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金沢:アーカイブ

OUIK 生物文化多様性シリーズ#5 金沢の庭園がつなぐ人と自然  ー持続可能なコモンズへの挑戦ー

金沢の日本庭園の活用方法を防災、観光、景観など多面的なアプローチから解説すると共に、持続可能な都市と生態系保全に向けたアイデアを提唱しています。

国連持続可能な開発目標に向けた 青年キャパシティ・ビルデン グ・ワークショップ

日時 / Date : 2016/07/15 13:00 -17:00
場所 / Place : 金沢大学中央図書館 オープンスタディオ 2階

国連大学サステイナビリティ高等研究所と金沢大学留学生センターは、日本で学ぶ留学生によるSDGsワークショップを開催します。このワークショップは、7月11日から14日まで行われる、金沢市を中心としたSDGs達成のためのフィールドワークの報告会を兼ねています。金沢大学留学生センターに在籍する留学生、国連大学サステイナビリティ高等研究所のアカデミックプログラムの修士、博士課程で学ぶ留学生が「創造都市・金沢」を建築、エネルギー、教育、自然資源管理などの側面から議論します。

SDGsに興味がある皆様のご参加をおまちしております。言語は英語のみとなります。 ご登録は ryukou@adm.kanazawa-u.ac.jp まで氏名、御所属を記載のうえお送りください。

OUIK 生物文化多様性シリーズ#4 「地図から学ぶ北陸の里山里海のみかた」

OUIK初のマップブックとして、北陸地方の里山里海の現状や変化、多様な見方を地図から学ぶ教材を発刊しました。北陸地方(石川、福井、富山、新潟、岐阜)のスケール、石川県のスケール、七尾湾のスケールといったマルチスケールでの地図情報をまとめています。(PDF:95MB)

関連ページ(Collections at UNU)  http://collections.unu.edu/view/UNU:6540

【開催報告】観光とSDGs – 地域の食と食材から考える「持続可能な開発」

旅の主要な目的の一つとなる「食」。
石川県には、海と陸の豊かな自然が育む食材があります。そして、加賀地方には江戸時代に武家と庶民のそれぞれから発展した、また、能登地方にも厳しい自然と豊かな祭り文化の下で培われてきた、それぞれ独自の「食文化」があります。そのような「食」を楽しみに国内外から石川県を訪れる旅行者が大勢います。
このように魅力的な食文化がある一方で、その継承や生産者の後継者不足、フードロスなど、食にまつわるさまざまな課題が山積しています。
第3回目となった本セミナーでは、食をテーマに、料理人や料理研究家の方々からお話をお聞きして、より持続可能な観光を実現するための取り組みと課題について学びました。

地球全体にも影響を与える身近な食の問題

 はじめに国連大学IAS OUIKの津田祐也研究員から導入として、「食をめぐるツーリズムとSDGs」と題し、国内外の食に関わるツーリズムの事例を発表。「日本食」はユネスコの無形文化遺産に登録されていますが、ユネスコではSDGsのゴール2番、4番、12番に貢献すると言われているという話もありました。

 続いて、国連大学IAS OUIKの小山明子研究員から「食とSDGsのつながり&OUIKの取組紹介」と題した講義がありました。日本では6割以上の食料を輸入に頼っていることや、年間で646万トンもの食べ物が廃棄されていること、取り過ぎによって持続可能な魚類資源の割合がどんどん減ってきていること、多くの食品に使われているパームオイルを作るために熱帯雨林がどんどん伐採され、海外の豊かな生物多様性が失われているなど、食の問題と私たちの暮らしが密接につながっているという現状を紹介しました。

 一方、石川県にはSDGsに貢献できるいい部分もたくさんあると述べ、世界農業遺産「能登の里山里海」の事例を紹介。能登では地域内で食べ物を作ることができ、それをうまく活用していく知恵が残されており、これはSDGsにも大いに関係しているそうです。海や陸の豊かさはもちろん、遠くからたくさんの食材を運ばないことで、二酸化炭素の排出を抑え、気候変動の対策にも貢献しています。発酵など、たくさん取れたものを電力など使わずに無駄なく長期間保存できる伝統的な知恵の存在も忘れてはいけません。

 食べ物を育てて利用する知恵、無駄なく食べる知恵、そして感謝する心というのは、世界のさまざまな課題に対してもとても重要な知識です。こう言ったものを次世代の子供たちにも伝えていく、そして世界にも発信していくことは非常に重要だと述べました。

 国連大学IAS OUIKの取り組みとしては、能登の農業や自然、文化の豊かさを子供たちに伝えるため、『ごっつぉをつくりろう』という動画と絵本の教材を制作。また、このような知恵を持っている多くが高齢者であり、地域の知恵を残すべく、映像にしてYouTubeで配信しています。こちらから、ぜひご覧になってください。

ゲストスピーカーがそれぞれの事例を紹介

 株式会社こはく取締役で、料理研究家・フードコーディネーターの谷口直子さんは、インバウンドの体験型施設で料理を通じて、食文化にプラスして金沢の文化を伝えたり、地域に根ざした食文化を伝え残していく活動を大学生と一緒に取り組んだりしています。また、ご本人は近江町市場との関係が深く、食育の「親子近江町体験」の実施や、近江町市場の美味のお取り寄せECサイト「イチバのハコ」の運営を行い、市場の人たちと一緒に、金沢へ多くの人に足を運んでもらうきっかけづくりもしているそうです。

『ミシュランガイド北陸2021』にて、二つ星とグリーンスターを獲得し、地域食材の豊かさを伝える、金沢の「respiración (レスピラシオン)」の梅達郎シェフからは、魚の取りすぎ、農家の高齢化や後継者不足、里山では生態系を守る人がいなくなって少しずつ荒れ始めているといった課題を紹介していただきました。後継者がいなくなると食材が作られなくなるだけでなく、受け継がれてきた技術が失われ、さらにその土地の文化まで消え去ってしまうと述べました。そして、「料理人ができることとは?」と考え、同じ志を持つ石川県内の料理人とパートナーシップを組み、一般社団法NOTOFUE(ノトフュー)を立ち上げ、駆除対象となっていた種類のウニなど、未利用魚の活用をはじめ、能登の里山、里海の環境、資源を後世につなげる活動を始めているそうです。

能登イタリアンと発酵食の宿 ふらっと」のオーナシェフのベンジャミン・フラットさんと船下智香子ご夫妻からは、能登の食文化に関する事例紹介をしていただきました。魚を発酵させる食文化が1000年以上前からあり、温度管理も湿度管理もぜずに、発酵と熟成を自然の中で繰り返し、そして漬けた時よりももっとおいしくなっているという、「発酵はすごい知恵の塊」だと言います。米の副産物である糠を使うことは世界でも珍しく、おいしさもアップして栄養価も高まる良いこと尽くめの利用法と述べました。このような発酵食を次世代に使えることで、能登サステイナビリティに貢献できるのではないかと考えて、活動しているそうです。

 また、能登に発酵食が多く残っている理由にも言及し、1つは魚介類が豊富であること、2つ目が能登は交通が発達していなかったため、地産地消にならざるを得なかったこと、3つ目は暑い夏と寒い冬がきて、発酵と熟成を繰り返すことができる能登の気候、4つ目は食文化と伝統や祭りとが密接につながっていて、他の文化と一緒に料理も継承されてきたことという背景も紹介しました。そして、食文化を次世代につなげていくためには、地域の現状に即したサステイナブルツーリズムを促進していく必要がありますが、その中で、受け入れる住人たちの文化や伝統が持つ価値の認識をどのように高めていくかということが課題だと述べました。

パネルセッションでは、食と観光に関わる課題について掘り下げます

 ゲストスピーカーの4名と津田研究員により、先の事例をさらに広げて議論が行われました。
 谷口さんからは、国内外からの旅行者が増えている近江町市場をSDGsの観点から掘り下げてもらいました。300年の歴史がある市場で、店の人の知識に触れたり、旬の食材から季節を感じたりと、食文化を知る上でとてもわかりやすい場所でもあり、市民や旅行者が料理人と同じものを買うことができるのが特別だと言います。近江町市場の抱える課題としては、一番は後継者不足だそうで、また水曜日が定休日の鮮魚店が多く、そのため火曜日には廃棄するものが増えてしまうとも。谷口さんは、そういったものもECサイトで販売し、廃棄を減らすことに努めているそうです。また、あまり知られていませんが、金沢市では近江町市場から出る魚の残を集めて、肥料に加工する取り組みを以前から行っているそうで、その肥料で野菜を作って循環していることをもっと知ってほしいと述べました。また、そのような市場の循環の仕組みをもっと知ってもらうために「イチバのカゴプロジェクト」をスタートさせたとのことでした。


 また、フラットさんからは能登とご出身地のオーストラリアとの価値観の違いや、船下さんからは、能登の伝統的な技術を次の世代へ継承していくことの重要性や課題について、さらに詳しい事例を挙げて紹介していただきました。
 そして、梅さんからは、人の手によって里山や里海が管理されていることで地域の食材が提供されていることについて、改めて説明していただきました。
 その後、次世代への継承方法について、どのような方法が効果的かといった意見を交換し、参加者を2班に分けてワークショップでさらに意見交換を行って、セミナーは終了しました。

 今回ご登壇くださったパネリストの方々は皆さん、SDGsと観光について、食の分野からそれぞれ特徴のある活動をされています。お店や宿を利用して交流し、食とSDGsについてどう活動していけるか、学んでいただければ何よりです。

【開催報告】SDGsカフェ# 19 金沢のパートナーシップ、どう進化している?

「2020年2月以来のリアル開催です」と挨拶するOUIKの永井事務局長

金沢市、金沢青年会議所、国連大学IASいしかわ・かなざわオペレーティング・ユニット(OUIK)の3者が、SDGs推進のためのプラットフォーム「IMAGINE KANAZAWA 2030」を立ち上げて2年半が経ちました。

現在、180を超える企業、団体、個人など、多様なみなさんにIMAGINE KANAZAWA 2030 パートナーズ会員になっていただき、勉強会や交流会を通じ、お互いの活動に対する学びを深めています。

*IMAGINE KANAZAWA 2030 パートナーズの概要と入会申し込みはこちら

今回は、金沢のパートナーシップがどんなふうに進化しているかということがテーマ。それぞれの枠を越えて、共有したビジョンの下で協力していく「コレクティブインパクト」の視点を交えながら、「パートナーシップって何?」を改めて考えました。

 

2030年理想のパートナーシップに向けて、個人の意識変化をさぐる

 2年前(2019年)の11月、「SDGsを進めていく上で新しいパートナーシップを考える」をテーマにSDGsカフェを開催。「金沢ミライシナリオ」ができた直後で、2030年の金沢を、「金沢の人全員がまちづくりを自分ごととして捉え、個々の力を活かして、自然に協力しあっている、そんなまちになっていること」と、金沢市企画調整課の笠間彩さんがIMAGINE(想像)しました。その時、話題提供してくださったのが、今回もお招きしている株式会社エンパブリック代表取締役の広石拓司さん(その時のレポートはこちら)でした。

 あれから2年、パートナーズ会員の中からは、フードドライブやアート、LGBTQなどさまざまなテーマでのプロジェクトが誕生し始め、笠間さんが思い描く2030年の姿へと着々と進化しています。

宇夛裕基氏○薬薬連携SDGs KANAZAWA代表、石川県病院薬剤師会理事、博士(薬学)

 さて、今回IMAGINEしてくださるのは金沢市立病院の薬剤師で、薬薬連携SDGs KANAZAWA代表の宇夛裕基(うだひろき)さん。1年前、OUIKの永井事務局長の講演からSDGsに関心を持ち、残薬課題解決のための連携を模索し始めたそうです。宇夛さんからは、パートナーシップによる参加者の心の変化などをさぐりつつ、金沢のミライの姿をIMAGINEしていただきました〈以下は発表の要旨〉。

──パートナーシップはSDGs17のゴールの一つで、すべてのゴールに共通する軸となる目標。そもそも、パートナーシップとは何か? 2つ以上の企業や団体などが、平等に、対等に手を取りあって、1つの目標に向かっていくというのが定義。これによって、さまざまなビジネスが動き始めています。しかし、団体に属している個人に目を向けてみると、なかには積極的ではない人もいるかもしれません。

 薬薬連携SDGs KANAZAWAとは、薬局や病院の薬剤師を中心に、医薬品に関わる人全てが対象の組織です。健康と福祉を守るために活動しているすべての人がパートナーとなることができ、実は医薬の業界では、多職種が手を組んでこのような新しい取り組みを行うことは、画期的なことでもあります。

 会則の前文では、「すべての事業はSDGs達成のため、社会問題の解決を目的とします」とうたい、現在、「コロナから子供を守る」、「残薬をゼロに」という2つのプロジェクトが進行中です。「残薬」とは家庭にある飲み残した薬のことで、年間100〜8,744億円もの残薬が発生しており、その多くが社会保険費(税金)で賄われていますから、国全体の問題と言えます。解決のために、一般社団法人コード・フォー・カナザワなどと連携して、アプリ開発を進めています。

 また、会則には「日本全国に活動が波及するよう、同志を育て、そのノウハウ、アイデア、資金、関係資産を提供し、SDGsへの取り組みを加速させていきます」と掲げ、2030年のゴール達成のために最速で日本中に波及すべく、全国で同じような団体を作っていくためのサポートも行いたいと考えています。

 さて、個人の意識がどのように変わっていったのか、まずは私の内的な意識変化を紹介します。1年前まではSDGsのことは何も知りませんでした。金沢ボランティア大学校観光コースで永井事務局長の講演を聴いたのがきっかけで、SDGsが身近な問題で自分ごとでもあることに気がつき、生活や仕事の中で、「自分に何ができるのか?」と問いかける、“モヤモヤ期”が始まりました。

 さらに、2021年1月にオンラインで開催された「北陸SDGs未来都市フォーラム」(レポートはこちら)で、広石さんの基調講演「SDGsをローカルイノベーションにつなげるために」を視聴し、SDGsの概念を地域に落とし込んで、事業や仕事にしていくことができることを知り、ワクワクしながら自分もやってみようと思うようになりました。そして、2カ月後にはとにかく知り合いを誘いまくってリモートで研修会を開催。「これからどういう未来を築こうか?」ということを探り、賛同してくれた11人が世話人になってくれました。このように私の場合、まずは「自分ごと」としてSDGsを捉えることができた後、“モヤモヤ期”、“ワクワク期”という意識の変化を経て、“活動期”へと入っていきました。

 一方で、世話人らの意識変化はどうだったのでしょうか。世話人らにとったアンケートによると、最初は引きずり込まれた感が強かったのですが、「理解が深まるにつれ、自分ごととして捉えることができ、参加意識が向上した」という声もあり、少しずつ積極的な意欲が上がってきていることがわかりました。世話人らは“モヤモヤ期”や“ワクワク期”という大事なステップを踏まずに、いきなり“活動期”に参加させられたため、最初は積極的な参加意欲につながっていなかったと考察しています。世話人たちも今後、“モヤモヤ期”や“ワクワク期”を経て、意欲が増していくのではないでしょうか。

 少しずつ意識が上がっていったという声があった一方で、「積極的に取り組みたいとは思うが、仕事と家のことで余裕がなく、今以上に積極的な活動をする自信がない」という声もありました。団体の中にはさまざまな背景を持っている人がいて、一緒に活動できない人もいます。しかし、そういう人たちの意見もしっかりと聞きながら活動を進めていくことが、本当のパートナーシップなのかなと思っています。

 2030年、私がIMAGINEする金沢は、個人の内的な意識変化も育み、パートナーシップを醸成していく、懐の深いまちです。──

 

薬を取り巻く課題をパートナーシップで解決する方法は、地域課題解決にも効く

広石拓司氏○株式会社エンパブリック代表取締役

 引き続き、金沢市のSDGsのアドバイザーもしている広石さんから、パートナーシップについて少し専門的な視点からのお話をしていただきました。実は広石さんは薬学部のご出身で、大学院まで薬学を勉強されていたそうです〈以下は発表の要旨〉。

──個人の頭の中で、「こんなことしたいな」と考えている人はたくさんいます。しかし、一人で考えているだけでは何も起きないので、それではもったいないと思います。とにかく自分の言葉で外に出していくこと、そして周りの人と話す機会を設けること、対話を深めていくことで、仲間ができます。活動をしていくうちに、新しい仕事の創出となり、仕事の広がりができ、新しい価値が生まれて、社会が変わる……。「私→私たち→社会」へとつながっていくこのプロセスを、「エンパブリック・サイクル」と呼んでいます。

 さて、パートナーシップの話をしているときによく登場するのが、地域看護の保健師らのヘルスプロモーション(WHOが提唱する人々が健康を管理し、より健康にすごせる可能性を模索する方法)に関する概念です。薬剤師や医師など専門知識を持つ人たちが、地域の人たち(患者=クライアント)を治してあげないといけないという考え方は、「コミュニティ・アズ・クライアント」と言いますが、これではヘルスプロモーションがうまくいかないということが、今までの蓄積からわかっています。そこで、地域が健康になるという目的は同じで、一緒に健康になっていく仲間を増やすという考え方の「コミュニティ・アズ・パートナー」という概念が出てきました。これを地域の課題解決に置き換えると、専門家が一方的に進めるのではなく、地域の情報収集からアセスメント、計画と、プロセス全体を住民と専門家が協働で行うということです。

 宇夛さんたちが活動のテーマにしている残薬問題に関する話題として、イギリスの王立薬剤師会が、なぜ患者は薬を飲まないか、コンプライアンスを守らない患者を調査したところ、そもそもコンプライアンスが間違っているのではないかということを発見しました。薬を飲んでいない患者も医師の前では、「薬を飲んでいる」と言い、実はきちんとコミュニケーションが取れていなかったのです。その解決策として、医療専門職と患者がパートナーシップにより対等の立場で話しあい、治療方法を見出す「コンコーダンス」と呼ぶ考え方が良いことがわかってきました。反対意見も含め、相手の意見も尊重して聞きあうこと。つまり、患者が薬を飲まないという権利も認めてあげるということです。さらに、両者の意見が相違する場合は患者に決定権を与えます。ただし、この共同意思決定を実施するには、患者にもパートナーとして参加するための知識が必要となります。

 この共同意思決定は、薬に限らず、地域づくりやSDGsにも応用することができ、専門職と住民による、一方通行でなく、継続的な対話を重ねるうちに、調和や相互理解ができるようになり、効果的に実行できる意思決定がなされ、住民主体のより良い生活が実現できるようになります。──

 

パートナーシップを進化させるのは一人ひとりの意思

 後半は、宇夛さん、広石さんとOUIKの永井事務局長、さらに会場の参加者も加わり、パートナーシップの理解を深めていきました。

 宇夛さんからは、「薬を飲まない権利、病気を治さない権利をもう少し認めてあげる風土、つまり患者の気持ちに共感してあげることで、結果として患者の意欲が増す」というご自身の経験を披露。広石さんは、「医療専門職の人は患者のことを知っているようで知らない。これは企業でも同じ」と述べ、顧客のことを自分たちは全く知らないのではないかと考えて取りかかっていかないと、サステイナビリティというのは進まないと提言しました。それを受け、永井からは、請われて企業などでSDGsのことを講演する際、「事前にいろいろ調べて、相手の立場になって話をすると、共感していただける」と経験を語りました。

「SDGsとは、本質的な内省を迫るものという見方もあり、ハマるところには広がる一方で、“バッジをつけたらSDGsだ”という部分もあって、二極化している」(永井)、「人の意識はそう簡単には変わらないが、関わる時間とともに意識が変わっていくことを示してくれた宇夛さんの発表を聞き、希望を感じた」(広石さん)、「先の薬を飲まない権利の話と同じで、参加を強制せず、やらない権利も認めてあげることが大事」(宇夛さん)など、SDGsに取り組む人の意識について、掘り下げていきます。

 企業などで、上から「SDGsをやれ!」と言われて取り組むより、何か解決したい課題があって、それをみんなで集まって話し合っていくうちに、「これってSDGsって言えるよね?」という流れの方がスムーズに話がまとまり、「プロセスをみんなで共有していくことが大事」だと永井が振り返ります。

 SDGsバッジに関して広石さんから面白いエピソードを紹介。ある日、バッジをつけて帰宅した父親に娘が、「家族が取り組んでいるSDGsについてレポートを書かないといけないのでお父さんの会社の話を聞かせて欲しい」と言われ、「もっとちゃんとやらないと」と思い立って、広石さんのセミナーを受講するようになった方がいたそうです。「こんなふうに何かにかこつけてでいいので、まずは考えて欲しい」と広石さん。

 金沢のSDGsでは、これからいろいろな企業や団体とのパートナーシップが生まれてくると思います。その時の上手な進め方を永井が広石さんに尋ねると、「人に教えることで自分自身も問い直して学ぶことができる。SDGsカフェのような場を作り続けることが大切」とアドバイスしました。

「今は理解してもらえない人も、サステイナビリティを当たり前に考える社会になれば、やがては味方になってくれるはず。いつかは誰もがパートナーになる、そう思えば人に優しくなれますし、そうなることを信じていくことが大事なのではないかと思います」と広石さんが述べ、久しぶりのリアルSDGsカフェは終了しました。

 

今回のSDGsカフェの会場となった「金沢未来のまち創造館」は、金沢市における新たな産業の創出と未来で活躍する人材の輩出を図る施設です。統合で廃校となった旧野町小学校校舎を利用し、登録すれば無料で使えるコワーキングスペースやここで開発されたメニューが味わえるカフェなどもあります。お気軽にお立ち寄りください。

当日のYouTubeで配信した動画はこちらからご視聴になれます。

【開催報告】SDGsカフェ# 18 木の文化都市・金沢の「木づかい」を考えよう!

国民1人当たり1年に1,000円が課税される森林環境税が2024年から始まりますが、前倒しで森林環境譲与税としてこのお金が自治体に配布されています。森林面積が6割を占める金沢市にとって、森林資源を未来のために整え直す、またとないチャンスと言えます。

造林事業が始まって50年が経ち、多くが収穫時期を迎えています。一方、まちづくりでは金澤町家のような古いものを守りつつ、新たな建築物への木材利用や地元産材の活用を促進する「木の文化都市」も始動しました。

森林とまちづくりが一環となった、木をめぐる循環型社会を構築するために、金沢に足りないものは? そして、ほかの都市にはない強みとは? 「金沢の未来のまちなみがこんな風だったらいいな」ということを専門家とともに議論しました。

木の文化都市・金沢のシンボルでもある金沢駅の鼓門

木の文化都市・金沢に向けて、金沢中心市街地における木造建築の可能性

 木の文化都市を考える金沢会議委員も務める金沢工業大学の宮下智裕さんに、「木の文化都市・金沢」のミライの姿をIMAGINE(想像)していただきました〈以下は宮下さんの発表の要旨〉

金沢工業大学環境・建築学部建築学科准教 宮下智裕氏

──金沢SDGs「5つの方向性」の1つ、「古くて新しくて心地よいまち」に金沢がなれば素晴らしいと思い、そのための話をしたいと思います。

 金沢はそれなりの都市規模を持っていますが、一歩山手に入ると森林がずっとつながっていて、山、里、農作地、海という一連が、川の流域の中で育まれています。北陸の都市はだいたい同様ですが、これが美しいまちをつくっていく土台になっているのではないでしょうか。

 金沢は戦災に遭わなかったまちで、美しい建造物が中心市街地にも数多く残っています。住民と行政が一体となりながら、こういう環境をどうやって、後世に残していくかということも大きなテーマだと思います。

 日本では戦後、燃えない都市を作ることを目指して建築の不燃化を進めました。中心市街地の主要幹線道路沿いには延焼を止める防火建築帯をつくるため、新たに木造の建物が建てられないという状態が起こっています。

 金沢の商業の中心地が香林坊や片町に移ったことにより、もともとは金沢の目抜き通りだったはずの尾張町では大きな開発がなされず、さまざまな時代の面白い建物がたくさん残っています。また、部分的には開発もされているので、それらがミックスされたまちとして存在していることがとても魅力的です。

 尾張町のような、大都市の主要幹線道路沿いに、これだけの木造建築が残っているところは全国的にも珍しく、しかも7割以上が3階以下で、地割りも小さいものが多く、ヒューマンスケールな景観を有し、木造建築がよく似合います。さらに木造だけでなく、明治や大正、昭和初期といったモダニズムの建築なども残り、こういったものがミッスクされて、このまちの魅力がつくられています。さらに面白いのが、ここには他にはあまりない、薬、ろうそく、旗など、いわゆる伝統的な文化に関係するものを生業としている商店もたくさん残っていることです。住まう人の文化とともに建物が継承されていることにも、とても魅力を感じます。

 このような中で尾張町を、木を多く使った建物を増やして景観の魅力を高める、「木の文化都市」のモデルエリアにしていく動きがあります。大通りに面した木造建築は、一度壊れてしまうと同じものが建てられなくなっていましたが、今は技術が進歩して耐火木造という形で、木造の建物も建てられるようになってきています。

尾張町の大通りから一歩入ると木造の建物が軒を連ねる

 ただ単に古い建物を保存していくだけでなく、ヒューマンスケールの町の雰囲気を残しつつ、耐火木造技術を用いてつくられる新しいまちを融合させていくには、尾張町は面白いエリア。日本中の都市が都心から木造を排除している中で、重要伝統的建造物群保存地区や「こまちなみ」など、都心に木造を多く残そうとしている金沢だからこそできる、魅力的な未来のまち並みができたら素晴らしいと思っています──。

 

金沢の森の今と、森林環境譲与税の使い道って?

 金沢の森の現状や森林環境譲与税の計画について、樹木医でもある金沢市役所農林水産局森林再生課の上田博文さんにお話しいただきました〈以下は上田さんの発表の要旨〉

金沢市役所農林水産局森林再生課担当課長補佐 上田博文氏

──森林は地球温暖化防止や災害防止などから、国土や国民の命を守るために必要不可欠。しかし、担い手不足などの問題から、森林整備が進んでいません。そこで、2019年に「森林環境税及び森林環境譲与税に関する法律」が成立。森林整備などの地方財源の安定的な確保と、市町村が主体となった新たな森林管理システムの「森林経営管理制度」の実施が目的です。

 自治体に配分される森林環境譲与税は、2019年から段階的に入ってきていて、使用目的はそれぞれの地域の実情に応じて、弾力的に実施できます。広く一般から集められる税金なので、市の内部だけでなく、学問的な専門家や林業に携わっている方など、8名の委員によって活用策を議論していただき、10月11日に市長に提言書を提出しました(国連大学IAS OUIKの永井事務局長も委員の1人)

森林環境譲与税活用検討会提言書 「森からはじまる金沢のミライ」

森林環境譲与税活用検討会提言書「森からはじまる金沢のミライ」

 金沢市の面積の約60%(約28,000ha)が森林で、広葉樹の天然林が75%、スギやヒノキなど木材を生産するために植えた人工林が19%を占めます。金沢には市営造林が約2,000haもあり、「伐期」と言われる収穫できる大きさに育ったものも多いのですが、長伐期施業を行い、伐採をさらに40年伸ばしています。そのため、通常の森林サイクルの「植える→育てる→伐る→使う」の中で、「植える」、「伐る」ができていないため、金沢ではこの循環サイクルが滞っています。

 天然林が多い金沢では、人工林に限らず、森林環境譲与税を森林全般に活用できるようにと検討会が提言しています。ここでイメージされる循環サイクルは、従来のように同じところに矢印が戻るものではなく、森の生長と社会の変化に対応して、円の大きさを変えて、螺旋状に少しずつ上昇する新しい循環で、保全する森は天然林として別のサイクルを描き、多様な森の姿を次世代につなぐものとしています。

 このイメージを実現するためには、サイクルを動かしていく取り組みが継続的に必要で、基本理念と3つの将来像への提言につながっています。

 金沢の3つの将来像を実現するためには、次の3つのプロジェクトがあります。

○いのちの森プロジェクト → 将来像は「森と共生する金沢」(森が森であることを守る)

○くらしの森プロジェクト → 将来像は「木の文化都市・金沢」(森の恵みを活用する)

○こころの森プロジェクト → 将来像は「森の感性が息づく金沢」(森を楽しみ、森に学ぶ)

 3つのプロジェクトが個別の取り組みで終わらぬよう、提言では多面的、流動的に森と人をつなげる活動の必要性を解き、「森からはじまる金沢のミライ=森ミライしよう!!!」を合言葉に、みんなで発見する金沢の新しい森づくりを「森ミライ活動」として提案しています──。

 

未来のまちづくりのための森づくり。現代の木の文化都市に求められること

 金沢市のように、森林環境譲与税の使途計画に心や文化まで幅広く取り入れているところは、珍しいそうです。しかし、実際に森づくりとまちづくりの2つを1つの都市の中でうまく循環させるのは、大変難しいこと。そこで地域産材をうまく使い、建築もまちづくりもというプロジェクトをたくさん手がけているNPO法人サウンドウッズの安田哲也さんに、その循環のヒントになる話題提供をしていただきました〈以下は安田さんの発表の要旨〉

NPO法人サウンドウッズ代表理事 安田哲也氏

──兵庫県と大阪府に拠点を置き、いかにして森づくりの成果とまちづくりの成果を最大化して両立させるか、そのバランスをコーディネートする活動をしています。その取り組みを、3つのキーワードにして掲げています。

 森を管理して「育てる」。

 木をくらしに「活かす」(木のまちづくりなど)。

 森とまちを「つなぐ」(人材育成)。

 森と木に関わる人の輪づくりでは木材コーディネーター育成認定事業を行っています。

 ところで、今なぜ木材が注目されているのでしょうか? 木質資源は、“日本で身近に手に入る”、“使える形にするためのエネルギーが他のものと比べると軽微”、“短期間で再生可能である”という3つの側面が、化石資源より優れているからだと理解しています。50年、60年というサイクルで次の資源として使うことが可能であり、かつ温暖化効果ガスを吸収してくれるという大きな効果があり、木材はまさにSDGsな社会を支える資源であると言えます。

 人工林では、循環のサイクルを保ちながら使い続けることによって、木材の持つ優位性が保たれますが、日本の人工林は現在、2つの大きな問題を抱えています。

 1つは、戦後70年が過ぎ、主伐期を迎える人工林は増え続けるも、伐採されていないために、育った木を活用し、新たに若い森を作ることができていないこと。使い勝手のよいサイズの木が将来なくなってしまうことは、10年後、20年後に私たちのくらしに影響が出てくる可能性があります。

 また、木材の自給率は最低の時(2002年)には2割を切っていましたが、現在は4割まで回復している一方で、スギやヒノキの丸太の価格が低調なため、山元(山の持ち主)の収益が確保されていないことがもう1つの問題。次の森への投資ができず、木を伐った後の森を維持していくことができなくなりつつあります。林業が次の世代に継承されていくためには、山元の収益をどう確保していくかが重要です。

 太くなり過ぎた木はまちで使われていないという事実があります。それはなぜかというと、木材の製造や流通の中に、太い木を使うという仕組みが今までなかったため。せっかく大きくしても、誰も買ってくれないという残念な現実があります。

 そのことに対して私は、住宅よりもやや規模の大きな建築や、まちづくりなど公共性の高い建築物にこそ、そのような木材を使っていけるのではないかという可能性に期待しています──。

 

トークセッションで、引き続き未来の森とまちをつなげる話を掘り下げました

永井:安田さんが示した地元の木を資源として見える化した役場庁舎の事例は参考になると思いますが、金沢の尾張町でも、このようなやり方はできるのでしょうか?

宮下:石川県内にも頑張っている製材会社はありますが、全部県産材を使っているかというと話は別で、地産地消のシステムをもっと積極的にやっていく必要があると思います。その時に、山から木を下ろして終わりではなく、それがどういうものになるのかということも含めて、山元とまちのつくり手を密につなげることが、木の文化都市・金沢の今後の大きなテーマなのではないかと思っています。

上田:木材を使うひとつの方向性としては、市民が見てすぐにわかるものにするというのが必要なのではないかと思っています。また、子どもの時から森を身近に感じてもらえるような取り組みをすれば、未来に通じていくのではないかと思っています。

永井:参加者からは、「私たち自身が森の中に入って、森の豊かさを体で感じることも大切」という意義深いコメントをいただきました。最後に一言ずつ、参加者に向けてメッセージを。

上田:まずは「森ミライを一緒に始めましょう」ということをお伝えしたいです。

宮下:いろいろな分野の中で木をどう使っていくかということを考えてもらうと、私たちの身の回りに木を使ったものが広がり、結果として木の森を育てることになり、山を知ることにもなると思います。そういう意識を持って、いろいろな立場で知恵を出しあっていけたらと思っています。

安田:身近なところで木を使うことを大事にしたいなと改めて思いました。木造建築は、森は50年、60年かけてようやく、そして建築も100年サイクルで使い続けるという関係を考えさせてくれます。それは、まちの将来をしっかり考えて、魅力的でくらしやすいまちをつくっていくきっかけになるのではないでしょうか。

永井:今後も木のテーマの対話を続けていければいなと思っています。示唆に富むお話をありがとうございました。

 

卯辰山見晴らし台から眺める金沢市街。大通りに面して高いビルが並んでいる

 

今回のSDGsカフェの動画はこちらからご視聴ください!

【開催報告】ホタル鑑賞へ行こうーホタルが棲む幸町・菊川へ

石川県金沢市内の中心域にはホタルが生息できる環境が残っています。昭和期以降の都市化や宅地化により、ホタルの生息数が減少していましたが、下水道の整備が進み、水質改善に伴い、まちにホタルが舞い戻ってきています。金沢市では過去30年以上にわたり、市民参加型の「ホタル生息調査」が実施されています。地域の自然やいきものを保全し次世代に繋げていくため、市民団体の積極的な保全活動が継続されています。

7月2日金曜日に、国連大学サステイナビリティ高等研究所いしかわ・かなざわオペレーティング・ユニット(国連大学 IAS OUIK)は、SUNプロジェクトの下、ファン研究員が金沢市内の幸町、および菊川にて市民参加型のホタル生息調査ツアーを実施しました。鞍月用水沿い及び周囲の庭園周辺を踏査し、夜間の水のせせらぎや都市の自然を楽しみつつ、ホタルの生態を調査することを意図した企画です。

当日は、幸町・菊川地区にお住いの方々をはじめ、総勢15名程度の方々にご参加いただきました。また、金沢ホタルの会副会長・石川ホタルの会事務局長の新村光秀さん、石川県立自然史資料館館長の中村浩二さんにもご参加いただき、ホタルの生態について教えてもらいながら、調査を進めました。

ホタルは全世界で2,000種余り存在すると言われていますが、普段良く耳にするのはゲンジボタルやヘイケボタル。金沢市内でもそれら2種類の生息が確認されています。それぞれ体長や光り方が異なるため、それを目印に江戸時代から活用されている用水沿いに個体数を確認していきます。

雨の日はホタルの飛ぶ姿はなかなか確認できません。その代わり、水辺の植物の葉っぱの裏に隠れていたりします。調査当日は小雨でなかなか見つけることができませんでしたが、10数カ所余りの観測地点を小まめに確認していくことで、結果的に合計数十匹のゲンジボタルとヘイケボタルを確認出来ました。また、参加者のご好意もあり、旧町家である邸宅内の日本庭園でも調査を行わせてもらうことが出来ました。日本庭園内でホタルが飛び交う幻想的な風景を見つつ、日本庭園が果たす都市の生物多様性や生態系への貢献を学ぶことが出来ました。

ホタルの各種類それぞれ、異なる食べ物や生息環境の好みを持っています。綺麗な水質のほか、食べ物であるカワニナやタニシの生育環境、まゆを作れる土、卵を産み付けられるコケなど、水辺周辺の環境も合わせて考えていかなければなりません。今回の調査のような市民参加型のホタル調査は金沢市では多くの方の参加で継続的に行われています。来年もまた多くの方と都市の自然を楽しみつつ、ホタルの生息できる環境について一緒に考えていけるといいですね。

ホタルの生態や金沢市のホタル生息調査の歴史について詳しくは「金沢ホタルマップ30年のあゆみ」もご参照ください。

ホタル調査 in 菊川

7月1日金曜日に、国連大学 IAS OUIKは、菊川公民館と共催で金沢市内の幸町、および菊川にて市民参加型のホタル生息調査ツアーを実施しました。昨年も開催されたこのホタル調査イベントはOUIKのフアン研究員が進める、SUNプロジェクト(持続可能な都市自然プロジェクト)の一環として開催しました。鞍月用水沿い、用水付近の庭園を訪れ、都市自然を楽しみつつ、ホタルの生態を調査しました。

はじめに菊川公民館に集まった参加者はOUIKのフアン研究員と津田研究員から金沢の都市自然やそれを利用した持続可能な観光への取り組みについての説明を受けました。フアン研究員は金沢にはグリーンインフラという自然を活用したインフラの仕組みが多く存在すること、それらの一部である用水や庭園を都市自然として、そして文化として保全する必要性、さらに保全に向けた活動を紹介しました。津田研究員は、これらの金沢固有の資源を様々なステークホルダーがパートナーシップを組んで維持管理し、さらに観光業を交えた持続可能な形で保全するための協働モデルについて紹介しました。

その後、金沢ホタルの会会長・石川ホタルの会事務局長の新村光秀さんに「ホタルの不思議」について講義をいただきました。新村さんは金沢市役所にて里山や農業、林業の活性化に関する業務を行う傍ら、ホタルに関する活動を40年近く行なってきたそうです。昭和32年に子供会と協力し「ホタル調査」を開始し、現在に至るまでこの活動は続いています。三十数年間もこのような調査が行われている金沢のケースは珍しいですそうです。

※以下、講義の内容

ホタルの名前の由来について

松明の火の粉や人魂のイメージから命名されたとする説があります。「火」のことを「ほ」と読んでいた時代があり、「ほがたれる」→「ほたる」となりました。そのほか「流れ星」がホタルの名前の由来となったとする説もあります。

ホタルの種類について

世界に2000種もいるホタル、日本には暖かいところを主に50種、石川県には7種生息しています。日本ではホタル=水辺のイメージがありますが、ホタルのほとんどは幼虫の時、土の上で過ごす陸生だそうです。しかし、日本で有名なゲンジホタルとヘイケホタルは幼虫が水の中で過ごす、実はとても珍しい種類のホタルです。

ホタルはみんな光るの?

日本に生息する50種ものホタルで成虫が光るのは4種のみ、さらに卵段階から生涯に渡り光るのはゲンジホタルとヘイケホタルのみです。

ゲンジとヘイケの違いについて

見た目、発生時期、飛び方が異なりま、ゲンジのオスの大きさは1.5cm、メスは約2cmにもなる一方、ヘイケは1cm弱です。模様の特徴として背中の模様がゲンジは十時形していてヘイケは縦筋模様をしています。またゲンジ6月上旬、ヘイケは7月中旬から発生します。発生時期は場所によっても異なりますが、温暖化の影響により、全体的に出現の時期が早くなってきています。ゲンジは2秒間隔で光を発しながら飛びます。一方、ヘイケはゲンジより短期的な間隔で光を発し、低空を飛びます。

オス・メスの違い

オスは光りながら飛び回り、メスは一点に留まっています。飛び回るオスに対し、メスが信号を送り、オスがそれを受け入れると結婚に至ります。

ホタルの生息に必要なこと

夜暗いこと、日中日陰となる草木があること、水がきれいであること、石や砂、土があること、エサ(カワニナ)がいることが重要です。

ホタルの生息数の変化について

ゲンジは下水道の整備により、川の水質が改善し生息地点は微増しています。一方、生息エリアの異なるヘイケは耕作放棄地、除草剤の利用の増加により、全国的に生息地が減少しています。金沢市に残る、江戸時代に作られた用水は石積みの用水です。これらには石と石の間に隙間があり、隙間は草が生え、生き物が隠れることができるスペースとなります。これは生き物が生息しやすい環境です。そのため、市内でもホタルが観察できます。

ホタルが住みやすい環境があること、ホタルが住んでいることは都市自然が豊かであるという事。そのため、地域の方々と協力して、ホタルの保護活動を行うことが重要です。

いざ、ホタルを観察へ

講義のあと、一同はホタルマップを手に町内を散策しました。

いつも何も注意せずに歩いている通りでも、目を凝らすとそこには用水があり、ホタルが飛んでいます。こんなに近くに住んでいるのに、今までホタルを見た事はなかった」といった声も多く上がりました。また、ホタルが生息しているのは用水だけではありません。用水の水を引き入れた庭園内の池でもたくさんのホタルを発見することができました。

参加者はそれぞれのホタル観察ポイントで何匹ホタルを発見できたかを調査シートに書き込み、提出して頂きました。

ホタルを通して、夏の夜のせせらぎを楽しみ、金沢の都市自然についても学ぶ、今回のような活動を通して、今後もより多くの人々に、都市自然や生物多様性の重要さを知ってもらいたいと思います。

ホタルの生態や金沢市のホタル生息調査の歴史について詳しくは「金沢ホタルマップ30年のあゆみ」もご参照ください。

 

 

 

【開催報告】SDGsカフェ#17 金沢発! 経済の地域循環とCO2削減を実現するグリーンボンドのしくみを学ぼう!

2021年度最初となるSDGsカフェは、新しい概念によるお金が流れるしくみ、「グリーンボンド」がテーマ。持続可能な社会を実現するためにはお金の話も重要。これは環境課題を解決しながら経済成長もするという、一石二鳥、一石三鳥ともなりうるものです。
環境課題を解決するグリーンプロジェクトのうち、規模が大きな案件はほとんどが大企業中心となり、地域で実施されても、お金や仕事は地域外に流出するケースが多くなっています。その中で、地域の金融機関、金沢市、地域事業者のパートナーシップにより、金沢市内の体育館の照明LED化事業を債権化し、地域経済の循環までを生み出すプロジェクトが誕生しました。今回はこのプロジェクトを通して、グリーンボンドのしくみを学び、その可能性を話し合います。

グリーンボンドと今回のプロジェクトの概要紹介

 少し専門的な言葉が出てきますので、最初に簡単に説明します。

◆グリーンボンドとは?
企業や地方自治体などが、国内外で行うグリーンプロジェクト(地球温暖化対策や再生可能エネルギー事業など)に要する資金を調達するために発行する債券のこと。ソーシャルボンド、SDGsボンドとも呼ばれ、資金の使い道はその事業に限定されます。

◆金沢市の体育館照明LED化事業とは?
国際条約「水俣条約」で規制されるようになった水銀灯を使用している市内の小中学校などの体育館81カ所約3000灯をLED照明に変えるプロジェクト。このLED化により、電気使用料、CO2排出量、電気料金のいずれも約3分の1に減らすことができる見通し。

◆ESCO事業とは?
顧客(今回の場合は自治体)の光熱水費などの削減を行う事業を民間が請け負って、その経費を削減分でまかなうというもの。

 

民間資金を活用する官民連携事業は2030年の金沢をどう変えるか?

 北陸グリーンボンド代表の澤田浩士さんから、グリーンボンドを始めた経緯や課題などとともに、民間資金を活用する官民連携事業が盛んとなる社会をIMAGINEしていただきました〈以下は澤田さんの発表の要旨〉。

 

──経済産業省が企業の省エネを推進する中で、地方自治体自体の省エネができていないことを踏まえ、平成29年6月から地方自治体に向けて環境改善事業に特化したPPP(官民連携)事業モデルの構築を協議し始めました。ところが、地元の中小企業は専門的な分野には長けていますが総合的なマネジメントができず、大企業が有利となることに気がつきます。その結果、地域の大事な税金が地域外に流出していて、実はこれが高度成長期以降、地方が弱体化した要因の一つになっています。
 私たちは、地域資源(ヒト・モノ・カネ)を最大限活用できる方法を模索するため、環境省に相談に行きました。そこで「グリーンボンドを活用した発行創出モデル事業」があるので、事業スキーム(枠組みを持った計画)を構築して応募しないかと打診されました。平成30年3月には北陸グリーンボンド株式会社を設立。当社と地域事業者、地方自治体、地域金融機関の交差点にはSPC(特別目的会社)を事業ごとに設立し、そこが債券を発行して資金を調達し、対象事業を実施するという事業方式です。

 第一弾事業としては、わかりやすいものからと考えて、民間より遅れているLED化事業から始めることにしました。これが「グリーンボンド発行モデル創出事業」として環境省に採択されました(採択されたのは6つの事業体のみで、地方モデルは北陸グリーンボンドが唯一)。
 そして北陸三県の自治体向けにセミナーを開催するとたくさんの参加があり、試算をすると北陸だけでもLED化は数百億円のマーケットがあることがわかりました。しかし、自治体と実際に話を進めていくと、「お金がないからできない」(その対策として民間資金を活用しようとする提案なのに……)、「今すぐやらなくてもいいのではないか」と言った反応が続出し、最後はいつも「前例がない」と言われ、なかなか話が進みませんでした。
 ところが金沢市が令和2年度に、「体育施設等LED化ESCO事業」を公募し、地元工事店や地元金融機関(北國銀行)と協議して参加表明を行い、9月に事業契約の完了に漕ぎ着けることができました。オール金沢で取り組むこの事業は、内閣府からも「地方創生SDGs官民連携プラットフォーム」官民連携優良事例として評価されました。

 さて、SDGs につながる、官民連携の素晴らしい事例がありますので紹介します。富山県朝日町の笹川地区では水道配管の老朽化により、更新コストの3億円を捻出しないとならない課題がありました。自治体ではなかなか財源が用意できない中、地元の建設会社が地域の川を利用して小水力発電所を作ることを考え、発電で得られる20年間の収益を原資に、金融機関から信託方式で発電所建設費用と水道管の更新費用を借入れ、水道管の更新を実施しました。課題解決コストを環境事業で捻出するという大変興味深い事例です。


 自治体は今、施設の老朽化や自然災害への備え、耐震化など、収益を生まなくてもやらないといけない事業をたくさん抱えています。今までは国からお金をもらうとか、借金をするしかありませんでしたが、再エネや省エネ、畜エネ、その他PPP/PFIと言われる官民連携事業などによって収益を生み、その事業を行うための支払いと課題解決にかかる費用を同時にまかなうことができるかもしれません。そのために必要な資金にグリーンボンドなどの債券を活用する事業がたくさん出てくるのではないかと思っています──

 

金融機関も地域発の官民連携事業を後押し

 金融機関がこのスキームをどのようにして実現するに至ったのか、北國銀行法人ソリューショングループの別所雄紀さんからお話しいただきました〈以下は要旨〉。

 

──厳しい財政の中でバブル期に作られた施設の老朽化の対策が迫られる自治体は、職員数も減っていて、自治体単独で持続可能なまちづくりを行うことは難しくなってきています。今回の金沢市の体育館照明LED化事業では、北陸グリーンボンドから資金調達の相談を受けて一緒に取り組ませていただきました。引き受けた一番の理由は、公共と民間事業者がしっかり連携した事業であったこと。そして、それが地元の企業が主導で行われたことです。LED化事業は今まで行政が個別に対応してきましたが、官民連携でその分野を得意としている民間業者に委託した方が効率も上がり、維持管理の品質も向上します。そして、自治体はしっかりしたサービスが市民に提供されるようにモニタリングするという、官民連携の発想です。
 それに加えて今回素晴らしいと思ったのが、地元の企業が一緒になって企画して、取り組まれていること。事業にかかる費用は自治体から支払われ、それが事業を担う地元の企業の収入となり、そして会社が元気になって行きます。地元の経済が活性化すれば税収が増えて自治体も潤って行きます。このようにお金が地域で循環して地元の経済が持続的に活性化していくという素晴らしい事業モデルであり、地元の金融機関としても積極的に介入していくべきだと考えています。

 北陸地方の自治体は地域ごとにさまざまな悩みを抱えています。自治体の皆さんにはそういった悩みをぜひ地域の人たちと共有して欲しいですし、地域の企業の皆さんには「自分の会社ならこんなことができる」ということをどしどしアピールしてもらえると、さらにこのような話が増えていくと思います。官民がしっかりと対話をしながら、どうすれば地域が良くなるかを一緒に考えていくことができれば、それが持続可能なまちづくりにつながって行きます。
 今回、関係者とは何度も議論を重ね、当行としても「グリーンボンドってなんぞや?」からスタートした初めての取り組みでした。そして、地域の知見やエネルギーを結集していくとなんでもできるような気がしています。ぜひみなさん一緒になって、そこに銀行も入れていただき、地域がどうしたら良くなるかということを考えたいと思っています。

◆今回のプロジェクトのポイントをおさらい
このような大規模な事業は県外の大手事業者が受注することが多かったが、オール金沢で受注できたことで、お金も仕事も地域内での好循環を作ることができた。また、地元の企業が工事を行うことにより、移動などで排出されるCO2の排出量を抑える効果もある。

 

グリーンボンドの可能性について話し合おう

 今回のパートナーシップの一翼を担う自治体を代表して、金沢市環境政策課ゼロカーボンシティ推進室の山田博之室長にもパネリストとして参加してもらい、いただいた質問に答えながら、オンラインパネルディスカッションが始まりました〈以下、ダイジェスト。敬称略〉。

質問:山田さん、グリーンボンドをやってみようと決めた一番の理由とは?
山田:グリーンボンドはプロポーザルの要件ではなかったが、ESCO事業としてご提案いただいたいくつかの中で、こちらはオール金沢でできるということで、地域にお金と仕事が回ることと、温室効果ガスの削減効果が高いということなどから総合的に判断した。また、事業費を平準化できるという面からも、非常に優れたものと考えており、環境以外でもこういった事例をどんどん積み重ねていき、浸透していけばいいと思っている。

質問:金融機関は初めてのことをする場合は慎重になると思うが、今回のグリーンボンドでは不安なことはなかったのか?
別所:公共が関わる案件では、返済の原資は自治体から支払われるので、過度な心配は特段なかった。今回の場合はこの事業に向けた融資となるので、事業の計画についてしっかりとすり合わせを行ったので、リスクの軽減ができたと思う。

質問:グリーンボンドは効果を定量評価できないと厳しいのか?
澤田:グリーンボンドのガイドラインでは数値目標を作って投資家に見せるようになっている。ESG投資では、投資したお金が何%の利回りで戻ってくるかということだけではなく、環境面でどれくらいの効果があったのかが投資家には重要になってくる。今後はこれが財務上の評価にもつながってくる可能性があるため、さらにより多くの数値化できるものが必要になってくると考える。

質問:今回のLED化の場合、電気料金の削減などでお金を生むことがわかるが、例えばそういったことと、お金を生まない事業とを抱き合わせるような考えはあるか?
澤田:今までは自治体では課題一つ一つに対して解決方法を模索していた。それぞれの課にはそれぞれの課題があり、しかしその課題を横の課と連携して解決することは苦手。両方の話を聞いて横断的に俯瞰し、プラスマイナスゼロになるようなビジネスを考えられる立場の人がどうしても必要になる。
山田:発電と村おこしをセットにするような事例は最近全国でも出てきているような気がする。自治体というのは初めてのことになかなか手を出しにくく、そういった事例が積み上がっていけば、さまざまなノウハウができて、いろいろな地域課題の解決方法へとつながっていくと思う。

質問:経費を削減して浮かすことができたお金を使うことが、グリーンボンドの基本的な考え方となるのか?
澤田:資金が必要な場合はその返済原資がどこにあるのかが重要。返済原資を例えば太陽光発電であれば売電収益の確実性や、今回のLED化では電気代や維持管理費削減により実現できた経費削減よって捻出するなど、そのような支払原資を先に考えないと金融機関はなかなか乗りづらいのではないかと思う。

質問:今回のグリーンボンドのスキームを通して、これが2030に向けてどんな風になっていったらいいと思うか?
澤田:グリーンボンドに限らず、さまざまな資金調達方法を使って、地域の課題解決のお手伝いをすることを我々は目指している。
別所:グリーンボンドを活用して、地域を盛り上げていってほしいし、もっと地域のいろいろな事業者が関わってくれると、石川県がより良くなっていくと思う。
山田:今の時代は環境がものすごく価値を持ってきている。このような資金などを活用して、こういった事例を積み重ねていくことで、より良いものが生まれていけばいいなと思う。

 

「グリーンボンドはとても可能性のあるやり方だと感じましたし、これが広がることで、さらにいいアイデアも出てくるのではないかと思います」と、国連大学IAS OUIKの永井事務局長が述べて、SDGsカフェ#17は終了しました。

 

セミナーの動画もこちらから視聴いただけますので、是非ご確認ください!

IMAGINE KANAZAWA 2030 パートナーズ交流会 #10(2022年3月25日)の開催

IMAGINE KANAZAWA 2030パートナーズの第10回目の交流会が2022年3月25日に開催されました。時間が経ってしまいましたが、こちらで報告いたします。2022年度最後の交流会は、COVID-19も落ち着き、久々に会場にて開催できました。今回の交流会では、以下の団体の方がピッチプレゼンを行いました。

●発表団体
1)花王グループカスタマーマーケティング株式会社
Kirei Lifestyle Planの実現
2)株式会社こみんぐる
地域社会の持続可能な発展に貢献する宿泊業のあり方

花王グループカスタマーマーケティング株式会社さんは本交流会では2回目のご登壇です。花王グループは生活者向けのコンシューマープロダクツ事業や産業界向けのケミカル事業を行うなど、様々な商品を生み出し続けています。ESG戦略としてKirei Lifesytle Planを掲げ、社会コミュニケーション部門を設置。多様なコミュニティーとの積極的なコミュニケーションを行い、環境、健康、衛生、多様性の観点から社会貢献活動を行っています。生活者の身近なところから貢献すべく、啓発講座を行い、持続可能なライフスタイルを送りたいという思いや行動に応えることを目指しています。

株式会社こみんぐるさんは、100年後も、家族で暮らしたい金沢をつくることを目指し、金沢市旧市街地を中心に24棟の宿泊施設を運営する「旅音」事業を展開しています。「旅音」を旅行者と金沢のきっかけを生むための事業として捉え、金沢ファンを世界中に作ることを目指しています。宿泊施設として、金沢の木造の歴史的建造物である「町家」を活用し、金沢市の景観保全にも貢献している事業ですが、その町家の運営物件数を増やしていきたいと考えているそうです。

また、自然環境に負荷をかけない取り組みを進めていきたいと考えているとのこと。特に、アメニティの素材や備品、それに伴うゴミの取り扱いなどに配慮しつつ、宿泊者のより良い体験を維持し、満足度を保つための方法について検討中とのことです。

IMAGINE KANAZAWA 2030パートナーズは、2021年度は合計8回の交流会を開催し、延べ22団体がプレゼンテーションを行い、243名が参加しました。交流会では、参加者同士の対話を通してつながりが生まれ、参加者の抱える課題が解決へと向かい、SDGs達成に貢献するというオープンイノベーションが起こっています。交流会に参加した団体同士がつながり、いくつかのプロジェクトも動き出しました。

パートナーズ交流会は2022年度はよりパワーアップして開催していく予定です。課題を抱えている団体、地域の社会課題に取り組み、ビジネスを拡大したい団体、またネットワークを形成したい団体はふるってご参加ください。

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