国連持続可能な開発目標が2015年に採択から6年目を迎え、様々なセクターで目標とターゲット達成に向けた取り組みが実践されています。SDGs169のターゲットのうち65%は自治体の関与がないと達成が難しいと言われるほど、SDGs実践においては、自治体が重要な役割を担っていくことが国連の様々な会議で言及されています。特に1)地域の文脈に即した指標の設定、2)各指標のきめ細かいデータ取得やモニタリングは自治体が市民の参加を得ながら行っていくことが望ましいとされています。これは、「透明性」、「協働」、「参加」をキーワードとして市民が公のデータを使い、現状分析や政策課題の提案を行っていくオープンガバナンスの潮流と合致するもので、むしろSDGsが促す本質的な変化と言えます。
今回、国連大学サステイナビリティ高等研究所いしかわ・かなざわオペレーティング・ユニット(UNU-IAS OUIK)はSDGs達成に向けて日頃から密接に議論を行っている金沢市と共催で、「地域から考える!!「SDGs 指標のモニタリングとオープンガバナンス」〜地域での SDGs実装に向けて、自治体はどう変わるか〜」をテーマにウェビナーを開催しました。
山野金沢市長や先日SDGs未来都市に認定された加賀市の山本課長他、2名の専門家にお集まりいただき、SDGs指標の設定やモニタリングを通じて、自治体経営に透明性、市民協働、市民参画が促されるような仕組みを構築するためにはどうすれば良いのか、基調講演とともにパネルディスカッションを通した活発な議論が行われました。
各自治体に合わせた達成状況を把握出来る仕組み作りが重要
開催に先立ち、主催を代表してUNU-IAS OUIK事務局長の永井三岐子より開催趣旨の説明がありました。「SDGs達成に向け、地方自治体の取り組みが鍵となる中、2018年にSDGs未来都市の認定が始まり、全国ですでに90以上の都市が認定されています。UNU-IAS OUIKのパートナーの一つである金沢市でもSDGsの実践フェーズに移行し、モニタリングを行なっていく段階となりました。石川県は複数都市でSDGs実践の事例が蓄積しつつあり、その知識を共有しつつ、活発な議論が出来ると嬉しいです。」
共催の金沢市を代表して、金沢市長・山野之義氏から開催の挨拶をいただきました。「行政においては、日々の業務の中で行政改革や財政改革を進めていく中で結果的にSDGs達成に繋がると思っています。翻って目標や終わりが見えないと現場の職員のモチベーションが持たず、疲労も出てくるので、目標の達成状況を把握出来る環境作りが大切なのではないかと思います。それぞれの自治体に相応しい成果目標が設定され、それに合わせたモニタリングが必要と思いますし、また市民やパートナーにも分かりやすい形で公開され、市民や関係者と常に意思疎通を測りながら、進めていくことが重要と認識しています。」
基調講演「ローカルSDGsの推進に向けてー指標を活用したモニタリング実施の意義」
SDGsは日頃の活動の延長線上にある
1つ目の基調講演は、サステイナビリティと地方創生の研究を行なっている法政大学デザイン工学部准教授の川久保俊氏から、「ローカルSDGsの推進に向けてー指標を活用したモニタリング実施の意義」との題で講演いただきました。冒頭、「日本においても産官学民全体でのSDGs達成に向けた取り組みが活発化しています。主体的に取り組むことでメリットを享受出来、逆に取り組んでいないとリスクも発生しうる状況になってきています。一人一人の日頃の行動がすでにSDGsと密着しているので、日頃の活動の延長線上で取り組んでいくのが良いかと思います。SDGsを地球規模課題であると認識しつつ、身近な自分達の街の問題だと認識=ローカライズし、自分達の日常で実践していくことが求められています。」とSDGsを自分ごとにすることの重要性を強調されました。
自治体の体制作りや成功事例共有が望まれている
続いて、ローカルSDGsに関する中央政府と地方自治体の認識について説明いただきました。2016年12月発表の政府の「持続可能な開発目標(SDGs)実施指針」が2019年12月に改定され、自治体はガバナンス手法を確立し、取り組みを的確に測定することが重要と明記されました。優れた事例や知見の情報発信や共有の重要性も唄われ、SDGsが認知の段階からまちづくりの中で実践していく段階へ移行しているとのことです。
他方で、川久保氏は内閣府と共に自治体のSDGs認知と実践状況について調査を続けており、調査結果はSDGs実践段階への移行をデータで裏付けているようです。認知度は2017年から2019年にかけて急速な増加を示す一方、取り組み状況については2019年現在、今後内容を検討する自治体が43.3%と後追いの状況を示しています。また、SDGs推進の課題については、一貫して行政内部での経験や専門性の不足、行政内の体制・リーダーシップ・職務分掌の問題が課題として上げられ、試行錯誤が続いている状況のようです。推進の支援策としては、研究会やウェビナーといった先行事例や成功事例の情報提供や学習の機会が求められています。
ローカル指標を活用してSDGsをまちづくりのプロセスに取り込む
川久保氏はSDGsをまちづくりのプロセスに取り込んでいく上で、街の状況を「見える化」しモニタリングするためのローカルSDGsプラットフォームを開発しています。
川久保氏は健康診断と同様に検査項目として指標を設定し、指標を用いて気づきを得て、次のアクションを検討するというPDCAサイクルをまちづくりのプロセスに導入することの重要性を説いています。その中で「見える化」が鍵となる一方、指標のデータを効率的に集め、運用に負荷がかかりすぎないように留意する必要があると考えています。しかし、SDGsの232のグローバル指標において、日本の自治体がそのまま活用可能な指標は約5%しかなく、読み替えを行うことでやっと約50%の指標が使えることになります。自治体がSDGsの全ての指標を独自に研究して、独自のローカル指標を開発するのは困難です。そこで、川久保氏は、自らの研究を通して、日本独自の指標も追加し、2019年8月に合計202の指標「地方創生SDGsローカル指標リスト」(内閣府)を整備しました。
更には、自治体職員が多忙な中で、ローカル指標リストに対応するデータを定期的に集めることが出来るのか、という課題に対応するため、オンラインのローカルSDGsプラットフォームを立ち上げました。このプラットフォームでは各自治体の指標データや情報を一括して収集出来、またローカル指標毎にデータをビジュアル化して確認することが出来ます。また、各自治体がSDGs達成に向けた課題にどう取り組んでいるのか、課題の克服方法の発見のために、自治体担当者のインタビュー記事など、経験や知見を共有することが出来る仕組みを盛り込んでいます。加えて、各自治体がアカウントを得て、施策やシンポジウムといった取り組みやニュースを独自に発信できる仕組みも整備しました。
市民を巻き込んだ独自のローカル指標の整備へ
最後に、川久保氏は強調します。「ローカルSDGs指標整備の各ステップの中で、このプラットフォームは各関係者にデータに関心を持ってもらう上で役立つものの、より質の高いデータや指標を模索し、各地域の実情を反映したローカルSDGs指標の整備していくステップにおいては、各自治体が自ら市民を巻き込みつつ取り組んでいく必要があります。」
基調講演2「テクノロジーによる市民参画 – オープンガバナンスとはなにか-」
2つ目の基調講演は、一般財団法人Code for Kanazawa及びCivic Tech Japan代表理事の福島健一郎氏から、「テクノロジーによる市民参画―オープンガバナンスとはなにかー」と題して、ローカルSDGs実践と指標モニタリングと市民参画のためのオープンガバナンスとシビックテックについてお話いただきました。
透明性の高く、市民が参画出来る社会の構築
福島氏は、オープンガバナンスとは「透明性の高く、しっかり説明が出来、市民が参画できる政府・自治体作り」と説明します。コロナウィルス感染症対策を例にとると、行政の対策に対して人々の不満や意見がしっかりと届き、行政のアクションが変わったと人々が実感を持てるようになることがオープンガバナンスの成果だと強調します。そして、ローカルSDGsの実践においても、指標のデータ取得やモニタリングについて市民の参画を得ながら進めていくことが望ましいため、透明性の高い行政、市民が参画できる社会の構築が不可欠であり、つまりはオープンガバナンスの構築が重要だと説明します。
では、どうすればオープンガバナンスが達成できるのか。福島氏はすぐに取り組めることの1つは「オープンデータ」だと説明します。「オープンデータとは国・自治体や民間企業が保有するデータのうち、営利非営利関係なく二次利用可能であり、機械判読に適した無償のデータです。オープン化を進めることでオープンガバメント、市民自治(シビックテック)、ビジネス活性化(無償利用)に役立ちます。」そして、SDGsに市民が参画していく流れの中で、市民自治、つまりシビックテックの分野の理解が有用だと続けます。
行政のデジタル化とオープンマインドの養成が重要
福島氏は、シビックテックとは「市民自らが市民が望む社会をテクノロジーを活用して実現すること」と捉えています。シビックテックの良い例として、シビックテック団体g0v他、多くの団体が活動する台湾を例示します。台湾ではコロナウィルス感染症の蔓延下において、g0vがリアルタイムにマスク在庫を「見える化」するサービスを提供していた他、他の団体も市民がテクノロジーを活用して、市民が必要とする形でサービスを提供していました。台湾ではそもそも行政のデジタル化が進んでおり、保険証のICチップ上の購入履歴がオープンデータとして活用され、また情報公開をすぐに決断出来るオープンマインドが形成されていました。
シビックテックの普及には行政のデジタル化を進め、オープンマインドを養っていくことが必要となる中、福島氏は日本でも少しずつ下地は出来つつあると説明します。2013年のシビックテックコミュニティCode for Kanazawa設立を皮切りに、Code for Japanも設立されました。Code for Kanazawaの「5374(ゴミナシ)」といったゴミ廃棄日と分別のためのアプリの開発と全国拡大の他、Code for Japanが東京都からの委託で感染者数の可視化サイトをオープンソースとして開発しています。また、沖縄での事例では2ヶ月で4つのアプリを立ち上げることができ、そのスピード感はシビックテックならではと強調します。
最後に、福島氏は市民と行政が協働で地域を作っていく中でテクノロジーは不可欠と強調しつつ、「自治体は出来る範囲の中でテクノロジーをどれだけ活用出来るか考え、オープンマインドでありつつ、市民の参画も促す必要があります。市民側もITやテクノロジーの技術的な部分を理解し、自ら推進する、コミュニティに参加する、行政との協働に協力する意識が重要。お互いにマインドセットを変えていくことが重要です。」と締めくくられました。
事例紹介「加賀市のスマートSDGs」
消滅可能都市からスマートシティ加賀へ
前半の最後は、加賀市より政策戦略部政策推進課長の山本昌幸氏から、2020年にSDGs未来都市に選定された加賀市のスマートSDGsの事例について紹介いただきました。スマートシティを推進する背景について、山本氏はこう説明します。「加賀市は九谷焼や山中漆器等の伝統産業や加賀温泉郷に有名な温泉と観光の都市で、2023年春には加賀温泉駅開業が控えています。他方で、人口減少に起因する人材不足や、合併の影響による多極分散型の都市構造といった課題を抱えています。不名誉ながら2014年5月には「消滅可能性都市」と指摘されました。そのような背景の中で、持続可能性を目指すために先端技術を活用したイノベーション推進を図るスマートシティを目指すことと致しました。」
加賀市は持続可能な加賀市に向けて、「スマートシティへの取り組み」と「加賀市版RE100」を柱に位置付けています。スマートシティを推進するにあたり、加賀市は2019年8月に「スマートシティ推進官民連携協議会」を設立し、市内25団体(産業団体、市民団体)と連携する受け皿を整えました。また3月には「スマートシティ宣言」を発表して市民や外部に取り組みを発信し、クリエーティブでイノベーティブな挑戦可能性都市への変貌を目指しています。
山本氏は、加賀市のスマートシティとは人々の日常の色々な課題に対して技術を活用して解決することで、持続可能性をもたらしていくことと説明します。具体的な事業の例をいくつか説明いただきました。まずはドローンの活用です。物流分野での活用、災害時における空中からの災害現場の確認や緊急物資の搬送、加えて山間部といった人の移動が難しい場所において活用することを想定しているそうです。2つ目にMaaSの活用です。移動をより便利なものにし、移動と商業や観光をデータで繋げることで価値が高まる取り組みを進めています。今年度には実証実験を行う予定だそうです。3つ目にアバターを活用した取り組みです。医療や介護施設でのアバターを通じた面会システムの実現、行政におけるアバターを通した市民相談、社会科見学出来るアバター等の実験的な取り組みを進めていると説明がありました。
また加賀市は、マイナンバーカードと連携した個人認証の基盤作りにも取り組んでいます。市役所外で電子申請が出来る仕組みを作ることで時間を有効活用出来る仕組みを作ろうとしています。加えて加賀市版e-residencyの導入を検討しています。活動の拠点をいくつも持つような人を対象に仮想の加賀市民として認定することで、加賀市に関わりを持つ人を増やし、市の活性化に繋げたいそうです。
最後に、加賀市は加賀市版RE100の取り組みとして脱炭素社会の構築とエネルギーの地産地消を目指しています。市100%出資の株式会社を設立し、再生エネルギー等の電力を公共施設へ供給する事業も推進しているそうです。
加賀市は、RE100への取り組み、スマートシティ推進の取り組みを行うことで、官民協働による自律的な好循環が起こる仕組みを作り、持続可能な街を目指しています。
パネルディスカッション「市民と自治体の関係を変えるSDGsモニタリングの可能性」
基調講演をいただいた川久保氏、福島氏に、UNU IAS-OUIKの高木研究員が加わり、永井事務局長がモデレーターとなり、後半はパネルディスカッションを行いました。
永井:まずは皆様から講演を聞いて感想を伺いたいと思います。
高木:(全体を通して)ローカルSDGs指標はプラットフォーム上で他市と比較出来、また自治体の中での進捗を測定出来ることから画期的だと思います。今後、行政が直面する課題としては、取得出来るデータと出来ないデータがある中で、データ取得の適切な頻度、規模は自治体独自で考えていかないといけません。行政の中でデータ取得が目的化してしまわないよう、活用の視点も忘れないようにしないといけません。また、市民や民間企業の協力を得ないとデータを取得出来ないため、産官学民間の垣根を超える取り組みが必要です。データを取り込んでいく過程で参画者の考え方も変わっていくのではないかと思います。
川久保:(福島氏の話を聞いて)ローカルSDGsプラットフォームは各省庁の統計データを活用している一方、福島さんの市民と共同で作っていこうとする姿勢はSDGsの精神そのものであり感銘を受けました。またテクノロジーを活用しながら負荷を減らして両立させていく点も素晴らしく、SDGsを共通言語として金沢から日本全国へ、そして世界へ発信・展開していける良い事例だと思います。
福島:(川久保氏の話を聞いて)ローカルSDGs指標リストはちゃんと見たことがなかったので、今後、項目を確認して、シビックテックの力で関与できるものを確認するところから始めるのも良いと思いました。ローカルSDGsがいかに大事なのか、グローバル指標の5%しか自治体で活用出来ないと知り、驚愕しました。
永井:自治体の取り組みは包括的だから、自治体はSDGsがこれまでの業務の延長線だと認識し始めています。他方で住民への説明には非常に苦労されています。住民との協働を進めていく上でのヒントは何でしょうか。
福島:シビックテックを通して課題を解決することは、テクノロジーを通して地域の課題を解決していくことと説明をすると納得してもらえることが多いです。シビックテックに取り組んでいる方はもともとSDGsに近い領域に取り組まれていました。そして、なんとなく地域の課題解決に取り組んできた中で、SDGsの枠組みが出来上がってきました。指標に基づいて体系化されると的確に課題解決を迫れます。今後はシビックテックの実践の中で、SDGsについて体系立てた説明をしていきたいと思います。また、自分ごとにしていくという意味で、自分でやりたいと考える人の意思を尊重して進めていきたいと思います。
川久保:まずSDGsは気づきを与えてくれるツールだと考えます。指標に照らし合わせる中で、シビックプライドが養成され、逆に課題も見えてきます。次のステップとしては、気づきや取り組みを発信したくなるはずです。そうすると、共通言語としてのSDGsを橋渡しにして、事例を効果的に発信していくための情報発信ツールにもなり得ます。加えて、SDGsに関心のある人同士を繋ぐコミュニケーションツール、ブランディングツールにもなります。しかし、使い方によって色々なメリットがあり、実際に使い始めてみて気づくことも多いので、まずやってみることが重要だと思います。
永井:住民を巻き込んでいくために、戦略や計画だけでは住民は自分ごとにするのは難しいのではないかと思われます。高木さんが金沢大学と連携して行った取り組みで、住民がSDGsの指標を作り上げた取り組みがあります。経験について伺えないでしょうか。
高木:2019年2月から3月にかけて珠洲市能登SDGsラボで住民とローカル指標を作るワークショップを行いました。SDGsを理解するまでの時間の方が指標を設定するまでより時間がかかり、理解の促進に難しさを感じました。しかし、SDGsのフレームワークに基づいて世界が同じ目標に向かっているという方向性を理解してもらえれば、SDGsは使えるツールだと認識しました。またSDGsは地域や政策を改善するためにも使えるツールであり、そのプロセスを住民と一緒に進めていくことが重要だと考えます。
永井:日本で設定したローカル指標はそもそも国連で認められているものでしょうか。
川久保:SDGsは2030アジェンダがそもそもの根幹で、指標は実施のフォローアップのために存在しているに過ぎません。また各国により事情が異なるので、補完的に新しい指標を提案して策定していくことが推奨されています。今回の内閣府のリストはグローバル指標を補完するものとして提案されており、国連内で正統化するような動きはありません。また、企業や市民が独自に指標を設定している事例もあるよう、自分たちがSDGsにどう貢献していきたいかという観点から指標は設定されていくものと考えています。
永井:金沢市はSDGs未来都市事業を通して取り組みの見える化を進めていくことになります。今日のシンポジウムのテーマは自治体がどう変わるかですが、金沢市にはどう変わって欲しいと思いますか。
福島:金沢市はオープンデータがあり、シビックテックに理解がある都市の一つと考えています。ただ、オープンガバメントを呼び込むために庁内をもっとデジタル化する必要がありますし、どうやって市民参画してもらうか考えていく必要があると思います。またSDGsの枠組みを使う中で、様々な担当課が連携し、ノウハウやリソースを結集しないと、動きが噛み合わないということになりかねません。この機を生かしてこれらの実現を目指して欲しいと思います。
永井:担当課の連携を成し遂げるために何が必要か️、どういったアクションが必要か。SDGs推進室を作る自治体や首長がリーダーシップをとって進める自治体もあります。自治体がオープンガバナンスを進める上でどういう戦略、戦術があるでしょうか。
高木:市民と一緒に指標を作ることでSDGsの達成に繋がるので、まずそれを行うのが最初のステップかと思います。独自指標を作ることは自治体にとって霧の中を進むような作業となるので、まずは既存のローカルSDGsプラットフォームを活用して、自治体間で情報を共有し、協力して進めていくのがいいのではないかと考えます。
川久保:是非、プラットフォームが自治体の進捗や変化に関する情報交換の場になって欲しいと思います。国内でも自治体のボランタリーローカルレビューへの関心も強くなりつつあり、国際的に見ても今後は社会発信していく動きが強まっていくと予測しています。日本の自治体にも是非取り組んでほしいと思います。また追加ですが、指標の概念には、状態量を見るストック指標と変化を見るフロー指標があり、SDGsローカル指標はストック指標を主体に構成されています。住民の努力が目に見え、そして振り返りを行えるようにしていくためにはフロー指標を地域住民と共に作らないといけないと思います。自治体職員は多忙なので、金沢市の場合はOUIKが指標の素案を作って、一緒に進めていく方がいいかもしれないと思います。そうすることで、金沢市はより一層SDGs先進地域として進んでいけるのではないかと考えます。
永井:SDGs達成に向けたアクションの中で、パートナーシップを組んで、市民、企業、行政のマインドセットが変わっていくプロセスを重要視していくことは非常に腹落ちする内容です。プロセスを一緒に進めることが出来ていれば、レジリエントなパートナーシップや組織を達成出来ると思います。しかし、自治体は管理の側面から、指標を設定して達成出来ないときの説明をどうするかという点を不安視しています。定性的な情報を客観視し、対外的に説明していくのは難しいことですが、どのように説明責任を果たしていけば良いと思いますか。
高木:定量的データの取得は原則として重要で、加えて定性的データを合わせて取得し活用していくことが重要です。指標に応じて、どちらが必要かを整理していく必要性があると考えます。
川久保:指標疲れを防ぐために、データ収集から色々な人を巻き込んでいくことが重要と考えます。データ収集は大学に依頼しても良いと思います。海外では、行政の役割は施策を考えること、データを集めるのは知識創造の拠点である大学の仕事と役割分担されていますので、日本でもそれを成し遂げられると良いかと思います。また目標の全部を達成しようとは考えず、出来るところから取り組む姿勢も大切だと考えます。加えて、既存のSDGsの枠組みの外にも視野を広げ、文化、芸術、スポーツ等のカバーしきれていない部分、”Beyond SDGs”を金沢市や加賀市がカバーして進めていくのが日本のプレゼンスの向上にとっても良いと考えます。
永井:最後に高木さんと福島さんから一言ずつコメントをお願い致します。
高木:SDGsは答えを出す性質のものではなく問いだと思います。自治体の方々もSDGsの視点から自分たちで考え続けるというのを大切にしてもらえればと思います。
福島:SDGsの推進に市民参画が重要で、それを持続可能にしていくために技術が使え、そのためにシビックテックを活かすことが出来ます。技術だけで上手くいく訳ではなく、関係者のマインドセットが重要となります。日本でも台湾のように取り組みが進めば面白いのではないかと思います。
【スピーカープロフィール(登壇順)】
川久保 俊(かわくぼ しゅん)
法政大学デザイン工学部 准教授
慶應義塾大学理工学部後期博士課程修了。博士(工学)。法政大学デザイン工学部助教、専任講師を経て2017年10月より准教授(現職)。専門は建築/都市のサステナブルデザイン。近年は、持続可能な開発目標SDGsの主流化に関する調査研究を進めており、その成果を取り纏めて出版物「私たちのまちにとってのSDGs-導入のためのガイドライン-」やウェブアプリケーション「ローカルSDGsプラットフォーム」として発信している。主な受賞歴:日本都市計画学会論文奨励賞、日本建築学会奨励賞、山田一宇賞、International Conference on Sustainable Building Best Paper Awardなど。
福島 健一郎(ふくしま けんいちろう)
一般社団法人コード・フォー・カナザワ 代表理事、一般社団法人シビックテックジャパン 代表理事
2009年4月に金沢でアイパブリッシングをパートナーと創業。テクノロジーを用いた社会課題解決を続けている。 また、地域の課題をITの力で解決するために、2013年5月にCode for Kanazawaを9人で設立。日本で初めてのCode for コミュニティとなった。2014年に一般社団法人化。 Code for Kanazawaが開発した5374(ゴミナシ).jpは全国のコミュニティの手で2018年11月末現在で120都市以上に広がった他、のと・ノット・アローンやHa4goなど多数のアプリ/サービスを輩出。 現在は、シビックテックを国内に広げるための活動にも力を入れているほか、シビックテックを実現するための基盤となるオープンデータやオープンガバメントの推進についても精力的に活動を行っている。
山本 昌幸(やまもと まさゆき)
加賀市政策戦略部政策推進課 課長
1989年に石川県加賀市役所に入庁し、2015年に地域交通対策室長、2016年に教育庶務課長を経て、2019年4月に現在の政策戦略部政策推進課長に至る。加賀市が進める「スマートSDGs」や「スマートシティ加賀」の取り組みが、全庁一丸となって推進されるように、その先導役として、積極的に業務の遂行に取り組んでいる。
高木 超(たかぎ こすも)
国連大学IAS-OUIK研究員
NPO、民間企業を経て、2012 年から神奈川県大和市の職員として、住民協働、厚木基地対 策、待機児童対策を担当。17 年 9 月に退職後、博士後期課程進学と同時に渡米。ニューヨ ークを拠点として、1 年間にわたり「自治体における SDGs のローカライズ」に関する調査 研究を行う。その間、国連訓練調査研究所(UNITAR)とクレアモント大学院大学が共催す る「SDGs と評価に関するリーダーシップ研修(英語名:Executive Leadership Programme In Evaluation and the SDGs) 」を日本人で初めて修了。ミレニアル世代の若者を中心に SDGs の達 成に向けて取り組む団体、SDGs-SWY の共同代表としても活動するとともに、国内外の自治体のSDGsを幅広く研究。著書に「SDGs x 自治体実践ガイドブック」。
永井 三岐子(ながい みきこ)
国連大学IAS-OUIK事務局長
フランスで民間会社勤務の後、JICA(国際協力機構)専門家としてモンゴルで水資源管理や過放牧の問題、国連大学グローバル環境情報センターで気候変動適に関する研究に従事。JICA-JST日・タイ気候変動適応策プロジェクトコーディネーター、など環境分野の国際協力に携わってきた。2014年から現職。地域にある国連機関の強みを活かし自治体への政策提言などを通じて、SDGsの実践 を石川全域で推進中。金沢市出身。
動画もこちらからご視聴いただけます。