わっていらっしゃる方の参考になれば幸いです。ぜひご覧ください。
「2021年度 地域の食・文化からつながる海外交流!」
国連大学の取組紹介(前半):https://youtu.be/M9f_0J0ScwM
イフガオ交流の紹介(後半):https://youtu.be/9MnbFblm2SY
2020年10月13日
国連持続可能な開発目標が2015年に採択から6年目を迎え、様々なセクターで目標とターゲット達成に向けた取り組みが実践されています。SDGs169のターゲットのうち65%は自治体の関与がないと達成が難しいと言われるほど、SDGs実践においては、自治体が重要な役割を担っていくことが国連の様々な会議で言及されています。特に1)地域の文脈に即した指標の設定、2)各指標のきめ細かいデータ取得やモニタリングは自治体が市民の参加を得ながら行っていくことが望ましいとされています。これは、「透明性」、「協働」、「参加」をキーワードとして市民が公のデータを使い、現状分析や政策課題の提案を行っていくオープンガバナンスの潮流と合致するもので、むしろSDGsが促す本質的な変化と言えます。
今回、国連大学サステイナビリティ高等研究所いしかわ・かなざわオペレーティング・ユニット(UNU-IAS OUIK)はSDGs達成に向けて日頃から密接に議論を行っている金沢市と共催で、「地域から考える!!「SDGs 指標のモニタリングとオープンガバナンス」〜地域での SDGs実装に向けて、自治体はどう変わるか〜」をテーマにウェビナーを開催しました。
山野金沢市長や先日SDGs未来都市に認定された加賀市の山本課長他、2名の専門家にお集まりいただき、SDGs指標の設定やモニタリングを通じて、自治体経営に透明性、市民協働、市民参画が促されるような仕組みを構築するためにはどうすれば良いのか、基調講演とともにパネルディスカッションを通した活発な議論が行われました。
各自治体に合わせた達成状況を把握出来る仕組み作りが重要
開催に先立ち、主催を代表してUNU-IAS OUIK事務局長の永井三岐子より開催趣旨の説明がありました。「SDGs達成に向け、地方自治体の取り組みが鍵となる中、2018年にSDGs未来都市の認定が始まり、全国ですでに90以上の都市が認定されています。UNU-IAS OUIKのパートナーの一つである金沢市でもSDGsの実践フェーズに移行し、モニタリングを行なっていく段階となりました。石川県は複数都市でSDGs実践の事例が蓄積しつつあり、その知識を共有しつつ、活発な議論が出来ると嬉しいです。」
共催の金沢市を代表して、金沢市長・山野之義氏から開催の挨拶をいただきました。「行政においては、日々の業務の中で行政改革や財政改革を進めていく中で結果的にSDGs達成に繋がると思っています。翻って目標や終わりが見えないと現場の職員のモチベーションが持たず、疲労も出てくるので、目標の達成状況を把握出来る環境作りが大切なのではないかと思います。それぞれの自治体に相応しい成果目標が設定され、それに合わせたモニタリングが必要と思いますし、また市民やパートナーにも分かりやすい形で公開され、市民や関係者と常に意思疎通を測りながら、進めていくことが重要と認識しています。」
基調講演「ローカルSDGsの推進に向けてー指標を活用したモニタリング実施の意義」
SDGsは日頃の活動の延長線上にある
1つ目の基調講演は、サステイナビリティと地方創生の研究を行なっている法政大学デザイン工学部准教授の川久保俊氏から、「ローカルSDGsの推進に向けてー指標を活用したモニタリング実施の意義」との題で講演いただきました。冒頭、「日本においても産官学民全体でのSDGs達成に向けた取り組みが活発化しています。主体的に取り組むことでメリットを享受出来、逆に取り組んでいないとリスクも発生しうる状況になってきています。一人一人の日頃の行動がすでにSDGsと密着しているので、日頃の活動の延長線上で取り組んでいくのが良いかと思います。SDGsを地球規模課題であると認識しつつ、身近な自分達の街の問題だと認識=ローカライズし、自分達の日常で実践していくことが求められています。」とSDGsを自分ごとにすることの重要性を強調されました。
自治体の体制作りや成功事例共有が望まれている
続いて、ローカルSDGsに関する中央政府と地方自治体の認識について説明いただきました。2016年12月発表の政府の「持続可能な開発目標(SDGs)実施指針」が2019年12月に改定され、自治体はガバナンス手法を確立し、取り組みを的確に測定することが重要と明記されました。優れた事例や知見の情報発信や共有の重要性も唄われ、SDGsが認知の段階からまちづくりの中で実践していく段階へ移行しているとのことです。
他方で、川久保氏は内閣府と共に自治体のSDGs認知と実践状況について調査を続けており、調査結果はSDGs実践段階への移行をデータで裏付けているようです。認知度は2017年から2019年にかけて急速な増加を示す一方、取り組み状況については2019年現在、今後内容を検討する自治体が43.3%と後追いの状況を示しています。また、SDGs推進の課題については、一貫して行政内部での経験や専門性の不足、行政内の体制・リーダーシップ・職務分掌の問題が課題として上げられ、試行錯誤が続いている状況のようです。推進の支援策としては、研究会やウェビナーといった先行事例や成功事例の情報提供や学習の機会が求められています。
ローカル指標を活用してSDGsをまちづくりのプロセスに取り込む
川久保氏はSDGsをまちづくりのプロセスに取り込んでいく上で、街の状況を「見える化」しモニタリングするためのローカルSDGsプラットフォームを開発しています。
川久保氏は健康診断と同様に検査項目として指標を設定し、指標を用いて気づきを得て、次のアクションを検討するというPDCAサイクルをまちづくりのプロセスに導入することの重要性を説いています。その中で「見える化」が鍵となる一方、指標のデータを効率的に集め、運用に負荷がかかりすぎないように留意する必要があると考えています。しかし、SDGsの232のグローバル指標において、日本の自治体がそのまま活用可能な指標は約5%しかなく、読み替えを行うことでやっと約50%の指標が使えることになります。自治体がSDGsの全ての指標を独自に研究して、独自のローカル指標を開発するのは困難です。そこで、川久保氏は、自らの研究を通して、日本独自の指標も追加し、2019年8月に合計202の指標「地方創生SDGsローカル指標リスト」(内閣府)を整備しました。
更には、自治体職員が多忙な中で、ローカル指標リストに対応するデータを定期的に集めることが出来るのか、という課題に対応するため、オンラインのローカルSDGsプラットフォームを立ち上げました。このプラットフォームでは各自治体の指標データや情報を一括して収集出来、またローカル指標毎にデータをビジュアル化して確認することが出来ます。また、各自治体がSDGs達成に向けた課題にどう取り組んでいるのか、課題の克服方法の発見のために、自治体担当者のインタビュー記事など、経験や知見を共有することが出来る仕組みを盛り込んでいます。加えて、各自治体がアカウントを得て、施策やシンポジウムといった取り組みやニュースを独自に発信できる仕組みも整備しました。
市民を巻き込んだ独自のローカル指標の整備へ
最後に、川久保氏は強調します。「ローカルSDGs指標整備の各ステップの中で、このプラットフォームは各関係者にデータに関心を持ってもらう上で役立つものの、より質の高いデータや指標を模索し、各地域の実情を反映したローカルSDGs指標の整備していくステップにおいては、各自治体が自ら市民を巻き込みつつ取り組んでいく必要があります。」
基調講演2「 テクノロジーによる市民参画 – オープンガバナンスとはなにか-」
2つ目の基調講演は、一般財団法人Code for Kanazawa及びCivic Tech Japan代表理事の福島健一郎氏から、「テクノロジーによる市民参画―オープンガバナンスとはなにかー」と題して、ローカルSDGs実践と指標モニタリングと市民参画のためのオープンガバナンスとシビックテックについてお話いただきました。
透明性の高く、市民が参画出来る社会の構築
福島氏は、オープンガバナンスとは「透明性の高く、しっかり説明が出来、市民が参画できる政府・自治体作り」と説明します。コロナウィルス感染症対策を例にとると、行政の対策に対して人々の不満や意見がしっかりと届き、行政のアクションが変わったと人々が実感を持てるようになることがオープンガバナンスの成果だと強調します。そして、ローカルSDGsの実践においても、指標のデータ取得やモニタリングについて市民の参画を得ながら進めていくことが望ましいため、透明性の高い行政、市民が参画できる社会の構築が不可欠であり、つまりはオープンガバナンスの構築が重要だと説明します。
では、どうすればオープンガバナンスが達成できるのか。福島氏はすぐに取り組めることの1つは「オープンデータ」だと説明します。「オープンデータとは国・自治体や民間企業が保有するデータのうち、営利非営利関係なく二次利用可能であり、機械判読に適した無償のデータです。オープン化を進めることでオープンガバメント、市民自治(シビックテック)、ビジネス活性化(無償利用)に役立ちます。」そして、SDGsに市民が参画していく流れの中で、市民自治、つまりシビックテックの分野の理解が有用だと続けます。
行政のデジタル化とオープンマインドの養成が重要
福島氏は、シビックテックとは「市民自らが市民が望む社会をテクノロジーを活用して実現すること」と捉えています。シビックテックの良い例として、シビックテック団体g0v他、多くの団体が活動する台湾を例示します。台湾ではコロナウィルス感染症の蔓延下において、g0vがリアルタイムにマスク在庫を「見える化」するサービスを提供していた他、他の団体も市民がテクノロジーを活用して、市民が必要とする形でサービスを提供していました。台湾ではそもそも行政のデジタル化が進んでおり、保険証のICチップ上の購入履歴がオープンデータとして活用され、また情報公開をすぐに決断出来るオープンマインドが形成されていました。
シビックテックの普及には行政のデジタル化を進め、オープンマインドを養っていくことが必要となる中、福島氏は日本でも少しずつ下地は出来つつあると説明します。2013年のシビックテックコミュニティCode for Kanazawa設立を皮切りに、Code for Japanも設立されました。Code for Kanazawaの「5374(ゴミナシ)」といったゴミ廃棄日と分別のためのアプリの開発と全国拡大の他、Code for Japanが東京都からの委託で感染者数の可視化サイトをオープンソースとして開発しています。 また、沖縄での事例では2ヶ月で4つのアプリを立ち上げることができ、そのスピード感はシビックテックならではと強調します。
最後に、福島氏は市民と行政が協働で地域を作っていく中でテクノロジーは不可欠と強調しつつ、「自治体は出来る範囲の中でテクノロジーをどれだけ活用出来るか考え、オープンマインドでありつつ、市民の参画も促す必要があります。市民側もITやテクノロジーの技術的な部分を理解し、自ら推進する、コミュニティに参加する、行政との協働に協力する意識が重要。お互いにマインドセットを変えていくことが重要です。」と締めくくられました。
事例紹介「加賀市のスマートSDGs」
消滅可能都市からスマートシティ加賀へ
前半の最後は、加賀市より政策戦略部政策推進課長の山本昌幸氏から、2020年にSDGs未来都市に選定された加賀市のスマートSDGsの事例について紹介いただきました。スマートシティを推進する背景について、山本氏はこう説明します。「 加賀市は九谷焼や山中漆器等の伝統産業や加賀温泉郷に有名な温泉と観光の都市で、2023年春には加賀温泉駅開業が控えています。他方で、人口減少に起因する人材不足や、合併の影響による多極分散型の都市構造といった課題を抱えています。不名誉ながら2014年5月には「消滅可能性都市」と指摘されました。そのような背景の中で、持続可能性を目指すために先端技術を活用したイノベーション推進を図るスマートシティを目指すことと致しました。」
加賀市は持続可能な加賀市に向けて、「スマートシティへの取り組み」と「加賀市版RE100」を柱に位置付けています。スマートシティを推進するにあたり、加賀市は2019年8月に「スマートシティ推進官民連携協議会」を設立し、市内25団体(産業団体、市民団体)と連携する受け皿を整えました。また3月には「スマートシティ宣言」を発表して市民や外部に取り組みを発信し、クリエーティブでイノベーティブな挑戦可能性都市への変貌を目指しています。
山本氏は、加賀市のスマートシティとは人々の日常の色々な課題に対して技術を活用して解決することで、持続可能性をもたらしていくことと説明します。具体的な事業の例をいくつか説明いただきました。まずはドローンの活用です。物流分野での活用、災害時における空中からの災害現場の確認や緊急物資の搬送、加えて山間部といった人の移動が難しい場所において活用することを想定しているそうです。2つ目にMaaSの活用です。移動をより便利なものにし、移動と商業や観光をデータで繋げることで価値が高まる取り組みを進めています。今年度には実証実験を行う予定だそうです。3つ目にアバターを活用した取り組みです。医療や介護施設でのアバターを通じた面会システムの実現、行政におけるアバターを通した市民相談、社会科見学出来るアバター等の実験的な取り組みを進めていると説明がありました。
また加賀市は、マイナンバーカードと連携した個人認証の基盤作りにも取り組んでいます。市役所外で電子申請が出来る仕組みを作ることで時間を有効活用出来る仕組みを作ろうとしています。加えて加賀市版e-residencyの導入を検討しています。活動の拠点をいくつも持つような人を対象に仮想の加賀市民として認定することで、加賀市に関わりを持つ人を増やし、市の活性化に繋げたいそうです。
最後に、加賀市は加賀市版RE100の取り組みとして脱炭素社会の構築とエネルギーの地産地消を目指しています。市100%出資の株式会社を設立し、再生エネルギー等の電力を公共施設へ供給する事業も推進しているそうです。
加賀市は、RE100への取り組み、スマートシティ推進の取り組みを行うことで、官民協働による自律的な好循環が起こる仕組みを作り、持続可能な街を目指しています。
パネルディスカッション「市民と自治体の関係を変えるSDGsモニタリングの可能性」
基調講演をいただいた川久保氏、福島氏に、UNU IAS-OUIKの高木研究員が加わり、永井事務局長がモデレーターとなり、後半はパネルディスカッションを行いました。
永井:まずは皆様から講演を聞いて感想を伺いたいと思います。
高木:(全体を通して)ローカルSDGs指標はプラットフォーム上で他市と比較出来、また自治体の中での進捗を測定出来ることから画期的だと思います。今後、行政が直面する課題としては、取得出来るデータと出来ないデータがある中で、データ取得の適切な頻度、規模は自治体独自で考えていかないといけません。行政の中でデータ取得が目的化してしまわないよう、活用の視点も忘れないようにしないといけません。また、市民や民間企業の協力を得ないとデータを取得出来ないため、産官学民間の垣根を超える取り組みが必要です。データを取り込んでいく過程で参画者の考え方も変わっていくのではないかと思います。
川久保:(福島氏の話を聞いて)ローカルSDGsプラットフォームは各省庁の統計データを活用している一方、福島さんの市民と共同で作っていこうとする姿勢はSDGsの精神そのものであり感銘を受けました。またテクノロジーを活用しながら負荷を減らして両立させていく点も素晴らしく、SDGsを共通言語として金沢から日本全国へ、そして世界へ発信・展開していける良い事例だと思います。
福島:(川久保氏の話を聞いて)ローカルSDGs指標リストはちゃんと見たことがなかったので、今後、項目を確認して、シビックテックの力で関与できるものを確認するところから始めるのも良いと思いました。ローカルSDGsがいかに大事なのか、グローバル指標の5%しか自治体で活用出来ないと知り、驚愕しました。
永井:自治体の取り組みは包括的だから、自治体はSDGsがこれまでの業務の延長線だと認識し始めています。他方で住民への説明には非常に苦労されています。住民との協働を進めていく上でのヒントは何でしょうか。
福島:シビックテックを通して課題を解決することは、テクノロジーを通して地域の課題を解決していくことと説明をすると納得してもらえることが多いです。シビックテックに取り組んでいる方はもともとSDGsに近い領域に取り組まれていました。そして、なんとなく地域の課題解決に取り組んできた中で、SDGsの枠組みが出来上がってきました。指標に基づいて体系化されると的確に課題解決を迫れます。今後はシビックテックの実践の中で、SDGsについて体系立てた説明をしていきたいと思います。また、自分ごとにしていくという意味で、自分でやりたいと考える人の意思を尊重して進めていきたいと思います。
川久保:まずSDGsは気づきを与えてくれるツールだと考えます。指標に照らし合わせる中で、シビックプライドが養成され、逆に課題も見えてきます。次のステップとしては、気づきや取り組みを発信したくなるはずです。そうすると、共通言語としてのSDGsを橋渡しにして、事例を効果的に発信していくための情報発信ツールにもなり得ます。加えて、SDGsに関心のある人同士を繋ぐコミュニケーションツール、ブランディングツールにもなります。しかし、使い方によって色々なメリットがあり、実際に使い始めてみて気づくことも多いので、まずやってみることが重要だと思います。
永井:住民を巻き込んでいくために、戦略や計画だけでは住民は自分ごとにするのは難しいのではないかと思われます。高木さんが金沢大学と連携して行った取り組みで、住民がSDGsの指標を作り上げた取り組みがあります。経験について伺えないでしょうか。
高木:2019年2月から3月にかけて珠洲市能登SDGsラボで住民とローカル指標を作るワークショップを行いました。SDGsを理解するまでの時間の方が指標を設定するまでより時間がかかり、理解の促進に難しさを感じました。しかし、SDGsのフレームワークに基づいて世界が同じ目標に向かっているという方向性を理解してもらえれば、SDGsは使えるツールだと認識しました。またSDGsは地域や政策を改善するためにも使えるツールであり、そのプロセスを住民と一緒に進めていくことが重要だと考えます。
永井:日本で設定したローカル指標はそもそも国連で認められているものでしょうか。
川久保:SDGsは2030アジェンダがそもそもの根幹で、指標は実施のフォローアップのために存在しているに過ぎません。また各国により事情が異なるので、補完的に新しい指標を提案して策定していくことが推奨されています。今回の内閣府のリストはグローバル指標を補完するものとして提案されており、国連内で正統化するような動きはありません。また、企業や市民が独自に指標を設定している事例もあるよう、自分たちがSDGsにどう貢献していきたいかという観点から指標は設定されていくものと考えています。
永井:金沢市はSDGs未来都市事業を通して取り組みの見える化を進めていくことになります。今日のシンポジウムのテーマは自治体がどう変わるかですが、金沢市にはどう変わって欲しいと思いますか。
福島:金沢市はオープンデータがあり、シビックテックに理解がある都市の一つと考えています。ただ、オープンガバメントを呼び込むために庁内をもっとデジタル化する必要がありますし、どうやって市民参画してもらうか考えていく必要があると思います。またSDGsの枠組みを使う中で、様々な担当課が連携し、ノウハウやリソースを結集しないと、動きが噛み合わないということになりかねません。この機を生かしてこれらの実現を目指して欲しいと思います。
永井:担当課の連携を成し遂げるために何が必要か️、どういったアクションが必要か。SDGs推進室を作る自治体や首長がリーダーシップをとって進める自治体もあります。自治体がオープンガバナンスを進める上でどういう戦略、戦術があるでしょうか。
高木:市民と一緒に指標を作ることでSDGsの達成に繋がるので、まずそれを行うのが最初のステップかと思います。独自指標を作ることは自治体にとって霧の中を進むような作業となるので、まずは既存のローカルSDGsプラットフォームを活用して、自治体間で情報を共有し、協力して進めていくのがいいのではないかと考えます。
川久保:是非、プラットフォームが自治体の進捗や変化に関する情報交換の場になって欲しいと思います。国内でも自治体のボランタリーローカルレビューへの関心も強くなりつつあり、国際的に見ても今後は社会発信していく動きが強まっていくと予測しています。日本の自治体にも是非取り組んでほしいと思います。また追加ですが、指標の概念には、状態量を見るストック指標と変化を見るフロー指標があり、SDGsローカル指標はストック指標を主体に構成されています。住民の努力が目に見え、そして振り返りを行えるようにしていくためにはフロー指標を地域住民と共に作らないといけないと思います。自治体職員は多忙なので、金沢市の場合はOUIKが指標の素案を作って、一緒に進めていく方がいいかもしれないと思います。そうすることで、金沢市はより一層SDGs先進地域として進んでいけるのではないかと考えます。
永井:SDGs達成に向けたアクションの中で、パートナーシップを組んで、市民、企業、行政のマインドセットが変わっていくプロセスを重要視していくことは非常に腹落ちする内容です。プロセスを一緒に進めることが出来ていれば、レジリエントなパートナーシップや組織を達成出来ると思います。しかし、自治体は管理の側面から、指標を設定して達成出来ないときの説明をどうするかという点を不安視しています。定性的な情報を客観視し、対外的に説明していくのは難しいことですが、どのように説明責任を果たしていけば良いと思いますか。
高木:定量的データの取得は原則として重要で、加えて定性的データを合わせて取得し活用していくことが重要です。指標に応じて、どちらが必要かを整理していく必要性があると考えます。
川久保:指標疲れを防ぐために、データ収集から色々な人を巻き込んでいくことが重要と考えます。データ収集は大学に依頼しても良いと思います。海外では、行政の役割は施策を考えること、データを集めるのは知識創造の拠点である大学の仕事と役割分担されていますので、日本でもそれを成し遂げられると良いかと思います。また目標の全部を達成しようとは考えず、出来るところから取り組む姿勢も大切だと考えます。加えて、既存のSDGsの枠組みの外にも視野を広げ、文化、芸術、スポーツ等のカバーしきれていない部分、”Beyond SDGs”を金沢市や加賀市がカバーして進めていくのが日本のプレゼンスの向上にとっても良いと考えます。
永井:最後に高木さんと福島さんから一言ずつコメントをお願い致します。
高木:SDGsは答えを出す性質のものではなく問いだと思います。自治体の方々もSDGsの視点から自分たちで考え続けるというのを大切にしてもらえればと思います。
福島:SDGsの推進に市民参画が重要で、それを持続可能にしていくために技術が使え、そのためにシビックテックを活かすことが出来ます。技術だけで上手くいく訳ではなく、関係者のマインドセットが重要となります。日本でも台湾のように取り組みが進めば面白いのではないかと思います。
【スピーカープロフィール(登壇順)】
川久保 俊(かわくぼ しゅん)
法政大学デザイン工学部 准教授
慶應義塾大学理工学部後期博士課程修了。博士(工学)。法政大学デザイン工学部助教、専任講師を経て2017年10月より准教授(現職)。専門は建築/都市のサステナブルデザイン。近年は、持続可能な開発目標SDGsの主流化に関する調査研究を進めており、その成果を取り纏めて出版物「私たちのまちにとってのSDGs-導入のためのガイドライン-」やウェブアプリケーション「ローカルSDGsプラットフォーム」 として発信している。主な受賞歴:日本都市計画学会論文奨励賞、日本建築学会奨励賞、山田一宇賞、International Conference on Sustainable Building Best Paper Awardなど。
福島 健一郎(ふくしま けんいちろう)
一般社団法人コード・フォー・カナザワ 代表理事、一般社団法人シビックテックジャパン 代表理事
2009年4月に金沢でアイパブリッシングをパートナーと創業。テクノロジーを用いた社会課題解決を続けている。 また、地域の課題をITの力で解決するために、2013年5月にCode for Kanazawaを9人で設立。日本で初めてのCode for コミュニティとなった。2014年に一般社団法人化。 Code for Kanazawaが開発した5374(ゴミナシ).jpは全国のコミュニティの手で2018年11月末現在で120都市以上に広がった他、のと・ノット・アローンやHa4goなど多数のアプリ/サービスを輩出。 現在は、シビックテックを国内に広げるための活動にも力を入れているほか、シビックテックを実現するための基盤となるオープンデータやオープンガバメントの推進についても精力的に活動を行っている。
山本 昌幸(やまもと まさゆき)
加賀市政策戦略部政策推進課 課長
1989年に石川県加賀市役所に入庁し、2015年に地域交通対策室長、2016年に教育庶務課長を経て、2019年4月に現在の政策戦略部政策推進課長に至る。加賀市が進める「スマートSDGs」や「スマートシティ加賀」の取り組みが、全庁一丸となって推進されるように、その先導役として、積極的に業務の遂行に取り組んでいる。
高木 超(たかぎ こすも)
国連大学IAS-OUIK研究員
NPO、民間企業を経て、2012 年から神奈川県大和市の職員として、住民協働、厚木基地対 策、待機児童対策を担当。17 年 9 月に退職後、博士後期課程進学と同時に渡米。ニューヨ ークを拠点として、1 年間にわたり「自治体における SDGs のローカライズ」に関する調査 研究を行う。その間、国連訓練調査研究所(UNITAR)とクレアモント大学院大学が共催す る「SDGs と評価に関するリーダーシップ研修(英語名:Executive Leadership Programme In Evaluation and the SDGs) 」を日本人で初めて修了。ミレニアル世代の若者を中心に SDGs の達 成に向けて取り組む団体、SDGs-SWY の共同代表としても活動するとともに、国内外の自治体のSDGsを幅広く研究。著書に「SDGs x 自治体実践ガイドブック」 。
永井 三岐子(ながい みきこ)
国連大学IAS-OUIK事務局長
フランスで民間会社勤務の後、JICA(国際協力機構)専門家としてモンゴルで水資源管理や過放牧の問題、国連大学グローバル環境情報センターで気候変動適に関する研究に従事。JICA-JST日・タイ気候変動適応策プロジェクトコーディネーター、など環境分野の国際協力に携わってきた。2014年から現職。地域にある国連機関の強みを活かし自治体への政策提言などを通じて、SDGsの実践 を石川全域で推進中。金沢市出身。
動画もこちらからご視聴いただけます。
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2022年03月16日
国連大学OUIKと能登SDGsラボ、イフガオ国立大学GIAHSセンターが連携して進めている能登とイフガオの世界農業遺産(GIAHS)地域の子ども達の交流ですが、今年度第3回目の小学校の交流が2月22日にオンラインで行われました。今回は地域の踊りや太鼓の紹介をテーマに交流しました。
まず、正院小学校の児童が伝統的な太鼓や笛を発表しているビデオを紹介し、お祭りで着る衣装の紹介、笛の実演などがありました。太鼓の音は雨を表していて、雨乞い太鼓であることや、衣装の裾には鈴がついていて、お祭りの日には町中で鈴の音が聞こえることなども教えてくれました。
ナヨン小学校の児童からは地域に伝わる伝統的な踊りと衣装の紹介がありました。
事前に録画しておいてくれた児童が踊る伝統の踊りのビデオを見てから、オンラインで踊り方の解説などをしてもらいながら、正院小学校の児童も一緒に踊ってみました。伝統的な衣装を今はお祭りなどのイベントの際に着ているが、昔は日常的に着ていたこと、女性が着用するアクセサリーや男性が大人になると持つことができるナイフのことなど、伝統的な衣装の詳細も教えてくれました。
一緒にイフガオの踊りを踊っている様子
イフガオからの踊りの紹介を受けて、正院小学校からも地域に伝わる「奴振り(やっこふり)」というお祭りの踊りのデモンストレーションもあり、イフガオの児童も一緒に踊ってくれました。
珠洲市正院地区に伝わる「奴振り」を一緒に踊っている様子
質問タイムではなぜお面をするのか、衣装は誰がデザインしたのかなど、様々な質問が出て意見交換が行われ、最後にはフィリピンで人気の現代の踊りの紹介もあり、参加者全員で一緒に踊りました。
終わりに、両方の学校の校長先生からもコメントを頂きました。正院小学校の校長先生からは、お互いの地域の踊りや音楽に違いはあるけれど、両方とも収穫に感謝するという共通点もあることが分かりとても良かった、とのお話しがありました。今回の交流で印象的だったのは、小学生が自ら伝統的な楽器を演奏したり踊りを踊ったりしていて、自分の言葉で紹介することができていたということです。お祭りの担い手が減少しているなどの課題もありますが、地域の文化が根強く残り子供達へ継承されている能登とイフガオ地域だからこそできる交流だったと思います。そして、自分たちの地域に伝わる文化を海外の同世代の子ども達に紹介することで、さらに地域への理解が深まったのではないかと思います。そして、何よりも一緒に踊っているときの児童の楽しそうな様子を見ることができて嬉しかったです。
これで、今年度の交流は終わりになりますが、また今後も能登とイフガオの子ども達の交流を支援していきたいと思います。