町野川の河口域では、震災前までは海水に浸っていた岩が完全に露出していて、移動することができなかったムラサキインコ、ヒザラガイ、カメノテなどの潮間帯の生物の死骸が多数見られました。今回の地震が私たち人間だけでなく、海辺の生物にとってもいかに大きな影響があったかを物語っていました。河川堤防は大きく壊れ、かつて水が流れていた水路は完全に干上がっていました。しかし、生物にとっては負の影響が起こっただけではなく、地震によって新たな環境も生まれていました。地盤隆起により河口では砂浜が80m近く海側に広がったことにより、護岸により直線化されていた河口部が、新たに広がった砂浜に蛇行し始め、その周辺にはウミネコなどの沢山の海鳥が集まり、水浴びをしたり、羽を休めたりしていました。海浜植物も広がった砂浜へ少しずつ根付き始めていました。
地震の影響で水の流れが滞り、それにより広がった中流部の湿地帯も訪れました。湿地帯に近づくとあちこちで鳥がさえずり、周辺を観察すると、ヘビ、カニ、トンボ、貝類など、たくさんの生き物が見つかりました。地震の影響が大きいなかでも、多様な生き物が新たな環境に適応している様子を知ることができました。
地震により甚大な被害が発生してしまいましたが、地震がきっかけで生み出された新たな環境をいかに地域の「資源」として生かしていくかということも、今後魅力的な地域を創出し、復興を実現する上で重要な点です。今回の視察では、「里山里海の自然環境を活用しながら地域の復興を考えたい」と活動している地元の方々にご協力いただきました。ワーキンググループでは、豊かな能登の里山里海の暮らし、そしてそれを支える自然環境の復興に向けて、地域内外の専門家と連携し、地域住民や自治体をサポートし、取組を進めていきたいと思います。