能登GIAHSと生物多様性に係る研究:アーカイブ
2024年11月18日
昨年バクーで開催されたCOP29に先駆け、国連気候変動枠組条約事務局(UNFCCC)がClimate Action 101というポッドキャストシリーズを展開しました。その第2話 Rio Conventions 101 にOUIKの小山研究員がUNU-IASの竹本プログラムヘッドと共に登壇しRio Conventions(リオ3条約)の歴史や気候変動と生物多様性の課題に取り組む上でのユースの可能について議論しました。
小山研究員は昨年発生した能登半島の地震と豪雨災害を例に復興へ向けて政府、地域社会、企業、ユースを含む市民といったマルチステークホルダーが協力し合う重要性についても述べました。
以下より是非、聞いてみてください(英語のみ):
Rio Conventions 101ポッドキャスト
2024年12月20日
令和6年度第2回能登GIAHS生物多様性ワーキンググループ(WG)の会議が、2024年12月12日(木)の午後、七尾市役所で開催されました。会議には、専門家や自治体の担当者、関係機関のメンバーが参加し、能登地域の生物多様性モニタリング活動と今後の方針について活発な議論が行われました。会議は、オンライン参加を含めて27名が出席しました。
まず始めに今年度の状況について共有し合いました。生物多様性のモニタリング活動としては、震災と豪雨の影響により、観察会の実施が危ぶまれましたが、七尾市で4校、志賀町で1団体、珠洲市では9校で18回の観察会が継続して行われました。その他、専門家メンバーからはトキの餌場の調査や、隆起したエリアで生物調査や、海底地形、藻場の調査などを実施していることが報告されました。安全性の懸念や講師のスケジュールにより開催が難しい場合もあったため、観察会に適した安全な場所の把握や講師の確保などの必要性が共有されました。さらに今回ご参加頂いたオブザーバーの方も交えて、今後の連携の可能性について意見交換が行われました。
そして、里山と里海の生き物に関する新しい教材とポスターが完成し、今後地域の小学生や市民との生物多様性のモニタリング活動で使用され、ポスターも今後希望する学校へ配布されることが共有されました。10月初旬に予定されていた町野地区での震災後の調査は、豪雨が発生し中止となりましたが、今後豪雨の影響も含めた調査の実施に向けて、準備を進めていくことが確認されました。
来年度は、5年ごとに改定される世界農業遺産保全計画の最終年度であり、5年に一度の専門委員会の審査や保全計画の見直しに向けて、WGで取り組んでいくべき内容が議論されました。生物多様性のモニタリングの仕組みや体制について今後も議論を深めていく必要があることが確認されました。
会議の最後に、環境省が東北の震災後に立ち上げた「しおかぜ自然環境ログ」の取組が紹介されました。能登地域においても、今後は環境省の取組や学会、地域外の研究者とも連携し、震災や豪雨の影響を把握しながら、地域の復興に向けた協力の可能性を探っていく展望が示されました。 次回のWGは2025年3月に予定されています。
2024年10月31日
震災の影響により、今年度の生き物調査は実施が難しいかと思われまれましたが、2024年10月25日、七尾市立中島小学校の6年生による「里海の生きもの調査」が無事行われました。この調査は七尾市が主催し、能登GIAHS生物多様性ワーキンググループの専門家のメンバーである、のと海洋ふれあいセンターの荒川さんと国連大学の小山研究員が参加し、生き物調査の実施を支援しました。
まず、七尾市農林水産課の小竹さんから挨拶があり、講師の荒川さんから調査方法や注意事項について説明がありました。必要な道具を手に5つの班に分かれて調査がスタートしました。箱眼鏡や網を使って熱心に生き物を探していました。四つん這いになり石段の隙間にいるカニを捕まえようとする児童や、夢中になって腰まで水に浸かってしまう児童もいました。採集時間が終了すると、「え、もう終わり?」と、もっと生き物探しを楽しみたいと名残惜しむ声が上がりました。
続いては、種判別の時間です。捕まえた生き物を海藻と分けて観察しました。ワーキンググループで作成した下敷きや記入シート、新たに完成した副教材も用いながら見つかった生き物を記録していきました。見つかった生き物については荒川さんに解説してもらいました。しただみの仲間は食べられることや、見た目は似ているけれど蓋の形状が異なるスガイという貝がいることなどを学びました。そして、異なる班でそれぞれ見つけたカニを一つのケースに入れて、見比べてみました。イソガニとガザミという異なる種類のカニで、ガザミの一番後ろの脚(第5脚)の形は平たく、泳ぐのに適していることなどを紹介してもらいました。
パッと見たところ何もいないように見える人工的な海岸でも、じっくり探すと様々な生き物がいることが分かりました。震災の影響もあり、子供たちが外に出て生き物と触れ合う機会は減ってしまっていると思いますが、今回の生き物調査で身近な里海の豊かさや面白さを感じてもらえたのではないでしょうか。これからも、自分たちの暮らしと海のつながりをさらに深く学んでいってほしいと思います。秋晴れの空の下、子供たちの輝く笑顔が何よりも印象的でした。
2024年10月28日
2024/10/28
自然環境の保全・管理・再生に関連する日本・韓国・台湾の6学会により構成されているICLEE (International Consortium of Landscape and Ecological Engineering)の設立20周年記念大会(ICLEE2024)が、2024年10月4日‐6日に九州工業大学(福岡県北九州市)で開催され、小山研究員が参加しました。他地域の事例を学び、能登半島地震後に行った研究について共有することを目的に参加しました。
初日にはエクスカーションが行われ、水辺の自然再生の取組が進められているフィールドを訪問しました。
最初の訪問先は、廃棄物処分場に創られた「響灘ビオトープ」です。かつて工業団地となる予定だった埋立地に湿地と草原のビオトープが作られました。海水や重金属などの有害物質が入らないように遮水シートが張られていて、水は自然に降る雨水のみで賄われています。ここでは、人の手で生き物を持ち込むことはせず、自然に任せた結果、30年以上の時を経て、今では800種以上の生物が確認されています。
希少な動植物も多数生息しています。日本でわずか5県にしか生息していないベッコウトンボが1998年にこの場所で確認されたことが、この場所がビオトープとして整備されるきっかけになりました。また、全国で300羽ほどしかいないチュウヒが数羽定着しており、このビオトープで繁殖もしています。さらに、コアジサシやカヤネズミも生息しています。埋立地周辺のフェンス沿いに30年前に鳥が落とした糞からは鳥の好む実がなる植物が発芽し、森が生まれました。そして、湿地の管理や池の工事は、生態系への影響を最小限に抑える工夫がなされてきました。
周囲で進む洋上風力発電所の建設や草原の減少により、今後景観や生態系は変化していくことが予想されますが、この場所は引き続き沢山の生き物にとって重要な場所であり続けていくと思われます。
 埋立地に創られた広大なビオトープ
|
 埋立地のフェンス沿いに鳥が再生した森
|
次に、「遠賀川魚道公園」を訪れました。遠賀川は福岡県北部を流れる一級河川で、北九州市街地に水を供給するために1980年に河口近くに堰(川の水をせき止める構造物)が作られました。魚が移動できるように魚道も設置されたのですが、泳ぐ力の弱い魚が遡上できない形状のもので、河川敷はコンクリートで覆われていました。そこで15年ほど前に河川環境の改良事業が始まり、九州工業大学や地域住民が協力し、ワークショップなどを通じて魚道公園の整備が進められました。
改良された魚道は、緩やかな勾配で淡水と海水をつなぎ、生物が移動できる環境となりました。護岸には生物が隙間を利用できる石垣が用いられ、魚道沿いには鳥や風によって運ばれた種子からセンダンやヤナギなどの木々が成長しました。人工干潟も設置され、カニや貝類が生息しています。緑がよみがえった公園にはサイクリングロードも設置され、地域の子供たちの環境学習の場としても活用されています。
視察中には、ボラの大群が魚道を遡上する姿を見ることができ、生態系が回復している様子が実感できました。遠賀川魚道公園には、生き物も人も集う豊かな水辺環境が創出されていました。
 人と自然を緩やかにつなぐ魚道公園
|
 河口部から魚道を上りはじめたボラの大群
|
最後に、「遠賀川中島」を訪問しました。古墳時代には陸地だった場所で、古墳がいくつもあります。1700年頃に川を掘削する工事によって誕生した広さは約28ヘクタールの中洲です。長い間田畑などに利用されていましたが、1990年に耕作が放棄されました。2008年に自然再生事業が開始し、陸地を掘り下げ、8ヘクタールの湿地環境が復元されました。この再生によって、かつての氾濫原が復活し、モツゴやギンブナといった湿地に生息する魚類が再び見られるようになりました。現在では、1000種以上の生き物が生息し、自然の豊かさを取り戻しています。ただ、放っておくと樹林化しやすいため、5年前から一部で早春に火入れを行うなど、湿地環境を保つための取組も進められています。
この歴史ある中洲には、今はサイクリングロードも設置され、地域の人々にも活用されています。外来種対策や管理をどの様に継続するかなど、課題もありますが、遠賀川流域の湿地は約9割が失われており、湿地に生息する生き物にとって数少ない貴重な環境となっています。
 中洲へ渡る橋
|
 中洲に生まれた池
|
2日目午前中には設立20周年記念シンポジウムが開催され、各構成団体やICLEEの歴代の代表者からこれまでの歩みや今後取り組んでいくべき内容について共有されました。黄砂の問題など、国境を越えた課題に連携して取り組んでいく必要があること、生物多様性の保全策と気候変動対策の連携の重要性、大規模な自然再生プロジェクトを数少なく行うよりも小規模なプロジェクトを数多く実施することの有効性、地方での生態系回復と都市部での生態系に配慮した緑化の重要性などが共有されました。
そして、防災や環境緩和の視点を持ったグリーンインフラの導入や生態系の連続性を意識した取組が、未来の人々の健康と地球の健全性に寄与することなど、長期的な視点で国境を超えて認識すべき重要な点が共有されました。

シンポジウムの様子
2日目の午後から3日目にかけて、ポスター発表と口頭発表が行われました。小山研究員も能登半島地震後に石川県立大学の柳井清治特任教授と共同で実施した七尾市能登島における断水期間中の井戸水の利用に関する調査についてポスター発表を行いました。この調査では、全戸配布でアンケートを実施し、島内でどの程度井戸水が利用され、どの程度重要な役割を果たしていたのかを調べまとめました。

ポスターセッションの様子
気候変動による大雨などの自然災害が増加している中、気候変動対策、生物多様性の保全、インフラ整備、そして地域づくりや健康分野の取り組みなどをそれぞれ進めるのではなく、各分野が連携して相互に作用するアプローチがますます重要になることを改めて実感する場となりました。今後の取組に活かしていく予定です。
2024年08月20日
2024年8月8日から9日、岐阜県で「第8回東アジア農業遺産学会」(ERAHS)が開催され、日中韓から約250名が参加しました。岐阜県の長良川流域は、2015年に「清流長良川の鮎」として世界農業遺産に登録されており、伝統的な漁業や地域文化が今も息づいています。会議では「次世代へ繋ぐ農業遺産~伝統的な農林漁業と文化~」をテーマに、農業遺産の保全や発展についての議論が展開されました。
ERAHSは2013年に設立され、日中韓の農業遺産関係者が毎年集まり、知識を共有し、交流を深める場として機能しています。これまで中国、日本、韓国で交互に会議が行われ、今回で8回目の開催です。
会合では、FAO(国連食糧農業機関)や各国政府の代表者が農業遺産の意義や課題について基調講演を行いました。FAOの遠藤芳英GIAHS事務局長は、農業遺産の保護における今後の課題を熱心に語り、ホセ=マリア・ガルシア=アルバレス=コケ氏はヨーロッパの事例を紹介しました。中国と韓国の農業遺産に関する最新の取り組みも紹介され、農業遺産の保全と活用の重要性が再確認されました。
さらに、会議では9つの分科会が開かれ、農業遺産の次世代継承や地域の活性化、伝統文化の保護、エコツーリズムなど、幅広いテーマについて議論が行われました。各国からの事例紹介もあり、宮城県大崎市が進めるブランド認証や韓国青山島でのクラウドファンディング、中国福州のジャスミン茶ブランドの法的保護など、地域活性化に向けた具体的な取り組みが紹介されました。
国連大学OUIKの小山研究員も石川県と合同で「世界農業遺産「能登の里山里海」復旧・復興の取組み」について発表しました。能登半島地震による農林漁業や伝統産業の被害状況、復旧・復興に向けた支援制度や創造的復興に向けた県や国連大学の取り組みについて紹介しました。

会議後、参加者は長良川の鵜飼や郡上市を訪れ、地域の伝統文化や自然環境に触れる機会を持ちました。鵜飼の実演や船造りの見学、郡上市の伝統工芸に加え、清流長良川あゆパークでの体験も行われました。


今回の会合は、農業遺産の価値を次世代へ継承し、地域の発展にどう活かしていくかを再確認する重要な場となりました。
2024年08月01日
石川県七尾市の石川県立七尾高等学校では、文系クラスと理系クラスの生徒が協力して地域の課題を探り、その解決方法を提案し、地域の未来を考える「融合プロジェクト」が進められてきました。
令和6年1月1日に発生した能登半島地震は、七尾市内でも震度6強を記録し、倒壊家屋の発生、断水の長期化、学校の休校など、地域の高校生の暮らしにも大きな影響を与えました。今年度の3年生は、「能登地震からの復興」をテーマに掲げ、地震がもたらした様々な課題を探究し、30個の提言をまとめました。7月18日に発表会が行われ、国連大学の小山研究員もアドバイザーとして参加してきました。
高校生からの提言には、災害に強い地域づくり、地域の生業の再建、関係人口の拡大など、多岐にわたるアイデアが含まれていました。いくつか具体的にご紹介します。
・能登牛の缶詰づくり:能登牛の認知度向上を目指し、防災にも役立てるための缶詰製品を開発
・「僕のヒーローアカデミア」のイベント企画:人気アニメをテーマにしたイベントを通じて、地域の活性化と観光客誘致を図る。
・非破壊装置を用いた水道管の損傷状況の調査:最新技術を導入して、水道管の損傷を迅速に把握し、早期復旧を支援。
・工芸と食文化のイベント企画:地域の伝統工芸と食文化を組み合わせたイベントを企画し、地域の魅力を発信。
・耐震性アピールのステッカー導入:建物の耐震性を示すステッカーを導入し、観光客に安心感を提供。
・スクールカウンセラーによるメンタルケア:地震による心のケアが必要な生徒に対し、スクールカウンセラーによるサポート体制を強化し、心理的サポートを提供。

発表会の様子
様々な視点での発表がありましたが、その中には東日本大震災後の取り組みから学びを得て検討されたアイデアも多く含まれていました。また、七尾市だけでなく奥能登全体の商品をイベントで販売するなど、能登全体の振興を考えた提案も目立ちました。これらの取り組みは、地域の広域的な発展を目指すものであり、非常に意義深いものでした。さらにアニメの要素やSNSの活用もアイデアに含まれていたりと、高校生ならではの発想も見受けられました。
今回発表された提案には、実際に実現すると良いアイデアが多数含まれていました。しかし3年生はこれから受験勉強に専念するため、提案を自ら実現するのは難しい状況にあります。そのため、後輩にプロジェクトを引き継ぐ仕組みを整えたり、大学生になっても地域と関わり続ける機会を設けたりすることが求められます。
「能登の復興」を進める際、これからの未来を担う高校生など「ユース世代」が能登の未来づくりに継続的に関わっていくことが重要です。また、ユース世代の意見を意思決定の場で反映していくための仕組み作りも必要になってきます。高校生の提言が地域にどのような影響を与えるのか、今後の展開に注目しつつ、国連大学としても継続的にユース世代のサポートを行なっていく予定です。
2024年06月10日
2024年6月1-2日に、小山研究員は東日本大震災後の地域の復興に関する課題や経験を学び、能登半島地震後に行った研究について共有することを目的に、第34回日本景観生態学会(JALE)仙台大会に参加しました。
初日には、口頭発表とポスター発表が行われ、小山研究員は能登半島地震直後からの断水時の井戸水利用に関する実態調査のポスター発表を行いました。この研究は、石川県立大学の柳井清治特任教授と共同で七尾市能登島における地震後の井戸水の利用状況や水質、地質との関係性などを調査しGISで視覚化することで、災害時に備え、地域内の水源確保の重要性についてまとめたものです。
午後に開催された公開シンポジウムでは、東日本大震災後の沿岸地域における砂浜生態系の長期的なモニタリングの取組や、松林の再生プロセス、地域住民と進めてきた海浜植生の回復に向けた取り組みに関する事例発表があり、研究者が復興プロセスへ関わることの重要性や市民参加の取組の価値などを学びました。

ポスター発表
|

パネルディスカッションの様子
|
参加者は翌日、仙台湾岸地域のエクスカーションに参加し、2011年の東日本大震災の津波の被災地や復興プロジェクトが進められている施設などを訪問しました。七北田川河口に広がる蒲生干潟では、貝やカニなど底生動物が豊富で渡り鳥の飛来地として知られてきましたが、2011年の東日本大震災による津波で環境が大きく破壊されました。この干潟を守るため、地域の人々と研究者が国に働きかけ、防潮堤の建設位置を内陸側に移動させることで見直し、湿地帯は守られたそうです。(沿岸の砂浜に沿って作られた運河(貞山運河)は江戸時代から明治にかけて作られたもの)

防潮堤を後退させ保全された沿岸部の湿地と干潟
|

夥しい数の干潟の貝類をのぞき込むみ参加者たち
|

津波から生き残ったクロマツ林と
その下に広がる再生クロマツ林
|

津波で被災した沿岸部に設置された
遊歩道(アート作品)
|

|

ハマボウフウ
|
その後参加者は青森県から福島県までの太平洋沿岸をつなぐ『みちのく潮風トレイル』の施設の一つである、名取トレイルセンターも訪問しました。この1000キロにも及ぶトレイル(歩道)は、東日本大震災後に、環境省、関係自治体、民間団体、地域住民の協働により誕生しました。美しい自然景観、震災の記憶、自然と共にある地域の人々の暮らしや歴史・文化を伝え、地域住民と訪れる人々との交流が生まれる道として設置され、現在4県29市町村をつないでいます。地元の小学校がルート作りやマップ作りに関わるなど、地域に根ざした取り組みが進められており、近年では、ナショナル・ジオグラフィックの『2020年に行きたい世界の旅先』に選ばれるなど、観光地としての注目も集めています。

名取トレイルセンター内の様子
|

トレイルの案内図
|
今回の学会では、フィールド視察を通じて、震災後13年の復興過程や、貴重な自然環境の保護と地域資源としての活用に関する研究者の関与について、さまざまな事例を通じて学ぶ機会が提供されました。また、防潮堤の施工方法により砂が溜まり、植生が回復している場所や、内陸から運ばれた土を使用して盛土された松原再生地において、松の成長の遅れや外来種・内陸種の増加といった課題が生じている場所があることが確認されました。さらに、震災後の沿岸部の変化を長期的にモニタリングし、その結果を共有することの重要性も認識されました。これらの知見は、能登での復興に向けたOUIKの今後の研究活動において活用される予定です。
2024年07月16日
海岸隆起により広くなった砂浜(写真提供:石川県立大学 柳井清治氏)
2024年6月5日に能登GIAHS生物多様性ワーキンググループの専門家メンバーを中心に、能登半島地震による被害が大きく、また地盤の隆起により海岸の環境も大きく変化した輪島市町野地区の町野川流域の視察を行いました。
町野川の河口域では、震災前までは海水に浸っていた岩が完全に露出していて、移動することができなかったムラサキインコ、ヒザラガイ、カメノテなどの潮間帯の生物の死骸が多数見られました。今回の地震が私たち人間だけでなく、海辺の生物にとってもいかに大きな影響があったかを物語っていました。河川堤防は大きく壊れ、かつて水が流れていた水路は完全に干上がっていました。しかし、生物にとっては負の影響が起こっただけではなく、地震によって新たな環境も生まれていました。地盤隆起により河口では砂浜が80m近く海側に広がったことにより、護岸により直線化されていた河口部が、新たに広がった砂浜に蛇行し始め、その周辺にはウミネコなどの沢山の海鳥が集まり、水浴びをしたり、羽を休めたりしていました。海浜植物も広がった砂浜へ少しずつ根付き始めていました。

隆起により露出した岩

広がった砂浜と蛇行する川沿いに集う海鳥
町野川中流部のトキ放鳥推進モデル地区になっている東地区では、震災後大変な状況でありながらも、水が張られ、稲が植えられた水田が広がっていました。ただ、水平でなくなり、水が片側だけに溜まるようになってしまった水田や、用水路の破損などによって水を引き込むことができなくなってしまった水田もあり、地震の影響もみられました。農家の方からは、震災により地域を離れてしまった住民もおり、今後集落で担ってきた草刈りなどの作業の人手不足を心配する声が聞かれました。

石川県のトキ放鳥推進モデル地区になっている水田
地震の影響で水の流れが滞り、それにより広がった中流部の湿地帯も訪れました。湿地帯に近づくとあちこちで鳥がさえずり、周辺を観察すると、ヘビ、カニ、トンボ、貝類など、たくさんの生き物が見つかりました。地震の影響が大きいなかでも、多様な生き物が新たな環境に適応している様子を知ることができました。

地震後に広がった湿地帯
地震により甚大な被害が発生してしまいましたが、地震がきっかけで生み出された新たな環境をいかに地域の「資源」として生かしていくかということも、今後魅力的な地域を創出し、復興を実現する上で重要な点です。今回の視察では、「里山里海の自然環境を活用しながら地域の復興を考えたい」と活動している地元の方々にご協力いただきました。ワーキンググループでは、豊かな能登の里山里海の暮らし、そしてそれを支える自然環境の復興に向けて、地域内外の専門家と連携し、地域住民や自治体をサポートし、取組を進めていきたいと思います。
2024年03月28日
令和6年1月1日に発生した能登半島地震により甚大な被害が広域で発生し、地滑りなどにより道路が寸断され多数の集落が孤立してしまいました。そして、水道や電気など、生活に欠かせないライフラインの寸断も多くの地域で発生しました。中でも地震による被害が大きかった奥能登の自治体や七尾市などで断水が長期化し、地震から3か月近く経過してもまだ解消されていない地域が沢山あります。震災後の断水が長期化する中で、小山研究員が井戸や湧き水など、地域内の水源の利用に関する調査をスタートしました。地域の方へのインタビューや現地調査から、災害に強い地域づくりのための水利用のあり方を考えていく予定です。
2023年10月30日
2023年11月10日に石川県七尾市で「農業遺産シンポジウム」が開催されます。このイベントのサイドイベントとして石川県と国連大学OUIKは「農業遺産認定地域の高校生による意見交換会(ユースセッション)」を共催する予定です。
この世界農業遺産7地域、日本農業遺産1地域、11校の高校生が集うイベントの事前学習会として、10月19日に21名の高校生がオンラインで集い「農業遺産とは何か?どのような経緯で今回ユースセッションが開催されるのか?当日どのようなことをするのか?」について理解を深めました。
はじめに国連大学OUIKのリサーチフェローの永田明より「農業遺産ってなに?」というタイトルで講義がありました。世界農業遺産の認定制度、国内外の世界農業遺産、認定を受けることによってどのような波及効果があるのか、などの説明がありました。
続いて、国連大学OUIKの小山研究員より2021年度に開催されたGIAHSユースサミットの概要や成果、そして昨年度実施された「農業遺産認定地域の高校生による意見交換会」について紹介しました。
後半はグループに分かれ、自己紹介、そして前半の発表を聞いた感想や意見を交換し、最後はグループごとでの意見を発表し合いました。「世界農業遺産がアジアに多いことを知り驚いた」という意見や、「高校生同士で話し合う機会があるのは嬉しい」、「大人に意見を発表する機会があるのはありがたい」という声が上がりました。
最後に石川県の福田さんと小山研究員から当日の流れや準備などを説明して閉会しました。11月に石川県に行くのが楽しみになったという声も聞くことができ、対面でのユースセッションに向けた良い事前準備の会となりました。