地域との研究活動:アーカイブ
2021年06月30日
石川県金沢市内の中心域にはホタルが生息できる環境が残っています。昭和期以降の都市化や宅地化により、ホタルの生息数が減少していましたが、下水道の整備が進み、水質改善に伴い、まちにホタルが舞い戻ってきています。金沢市では過去30年以上にわたり、市民参加型の「ホタル生息調査」が実施されています。地域の自然やいきものを保全し次世代に繋げていくため、市民団体の積極的な保全活動が継続されています。
7月2日金曜日に、国連大学サステイナビリティ高等研究所いしかわ・かなざわオペレーティング・ユニット(国連大学 IAS OUIK)は、SUNプロジェクトの下、ファン研究員が金沢市内の幸町、および菊川にて市民参加型のホタル生息調査ツアーを実施しました。鞍月用水沿い及び周囲の庭園周辺を踏査し、夜間の水のせせらぎや都市の自然を楽しみつつ、ホタルの生態を調査することを意図した企画です。
当日は、幸町・菊川地区にお住いの方々をはじめ、総勢15名程度の方々にご参加いただきました。また、金沢ホタルの会副会長・石川ホタルの会事務局長の新村光秀さん、石川県立自然史資料館館長の中村浩二さんにもご参加いただき、ホタルの生態について教えてもらいながら、調査を進めました。
ホタルは全世界で2,000種余り存在すると言われていますが、普段良く耳にするのはゲンジボタルやヘイケボタル。金沢市内でもそれら2種類の生息が確認されています。それぞれ体長や光り方が異なるため、それを目印に江戸時代から活用されている用水沿いに個体数を確認していきます。
雨の日はホタルの飛ぶ姿はなかなか確認できません。その代わり、水辺の植物の葉っぱの裏に隠れていたりします。調査当日は小雨でなかなか見つけることができませんでしたが、10数カ所余りの観測地点を小まめに確認していくことで、結果的に合計数十匹のゲンジボタルとヘイケボタルを確認出来ました。また、参加者のご好意もあり、旧町家である邸宅内の日本庭園でも調査を行わせてもらうことが出来ました。日本庭園内でホタルが飛び交う幻想的な風景を見つつ、日本庭園が果たす都市の生物多様性や生態系への貢献を学ぶことが出来ました。
ホタルの各種類それぞれ、異なる食べ物や生息環境の好みを持っています。綺麗な水質のほか、食べ物であるカワニナやタニシの生育環境、まゆを作れる土、卵を産み付けられるコケなど、水辺周辺の環境も合わせて考えていかなければなりません。今回の調査のような市民参加型のホタル調査は金沢市では多くの方の参加で継続的に行われています。来年もまた多くの方と都市の自然を楽しみつつ、ホタルの生息できる環境について一緒に考えていけるといいですね。
ホタルの生態や金沢市のホタル生息調査の歴史について詳しくは「金沢ホタルマップ30年のあゆみ」もご参照ください。
2021年06月12日
6月8日は国連が定める「世界海洋デーWorld Oceans Day」。国連大学サスティナビリティ高等研究所いしかわ・かなざわオペレーティング・ユニット(UNU-IAS OUIK)は「世界海洋デーWorld Oceans Day」を記念して、6月8日にウェビナー「私たちが望む里海! –海洋研究における女性科学者の声」を開催しました。今回のウェビナーは、日本を拠点に里海の研究に取り組んでいる多国籍の女性研究者4名が集まり、初めて女性だけの講演者でのウェビナーを開催しました。
海洋は私たちの生活の源であり、地球上のあらゆる生命と人類の生計を支えています。今年2021年の「世界海洋デーWorld Oceans Day」のテーマは「海 – 私たちの生活と生計」です。また、今年は、「持続可能な開発のための国連海洋科学の10年(2021年から2030年)UN Decade of Ocean Science for Sustainable Development (2021 to 2030)」の開始年とも重なる重要な年です。この海洋科学の10年では、世界中が協力して、海洋科学が海洋生態系と社会により大きな利益をもたらすことを確固とするような協調的枠組みを構築してゆくことが期待されています。そのため、このウェビナーでは、とりわけ社会科学や沿岸景観に焦点を当てつつ、海洋に関する幅広い専門領域と全般的な理解に着目し、国連海洋科学の10年が呼びかける「私たちが望む海洋に必要な科学 – The Science We Need For The Ocean We Want」について考えてみました。
このウェビナーは、UNU-IAS OUIK永井三岐子事務局長のファシリテーションで、まずはUNU-IAS OUIKイヴォーン・ユー研究員から海洋が直面する課題について紹介がありました。イヴォーン・ユー研究員は海洋を守るために、海洋科学がより上手く情報を発信し、必要な行動を理解して即座に行動を取っていかなければならないことを強調しつつ、海洋の課題に関する全般的で確固とした知識を得るために社会科学が海洋研究に統合される必要性を指摘します。
イヴォーン・ユー研究員からの紹介に続き、3名のパネリスト、Dr Piera Biondi、豊島淳子氏、Ms Alana Bonziから沿岸景観、沿岸域における生物多様性、そして関連する生業の保全に関する研究事例や自身の活動経験について紹介がありました。続くパネルディスカッションでは、研究や社会活動を行う女性ならではの経験や視点について3名のパネリストから言及があります。海洋科学や海洋保全、また水産業や里海の生計を支援する職種において、非常に優秀な女性や知識が豊富で優れた技術を持つ女性に会う機会が多々ある一方で、女性の活躍をより目にみえるようにし、声が届くようにしていく必要があることに気づきました。最後に、自然科学と社会科学をより統合させたアプローチ、沿岸生態系の保全へのより一層の注目、そして、この国連海洋科学の10年の中でより多くの人々が海洋のために行動を取ることが進むことを期待して、このウェビナーは幕を閉じました。
英語で行われたこのウェビナーの詳細レポートを英語でお読みいただけます。
2021年06月09日
2021年度最初となるSDGsカフェは、新しい概念によるお金が流れるしくみ、「グリーンボンド」がテーマ。持続可能な社会を実現するためにはお金の話も重要。これは環境課題を解決しながら経済成長もするという、一石二鳥、一石三鳥ともなりうるものです。
環境課題を解決するグリーンプロジェクトのうち、規模が大きな案件はほとんどが大企業中心となり、地域で実施されても、お金や仕事は地域外に流出するケースが多くなっています。その中で、地域の金融機関、金沢市、地域事業者のパートナーシップにより、金沢市内の体育館の照明LED化事業を債権化し、地域経済の循環までを生み出すプロジェクトが誕生しました。今回はこのプロジェクトを通して、グリーンボンドのしくみを学び、その可能性を話し合います。
グリーンボンドと今回のプロジェクトの概要紹介
少し専門的な言葉が出てきますので、最初に簡単に説明します。
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◆グリーンボンドとは?
企業や地方自治体などが、国内外で行うグリーンプロジェクト(地球温暖化対策や再生可能エネルギー事業など)に要する資金を調達するために発行する債券のこと。ソーシャルボンド、SDGsボンドとも呼ばれ、資金の使い道はその事業に限定されます。
◆金沢市の体育館照明LED化事業とは?
国際条約「水俣条約」で規制されるようになった水銀灯を使用している市内の小中学校などの体育館81カ所約3000灯をLED照明に変えるプロジェクト。このLED化により、電気使用料、CO2排出量、電気料金のいずれも約3分の1に減らすことができる見通し。
◆ESCO事業とは?
顧客(今回の場合は自治体)の光熱水費などの削減を行う事業を民間が請け負って、その経費を削減分でまかなうというもの。
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民間資金を活用する官民連携事業は2030年の金沢をどう変えるか?
北陸グリーンボンド代表の澤田浩士さんから、グリーンボンドを始めた経緯や課題などとともに、民間資金を活用する官民連携事業が盛んとなる社会をIMAGINEしていただきました〈以下は澤田さんの発表の要旨〉。
──経済産業省が企業の省エネを推進する中で、地方自治体自体の省エネができていないことを踏まえ、平成29年6月から地方自治体に向けて環境改善事業に特化したPPP(官民連携)事業モデルの構築を協議し始めました。ところが、地元の中小企業は専門的な分野には長けていますが総合的なマネジメントができず、大企業が有利となることに気がつきます。その結果、地域の大事な税金が地域外に流出していて、実はこれが高度成長期以降、地方が弱体化した要因の一つになっています。
私たちは、地域資源(ヒト・モノ・カネ)を最大限活用できる方法を模索するため、環境省に相談に行きました。そこで「グリーンボンドを活用した発行創出モデル事業」があるので、事業スキーム(枠組みを持った計画)を構築して応募しないかと打診されました。平成30年3月には北陸グリーンボンド株式会社を設立。当社と地域事業者、地方自治体、地域金融機関の交差点にはSPC(特別目的会社)を事業ごとに設立し、そこが債券を発行して資金を調達し、対象事業を実施するという事業方式です。
第一弾事業としては、わかりやすいものからと考えて、民間より遅れているLED化事業から始めることにしました。これが「グリーンボンド発行モデル創出事業」として環境省に採択されました(採択されたのは6つの事業体のみで、地方モデルは北陸グリーンボンドが唯一)。
そして北陸三県の自治体向けにセミナーを開催するとたくさんの参加があり、試算をすると北陸だけでもLED化は数百億円のマーケットがあることがわかりました。しかし、自治体と実際に話を進めていくと、「お金がないからできない」(その対策として民間資金を活用しようとする提案なのに……)、「今すぐやらなくてもいいのではないか」と言った反応が続出し、最後はいつも「前例がない」と言われ、なかなか話が進みませんでした。
ところが金沢市が令和2年度に、「体育施設等LED化ESCO事業」を公募し、地元工事店や地元金融機関(北國銀行)と協議して参加表明を行い、9月に事業契約の完了に漕ぎ着けることができました。オール金沢で取り組むこの事業は、内閣府からも「地方創生SDGs官民連携プラットフォーム」官民連携優良事例として評価されました。
さて、SDGs につながる、官民連携の素晴らしい事例がありますので紹介します。富山県朝日町の笹川地区では水道配管の老朽化により、更新コストの3億円を捻出しないとならない課題がありました。自治体ではなかなか財源が用意できない中、地元の建設会社が地域の川を利用して小水力発電所を作ることを考え、発電で得られる20年間の収益を原資に、金融機関から信託方式で発電所建設費用と水道管の更新費用を借入れ、水道管の更新を実施しました。課題解決コストを環境事業で捻出するという大変興味深い事例です。
自治体は今、施設の老朽化や自然災害への備え、耐震化など、収益を生まなくてもやらないといけない事業をたくさん抱えています。今までは国からお金をもらうとか、借金をするしかありませんでしたが、再エネや省エネ、畜エネ、その他PPP/PFIと言われる官民連携事業などによって収益を生み、その事業を行うための支払いと課題解決にかかる費用を同時にまかなうことができるかもしれません。そのために必要な資金にグリーンボンドなどの債券を活用する事業がたくさん出てくるのではないかと思っています──
金融機関も地域発の官民連携事業を後押し
金融機関がこのスキームをどのようにして実現するに至ったのか、北國銀行法人ソリューショングループの別所雄紀さんからお話しいただきました〈以下は要旨〉。
──厳しい財政の中でバブル期に作られた施設の老朽化の対策が迫られる自治体は、職員数も減っていて、自治体単独で持続可能なまちづくりを行うことは難しくなってきています。今回の金沢市の体育館照明LED化事業では、北陸グリーンボンドから資金調達の相談を受けて一緒に取り組ませていただきました。引き受けた一番の理由は、公共と民間事業者がしっかり連携した事業であったこと。そして、それが地元の企業が主導で行われたことです。LED化事業は今まで行政が個別に対応してきましたが、官民連携でその分野を得意としている民間業者に委託した方が効率も上がり、維持管理の品質も向上します。そして、自治体はしっかりしたサービスが市民に提供されるようにモニタリングするという、官民連携の発想です。
それに加えて今回素晴らしいと思ったのが、地元の企業が一緒になって企画して、取り組まれていること。事業にかかる費用は自治体から支払われ、それが事業を担う地元の企業の収入となり、そして会社が元気になって行きます。地元の経済が活性化すれば税収が増えて自治体も潤って行きます。このようにお金が地域で循環して地元の経済が持続的に活性化していくという素晴らしい事業モデルであり、地元の金融機関としても積極的に介入していくべきだと考えています。
北陸地方の自治体は地域ごとにさまざまな悩みを抱えています。自治体の皆さんにはそういった悩みをぜひ地域の人たちと共有して欲しいですし、地域の企業の皆さんには「自分の会社ならこんなことができる」ということをどしどしアピールしてもらえると、さらにこのような話が増えていくと思います。官民がしっかりと対話をしながら、どうすれば地域が良くなるかを一緒に考えていくことができれば、それが持続可能なまちづくりにつながって行きます。
今回、関係者とは何度も議論を重ね、当行としても「グリーンボンドってなんぞや?」からスタートした初めての取り組みでした。そして、地域の知見やエネルギーを結集していくとなんでもできるような気がしています。ぜひみなさん一緒になって、そこに銀行も入れていただき、地域がどうしたら良くなるかということを考えたいと思っています。
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◆今回のプロジェクトのポイントをおさらい
このような大規模な事業は県外の大手事業者が受注することが多かったが、オール金沢で受注できたことで、お金も仕事も地域内での好循環を作ることができた。また、地元の企業が工事を行うことにより、移動などで排出されるCO2の排出量を抑える効果もある。
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グリーンボンドの可能性について話し合おう
今回のパートナーシップの一翼を担う自治体を代表して、金沢市環境政策課ゼロカーボンシティ推進室の山田博之室長にもパネリストとして参加してもらい、いただいた質問に答えながら、オンラインパネルディスカッションが始まりました〈以下、ダイジェスト。敬称略〉。
質問:山田さん、グリーンボンドをやってみようと決めた一番の理由とは?
山田:グリーンボンドはプロポーザルの要件ではなかったが、ESCO事業としてご提案いただいたいくつかの中で、こちらはオール金沢でできるということで、地域にお金と仕事が回ることと、温室効果ガスの削減効果が高いということなどから総合的に判断した。また、事業費を平準化できるという面からも、非常に優れたものと考えており、環境以外でもこういった事例をどんどん積み重ねていき、浸透していけばいいと思っている。
質問:金融機関は初めてのことをする場合は慎重になると思うが、今回のグリーンボンドでは不安なことはなかったのか?
別所:公共が関わる案件では、返済の原資は自治体から支払われるので、過度な心配は特段なかった。今回の場合はこの事業に向けた融資となるので、事業の計画についてしっかりとすり合わせを行ったので、リスクの軽減ができたと思う。
質問:グリーンボンドは効果を定量評価できないと厳しいのか?
澤田:グリーンボンドのガイドラインでは数値目標を作って投資家に見せるようになっている。ESG投資では、投資したお金が何%の利回りで戻ってくるかということだけではなく、環境面でどれくらいの効果があったのかが投資家には重要になってくる。今後はこれが財務上の評価にもつながってくる可能性があるため、さらにより多くの数値化できるものが必要になってくると考える。
質問:今回のLED化の場合、電気料金の削減などでお金を生むことがわかるが、例えばそういったことと、お金を生まない事業とを抱き合わせるような考えはあるか?
澤田:今までは自治体では課題一つ一つに対して解決方法を模索していた。それぞれの課にはそれぞれの課題があり、しかしその課題を横の課と連携して解決することは苦手。両方の話を聞いて横断的に俯瞰し、プラスマイナスゼロになるようなビジネスを考えられる立場の人がどうしても必要になる。
山田:発電と村おこしをセットにするような事例は最近全国でも出てきているような気がする。自治体というのは初めてのことになかなか手を出しにくく、そういった事例が積み上がっていけば、さまざまなノウハウができて、いろいろな地域課題の解決方法へとつながっていくと思う。
質問:経費を削減して浮かすことができたお金を使うことが、グリーンボンドの基本的な考え方となるのか?
澤田:資金が必要な場合はその返済原資がどこにあるのかが重要。返済原資を例えば太陽光発電であれば売電収益の確実性や、今回のLED化では電気代や維持管理費削減により実現できた経費削減よって捻出するなど、そのような支払原資を先に考えないと金融機関はなかなか乗りづらいのではないかと思う。
質問:今回のグリーンボンドのスキームを通して、これが2030に向けてどんな風になっていったらいいと思うか?
澤田:グリーンボンドに限らず、さまざまな資金調達方法を使って、地域の課題解決のお手伝いをすることを我々は目指している。
別所:グリーンボンドを活用して、地域を盛り上げていってほしいし、もっと地域のいろいろな事業者が関わってくれると、石川県がより良くなっていくと思う。
山田:今の時代は環境がものすごく価値を持ってきている。このような資金などを活用して、こういった事例を積み重ねていくことで、より良いものが生まれていけばいいなと思う。
「グリーンボンドはとても可能性のあるやり方だと感じましたし、これが広がることで、さらにいいアイデアも出てくるのではないかと思います」と、国連大学IAS OUIKの永井事務局長が述べて、SDGsカフェ#17は終了しました。
セミナーの動画もこちらから視聴いただけますので、是非ご確認ください!
2021年04月13日
令和2年度、4回にわたって開催した「能登の里海セミナー」。4回目の今回は、SDG14「海の豊かさを守ろう」の10のターゲットの中から、地球温暖化による海洋温暖化や酸性化削減に関する「SDG14.3」を取り上げました。3名の専門家にご登壇いただき、国内外における近年の海洋の温暖化・酸性化の影響や保全の取り組みを紹介するとともに、地球温暖化の影響を軽減するために私たちができることについて考えました。
「SDG14.3」がめざすこと
環境問題を語るのに、気候変動や生物多様性とテーマは多々ありますが、とても重要な分野の1つが海洋です。あらゆるレベルでの科学的協力の促進などを通じて、海洋酸性化の影響に対処し最小限化するというのが「SDG14.3」。海の温暖化と酸性化は表裏一体の問題ですが、気候変動と温暖化の対処としては「SDG13」があり、「SDG14.3」では海の酸性化にフォーカスしています。
海はCO2や熱エネルギーを吸収し、地球温暖化を和らげる役割があります。しかしこの数十年の間に大量に吸収していて、今後さらに海水温が上昇し、酸性化が進むと思われています。海がCO2を吸収すると海洋酸性化が起こり、産業革命以前と比較すると26%上昇しています。──以上、国連大学OUIK研究員のイヴォーン・ユーの発表から。
基調講義「海の温暖化と生物への影響」
科学ジャーナリストの山本智之さんに、海で起こっていることや、それが私たちにはどういう意味を持つかということを基調講義していただきました。
サンゴ礁生態系の危機
2018年に行った沖縄県宮古島沖の巨大サンゴ礁「八重干瀬(やびじ)」の調査で、海底に占める生きたサンゴの面積は10年前と比較して、主に白化現象が原因で約7割減ってしまったことが判明。サンゴは動物の一種ですが、体内には褐虫藻という微小な藻類が共生しています。褐虫藻が光合成で作った栄養をサンゴに与えていますが、高い水温などのストレスが加わると褐虫藻が大幅に減少し、サンゴの骨格が透けて見える「白化現象」が起こります。この状態が長く続くと、サンゴは栄養失調で死んでしまうのです。
サンゴ礁は多くの生き物が集まる「生物多様性の宝庫」であり、大波から島を守る天然の防波堤にもなります。IPCCの『1.5℃特別報告書』では、世界の平均気温が産業革命前より1.5℃上昇すると、サンゴの生息域の70〜90%が消失。2℃上昇では99%以上が失われると予測されています。
温暖化による気温・海水温の上昇
世界の平均気温の上昇と同じように、世界の海面水温も100年あたり0.55℃のペースで上昇を続けています。日本では過去100年間で1.14℃も上昇し、世界平均を上回るペースで温暖化が進んでいます。中でも一番上昇ペースが速いのが日本海中部で、1.72℃となっています。今後100年間では、今までの約3倍のスピードで海の温暖化が進むという予測もあります。海の生き物はたった1℃の上昇でもものすごく影響を受けますが、3℃や4℃の上昇は、生物相がガラッと変わってしまうような大きな変化を意味します。
海洋生物への影響と将来予測
瀬戸内海で春を告げる魚とした親しまれてきた鰆(サワラ)は、温暖化による海水温の上昇が影響して、これまであまり獲れなかった日本海で漁獲量が増加しています。海水温上昇では、サケ、イカナゴ、クロマグロ、ホタテガイ、コンブ類などが激減する可能性があると言われています。最悪の場合はこれらの食材が日本から消える可能性も考えられます。
温暖化と「適応策」
高い気温により果実への影響も出ています。リンゴの栽培適地は北上する一方、パッションフルーツなど南国系果実の栽培が本州でも増えてきています。温暖化という環境変化にどのように適応していくかという視野で対策を考える「適応策」には、栽培技術による対応、高温耐性品種への植え替え、樹種転換の3つのパターンがありますが、パッションフルーツはこれらの中の樹種転換にあたります。
また、海産物においても明らかな影響が見られています。「鳴門わかめ」のブランドで知られる徳島県は日本のワカメの生産地の中では南にあるため、温暖化の影響を受けやすく、生産量が減少傾向にあります。現在は最先端技術を用いて、高水温に強い新品種(NT株)の開発に成功。高温に強いことに加えて、成長も早く、食味も従来のものと変わらないため、徳島県で生産される養殖ワカメ全体の2割ほどがこの品種に置き替わっています。
もう一つのCO2問題〜海洋酸性化
CO2は水に溶けると酸として働きます。人間活動で排出される二酸化炭素の約4分の1を海が吸収していて、海は温暖化のブレーキ役になっていると思われていましたが、CO2をどんどん吸収することで、海自体の化学的な性質が変わってしまいました。海の酸性化が起こると、ウニや貝類、サンゴなど炭酸カルシウムの殻や骨格を作る生き物が、それを作りにくくなってしまいます。世界中の海で今後、さらに酸性化が進行すると予測されており、最も深刻なシナリオでは、今世紀末ではpHが7.8くらいまで低下すると予測されています。
私たちはどう対処するべきか
大気へのCO2の排出が今のペースで続けば、温暖化と海の酸性化は確実に進みます。国レベルでは、「再生可能エネルギー」の導入を増やしていく取り組みにもっと力を入れるべきではないでしょうか。そして消費者にできることの一つが、食生活における新たな適応策です。例えば海水温の上昇で生息域が北に広がるアイゴという魚を食すること。アイゴはカジメなどの大型海藻を食べるため、磯焼けがさらに拡大することが懸念されています。アイゴを食べる習慣がなかった地域でも食べるようにすれば、沿岸の藻場を守ることができ、一石二鳥となります。
温暖化と酸性化の解決にはCO2の排出削減の取り組みが不可欠です。それと同時に温暖化した世界の下で生き延びるための適応策も今から先取りして進めていく必要があります。
活動紹介 ①「魚の研究からみた里海・里山の温暖化」
7年間ヤツメウナギの研究をしている石川県立大学大学院の荒川裕亮さんから、温暖化の事例を絡めて石川県を中心とした海の中の生物の状況を紹介してもらいました。
温暖化によって、里山では白山の積雪が減ると獣害が拡大し、湧水が減少することでトミヨなど湧水に依存する生物が影響を受けます。また里海では沿岸水温が上昇することから藻場が影響を受けます。藻場は魚にとってゆりかごともいわれ、藻場の減少は水産資源にも影響することが考えられます。
能登半島には「ボラ待ちやぐら」や「定置網漁」、「カワヤツメ漁」などの伝統的な水産業があり、そこで育まれた「地域の生態学的知識」は生物資源管理に有効で、生物多様性の保全や持続的な資源の利用に活用できるとともに、温暖化・環境改変による水産資源への影響を評価する上でも必要です。
カワヤツメは遡河回遊性のヤツメウナギの一種です。生活史としては、川で産卵し、川で数年過ごした後に海へ回遊し、再び河川へ戻ってきます。川の中に立ってヤツメウナギを「カンコ」と呼ばれる漁具で引っ掛けて捕まえる漁が、かつては能登半島では春の風物詩でした。昔は漁師が一人でドラム缶1杯のヤツメウナギを捕まえていたそうですが、今では1匹捕まったらいいというくらいに激減しています。能登半島でのカワヤツメの減少は、温暖化による分布域の北上以外にも、遡上を妨げるダム・堰堤など構造物の影響も考えられています。
活動紹介 ②「未来にアクション 地球温暖化防止のためにできること」
続いて、環境カウンセラーの中村早苗さんに、石川県内における地球温暖化の防止・対策・啓発の活動についてお話しいただきました。
IPCCの『1.5℃特別報告書』では、平均気温上昇を1.5℃以内に抑制するためには、CO2排出量が2030年までに45%削減され、2050年頃には正味ゼロに達する必要があるとしています。日本も2050年「脱炭素社会の実現」を宣言し、企業では2050年までに100%再エネで調達することを目標にする「RE100」への加盟が進んでいます。
石川県の部門別のCO2排出割合では「民生家庭系CO2排出」が全国平均よりも多くなっています。詳細を見ると自家用車や暖房の割合が多く、電気使用料も多いことも分かります。日本は先進国の中でもフードマイレージが大きく、それは海外から食料を大量に長距離輸送していることを表しています。日本の食料自給率の低下が原因の一つで、食の地産地消は温暖化防止に大きく貢献できます。
私たちの暮らしは環境に影響を与えてきましたが、毎日の行動を変えることで、未来が変わります。今から行動を起こしましょう。
SDG14.3 海洋の温暖化・酸性化の目標達成に私たちのできること
続いて、参加者やパネリストからの質問にこたえるパネルディスカッションを行いました(以下、要旨・敬称略)。
質問:海洋酸性化といっても、pHでは弱アルカリ性で、それでも貝や甲殻類に酸性の影響はあるのか?
山本:貝や甲殻類は十分にアルカリ度が高い海水で殻を作れるように進化してきたので、急にはそれが変えられない。
質問:能登の千里浜海岸は侵食で一部が車で走れなくなっているが、海岸線を守ることはSDGsのどこのターゲットに入るのか?
イヴォーン:SDG14・5に沿岸域と海洋域と生態系を守るという目標があり、ここに当てはまると思う。千里浜の海岸侵食の原因は陸とのつながりの切断というのが一つの原因にある。
荒川:川の連続性というとヤツメウナギが川を遡上できないということもあるが、土砂や栄養塩が海に流れている量の減少も問題だ。
中村:千里浜の侵食が注目されたのは、千里浜に多くの人が思い出などがあって敏感になったから。みんなが敏感になって、このような問題に意識が集まっていくことは大事。
山本:海岸侵食は全国的には、大きく以下の2つに分けてみていく必要がある。川にダムなどを作ると土砂が海に入らなくなり、あるいは大規模な漁港をつくると岸に沿った潮の流れが遮断されて砂浜が痩せ細ってしまうことがあること。そしてもう一つが温暖化の影響。南極の氷が溶けて海面が上昇するとよく言われるが、実は海水自体も熱膨張で体積が増えて海面水位が上昇していく。
イヴォーン:最後に参加者へ、温暖化・酸性化を少しでも減らすために私たちができることについて提案を。
山本:日本の海の幸を積極的に生活に取り入れていくことで、海の環境がどう変わってきているかということを自分ごととして捉えることができる。そうやって多くの人が海の環境に関心を持ち続けられるようになったらいいと思う。
中村:私たちの生活が最終的に海を痛めつけていたのではないかということがよくわかった。海の幸をいただいて地元の良さに気がつく機会、学習や産地の皆さんと触れ合う機会を大事にしたい。
荒川:水の中は簡単には見られないが、最近は研究が進み、面白い生態系のメカニズムもわかってきた。そう言ったことをわかりやすく発信して行き、楽しいということもわかってもらいながら、問題も考えていただけるような研究者になっていきたい。
最後に、国連大学OUIK 所長の渡辺綱男から、「このセミナーをきっかけにSDG14『海の豊かさを守ろう』の実現に向けて、さまざまな取り組みがいろいろな場所で生み出されていったらいいなと願っています」と挨拶があり、セミナーは終了しました。海洋の温暖化・酸性化の状況や原因、そして対応方法としての緩和策と適応策と幅広く学び、まずは身近なところで出来る第一歩について考えることがができる機会になりました。
セミナーの動画もこちらから試聴いただけますので、是非ご確認ください!
2022年10月12日
2022年10月1日に七尾市内でスマホアプリ「バイオーム」を使った生きもの調査が「ななおSDGsスイッチ!」の主催で、北陸電力(株)、(株)バイオーム、能登GIAHS推進協議会、七尾市たかしな地区活性化協議会が共催する形で、実施されました。
国連大学も能登GIAHS推進協議会の活動を支援しており、同協議会内の能登GIAHS生物多様性ワーキンググループのメンバーが企画段階から支援を行い、イベント当日はワーキンググループの専門家メンバーである野村進也さん(いしかわ自然学校インストラクター)が講師を務め、現地では他のワーキンググループのメンバー、国連大学の小山明子研究員、木下靖子さん・岸岡智也さん(金沢大学)も活動をサポートしました。
当日は、天候にも恵まれ、雲一つない青空の下、80名の参加者と、30名の関係者が集まりました。
主催者の方、そして地域の代表の方からの挨拶の後、小山研究員からアプリの使い方と生き物調査の流れ、そして10月末までに能登エリアで10種の生き物を見つけるという事がバイオームのクエストとして今回設定されていることなどの説明を行いました。
次に、野村さんから今日見つかりそうな生き物や、注意すべき生き物、対処方法などの説明がありました。蜂や蛇を見つけた時にどうするのか、というクイズ形式の質問に大人も迷う場面もあり、野外活動の基礎知識として大切な事が共有されました。
いよいよ二つのグループに分かれて生き物採集スタートです。1つ目のグループはまずグラウンド脇の水路とその周辺で生き物を探し、もう一つのグループは集落の田んぼの横の水路とその周辺で生き物を探しました。

何かいるかな?真剣な様子

トンボを捕まえるぞ!

レアな生き物いるかな?
途中で2つのグループで場所を交代して、最後にグラウンドに戻ったら、それぞれの場所で集まった生き物を同じような生き物ごとに分ける時間です。動きの速い生き物に戸惑いながらも、少しずつコツをつかんで子供たちも自分で上手に分けていました。準備ができたら早速アプリでそれぞれ投稿してみました。正しくAI判定されたかな?

アプリで投稿してみよう!
最後に野村さんから見つかった生き物について解説をしてもらいました。水路ではメダカやドジョウ、エビ、カエル、水生昆虫、貝類など、色んな生き物が見つかっていました。そしてトンボやバッタなどの昆虫だけでなく、カナヘビなんかも見つかっていました。生き物達にとって、田んぼの環境は少しずつ変わってきてしまってきてはいるというお話しもありましたが、それでもこれだけ沢山の生き物がまだこの辺りにいるということが分かって良かったです。

生き物の解説

赤とんぼ

ケースの中で脱皮までしていたカナヘビ

ドジョウ
そして、最後には参加してくださった皆さまに、生物多様性ワーキンググループで選んだ能登の里山里海の様子を知るのに重要な生き物を紹介する下敷きが参加特典として配布され、10月末までに特にこれらの生き物をバイオームで報告して欲しいという事が伝えられました。
何よりも、子供だけでなく、参加したお父さんお母さんも心から楽しんで生き物を探し・観察している様子が印象的でした!このイベントをきっかけに、生き物や自然に興味を持ってくれる子供や大人が1人でも増えたら嬉しい限りです。クエスト期間は10月いっぱい続きますので、ぜひぜひ生き物の情報を投稿してもらえたらと思います。
生物多様性ワーキンググループの教材などについては、ワーキンググループのホームページもぜひご覧ください。
2021年03月15日
金沢SDGsでは、持続可能な金沢を実現するための大切な5つの方向性を導き出しました。その4番に「誰もが生涯にわたって、学び活躍できる社会風土をつくる」を位置づけています。そのためには、まずは多様な人が働ける労働環境が大切です。
では、現在、障害のある方は“個人の強み”を生かして活躍できているのでしょうか?
16回目となるSDGsカフェでは、視覚障害(ロービジョン)当事者の林由美子さんにその実情と、2030年の金沢をIMAGINEしてもらい、また、多様な人の就労や学習の支援を行っているヴィスト株式会社の奥山純一さんにはアイデア提供をしてもらいました。
すべての人や企業にとっての“働き方ってなんだろう”を見つめ直す、特別な機会となったことと思います。
20年続けた仕事ができなくなる!
金沢ミライシナリオ「シナリオ4」では「働きがいも、生きがいも得られるまち」にしようという中で、「視覚障害者フレンドリーなまちにする」「働きたい意欲のある“ヒト”に合わせた就労を支援する」という項目があります。では、現在はどうなのか? 「『あうわ』視覚障害者の働くを考える会」の代表で、自らも弱視(ロービジョン)の林由美子さんに紹介してもらいました(以下要約・再編集しています)。
IT企業で約20年間SEをしていましたが、14年前に物が見えにくくなり、上司に相談すると自己都合退職を促されました。当時は中学生だった娘がいるひとり親世帯だったため、仕事を辞めるわけにもいかず、自己都合退職を断り、身体障害者手帳を取得。他部署へ異動となって、慣れない仕事とフォロー無しの環境に無理が重なり、見えにくさも進み、体の不調も伴うようになって休職しました。
他に自分にできる仕事がないかと、石川県障害者職業能力開発校に問い合わせたりしましたが、視覚障害者の仕事は見つからず、2008年に石川県立盲学校に入学を決めて、はり師、きゅう師、あん摩マッサージ指圧師の国家資格を取得しました。通っている3年間の生活をどうしたらいいかという不安がありましたが、盲学校に行く以外の選択肢は見つけられませんでした。
盲学校で保護者向けの進路を考える会に出席する機会を得て、そこで実は前職のSEが視覚障害者の職域の一つであることを初めて知り、驚愕します。これをもっと前に知っていたら、会社を辞めなくても良かったのではないかと非常に残念に思い、その時の気持ちが今の活動の原動力になっています。
また、在学中に、石川県視覚障害者情報文化センターを知り、白杖や拡大読書器など、生活の助けとなる補助具のことも知り、それまでは、そのような情報も得ることができませんでした。
卒業して資格も取得しましたが仕事がなく、自営を視野に入れて臨床研修生として学びます。SEを辞めざるを得なかったことはとても残念でしたが、自分で進んだ道なので自立に向けて頑張り、2012年に、「レディース鍼灸院 織歩(おり〜ぶ)」の開業にこぎつけました。そこから生活・仕事とも自立して行けるまで、さらに3年ほど。見えにくくなってからトータルで9年ほどかかってようやく自立できました。
鍼灸院を営むかたわらで、2017年には「『あうわ』視覚障害者の働くを考える会」を立ち上げて、障害者に限らず、みんなでいきいき活躍できる社会を目標に活動しています。
そもそも視覚障害者とは? どんな仕事ができるの?
身体障害者福祉法で視覚障害者は「視覚に障害があること」と定義されています。見る力に障害のある「視力障害」と、見える範囲に障害がある「視野障害」に大きく分けられます。
また、視覚障害には光を感じない全盲と、見えづらい状態の弱視(ロービジョン)に分けられ、視野障害には、狭窄、欠損、暗点などがあります。
視覚障害者は全国に30万人ほどいて、中途で視覚障害になる人は高齢になるほど多いという特徴があります。障害者手帳を取得していないロービジョンはその3倍くらいいると言われ、中途でなっても手帳を取得しておらず、福祉サービスにつながっていない問題もあります。
視覚障害者の仕事としては、鍼灸マッサージ以外だと企業のヘルスキーパーや学校の先生、公務員、音楽家、IT分野などが挙げられますが、石川県にはほとんどいません。
紹介したものは、「中途視覚障害者が盲学校理療科に進み、仕事に結びついた大成功の事例」である一方、「視覚障害者の職域でもあるIT企業を辞めざるを得なかったものすごく残念な事例」でもあります。視覚障害者の職域である仕事をなぜやめざるを得なかったのでしょうか? それは、ITが視覚障害者の職域であることを知ることができなかったことに他なりません。問題は多岐にわたり、視覚障害者の社会参画や就労に関する必要な支援が理解されないまま取り残されています。
独立法人高齢・障害・求職者雇用支援機構の「障害者雇用マニュアルコミック版」では在職中に視覚障害者になった人が、これまでのキャリアを生かして雇用が継続されるという事例が、マンガで掲載されています。国レベルではできると言っていますが、現実にできていません。これを実現することをこれからの人生の目標にして、「あうわ」の活動を始めました。
我が国における視覚障害者の就労状況
視覚障害者就労に関する課題はいっぱいありますが、その中でも、金沢市・石川県の課題を押さえておきます。
・視覚障害者の就労がわかる就労支援者(ジョブコーチなど)がいない
・理療(盲学校)以外の職業訓練が受けられる場所がない。職業訓練を受けられないから企業につながるのも難しい
・中途のロービジョンの対応がほとんどできていない。視覚リハビリテーションがうまくいっていない。
・ロービジョンケアを扱う眼科が著しく少ない。
以上の4つですが、これは地域格差もとても大きく、石川県は何十年も遅れている気がします。また、医療、教育、労働、福祉などのプロがこの問題に気付いていないことや、当事者もほとんど知りません。視覚障害者就労に対して地域全体で考え合い支援可能な土壌づくりが求められています。
活動をやっていても大きな変化はなく、活動のモチベーションを保つのは大変でしたが、2021年1月に大きな変化がやってきました。それは、東京・四谷にある日本視覚障害者職能開発センターが、全国に向けてオンライン職業訓練を始めたこと。すぐに手を挙げ、OA基礎コース(音声の読み上げソフトを使ってパソコンを使う訓練)の第一号として、受講を始めました。石川県内では受けることができなかった職業訓練が受けられるようになることは大きな進歩です。
働く場所が欲しい、選びたい、技術も習得したい……それが、なかなか叶いません。働きたいという思いを仕事に結びつけていくことを大事にしているのが私たちの活動。仕事は生活の糧ですが、生きがいや幸せにも通じます。施しを受けるだけの人生は辛いもの。そして、視覚障害の子どもたちが夢を描くことができる、未来の仕事へもつなげたいと強く思います。
障害の有無に関わらず、どんな人でも生きやすい社会になっていったらいいなと思っています。視覚障害は年齢が高くなるほど中途でなる人が多く、今後は近視の強い視覚障害になる人が増えるとも言われています。みなさんが自分ごととしてそんな社会を考えて、実現できたらいいと考えています。
働きたいのに働けない人たちを支援
続いて、奥山純一さんからは、ご自身の起業の経緯と、障害者就労支援の現状について紹介していただきました(以下要約・再編集しています)。
人材紹介会社に入社し、金沢支社の配属となりましたが、その時に障害者の就労先が極めて少なく、また他に紹介できる機関がないという現実を知りました。同時に母親が難病を患い、精神疾患も併発させ、仕事に復帰できずにいるのを身近で見ていましたので、それらののことがつながって起業する決意をしました。2012年に、障害のある人の働く希望をつくることを目的に、ヴィスト株式会社を設立しました。就労支援サービスを石川県を皮切りに、富山県、神奈川県へと展開。さらに、早期キャリア教育のための小中高向けの「放課後等デイサービス」や、未就学児を対象とした児童発達支援事業も始めて、多岐にわたって進めています。グループ会社では働くことに障害を感じる人を対象にした人材紹介事業も行っています。
環境や視点を少し工夫することで働きやすくなりことはたくさんあります。そして、働きづらさを感じなくなった時、働く上での障害はなくなります。障害には自分で解決すべき「個人モデル」と、社会全体でそれを解消していく「社会モデル」があり、例えば、段差をなくせば車椅子でも移動ができるようになるなど、社会の環境側を変えることで障害が解消されることもいっぱいあります。
福祉事業と一般の企業と、あるいは教育の分野、医療の分野との連携がうまくいっていないことが課題だと感じています。
山積みになった問題を解決するには
続いて、国連大学IAS OUIKの永井事務局長が加わり、参加者や永井からの質問に答えつつ、3人でのトークセッションへ(以下、ダイジェストで紹介します/敬称略)。
質問:林さんは視覚障害者の職域を広げると言っていたが、それは他地域では仕事ができるが、石川県では受け入れてもらえないということ?
回答:「企業側も自社の仕事をして欲しいと思っていて、企業に役立つ人材を送りださない限りは採用してもらえない。石川県ではその訓練を受ける場所がないから、新たな職域の人材が増えない」(林)。
質問:物事を福祉で捉えたらその中で完結し、それは教育や就労でも同じような状況をどう思うか?
回答:「福祉事業所と企業をマッチングする場を作ろうという企画はあるが企業の参加が少ない。しかし、聞けば企業側がそのことを知らない事実がある。企業側も障害者雇用の比率が上がることなど、どうすればいいか困っているのでニーズはある。両者をつなげるような役割を果たす仕組みが必要だと思う」(奥山)。
質問:それはどこがコーディネーションすればうまくいくか?
回答:「一事業所ではできる事は限られるので、地域のそういったことをやっていきたい仲間、企業も教育も福祉もみんな関わっているようなゆるい場ができればいいと思う」(奥山)。「金沢SDGs IMAGINE KANAZAWA 2030のプラットホームを利用して、方向性4の発展版みたいな感じでやれたらいいと思う」(永井)。
質問:視覚障害の就労支援は他の障害者より少ないか?
回答:「私たちのところの実績としては少ないのは間違いない。実は『受け入れてもらえないのではないか?』『受け入れられないのではないか?』と双方が思い込んでいるだけで、お互いが理解し合える場があれば変わるのかもしれない」(奥山)。
質問:新型コロナウイルス感染症拡大の影響はあるか?
回答:「ハローワークの障害者雇用の就職件数は下がっている一方で、コロナ禍で一気にICT化が進み、在宅就労の可能性が広がると思える。東京の仕事を石川県で行うこともあり得る」(奥山)。「石川県では鍼灸あんまマッサージの人が圧倒的に多く、訪問で仕事をしている人にはかなり影響がある。一方、県外で違う職種の人に聞くと、在宅勤務で移動をしなくて済むようになってすごくいいという話も聞く(視覚障害者は移動をするのも大変)」(林)。
質問:障害を持った人を一つの個性として捉えて、企業にその立場からアドバイスするビジネスモデルは成り立たないか?
回答:「カウンセリングだったり、ユニバーサルデザインに取り組んでいる人もいそう」(奥山)。「いろんな人が住みやすい街づくりをするデザイナーみたいな人。行政はそこに協力を要請する。そういう人はいると思っていたが、実はそんなにいないらしい」(林)。
最後に、この先に向けて想いを
「当事者として仕事をしながらなので、自分はなかなか動けないのですが、みなさんにこうやって助けてもらって、一歩一歩ちっちゃいことを積み上げて、さらに知ってもらいながら自分も行動できたらいいなと思っています」(林)
「自分たちだけだとできることは限られるが、枠組みを越えてつながることでできることの枠組みも広がっていきます。お互いがお互いの垣根を越え合うということを地域でやって、それが文化として根付いていけそうな気がしています。それを私も取り組んでいきたいと思いますし、みなさんも一緒に取り組んでいただけたらと願っています」(奥山)
「お互い一人一人が垣根を飛び越えて、またぜひ、このような場でやっていけたらいいなと思っています」と永井が述べて、SDGsカフェ#16は終了しました。
セミナーの動画もこちらから試聴いただけます。
2022年09月29日
2022年8月28日に、「のと海洋ふれあいセンター」に協力頂き、能登の里山と里海、そしてそれをつなぐ川や沿岸域の役割などについて学び考える「勉強会」と、里山と里海をつなぐ代表的な生き物であるアカテガ二の産卵の「観察会」を開催しました。
里山川海のつながりやアカテガ二に関心がある地域の研究者や教育・自然体験に携わっている方など15名の方が現地で参加しました。
里山と里海のつながりをもっと良いものにしていくには?

国連大学IAS OUIK所長 渡辺綱男
まずは、国連大学OUIK所長の渡辺綱男から勉強会開催に当たって挨拶がありました。「生物多様性国際条約の今後10年の目標が議論されている中、自然をもっとよい状態に回復させていく『ネイチャー・ポジティブ』が注目をあびています。アカテガニの観察を通して、能登の里山と川と海のつながりをもっとよいものにしていくことを考えるきっかけとなれば」と述べました。そして、北海道の知床半島と釧路湿原を事例に、地域で目指す姿を共有して、一丸となって活動し、少しずつ実現していくことの大切さについて触れました。
能登半島における₋里山と里海のつながり

石川県立大学特任教授 柳井清治氏
続いて、石川県立大学の柳井清治先生から、能登半島の里山と里海のつながりについてアカテガニの生態を事例に講義いただきました。アカテガニは特徴的な生活史を持っています。冬から春にかけて土の中で冬眠し、20度を超える夏から秋にかけて陸上で活動し、水中で脱皮、ふ化したばかりの幼生(ゾエア)を海に放つ、という陸と海を行き来する生活を送っています。また、河口沿岸域では、放たれたゾエアがたくさんの魚の餌となり、水域の生態系を支えていることが分かっています。
その後、ゾエアは海で成長し陸上に戻ってきますが、隠れ家として水際に植物が存在する場所が必要となります。しかし、堤防などで森と海が分断され、良好な生息場が消滅していることなどから、能登半島でも生息数が減少しているそうです。最後に、森のエネルギーを海へと運搬するアカテガニが住める環境を整えることは、生態系回復につながる重要な方向性の一つとなるではないかとお話をいただきました。
ヤツメウナギで考える海と川と色んなつながり

のと海洋ふれあいセンター 荒川裕亮氏
次に、のと海洋ふれあいセンターの荒川裕亮さんから、ヤツメウナギの生態を事例としたに、海、川、山のつながりについてご紹介いただきました。ヤツメウナギの一種であるカワヤツメは、川で産卵し、川で成長したのちに、海を回遊して、また川に戻ってくるというサケと同じ遡河回遊性の生活史を持っています。カワヤツメは環境を良くする「エコロジカルエンジニア」としての役割も担っていて、幼生時には土の中に潜り、低酸素状態の土の状態を良くすることに貢献しているよそうです。また、川を遡上し川で息絶えることで、海の栄養を川と森へ運ぶ役割も担っています。
しかし、堰堤などの構造物が障害となって川をを遡上できないことも一因となり、能登半島でもかつては栄えたカワヤツメの漁業文化が衰退しています。またヤリタナゴやカワシンジュガイなどのヤツメウナギに依存した種も減少しているとのことでした。最後に、カワヤツメのような種に着目して、生物間のつながりや人とのつながりを学び、それを起点に、地域で目指すべきゴールや問題を考えていくのは有効なのではないかと提言いただきました。
自然と人のより良い関係づくりを目指して

TABITAIKENネット 越石あきこ氏
最後に、TABITAIKENネットの自然体験コーディネーターである越石あきこさんから、自然と人とのより良い関係づくりのための自然体験活動の事例を紹介いただきました。遠洋漁業のまちで育った越石さんは、高校生の時の教師の「漁師が海を汚している」という言葉に衝撃を覚えたそうです。そして、金子みすゞの詩「大漁」に出会い、生き物はすべて他の生き物に支えられて生きていることを忘れてはいけないと思いながら活動しているそうです。
2000年にアカテガニの神秘的な生態を知り、参加者にも紹介したいと思い、観察会を企画。自然の中で生き物の時間を感じる、参加者と感動とや発見する喜びを分かち合いたいと考え、それ以来、観察会を継続しているそうです。また、「いしかわ自然学校」では自然体験の企画運営が出来る人材の育成者として、体験学習の手法に基づき、体験したことを振り返り、気づきや学びを深める体験活動を指導してきました。同時に、安全管理の観点から海での体験活動が少なかった状況下でため、のと海洋ふれあいセンターと協力して、海での体験活動を増やしてきたそうです。
越石さんは、今後は、教育分野を観光と交えて、楽しく体験できるツアーを広げていきたいと考えているそうです。そんな中で、今年8月、のと海洋ふれあいセンターとの協力しで、アカテガニ観察のモニターツアーも実施しました。命の神秘さや食物網を学び、また元漁業者の森の手入れの話を聞いて、森と海のつながりを実感できる体験を提供できるよう努めています。参加者からは、自然は全部繋がっていて色々なところが連携して関わり合い成り立っている、能登の魅力を再発見したなどの好評を得たそうです。知的好奇心を満たす質の高い体験を提供していくために、いろいろな方と協力しながら今後も続けていきたいとお話しがありされていました。
ワークショップで意見交換
3つのグループに分かれて、講義で聞いた内容や自らの経験などを踏まえて「里山川海のつながりを回復するには?」というテーマで、話し合いをしました。まず、今どんな課題があるのか意見を出し合い、そしてそれらの課題を解決していくためのアイデアを出し合いました。

課題は?解決策は?それぞれの考えを共有
各グループでの話し合いの後には、出てきた意見をまとめ、全体で発表してもらいました。
課題としては、人工的な構造物が作られた目的や機能がよく分からない、つながりについて学ぶ機会が少ない、地域の食文化が失われつつある、問題意識を持っている人が少ない、などが挙げられました。
そして、解決策としては、「遊び場を復活させる」、「ワークショップやイベント、体験活動の場をつくる」、「すでに関連する取組を頑張っているところを応援する」、「年配の人の知恵から学ぶ」、「そもそもなぜ現在の森林や河川の状況になったのか理由を明らかにして、共通の理解をもつ」、などなど、すでに現場でさまざまな活動に関わっている方が多く参加してくださったからこそのアイデアが沢山出ました。発表の中で、今日をスタートとして、能登の里山川海のつながりを考える取組が今後も続くとよいですね、という話も出ました。

グループ発表
能登の里山川海の魅力、課題、そしてその背景を学び、解決策を考える場づくり、そしてより多くの人に伝えていく工夫というのが求められている気がします。今後も関係機関や今回参加してくださったような地域の方々と協力し、そのような取組を進めていけたらと思います。
アカテガ二の産卵観察
日が暮れて当たりが暗くなってきた頃、一同は海辺へ向かいました。満月のこの日はアカテガニが、森から海へ移動し産卵するタイミングです。アカテガニは7月〜9月の大潮・満月の頃に多く 産卵するので、この回が今年最後の観察のチャンスかもしれません。目的地へ向かう途中から、道にはたくさんのアカテガニが発見されました。お腹に卵をたくさん抱えたメス、大きな体のオス、道路を渡って反対側の海へ向かっています。

海へと移動中のメス

お腹には沢山の卵が!

真っ赤な大きなハサミを持つオス
船乗り場へ続く芝生の上にもたくさんのアカテガニがいました。ライトを当てられると一瞬止まったり、また動き出したり、ゆっくりと慎重に水辺へ向かっています。
水中で放仔し、幼生(ゾエア)が水の中を漂う場面も観察することができました。
柳井先生曰く、この日産卵したアカテガニはいつもよりは少なかったとのことです。それでも多くのアカテガニを観察でき、一同、大満足の観察会となりました。

放仔するメスと放たれた幼生(ゾエア)(写真提供:岸岡智也)

生き物との出会いを楽しみ、共有する
参加者からは「また是非参加したい。里海と里山のつながりがよく理解できたし、アカテガニが住みやすい環境を作ることは能登に住む人々の暮らしにもメリットがある」など、意見をいただきました。
2021年02月15日
今回の「能登の里海セミナー」では、SDG14の10個のターゲット(目標)から、持続可能な水産資源管理の取り組みに関するSDG14.4と14.6について勉強し、水産の研究、流通、生産と立場の違う3人に、石川県の豊かな水産物と漁業の魅力を語っていただき、これからの水産資源の維持について考えました。
海の世界共通語となったSDG14を知る
まずは国連大学OUIK研究員のイヴォーン・ユーが、SDG14.4「持続可能な漁業」とSDG 14.6「過剰漁業につながる漁業補助金の禁止」について解説しました。
──「持続可能な漁業」(14.4)とは、乱獲や違法な漁業はやめて、科学的に管理を行い、持続的生産量レベルまで回復させるのが目標。また、「過剰漁業につながる漁業補助金の禁止」(14.6)は主に途上国の話となるが、過剰な捕獲につながるような補助金をやめようという規制のこと。
この2つは日本には該当しないように思われますが、そもそもこの2つターゲットができた大前提には水産資源の緊迫があり、持続可能ではないやり方をやめ、もう少し良い制度を導入していこうというのが目的です。それを受け、日本ならではの水産資源の持続可能な管理の仕組みを生み出さないといけないと思っています。
世界の水産資源の利用状況を見ると、獲り過ぎか最大限まで利用されている水産資源が94%を占めていて、利用する余地があるものはわずか6%しかありません。
世界の捕獲漁業と養殖生産の推移を見ると、捕獲漁業は1990年代以降は横ばいで、養殖漁業がその頃から増え続けています。世界の魚の利用と消費を見ると、年々消費量は増えていて、これは人口の増加と比べても急増しています。
魚を主な動物たんぱく質源としている人は世界中で約30億人、約4割を占めています。また、世界で漁業と関わる仕事をしている人は約12%いて、そのうちの90%が小規模漁師であり、その半数が女性です。また、40%の水産物が沿岸の小規模漁師が獲ったもの。つまり、里海で小規模漁師が獲ったものと言い換えることができます。
水産資源の管理を考えたときに、海の中の資源の維持や管理という話が中心となりますが、それだけでなく、獲り方によっても水産資源の維持につながりますし、獲った後の販売の仕方によっても持続可能に利用されているかどうかということにつながります。さらに、消費者が持続的に食べて行かないと持続可能な管理ができません。これらが一つの環となって循環することで、持続可能な水産資源の管理につながります。──
研究者視点から水産資源の現状と将来を考える
続きまして、基調講義「国内外の持続可能な水産資源の管理について」を、東京大学大学院農学生命科学研究科教授の八木信行さんにお願いしました。
──日本のスーパーで魚の種類や量が減ったと感じる人は多いと思います。それはなぜでしょうか? この10年間で魚の消費量は2割程度減っています。また、流通やスーパーでは扱い品目を限定して効率化を図っていて、そのため仲買人は不人気魚種を買い付けなくなります。供給側の漁業者も買ってくれないから獲りません。また、国内漁業者の減少と資源の減少という事情もあります。ただし、「資源の減少は漁業者の獲りすぎ」と言われることがありますが、必ずしもそうではありません。
日本では天然の漁獲量が1990年台最初をピークに急激に減少しています。たくさん獲れていたマイワシが海の環境変化でいなくなってしまった影響によるものですが、それ以降も徐々に減っているのは漁業者の減少や資源の減少などもあります。
海外でも同様に天然の漁獲量は減少の一途ですが、韓国やイタリアなど、養殖の生産量が増えている国もあります(日本の養殖量はずっと横ばい)。ノルウェーは先進国の中では頑張っている数少ない国で、天然の漁獲量は獲れなくなっているほかに資源管理をしている影響もあって徐々に減少しているものの、養殖が伸びています。
日本では、需要の減退という特殊事情も加わって30年くらい漁獲量が減少し続けていますが、それでも資源は回復していません。漁獲をもっと減らさないといけないという説もありますが、一部の魚種に限ったもので、全体的にはそうではありません。過剰漁獲以外の要因の仮説として、温暖化や埋め立てなどで減少しているというものや、実例として報告されているものに、ネオニコチノイド系農薬で餌の動物プランクトンが減少したことが要因というのもあります。
水揚げなどの作業は人海戦術で行っている国が多く、現場では女性の活躍も目立ちます。こういうことで経済、環境、社会のバランスをとっている側面があります。社会には雇用の安定も重要です。一方、ノルウェーでは大きな船を用いて、オートメーション化により関わる人もわずかです。“雇用を守るのか、経済効率性をあげるのか”、“環境を守るのか、経済効率性をあげるのか”──人の幸せの本質が何かをよく考えた上で、結論を出す必要があります。
欧米では郊外の野生動物などを人間から保護することに熱心に取り組んでいます。この根源には、環境と人間が切り離された存在であることなどがあります。一方、日本の場合は環境と人間が切り離されておらず、里山や里海でつながっているため、環境を守る感覚は欧米とは違います。
世界農業遺産に認定されるメリットはいろいろありますが、その中に、観光の推進というのがあります。観光によって、農畜水産物の単価を高くすることができ、地域経済の活性化につながります。日本ならではの、多様な自然を利用する視点や、物質循環を重視する環境保全、人間組織を重視した保全活動などを世界に発信していくことで、インバウンドなどの獲得が期待できます。──
生産者と消費者を結ぶ流通・加工ができること
引き続き、石川中央魚市株式会社営業戦略室副部長の田丸達之さんより、「石川の水産流通からできる資源管理」と題した活動報告がありました。
──石川県では季節ごとにおいしい魚が水揚げされていますが、消費者にはおいしいだけでは選んでもらえなくなってきています。調理済みのものが好まれるようになり、さらにスーパーやドラッグストアなどでは納品する段階から調理されていないと並べてもらえない時代となりました。そのため私たちのグループ会社では最終加工まで行っています。
本日のテーマとなるSDG14に関する活動として「朝セリ」と「水産エコラベル認証の取得」の話をします。
石川県内の漁港でその日の早朝に水揚げされた鮮魚を集荷して、早朝のセリとは別に2度目のセリ、「朝セリ」を行う事業を2008年からJFいしかわと協同で開始しました。「産地が明確で新鮮な魚をタイムロスなく流通に乗せることができる」、「金沢市中央卸売市場のスケールメリットにより、集まる買い出し人が産地市場よりも多く、魚価の上昇につながって、漁業者に還元できるお金が多くなる」というメリットがあります。
朝セリにかけられる魚の7〜8割は高く買ってもらえる首都圏など県外へ流れているという実情から、朝セリの“地産地消”を推進するために「石川の朝とれもんプロジェクト」というものを2012年にキックオフしました。
朝セリの事業は、SDGsの17のゴールに当てはまるものもいくつかあり、その中でSDG14に合致するものが「定置網漁で獲られた魚が主体」と「海岸線保護活動団体への寄付」です。定置網漁は過剰漁獲に陥りにくく、限りある資源を大切にしてきた先人たちの知恵が詰まったもの。その漁法で獲られた魚を流通していくことはSDG14に大きく貢献。また、石川の朝とれもんのSDGsの目標をラッピングした自動販売機を設置して、その売上の一部をクリーン・ビーチいしかわへ寄付し、海岸線保護の活動に役立ててもらっています。
一方、水産エコラベル制度とは、生態系や資源の持続性に配慮した方法で漁獲・生産された水産品に対して、ラベル表示するものです。その代表的なものとして、イギリスのMSC認証(天然魚が対象)、オランダのASC認証(養殖魚が対象)があり、日本発祥のエコラベルとしては、MEL認証(天然魚・養殖魚も対象)があります。日本発祥のラベルは、日本の多様性に富んだ漁法に則した管理手法となっています。
認証された生産品はマークのついた容器で出荷されますが、出荷先の流通業者や加工業者が認証されているものといないものをまぜて販売してしまうと、エコラベルの意義や取り組んでいる生産者の苦労が水の泡となってしまいます。そこで必要となってくるのが加工業者向けの認証制度です。流通加工(CoC)認証といい、当社は昨年8月に、これを取得しました。日本海側の卸売会社では初で、全国の卸売業者の中でも6番目です。
当社に出荷してくれる漁業者、養殖業者も20団体ほどがMELの認証を取得していて、生産者から卸、加工までの段階は体制が整いました。しかし、その先の販売店ではまだエコラベルの認識が浸透していません。販売店にもこうした取り組みを理解していただき、消費者にはエコラベルのついた商品を選んでもらうという流通が完成すると、SDG14の海の豊かさを守ろうの実践につながります。
こうしたエコラベルのついた商品やフードマイレージの少ない地元産の商品を食べることは、誰でもが参加できる「食べるSDGs」なのです。私たちも今後こうした取り組みをもっと増やして、資源管理や環境保全に貢献していきたいと思っています。──
持続可能な伝統漁法と漁業の将来を語る
能登町定置網漁日の出大敷網元の中田洋助さんと国連大学OUIKのイヴォーン・ユー研究員の対談で、「能登町の伝統的な定置網漁」についての活動報告を行いました。
「祖父と父が定置網漁師でその姿に憧れて育った」という中田さんは定置網漁師になって12年。定置網は魚を一網打尽にしているように思われがちですが、昔から「網に入った魚の3割が取れればいい方だ」と言われているそうです。日の出大敷のスタッフは19人いて、収入はサラリーマンと同じ月給制なので安定しているそうです。
中田さんは海の大切さや豊かさ、面白さを地元の子どもたちなどに伝える里海の出前授業もしています。
「子どもたちに現場の声を聞かせることで、まずは漁師のことを知ってもらい、これをきっかけに好きになってもらったり、漁師になりたいという子には漁師の世界を教えてあげることもできたりします。この町の漁業の未来に種をまくようなことだと思っていて、この活動を大切にしています」(中田さん)
「ずっと海を見ている中で、何か感じることは?」というイヴォーン研究員の問いかけに、「祖父の時代と比べると魚の来る時期が違ってきています。だんだん遅くなってきている傾向があります。一概に温暖化の影響かどうかはわかりませんが、水温の変化が遅れていることは言えます。そのことで魚が来るタイミングも遅れています。また、私個人的には資源が少なくなってきているとも感じています。資源が少ないというか、沿岸に魚が寄ってきません」と中田さん。
毎月14日はお魚サステナブルの日にしよう!
最後は登壇者3名とモデレーターのイヴォーン研究員でパネルディスカッションを行いました(以下敬称略)。
イヴォーン:海の資源が減っていると感じるが、その原因として考えられるものは?
八木:減っている魚種もあるし減っていない魚種もあり、いろいろだと思う。一年しか生きない、イカとかサンマなどはもともと年によって変動が大きい。クロマグロなど長く生きる魚は、年々獲りすぎていると累積でいなくなり、人間の及ぼす影響は大きい。
田丸:朝セリの入荷量を見ている。全体としては少しずつ減ってきているのかなという印象は受ける。魚種によっては獲れる時期もピークも変わって来ていると感じる。昨年は香箱ガニがほとんど獲れず、価格が高騰した。乱獲の影響なのか、海の中の環境が変わってしまったのか? このまま獲れなくなってしまうことを非常に心配している。
イヴォーン:年によって違うから、その年に多く獲れた魚を私たち消費者も食べることにトライすればいい。サンマが少なければイワシを食べてみるとか。さて、エコラベルの認証制度について、今後発展していくかどうか、そして問題点は?
八木:欧米で認証制度が流行っているのはスーパーの力が大きいからで、価格が上がるから漁業者も認証を取ろうと考える。日本の場合、認証品を扱っているスーパーはわずかで、あまり値段が上がらない。産品の値段が上がるようになればいいという気がする。
イヴォーン:漁師の立場から、認証制度に挑戦してみる価値は?
中田:うちはまだ導入していない。今後は考えていきたいが、今の物流の中では、認証制度を受けるメリットがそれほどないというのが正直なところ。
イヴォーン:認証制度に挑戦した理由とは?
田丸:当社がサステナブルな取り組みをしているということも1つある。ESG投資のことも考えている。既存の価値基準にプラスして、今後は持続可能ということが消費者目線からでも価値基準の一つになって行くのではないか、そしてこういった流通も増えていくのではないかという考えと、これを普及させていきたいとの思いから挑戦した。
イヴォーン:それぞれの立場から、持続可能な水産資源管理をするために、ご自分ができることは?
中田:網目の大きさを大きくしてなるべく小さいものは獲らないようにしたり、夏場は休漁時期を設けたりしている。沖に流れているゴミもできるだけ拾って持って帰っている。
田丸:漁業者が取り組んでいる持続可能な漁業を、流通業者の立場からも普及させていきたいと考える。個人的にはSDG14に因み、毎月14日はサステナブルなシーフードを食べてもらう日に定めてもいいのではと思っていて、それを全国に広めていきたい。
八木:14日はお魚サステナブルの日というのはいい! 研究者というのは今起こっている事象を自分の専門分野に絞って深く掘り下げて考えがち。そうなると人によっていうことはバラバラになるので、誰かがまとめて総合して言えるかどうかということがこれからの課題。
イヴォーン:3人から消費者へ、こうすれば海の資源管理にも貢献できるというアドバイスを。
八木:情報に敏感であってほしいと思う。消費者の方でもこういった情報があった方がいいとか、もっと声を上げるといいと思う。
田丸:消費者には、販売店に対してもっと声をあげてほしいと思う。ニーズが上がることで、販売店の意識が変わる。供給側が言っても取り入れてもらえないが、お客さんの声は重要視される。
中田:魚離れが進み、魚の消費が少なくなれば、漁業自体の存続が難しくなっていくので、もっと魚を食べてほしい。家庭でもっと魚を食べる習慣を昔みたいに作ってほしいし、魚は料理方法が限られると思われがちだが、肉と同じようにして料理できるのだから、魚に対してもっと柔軟な発想で料理を楽しみ、魚の消費量を増やしていただきたい。それが漁業者への助けにもなる。
イヴォーン:ステイホームで家にいる時間も増えているので、ぜひいろいろな魚料理にも挑戦していただきたい。
「豊かな水産資源を持続させていくために、私たちは何ができるか、何をしていくべきかとを考えていく上で、とても大事な視点をたくさんいただくことができました。これからは毎月14日は“サステナブルなお魚を食べる日”ということも思い出して、皆さんと一緒に里海のことを考えていきたいです」と、国連大学OUIKの渡辺綱男所長が述べて、セミナーは終了しました。
セミナーの動画もこちらから試聴いただけます。
2022年07月14日
2022/7/1
7月1日金曜日に、国連大学 IAS OUIKは、菊川公民館と共催で金沢市内の幸町、および菊川にて市民参加型のホタル生息調査ツアーを実施しました。昨年も開催されたこのホタル調査イベントはOUIKのフアン研究員が進める、SUNプロジェクト(持続可能な都市自然プロジェクト)の一環として開催しました。鞍月用水沿い、用水付近の庭園を訪れ、都市自然を楽しみつつ、ホタルの生態を調査しました。

はじめに菊川公民館に集まった参加者はOUIKのフアン研究員と津田研究員から金沢の都市自然やそれを利用した持続可能な観光への取り組みについての説明を受けました。フアン研究員は金沢にはグリーンインフラという自然を活用したインフラの仕組みが多く存在すること、それらの一部である用水や庭園を都市自然として、そして文化として保全する必要性、さらに保全に向けた活動を紹介しました。津田研究員は、これらの金沢固有の資源を様々なステークホルダーがパートナーシップを組んで維持管理し、さらに観光業を交えた持続可能な形で保全するための協働モデルについて紹介しました。

その後、金沢ホタルの会会長・石川ホタルの会事務局長の新村光秀さんに「ホタルの不思議」について講義をいただきました。新村さんは金沢市役所にて里山や農業、林業の活性化に関する業務を行う傍ら、ホタルに関する活動を40年近く行なってきたそうです。昭和32年に子供会と協力し「ホタル調査」を開始し、現在に至るまでこの活動は続いています。三十数年間もこのような調査が行われている金沢のケースは珍しいですそうです。
※以下、講義の内容
ホタルの名前の由来について
松明の火の粉や人魂のイメージから命名されたとする説があります。「火」のことを「ほ」と読んでいた時代があり、「ほがたれる」→「ほたる」となりました。そのほか「流れ星」がホタルの名前の由来となったとする説もあります。
ホタルの種類について
世界に2000種もいるホタル、日本には暖かいところを主に50種、石川県には7種生息しています。日本ではホタル=水辺のイメージがありますが、ホタルのほとんどは幼虫の時、土の上で過ごす陸生だそうです。しかし、日本で有名なゲンジホタルとヘイケホタルは幼虫が水の中で過ごす、実はとても珍しい種類のホタルです。
ホタルはみんな光るの?
日本に生息する50種ものホタルで成虫が光るのは4種のみ、さらに卵段階から生涯に渡り光るのはゲンジホタルとヘイケホタルのみです。

ゲンジとヘイケの違いについて
見た目、発生時期、飛び方が異なり、ゲンジのオスの大きさは1.5cm、メスは約2cmにもなる一方、ヘイケは1cm弱です。模様の特徴として背中の模様がゲンジは十時形していてヘイケは縦筋模様をしています。またゲンジ6月上旬、ヘイケは7月中旬から発生します。発生時期は場所によっても異なりますが、温暖化の影響により、全体的に出現の時期が早くなってきています。ゲンジは2秒間隔で光を発しながら飛びます。一方、ヘイケはゲンジより短期的な間隔で光を発し、低空を飛びます。

オス・メスの違い
オスは光りながら飛び回り、メスは一点に留まっています。飛び回るオスに対し、メスが信号を送り、オスがそれを受け入れると結婚に至ります。
ホタルの生息に必要なこと
夜暗いこと、日中日陰となる草木があること、水がきれいであること、石や砂、土があること、エサ(カワニナ)がいることが重要です。
ホタルの生息数の変化について
ゲンジは下水道の整備により、川の水質が改善し生息地点は微増しています。一方、生息エリアの異なるヘイケは耕作放棄地、除草剤の利用の増加により、全国的に生息地が減少しています。金沢市に残る、江戸時代に作られた用水は石積みの用水です。これらには石と石の間に隙間があり、隙間は草が生え、生き物が隠れることができるスペースとなります。これは生き物が生息しやすい環境です。そのため、市内でもホタルが観察できます。
ホタルが住みやすい環境があること、ホタルが住んでいることは都市自然が豊かであるという事。そのため、地域の方々と協力して、ホタルの保護活動を行うことが重要です。
いざ、ホタルを観察へ
講義のあと、一同はホタルマップを手に町内を散策しました。

いつも何も注意せずに歩いている通りでも、目を凝らすとそこには用水があり、ホタルが飛んでいます。こんなに近くに住んでいるのに、今までホタルを見た事はなかった」といった声も多く上がりました。また、ホタルが生息しているのは用水だけではありません。用水の水を引き入れた庭園内の池でもたくさんのホタルを発見することができました。
参加者はそれぞれのホタル観察ポイントで何匹ホタルを発見できたかを調査シートに書き込み、提出して頂きました。
ホタルを通して、夏の夜のせせらぎを楽しみ、金沢の都市自然についても学ぶ、今回のような活動を通して、今後もより多くの人々に、都市自然や生物多様性の重要さを知ってもらいたいと思います。
ホタルの生態や金沢市のホタル生息調査の歴史について詳しくは「金沢ホタルマップ30年のあゆみ」もご参照ください。
2021年02月10日
SDGsの実践には、一人でできること、仲間と進めること、コミュニティで取り組むこと、市全体で広く行うこと、そしてネットで世界中の人とつながりながら進めていくことなど、いろいろな方法が考えられます。金沢でそれを考えた時、地域の学びを担う公民館はとても気になる存在です。
金沢の公民館制度は、実は少し特殊なのです。公民館は小学校の学区に応じて設置され、役員や職員は地域から選出、運営資金も一部地域で負担しています。金沢に住んでいる方にとってはこれが当たり前と思っているかもしれませんが、金沢独特なもので、「金沢方式」とも呼ばれています。
地域事情に明るい職員さんが運営を担っていることは、住民に寄り添った活動の拠点になり得るというメリットがあります。
しかし、地域住民の高齢化、ドーナツ化現象などの人口動態の変化、町内会加入率の低下など、公民館機能を維持する住民側の事情も、近年で大きく変わってきているという実情もあります。
地域にとって、とても頼もしい存在である公民館の役割を見つめ直し、もっと多様な年代や属性の人たちが積極的に利用するようになってくれることを願いつつ、今回のカフェは公民館をテーマに開催。金沢市に張り巡らされた60の公民館が、SDGsの学びのネットワークになる可能性を、皆さんと一緒に探ってみました。
IMAGINE KANAZAWA 2030は次のステージへ!
まずは国連大学サステイナビリティ高等研究所いしかわ・かなざわオペレーティング・ユニット(UNU-IAS OUIK)の永井事務局長から、今までの14回+番外編1のSDGsカフェの紹介と、IMAGINE KANAZAWA 2030の最近の動きについて報告がありました。
2019年4月から始まった金沢SDGs。2020年3月には多くの方に参加していただき、「金沢ミライシナリオ」も完成しています。7月には金沢がSDGs未来都市に認定されて、「持続可能な観光」を進めるというプロジェクトがモデル事業として採択されるなど、2020年はより具体的な一歩を踏み出せた年でした。
「今、IMAGINE KANAZAWA 2030は次の『学びあいのステージ』に来ています。昨年、パートナーズ対象の視察ツアーを実施しましたが、そこでさまざまな学びあいがありましたので、これからもこのような学べる場を持ちながら、いろいろなプロジェクトができたらいいなと思っています」(永井事務局長)
★金沢ミライシナリオはみなさんが2030年をイマジンした結果です。ぜひご覧ください。
◎金沢ミライシナリオ
★IMAGINE KANAZAWA 2030では、一緒に金沢ミライシナリオを実践してくださるパートナーズを募集。個人でも団体・企業でも参加でき、2021年1月現在で100以上が参加しています。
◎IMAGINE KANAZAWA 2030 パートナーズ
さて、学びあうことの重要性を考えた時、「金沢市の公民館の存在には、学びの場として可能性を感じる」と永井は言います。そこで今回は、自ら公民館の可能性にチャレンジを続ける菊川公民館主事の原恵子さんにお願いして、2030年の金沢をIMAGINEしていただきました。また、アイデアを提供してくださったのは、社会教育が専門で公民館を中心にすえたまちづくりに長く携わっている、金沢大学名誉教授の浅野秀重さんです。
金沢の公民館から2030年をイマジン!
菊川公民館では各町会から選出された公民館委員の皆さんに5つの部会に別れて所属していただき、各部会と事務局が協議して一年の事業計画を立てているそうです。その事業計画の中から、人気の「洋風しめ飾り講座」を紹介していただきました。これは、新しい年の到来を祝うとともに、参加者相互の親睦を図ることを目的としている講座で、キャンセル待ちが出るほど人気だそうです。
SDGsの視点から振り返ると、しめ飾りの材料に可燃ゴミと不燃ゴミとなる物が混在していたそうで、左義長で燃やすのに、環境問題を意識していなかったことが、今後のことを踏まえての反省点だと言います。
「講座の全体像を踏まえ、SDGsの視点を加えて企画・立案をすることで改善したい」と原さんは述べ、環境に配慮した材料を使うなど、SDGsの視点を講師にも伝える必要を感じているそうです。
「SDGsの視点から、このような趣味的な講座を見れば、手づくりによる自己の充実感や参加者同士の交流といった当初の目的にとどまらず、講座の意義に「深み」を加えることができる可能性があります。単なる講座が国連が掲げた『持続可能な開発目標』をめざすことにつながります」と原さんは言います。
新しい事業を構築するには大きなエネルギーが必要です。公民館の事業そのものも持続可能でなければなりません。
「背伸びすることなく、今まで実施してきた講座のどこがSDGsと関連づけられるのかを見直してみる。そして、それをねらいに加えた講座の展開を図ってみる。そうすると今までと同じ講座の内容であってもSDGsという意図的な学びが加わり、講座に新しい価値となる深まりが生まれます。その結果として、地域住民へのSDGs意識の普及につながる可能性は、大変大きいと感じています」
次の地域の担い手を育成する「地域安全マップ」づくり
公民館では、通学路や遊び場などを学生の指導のもとフィールドワークで点検し、犯罪が起こりやすい場所を地図に表す「地域安全マップ」づくりを行っています。児童や学生たちが自らの手でマップを作ることにより、危険な場所を避けたり、注意や警戒が必要であることに気がついたり、さらに協働作業によるコミュニケーション能力の育成にもつながります。そして危険箇所があることは、子どもたちだけでなく、一緒に参加した保護者や地域住民との間で共通理解することができます。
このマップづくりは、公民館が主体となって行うことで、子どもや保護者だけでなく、地域全体を巻き込むことができ、安心・安全につながるまちづくりにも大きな成果を残すことができました。安心・安全なまちは、SDGsゴール11(住み続けられるまちづくりを)の達成につながります。
「持続可能なまちづくりの視点から、このマップづくりを考えてみると、持続可能な地域の構築には地域の次の担い手も不可欠だと感じます。地域安全マップづくりに参加した学生や子どもたちが地域づくりの次の担い手になってくれることも期待しています」と原さんは、子どもたちに危機回避能力をつけさせるだけではない、このマップづくり事業に期待を寄せています。
公民館からの発信で、新たな金沢へ!
SDGsのゴールへの近道は、一人ひとりが自分ゴトとして捉え、意識を変えていくことが重要。公民館はダイレクトに地域住民へ働きかけることが可能な学びの場です。学んだことで意識を変え、一人の小さな行動の変化こそが、地域を持続可能なものにつくり変えることができます。このような役割を担うことで、「金沢ミライシナリオ」を協働ですすめるパートナーシップ形成の一因に、公民館もなれると考えているそうです。
「2030年まであと10年。市内の1館でも多くの公民館がこのような視点で取り組みをしていくと、きっと金沢が変わると思います」と述べて、イマジンを終了しました。
公民館は社会教育を担う重要拠点
大人の学びや生涯学習など、社会教育が専門の浅野さんから、公民館活動とSDGsについてアイデア提供がありました。
まずは教育基本法の中で、社会教育が展開される施設の一つとして公民館が位置付けられているという話や、公民館で必要なものは「人(ヒト)」であり、公民館の仕事とは「つどう、まなぶ、むすぶ、そして人づくり・地域づくり」だということ、さらに金沢の公民館の特徴について説明していただきました。
「平成30年の中央教育審議会では、今後の地域における社会教育の在り方として、人づくり、つながりづくり、地域づくりの学びと活動の好循環をつくることを呼びかけています。
要するに『開かれ、つながる社会教育の実現』であり、つまり、公民館も『人に開かれ、人がつながる公民館活動』を展開させようと述べています。これがこれからの社会教育活動を方向づけています」(浅野さん)
SDGsの視点に立った学びを推進する施設をめざす
SDGsの17のゴールと公民館活動とは密接な関係があることは原さんの話でもよくわかりました。「地域が持続可能であるために、そんな視点を講座に持たせることで、見せ方も見え方も変わって来るのではないだろうか」と、さらに浅野さんは言及します。「SDGsを学びましょうという必要はなく、企画の中にSDGsの視点を盛り込むことで、ゴールへ近づける」ということです。
学びとは、「昨日と違った今日の自分、今日と違った明日の自分づくりのための営みのこと。公民館における学びを、社会を創る学びへ」と言う浅野さんは、SDGsのゴール達成へとつながる公民館活動への期待を述べました。
参加者の質問に答えながらディスカッションタイム
永井:「SDGsという新しいことをするのではなく、既存のものに新しい価値づけをするということがなるほどだなと思った」というコメントがありました。お二人のお話を聞き、公民館という歴史があって制度的にも法律的にも裏付けのあるネットワークや仕組みをSDGsで使わない手はないと思っています。
浅野さん:公民館は教育委員会が所管する教育施設です。地域の人からはコミュニティの施設としての認識の方が強いかと思いますが、もっと学びに特化させてもいいかもしれません。
永井:菊川公民館は大学生との協働を行っていますが、民間企業との協働は可能でしょうか?
原さん:やったことはありませんが、興味はあります。周囲でもそのようなことをした話を聞いたことはありませんが、新しい時代の在り方として興味はあります。
永井:公民館活動を進めていくにあたって大きな課題となることは?
浅野さん:自分たちの公民館活動を振り返る時間が必要なことではないでしょうか。PDCAのC(チェック)をしても、振り返る時間がないことから、「来年も同じでいいか」となりがち。そうではなく、次のフェーズを目指せるチェックをして欲しいと思います。そのためには、振り返ったり、整理したりする時間が必要。「次どうする?」という意識を持ち続けていって欲しいです。
原さん:事業をすることが私たちの本来の仕事ですが、それ以外の仕事が年々多くなっていて、疲弊している主事さんも多くいます。いい意味での業務の断捨離を行い、2021年度にはSDGsという付加価値をつけた、いわば新しく生まれ変わったような事業を、私も皆さんと一緒に考えていきたいです。
永井:オンラインでの公民館活動の可能性はありますか?
原さん:今年度の地域安全マップづくりは、「オンラインホワイトボードサービスmiro」というアプリを使って、学生と地域住民を分けて実施しました。
永井:オンラインだけにしてしまうと高齢者が参加しにくくなります。オンラインとリアルをミックスしてやる必要があると思いますが、その分、高いデジタルのスキルが求められますね。だからこそ、大学や企業にサポートしていただくのもいいのかなと思います。
参加者から寄せられましたたくさんの質問を見ても、公民館の役割への期待の大きさを感じました。学びは人生を豊かにするものなので、さっそく自分が住んでいるところの公民館に行ってみようと思っています。最後に、公民館活動はどうしたらもっと多様な人に関わってもらえると思いますか。
原さん:多様な方にどうやったら来てもらえるかを日々考えています。まずは、そういう方々(公民館に足を運ぶ機会がなかった方々)の意見を聞きながら進めていったらいいのかなと感じています。
浅野さん:「公民館ではこんなことをやろうと思っているんだけど、どう思う?」という問いかけを対象としたい人に投げかけてみること。もちろん、そのためにはそういう人たちと向き合う機会を創ることが必要です。これまでもしていたのかもしれませんが、力を貸して欲しい人に、アウトリーチ(届けること)もやっていいのかと感じます。
永井:私自身も足元の公民館をもっと盛り上げていきたいし、どんな活動をしているのか、興味を持って関わっていきたいと思いました。本日参加された皆さんもぜひ、ご自身の地区の公民館の活動に注目して、なんでしたら出向いていただいて、いろいろ働きかけるなど、金沢のまちの大動脈である公民館を、太く太くできたらいいなと思います。
※ウェビナーの途中で参加者に、「自分の住んでいるところの公民館がどこにあるか知っていますか?」というアンケートを取りました。結果は、「知らない」「よく利用している」を退け、「知ってるけどあまり行かない」という答えが過半数でした。
セミナーの動画もこちらから試聴いただけます。