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【開催報告】SDGsカフェ#17 金沢発! 経済の地域循環とCO2削減を実現するグリーンボンドのしくみを学ぼう!

日時 / Date : 2021/5/31
場所 / Place : オンライン

2021年度最初となるSDGsカフェは、新しい概念によるお金が流れるしくみ、「グリーンボンド」がテーマ。持続可能な社会を実現するためにはお金の話も重要。これは環境課題を解決しながら経済成長もするという、一石二鳥、一石三鳥ともなりうるものです。
環境課題を解決するグリーンプロジェクトのうち、規模が大きな案件はほとんどが大企業中心となり、地域で実施されても、お金や仕事は地域外に流出するケースが多くなっています。その中で、地域の金融機関、金沢市、地域事業者のパートナーシップにより、金沢市内の体育館の照明LED化事業を債権化し、地域経済の循環までを生み出すプロジェクトが誕生しました。今回はこのプロジェクトを通して、グリーンボンドのしくみを学び、その可能性を話し合います。

グリーンボンドと今回のプロジェクトの概要紹介

 少し専門的な言葉が出てきますので、最初に簡単に説明します。

◆グリーンボンドとは?
企業や地方自治体などが、国内外で行うグリーンプロジェクト(地球温暖化対策や再生可能エネルギー事業など)に要する資金を調達するために発行する債券のこと。ソーシャルボンド、SDGsボンドとも呼ばれ、資金の使い道はその事業に限定されます。

◆金沢市の体育館照明LED化事業とは?
国際条約「水俣条約」で規制されるようになった水銀灯を使用している市内の小中学校などの体育館81カ所約3000灯をLED照明に変えるプロジェクト。このLED化により、電気使用料、CO2排出量、電気料金のいずれも約3分の1に減らすことができる見通し。

◆ESCO事業とは?
顧客(今回の場合は自治体)の光熱水費などの削減を行う事業を民間が請け負って、その経費を削減分でまかなうというもの。

 

民間資金を活用する官民連携事業は2030年の金沢をどう変えるか?

 北陸グリーンボンド代表の澤田浩士さんから、グリーンボンドを始めた経緯や課題などとともに、民間資金を活用する官民連携事業が盛んとなる社会をIMAGINEしていただきました〈以下は澤田さんの発表の要旨〉。

 

──経済産業省が企業の省エネを推進する中で、地方自治体自体の省エネができていないことを踏まえ、平成29年6月から地方自治体に向けて環境改善事業に特化したPPP(官民連携)事業モデルの構築を協議し始めました。ところが、地元の中小企業は専門的な分野には長けていますが総合的なマネジメントができず、大企業が有利となることに気がつきます。その結果、地域の大事な税金が地域外に流出していて、実はこれが高度成長期以降、地方が弱体化した要因の一つになっています。
 私たちは、地域資源(ヒト・モノ・カネ)を最大限活用できる方法を模索するため、環境省に相談に行きました。そこで「グリーンボンドを活用した発行創出モデル事業」があるので、事業スキーム(枠組みを持った計画)を構築して応募しないかと打診されました。平成30年3月には北陸グリーンボンド株式会社を設立。当社と地域事業者、地方自治体、地域金融機関の交差点にはSPC(特別目的会社)を事業ごとに設立し、そこが債券を発行して資金を調達し、対象事業を実施するという事業方式です。

 第一弾事業としては、わかりやすいものからと考えて、民間より遅れているLED化事業から始めることにしました。これが「グリーンボンド発行モデル創出事業」として環境省に採択されました(採択されたのは6つの事業体のみで、地方モデルは北陸グリーンボンドが唯一)。
 そして北陸三県の自治体向けにセミナーを開催するとたくさんの参加があり、試算をすると北陸だけでもLED化は数百億円のマーケットがあることがわかりました。しかし、自治体と実際に話を進めていくと、「お金がないからできない」(その対策として民間資金を活用しようとする提案なのに……)、「今すぐやらなくてもいいのではないか」と言った反応が続出し、最後はいつも「前例がない」と言われ、なかなか話が進みませんでした。
 ところが金沢市が令和2年度に、「体育施設等LED化ESCO事業」を公募し、地元工事店や地元金融機関(北國銀行)と協議して参加表明を行い、9月に事業契約の完了に漕ぎ着けることができました。オール金沢で取り組むこの事業は、内閣府からも「地方創生SDGs官民連携プラットフォーム」官民連携優良事例として評価されました。

 さて、SDGs につながる、官民連携の素晴らしい事例がありますので紹介します。富山県朝日町の笹川地区では水道配管の老朽化により、更新コストの3億円を捻出しないとならない課題がありました。自治体ではなかなか財源が用意できない中、地元の建設会社が地域の川を利用して小水力発電所を作ることを考え、発電で得られる20年間の収益を原資に、金融機関から信託方式で発電所建設費用と水道管の更新費用を借入れ、水道管の更新を実施しました。課題解決コストを環境事業で捻出するという大変興味深い事例です。


 自治体は今、施設の老朽化や自然災害への備え、耐震化など、収益を生まなくてもやらないといけない事業をたくさん抱えています。今までは国からお金をもらうとか、借金をするしかありませんでしたが、再エネや省エネ、畜エネ、その他PPP/PFIと言われる官民連携事業などによって収益を生み、その事業を行うための支払いと課題解決にかかる費用を同時にまかなうことができるかもしれません。そのために必要な資金にグリーンボンドなどの債券を活用する事業がたくさん出てくるのではないかと思っています──

 

金融機関も地域発の官民連携事業を後押し

 金融機関がこのスキームをどのようにして実現するに至ったのか、北國銀行法人ソリューショングループの別所雄紀さんからお話しいただきました〈以下は要旨〉。

 

──厳しい財政の中でバブル期に作られた施設の老朽化の対策が迫られる自治体は、職員数も減っていて、自治体単独で持続可能なまちづくりを行うことは難しくなってきています。今回の金沢市の体育館照明LED化事業では、北陸グリーンボンドから資金調達の相談を受けて一緒に取り組ませていただきました。引き受けた一番の理由は、公共と民間事業者がしっかり連携した事業であったこと。そして、それが地元の企業が主導で行われたことです。LED化事業は今まで行政が個別に対応してきましたが、官民連携でその分野を得意としている民間業者に委託した方が効率も上がり、維持管理の品質も向上します。そして、自治体はしっかりしたサービスが市民に提供されるようにモニタリングするという、官民連携の発想です。
 それに加えて今回素晴らしいと思ったのが、地元の企業が一緒になって企画して、取り組まれていること。事業にかかる費用は自治体から支払われ、それが事業を担う地元の企業の収入となり、そして会社が元気になって行きます。地元の経済が活性化すれば税収が増えて自治体も潤って行きます。このようにお金が地域で循環して地元の経済が持続的に活性化していくという素晴らしい事業モデルであり、地元の金融機関としても積極的に介入していくべきだと考えています。

 北陸地方の自治体は地域ごとにさまざまな悩みを抱えています。自治体の皆さんにはそういった悩みをぜひ地域の人たちと共有して欲しいですし、地域の企業の皆さんには「自分の会社ならこんなことができる」ということをどしどしアピールしてもらえると、さらにこのような話が増えていくと思います。官民がしっかりと対話をしながら、どうすれば地域が良くなるかを一緒に考えていくことができれば、それが持続可能なまちづくりにつながって行きます。
 今回、関係者とは何度も議論を重ね、当行としても「グリーンボンドってなんぞや?」からスタートした初めての取り組みでした。そして、地域の知見やエネルギーを結集していくとなんでもできるような気がしています。ぜひみなさん一緒になって、そこに銀行も入れていただき、地域がどうしたら良くなるかということを考えたいと思っています。

◆今回のプロジェクトのポイントをおさらい
このような大規模な事業は県外の大手事業者が受注することが多かったが、オール金沢で受注できたことで、お金も仕事も地域内での好循環を作ることができた。また、地元の企業が工事を行うことにより、移動などで排出されるCO2の排出量を抑える効果もある。

 

グリーンボンドの可能性について話し合おう

 今回のパートナーシップの一翼を担う自治体を代表して、金沢市環境政策課ゼロカーボンシティ推進室の山田博之室長にもパネリストとして参加してもらい、いただいた質問に答えながら、オンラインパネルディスカッションが始まりました〈以下、ダイジェスト。敬称略〉。

質問:山田さん、グリーンボンドをやってみようと決めた一番の理由とは?
山田:グリーンボンドはプロポーザルの要件ではなかったが、ESCO事業としてご提案いただいたいくつかの中で、こちらはオール金沢でできるということで、地域にお金と仕事が回ることと、温室効果ガスの削減効果が高いということなどから総合的に判断した。また、事業費を平準化できるという面からも、非常に優れたものと考えており、環境以外でもこういった事例をどんどん積み重ねていき、浸透していけばいいと思っている。

質問:金融機関は初めてのことをする場合は慎重になると思うが、今回のグリーンボンドでは不安なことはなかったのか?
別所:公共が関わる案件では、返済の原資は自治体から支払われるので、過度な心配は特段なかった。今回の場合はこの事業に向けた融資となるので、事業の計画についてしっかりとすり合わせを行ったので、リスクの軽減ができたと思う。

質問:グリーンボンドは効果を定量評価できないと厳しいのか?
澤田:グリーンボンドのガイドラインでは数値目標を作って投資家に見せるようになっている。ESG投資では、投資したお金が何%の利回りで戻ってくるかということだけではなく、環境面でどれくらいの効果があったのかが投資家には重要になってくる。今後はこれが財務上の評価にもつながってくる可能性があるため、さらにより多くの数値化できるものが必要になってくると考える。

質問:今回のLED化の場合、電気料金の削減などでお金を生むことがわかるが、例えばそういったことと、お金を生まない事業とを抱き合わせるような考えはあるか?
澤田:今までは自治体では課題一つ一つに対して解決方法を模索していた。それぞれの課にはそれぞれの課題があり、しかしその課題を横の課と連携して解決することは苦手。両方の話を聞いて横断的に俯瞰し、プラスマイナスゼロになるようなビジネスを考えられる立場の人がどうしても必要になる。
山田:発電と村おこしをセットにするような事例は最近全国でも出てきているような気がする。自治体というのは初めてのことになかなか手を出しにくく、そういった事例が積み上がっていけば、さまざまなノウハウができて、いろいろな地域課題の解決方法へとつながっていくと思う。

質問:経費を削減して浮かすことができたお金を使うことが、グリーンボンドの基本的な考え方となるのか?
澤田:資金が必要な場合はその返済原資がどこにあるのかが重要。返済原資を例えば太陽光発電であれば売電収益の確実性や、今回のLED化では電気代や維持管理費削減により実現できた経費削減よって捻出するなど、そのような支払原資を先に考えないと金融機関はなかなか乗りづらいのではないかと思う。

質問:今回のグリーンボンドのスキームを通して、これが2030に向けてどんな風になっていったらいいと思うか?
澤田:グリーンボンドに限らず、さまざまな資金調達方法を使って、地域の課題解決のお手伝いをすることを我々は目指している。
別所:グリーンボンドを活用して、地域を盛り上げていってほしいし、もっと地域のいろいろな事業者が関わってくれると、石川県がより良くなっていくと思う。
山田:今の時代は環境がものすごく価値を持ってきている。このような資金などを活用して、こういった事例を積み重ねていくことで、より良いものが生まれていけばいいなと思う。

 

「グリーンボンドはとても可能性のあるやり方だと感じましたし、これが広がることで、さらにいいアイデアも出てくるのではないかと思います」と、国連大学IAS OUIKの永井事務局長が述べて、SDGsカフェ#17は終了しました。

 

セミナーの動画もこちらから視聴いただけますので、是非ご確認ください!

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