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【開催報告】SDGsカフェ# 18 木の文化都市・金沢の「木づかい」を考えよう!

日時 / Date : 2021/10/14
場所 / Place : オンライン

国民1人当たり1年に1,000円が課税される森林環境税が2024年から始まりますが、前倒しで森林環境譲与税としてこのお金が自治体に配布されています。森林面積が6割を占める金沢市にとって、森林資源を未来のために整え直す、またとないチャンスと言えます。

造林事業が始まって50年が経ち、多くが収穫時期を迎えています。一方、まちづくりでは金澤町家のような古いものを守りつつ、新たな建築物への木材利用や地元産材の活用を促進する「木の文化都市」も始動しました。

森林とまちづくりが一環となった、木をめぐる循環型社会を構築するために、金沢に足りないものは? そして、ほかの都市にはない強みとは? 「金沢の未来のまちなみがこんな風だったらいいな」ということを専門家とともに議論しました。

木の文化都市・金沢のシンボルでもある金沢駅の鼓門

木の文化都市・金沢に向けて、金沢中心市街地における木造建築の可能性

 木の文化都市を考える金沢会議委員も務める金沢工業大学の宮下智裕さんに、「木の文化都市・金沢」のミライの姿をIMAGINE(想像)していただきました〈以下は宮下さんの発表の要旨〉

金沢工業大学環境・建築学部建築学科准教 宮下智裕氏

──金沢SDGs「5つの方向性」の1つ、「古くて新しくて心地よいまち」に金沢がなれば素晴らしいと思い、そのための話をしたいと思います。

 金沢はそれなりの都市規模を持っていますが、一歩山手に入ると森林がずっとつながっていて、山、里、農作地、海という一連が、川の流域の中で育まれています。北陸の都市はだいたい同様ですが、これが美しいまちをつくっていく土台になっているのではないでしょうか。

 金沢は戦災に遭わなかったまちで、美しい建造物が中心市街地にも数多く残っています。住民と行政が一体となりながら、こういう環境をどうやって、後世に残していくかということも大きなテーマだと思います。

 日本では戦後、燃えない都市を作ることを目指して建築の不燃化を進めました。中心市街地の主要幹線道路沿いには延焼を止める防火建築帯をつくるため、新たに木造の建物が建てられないという状態が起こっています。

 金沢の商業の中心地が香林坊や片町に移ったことにより、もともとは金沢の目抜き通りだったはずの尾張町では大きな開発がなされず、さまざまな時代の面白い建物がたくさん残っています。また、部分的には開発もされているので、それらがミックスされたまちとして存在していることがとても魅力的です。

 尾張町のような、大都市の主要幹線道路沿いに、これだけの木造建築が残っているところは全国的にも珍しく、しかも7割以上が3階以下で、地割りも小さいものが多く、ヒューマンスケールな景観を有し、木造建築がよく似合います。さらに木造だけでなく、明治や大正、昭和初期といったモダニズムの建築なども残り、こういったものがミッスクされて、このまちの魅力がつくられています。さらに面白いのが、ここには他にはあまりない、薬、ろうそく、旗など、いわゆる伝統的な文化に関係するものを生業としている商店もたくさん残っていることです。住まう人の文化とともに建物が継承されていることにも、とても魅力を感じます。

 このような中で尾張町を、木を多く使った建物を増やして景観の魅力を高める、「木の文化都市」のモデルエリアにしていく動きがあります。大通りに面した木造建築は、一度壊れてしまうと同じものが建てられなくなっていましたが、今は技術が進歩して耐火木造という形で、木造の建物も建てられるようになってきています。

尾張町の大通りから一歩入ると木造の建物が軒を連ねる

 ただ単に古い建物を保存していくだけでなく、ヒューマンスケールの町の雰囲気を残しつつ、耐火木造技術を用いてつくられる新しいまちを融合させていくには、尾張町は面白いエリア。日本中の都市が都心から木造を排除している中で、重要伝統的建造物群保存地区や「こまちなみ」など、都心に木造を多く残そうとしている金沢だからこそできる、魅力的な未来のまち並みができたら素晴らしいと思っています──。

 

金沢の森の今と、森林環境譲与税の使い道って?

 金沢の森の現状や森林環境譲与税の計画について、樹木医でもある金沢市役所農林水産局森林再生課の上田博文さんにお話しいただきました〈以下は上田さんの発表の要旨〉

金沢市役所農林水産局森林再生課担当課長補佐 上田博文氏

──森林は地球温暖化防止や災害防止などから、国土や国民の命を守るために必要不可欠。しかし、担い手不足などの問題から、森林整備が進んでいません。そこで、2019年に「森林環境税及び森林環境譲与税に関する法律」が成立。森林整備などの地方財源の安定的な確保と、市町村が主体となった新たな森林管理システムの「森林経営管理制度」の実施が目的です。

 自治体に配分される森林環境譲与税は、2019年から段階的に入ってきていて、使用目的はそれぞれの地域の実情に応じて、弾力的に実施できます。広く一般から集められる税金なので、市の内部だけでなく、学問的な専門家や林業に携わっている方など、8名の委員によって活用策を議論していただき、10月11日に市長に提言書を提出しました(国連大学IAS OUIKの永井事務局長も委員の1人)

森林環境譲与税活用検討会提言書 「森からはじまる金沢のミライ」

森林環境譲与税活用検討会提言書「森からはじまる金沢のミライ」

 金沢市の面積の約60%(約28,000ha)が森林で、広葉樹の天然林が75%、スギやヒノキなど木材を生産するために植えた人工林が19%を占めます。金沢には市営造林が約2,000haもあり、「伐期」と言われる収穫できる大きさに育ったものも多いのですが、長伐期施業を行い、伐採をさらに40年伸ばしています。そのため、通常の森林サイクルの「植える→育てる→伐る→使う」の中で、「植える」、「伐る」ができていないため、金沢ではこの循環サイクルが滞っています。

 天然林が多い金沢では、人工林に限らず、森林環境譲与税を森林全般に活用できるようにと検討会が提言しています。ここでイメージされる循環サイクルは、従来のように同じところに矢印が戻るものではなく、森の生長と社会の変化に対応して、円の大きさを変えて、螺旋状に少しずつ上昇する新しい循環で、保全する森は天然林として別のサイクルを描き、多様な森の姿を次世代につなぐものとしています。

 このイメージを実現するためには、サイクルを動かしていく取り組みが継続的に必要で、基本理念と3つの将来像への提言につながっています。

 金沢の3つの将来像を実現するためには、次の3つのプロジェクトがあります。

○いのちの森プロジェクト → 将来像は「森と共生する金沢」(森が森であることを守る)

○くらしの森プロジェクト → 将来像は「木の文化都市・金沢」(森の恵みを活用する)

○こころの森プロジェクト → 将来像は「森の感性が息づく金沢」(森を楽しみ、森に学ぶ)

 3つのプロジェクトが個別の取り組みで終わらぬよう、提言では多面的、流動的に森と人をつなげる活動の必要性を解き、「森からはじまる金沢のミライ=森ミライしよう!!!」を合言葉に、みんなで発見する金沢の新しい森づくりを「森ミライ活動」として提案しています──。

 

未来のまちづくりのための森づくり。現代の木の文化都市に求められること

 金沢市のように、森林環境譲与税の使途計画に心や文化まで幅広く取り入れているところは、珍しいそうです。しかし、実際に森づくりとまちづくりの2つを1つの都市の中でうまく循環させるのは、大変難しいこと。そこで地域産材をうまく使い、建築もまちづくりもというプロジェクトをたくさん手がけているNPO法人サウンドウッズの安田哲也さんに、その循環のヒントになる話題提供をしていただきました〈以下は安田さんの発表の要旨〉

NPO法人サウンドウッズ代表理事 安田哲也氏

──兵庫県と大阪府に拠点を置き、いかにして森づくりの成果とまちづくりの成果を最大化して両立させるか、そのバランスをコーディネートする活動をしています。その取り組みを、3つのキーワードにして掲げています。

 森を管理して「育てる」。

 木をくらしに「活かす」(木のまちづくりなど)。

 森とまちを「つなぐ」(人材育成)。

 森と木に関わる人の輪づくりでは木材コーディネーター育成認定事業を行っています。

 ところで、今なぜ木材が注目されているのでしょうか? 木質資源は、“日本で身近に手に入る”、“使える形にするためのエネルギーが他のものと比べると軽微”、“短期間で再生可能である”という3つの側面が、化石資源より優れているからだと理解しています。50年、60年というサイクルで次の資源として使うことが可能であり、かつ温暖化効果ガスを吸収してくれるという大きな効果があり、木材はまさにSDGsな社会を支える資源であると言えます。

 人工林では、循環のサイクルを保ちながら使い続けることによって、木材の持つ優位性が保たれますが、日本の人工林は現在、2つの大きな問題を抱えています。

 1つは、戦後70年が過ぎ、主伐期を迎える人工林は増え続けるも、伐採されていないために、育った木を活用し、新たに若い森を作ることができていないこと。使い勝手のよいサイズの木が将来なくなってしまうことは、10年後、20年後に私たちのくらしに影響が出てくる可能性があります。

 また、木材の自給率は最低の時(2002年)には2割を切っていましたが、現在は4割まで回復している一方で、スギやヒノキの丸太の価格が低調なため、山元(山の持ち主)の収益が確保されていないことがもう1つの問題。次の森への投資ができず、木を伐った後の森を維持していくことができなくなりつつあります。林業が次の世代に継承されていくためには、山元の収益をどう確保していくかが重要です。

 太くなり過ぎた木はまちで使われていないという事実があります。それはなぜかというと、木材の製造や流通の中に、太い木を使うという仕組みが今までなかったため。せっかく大きくしても、誰も買ってくれないという残念な現実があります。

 そのことに対して私は、住宅よりもやや規模の大きな建築や、まちづくりなど公共性の高い建築物にこそ、そのような木材を使っていけるのではないかという可能性に期待しています──。

 

トークセッションで、引き続き未来の森とまちをつなげる話を掘り下げました

永井:安田さんが示した地元の木を資源として見える化した役場庁舎の事例は参考になると思いますが、金沢の尾張町でも、このようなやり方はできるのでしょうか?

宮下:石川県内にも頑張っている製材会社はありますが、全部県産材を使っているかというと話は別で、地産地消のシステムをもっと積極的にやっていく必要があると思います。その時に、山から木を下ろして終わりではなく、それがどういうものになるのかということも含めて、山元とまちのつくり手を密につなげることが、木の文化都市・金沢の今後の大きなテーマなのではないかと思っています。

上田:木材を使うひとつの方向性としては、市民が見てすぐにわかるものにするというのが必要なのではないかと思っています。また、子どもの時から森を身近に感じてもらえるような取り組みをすれば、未来に通じていくのではないかと思っています。

永井:参加者からは、「私たち自身が森の中に入って、森の豊かさを体で感じることも大切」という意義深いコメントをいただきました。最後に一言ずつ、参加者に向けてメッセージを。

上田:まずは「森ミライを一緒に始めましょう」ということをお伝えしたいです。

宮下:いろいろな分野の中で木をどう使っていくかということを考えてもらうと、私たちの身の回りに木を使ったものが広がり、結果として木の森を育てることになり、山を知ることにもなると思います。そういう意識を持って、いろいろな立場で知恵を出しあっていけたらと思っています。

安田:身近なところで木を使うことを大事にしたいなと改めて思いました。木造建築は、森は50年、60年かけてようやく、そして建築も100年サイクルで使い続けるという関係を考えさせてくれます。それは、まちの将来をしっかり考えて、魅力的でくらしやすいまちをつくっていくきっかけになるのではないでしょうか。

永井:今後も木のテーマの対話を続けていければいなと思っています。示唆に富むお話をありがとうございました。

 

卯辰山見晴らし台から眺める金沢市街。大通りに面して高いビルが並んでいる

 

今回のSDGsカフェの動画はこちらからご視聴ください!

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