OUIK > お知らせ > ICLEE設立20周年記念大会(ICLEE2024)への参加と能登半島地震後の研究に関するポスター発表

お知らせNews

ICLEE設立20周年記念大会(ICLEE2024)への参加と能登半島地震後の研究に関するポスター発表

2024/10/28

自然環境の保全・管理・再生に関連する日本・韓国・台湾の6学会により構成されているICLEE (International Consortium of Landscape and Ecological Engineering)の設立20周年記念大会(ICLEE2024)が、2024年10月4日‐6日に九州工業大学(福岡県北九州市)で開催され、小山研究員が参加しました。他地域の事例を学び、能登半島地震後に行った研究について共有することを目的に参加しました。

初日にはエクスカーションが行われ、水辺の自然再生の取組が進められているフィールドを訪問しました。

最初の訪問先は、廃棄物処分場に創られた「響灘ビオトープ」です。かつて工業団地となる予定だった埋立地に湿地と草原のビオトープが作られました。海水や重金属などの有害物質が入らないように遮水シートが張られていて、水は自然に降る雨水のみで賄われています。ここでは、人の手で生き物を持ち込むことはせず、自然に任せた結果、30年以上の時を経て、今では800種以上の生物が確認されています。

希少な動植物も多数生息しています。日本でわずか5県にしか生息していないベッコウトンボが1998年にこの場所で確認されたことが、この場所がビオトープとして整備されるきっかけになりました。また、全国で300羽ほどしかいないチュウヒが数羽定着しており、このビオトープで繁殖もしています。さらに、コアジサシやカヤネズミも生息しています。埋立地周辺のフェンス沿いに30年前に鳥が落とした糞からは鳥の好む実がなる植物が発芽し、森が生まれました。そして、湿地の管理や池の工事は、生態系への影響を最小限に抑える工夫がなされてきました。

周囲で進む洋上風力発電所の建設や草原の減少により、今後景観や生態系は変化していくことが予想されますが、この場所は引き続き沢山の生き物にとって重要な場所であり続けていくと思われます。

埋立地に創られた広大なビオトープ

埋立地のフェンス沿いに鳥が再生した森

次に、「遠賀川魚道公園」を訪れました。遠賀川は福岡県北部を流れる一級河川で、北九州市街地に水を供給するために1980年に河口近くに堰(川の水をせき止める構造物)が作られました。魚が移動できるように魚道も設置されたのですが、泳ぐ力の弱い魚が遡上できない形状のもので、河川敷はコンクリートで覆われていました。そこで15年ほど前に河川環境の改良事業が始まり、九州工業大学や地域住民が協力し、ワークショップなどを通じて魚道公園の整備が進められました。

改良された魚道は、緩やかな勾配で淡水と海水をつなぎ、生物が移動できる環境となりました。護岸には生物が隙間を利用できる石垣が用いられ、魚道沿いには鳥や風によって運ばれた種子からセンダンやヤナギなどの木々が成長しました。人工干潟も設置され、カニや貝類が生息しています。緑がよみがえった公園にはサイクリングロードも設置され、地域の子供たちの環境学習の場としても活用されています。

視察中には、ボラの大群が魚道を遡上する姿を見ることができ、生態系が回復している様子が実感できました。遠賀川魚道公園には、生き物も人も集う豊かな水辺環境が創出されていました。

人と自然を緩やかにつなぐ魚道公園

河口部から魚道を上りはじめたボラの大群

最後に、「遠賀川中島」を訪問しました。古墳時代には陸地だった場所で、古墳がいくつもあります。1700年頃に川を掘削する工事によって誕生した広さは約28ヘクタールの中洲です。長い間田畑などに利用されていましたが、1990年に耕作が放棄されました。2008年に自然再生事業が開始し、陸地を掘り下げ、8ヘクタールの湿地環境が復元されました。この再生によって、かつての氾濫原が復活し、モツゴやギンブナといった湿地に生息する魚類が再び見られるようになりました。現在では、1000種以上の生き物が生息し、自然の豊かさを取り戻しています。ただ、放っておくと樹林化しやすいため、5年前から一部で早春に火入れを行うなど、湿地環境を保つための取組も進められています。

この歴史ある中洲には、今はサイクリングロードも設置され、地域の人々にも活用されています。外来種対策や管理をどの様に継続するかなど、課題もありますが、遠賀川流域の湿地は約9割が失われており、湿地に生息する生き物にとって数少ない貴重な環境となっています。

中洲へ渡る橋

中洲に生まれた池

 

2日目午前中には設立20周年記念シンポジウムが開催され、各構成団体やICLEEの歴代の代表者からこれまでの歩みや今後取り組んでいくべき内容について共有されました。黄砂の問題など、国境を越えた課題に連携して取り組んでいく必要があること、生物多様性の保全策と気候変動対策の連携の重要性、大規模な自然再生プロジェクトを数少なく行うよりも小規模なプロジェクトを数多く実施することの有効性、地方での生態系回復と都市部での生態系に配慮した緑化の重要性などが共有されました。

そして、防災や環境緩和の視点を持ったグリーンインフラの導入や生態系の連続性を意識した取組が、未来の人々の健康と地球の健全性に寄与することなど、長期的な視点で国境を超えて認識すべき重要な点が共有されました。

シンポジウムの様子

2日目の午後から3日目にかけて、ポスター発表と口頭発表が行われました。小山研究員も能登半島地震後に石川県立大学の柳井清治特任教授と共同で実施した七尾市能登島における断水期間中の井戸水の利用に関する調査についてポスター発表を行いました。この調査では、全戸配布でアンケートを実施し、島内でどの程度井戸水が利用され、どの程度重要な役割を果たしていたのかを調べまとめました。

ポスターセッションの様子

気候変動による大雨などの自然災害が増加している中、気候変動対策、生物多様性の保全、インフラ整備、そして地域づくりや健康分野の取り組みなどをそれぞれ進めるのではなく、各分野が連携して相互に作用するアプローチがますます重要になることを改めて実感する場となりました。今後の取組に活かしていく予定です。

Menu

Category

Monthly Archives

Yearly Archives

Pick up

Banner:Conference