2024年6月1-2日に、小山研究員は東日本大震災後の地域の復興に関する課題や経験を学び、能登半島地震後に行った研究について共有することを目的に、第34回日本景観生態学会(JALE)仙台大会に参加しました。
初日には、口頭発表とポスター発表が行われ、小山研究員は能登半島地震直後からの断水時の井戸水利用に関する実態調査のポスター発表を行いました。この研究は、石川県立大学の柳井清治特任教授と共同で七尾市能登島における地震後の井戸水の利用状況や水質、地質との関係性などを調査しGISで視覚化することで、災害時に備え、地域内の水源確保の重要性についてまとめたものです。
午後に開催された公開シンポジウムでは、東日本大震災後の沿岸地域における砂浜生態系の長期的なモニタリングの取組や、松林の再生プロセス、地域住民と進めてきた海浜植生の回復に向けた取り組みに関する事例発表があり、研究者が復興プロセスへ関わることの重要性や市民参加の取組の価値などを学びました。
参加者は翌日、仙台湾岸地域のエクスカーションに参加し、2011年の東日本大震災の津波の被災地や復興プロジェクトが進められている施設などを訪問しました。七北田川河口に広がる蒲生干潟では、貝やカニなど底生動物が豊富で渡り鳥の飛来地として知られてきましたが、2011年の東日本大震災による津波で環境が大きく破壊されました。この干潟を守るため、地域の人々と研究者が国に働きかけ、防潮堤の建設位置を内陸側に移動させることで見直し、湿地帯は守られたそうです。(沿岸の砂浜に沿って作られた運河(貞山運河)は江戸時代から明治にかけて作られたもの)
その後参加者は青森県から福島県までの太平洋沿岸をつなぐ『みちのく潮風トレイル』の施設の一つである、名取トレイルセンターも訪問しました。この1000キロにも及ぶトレイル(歩道)は、東日本大震災後に、環境省、関係自治体、民間団体、地域住民の協働により誕生しました。美しい自然景観、震災の記憶、自然と共にある地域の人々の暮らしや歴史・文化を伝え、地域住民と訪れる人々との交流が生まれる道として設置され、現在4県29市町村をつないでいます。地元の小学校がルート作りやマップ作りに関わるなど、地域に根ざした取り組みが進められており、近年では、ナショナル・ジオグラフィックの『2020年に行きたい世界の旅先』に選ばれるなど、観光地としての注目も集めています。
今回の学会では、フィールド視察を通じて、震災後13年の復興過程や、貴重な自然環境の保護と地域資源としての活用に関する研究者の関与について、さまざまな事例を通じて学ぶ機会が提供されました。また、防潮堤の施工方法により砂が溜まり、植生が回復している場所や、内陸から運ばれた土を使用して盛土された松原再生地において、松の成長の遅れや外来種・内陸種の増加といった課題が生じている場所があることが確認されました。さらに、震災後の沿岸部の変化を長期的にモニタリングし、その結果を共有することの重要性も認識されました。これらの知見は、能登での復興に向けたOUIKの今後の研究活動において活用される予定です。