ヒマンガナ・グプタは、国連大学OUIKの研究員兼アカデミック・アソシエイトです。気候変動と生物多様性政策の専門家であり、7冊の編著書と30以上の研究出版物に貢献してきました。また、インド環境森林気候変動省で勤務し、国連気候変動枠組条約に対するインドの国別報告書に貢献してきました。さらに「生物多様性と生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム」のネクサス評価報告書の主執筆者を務めています。今回はOUIKから参加者として2022年12月にモントリオールで開催された生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)の主要なイベントに出席した彼女の経験をまとめました。
生物多様性の損失が自然の生態系に過度の負担をかけていることは、科学界および政界でも今となっては周知の事実です。しかし、これまでの道のりは簡単なものではなく、持続不可能なライフスタイルが生物多様性の損失をもたらしていることを認め、世界の英知が結集するのに半世紀以上かかりました。
元々、生物多様性は国家資源と考えられていましたが、現在ではこれらの損失は健康、食糧安全保障、水資源に影響を与える、地球規模の課題であることが知られています。
今回のCOP15は、これらの重要な課題と生物多様性との大きな相乗効果を持つ複数のセクター をカバーする、長年の懸案であった 「ポスト2020 年生物多様性枠組」の最終決定に貢献しました。この新しい枠組(「昆明モントリオール目標」)には、4つの目標と23のターゲットが含まれ、乱開発、汚染、断片化、持続不可能な農法、気候変動に対処しています。これは2030年までに世界の土地と海洋の30%を保護することを目標としていますが、残りの70%の生態系を忘れてしまうという意味ではありません。さらにこれには都市の生態系、例えば都市の森林も含まれます。2050年の長期ビジョンでは、生物多様性を評価し、保全し、回復し、健康や幸福のために賢く利用することが求められています。
COP15 ではこのビジョンに焦点が当てられ、経済的、社会的、生態学的なレジリエンスを構築するため の伝統的知識についても高い関心が示されました。そのため、各国は新協定の実施に際して伝統的な慣習を取り入れることが推奨されました。また、先住民族のコミュニティからの代表者の多くが、先住民族の土地の権利や文化の喪失について語りました。民間セクターや企業は、先住民族コミュニティへの影響の軽減に関する取り組みについて語りましたが、先住民族グループからは、「真の保全の達成には程遠い」という意見が出ました。
また、都市の生物多様性を高めるための各国地方政府の取り組みも紹介されました。世界各地の首長は、都市における*ネイチャー・ポジティブへの取組について考察し、気候変動と生物多様性の懸念が都市部でどのように取り組まれ得るかについて言及しました。また、非国家主体からは、ネイチャー・ポジティブのためのミッションを盛り込み、権利に基づくアプローチや先住民族・地域コミュニティの権利を確保し、十分な財源を投入することで、気候変動対策や持続可能な開発目標を支援することが呼びかけられました。
*ネイチャー・ポジティブとは?
生物多様性の損失を止め、回復軌道に乗せること。自然を優先する施策、自然にプラスとなる取り組みを行い、「生物多様性を維持する」から「生物多様性を回復させる」ことを目標にした新しい取り組み。
本会議では、採択前の新枠組みについて各国が議論を交わしました。多くの国が生物多様性のための特別な基金の必要性を強調しましたが、「生物多様性を保全するための資金は十分にあるが、有害な補助金によって生物多様性を破壊することに多くの資金が使われている」との意見もありました。生物多様性を保護するために、新協定は、年間5000億ドルの有害な政府補助金を削減し、2030年までにあらゆる財源から少なくとも年間2000億ドルの国内外の生物多様性関連資金を動員するよう求めています。
しかし、この資金は、実際に変革をもたらしてくれるソリューションに投入される必要があります。多くの組織が、生物多様性を保全するだけでなく、向上させるための方法として、自然を基盤とした解決策を提示しました。しかし、生物多様性や先住民族に対する安全装置について、科学界には懸念があるため、これらのアクションは依然として議論の余地があります。COP15 のネイチャー・ポジティブ・パビリオンでは、保護・保全地域、ネイチャー・ポジティブな未来に向けた企業の説明責任、OECMs (その他の効果的な地域をベースとする手段(Other effective area-based conservation measures))とグリーン経済、都市の自然ベースのソリューション、気候変動と生物多様性のネクサスなど、様々な問題に焦点を当てたイベントが開催されました。このような解決策も完全なものとするためには、さらなる交渉が必要です。
最後に、、、
残念なことにCOP15 では、締約国代表団を含む資金提供者や他の主要なステークホル ダーの代表が、気候変動の COP と比較してかなり少なかったです。このことは生物多様性がいまだに重要視されず、重要な地球規模の課題として捉えられていないことを示しています。里山イニシアティブの国際パートナーシップのような、生物多様性に焦点を当てた都市レベルのパートナーシップが、ネイチャー・ポジティブの未来のための真のアクションを先導するために必要だと痛感した経験となりました。