2022年8月28日に、「のと海洋ふれあいセンター」に協力頂き、能登の里山と里海、そしてそれをつなぐ川や沿岸域の役割などについて学び考える「勉強会」と、里山と里海をつなぐ代表的な生き物であるアカテガ二の産卵の「観察会」を開催しました。
里山川海のつながりやアカテガ二に関心がある地域の研究者や教育・自然体験に携わっている方など15名の方が現地で参加しました。
里山と里海のつながりをもっと良いものにしていくには?
まずは、国連大学OUIK所長の渡辺綱男から勉強会開催に当たって挨拶がありました。「生物多様性国際条約の今後10年の目標が議論されている中、自然をもっとよい状態に回復させていく『ネイチャー・ポジティブ』が注目をあびています。アカテガニの観察を通して、能登の里山と川と海のつながりをもっとよいものにしていくことを考えるきっかけとなれば」と述べました。そして、北海道の知床半島と釧路湿原を事例に、地域で目指す姿を共有して、一丸となって活動し、少しずつ実現していくことの大切さについて触れました。
能登半島における₋里山と里海のつながり
続いて、石川県立大学の柳井清治先生から、能登半島の里山と里海のつながりについてアカテガニの生態を事例に講義いただきました。アカテガニは特徴的な生活史を持っています。冬から春にかけて土の中で冬眠し、20度を超える夏から秋にかけて陸上で活動し、水中で脱皮、ふ化したばかりの幼生(ゾエア)を海に放つ、という陸と海を行き来する生活を送っています。また、河口沿岸域では、放たれたゾエアがたくさんの魚の餌となり、水域の生態系を支えていることが分かっています。
その後、ゾエアは海で成長し陸上に戻ってきますが、隠れ家として水際に植物が存在する場所が必要となります。しかし、堤防などで森と海が分断され、良好な生息場が消滅していることなどから、能登半島でも生息数が減少しているそうです。最後に、森のエネルギーを海へと運搬するアカテガニが住める環境を整えることは、生態系回復につながる重要な方向性の一つとなるではないかとお話をいただきました。
ヤツメウナギで考える海と川と色んなつながり
次に、のと海洋ふれあいセンターの荒川裕亮さんから、ヤツメウナギの生態を事例としたに、海、川、山のつながりについてご紹介いただきました。ヤツメウナギの一種であるカワヤツメは、川で産卵し、川で成長したのちに、海を回遊して、また川に戻ってくるというサケと同じ遡河回遊性の生活史を持っています。カワヤツメは環境を良くする「エコロジカルエンジニア」としての役割も担っていて、幼生時には土の中に潜り、低酸素状態の土の状態を良くすることに貢献しているよそうです。また、川を遡上し川で息絶えることで、海の栄養を川と森へ運ぶ役割も担っています。
しかし、堰堤などの構造物が障害となって川をを遡上できないことも一因となり、能登半島でもかつては栄えたカワヤツメの漁業文化が衰退しています。またヤリタナゴやカワシンジュガイなどのヤツメウナギに依存した種も減少しているとのことでした。最後に、カワヤツメのような種に着目して、生物間のつながりや人とのつながりを学び、それを起点に、地域で目指すべきゴールや問題を考えていくのは有効なのではないかと提言いただきました。
自然と人のより良い関係づくりを目指して
最後に、TABITAIKENネットの自然体験コーディネーターである越石あきこさんから、自然と人とのより良い関係づくりのための自然体験活動の事例を紹介いただきました。遠洋漁業のまちで育った越石さんは、高校生の時の教師の「漁師が海を汚している」という言葉に衝撃を覚えたそうです。そして、金子みすゞの詩「大漁」に出会い、生き物はすべて他の生き物に支えられて生きていることを忘れてはいけないと思いながら活動しているそうです。
2000年にアカテガニの神秘的な生態を知り、参加者にも紹介したいと思い、観察会を企画。自然の中で生き物の時間を感じる、参加者と感動とや発見する喜びを分かち合いたいと考え、それ以来、観察会を継続しているそうです。また、「いしかわ自然学校」では自然体験の企画運営が出来る人材の育成者として、体験学習の手法に基づき、体験したことを振り返り、気づきや学びを深める体験活動を指導してきました。同時に、安全管理の観点から海での体験活動が少なかった状況下でため、のと海洋ふれあいセンターと協力して、海での体験活動を増やしてきたそうです。
越石さんは、今後は、教育分野を観光と交えて、楽しく体験できるツアーを広げていきたいと考えているそうです。そんな中で、今年8月、のと海洋ふれあいセンターとの協力しで、アカテガニ観察のモニターツアーも実施しました。命の神秘さや食物網を学び、また元漁業者の森の手入れの話を聞いて、森と海のつながりを実感できる体験を提供できるよう努めています。参加者からは、自然は全部繋がっていて色々なところが連携して関わり合い成り立っている、能登の魅力を再発見したなどの好評を得たそうです。知的好奇心を満たす質の高い体験を提供していくために、いろいろな方と協力しながら今後も続けていきたいとお話しがありされていました。
ワークショップで意見交換
3つのグループに分かれて、講義で聞いた内容や自らの経験などを踏まえて「里山川海のつながりを回復するには?」というテーマで、話し合いをしました。まず、今どんな課題があるのか意見を出し合い、そしてそれらの課題を解決していくためのアイデアを出し合いました。
各グループでの話し合いの後には、出てきた意見をまとめ、全体で発表してもらいました。
課題としては、人工的な構造物が作られた目的や機能がよく分からない、つながりについて学ぶ機会が少ない、地域の食文化が失われつつある、問題意識を持っている人が少ない、などが挙げられました。
そして、解決策としては、「遊び場を復活させる」、「ワークショップやイベント、体験活動の場をつくる」、「すでに関連する取組を頑張っているところを応援する」、「年配の人の知恵から学ぶ」、「そもそもなぜ現在の森林や河川の状況になったのか理由を明らかにして、共通の理解をもつ」、などなど、すでに現場でさまざまな活動に関わっている方が多く参加してくださったからこそのアイデアが沢山出ました。発表の中で、今日をスタートとして、能登の里山川海のつながりを考える取組が今後も続くとよいですね、という話も出ました。
能登の里山川海の魅力、課題、そしてその背景を学び、解決策を考える場づくり、そしてより多くの人に伝えていく工夫というのが求められている気がします。今後も関係機関や今回参加してくださったような地域の方々と協力し、そのような取組を進めていけたらと思います。
アカテガ二の産卵観察
日が暮れて当たりが暗くなってきた頃、一同は海辺へ向かいました。満月のこの日はアカテガニが、森から海へ移動し産卵するタイミングです。アカテガニは7月〜9月の大潮・満月の頃に多く 産卵するので、この回が今年最後の観察のチャンスかもしれません。目的地へ向かう途中から、道にはたくさんのアカテガニが発見されました。お腹に卵をたくさん抱えたメス、大きな体のオス、道路を渡って反対側の海へ向かっています。
船乗り場へ続く芝生の上にもたくさんのアカテガニがいました。ライトを当てられると一瞬止まったり、また動き出したり、ゆっくりと慎重に水辺へ向かっています。
水中で放仔し、幼生(ゾエア)が水の中を漂う場面も観察することができました。
柳井先生曰く、この日産卵したアカテガニはいつもよりは少なかったとのことです。それでも多くのアカテガニを観察でき、一同、大満足の観察会となりました。
参加者からは「また是非参加したい。里海と里山のつながりがよく理解できたし、アカテガニが住みやすい環境を作ることは能登に住む人々の暮らしにもメリットがある」など、意見をいただきました。