金沢:アーカイブ
2025年05月27日
2025年5月22日、金沢市文化ホールにて、都市生態系再生国際シンポジウム「金沢から考える 都市の緑と文化、人々のつながり』が開催されました。世界中で都市が進化を続けるなかで、自然、文化、そしてコミュニティのつながりは、都市のアイデンティティをかたちづくり、持続可能な未来への道を拓く重要な要素です。本シンポジウムは地域住民の参画や文化的資源を生かした都市生態系の再生について、国内外の専門家やモデル都市・パイロット都市の代表者が意見を交わしました。
シンポジウムは村山卓(金沢市長)による開会あいさつで始まりました。その後、基調講演では以下3名にご登壇いただきました。
ユリア・ルブレバ(国際連合環境計画(UNEP)都市自然、アソシエイトプログラムオフィサー)
イングリッド・コッツィー(イクレイ アフリカ事務局 自治体生物多様性・自然・健康担当ディレクター)
鈴木渉(自然環境局自然環境計画課生物多様性戦略推進室 室長)。
ユリア・ルブレバ(国際連合環境計画(UNEP)都市自然、アソシエイトプログラムオフィサー)は「人と地球のための都市自然:生態系の再生とコミュニティの再構築」をテーマに発表し、健康でレジリエントな都市を築く上で、自然の果たす役割の重要性が認識されてきていると強調しました。単に美しさのためではなく、この変化する世界において、生命を維持し、文化を育み、コミュニティを強化する能力を持つためには、都市と自然を再びつなぐことが重要であると述べました。
続いて、イングリッド・コッツィー(イクレイ アフリカ事務局 自治体生物多様性・自然・健康担当ディレクター)は「都市のウェルビーイングとレジリエンス、そして人と人をつなぐ自然の力」をテーマに発表し、生態系と人間のウェルビーイングの強いつながりを反映した都市の例を紹介しました。さらに、パートナーシップと積極的なコミュニティ参加の重要性を述べました。
鈴木渉(自然環境局自然環境計画課生物多様性戦略推進室 室長)は、「自然共生社会の実現に向けた都市の役割」をテーマに発表し、生物多様性の改善のためには、緑の保全・再生、気候変動対策、持続可能な生産、消費の抑制を同時に進める必要があると強調しました。また、2020年以降の生物多様性世界枠組み(GBF)の実施、日本の新しい生物多様性国家戦略や地域レベルでの自然ベースの具体的な活用まで、世界、国、地域をつなぐ貴重な洞察を述べました。
後半のパネルディスカッションでは 内田東吾(イクレイ日本事務局長)がモデレーターを務めました。パネリストには、以下8名が参加しました。
ジェイラン・サフェット・カラウラン・ソズエル(トルコ・イスタンブール 戦略開発プログラムコーディネーター/都市デザイナー)
アンソニー・ポール・ディアス(米国・シアトル 公園・レクリエーション部長)
フランソワ・モロー(フランス・パリ 都市生態学庁長)
キンバリー・アンネ・ステーセム(カナダ・トロント 都市林業部長)
ラウラ・エルナンデス・ロサス(メキシコ・メキシコシティー生物多様性戦略コーディネーター)
ジュディス・アニャンゴ・オルオーチ(ケニア・キスムCECM(郡執行委員会委員-大臣)水、環境、気候変動、自然資源担当)
フアン・パストール・イーヴァルス(日本・UNU-IAS OUIK研究員)
池田徹大(日本・金沢市文化スポーツ局文化財保護課)
「文化と自然から考えるコミュニティ主導の都市再生:世界の視点から」というテーマで、パネリストが各都市活動を紹介、経験を基に意見を交わしました。
イスタンブール(トルコ)では、都市空間における自然の回復を目指す「アーバン・リワイルディング(都市再野生化)」プロジェクトが進行中であり、生態系の再生と市民の自然との共生を図っています。
シアトル(米国)では、地域住民のボランティアが中心となり、都市内の自然再生活動に積極的に取り組んでいます。これにより、市民参加型のエコシステム保全モデルが構築されています。
パリ(フランス)では、市庁舎前の広場の緑化が進められており、都市の中心部における自然環境の創出が実現されつつあります。
トロント(カナダ)では、先住民族との和解を基盤とした生物多様性回復への取り組みが展開されており、伝統的知識と都市政策の融合が進んでいます。
メキシコシティ(メキシコ)では、都市自然の保護・発展を目的としたネットワークの形成や、女性のリーダーシップ、地域コミュニティの参加を促す活動が行われています。
キスム(ケニア)では、住民主導の取り組みによって、ヴィクトリア湖の環境回復が進められています。地域に根ざした保全活動が実を結びつつあります。
金沢(日本)では、用水や庭園システムを活用した都市内生態系の保全に加え、地域の伝統的知識と住民の協働による自然との共生が推進されています。
パネルディスカッションでは、シンポジウムの前に行われた視察やワークショップに参加したパネリストたちが、金沢で学んだことや経験したこと、それぞれの都市に持ち帰りたい見識や印象を共有しました。特に金沢市の用水活用、庭園や地域主導のホタルの保護活動について、印象的であったと述べました。さらに、パネリストは、猛暑、洪水、有害農薬、湖汚染、資金確保の難しさなど、各都市が直面している課題についても言及し、持続可能な都市を構築するためには、グリーン、ブルーインフラを増やすだけでなく、自然に基づく解決策 (Nature-based solutions) を採用することが重要であると強調しました。各都市で課題は異なるが、課題解決にはコミュニティの参加が重要であると締めくくり、ディスカッションを終了しました。
最後に、閉会時の挨拶で山口しのぶ(国連大学サステイナビリティ高等研究所 所長)は、パネルディスカッションで共有された各都市の事例を引き合いに出しながら都市生態系の再生は「人の関わり」によって実現するものであり、自然は人が関与することで豊かになると強調しました。さらに「生態系の回復とは、同時に関係性の回復でもある」と述べ、人と場所、過去と未来、そして同じ都市空間を共有する多様なコミュニティのつながりを再構築することの重要性を語りました。
本シンポジウムは、UNU-IAS OUIK、環境省、金沢市の共催のもと開催されました。また、国連環境計画(UNEP)、持続可能な都市と地域をめざす自治体協議会(イクレイ)日本事務局、石川県、北國新聞社にご後援いただきました。
2025年05月27日
2025年5月21日
2025年5月21日、国連大学サステイナビリティ高等研究所いしかわ・かなざわオペレーティング・ユニット(UNU-IAS OUIK)主催による「都市生態系再生国際シンポジウム」の一環として、金沢市内の自然・文化資源を巡る現地エクスカーションが開催されました。
国内外から参加した都市代表や専門家ら約20名が、金沢の水辺環境や文化的・歴史的景観、保全・再生活動などを視察し、都市の自然と文化が共生する取り組みについて理解を深めました。
金沢の水辺文化に触れる
午前中は、犀川沿いのウォーキングからスタート。都市中心部を流れるこの川は、市民に親しまれる憩いの場であり、100年の歴史を持つ犀川大橋も訪問しました。続いて、都市用水として整備されてきた鞍月用水と、その再生プロジェクトによって生まれ変わった「せせらぎ通り」を視察。かつて蓋掛けされていた用水を、市民と行政の協働で開渠化し、まちなかの自然景観として再生した取り組みが紹介されました。
歴史的庭園と都市生物多様性
千田家庭園では茶会を通じて、金沢に伝わる武家の文化と都市自然との共生を体感。さらに、西氏庭園では、用水を取り入れた庭園構造や、文化財としての価値、官民連携による保全の取り組みについて学びました。金沢市の「歴史的庭園振興プラン」も紹介され、市民や観光客が保全に関わる新たな仕組みづくりへの期待が高まりました。
観光と持続可能性のバランス
午後は、観光地として人気の東茶屋街を訪問。増加する観光客と地域の文化資源の保全との両立を目指した取り組みが紹介されました。続いて訪れた心蓮社では、禅と都市自然、人口減少社会における都市自然の役割について学び、このような場が持続可能なまちづくりの担い手となる可能性にも言及がありました。
参加者の声
参加者からは、「都市の中心に水の流れを利用した豊かな文化が栄えており、それらが共存していることに驚いた」「市民の参加が都市の再生を支えている点が非常に参考になった」など、多くの前向きな感想が寄せられました。
本エクスカーションは、都市の自然再生において文化や市民参加が果たす役割を体感的に学ぶ機会となり、翌日に開催予定のシンポジウムへ向けて大きな学びとなりました。
2019年07月10日
金沢の日本庭園の活用方法を防災、観光、景観など多面的なアプローチから解説すると共に、持続可能な都市と生態系保全に向けたアイデアを提唱しています。
2016年07月01日
日時 / Date : 2016/07/15 13:00 -17:00
場所 / Place : 金沢大学中央図書館 オープンスタディオ 2階
国連大学サステイナビリティ高等研究所と金沢大学留学生センターは、日本で学ぶ留学生によるSDGsワークショップを開催します。このワークショップは、7月11日から14日まで行われる、金沢市を中心としたSDGs達成のためのフィールドワークの報告会を兼ねています。金沢大学留学生センターに在籍する留学生、国連大学サステイナビリティ高等研究所のアカデミックプログラムの修士、博士課程で学ぶ留学生が「創造都市・金沢」を建築、エネルギー、教育、自然資源管理などの側面から議論します。
SDGsに興味がある皆様のご参加をおまちしております。言語は英語のみとなります。 ご登録は ryukou@adm.kanazawa-u.ac.jp まで氏名、御所属を記載のうえお送りください。
2018年07月10日
OUIK初のマップブックとして、北陸地方の里山里海の現状や変化、多様な見方を地図から学ぶ教材を発刊しました。北陸地方(石川、福井、富山、新潟、岐阜)のスケール、石川県のスケール、七尾湾のスケールといったマルチスケールでの地図情報をまとめています。(PDF:95MB)
関連ページ(Collections at UNU) http://collections.unu.edu/view/UNU:6540
2024年10月29日
金沢市内には、建造物や用水、庭園や鎮守の森など、まちの歴史を今に伝える歴史遺産が数多く残されています。 金沢市では、それらの貴重でかけがえのない歴史遺産を次代へと継承すべく、調査や整備、活用など、様々な取り組みを行っています。
これらの取り組みの一環として、金沢市は9月28日から11月30日まで「金沢歴史遺産探求月間」を開催しており、国連大学サステナビリティ高等研究所(OUIK)もこのに協力しています。
この期間中、市の歴史的遺産を体験するためのイベントが複数開催されています。その一つとして、10月12日に国の名勝に指定されるために手続きが進められている西家庭園にて本イベントが開催されました。本イベントでは市の文化財保護課の招聘により、OUIKの研究者であるフアン博士が43名の参加者に向けて講演と庭園ツアーを行いました。
当イベントに金沢市長の村山卓も出席し、金沢の庭園文化の重要性と、国際的な認知の高まりについて語りました。村山市長は金沢の文化と環境が国連環境計画(UNEP)の「世代間環境回復プロジェクト」のモデル都市 として世界的に認識されていることを強調し、金沢の環境、経済、文化の価値を促進する上でOUIKが果たす重要な役割に感謝の意を表されました。
講演の中でフアン博士は、金沢市を取り囲む自然の主要な特徴、特に山々や豊かな水資源について説明しました。そして彼は16世紀に前田藩によって築かれた支援的な社会構造と、北陸地方の気候が形作った金沢の庭園の独自性を強調しました。このシステムにより多くの職人からなる中産階級が栄えました。さらに職人たちの多くは地域の用水路を利用し、自宅の庭に水を引き、小さな兼六園を再現しようとしました。
続いてフアン博士は現在でも市内に残る用水や庭園の関連性について詳述しました。彼は、これらの庭園が人口減少や維持管理の不足に直面している課題を説明しました。講演の後半では、用水と庭園のつながりが市内の生態系機能、特に生物多様性の維持にとって不可欠であることを強調しました。
この点を証明するために、フアン博士は都市内の30か所の庭園で実施された野生動物調査(2021年9月 、11月 )の結果を紹介し、西家庭園を具体例として挙げました。
この調査では、現場観察、センサー付きカメラ、ICレコーダー、DNA分析などさまざまな手法を用い、季節ごとにデータを収集しました。その結果、アユやハヤブサ、ナミコキセル、ホタルなどの貴重な種が特定されました。これらの結果は、文化的保護と自然保護が強く結びついていることを示しています。多くの生き物が急速な都市化から守られている環境を求め、庭園に生息するようになりました。そのため現在、庭園はこれらの生き物の貴重な生息地としての役割を果たしています。
フアン博士の講演を通じて、参加者たちは金沢庭園の美的、文化的、そして生態学的価値について深い理解を得ました。ディスカッションセッションでは、生態系の継続性を確保するために、今後数年間、生き物の生態を追跡するモニタリングシステムを確立することが重要であると議論されました。その後、参加者たちは晴れた初秋の日に庭園を自由に散策し、楽しむことができました。
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*西家庭園 について:西家庭園は、1916年(大正5年)に旧市街の長町の住宅地に作られ、その原貌を保ってきました。隣接する大野庄用水路は中央の庭池を潤し、その池は日本各地からの印象的で大きな景観石で囲まれており、アーチ型の橋や水の盆と美しく調和しています。また、庭の珍しい部分に配置された高い人工の丘は、松やツツジ、カエデなどの在来植物で植生されており、見る人に金沢の自然の特性を反映した深い空間感覚と隔絶した雰囲気を提供しています。
金沢市公式YouTubeチャンネルでイベントの概要をご覧ください。
VIDEO
2024年10月25日
国連大学OUIKが今年度から新たに立ち上げた「石川金沢から世界を変える、次世代のリーダー育成プログラム」 発表会が2024年9月16日に開催されました。本プログラムは、持続可能な開発や気候変動といった地球規模の課題に対し、地域からグローバルリーダーを育成することを目的としています。金沢市内の高校生13名が参加し、半年にわたって地域環境や気候変動に関する学習を進めてきた成果を発表しました。
発表会の内容:
発表会では、プログラムに参加した13名の高校生が、夏休みを利用して取り組んだ地域環境課題の探究プロジェクトの成果を発表しました。各学生は、気候変動の影響や地域の具体的な環境問題に対して、彼ら自身が考えた解決策や提案をプレゼンテーション形式で発表し、会場からの質問にも積極的に応じました。
発表されたテーマは以下の通りです:
耕作放棄地の活用
車社会からの脱却
より良い港と周辺環境づくりに向けた提案
代替フロンの排出量削減について
いしかわ・かなざわのまちと水
金沢におけるグリーンインフラについて
サーキュラーエコノミー
学生たちの発表は、具体的なデータに基づいたものであり、現実的な解決策を提案する内容が多く見受けられました。特に、地域住民との連携や行政との協力を視野に入れた提案が、参加者の注目を集めました。
次のステップ:COP29への派遣
発表会終了後、参加学生たちは個別面接を行い、金沢泉丘高校の梶夏菜子さんと金沢大学附属高校の本多真理さんが選抜されました。この2名は、今年11月にアゼルバイジャンで開催される国連気候変動枠組条約第29回締約国会議(COP29)に国連大学代表団、そして金沢のユース代表として参加することが決定しました。彼女たちは国際的な場で金沢の若者として積極的に意見を発信し、世界の気候変動対策に貢献することが期待されています。
今回の発表会は、地域の若者がグローバルな課題に対してどのように向き合い、自分たちの視点で解決策を提案するかを示す非常に意義深い機会となりました。学生たちの情熱と行動力に触れた参加者たちは、彼らが地域社会だけでなく、世界の未来を担うリーダーとして成長していく姿に大きな期待を寄せました。
COP29への派遣メンバーの活動報告は、国連大学OUIKの公式ウェブサイトやSNSを通じて順次発信される予定です。ぜひご期待ください。
2024年05月31日
OUIKのフアン研究員はSustainable Urban Nature Project(持続可能な都市自然プロジェクト)の一環として参加型アクションリサーチ (participatory action research: PAR)を金沢市、菊川地区で開始しました。この地域において今年度、市民の参加を重視し、環境保護を促進し、放置されたスペースを活性化させることに焦点を当てた包括的な研究が行われます。
この参加型アクションリサーチ(PAR)活動には、共同問題解決、意識の向上、市民が経済的および環境的変化に効果的に適応するためのエンパワーも含まれます。
菊川でのPARイニシアティブは、次の5つの主要な行動を通じて自然豊かなコミュニティを育成することを目指しています:
緑(都市自然)の成長の促進
生物多様性のモニタリング
緑地の維持
コミュニティガーデンの共同創造
エコツーリズムの奨励
PAR活動のキックオフとして、最初のセッション「植物の植え付けを通じた緑の成長」が5月14日に行われました。女性が主体の15人の参加者がについて議論しました。
フアン研究員は、菊川地区でのPARの紹介と、近隣の緑化の利点と課題について発表しました。その後、地元の庭師の指導のもと、参加者は土地の準備、植物の植え付け技術、およびメンテナンスについての洞察を共有しながら、実際の植え付け活動に参加しました。
植え付けセッションの後、フアン研究員は参加者の自然の利点への認識、自然豊かなコミュニティーの輪を拡大する上での課題、および活動を通じて強化されたコミュニティの結束の指標を評価するための討論と調査を行いました。
次のPARセッションは6月28日に予定されています。このセッションでは、生物多様性のモニタリングが中心となり、市民科学者が菊川内の倉月水運河沿いおよび指定された2つの庭園でホタルの調査を行います。
このプロジェクトは、菊川地区でのポジティブな変化を推進し続けており、コミュニティの参加と持続可能な慣行を活用して、より自然豊かでレジリエンとな都市景観を創造しています。
2023年12月16日
金沢市は、2019年3月の国連総会で決議された国連生態系回復の10年(The UN Decade on Ecosystem Restoration)が進めるプロジェクト”Generation Restoration Project” において、今年、都市生態系再生モデル都市に認定された。このプロジェクトは、「国連生態系回復と生物多様性の世界的枠組みに関する10年」(特にターゲット12)の枠組みの中で、都市部における生態系回復を促進するために、政治的、技術的、財政的な課題に対処するための施策パッケージを実施することを目的としている。
このプロジェクトの中核をなすのは、2023年9月の選考で選ばれた8つのパイロット都市と11のモデル都市がサポートしあい、特にパイロット都市はネイチャーベースドソリューション(NbS)の実施規模を拡大するために支援する。
2023年12月13より、パイロット都市 とモデル都市の代表者、スポンサー、専門家がパリ(フランス)に集まり、3日間のキックオフミーティング/ワークショップを開催した。それぞれの都市の成功事例やプロジェクトプランを共有し合い、専門家も含めた形で議論が繰り広げられた。国連大学OUIKコーディネーターの富田揚子は金沢市を代表し参加し、金沢市内における都市自然保全や再生の例を共有した。特に用水や日本庭園などの歴史的・文化的景観を活用した生物多様性に関する取り組みや、SDGs未来都市にも採択された責任あるツーリズムの取り組みにフォーカスし、発表を行った。参加者からは「文化的遺産を継承したり、復元することで景観を保護し、それに伴い、都市自然や生物多様性が守られているのがユニークで地域の文化的アイデンティティーを示している」といったフィードバックを受けた。同じくモデル都市のトロントやシアトルは都市近郊の森林の保全活用、ボランティアの取り組みを紹介した。
このワークショップではパリ市の担当者によるパリ市内のガイドツアーがあり、セーヌ川沿いのJardins de l’Archipel des Berges de Seine Niki de Saint-Phalle(5 艘の係留荷船をつないで造った小さな公園)や、街中のコミュニティーガーデン、通学路や学校付近の道を歩行者天国にし、花壇や木を植えたエリアなどを訪問した。担当者は「数年前まではセーヌ川には3種類の魚しかいなかったが、今は数十種類の魚が生息する。それに伴い、パリ市内に住まう鳥の種類も増えてきた。川の環境を整えるため、上流の地域の農家に補助金を出し、農薬を使わない、オーガニック農業を進めたことが成功の一因だった。」と述べた。
2022年12月06日
旅の主要な目的の一つとなる「食」。
石川県には、海と陸の豊かな自然が育む食材があります。そして、加賀地方には江戸時代に武家と庶民のそれぞれから発展した、また、能登地方にも厳しい自然と豊かな祭り文化の下で培われてきた、それぞれ独自の「食文化」があります。そのような「食」を楽しみに国内外から石川県を訪れる旅行者が大勢います。
このように魅力的な食文化がある一方で、その継承や生産者の後継者不足、フードロスなど、食にまつわるさまざまな課題が山積しています。
第3回目となった本セミナーでは、食をテーマに、料理人や料理研究家の方々からお話をお聞きして、より持続可能な観光を実現するための取り組みと課題について学びました。
地球全体にも影響を与える身近な食の問題
はじめに国連大学IAS OUIKの津田祐也研究員から導入として、「食をめぐるツーリズムとSDGs」と題し、国内外の食に関わるツーリズムの事例を発表。「日本食」はユネスコの無形文化遺産に登録されていますが、ユネスコではSDGsのゴール2番、4番、12番に貢献すると言われているという話もありました。
続いて、国連大学IAS OUIKの小山明子研究員から「食とSDGsのつながり&OUIKの取組紹介」と題した講義がありました。日本では6割以上の食料を輸入に頼っていることや、年間で646万トンもの食べ物が廃棄されていること、取り過ぎによって持続可能な魚類資源の割合がどんどん減ってきていること、多くの食品に使われているパームオイルを作るために熱帯雨林がどんどん伐採され、海外の豊かな生物多様性が失われているなど、食の問題と私たちの暮らしが密接につながっているという現状を紹介しました。
一方、石川県にはSDGsに貢献できるいい部分もたくさんあると述べ、世界農業遺産「能登の里山里海」の事例を紹介。能登では地域内で食べ物を作ることができ、それをうまく活用していく知恵が残されており、これはSDGsにも大いに関係しているそうです。海や陸の豊かさはもちろん、遠くからたくさんの食材を運ばないことで、二酸化炭素の排出を抑え、気候変動の対策にも貢献しています。発酵など、たくさん取れたものを電力など使わずに無駄なく長期間保存できる伝統的な知恵の存在も忘れてはいけません。
食べ物を育てて利用する知恵、無駄なく食べる知恵、そして感謝する心というのは、世界のさまざまな課題に対してもとても重要な知識です。こう言ったものを次世代の子供たちにも伝えていく、そして世界にも発信していくことは非常に重要だと述べました。
国連大学IAS OUIKの取り組みとしては、能登の農業や自然、文化の豊かさを子供たちに伝えるため、『ごっつぉをつくりろう』という動画と絵本の教材を制作。また、このような知恵を持っている多くが高齢者であり、地域の知恵を残すべく、映像にしてYouTubeで配信しています。こちら から、ぜひご覧になってください。
ゲストスピーカーがそれぞれの事例を紹介
株式会社こはく 取締役で、料理研究家・フードコーディネーターの谷口直子さんは、インバウンドの体験型施設で料理を通じて、食文化にプラスして金沢の文化を伝えたり、地域に根ざした食文化を伝え残していく活動を大学生と一緒に取り組んだりしています。また、ご本人は近江町市場との関係が深く、食育の「親子近江町体験」の実施や、近江町市場の美味のお取り寄せECサイト「イチバのハコ 」の運営を行い、市場の人たちと一緒に、金沢へ多くの人に足を運んでもらうきっかけづくりもしているそうです。
『ミシュランガイド北陸2021』にて、二つ星とグリーンスターを獲得し、地域食材の豊かさを伝える、金沢の「respiración (レスピラシオン)」の梅達郎シェフからは、魚の取りすぎ、農家の高齢化や後継者不足、里山では生態系を守る人がいなくなって少しずつ荒れ始めているといった課題を紹介していただきました。後継者がいなくなると食材が作られなくなるだけでなく、受け継がれてきた技術が失われ、さらにその土地の文化まで消え去ってしまうと述べました。そして、「料理人ができることとは?」と考え、同じ志を持つ石川県内の料理人とパートナーシップを組み、一般社団法NOTOFUE (ノトフュー)を立ち上げ、駆除対象となっていた種類のウニなど、未利用魚の活用をはじめ、能登の里山、里海の環境、資源を後世につなげる活動を始めているそうです。
「能登イタリアンと発酵食の宿 ふらっと 」のオーナシェフのベンジャミン・フラットさんと船下智香子ご夫妻からは、能登の食文化に関する事例紹介をしていただきました。魚を発酵させる食文化が1000年以上前からあり、温度管理も湿度管理もぜずに、発酵と熟成を自然の中で繰り返し、そして漬けた時よりももっとおいしくなっているという、「発酵はすごい知恵の塊」だと言います。米の副産物である糠を使うことは世界でも珍しく、おいしさもアップして栄養価も高まる良いこと尽くめの利用法と述べました。このような発酵食を次世代に使えることで、能登サステイナビリティに貢献できるのではないかと考えて、活動しているそうです。
また、能登に発酵食が多く残っている理由にも言及し、1つは魚介類が豊富であること、2つ目が能登は交通が発達していなかったため、地産地消にならざるを得なかったこと、3つ目は暑い夏と寒い冬がきて、発酵と熟成を繰り返すことができる能登の気候、4つ目は食文化と伝統や祭りとが密接につながっていて、他の文化と一緒に料理も継承されてきたことという背景も紹介しました。そして、食文化を次世代につなげていくためには、地域の現状に即したサステイナブルツーリズムを促進していく必要がありますが、その中で、受け入れる住人たちの文化や伝統が持つ価値の認識をどのように高めていくかということが課題だと述べました。
パネルセッションでは、食と観光に関わる課題について掘り下げます
ゲストスピーカーの4名と津田研究員により、先の事例をさらに広げて議論が行われました。
谷口さんからは、国内外からの旅行者が増えている近江町市場をSDGsの観点から掘り下げてもらいました。300年の歴史がある市場で、店の人の知識に触れたり、旬の食材から季節を感じたりと、食文化を知る上でとてもわかりやすい場所でもあり、市民や旅行者が料理人と同じものを買うことができるのが特別だと言います。近江町市場の抱える課題としては、一番は後継者不足だそうで、また水曜日が定休日の鮮魚店が多く、そのため火曜日には廃棄するものが増えてしまうとも。谷口さんは、そういったものもECサイトで販売し、廃棄を減らすことに努めているそうです。また、あまり知られていませんが、金沢市では近江町市場から出る魚の残を集めて、肥料に加工する取り組みを以前から行っているそうで、その肥料で野菜を作って循環していることをもっと知ってほしいと述べました。また、そのような市場の循環の仕組みをもっと知ってもらうために「イチバのカゴプロジェクト 」をスタートさせたとのことでした。
また、フラットさんからは能登とご出身地のオーストラリアとの価値観の違いや、船下さんからは、能登の伝統的な技術を次の世代へ継承していくことの重要性や課題について、さらに詳しい事例を挙げて紹介していただきました。
そして、梅さんからは、人の手によって里山や里海が管理されていることで地域の食材が提供されていることについて、改めて説明していただきました。
その後、次世代への継承方法について、どのような方法が効果的かといった意見を交換し、参加者を2班に分けてワークショップでさらに意見交換を行って、セミナーは終了しました。
今回ご登壇くださったパネリストの方々は皆さん、SDGsと観光について、食の分野からそれぞれ特徴のある活動をされています。お店や宿を利用して交流し、食とSDGsについてどう活動していけるか、学んでいただければ何よりです。