2026年10月17~23日、マレーシア・クチンで開催された第22回国際記念物遺跡会議(ICOMOS)総会および科学シンポジウムに、フアン・パストール研究員(国連大学OUIK)が参加しました。130以上の国から約1500の文化遺産専門家が集まり、今後のICOMOSの方向性を定める総会の法定会議と、「生きた遺産:尊重、発展、受容、パートナーシップ」をテーマとするシンポジウムに参加しました。シンポジウム初日10月19日に行われた基調講演では、遺産は固定されたものではなく、地域コミュニティに根ざした「生きた」プロセスとして捉える視点が示されました。
フアン研究員は、OUIKのSustainable Urban Nature(SUN)プロジェクトの成果に基づく「都市の遺産生態系の強化:社会・生態学的モデルシステムとしての日本庭園―金沢における事例研究」のテーマをもとに、2回発表をしました。両発表では、日本庭園が生物多様性の保全、炭素貯留、そして人々のウェルビーイングの向上に寄与する根拠を紹介しました。
10月20日、サブテーマ「Enhance」において、フアン研究員は、歴史的庭園の共同管理、子どもたちと行うホタル調査、エコツーリズム、空き地を活用したコミュニティガーデンなどの活動を通じて、歴史的庭園の保全に協働で取り組むことが、庭園そのものだけでなく、周辺地域のコミュニティの強化にもつながることを紹介しました。10月21日には、複数のICOMOS国際学術委員会およびICOMOS Japanが主催した、セッション9「ヘリテージ・エコシステム(遺産生態系):包摂的システムアプローチの可能性と展望」で発表をしました。本セッションは、文化遺産と自然遺産の区分を超え、人間以外の存在も権利の主体として認識することを提唱する「群馬宣言」の概念をもとに行われました。フアン研究員は、各庭園とその管理者を一体の社会生態学的システムとして捉える枠組みを提示し、「生息地」「連結性」「生物文化的連続性」「レジリエンス」という4つの能力を指標として評価する手法を紹介しました。
ヘリテージ・エコシステムのアプローチは、金沢の地域特性と自然に調和するものです。金沢市では、歴史的庭園、総延長約150kmに及ぶ歴史的用水、鎮守の森、伝統工芸、そしてそれらの環境に生息する多様な生物が相互に関わりながら発展してきました。この生物文化的多様性は、金沢市生物文化多様性戦略(2016)にも位置付けられており、OUIKの活動の中核になっています。金沢は、文化遺産と自然遺産を一体のシステムとして理解し、保全していくための生きた実践例を示しています。
参加者からは発表に対して好意的な意見が寄せられました。特に、庭園とその管理者を一つのシステムとして捉える考え方や、歴史的用水が野生生物のための人為的に創出された生態学的連結性として機能している点、さらに子どもたちや市民が私的な文化遺産の保全活動に参画していることへ関心が寄せられました。金沢が都市部におけるヘリテージ・エコシステム・アプローチの具体的かつ他地域にも応用可能なモデルを提示しているとの見解を示す参加者もいました。
今回の総会への参加を通じて、OUIKは都市における自然と文化の共生に関する金沢モデルを国際的な文化遺産コミュニティへ発信をしました。また、ICOMOSとUNU-IASとの連携が一層強化されるとともに、今後の共同研究や国際比較研究に向けた新たな可能性も広がるよう活動を続けていきます。




