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【開催報告】令和2年度第4回能登の里海セミナー「里海の保全から考えるSDG14の達成 -『海洋の温暖化・酸性化』ー」

日時 / Date : 2021/3/27
場所 / Place : オンライン

令和2年度、4回にわたって開催した「能登の里海セミナー」。4回目の今回は、SDG14「海の豊かさを守ろう」の10のターゲットの中から、地球温暖化による海洋温暖化や酸性化削減に関する「SDG14.3」を取り上げました。3名の専門家にご登壇いただき、国内外における近年の海洋の温暖化・酸性化の影響や保全の取り組みを紹介するとともに、地球温暖化の影響を軽減するために私たちができることについて考えました。

 

「SDG14.3」がめざすこと

 環境問題を語るのに、気候変動や生物多様性とテーマは多々ありますが、とても重要な分野の1つが海洋です。あらゆるレベルでの科学的協力の促進などを通じて、海洋酸性化の影響に対処し最小限化するというのが「SDG14.3」。海の温暖化と酸性化は表裏一体の問題ですが、気候変動と温暖化の対処としては「SDG13」があり、「SDG14.3」では海の酸性化にフォーカスしています。
 海はCO2や熱エネルギーを吸収し、地球温暖化を和らげる役割があります。しかしこの数十年の間に大量に吸収していて、今後さらに海水温が上昇し、酸性化が進むと思われています。海がCO2を吸収すると海洋酸性化が起こり、産業革命以前と比較すると26%上昇しています。──以上、国連大学OUIK研究員のイヴォーン・ユーの発表から。

 

基調講義「海の温暖化と生物への影響」

 科学ジャーナリストの山本智之さんに、海で起こっていることや、それが私たちにはどういう意味を持つかということを基調講義していただきました。

サンゴ礁生態系の危機

 2018年に行った沖縄県宮古島沖の巨大サンゴ礁「八重干瀬(やびじ)」の調査で、海底に占める生きたサンゴの面積は10年前と比較して、主に白化現象が原因で約7割減ってしまったことが判明。サンゴは動物の一種ですが、体内には褐虫藻という微小な藻類が共生しています。褐虫藻が光合成で作った栄養をサンゴに与えていますが、高い水温などのストレスが加わると褐虫藻が大幅に減少し、サンゴの骨格が透けて見える「白化現象」が起こります。この状態が長く続くと、サンゴは栄養失調で死んでしまうのです。
 サンゴ礁は多くの生き物が集まる「生物多様性の宝庫」であり、大波から島を守る天然の防波堤にもなります。IPCCの『1.5℃特別報告書』では、世界の平均気温が産業革命前より1.5℃上昇すると、サンゴの生息域の70〜90%が消失。2℃上昇では99%以上が失われると予測されています。

温暖化による気温・海水温の上昇

 世界の平均気温の上昇と同じように、世界の海面水温も100年あたり0.55℃のペースで上昇を続けています。日本では過去100年間で1.14℃も上昇し、世界平均を上回るペースで温暖化が進んでいます。中でも一番上昇ペースが速いのが日本海中部で、1.72℃となっています。今後100年間では、今までの約3倍のスピードで海の温暖化が進むという予測もあります。海の生き物はたった1℃の上昇でもものすごく影響を受けますが、3℃や4℃の上昇は、生物相がガラッと変わってしまうような大きな変化を意味します。

海洋生物への影響と将来予測

 瀬戸内海で春を告げる魚とした親しまれてきた鰆(サワラ)は、温暖化による海水温の上昇が影響して、これまであまり獲れなかった日本海で漁獲量が増加しています。海水温上昇では、サケ、イカナゴ、クロマグロ、ホタテガイ、コンブ類などが激減する可能性があると言われています。最悪の場合はこれらの食材が日本から消える可能性も考えられます。

温暖化と「適応策」

 高い気温により果実への影響も出ています。リンゴの栽培適地は北上する一方、パッションフルーツなど南国系果実の栽培が本州でも増えてきています。温暖化という環境変化にどのように適応していくかという視野で対策を考える「適応策」には、栽培技術による対応、高温耐性品種への植え替え、樹種転換の3つのパターンがありますが、パッションフルーツはこれらの中の樹種転換にあたります。
 また、海産物においても明らかな影響が見られています。「鳴門わかめ」のブランドで知られる徳島県は日本のワカメの生産地の中では南にあるため、温暖化の影響を受けやすく、生産量が減少傾向にあります。現在は最先端技術を用いて、高水温に強い新品種(NT株)の開発に成功。高温に強いことに加えて、成長も早く、食味も従来のものと変わらないため、徳島県で生産される養殖ワカメ全体の2割ほどがこの品種に置き替わっています。

もう一つのCO2問題〜海洋酸性化

 CO2は水に溶けると酸として働きます。人間活動で排出される二酸化炭素の約4分の1を海が吸収していて、海は温暖化のブレーキ役になっていると思われていましたが、CO2をどんどん吸収することで、海自体の化学的な性質が変わってしまいました。海の酸性化が起こると、ウニや貝類、サンゴなど炭酸カルシウムの殻や骨格を作る生き物が、それを作りにくくなってしまいます。世界中の海で今後、さらに酸性化が進行すると予測されており、最も深刻なシナリオでは、今世紀末ではpHが7.8くらいまで低下すると予測されています。

私たちはどう対処するべきか

 大気へのCO2の排出が今のペースで続けば、温暖化と海の酸性化は確実に進みます。国レベルでは、「再生可能エネルギー」の導入を増やしていく取り組みにもっと力を入れるべきではないでしょうか。そして消費者にできることの一つが、食生活における新たな適応策です。例えば海水温の上昇で生息域が北に広がるアイゴという魚を食すること。アイゴはカジメなどの大型海藻を食べるため、磯焼けがさらに拡大することが懸念されています。アイゴを食べる習慣がなかった地域でも食べるようにすれば、沿岸の藻場を守ることができ、一石二鳥となります。

 温暖化と酸性化の解決にはCO2の排出削減の取り組みが不可欠です。それと同時に温暖化した世界の下で生き延びるための適応策も今から先取りして進めていく必要があります。

 

活動紹介 ①「魚の研究からみた里海・里山の温暖化」 

 7年間ヤツメウナギの研究をしている石川県立大学大学院の荒川裕亮さんから、温暖化の事例を絡めて石川県を中心とした海の中の生物の状況を紹介してもらいました。

 温暖化によって、里山では白山の積雪が減ると獣害が拡大し、湧水が減少することでトミヨなど湧水に依存する生物が影響を受けます。また里海では沿岸水温が上昇することから藻場が影響を受けます。藻場は魚にとってゆりかごともいわれ、藻場の減少は水産資源にも影響することが考えられます。
 能登半島には「ボラ待ちやぐら」や「定置網漁」、「カワヤツメ漁」などの伝統的な水産業があり、そこで育まれた「地域の生態学的知識」は生物資源管理に有効で、生物多様性の保全や持続的な資源の利用に活用できるとともに、温暖化・環境改変による水産資源への影響を評価する上でも必要です。

 カワヤツメは遡河回遊性のヤツメウナギの一種です。生活史としては、川で産卵し、川で数年過ごした後に海へ回遊し、再び河川へ戻ってきます。川の中に立ってヤツメウナギを「カンコ」と呼ばれる漁具で引っ掛けて捕まえる漁が、かつては能登半島では春の風物詩でした。昔は漁師が一人でドラム缶1杯のヤツメウナギを捕まえていたそうですが、今では1匹捕まったらいいというくらいに激減しています。能登半島でのカワヤツメの減少は、温暖化による分布域の北上以外にも、遡上を妨げるダム・堰堤など構造物の影響も考えられています。

 

活動紹介 ②「未来にアクション 地球温暖化防止のためにできること」

 続いて、環境カウンセラーの中村早苗さんに、石川県内における地球温暖化の防止・対策・啓発の活動についてお話しいただきました。

 IPCCの『1.5℃特別報告書』では、平均気温上昇を1.5℃以内に抑制するためには、CO2排出量が2030年までに45%削減され、2050年頃には正味ゼロに達する必要があるとしています。日本も2050年「脱炭素社会の実現」を宣言し、企業では2050年までに100%再エネで調達することを目標にする「RE100」への加盟が進んでいます。
 石川県の部門別のCO2排出割合では「民生家庭系CO2排出」が全国平均よりも多くなっています。詳細を見ると自家用車や暖房の割合が多く、電気使用料も多いことも分かります。日本は先進国の中でもフードマイレージが大きく、それは海外から食料を大量に長距離輸送していることを表しています。日本の食料自給率の低下が原因の一つで、食の地産地消は温暖化防止に大きく貢献できます。

 私たちの暮らしは環境に影響を与えてきましたが、毎日の行動を変えることで、未来が変わります。今から行動を起こしましょう。

 

SDG14.3 海洋の温暖化・酸性化の目標達成に私たちのできること

 続いて、参加者やパネリストからの質問にこたえるパネルディスカッションを行いました(以下、要旨・敬称略)。

質問:海洋酸性化といっても、pHでは弱アルカリ性で、それでも貝や甲殻類に酸性の影響はあるのか?
山本:貝や甲殻類は十分にアルカリ度が高い海水で殻を作れるように進化してきたので、急にはそれが変えられない。
質問:能登の千里浜海岸は侵食で一部が車で走れなくなっているが、海岸線を守ることはSDGsのどこのターゲットに入るのか?
イヴォーン:SDG14・5に沿岸域と海洋域と生態系を守るという目標があり、ここに当てはまると思う。千里浜の海岸侵食の原因は陸とのつながりの切断というのが一つの原因にある。
荒川:川の連続性というとヤツメウナギが川を遡上できないということもあるが、土砂や栄養塩が海に流れている量の減少も問題だ。
中村:千里浜の侵食が注目されたのは、千里浜に多くの人が思い出などがあって敏感になったから。みんなが敏感になって、このような問題に意識が集まっていくことは大事。
山本:海岸侵食は全国的には、大きく以下の2つに分けてみていく必要がある。川にダムなどを作ると土砂が海に入らなくなり、あるいは大規模な漁港をつくると岸に沿った潮の流れが遮断されて砂浜が痩せ細ってしまうことがあること。そしてもう一つが温暖化の影響。南極の氷が溶けて海面が上昇するとよく言われるが、実は海水自体も熱膨張で体積が増えて海面水位が上昇していく。
イヴォーン:最後に参加者へ、温暖化・酸性化を少しでも減らすために私たちができることについて提案を。
山本:日本の海の幸を積極的に生活に取り入れていくことで、海の環境がどう変わってきているかということを自分ごととして捉えることができる。そうやって多くの人が海の環境に関心を持ち続けられるようになったらいいと思う。
中村:私たちの生活が最終的に海を痛めつけていたのではないかということがよくわかった。海の幸をいただいて地元の良さに気がつく機会、学習や産地の皆さんと触れ合う機会を大事にしたい。
荒川:水の中は簡単には見られないが、最近は研究が進み、面白い生態系のメカニズムもわかってきた。そう言ったことをわかりやすく発信して行き、楽しいということもわかってもらいながら、問題も考えていただけるような研究者になっていきたい。

 最後に、国連大学OUIK 所長の渡辺綱男から、「このセミナーをきっかけにSDG14『海の豊かさを守ろう』の実現に向けて、さまざまな取り組みがいろいろな場所で生み出されていったらいいなと願っています」と挨拶があり、セミナーは終了しました。海洋の温暖化・酸性化の状況や原因、そして対応方法としての緩和策と適応策と幅広く学び、まずは身近なところで出来る第一歩について考えることがができる機会になりました。

セミナーの動画もこちらから試聴いただけますので、是非ご確認ください!

 

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