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地域との研究活動:アーカイブ

OUIK 生物文化多様性シリーズ#5 金沢の庭園がつなぐ人と自然  ー持続可能なコモンズへの挑戦ー

金沢の日本庭園の活用方法を防災、観光、景観など多面的なアプローチから解説すると共に、持続可能な都市と生態系保全に向けたアイデアを提唱しています。

寺社庭園からはじまるグリーンインフラ Vol. 1

心蓮社の庭園は真ん中に池、そして背後に山が広がる「築山池泉式」の書院庭園です。ゆったりと時が流れる空間の中にいつまでも眺めていたい風景があります。卯辰山の麓に位置しており、その庭園は山と一体化していることからも庭園という人の手によって作られた空間にいながら、大自然の醍醐味を味わえる場所となっています。

今年2度目の清掃活動、そしてグリーンインフラに関するワークショップが心蓮社で行われました。

今回は金沢大学の丸谷耕太先生、そして北陸先端科学技術大学院大学の坂村圭先生のゼミとの合同企画です。特別ゲストとして龍谷大学から林珠乃先生をお招きし、基調講演も行っていただきました。

はじめに国連大学のファン研究員より、この庭園清掃ワークショップの活動についての説明がありました。金沢市に多く残されている庭園のほどんどが維持管理に関する問題を抱えており、このようなワークショップは新しい庭園管理のシステムとして大変重宝されているそうです。

これまでに約340名の方がこのワークショップに参加しており、徐々に市民の生活にも溶け込んできました。ファン研究員は清掃を始める前と後に参加者にアンケートを行っています。その結果、庭園を清掃することでポジティブな感情が増加し、ネガティブな感情が減少することがわかりました。このような清掃活動は庭園の持ち主だけではなく、参加者にもプラスに働くことがわかります。

スペインから10年前に来日し、京都で日本庭園について学んだファン研究員ですが「京都の庭園と金沢の庭園の違いは?」という質問に、「京都は枯山水が有名で落ち着いた雰囲気、金沢の庭園は曲水庭園など、水がポイントになっていると思います。」という答えました。また、京都の庭園は観光名所になっている場合が多く、主に企業などが費用を捻出しているため管理システムが確立している。一方、金沢の庭園の場合は個人が所有している庭園が多く、維持管理していく上で所有者やその家族にかかる経済的・身体的負担なども懸念されているとのことです。

ファン研究員が7月に出版されたブックレット『金沢の庭園がつなぐ人と自然』でも述べているように、地域住人が自分たちが暮らす町の「庭師」として自然を守るために協力することが持続可能な「都市の自然」の実現につながります。

休憩をはさみ、次は滋賀県の龍谷大学からお越しいただいた林先生に「過去の文化的景観を可視化する」をテーマにお話しいただきました。

林先生は元々生態学を研究しており、その過程で生き物のことだけではなく、生き物と人、または自然と人の関係についても興味を持ち、現在は龍谷大学の里山研究センターで活動されているそうです。

金沢の日本庭園の文化的景観や生物の多様性がミクロな視点だとすると、今回の林先生のお話はもう少しスケールが大きいもので滋賀県の琵琶湖の周辺一帯が示された地図を使いながらマクロな視点で人と自然の関係を見ていきました。

日本の自然は「セカンダリーネイチャー」と呼ばれる、人が意図的に手を加えて維持管理してきた自然がほとんどを占めます。そのため、人々の生活スタイルや社会の変化により過去から現在に至るまで変化し続けてきたそうです。

林先生の研究では過去の自然環境や文化的景観にも着目し、土地の利用方法や自然環境の変化を調査しています。昔から現代に至るまで変わらずに存在する自然の利用方法を調べることで持続可能な人と自然のつながり方や、その土地の環境に合った産業などを示唆できるのではないかと述べました。

このような研究結果は例えば化石燃料に頼らない地域づくりや地域循環型社会を作る上でも将来的に役立つのではという意見もあるそうです。

 

林先生のレクチャーの後は、庭園清掃に取り掛かりました。

3つのグループに分かれ、主に秋になり増えてきた落葉を集める作業を行いました。

美しい秋晴れの昼下がり、庭園を住処にする生き物も発見できました。

また、今回の清掃活動に庭師の中見宰さんも参加していたこともあり、苔の手入れ方法など普段なかなか教わることのできないプロの技術や知恵も教えていただきました。

 

 

 

 

 

十数人で清掃し1時間ほどかけてやっと綺麗になりました。この作業を所有者や管理人が一人で行うのはとても厳しいことだと参加者の皆さんも身をもって体感したようです。

清掃後は恒例のアンケートを行い、その後ディスカッションセッションを始めました。

各グループは今回の体験で感じたことや印象を共有し、まとめたものを3分間のプレゼンテーションで発表しました。

「どんな庭園だと足をはこびやすいかな?」「落葉の活用しよう」「ゆるくできて楽しかった」などなど、沢山の意見が出る中、「この活動は単なる通常の清掃と見なすべきではない」という共通の見解に至りました。

庭園で自然に囲まれて過ごす時間は都市で暮らす人々にとってとても貴重な自然と触れ合う場であると共に共通の目的を持ちながらコミュニケーションを図り、人との関係を深める場でもあります。美しい庭園で楽しみながら学び、参加者の皆さんはとても満足したようです。

最後に心蓮社の住職であり、この庭園の管理者でもある小島さんから挨拶のお言葉とコメントを頂き、閉会となりました。

 

【開催報告】日韓国際会議『世界農業遺産(GIAHS)の保全を通じたSDGsの達成』

2019年10月30日に「世界農業遺産(GIAHS)保全の活用を通じたSDGsの達成(Achieving SDGs through the conservation of GIAHS)」と題した日韓国際会議が開催されました。

国連大学サステイナビリティ高等研究所 (UNU-IAS)では、韓国農村振興庁国立農業科学院(RDA)と2018年1月から3年間にわたり、FAOが認定する世界農業遺産(GIAHS)と各国が認定する国内農業遺産についての比較研究プロジェクトを実施してきた背景があり、本国際会議ではGIAHSが各認定地に与えた影響と未来へ残した課題をSDGsというグローバルゴールから考え、GIAHSとSDGsの関係性を日本、韓国からの専門家による解説によって紐解きました。

開会の挨拶はUNU-IAS OUIK所長の渡辺綱男が能登地域のGIAHSのこれまでの取り組みを紹介すると共に、21か国57地域にも及ぶGIAHS認定地域が今後SDGsにどう貢献していけるのか問われていくと述べました。また、来年中国・昆明で開催予定のCOP15でも「農業と生物文化多様性」が重要なテーマとなる可能性が高く、各国の関係者と議論を深めたいと述べました。

次に韓国農村振興庁(RDA)農業研究士、黄大龍氏からは開会の言葉を頂きました。台風19号の被害のお見舞いの言葉を頂くと共に韓国内でのGIAHSやNIAHSの活動状況を報告して頂きました。

基調講演①ではUNU-IASアカデミックプログラムディレクターの齊藤修氏が「里山里海の未来と持続可能性」と題して講演しました。齊藤氏は「食事に占める自家消費の割合調査」や「能登半島でのおすそわけ文化に関する調査」などを通じ、社会関係資本と豊かな食生活の関係を探る研究を進めてきました。更に能登地域における社会・生態システムの統合化による自然資本・生態系サービスの予測評価も行っています。未来のシナリオを想定した上で地域づくりを進め、に農村と都市が連携した形で地域循環型社会を作り上げることが重要と述べました。

基調講演②では韓国農村振興庁(RDA)農業研究士の鄭明哲氏より「韓国GIAHSの保全と活用の近状報告」と題し、初めに韓国での「GIAHSの動的保全のためのアクションプラン」を紹介して頂きました。更に韓国のGIAHS地域での農業体験プログラムやアート関連のプログラム、田んぼオーナー制度やファームツーリズムについてもお話頂きました。地域内外で共通の目標を共有することが重要であり、今後は適切な規制や指標の標準化も進めていきたいと述べました。

基調講演③では世界農業遺産等専門家会議委員の大和田順子氏より「SDGsの視点からみた国内の世界農業遺産認定地域の活性化-日韓GIAHS・SDGs調査から-」と題し、お話頂きました。「世界農業遺産とSDGs調査2019」ではSDGsゴール2と15に関しては、国内のGIAHS 11地域が全て取り組んでいると回答したそうです。地域によってバラつきはありますが、次はゴール6と12が重要視されてくると述べました。

休憩をはさみ、日本のGIAHS事例紹介①では珠洲市役所企画財政課課長の金田直之氏より「SDGs x GIAHS x Art(アート)」と題し、お話頂きました。はじめに珠洲市が行っているGIAHS関連の取り組みとして、市内9つの小学校全校で行っている生き物観察会や地域おこし協力隊の活動、そして課題解決型の人材育成事業(マイスタープログラム)の紹介を頂きました。「SDGs未来都市」にも選ばれている珠洲市では2018年に能登SDGsラボを設立し大学や企業と連携し様々な取り組みを行っています。今後は地域経済に対する効果を明確にし、市内経済活性化にどう結び付けるかがカギとなってくると述べました。更に先端アートプロジェクトによる地域の魅力発信や奥能登国際芸術祭についても紹介頂きました。

次の韓国GIAHSの事例紹介①では河東郡河東茶生産者協議会事務局長の金正坤氏より、「河東伝統茶農業の多元的機能と活用」と題し、茶畑とお寺の興味深い関係や茶畑におけるツーリズム事業やハイキングコースの開発についてお話頂きました。伝統的な茶農家と商業向けに大規模な茶畑を展開している農家間の対立など、韓国を代表するお茶の産地ならではの問題についても述べました。また2020年には「世界お茶博覧会」を予定しているそうです。

次は日本農業遺産の事例紹介②として滋賀県農政水産部農政課主席参事の青田朋恵氏より「琵琶湖システムとSDGs」と題してお話頂きました。2016年に滋賀県では農業遺産セクションを発足し、400万年の歴史を持つ古代湖として琵琶湖を鮒ずしの文化や森・川・水田・湖(うみ)の繋がりと共に発信してきました。現在日本農業遺産に認定されており、GIAHSには申請中だそうです。

最後の事例紹介として忠南研究院研究委員の劉鶴㤠氏に「錦山伝統高麗人参農業システムの持続可能性」と題して発表頂きました。GIAHSの認定は非常にうれしいことだが、冷静に見ると様々な課題があり、特に今後はモニタリングにおける指標の開発、そして誰がどうモニタリングを進めていくのか?といった問題にも、地域の方々の参画を促しながら立ち向かっていく必要があると述べました。

パネルディスカッションでは「GIAHSの地域振興とSDGsなどの国際的な目標達成への貢献」について発表者に韓国農漁村遺産学会副会長の李㽥稙氏が加わった形で議論が行われました。モデレーターを務めたのはUNU-IAS研究員のイヴォーン・ユー氏です。

李氏は「韓国ではSDGsはいまだに中央政府、地方政府による取り組みであり、市町村レベルで目標を掲げている珠洲市などの取り組みに感銘を受けた。韓国では今後GIAHSアクションプランに対するモニタリング指標をSDGsに結び付けることが出来れば」と述べました。更にGIAHSの認知度の低さは日本と韓国のGIAHSが持つ共通課題の一つであり、青田氏からは「SDGsが企業や市民社会に広がってきている。GIAHSの認知度を高めていくにあたり、SDGsを活用できるのではないかと考えている。」との意見が出ました。

最後に金沢大学名誉教授、東アジア農業遺産学会(ERAHS)日本議長の中村浩二氏より総括コメントを頂きました。GIAHSは認定されてからが大変であり、モニタリング→アクションプランの改訂→GIAHSのアップグレードを地域全体で取り組まなくてはならない。そのために今一番重要なことは人材育成であると述べ、中村氏が長年取り組んできたフィリピン・イフガオのマイスタープログラムについてもご紹介頂きました。

最後に閉会の挨拶を石川県農林水産部里山振興室長の寺﨑信二氏より頂きました。韓国農村振興庁(RDA)や参加者の皆さまにお礼を申し上げると共に、今後に向けての意気込みを語り、4時間にわたる日韓国際会議は閉幕となりました。

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