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【開催報告】観光とSDGs – 地域の食と食材から考える「持続可能な開発」

日時 / Date : 2022/10/26

旅の主要な目的の一つとなる「食」。
石川県には、海と陸の豊かな自然が育む食材があります。そして、加賀地方には江戸時代に武家と庶民のそれぞれから発展した、また、能登地方にも厳しい自然と豊かな祭り文化の下で培われてきた、それぞれ独自の「食文化」があります。そのような「食」を楽しみに国内外から石川県を訪れる旅行者が大勢います。
このように魅力的な食文化がある一方で、その継承や生産者の後継者不足、フードロスなど、食にまつわるさまざまな課題が山積しています。
第3回目となった本セミナーでは、食をテーマに、料理人や料理研究家の方々からお話をお聞きして、より持続可能な観光を実現するための取り組みと課題について学びました。

地球全体にも影響を与える身近な食の問題

 はじめに国連大学IAS OUIKの津田祐也研究員から導入として、「食をめぐるツーリズムとSDGs」と題し、国内外の食に関わるツーリズムの事例を発表。「日本食」はユネスコの無形文化遺産に登録されていますが、ユネスコではSDGsのゴール2番、4番、12番に貢献すると言われているという話もありました。

 続いて、国連大学IAS OUIKの小山明子研究員から「食とSDGsのつながり&OUIKの取組紹介」と題した講義がありました。日本では6割以上の食料を輸入に頼っていることや、年間で646万トンもの食べ物が廃棄されていること、取り過ぎによって持続可能な魚類資源の割合がどんどん減ってきていること、多くの食品に使われているパームオイルを作るために熱帯雨林がどんどん伐採され、海外の豊かな生物多様性が失われているなど、食の問題と私たちの暮らしが密接につながっているという現状を紹介しました。

 一方、石川県にはSDGsに貢献できるいい部分もたくさんあると述べ、世界農業遺産「能登の里山里海」の事例を紹介。能登では地域内で食べ物を作ることができ、それをうまく活用していく知恵が残されており、これはSDGsにも大いに関係しているそうです。海や陸の豊かさはもちろん、遠くからたくさんの食材を運ばないことで、二酸化炭素の排出を抑え、気候変動の対策にも貢献しています。発酵など、たくさん取れたものを電力など使わずに無駄なく長期間保存できる伝統的な知恵の存在も忘れてはいけません。

 食べ物を育てて利用する知恵、無駄なく食べる知恵、そして感謝する心というのは、世界のさまざまな課題に対してもとても重要な知識です。こう言ったものを次世代の子供たちにも伝えていく、そして世界にも発信していくことは非常に重要だと述べました。

 国連大学IAS OUIKの取り組みとしては、能登の農業や自然、文化の豊かさを子供たちに伝えるため、『ごっつぉをつくりろう』という動画と絵本の教材を制作。また、このような知恵を持っている多くが高齢者であり、地域の知恵を残すべく、映像にしてYouTubeで配信しています。こちらから、ぜひご覧になってください。

ゲストスピーカーがそれぞれの事例を紹介

 株式会社こはく取締役で、料理研究家・フードコーディネーターの谷口直子さんは、インバウンドの体験型施設で料理を通じて、食文化にプラスして金沢の文化を伝えたり、地域に根ざした食文化を伝え残していく活動を大学生と一緒に取り組んだりしています。また、ご本人は近江町市場との関係が深く、食育の「親子近江町体験」の実施や、近江町市場の美味のお取り寄せECサイト「イチバのハコ」の運営を行い、市場の人たちと一緒に、金沢へ多くの人に足を運んでもらうきっかけづくりもしているそうです。

『ミシュランガイド北陸2021』にて、二つ星とグリーンスターを獲得し、地域食材の豊かさを伝える、金沢の「respiración (レスピラシオン)」の梅達郎シェフからは、魚の取りすぎ、農家の高齢化や後継者不足、里山では生態系を守る人がいなくなって少しずつ荒れ始めているといった課題を紹介していただきました。後継者がいなくなると食材が作られなくなるだけでなく、受け継がれてきた技術が失われ、さらにその土地の文化まで消え去ってしまうと述べました。そして、「料理人ができることとは?」と考え、同じ志を持つ石川県内の料理人とパートナーシップを組み、一般社団法NOTOFUE(ノトフュー)を立ち上げ、駆除対象となっていた種類のウニなど、未利用魚の活用をはじめ、能登の里山、里海の環境、資源を後世につなげる活動を始めているそうです。

能登イタリアンと発酵食の宿 ふらっと」のオーナシェフのベンジャミン・フラットさんと船下智香子ご夫妻からは、能登の食文化に関する事例紹介をしていただきました。魚を発酵させる食文化が1000年以上前からあり、温度管理も湿度管理もぜずに、発酵と熟成を自然の中で繰り返し、そして漬けた時よりももっとおいしくなっているという、「発酵はすごい知恵の塊」だと言います。米の副産物である糠を使うことは世界でも珍しく、おいしさもアップして栄養価も高まる良いこと尽くめの利用法と述べました。このような発酵食を次世代に使えることで、能登サステイナビリティに貢献できるのではないかと考えて、活動しているそうです。

 また、能登に発酵食が多く残っている理由にも言及し、1つは魚介類が豊富であること、2つ目が能登は交通が発達していなかったため、地産地消にならざるを得なかったこと、3つ目は暑い夏と寒い冬がきて、発酵と熟成を繰り返すことができる能登の気候、4つ目は食文化と伝統や祭りとが密接につながっていて、他の文化と一緒に料理も継承されてきたことという背景も紹介しました。そして、食文化を次世代につなげていくためには、地域の現状に即したサステイナブルツーリズムを促進していく必要がありますが、その中で、受け入れる住人たちの文化や伝統が持つ価値の認識をどのように高めていくかということが課題だと述べました。

パネルセッションでは、食と観光に関わる課題について掘り下げます

 ゲストスピーカーの4名と津田研究員により、先の事例をさらに広げて議論が行われました。
 谷口さんからは、国内外からの旅行者が増えている近江町市場をSDGsの観点から掘り下げてもらいました。300年の歴史がある市場で、店の人の知識に触れたり、旬の食材から季節を感じたりと、食文化を知る上でとてもわかりやすい場所でもあり、市民や旅行者が料理人と同じものを買うことができるのが特別だと言います。近江町市場の抱える課題としては、一番は後継者不足だそうで、また水曜日が定休日の鮮魚店が多く、そのため火曜日には廃棄するものが増えてしまうとも。谷口さんは、そういったものもECサイトで販売し、廃棄を減らすことに努めているそうです。また、あまり知られていませんが、金沢市では近江町市場から出る魚の残を集めて、肥料に加工する取り組みを以前から行っているそうで、その肥料で野菜を作って循環していることをもっと知ってほしいと述べました。また、そのような市場の循環の仕組みをもっと知ってもらうために「イチバのカゴプロジェクト」をスタートさせたとのことでした。


 また、フラットさんからは能登とご出身地のオーストラリアとの価値観の違いや、船下さんからは、能登の伝統的な技術を次の世代へ継承していくことの重要性や課題について、さらに詳しい事例を挙げて紹介していただきました。
 そして、梅さんからは、人の手によって里山や里海が管理されていることで地域の食材が提供されていることについて、改めて説明していただきました。
 その後、次世代への継承方法について、どのような方法が効果的かといった意見を交換し、参加者を2班に分けてワークショップでさらに意見交換を行って、セミナーは終了しました。

 今回ご登壇くださったパネリストの方々は皆さん、SDGsと観光について、食の分野からそれぞれ特徴のある活動をされています。お店や宿を利用して交流し、食とSDGsについてどう活動していけるか、学んでいただければ何よりです。

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