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【開催報告】食から考える「世界」と「能登」~能登の里山里海の可能性~

日時 / Date : 2020/10/17
場所 / Place : オンライン

国連が定めた10月16日の世界食料デーにちなんで、そして能登の食文化と自然や農業とのつながりを伝える絵本「ごっつぉをつくろう」の動画版の公開を記念し、国連大学OUIKでは世界と日本の食料をめぐる課題について学び、石川県の世界農業遺産「能登の里山里海」で暮らす人々の営みと食とのつながり、そして子供たちの学びの場としての可能性について考えるウェビナーを開催しました。

セミナー紹介

セミナー主催者を代表して国連大学サステイナビリティ高等研究所いしかわ・かなざわオペレーティング・ユニット(国連大学OUIK)の永井事務局長から開会の挨拶がありました。

「国連大学OUIKは、国連サステイナビリティ高等研究所(UNU-IAS)が唯一地方に持つ機関として2008年から活動しています。能登では2011年に世界農業遺産(GIAHS)に認定され、様々な里山里海の保全活用に関する取組を地域の方々と一緒に行っています。その活動の一環として一昨年に「ごっつぉをつくろう」という本を作り、今回のウェビナーはそれにまつわる取組の紹介と10月16日の世界食料デーにちなんで、食から能登の文化や生物多様性、そして教育の可能性や世界へ繋がる議論を考えてみたいと思います。」と挨拶がありました。

 

続いて小山明子(国連大学 OUIK研究員)から、このセミナーの趣旨説明がありました。本日のセミナーには2つのテーマがあり、まず一つ目のテーマの「世界食料デー」について紹介がありました。世界の食料を考える日として国連が指定している日で、10月は「世界食料デー」月間として、世界中で飢餓の問題や食料の課題について考える期間となっており、国連機関が中心となって様々なキャンベーンや取組が進められていること、そして、この後国連食糧農業機関(FAO)の方に世界や日本の食料について紹介頂く旨が説明されました。

次に、もう一つのテーマである「ごっつぉをつくろう」について説明がありました。「ごっつぉ」とは能登半島で「ご馳走」という意味で、同じく食がテーマになっています。

世界農業遺産(GIAHS)「能登の里山里海」には色々な構成要素が含まれ、それが9つの自治体に広く分布しているということが能登GIAHSの良さでもあり、逆に伝えるという点では難しい部分もあるということが紹介されました。能登GIAHSアクションプランにも子供達や住民にGIAHSの価値を分かりやすく伝える必要性が示されており、このような流れを受けて2018年に絵本が作られたことが説明されました。絵本は、食という切り口で能登の農業や自然、文化の豊かさや面白さを子供達に伝えるために能登地域GIAHS推進協議会と国連大学OUIKで制作し、翌年には絵本の実践プログラムとして「SDGs三井のごっつぉProject」が輪島市三井小学校で実施されました。そして、今年度、さらに活用の幅を広げ、より多くの国内外の方々に「能登の里山里海」について知ってもらうために、日英の動画版が制作されたことが紹介されました。

世界の食料問題を考える上でも、能登半島の様な多種多様な農作物を生産することができ、食料生産に関わる知恵や伝統が引き継がれている地域の重要性は高く、そしてこのような地域が生物多様性も守っているという認知度が上がってきていることに触れ、そして、今回のウェビナーが、このような視点から能登GIAHSの価値をさらに考えるきっかけになれば、と発表を締めくくっていました。

 

基調講演「世界と日本の食料をめぐる課題」

基調講演は、世界食料デーの取組を進めている国連機関の一つであり、そして世界農業遺産の認定機関である国際連合食糧農業機関(FAO)の駐日連絡事務所のリエゾン・オフィサーの三原香恵氏から、「世界と日本の食料をめぐる課題」との題で講演いただきました。

SDGsゴール2では、飢餓を終わらせ食料安全保障と栄養改善を実現し、持続可能な農業を促進するということを目標にしているが、現在世界では20億人以上の人が安全で栄養価の高い十分な食料を定期的に入手することができておらず、現在の飢餓人口は推定約7億人、11人に1人という高い割合で、そして残念ながら近年も増加傾向にあることが紹介されました。

FAOが設立された75年前は、「食糧危機」というのは「生産の危機」とも言えていたが、その後数十年の間に環境的、また持続可能性の懸念によりビジョンはより複雑化し、より包括的な開発への理解が必要となってきているとお話がありました。2014年頃までは減少させることができてきていた飢餓が、それ以降は紛争や気候変動の影響、経済後退などの複数の要因によって上昇していること、そして、農業食料システムのバランスが失われてきており、飢餓と同時に肥満、環境悪化、食料のロスと廃棄などの様々な問題が存在し、また同時にコロナ禍の影響でフードチェーンに従事する人々の安全が脅かされるなど、様々な問題や課題が混在しているそうです。新型コロナウィルス感染症の大流行による景気後退の結果として、年末までに1億3000万人が新たに飢餓に陥るという可能性があり、より良い復興に向けて私達すべてが世界規模で連帯し行動することの重要性が述べられました。

FAOの調査によると、収穫後から小売りまでに約14%の食料ロスが発生しており、小売り以降でも大量のディスプレイや外観への要求、無責任な購入など様々な理由により沢山の食料が廃棄されていることが分かっているそうで、食品ロスから排出される温室効果ガスは、年間3.6ギガトンと推定されているそうです。日本における年間食料廃棄は、約612万トンと算出されており、国民1人1日当たり約お茶碗1杯分のご飯に相当する食料が捨てられているという計算になり、ぜひこの機会に自分たちに何ができるのかということを考えてもらいたいと話していらっしゃいました。

新型コロナウィルス感染症の拡大に伴う世界の食料供給の不安定化も世界の食料安全保障へのリスクとなっているそうです。日本は多くの食料を輸入に頼っており、食料自給率はカロリーベースで38%とかなり低いレベルになっているため、私達の食料の安定確保には生産・流通・消費面での変革やより持続可能なフードサプライチェーンの構築などが必要と話されていました。また地産地消の概念が、このコロナ禍においてますます重要になっているとおっしゃっていました。

そして、最後に世界農業遺産(GIAHS)についてお話し頂きました。GIAHSは、FAOが2002年から取り組んできた活動で、国際的に顕著な特色を有し、次世代に引き継ぐべき農業生産システムを指定し保全をうながすとともに、取り巻く環境への適応や更なる発展を目指すものであると紹介がありました。GIAHS地域では、幾世代にもわたり持続可能な農業生産を形成・維持してきており、その結果農村地域の食料安全保障や生計に大きく貢献しているそうです。現在世界では22か国、62地域に、日本には11地域にGIAHSが認定されており、能登GIAHSは2011年に佐渡市と共に日本で初めて認定されたことが紹介されました。日本では少子化のために農業労働者が不足しており、農業の後継者の問題は共通の課題であるということ、そしてFAOでは農業のデジタル化も促進しており、IT技術を活用してより効果的・効率的な活動を農業分野でも促進していることが説明されました。こうしたIT技術を活用することによって農業が若者にとっても魅力的で身近なものとして感じられるようになるのではないかとのお話でした。「今後も能登の里山里海での活動を次世代に引き継ぎ、独自のすばらしい魅力を発信し、スタディーツアーの受け入れなどを通じて国際貢献も積極的に行って頂きたい」と期待を述べて、発表を締めくりました。

 

事例紹介「SDGs三井のごっつぉ Project」

「ごっつぉをつくろう」の絵本の制作段階からアドバイザーとして関わって頂き、輪島市三井町で活動するまるやま組の萩野由紀氏より「SDGs三井のごっつぉ Project」と題して、「ごっつぉをつくろう」の実践プログラムとして昨年度実施された三井小学校での活動について、お話いただきました。

まず、 輪島市三井町市ノ坂の里山地域で萩野さん達が10年間近く行ってきている、「土地に根差した学びの場」の取組の紹介がありました。具体的には、地域内外の老若男女に集まってもらい、集落の植物などのモニタリングを行い、その結果を境省に送るということ、そして地域の方がしている伝統的な農業や祭礼など、生活の中にある知恵を集めたり、共有したりということをしてきたそうです。そして、2018年にはそういうものを次世代に伝えるためのツールとして絵本「ごっつぉをつくろう」の制作にも携わり、2019年にはその絵本をつかって子供たちに具体的な授業を実施し、その報告資料として「ごっつぉ草紙」を制作し、「世界食料デー」に合わせて発行したとの説明がありました。その資料を用いて、具体的な授業内容を紹介頂きました。

この報告書は、三井小学校と実施した授業7回とフィールドトリップ1回をまとめたものであり、表紙には「今伝えたい能登の食べごとの記録」という言葉が添えられています。この集落の人々の暮らしの中は、食料というのは食べることだけでなく、そのために種をまくこと、畑を耕すこと、草刈りをすること、煮炊きをすること、神様に食べ物を捧げて感謝することなど、全てが繋がっているため、ここでは「食べごと」という言葉を用いたことが紹介されました。世界では、生物の絶滅や生物多様性が危ぶまれていますが、生き物が失われるのと同時に、地域に根差してきた「食べる」ということにまつわる事も消えかかっているため、この取組は、その様な食べ物にまつわることを子供たちと一緒に記録し、次の世代に伝えていこうという思いで実施されたことが話されました。

最初の5月の授業は、学校を出る前に「ごっつぉをつくろう」の絵本を地域の方に読み聞かせをしてもらいスタートしました。最初に絵本に触れておくことで、予備知識も入ると同時に、ただただ遠足に行くというのではなく、これから何をしに行くのかという心構えを持って出かけていくことができたそうです。そして、事前にごっつぉの先生としてその土地の事をよく知っている集落の方にお願いし、わらびの見つけ方・見分け方、傷つけずに運び、塩漬けする方法など、食べるための知恵を五感を通じて伝授して頂いたとのことです。報告書には季節ごとに採れる食材も紹介されており、同じ時期に出会った食材のことを能登では「合口(あいくち)」と呼ばれていることも紹介されています。「イワシ」と「アサツキ」を合わせた「ぬた」や、「ワカメ」と「タケノコ」を合わせた「若竹汁」などがあるそうです。季節の食材を活かしながら健やかに暮らしていく知恵が見られる授業を行っているとお話になっていました。6月の授業では、ゴリという川魚を獲ることを学びました。子供たちは、ゴリをとるために使う道具について学んだり、実際に捕まえて生きているものから命を頂くということを体験したりしたそうです。

7月には、珠洲の海辺へフィールドトリップに行き、トビウオを使った能登の伝統的なあご出汁作りを地域の方に手ほどきを受け学び、お昼にはあご出汁を使った素麺を食べたりしたことが紹介されました。能登SDGsラボも訪問し、OUIKの永井事務局長から能登の自然資源や伝統の知恵を、SDGsという視点から見るとどんな風に見えてくるかという話を聞き、子供たちはSDGsとのつながりについても学びました。そして最後に、トビウオを焼くために使っていた能登の珪藻土コンロの工場、そして魚を捌くための包丁を作っている鍛冶屋さんを訪問し、食を支える様々な調理器具や農業や漁業に欠かせない道具についても学んだことが説明されました。次の回は、同じく7月に輪島の里山で実施され、農村の風景の中には様々な絶滅危惧種がいるということを学びました。

そして10月の秋の回では栗やキノコを収穫したり、ゆでた栗に糸を通して干す「かち栗」を作ったりしたそうです。そして、一通り里山と里海の恵みについて学んだ後で、11月には国連大学の富田さんや元青年海外協力隊の方などから世界の食や飢餓について学び、能登の食について振り返る機会を設けたこと、そして最終回の12月には農耕儀礼「アエノコト」に参加し、田んぼの神様に自分達で集めた「あご出汁」、「かち栗」、「ワラビの塩漬け」をお供えし、1年間の豊かさに感謝したことなどが紹介されました。

「地域の方を先生に、五感を使ってリアルで学ぶ入口としてこの絵本を取り入れた学びの場が各地域でできるととても入りやすく、今回1年生から6年生まで学年を問わず対応できたので、とても有効なツールだと思っている」と述べ、取組紹介を締めくくっていました。

 

動画「ごっつぉをつくろう」


休憩時間と合わせて、次の対談セッションに移る前に参加者には動画「ごっつぉをつくろう」を視聴して頂きました。

対談セッション「ごっつぉつくろうの制作と里山里海を活かした教育活動の可能性」

小山明子研究員がモデレーターを務め、「ごっつぉをつくろう」の絵本制作段階からアドバイザーとして関わって頂いた岐阜大学地域協学センター助教の伊藤浩二氏、動画の鳥の声のアドバイスを頂いた金沢大学先端科学・社会共創推進機構の岸岡智也氏、絵本のイラストと動画制作を担当頂いたイラストレーターの松村有希子氏、絵本と動画のネイティブチェックをお願いした(株)ポリゴン・ピクチュアズ/元石川県国際交流員のカルム・ガルト氏、絵本と動画の方言のアドバイスをお願いした いしかわ自然学校インストラクターで保育士の中村真由美氏、そして事例紹介をいただいた萩野由紀氏に加わって頂き、後半は対談を行いました。

小山:動画制作に関わった感想を伺いたいと思います。

伊藤:先ほど私も動画を視聴しましたが、絵本が動き、祭囃子の音楽が聞こえるというのは非常に面白く、楽しく観ることができました。主に、生き物のリアルな描写などの監修役として関わりましたが、皆さんの努力でこのような本ができたことは本当に素晴らしいことだと思っています。2009年から萩野さんと里山の植物のモニタリングを行っていて、そこで学んだ里山の知恵というものがこういった絵本や動画、ごっつぉ草紙の様な形で皆さんの手に取ってもらえるということが感無量だと思っています。そして、これが英語版の絵本や動画となってさらに広く多くの人に能登の豊かさが伝えられるというで、モニタリングということが持つ大きな可能性を感じた機会でした。

岸岡:珠洲市にある金沢大学能登学舎でスタッフをしていて2016年に能登に移住してきましたが、能登は自然と深く関わった人々の暮らしが身近にあり、季節感を感じられ心が豊かになる場所だと感じています。その経験を少しでも今回の動画制作の中で役立てることができたということを嬉しく思っています。動画内で田植えの時期にホトトギスという鳥の「テッペンカケタカ」という鳴き声が流れるのですが、この鳥の鳴き声は田植えの時期を知らせる鳥として枕草子にも出てきます。動物と人との関わりというのはすごく昔からあったということがこの動画を通じて皆さんに伝わればいいなと思いました。

松村:実は去年の夏から夫の転勤で他県に住んでいるのですが、それまで7年弱七尾市に住んでいました。難しかった点なのですが、絵本にも動画にも共通して言えることは、経験していたことは描きやすかったのですが、経験したことがないことは細かいところを詰めるときに戸惑いました。ただ、制作に関わっていたメンバーに詳しく説明してもらえたので、とても助けられました。難しさもありましたが、同時にそれは面白さで、例えばウミゾウメン採りのことや、のりの作り方が地域によって異なることなど、初めて知ることが沢山あり、もともと能登の文化には興味がありましたが、今回関わることでますます惹かれました。

ガルト:現在はアニメーションの仕事で翻訳通訳をしていますが、1年ぐらい前まで5年間石川に住んでいて、津幡町教育委員会で国際交流員として、そしてその後3年間石川県国際交流協会で国際交流員として働いていました。能登半島には、仕事の関係で通訳や留学生のツアーのアテンドなどで何回か行ったり、お祭りが大好きなのでプライベートで毎年お祭りに行ったりしました。ネイティブチェックをしていて難しかった点ですが、この地域でしかしゃべられていない方言は英語に置き換えることができず、残念だったということです。そして、英語には概念がない、もしくは存在しない「お神輿」などの言葉については、それを説明しなくてはいけなかったことも難しかったです。そして、絵本を訳すのは初めてだったので、子供向けの言い回しや表現の仕方などが、いつもの仕事と異なり面白く刺激的でしたが、難しい所でもありました。

中村:方言の部分で関わらせてもらいました。絵本を見て、ここならこういう風に言うかな、と思いながら自分で読んだものを送らせてもらいましたが、今動画を見て地元の人がしゃべっているのではないかと思うくらい、ナレーターのイントネーションが素晴らしかったです。そして松村さんの絵とともに、能登の優しい所が出ているような動画になったと感じました。自分が教えている子供達にもぜひ見せてあげたいと思いました。

小山:伊藤先生は、植物の専門家として能登に長く関わっていらっしゃいますが、人々の生活と植物の関係性に関する部分で視聴者の方に伝えたいことはありますか?

伊藤:絵本の中でも植物と農作業など人との関りが紹介されるシーンが幾つかあったかと思います。子供たちが里山の植物の知識を、経験を通して学ぶというのは非常に価値があることだと思います。このような豊かな里山の環境が残る能登でも、その様な知識を学ぶ機会というのは減ってきていると思います。地域と学校が連携して里山の事をリアルに学ぶ教育機会を作った、三井小学校とまるやま組の取組はとても素晴らしいと思います。

絵本の中で紹介された「ネムの木の花が咲くころに小豆の豆をまきましょう」というエピソードや「タウエバナ」という花が咲いた時期に田植えをするという話は、私達がまるやま組の活動で、モニタリングや観察会をしている中で地元の方に教わった知恵です。こういう絵本の中で紹介された知恵を、実際に子供たちがチャレンジして自分で感じるというのは、とても面白い体験になったのではないかと思います。こういった取り組みは能登だけでなく他地域でも展開可能だと思います。その地域ならではの植物と人の関係があると思うので、地域ならではの関係性というのを探し出すというのも、クリエイティブで楽しい経験になるのではないかと思います。

小山:岸岡さんは鳥に詳しいですが、鳥と能登の方々の関係性はどうなのでしょうか?

岸岡:鳥の写真を撮るのが趣味で、能登でも鳥ばかりを追いかけているので、鳥を事例に話したいと思います。動画を見て、人々の豊かな暮らしが自然の恵みから成り立っているということが良く理解できたかと思いますが、逆に人々の里山里海での営みによって生き物の暮らしや多様性が守られているという逆の側面もあると思います。先週辺りから、白鳥が能登にも渡ってきていますが、冬の間はため池で夜を過ごしたり、田植え後の田んぼで餌を探したりと、人々が活動している暮しの場所を生活の場所として利用しています。人々と生き物の関係というのは一方的なものではなく、お互いに影響し合っているという視点はとても重要かと思います。

小山:松村さんが、能登半島の地域の方と色々と仕事をしてきて感じていることを紹介していただけますでしょうか?

松村:特に印象的なのは、地元愛が強いというのをどなたからも感じたということです。今、過疎化が進んでいて若い人も減ってきている中で、移住や地元の方が連携して、賑やかにしようとしている印象を受けました。

小山:そうですね。新しく移住してきた方達の活動もどんどん始まってきているので、そういう部分も能登の魅力かと思います。ガルトさんは、海外から日本にお越しになっていますが、海外から来た方の目線で能登を見ると、どんな感じでしょうか?

ガルト:まず、能登半島は非常に自然が豊かでとてもきれいな場所です。第一印象は、食べ物が美味しく、お祭りなどが非常に楽しく、都会から離れた場所ではあるが、誰でも受け入れてくれるような温かい人たちが住んでいる地域で、個人的にとても好きです。能登出身の友達がいて、彼の故郷の富来の集落では若者が足りていないため、外国の友人何名かと一緒に祭りに参加させてもらい、思い出に残るとても良い経験をさせてもらいました。お祭りの文化も歴史的なもので好きですし、人の温かい心もとても好きです。

小山:ガルトさんに、「海外にも地域ごとのご馳走はあるのでしょうか?」と視聴者からの質問がきていますが、お答え頂けますでしょうか?

ガルト:スコットランド系アメリカ人なのですが、日本では地域ごとに言葉が違ったり、祭りの文化が違ったりしますが、スコットランドの北の地方に行くと昔ゲール族が住んでいた地域があったり、バイキング族とゲール族の文化が混ざっている島などもいくつかあり、独特な祭りなどの文化もあります。東海岸には島が沢山あり、島ごとに祭りなどの文化的なイベントがあります。

小山:中村さんは、保育士や石川自然学校のインストラクターとして日頃から子供と接する機会が多いと思いますが、能登の里山里海について、子供の学びの場としてどのように感じていますか?

中村:最近イノシシや熊が出るなどの面で危険度が上がってきたという部分はあるのですが、普段の保育の中で山や海に行くことが毎日のようにできる地域で、頻繁に外に出ることができています。その活動を通じて生き物や草花に触れるなどの実体験ができる、というところが子供達に一番いいことではないかと思っています。私が住む能登島では、普段の生活に自然が密着していて、先日一人の子供が「サザエの刺身を食べてきた」という話から、子供たちみんなが食べたことがある、という話に発展したのですが、私が「サザエを食べたことがない人もいる」ということを話すと皆が驚いていました。普段の生活が海や山に密接していて、子供たちも採ってきたものが料理されて食卓に上がるということが、何となく見えているということを感じています。そういう実体験ができるというところが能登の一番良い所と、今感じています。

小山:萩野さんから高齢の方の知識が若い世代に全ては受け継がれていない、という話はありましたが、全国レベルでみると、能登には地域に根差した食など地元のことを知っている子供達がいるのかと思います。

中村:それが先ほど松村さんが話していた地元愛というところに繋がっていくのかなと思います。

小山:子供たちとの活動をされていて、そして能登に子連れで移住してきた萩野さんは、能登の地域をどう感じていますか?

萩野:東京生まれ、東京育ちで、子育て中はアメリカで過ごし、能登へ移住したという経緯をもっています。3人の子供を能登で子育てをした中で、自分の子供たちに伝えたいこと、ここにいるからできることは何だろうと思ったときに、学校で学んでいる普通の教科は日本では皆がしていることで、できて当たり前、やって当たり前のこと。やはりこの豊かな自然があるということ、そしてそれと関わってきたその土地にしかない知恵というのが子供を送り出す前にどうしても伝えたいこと、と思いながら日々暮らしてきました。自然はあり、知恵はあるのだから、教育を自給自足してしまえばいいのではないか、と思いました。地域ごとの子供に伝えたいこと、というのを地域の人が集まって考え伝えていく、そしてグローバルになった時にその土地らしさを持った子供を育てていく、ということがその地域を守ることにつながると思います。

そういう風に日本の端っこに住んでいる子育て中の一人のお母さんが思ったことを、国連大学の方が受け取って下さり、絵本や動画が日本語や英語でできてしまいました。個人レベルの小さなことを受け取って、垣根無しに混ざり合い、この3年間でこれだけの成果ができているというのは結構すごいことなのではないかと思っています。どの地域でも自分達が子供に伝えたい教育、学びの形を自分たちで作ればいいのではないかと思いました。

小山:最後に能登の可能性や期待することを一言ずつお願いします。

岸岡:先ほど萩野さんからも生活の知恵がすでに失われ始めているとの話がありましたが、私達の世代でもすでに失われているので、子供だけでなく私達の世代も含めて自然との付き合い方、自然からの知恵というのを改めて学んでいかなければいけないと感じました。

松村:能登を離れてこの一年間は能登で見てきた、梅の土用干しや秋の稲架干し、冬の朝や能登島近辺でナマコ獲りをしている風景などを思いながら過ごしてきました。能登を離れても能登の仕事を頂いているので、引き続き能登の魅力を発信できるよう力をいれていきたいと思っています。

ガルト:能登半島や日本全体で、地方で人口が減ってきています。コロナの影響で、今自宅から仕事をしないといけないという状況だと思いますが、逆にポジティブに考えると、ある意味強制的に日本の働き方を変えてくれているとも言えます。若者たちはわざわざ都会に引っ越さなくても、どこに住んでいても色んな仕事ができる、というのが普通になったら、お金や人が全て東京に集まってしまうという現象はよくなるのではないでしょうか。地域愛を持って地域に残って仕事をしたいという人が将来的に増えていくかもしれません。ぜひそうなって欲しいと思っています。

中村:私の住む能登島では地域の繋がりの強さを感じています。今年は、そういう人が集まるということが、できなかったと思います。お祭りで子供たちが自分の頑張ってきたことを披露する場も今年は無くなってしまって、お兄さんお姉さんから伝承してきたものを繋げることの難しさを今年は感じました。色んなことを伝承するというのが途切れ始めているということを感じましたし、今私の年代の人が80代90代の人から学び、それを次の世代の人に繋げるという活動が大事、ということを今日改めて感じさせてもらいました。この状況の中でも子供たちに伝えたいこと、というのは沢山あるので、少しずつでも発信していけたらと思います。

萩野:今日改めて動画を見て、絵本が先に出来ていたのに、先に動画があったかのようなすばらしい完成度だと感じました。絵本はやはり動かないもので、割と一方的なもので、私が本当に伝えたいものはプログラムでしてきたような人間同士と自然とのやり取りです。ただ、なかなかそこまでが難しい状況にいる人たちにとってはその中間の素材として、鳥の声が聞こえたり、煮炊きする音がしたり、五感を刺激される感覚を疑似体験できるので、素晴らしいツールになったことが嬉しいです。そしてこのツールを使って、また能登を発信して頂けるということでとても楽しみにしています。

小山:それでは、最後に伊藤先生から総括のコメントを頂けますでしょうか?

伊藤:今回のウェビナーを通して重要だと思った3つの点についてお話したいと思います。まず1つ目は、動画作りを通じて世界農業遺産「能登の里山里海」を伝える非常に楽しいツールができたと思います。世界農業遺産というのは単に千枚田や海女さんという単体のものを示すものではなく、農業、文化、生物多様性など、色々なものの繋がりを認証した制度です。それを「繋がり」というと、なかなか人に伝えるのが難しいのですが、この絵本はその繋がりを分かりやすく、そして魅力のある形で表現できていると思います。祭りの文化がストーリーの軸として出てきていますが、それは能登の人にとっては馴染みのあることで、分かりやすかったと思います。学術的に言うと「生物文化多様性」というコンセプトがるのですが、これから里山里海の大事さというのを皆さんに共感して頂く上で、祭りなどを軸に伝えていくということがすごく大事になるのではないかと思いました。

2つ目としては、里山里海の豊かさを自分事にするというのを大事にしていったらよいと思っています。最初、絵本を基に学校現場で使える教育ツールを作ろうということで議論を始め、当初はボードゲームなどを作って遊べたら子供たちが喜ぶのではないかという話もしていたのですが、議論を重ねる中で、やはり実体験を伴う体験をビジュアルで見える「ごっつぉ草紙」の様な形でまとめるというのがいいのではないかということで、今回こういう形になりました。先ほども「繋がり」というキーワードを言いました。子供たちがワラビ採り体験をするという場面が紹介されていましたが、それをきっかけにワラビは明るい環境に生えるということを子供たちが知り、その環境を維持するために草刈りをし、そしてワラビが生える環境に生える「トモエソウ」という絶滅危惧種があるということも、観察を通して知りました。里山を手入れしていくことが周りの生き物を守っているのだということを、体験的に学ぶことができたと思います。このように点と点の知識や体験が頭の中で繋がった時に、実感として里山の豊かさを理解できたのではないかと思います。

3つ目ですが、共通の目標を持つことの重要性についてです。先ほど中村さんから、里山里海の生きた知恵というのを、子供たちに伝えるということが途絶えようとしているのではないか、というコメントがありました。伝えるのが難しい家族構成などになりつつあるのではないかと思います。それゆえに、三井小学校でやられたように、学校現場でそういう機会を作っていくということが、これからとても重要な意味を持ってくるかと思います。その時に行政・民間・学校現場が連携してそういう機会を作っていくということが、すごく大事だと思います。この様な活動を継続してやっていくというのは、なかなか苦労が伴うと思うので、継続化できるように行政が支援していくというのが重要かと思います。私から一つ提案できるのは、文科省で「地域学校共同活動」という、学校と地域が一体となって学ぶようなプログラムを予算的に支援していく制度があります。この様なものを能登地域でもぜひ広めていって欲しいと思います。県内でも導入されていますが、能登ではまだ広がっていないので、この「ごっつぉ」の体験的な学びというのをぜひ能登でも広げられるように、地域の方も含めて学校をサポートしていけたらよいのではないかと思いました。

閉会の言葉           

国連大学OUIKの渡辺綱男所長から閉会の言葉がありました。

数年前にOUIKが能登で開催した里海セミナーで講演頂いた九州大学の清野先生とお話しする機会があり、福岡の宗像や長崎の対馬などの地域の里山里海の話を聞いたとお話がありました。清野先生は、「それぞれの地域が持っているかけがえのない資源を守り活かし、未来につないでいくために、科学的な価値の理解を深めていくことはとても重要だが、同時に地域の歴史や祭り、信仰、暮らし、そしてなによりも地域の方の思いや誇りに結びついた、文化的な価値をみんなで見つめ直し、共有していくことが欠かせない。」と、お話になっていたとのことです。今日皆さまの話を聞き、正に里山と里海の資源を活かしてきた知恵や「ごっつぉ」作りなどを子供たちと見つめ直し、学んでいくことは、里山里海を保全・活用し、継承していくために、そして地産地消を進めていくために、とても大切な意味があると改めて感じた、と述べて、セミナーは終了しました。

 

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