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【開催報告】SDGsカフェ#12「〜with コロナ時代だから考えたい〜 ESG投資が金沢に根付くには!?」

新型コロナウイルス感染症の流行が、少しずつ落ち着きを見せ始め、さまざまな業種でコロナ前の数字に戻すことが最優先課題となりつつあります。
一方で、「環境にも良い働き方」など、コロナ禍で芽生えた「新しい価値観」や「社会変革の芽」は失いたくないと感じている方も多いでしょう。

自然や環境、働く人々を取り巻く社会課題などの解決と、持続可能な経済発展──その両方を実現させるキーワードが「ESG投資」という言葉です。最近、SDGsとともによく見聞きするようになってきましたが、まだまだ地方に暮らす私たちにとっては遠い存在だと思っていませんか?

実は意外と身近なところで、ESG投資の考え方が生かされていたり、あるいは知らないうちにESG投資と密接な関係があったりします。2030年に向けて、当たり前となっている必要があると考えられるESG投資について、社会変革への機運が高まりつつある今、地方からできることを考えてみました。

老舗六代目とESGのスペシャリストの話に耳を傾けてみましょう

 今回2030年の金沢をIMAGINEしてくださったのは、金沢にある伝統発酵食品の老舗・株式会社四十萬谷本舗(しじまやほんぽ)の六代目・専務取締役の四十万谷正和さんです。
 そして、アイデアを提供してくださったのが、サステナビリティ経営・ESG投資アドバイザリーの会社である株式会社ニューラル代表取締役CEOの夫馬賢治さんです。

 最初にここ最近のトピックスとして、国連大学サステイナビリティ高等研究所いしかわ・かなざわオペレーティング・ユニット(UNU-IAS OUIK)の永井事務局長から、6月にIMAGINE KANAZAWA 2030推進会議が設置された報告がありました(詳細は下記をご覧ください)。

「第1回IMAGINE KANAZAWA 2030推進会議」開催

 

今までESGやSDGsとはあまり関係ないと思っていた
四十万谷さんがイマジンする2030年

 四十萬谷本舗は明治8年(1875年)創業の老舗発酵食品の店。その後継者となる四十万谷さん(36歳)は、大学卒業の後、大手食品メーカーで約11年間、主に人事関係の仕事を行い、2017年に家業を継ぐべく金沢に戻ってきました。

四十万谷正和(しじまや まさかず)/ 株式会社四十万谷本舗専務取締役。2006年 慶應義塾大学経済学部卒業後、ハウス食品株式会社入社。入社後は、採用、労務、人事制度、グローバル人事など、一貫して人にまつわる仕事を行う。 2017年 株式会社四十万谷本舗入社。 2019年 専務取締役就任

 まずは四十萬谷本舗の主力商品であるかぶら寿しや大根寿しを紹介。
 コロナの影響によって家庭で食事を摂る機会が増え、このような発酵食品を求めてくれるお客さんが増えたそうです。明治時代の商家造りの本店は見応えがあり、「コロナが落ち着いたらぜひ遊びにいらしてください」と誘います。

 さて、今回のSDGsカフェの話が舞い込んだ時、最初は「地域にある中小の伝統企業とSDGsの関係がピンとこなかった」という四十万谷さん。しかし改めて金沢SDGsを見直してみたら、自分たちの日々の活動と関わっていることが多いのに気がついたそうです。発表では、金沢SDGsの5つのテーマに沿って、四十万谷さんたちの日々の活動との関わりについて考えていただきました。

*金沢SDGsの「5つの方向性」の紹介はこちらをご覧ください。

 

「自然、歴史、文化に立脚したまちづくり」から考えてみる

 歴史とか文化に関わることが多い、伝統的であって特徴のある発酵食品をたくさん作っていますが、実は「特に若い世代にその価値を伝えられていないのでないか?」という悩みがあるそうです。

「全国各地で伝統的なものを引き継ごうと思っている方は、皆さん同じことを考えていると思いますが、昔からある伝統的なものを作って、『これは大事なものなのです。だから残してください!』とお願いしたところで、お客さんが『やばい、これ残さなくちゃ!』というふうにはほとんどなりません。今の時代には、こんないいことがあるよとか、これ食べたらこんなにおいしいよという、 “いいね!”と思ってもらうことが重要で、そう思われれば残っていけると考えています。どうすればいいねと思ってもらえるか、それを大事にしたいです」

 そのために、若い世代に糀や発酵食の良さを伝えるワークショップを開催したり、健康経営を推進されている方たちと組んで発酵の価値を届けるようなことをやったりと、“発酵食のいいね!”を知ってもらうために、多様な取り組みを行っています。コロナ禍もあって、現在はオンラインで「みんなで漬けよう!オンライン糀漬け体験」というワークショップも開催しており、これがかえって今までかぶら寿しとか大根寿しとかにあまり興味がなかった方々にも触れていただく好機になっているそうです。

「環境への負荷を少なくし資源循環型社会を」目指す

「大きなテーマなので、最初は私たちと関係あるのかと思いましたが、3年ほど前に入社して以来、感じていたことに気がつきました。それは、物づくりの段階で廃棄している部分がすごくたくさんあることです」

 かぶら寿しとは贅沢な食べ物なので、丸いかぶの真ん中しか使わず、形を整えるためにかぶからはみ出した鰤をカットしますが、それも廃棄されるものもあるのだとか。

「もったいないし、せつないという思いがあります。これをなんとかできないかということは、実は私の父もずっと思っていたそうです」

 現在、石川県立大学の学生さんにプロジェクト型のインターンに参加してもらい、使われなかった材料を生かした製品開発をするプロジェクトを始動させたそうです。

 また、使うことができない野菜のくずは、自社で機械を導入し、圧縮して肥料に回すことを始めました。四十萬谷本舗には自社農園があり、かぶに関して年間で30トンくらいを廃棄していましたが、全てを肥料にして畑に戻し、かぶの廃棄はゼロになったそうです。

「小さなスケールですけど、自社農園の中で循環しています。廃棄の費用もかからない上、畑の肥料にもなるので、とても良い結果が出せました」

 一方で、地方の中小企業でも、地球規模の環境変化の影響を受けることは多いと言います。

「一番大きいのは原材料、昔から使っている原材料の中には、イカやニシンなど、今後入手が困難となりそうなものが結構出てきています。気候が変わってくると取れる作物なども変わってくるので、私たちにとっては大問題です」

 さらには、かぶは自社農園と契約農家さんに作ってもらっているそうですが、就農者の高齢化が進み、5年後、10年後まで続けるのはしんどいという声も上がっているそうです。作り手の方々が一緒に発展していける関係にあるのか、若い方が一緒にやってくれる環境にあるのかということも非常に大事だと述べました。

 

「次世代を担う子供達の可能性を引き出す環境」を作る

 子どもたちにこの土地の文化とか発酵食の魅力を伝えていき、そこから何かを感じ取ってもらえたらと考えて、「親子で糠床教室」や「自社農園でかぶ収穫体験」などを、続けていると言います(「誰もが生涯にわたって学び活躍できる社会風土をつくる」について、今回は触れませんでした)。

「文化や産業に革新的イノベーションが起きる仕組み」も始動

 今年に入って、四十万谷さんと同じ30代の大都市圏の方に、副業として四十萬谷本舗に関わってもらい、課題を解決しようという取り組みをやっているそうです。
 四十万谷さんは夫婦で6代目を継ぐべく金沢にやってきましたが、お二人ともが人事の仕事をしていた関係で、マーケティングの肌感覚もわからないし、テクノロジーが今どうなっているのかも、法務と言われても・・・と、わからないことが多く、悩みを抱えていたそうです。

「家業に入り、日々現場のことをやっていると、発想が現在までの延長線上の改善に偏ってしまいます(知の深化)。それもすごく大事ではありますが、新しい、別の発想を得てきてイノベーションを起こすこと(知の探索)がなかなかできないということがありました」

 前職を含め、さまざまな方々とお会いする中から、都市の大企業で働きながら、“自分の力とか知見で地域を良くすることに貢献したい”という、純粋で熱い思いを持っている人がたくさんいることを実感。そういう人たちと一緒にやりたいと考えて始めたそうです。

「私たちはもちろん、彼らも得るものがいろいろあると言います。私たちは小さい企業なので、こういう専門的な方にフルタイムで来ていただくのは難しいですが、このような形で一緒にやれているのがありがたいなと思っています」

 これは、四十萬谷本舗に限ったことではなく、都市の人たちと地域の自分たちの関わり方が変わっていくことで、どちらも元気になっていくのではないかと感じているそうです。

 地域との関わりが強く、その思いが強くなれば定住・移住となり、これが増えることが望まれますが、それは限定的なこと。四十万谷さんたちがいま行っているのは、地域企業と協働しながらいろいろな人と触れ合い、関係するということで、地域の人は彼らから知見を得て、いまある地域の価値をどんどんブーストしていくことができます。一方の彼らもこの経験をもとに、人との繋がりとか、何かの成長につなげていくことができたりすると言います。

「こういう動きが、この地域に広がっていったらいいなと思っています。ここから新しい発想やイノベーションができたらいいですね」

 

2030年の金沢の姿。こうなるといいなをIMAGINE

 四十万谷さんは、次の3つを挙げました。

①地域内、地域外のつながりと協働がもっと進んでいると、個人的には元気になるなと思っている

②金沢の生活に息づく文化の魅力を私たちが発信できている

 意外と地元のものづくりを知らず、地元の伝統を体験することもあまりやってこなかったということを、今回のコロナ禍で気がついたそうで、まずは地元のことを知って、消費して、体感し、それを来るべきもっと移動が盛んになった時に、発信できればいいと考えているそうです。

③各事業に関わる方々が持続的に発展できていると言うこと

 最後に、ESG要素と地域中小企業との関係についても整理してくれました。

①地域の中小企業ほど、大きな影響を受ける

 ESGやSDGsとの関わりを考えた時、最初は地域の中小企業にはあまり関係がないと思ったそうですが、材料の話、物づくりの話などはダイレクトに影響を受けることを認識。ちゃんと文化を価値あるものとして伝えていけるか、今まで通りの原料で作れるか、影響は大きいと述べました。

②お客様から選ばれるための基準として・・・

 お客様がどこから物を買いたいかと言うと、環境とか社会とかガバナンスもしっかりしているところから買いたいという思いがあると述べました。

③多様な人材から選ばれるための基準として・・・

 一緒に働く先としてもESGのことをちゃんとしているところが選ばれて、一緒にやっていきたいと思ってもらえるのではないかと述べました。

 

ESGの本も出し、その流れをずっとウォッチしてきた
夫馬さんからアイデア提供

 東京からのリモート参加で、「本当は金沢に行きたかった!」と言う夫馬さんからは、「ESGと金沢」についてお話しいただきました。
 夫馬さんによると、ESGの話と地域の話は非常に密接な関係があるそうです。

 まずは、ESGについておさらい。
 Environmental(環境)、Social(社会)、Governance(統治、あるいは経営)。この3つについて投資家が着目し始めていることから、ESGという言葉が登場したそうです。

夫馬 賢治(ふま けんじ)/株式会社ニューラル 代表取締役CEO。サステナビリティ経営・ESG投資アドバイザリー会社を2013年に創業し現職。東証一部上場企業や大手金融機関をクライアントに持つ。著書『ESG思考』(講談社+α新書)他。ニュースサイト「Sustainable Japan」編集長。ハーバード大学大学院リベラルアーツ修士課程(サステナビリティ専攻)修了。サンダーバード・グローバル経営大学院MBA修了。東京大学教養学部(国際関係論専攻)卒

 また、ESGはSDGsと密接な関係があると言います。SDGsは「持続可能な開発目標」と言いますが、裏を返せば、実は今は持続可能ではなく、持続可能にしなくてはいけないということになります。これは発展途上国だけの話ではなく、ある専門機関がSDGsの17あるゴールの毎年の達成状況を調べているそうですが、例えば日本なら、4段階の評価で一番高い評価を得られているものは3つしかなく、逆に一番低い評価のものが5個もあるそうです。
 つまりは日本も持続可能ではなく、持続可能にしていくためにはやらなければいけないことは山ほどあるということです。その中には企業が変わっていかないといけないこともたくさんあって、そこに着目しているのがESGということになります。

「世の中が持続可能であれば、投資家が企業を見るときにESGに着目することはなかったはずで、実はもう持続可能でなくなっていて、さらに今の企業のあり方すら持続可能ではない(つまり倒産するかもしれない)という危機感を持っているので、このESGが重視されています」

 ところで、このコロナ禍でESG投資はどう変化したのでしょうか? 一時期メディアからはSDGsという言葉が聞かれなくなり、多くの方がESG投資も減っているのではないかと思われています。しかし、日本ではわずかしか増えていませんが、海外では、2割、3割増と大幅に伸びているそうです。

 

機関投資家が上場企業でチェックしているESGの観点は多様

 二酸化炭素の排出量や水の問題、廃棄物など、環境(E)の方はわかりやすいですが、社会(S)のテーマは非常に多様だと言います。社会の中でいま一番ホットなテーマは、「人的資源」、つまり労働者だといい、社会といっても会社の中にある社会、つまり労働者の方々の評価というものが一番大きなウエイトを占めていると言います。

 ガバナンス(G)のところでは、取締役会にどういう専門家がいるか、また取締役会の人はどういう評価制度で評価されているのかというのもあるそうです。

 多岐にわたるこれらをチェックして、点数がつけられます。これがいまのESG投資と呼ばれる世界。全て定量評価になっているため、上場企業はその辺りの情報開示をしないと点が上がりません。中身のないことを言っても当然評価されず、かなりシビアな評価がされているようです。

 気候変動がもたらす変化により、日本の農林水産関係での被害額も右肩上がりで増加しています。世界的にみると自然災害による保険損害額は大幅に増えていて、東日本大震災クラス以上の被害が世界では毎年のように発生しています。この損害を止めなければいけないという深刻な状況になっているのです。

 

機関投資家がESGを重視する理由

 このような中でESGを重視する機関投資家(公的年金、企業年金、保険などの大口投資家)たちは、何を大事にするか──。やはりCO2を減らさないといけないということで、投資家自身が各国の政府に対し、「もっと削減をさせるような法制度を入れなさい」と指導をしています。こんなに自然災害ばかりでは企業経営がままならなくなり、投資家たちはそうすると自分たちの投資の値段が下がってしまうために、自らが環境規制を強化しようという動きになっているとのこと。例えばプラスチックの消費を減らそうというのも、このような投資家からの強いメッセージが影響しているそうです。

 食品廃棄物を減らすという動きも同様。また、廃棄物から飼料を作ろうという流れがあり、そうすれば飼料の主原料となる大豆の生産を抑えることができます。実はその大豆を育てる農地を作るために、多くの熱帯雨林が破壊されています。アマゾンなどの熱帯雨林を守るために、投資家たちは強く迫り、企業側も自主的に取引条件に課すようになっていて、きちんとしていない原料メーカーからは買いたくないという動きが海外では強くなっていて、日本でも一部の大手小売業者などが取り組み始めています。

 

これから生産年齢人口が一気に減少する金沢

 金沢の社会のSの話。生産年齢人口の話はとても重要です。すでに高齢者は急激に増えつつありますが、いよいよ本格的な人口減少が始まります。生産年齢人口が一気に減少していくというのが、これから金沢市が迎える世界。その中で経営をしていかないといけませんし、地域社会も支えていかないといけないということになります。

 金沢は大都市なのでまだましで、日本の将来の人口では2100年には明治維新の頃に逆戻りになると言われています。未曾有の人口減少社会をどう乗り切るか? 労働力不足はますます激しくなります。この10年間、女性の活躍ということで、かなりの人手を確保してきたことは事実ですが、まだまだ女性にとっては働きづらい社会。これからますます人が減る中で女性が働きづらいままだと、女性が実力を出せなくなってしまうでしょう。

 さらにもう一つ。この人口減少を乗り切るために、外国人に頼るというのもあります。石川県もこの数年で急激に外国人が増えています。
 しかし、厚生労働省が全国の外国人技能実習生という制度を使っている企業の監督指導を行ったら、70%の労働基準関係法令違反があったそうです。このままでは外国の方も来てもらえるか? 難しい状況にあるのではと夫馬さんは危惧します。

実はESG投資はとっても身近な話だった

 株式や社債という形で上場企業や大きな銀行に投資している機関投資家はいま、ESGの観点から投資の判断をしています。この話だけでは、地域の方からは少し遠い話だと思われるかもしれませんが、機関投資家は金沢市の地方債の投資家であったりもします。

 地方債を買っているのは個人もいますが、機関投資家や銀行が買って、金沢市なりの財政を支えています。すなわち金沢市がこれからESGに対して、どれくらい改善していけるかということが、地方債を出す上でのポイントになってくると言います。

 日本の大半の企業となる非上場企業は上場企業から発注を受けたり、銀行からも融資を受けたりします。いま銀行も投資家から評価を得るために、ESGの観点で融資を行うということが大事になってきています。

 発注をする上場企業は、「どれだけ持続可能になっていけるか?」ということが経営の判断材料になっています。グローバル企業から一次サプライヤー、二次サプライヤーとつながる中で、取引先の企業から「環境や社会についてはどうしていますか?」と聞かれる時代が始まっています。少しタイムラグはありますが、地方の非上場企業にもこのような話がやってきます。そしてきちんとしていないと、取引をしてもらえなくなるということになります。

 金沢SDGs「5つの方向性」の冒頭のメッセージに書かれた「今後さまざまな主体とともに、実現に向けた行動計画を策定します」が、夫馬さんから見るととても大事なポイントだと言います。

 行政もESGを測定していかなければならなくなり、地域の自治体向けの指標(ISO37120)もあり、海外では増えてきていますが、日本でこの指標で評価している自治体はまだわずかだそうです。

「金沢がSDGsの行動計画を作っていくときに私から提案をしたいのは数値目標です。現状を数値で評価し、把握して目標を立てる事は非常に大事です」

 機関投資家が運用するお金はどこからきているかというと、実は私たちの年金や保険の掛け金です。機関投資家たちはESGで判断していますが、私たちが声を上げていけば行くほど、機関投資家たちはもっとESGのことを考えるようになり、実際にそれが起こっています。

 

さまざまな主体による連携がますます重要に

 地域は事業者の皆さんに元気がないとどうしても萎んでしまいます。事業者の皆さんが持続的に経営していくためには、いま社会にどんな課題があるのか、環境影響をどう受けるのかということを気にしながら経営をしていくことが大事になってきます。そのために考えて、工夫して、さらにイノベーションを起こしていくということは重要です。

 イノベーションをしたり、新しいことをしたりするにはお金(資本)が必要です。この資本を支えるためには、例えば銀行が地域の皆さんが何にお金を使おうとしているのか、それが長期的なものであればしっかり支えて行こうとするような長い目で見た金融機関の経営も非常に大事になってきます。

 また、市役所が町の課題を数値にしていろいろな方に示してくれると、事業者の人たちにも課題が見えてくるようになってきます。そして、どこに向かっていくのか? 目標を一緒に考えていって欲しいと強調します。

 町の生の声は行政が知らなかったりすることもあり、町の中で活動するNPOの方がよく知っていたりするので、プロジェクトにはそう言ったNPOも巻き込み、町の声をしっかり事業者に届けていくことが求められます。そしてこういう社会の変化にも対応していかないといけないということを伝えてくれれば、事業者にとってNPOは、とても頼りになる存在となります。

「主役は事業者の皆さんで、行政と金融機関、NPOと協働する、これこそ私が実現すればいいなと思っている姿です」と述べて、夫馬さんからのアイデア提供は終了しました。

夫馬さんが今年出版した書籍

ESGもSDGsもこれからは情報公開が大事になる

 お寄せいただいた質問に答えながら、夫馬さん、四十万谷さん、永井の3人のフリートークとなりました。その一部を抜粋してお伝えします。

永井:「ESG投資の理念はわかるが、一個人が行動を起こせるものにはどのようなものがあるか? また、目先のご飯が食べられないと将来の展望は描くことができない。その辺りはどう考えれば良いか?」という質問が寄せられています。

四十万谷さん:野菜の廃棄のことを紹介しましたが、はじめに高い理念があったのではなく、廃棄物の処理費用が一気に値上げするという話があって、この費用を払っていたらご飯が食べられなくなると思って始めました。このように高尚な理論からではなく、目の前のご飯のことを考えて行動したら、いい結果が得られるということは、もしかしたら相当あるのかもしれません。

夫馬さん:環境面、特に資源やエネルギーに関わるものは、コスト削減でやったら環境にも優しくなったということはしばしばあります。ひと昔前の電球をLEDに変えたのがまさしくその良い例。LEDは電気の使用量が減って環境にも優しいですが、多くの人は電気代を下げたくてやっています。

永井:大上段からとてもいいことをすると考えるのではなく、目の前の課題を解決しようとするときっとそこにEかSかGに繋がっていくことになるということですね。
ところで、大企業はディスクロージャーの開示義務がありますが、中小企業などのESGの中身を一般の人が理解するにはどうすれば良いのでしょうか。

夫馬さん:消費者の視点で考えた場合、開示がないのは難しく、まだ時間がかかるかもしれません。上場企業はホームページなどで開示されているものが多く、情報はありますが、それでも見分けられないところはたくさんあります。その会社が今後どういう課題に直面しそうかということを自分で考えてみて、その上でその会社の開示されている情報を見て、本当にやっているかどうかを判断することになります。つまり、それで「自分が説得されたかどうか」が大事です。

永井:企業側の取り組みをESGというか、会社としてのステイタスを上げるための発信という意味で、四十万谷さんは何か心がけていらっしゃることはありますか?

四十万谷さん:私たちの上の世代に多いかもしれませんが、企業がESGとかSDGsの取り組みをしていることをオープンにしようという発想になっていない方もいらっしゃる気がしています。「お客様にはいい品物を届けることが一番」という考えが強く、普段当たり前にやっていることが実は自然のことを考えているなど、それをあえて伝えようとする発想がないのかも。これからは、その情報をお客様に出していくことが必要だということを、それぞれの企業が認識することが大事であり、そのような情報がどんどん出てくれば、買う方も選ぶ材料になります。

夫馬さん:情報を積極的に開示するということはとても大事なこと。知らなければ評価されません。それは消費者からもありますが、銀行からの評価や、行政の方が知ったらもしかしたら応援したいということになったかもしれない、そういう地域には眠っている企業がたくさんあります。開示したことで、たくさんの支持が得られて、事業がやりやすくなったという事例も多くあります。

永井:最後にお二方から、これから日本のESG投資はどうなっていくかについて、一言ずついただいて、今回のSDGsカフェを閉めたいと思います。

四十万谷さん:今回の機会でESG投資と私たち地方中小企業との関わりがすごく見えたような気がしています。世の中がどんどん変わり、環境的にも洪水が頻発したり、いろいろな廃棄物の問題があったり、そして自分たちの生活も影響を受けている中で、「じゃあどこの企業を応援したいか? どこの製品を買いたいか?」というと、やっぱり「そういうことをちゃんと考えている企業の製品を買いたい」という人が一定以上いらっしゃると思います。そういうことを皆さんと一緒に考えて、少しでも次の世代の世の中で、いい企業活動ができるようにやっていけたらなと思っています。

夫馬さん:地域の方はおそらく都会の方より横のつながりが強いのかなと思います。この分野では「協働する」ということは避けて通れません。他の方々と喋る時間を積極的に作っていただけると、いい意味での地域での資金循環ができてくるかなと思っています。

 

 

 

全部通しで見たい、もう一度見たい、という方はコチラからご視聴いただけます。OUIKチャンネルのサブスクライブもよろしくお願いいたします。

石川県金沢市が「SDGs未来都市・自治体SDGsモデル事業」に選定されました!

2020年7月17日、金沢市は「2020年度SDGs未来都市」及び「自治体SDGsモデル事業」に選定されました。テーマは「市民生活と調和した持続可能な観光の振興 ~「責任ある観光」により市民と観光客、双方の「しあわせ」を実現するまち金沢~」です。これは観光客が増加する中、自然・歴史・文化に基づく生物文化多様性をベースとし、市民・来街者の双方がまちの魅力を共創し、 持続可能なまちを実現すること目標としています。

日本では2008年、持続可能な経済社会実現に向けて「環境モデル都市」と「環境未来都市」を選定する制度が採用されました。今回金沢市が選定された「SDGs未来都市」は、「環境モデル都市」と「環境未来都市」に加えて、地方創生を一層促進することを目的として、SDGs達成に向けた取り組みを提案するものです。2018年度から各年度最大30都市が選定されており、石川県では珠洲市(2018年度)、白山市(2018年度)、小松市(2019年度)、今年新たに加賀市、能美市、金沢市が選定されました。(自治体SDGsモデル事業としては金沢市が県内初)これらはSDGs17の目標と紐づけられた評価軸で選定されていることが特徴で、目標達成に向けた積極的な事業展開が期待されています。

 

国連大学IAS-OUIKの役割

国連大学OUIKはSDGsの達成に向け金沢市との協働を進めてきました。「2018年のSDGsいしかわ・かなざわダイアローグシリーズ」をはじめ、2019年3月に金沢市、金沢青年会議所、国連大学での三者SDGs共同宣言を行なってからは金沢SDGsプロジェクトを「IMAGINE KANAZAWA 2030」と名づけ、協働を本格始動しました。SDGsや地域の課題への理解を深めるために「SDGsカフェ」という地域の皆さんが気軽に金沢の未来や地域課題について対話できるコミュニケーションの場を提供したり、SDGsミーティングでは地域の様々なステークホルダーの皆さんと協力し、アイデアを出し合いながら2030年の金沢のありたい姿を示す「金沢ミライシナリオ」を作成しました。

 

今後の展開

今後もOUIKは3者の協力体制をプラットフォームとして、SDGsの啓発・周知公報、共創するコミュニティの形成など、様々な場面で協働を進めていきます。特にモデル事業のうち、重要な要素である、魅力的なSDGsツアーの開発において、OUIKが長年の研究で培ってきた「日本庭園と金沢の持続可能性」を考えるワークショップ等の実践経験や、能登GIAHS(世界農業遺産)・白山ユネスコエコパークに関する研究成果を活かし、金沢のグリーンインフラを活かしたツーリズムのあり方や、広域のSDGsツーリズムのあり方に学術的な助言する役割を担っていきます。

OUIK 生物文化多様性シリーズ#5 金沢の庭園がつなぐ人と自然  ー持続可能なコモンズへの挑戦ー

金沢の日本庭園の活用方法を防災、観光、景観など多面的なアプローチから解説すると共に、持続可能な都市と生態系保全に向けたアイデアを提唱しています。

「第1回IMAGINE KANAZAWA 2030推進会議」開催

2019年3月、国連大学OUIK、金沢市、金沢青年会議所の三者が協力し、持続可能な金沢をパートナーシップで実現するプロジェクト「IMAGINE KANAZAWA 2030」が発動しました。その一環として行われてきたSDGsミーティングでは、多様なステークホルダーが立場や世代を超えて集まり、金沢のあるべき姿を思い描き、アイデアを出し合いながら「金沢ミライシナリオ」の制作にいたりました。

2020年6月29日、SDGsの達成に向けて、この「金沢ミライシナリオ」を通して様々な主体が連携し実践すべく、この推進会議が設置されました。産業、教育、行政、金融、市民団体など各分野の方々をメンバーに迎え、意見を出し合い、協力体制を築きました。

会長として金沢市長山野委員、副会長として金沢商工会議所理事長、鶴山委員と国連大学OUIK所長、渡辺委員が選出され、監事としては金沢青年会議所監事、小谷内委員と金沢市会計課長、徳田委員が選任されました。

さらに金沢青年会議所、国連大学OUIK、コード・フォー・カナザワの三者より、これまでの取組報告が行われました。

最後の意見交換会では今後の活動に向けたアドバイスや様々なアイデアが交換され、立場や世代を超えたコミュニケーションの場となりました。

会議の詳細や発表内容は以下のYouTubeビデオからもご視聴ただけます。

・「IMAGINE KANAZAWA 2030 パートナーズ」募集中

SDGsを通して地域の課題解決を一緒に進めていくパートナーを募集しています。これまでなかなか解決できなかった課題も様々な立場の人や企業が集まり、異なる強みを持つプレイヤー同士が連携することで具体的なアプローチを指すことができるかもしれません。興味がある方はIMAGINE KANAZAWA 2030事務局までご連絡ください。

地図情報の集約:生物文化多様性や生態系サービスを理解する学びに貢献

OUIKでは、『地図情報から見た能登の里山里海』、『地図情報から見た金沢の自然と文化』をはじめ、地域の自然と文化のつながりを分かりやすく理解するための地図情報整備を進めています。
北陸地方を対象として、県レベル、市町村レベルでのマルチスケールでの地図情報を集約しています。その際に、生物多様性、文化多様性、生態系サービスといったキーワードを軸に、地域のニーズを反映しながら、視覚化や定量化に工夫し、地域に役立つ学びと情報発信のツールづくりを行っています。

アジア生物文化多様性国際会議開催一周年記念国際フォーラムシリーズ議事録〔電子版〕

2016年10月、石川県七尾市で開催された第1回アジア生物文化多様性国際会議から1年後、石川宣言の実施を推進するため、2回シリーズの国際フォーラムをが開催されました。

 

シリーズ第一回(2017年10月4日)

生物文化多様性とSATOYAMA -自然共生社会を目指す世界各国の取り組みを知る-

 

シリーズ第二回(2017年10月15日)

生物文化多様性を次世代が敬称する為に-東アジアの連携を考える-

 

『SDGs三井のごっつぉproject』最終回 田の神様祭り

奥能登にはアエノコトと呼ばれる祭りがあります。「アエ=饗」の「コト=祭り」という意味で一年のお米の収穫を感謝して、毎年12月5日に田の神様を家へお迎えします。神様を風呂やご馳走でおもてなしをして春まで休んでいただきます。翌年2月9日には同じようにおもてなしをして豊作を祈願して田んぼへ送り出す行事です。

三井町ではアエノ͡コトではなく、古くから田の神様祭りと呼びそれぞれに家でお祭りされていましたが、近年過疎高齢化などで稲作に携わる人も減り執り行う家も減ってきました。そこで三井地区の区長会を中心に田の神様祭りを次世代に継承するために保存会を作り、三井町漆原にある茅葺き民家旧福島邸で公民館行事として行われています。

毎年三井小学校の子供達も太鼓や踊りで田の神様祭りに参加しています。この一年間は「SDGs三井のごっつぉプロジェクト」でご馳走の材料集めを体験してきたので、4,5,6年生12名が参加して一緒にお供えさせていただけることになりました。

まずは放課後バスで会場に到着しました。曇り空に雨交じりの能登の冬らしい天気となりました。山形公民館長さんはいつもと違って裃姿です。田の神様をお迎えするので正装されているのです。ゴテと呼ばれ一家の家長の役割を果たされます。

 

 

 

 

 

 

みんなで田んぼに向かいます。田の神様がいらっしゃるところには榊が建てられています。蓑や菅笠の衣装の集落の方もいます。昔は今のようなレインコートやビニールの傘がないので稲わらやスゲの草などで編んだ雨具です。

ゴテの手に持たれる松と栗の枝は「依り代」と呼ばれます。神様がそこへ依りついてお運びするためのもので、神様は田んぼの端で「待ってると来る」から転じて「松と栗」を掲げています。

田の神様は稲穂で目をついて失明されたということなので、家へご案内する道中も「段差がございます」や「右へ曲がります」など声掛けをします。ゴテはあたかも田の神様がそこにいるかのように振る舞うので不思議な光景に見えます。

家にたどり着くと「田の神様がおかえりやぞ!お迎えせ−よ!」と家のものに声をかけます。茅葺き屋根の玄関から囲炉裏のそばに入られます。寒い外からいらしたのでまずは暖かい甘酒を差し上げます。神様の大好物だそうです。

続いてゴテはお風呂の湯加減を見て、田の神様をお風呂へご案内します。恭しく榊をお風呂のお湯につけている様子も面白いですね。

 

お風呂で暖まられたら次はご馳走です。座敷には田の神様ご夫婦二人分の御膳が設えられています。二股の大根、御膳には一升枡にあふれんばかりの赤飯、煮しめにはわらびゼンマイ、大根、人参、こんにゃく、油揚げ。あいまぜという青大豆の打ち豆と大根や人参を炒り付けたおかずもあります。冷蔵庫もなく肉や魚が今のように手に入らなかった昔は打ち豆は貴重なタンパク源でした。そして立派な尾頭付きの鯛、大きなおはぎ。お汁に漬物。稲作は力仕事で大変なのでたくさん食べてくださいという意味が込められています。

 

 

 

 

 

輪島塗の御膳は赤く美しくご馳走が映えます。大切にしまってあったものを一つ一つ洗ってきれいにして盛り付けてあります。器の裏には家ごとの屋号を示す印が書かれています。冠婚葬祭などの時はお互い貸し借りするので目印になります。太いお箸は栗の木で、栗は一ヶ月に一寸成長するので一年間で一尺二寸(36.36cm)の長さにします。

お米を選別するときに使う箕という道具には畑で採れた野菜が盛られます。白菜人参カボチャなど色とりどりです。沢山実って嬉しい気持ちになりますね。

ゴテが食べ物を一つ一つ説明します。

子供達も田の神様のご馳走がデザインされた手ぬぐいの上に一人一人がゴテになった気分で自分のご馳走をのせました。

前列の6年生5人が代表してご挨拶をします。

「田の神様、これは5月にまるやまで集めたわらびの塩漬けでございます。」

枯れたススキの間から顔をのぞかせたわらび。赤ちゃんの手のような形にほやほやした毛が生えていましたね。集落のばあちゃんたちに習ってわらで縛って樽に入れてから半年ほどでぺったんこになりました。クンクン匂いを嗅いで臭いと言っている子もいました。

「田の神様、これは7月に珠洲で作ったあごだしでございます。」

羽の生えた魚を初めてみたり触ったり。包丁を手にさばいて串を打って炭火で焼きました。包丁を叩いて作る鍛冶屋さん、穴を掘って珪藻土でコンロを作る工場にも見学に行きました。あごだしはいい出汁が出るので煮しめも美味しくなるでしょう。

「田の神様、これは10月にまるやまで拾って干した勝栗でございます。」

しば栗ひろいはみんな必死で頑張りましたね。生のままかじっても甘かったですね。その場で茹でて針と糸でネックレスみたいに糸を通しました。蛇の皮の鱗を数えたり、絶滅危惧種のゲンゴロウやミズオオバコという花も見られましたね。

みんなで「どうもありがとうございました!」

それから権現太鼓の演奏をみんなで披露しました。

田の神様も今年はきっと三井小学校の子供達の用意したごっつぉを喜んで召し上がったことでしょう。神様だけでなく、来賓の方々や保存会の方がたも子供達が来てくれて賑やかで嬉しそうでした。

田の神様のお食事が終わられたら春まで神棚に上がって休まれます。

上座には大きな米俵が横たわっています。中には籾が入っています。籾とはみんながいつも食べているお米に殻がついたものです。生きているタネです。来年またこのタネを蒔いて米作りの一年が始まるのです。この籾こそ田の神様。

 

 

 

 

 

神様が休まれている間、家族は喧嘩をしてはいけないそうです。みんな仲良く心を合わせて、田畑を耕し、暮らしの糧を得ていかなければ生きていけないような能登の自然の厳しさが背景にあったのかもしれません。

今この様な家族やコミュニティと共にある農業が環境や地域づくりでも生き物やなど自然自然資源や食や伝統文化なども守れる重要な形だと再評価されてもいます。(家族農業の10年 )

 

いつでも、なんでもお金で買える今の時代ですが、自然の恵みを得る喜び、そこから自分の手で作る楽しさ、それを選ぶ選択肢が三井のような里山にはたくさん残っています。小学生のような感受性豊かな時期に五感で、地域の自然や土地に根ざした知恵に触れることができるように大人たちが環境を整えることが大事です。「三井のごっつぉ」を食べて世界へ飛び出し、誇りを持って自分を表現できるような子供達を私たちは送り出したいと願っています。

報告:萩のゆき(まるやま組)

国連大学OUIKでは「世界農業遺産(GIAHS)能登の里山里海」を利用した持続可能な未来へ向けての教育活動をサポートしています。一言で「能登の里山里海」と言っても地域によって異なる様々な伝統文化がありますが、三井小学校のような活動が能登の他の地域でも行われ、里海、里山間で交流が生まれるようなプラットフォーム作りを進めていきたいと思います。さて、次回はどんな「ごっつぉ」を作るのでしょうか?「SDGs三井のごっつぉproject」は通年のプログラムとして続きます。

企画・実行:萩野アトリエ/まるやま組 萩のゆき、萩野紀一郎(富山大学 芸術文化学部 准教授)協力:国連大学OUIK

能登生物多様性研究会の発足

能登の里山里海がFAOにより世界農業遺産(GIAHS)に認定されてから5年の節目を迎えようとしています。OUIKではそれに伴うアクションプランの改定作業やモニタリング作業の支援などを行ってきました。

中でも、4市5町にわたる能登地域で行われている生物多様性モニタリングの活動は、各市町や各種民間団体が独自に行っている生き物調査が中心であり、能登地域全体として統一されたモニタリング手法や生物多様性に関する情報発信や地域の方々と共有するしくみはまだ開発されていません。この現状を受けて、OUIKと金沢大学里山里海プロジェクトが中心となり、能登の生物多様性モニタリングや関連活動を通じて能登GIAHSに貢献するための生物多様性研究会を設立しました。メンバーには地域で生物多様性保全や環境教育に取り組んでいる民間団体の方々、能登の関連する研究機関の方々に参加いただいています。

1月23日には、OUIKがオブザーバーとして参加している、能登GIAHS活用実行委員会と能登GIAHS推進協議会の場で同会の発足を報告しました。今後は推進協議会の生き物しらべや関連する事業と連携しつつ、能登GIAHSとして豊かな生物多様性の保全とモニタリング、そして発信に貢献してゆきます。

『SDGs三井のごっつぉproject』第7回 

2019年5月に始まった「SDGs三井のごっつぉproject」では輪島市三井を中心に能登の「ごっつぉ(ごちそう)」を巡るフィールド学習を行ってきました。今回、11月26日に行われた第7回目はまとめの回として世界の食に関する問題を学んだり、いろいろな国の食を味わったり、春にみんなで作ったワラビの塩漬けの塩抜き作業をする回になりました。

はじめに「今、世界が面している食に関する問題」についてSDGsの視点で国連大学OUIKの富田から紹介がありました。「17個あるSDGsのゴールのうち、「食」に関係してくるゴールはどれかな?」という問いかけに「2番(飢餓をゼロに)食べ物のマークあるけど飢餓ってなんだろう?」「14(海の豊かさを守ろう)とか15(陸の豊かさを守ろう)も関係するね。魚も食べるし」「6(安全な水とトイレを世界中に)もじゃない?水飲むし、水ないと畑もできんし」「農業とかは16(気候変動に具体的な対策を)にも関係するんじゃない?」と、とてもたくさんの意見が出ました。生徒たちはSDGsを通してグローバルなスケールで物事を考えたり、ゴールと問題を関連付けることが出来るようになり、SDGsの理解をさらに深めているようでした。

次に日本に住んでいるとなかなか聞くことがない「飢餓問題」について国連WFPのハンガーマップを見ながら考えてみました。「アフリカが深刻」「日本は全然大丈夫だね」と生徒たちは自分たちのテーブルに置かれた地球儀を使いながら場所を確認していました。現在地球上では8億2,100万人、約9人に1人が「栄養不足」であるという調査結果が出ています。SDGsのゴール2でもある「飢餓をなくそう」は途上国特有の問題と捉えられがちです。しかし気候変動や先進国の経済活動が飢餓問題の要因となっていることもあり、先進国に住む私たちちも真剣に向き合うべき問題です。

更に関連した話題として食品ロスの問題や未来の農業にも目を向けてみました。テクノロジーが食品の流通や農業そのものを効率化する一方、2017年に国連は2019年~2028年を国連「家族農業の10年」と定め、食料生産おいて主要な農業形態である家族農園の更なる活性化を図っています。話を聞きながら「残さず食べてるよ!」「家でも畑しとるよ」と話す生徒たちもちらほら。皆さんなりに食品にまつわる問題に向き合っているようです。

 

 

 

 

 

 

次に世界の食卓を覗いてみました。「地球の食卓―世界24か国の家族のごはん」(著者=ピーター・メンツェル+フェイス・ダルージオ)に掲載されている、さまざまな国や地域の「ひと家族における1週間分の食料」の写真を見ながら、気づいたことを発表しました。「パンがたくさんある、パンが主食かな?」「野菜が多いけど肉が全然ない」「家族が多い!来ている服も全然日本と違う」など、たくさんの発見がありました。国や地域によって食料の種類や量、家族の雰囲気が様々で、見たことのない食材も沢山あったようです。私たちの食卓に乗っている食材も世界の他の地域に住む人にとっては不思議な食材なのかもしれません。

次に萩野さんより5月にみんなで作った「ワラビの塩漬け」の塩抜きについて教えてもらいました。山菜を茹でたり、塩抜きをするときは銅鍋を使うのが昔から伝わる知恵だそうですが、どうしてでしょう?萩野さんによると銅鍋を使うと銅イオンが葉緑素(クロロフィル)とくっつき、食材の変色を防げるそうです。不思議ですね!

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらく使っていないと銅鍋には緑青(錆)がつきます。この授業ではは同じ銅で出来た10円玉を使って緑青取りを行ってみました。準備したのは酢と塩。これらを混ぜて磨くだけで綺麗な輝きを取り戻します。つやつやになった10円玉、日常生活にもいろいろな化学が隠れていて面白いですね。

綺麗に塩抜きできたこのワラビの塩漬けは、12月5日の「あえのこと」にて神様にお供えする予定です。

最後は「能登空港発 世界一周ごっつぉツアー」ということで鈴木さんのブルキナファソ料理「トー」、OUIKインターンのフェリックスさんのスイスの「ロシュティ(Rösti)」OUIK富田のイギリス/オーストラリア料理「ベジマイト」を食べるツアーを行いました。まずはブルキナファソの「トー」。これはヒエやトウモロコシなどの粉をお湯で練ったお餅のようなものに、ソースをかけて食べるもので、今回はトマトを使ったシチューのようなソースをかけました。現地ではとてもよく食べられている料理だそうです。次はスイスのジャガイモ料理、「ロシュティ」です。細く切ったジャガイモをプライパンで焼いたもので、ソーセージなどの付け合わせとして食べることが多いようです。見た目はお好み焼きに少し似ていますが表面がカリカリしてとてもおいしいです。今回はスイスの代表的なチーズの1つ、「グリュイエールチーズ」も試食しました。最後はイギリスやオーストラリアで親しまれている「ベジマイト」をトーストに塗ったものです。チョコレートみたいに見えますがしょっぱく、発酵した独特の臭いがあります。現地ではよく朝食などで食べられているそうです。

ブルキナファソの「トー」

スイスの「ロシュティ」

イギリス/オーストラリアの「ベジマイト」

 

 

 

 

 

 

 

 

はじめて食べる料理に生徒たちも大興奮です。ベジマイトは想像と全く違う味がしたらしく、かなりてこずっていたようでしたが、トーとロシュティに至ってはみんなおいしそうに食べていました。住んでいる地域や環境、文化が違うとそこで食べられている「ごっつぉ(ごちそう)」も多種多様です。最後にまるやま組の萩野さんは「今やいろいろな地域の料理がどこにいても食べられる時代となりましたが、自分たちが育った地域の「ごっつぉ」の味を忘れないでほしい」と話しました。

報告:国連大学OUIK

国連大学OUIKでは「世界農業遺産(GIAHS)能登の里山里海」を利用した持続可能な未来へ向けての教育活動をサポートしています。一言で「能登の里山里海」と言っても地域によって異なる様々な伝統文化がありますが、三井小学校のような活動が能登の他の地域でも行われ、里海、里山間で交流が生まれるようなプラットフォーム作りを進めていきたいと思います。さて、次回はどんな「ごっつぉ」を作るのでしょうか?「SDGs三井のごっつぉproject」は通年のプログラムとして続きます。

企画・実行:萩野アトリエ/まるやま組 萩のゆき、萩野紀一郎(富山大学 芸術文化学部 准教授)協力:国連大学OUIK

【イベント報告】 能登の里海セミナー「里海の保全から考えるSDG14の達成-海洋汚染問題を考える-」

2015年から国連大学OUIKは石川県の世界農業遺産「能登の里山里海」(以下「能登GIAHS」)における里海の保全や生業に関する啓発活動を「能登の里海ムーブメント」として行ってきました。今年はこの活動の一環として、「里海セミナー」を計4回開催する予定です。

 2020年6月6日にオンライン開催された2020年度第1回目は「里海の保全から考えるSDG14の達成-海洋汚染問題を考える-」をテーマとし、SDG14「海の豊かさを守ろう」の10個の目標から、SDG14.1「2025年までに、陸上活動による海洋堆積物や富栄養化をはじめ、あらゆる種類の海洋汚染を防止し、大幅に減少させる。」について学びを深める回となりました。 

「里海」という視点をもって海洋問題と向き合う

 開催に先立ち、主催を代表して国連大学OUIK事務局長の永井三岐子がこのセミナーの様々な可能性について語りました。沿岸生態系の資源から恩恵を受けて暮らす人々は世界に30億人いると言われており、人々の生業と自然が共生する沿岸地域を表す「里海」という視点を用いて海洋汚染問題と向き合うことはとても重要だそうです。さらに「SDGs14、そして科学的な知見を用いて地方から全国に向けてオンラインで発信できることは非常に意義のあることだと思います」と挨拶を述べました。

【イヴォーン・ユー(国連大学 OUIK研究員)】

 続いてこのセミナーの紹介として「能登の里海ムーブメントとSDG14について」と題し、国連大学OUIK研究員イヴォーン・ユーより発表がありました。

 2011年「能登の里山里海」として能登地域がGIAHS認定され、農業と関わりの深い「里山」の保全・活用活動が盛んに行われるようになったそうです。一方、2012年に行った「里海里山の保全活動に関する調査」では「里海」という観念の認識がまだ低く、「どのような活動を通して里海の豊かな伝統や自然を守っていけるのか、イメージしにくいという」という意見がでました。

 そこで国連大学OUIKでは「里海」という観念の理解を広げるため、地域の知名度の向上のため、そして里海を生業の場としている地域の人々の生活を向上させるための活動を「里海ムーブメント」と名付け2015年にスタートしました。国内外での発信、地域での保全活動のサポートも積極的に行い、計8回行われたセミナーでは七尾市の藻場や穴水湾の伝統漁法、珠洲市の貝類など、さまざまなテーマを取り上げ、東京や国際会議の場でも能登の里海について発信してきました。これらの活動は能登地方を里海研究・保全の拠点として活用の幅を広げることにもつながっています。

海洋汚染の様々な要因

 「海洋汚染」と一言でいっても、原因は多様です。近年話題になっているプラスチックゴミ問題の他に、産業化学物質や畜産の排出物や日常生活用品の化学物質などの陸上からの流出も汚染源となります。また、海上での油の流出や、浮遊する漁具が魚を獲り続ける幽霊漁具なども見逃せない問題です。こうしたさまざまな要因が、海洋の生態系に悪影響を及ぼしています。プラスチックゴミの問題に至っては「2025年には魚3トンにつき、1トンのプラスチック、そしてこのままいくと2050年には魚よりもプラスチックが多くなる」という予想がEUから出ています。

持続可能な海洋のためのイノベーション

 6月8日は世界海洋デー、今年のテーマは「持続可能な海洋のためのイノベーション」です。「海洋ゴミを減らすことも増やさないようにすることも大事だが、そのゴミを再利用することも考えるべき段階に来ている」とイヴォーンさんは語ります。さらに海外のイノベーション事例として海洋ゴミ100%で作られたサングラスやスポーツ用品についても紹介しました。「イノベーション(技術革新)は再利用製品の開発だけにとどまらず、教育などの知識的改革にも適応されるべき」と述べました。

 

【道田豊(東京大学大気海洋研究所教授)】

 次に「海洋プラスチックをめぐる課題と研究の展望」と題し、東京大学大気海洋研究所の道田豊教授よりお話いただきました。

 道田さんの専門分野は海洋物理学、主に海洋表面付近の流れと構造の変動を研究しており、その延長で漂流するプラスチックゴミについての調査も行っているそうです。2019年からは東京大学と日本財団の連携により海洋ごみ対策プロジェクトを開始し、海洋プラスチックゴミ(主に5mm以下のマイクロプラスチック)に関わる実態把握、生体影響、そしてゴミの発生フローの解明と削減・管理方策を研究しています。

そもそもどんなふうにゴミが海洋に流れてくる?

 これまで人間が生産してきたプラスチックの全量は実に象14億頭分、中華人民共和国の人口が大体13-4億なので、人口が全員象の重さになったイメージだそうです。大量生産しているプラスチックの中には使用後、リサイクルされるもの、再利用されるもの、焼却処分されるものがあり、残りのごく一部(5%以下)が残念ながら海に流れ出ているそうです。5%と聞くと少なく感じますが、全体量が多いのでこの5%は決して小さな数ではないです。その多くは東南アジア諸国から流れ出ており、早急な対策が望まれているそうです。(日本は年間2万トン流出)

 これらが何処から発生してどうやって海に流れるのかという「プラスチックのマテリアルフロー」も明確になってきており、それに基づいた削減・管理方策を検討しているそうです。「(ゴミが)川を介して海に流出していることはほぼ確実、では川に流れる前の段階でどう抑られるか?それは制度を作ったり、社会的行動変容を促すことを考える必要があり、社会科学分野の専門家とも協力し、検討している」と述べました。

マイクロプラスチック

 マイクロプラスチックと言われているものには2種あり、もともの小さかったもの(レジンペレットやマイクロビーズ)と、海に流れ出た後、波に揉まれたり、紫外線の影響を受け、長い間かけて微粒子状になったものがあります。このマイクロプラスチックはまだまだわかっていないことが多く、道田教授の研究ではまずこれらが「何処から来て何処に行くのか?」という実態把握から進めているそうです。現在は「小さくなったプラスチックはプランクトンや魚の糞などにくっつき海底に沈んでいく」という仮説を証明するために調査研究が行われているそうです。

生態系への影響

 プラスチックという物質はPCB(ポリ塩化ビフェニル)等の化学物質が吸着しやすく、それらを飲み込む生物(魚や貝)への生体影響も懸念されています。これらの影響を把握するため、綺麗な海岸の生物とプラスチックゴミが多くある海岸の生物を比べ、体内の化学物質の量の違いなどを調査しているそうです。

 人体への影響についても未解明な点が多く、はっきりと影響があるとは言い切れないそうです。初期段階の研究として「マイクロプラスチックは体内に吸収されるか否か、そしてどのように体内に吸収されるのか」について培養した細胞のモデルを用いて研究しているそうです。「おそらく小さいプラスチックは吸収される、しかし生体に悪影響があるかどうかはまた別の問題。プラスチックは安定した物質で簡単には分解されない、そのまま体内を巡っているだけでは影響が出ない可能性もあるが、例えば免疫細胞などが反応し医学的影響を及ぼす可能性も否定できない」と道田氏は語ります。

 科学的に極めてハードルが高いこれらの問題の解明には長い時間がかかると言われています。しかし放っておくと取り返しがつかなくなるため、解決にはプラスチックの再利用やリサイクルはもちろん、全体量を減らす努力が必要です。道田さんの研究では2021年後半に政策提言ができるよう、取り組んでいるそうです。

【浦田慎(一般社団法人能登里海教育研究所主幹研究員)】

 続いて一般社団法人能登里海教育研究所主幹研究員の浦田慎さんより、「子供たちの海の学びを考える・能登里海教育研究所の環境教育」と題して活動紹介を行っていただきました。

 能登町の小木にある能登里海教育研究所は2015年に日本財団や能登町からの支援で設立されました。主な活動としては海洋教育に関する研究と学校での海の学びを支援する活動です。

なぜ海洋教育が必要か?

 日本という国は非常に地理的にも文化的にも海との関わりが非常に深く、法律でも「海洋に関する国民の理解の推進」が定められており、海洋問題に関しても海の側に住む人だけではなく、山の方に住む人も等しく学ぶことが推奨されているそうです。さらに「海」は自然環境と自分たちの暮らしや産業との結びつきを学ぶために活用しやすく、子どもたちにとっても興味関心を引く学びの場となっているそうです。浦田さんは「子どもたちが自ら興味を示し、自分で調べてみるといった主体的・対話的で深い学びが柱となっています」と海洋教育の方向性を語りました。

社会と連携した学校教育

 地域で活躍する漁師さんや専門家の方に実際に授業でお話しいただく、見せていただく、というのは海洋教育において非常に効果的な手法です。しかし、このような出前授業を行う場合は外部協力者(ゲストティーチャー)と学校教員の、それぞれの狙いを事前に確かめておく必要があるそうです。能登里海教育研究所は子どもたちの目標に応じた理解を優先する学校側と、自分の経験や知識をより多く伝えたい協力者の間に入り、授業をコーディネートする役目も果たしています。

海洋ゴミの教育

 これまでの海洋教育では、汚れた海のショッキングな写真を見るところから始まり、当事者意識を持たせ、行動を考えるという順で進められることが多かったそうです。しかし、この方法では「海が汚いところだ」というネガティブなイメージだけが残ってしまう可能性があります。さらに「海にとても親しみを感じる」と答えている若者が年々減ってきている中、「そもそも親しみを感じない場所のゴミ問題を解決しようと思うのか、懸念を感じている」と浦田さんは語ります。

 これらのことを踏まえて、最近は「海を守る」ことを教える前に「海に親しむ、知る」ことを優先する段階的な教育プランが多くの学校でも採用されているそうです。

 小木小学校では1-2年生の時はゴミ問題には触れず、海の生き物や海藻と触れ合い、観察や飼育を経験し、海に対する愛情を深めることを目標としています。その後3年生になると初めて海岸でゴミ拾いを行い、地域内で啓発活動を行うそうです。さらに高学年になると自分が疑問に思ったことについて調査・実験を通し、ゲストティーチャーと共にゴミ問題についてさらに理解を深めていきます。

 最後に「子どもたちから『なんでこんなに頑張ってもゴミが減らないの』と聞かれると非常に答えづらい。大人たちからも解決事例を示していくことも大事」と述べました。

 

 パネルディスカッションは「SDG14.1海洋汚染軽減の目標達成に私たちのできること」について輪島の海女漁保存振興会海女の早瀬千春さんも加わり、イヴォーン研究員がモデレーター役を努めました。

【早瀬千春(輪島の海女漁保存振興会海女)】

 輪島で30年以上海女として活動している早瀬さんは小さい時から海に親しんできたそうです。季節ごとに操業するエリアが変わる海女業を通して、広い範囲で長年能登の海を見てきた中、様々な変化を目の当たりにしてきたそうです。「昔の海と今の海では確実に変化が見られる。21歳の娘も海女デビューしたこともあり、海洋汚染問題についてはとても懸念している」と述べました。早瀬さんが感じている具体的な環境の変化としては水温の上昇や透明度の低下、磯焼けがあります。「磯は海の中の畑。磯が焼けてしまうとサザエやアワビの主食である海藻が育たない。昔の海の環境に戻すのは難しいかもしれないが、次の世代のためにも人間の手で壊した環境は人間の手で戻す努力をしないと」と述べました。

海に潜って漁を行う早瀬さん

 海女さんや漁師さんは海洋ゴミ問題にも日常的に直面しています。流れてきた漁具などが船のスクリューに絡まったり、海女さんの足に絡まったりして、危険な目に合ったこともあるそうです。「漁具は漁師の財産、故意に捨てることはないと思うが、それが流れてくることで被害を被るのも漁師さん。なんらかの形でこれらのゴミがお金になる仕組みができればゴミの回収自体も仕事として成り立ち、理想の形だ」とイヴォーン研究員は述べました。

 続いて新型コロナの影響からくるプラスチックの使用量の増加について道田さんにお話しを伺いました。「プラスチックを減らすのは大前提だが、例えばプラスチック製品がない医療は考えられないという事実がある。これを認めた上で知恵を絞り、上手に使うということに尽きる」と述べました。

 浦田さんは「プラスチックだから悪だと感情的に決めつけるのではなく、科学的な根拠を用いて正しく学習し、判断するスキルを子どもたちに持って欲しい」とコメントしました。早瀬さんも「捨てない努力と作らない努力、そして一人ひとりの心がけが大切である。大人も責任を持って行動するべき」と考えを述べました。

【Q&A】

 続いて質疑応答では「そもそもなぜ海洋にプラスチックが流れ出てしまうのか?リサイクルにもエネルギーが必要なのでゴミと一緒に燃やしてしまえばいいのではないでしょうか?」という質問に道田さんにお答えいただきました。ヨーロッパでは一般的な埋め立て処理や日本で行われているサーマルリカバリー処理*など、さまざまなプラスチックゴミ処理方法については専門家の間でも議論が分かれるそうです。「いろいろな要素が絡んでくるので、全部一緒に燃やしてしまう方法よりも分別して処理するという手段を日本は取るのがいいのでは」と道田氏は述べました。*ゴミを焼却して得た熱エネルギーを回収し、再利用する処理法

 最後にパネリストの3名から、皆さんへのお願いとしてコメントをいただきました。早瀬さんは「ゴミを減らす、ゴミを持って帰る、ゴミを作らない努力を心がけてほしい。海の環境悪化は明白であり、自分たちが理解を深め、変わらなくてはいけない。海に従事している私達海女とか漁師にしか出来ないコトがあるはず。海の中のゴミを収集する事や底引き網で深い所のゴミをさらうコトとか出来る。これについては、補助金とかあれば、海女も海掃除の日を何日か出来るはず」、浦田さんは「もっと多くの方に教育現場でのご協力をお願いしたい。海の素晴らしさが伝われば子どもたちの意識も高まると思う」、道田さんは「研究者として科学的根拠に基づいて議論できる世の中を作るために努力したい。皆さんには『私一人がやっても』と思わず、自分がやっている努力の意義を認識して、地道でも、できることからやって欲しい」と語りました。

 

 閉会の挨拶では国連大学OUIK所長の渡辺綱男が今日の議論を振り返ると共に「里海と関わって暮らしている方々の経験や想いを私たちみんなで共有し、一人ひとりの行動につなげていくことが海の豊かさを守ってく中でとても大事なのでは」と述べました。さらに来年からは「国連海洋科学の10年」が始まることもあり、「国連大学OUIKとしてもこの里海セミナーなどを通していろいろなテーマで海の豊かさを守るための活動を皆様と続けていきたい」と述べました。

 

セミナーの動画もご覧いただけます。

※セミナー中に対応できなかった質問に対する答えは下のファイルをご確認ください。

 

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