2025年9月2日~8日 に石川県内の大学生5名が、世界農業遺産(GIAHS)国際スタディ・プログラムの一環として、イタリアのローマおよびウンブリア州を訪問し、世界の食料問題に対する国連の取組やイタリアのGIAHS認定地域で農業システムの学びを深めました。石川県と国連大学OUIKが共催したこのプログラムは、国際的な視点を通じて持続可能性やレジリエンスの課題に取り組む次世代リーダーを育成することを目的としています。今回の研修は、2011年に日本で初めてGIAHSに認定された石川県能登地域が、2024年に発生した甚大な地震と豪雨からの復興に取り組む重要な局面に際して実施されました。この研究を通じて地域内の現状や課題、そして国際的な視点を県内の学生や能登出身の学生が学ぶことにより、能登GIAHSが直面する課題の解決に資することが期待されます。
ローマの国連機関本部訪問
本研修はローマの国連機関本部の訪問から始まりました。まず、国際農業開発基金(IFAD)を訪問し、学生たちはIFADのミッションと活動に関する講義を受けました。農村部の貧困削減や女性や若者、少数民族のエンパワーメントに関する話を聞き、能登が直面する課題や、災害後の文脈にも照らし合わせながら質問し、女性や若者の関わりを増やすことの重要性や地域住民が培ってきた伝統知識の価値について理解を深めました。続いて、国連世界食糧計画(WFP)を訪問し、WFPの人道支援活動、緊急食料支援、紛争地域のレジリエンス構築について施設内を見学しながら説明を受け、講義も行っていただきました。学生たちはWFPの紛争地などにおける緊急支援の取組に感銘を受けた様子でした。また、気候変動の影響の増加や世界情勢が食料支援に及ぼす影響について国際的な側面を認識し、食料安全保障の課題を深く捉えました。
そして、GIAHSの認定を行う 国連食糧農業機関(FAO)を訪問し、FAO GIAHSコーディネーターのジェレミー・ムバイラマジ氏からGIAHSに関する講義を受け、GIAHSの全体の取り組みや課題などについて学びました。続いて、石川県の学生による能登の持続可能な食文化、伝統的知識、災害復興への取り組みに関するプレゼンテーションを行いました。本プログラムでこれまで実施してきた講義や能登研修で得られた知見や学生の視点からでの課題や解決策を発表しました。これはFAO職員から直接フィードバックを得る貴重な機会となりました。その後、FAOの施設内を職員の方に案内いただき、FAOの設立の経緯や歴史への理解を深めました。
ウンブリア州でイタリアの世界農業遺産(GIAHS)を体験
研修は、農業遺産で知られるウンブリア州へと続きました。この地には、GIAHSサイトである「アッシジとスポレートの間のオリーブ地帯」があります。
まず、農場に滞在し、野菜の苗植え、ニワトリへの餌やり、野菜の収穫など、様々な農場体験を行い、当農場で行われている無農薬のオリーブ栽培の取組についても学びを深めました。続いて、サベリオ・パンドルフィ博士から、ウンブリアにおけるオリーブの木とオイル製造の特徴、オリーブ栽培の歴史や伝統、オリーブの病害に関する講義を受け、その後、複数のオリーブオイルのテイスティングを行いました。オリーブオイルといっても様々な品種や品質、味があるということ、そして病害対策として多様な遺伝系統が存在していることの重要性など、持続可能な農業やブランド化に関する洞察を得ることができました。さらに、千年樹のオリーブの木が生えているオリーブ畑を訪問し、オリーブオイルの生産工場や博物館などを見学し、オリーブ栽培や地域の伝統や歴史、食文化とのつながりなどについてさらに探求しました。
この研修で得られた洞察と視点を踏まえて、学生たちは能登GIAHSの課題解決や復興に向けた研究を進め、11月の最終発表会でその成果を発表する予定です。