今回は前回に続いて「今、求められる教育」シリーズの第2回目。
「2030の担い手育成」をテーマに、2030年の金沢を金沢大学附属高等学校校長の山本吉次先生にIMAGINEしていただきました。
まずは、金沢市企画調整課の笠間彩氏から、金沢SDGs「5つの方向性」について紹介。
この5つをゴールとして行動計画を決めていくことで、「金沢らしく、そして金沢の人たちが、自分ごととしてSDGsに取り組んでいけるのではないか」とお話しました。
前回、SDGsカフェ#3の様子は下記の投稿をご覧ください。
【開催報告】 SDGsカフェ#3 「今、求められる教育−映画『Most Likely to Succeed』上映会とワークショップ−」
金沢SDGs「5つの方向性」について、下記の以前の投稿で詳しく紹介しています。
【開催報告】SDGsダイアローグシリーズ最終回・総括シンポジウム「地域の未来をSDGsでカタチにしよう」
以下、本文中の*マークのあるリンク先をクリックするとそれぞれの詳細情報が得られる公的機関等のサイトにジャンプします。
2030年の教育をIMAGINEしてくださる方
さて今回、2030年の金沢をIMAGINEしてくださる人は、金沢大学附属高等学校*(以下、附属高校)校長の山本吉次さんです。
そして、山本さんのお話しから、そこにアイデアをくれるお二人のゲストをお招きしました。
お一人は、今年の春までシンガポール日本人学校の校長も勤められた池端弘久さん。もうお一人は、学生と企業、子供たちと地域社会を結びつける活動などを行う仁志出憲聖さんです。
これからの社会で活躍できる人材とは?
附属高校は、2014年から文科省のSGH*(スーパー・グローバル・ハイスクール)指定校となりました。世の中のパイロット校となる役割を持つ附属高校では、“国際社会の中で、地球生態系の中で、サステイナブルに能力を活かして生きていける、そんな人間を作る”ために、SGHによる地球サイズの教育活動を行ってきたそうです。
「地域課題研究」(地域)→「異文化研究」(二国間)→「グルーバル提案」(多国間)→「グローバル・キャリアパス」(自己)と、高校の3年間、一貫した課題研究カリキュラムを実践。SGHにより教科もSGH化し、授業も変わってきたそうです。
そして、国内外の学校との交流や、北陸の機関や企業の指導などを受けるなど、オープンな学校へと変化しました。
さらに、外から中に入ってくるだけではなく、中から外へ、留学などで海外へ出ていく生徒も増えたそうです。
一方で、SGHの課題もいろいろ出てきました。その一つ、そもそもこれが課題なのかどうか、意見は分かれると思いますが、今年は東京大学の合格者が減って、「大学受験をしっかりやってほしい」、そんな声も上がっているそうです。実は、東大を志望する生徒自体が減っていて、その代わりに増えたのがAO入試だそうです。留学経験を持つ生徒などが明確な意思を持って、自分が行きたい大学を選ぶように変わってきていると言います。
総合の学習の基盤となるのは教科の学習であり、それは受験にも通じます。でも教科の学習だけだったら、これからの世の中に通用していかないでしょう。附属高校は受験のための教科の勉強と、主体的な探求が求められる総合の授業の両方をやっていくそうですが、「大学受験をどうしていくか?」ということは、今後議論を重ねるべきことだと述べました。
SGHは5年間の期間限定のため、附属高校の指定は今年の3月で終了しました。
今年からは、「Society5.0*」の社会に向けた人材育成を推進する文科省の「WWL(ワールド・ワイド・ラーニング)コンソーシアム支援事業*」の拠点校となり、一つの学校ではできない、国内外のいろんな学校や企業、国際機関と結びつき、コンソーシアムを作ってイノベーティヴなグローバル人材を育成していくそうです。
このようなことを踏まえて、2030年をIMAGINEしてもらいます
山本さんの経験から、「情報入手方法が激変している」ことを指摘。2030年にはもっと変わり、「バーチャルをリアルに体験」できるようになるのではないかと想像されます。
AIが進化しても、情報処理を行うための評価関数(つまり価値)を決めるのは人間です。その価値を決めていく重要な指標が「SDGsの17の目標ではないか? そして、目標(価値観)の深化と共有のためには、もっと自分ごとにするために、対話と議論が必要」と強調されました。そういう意味でも「主体的・対話的な深い学び」がより重要となるのは明らかです。
これから実施されていく「新学習指導要領*」では、「主体的・対話的で深い学び(アクティブ・ラーニング)も重視されていくそうです。
いろいろなことを実際に体験しないと議論はできません。インターネットなどのバーチャルだけではなく、自分でリアルに体験する重要。そして、より広い知的交流の枠組み(コンソーシアム)が必要だとも述べて、お話しを締めくくりました。
大人も子供も一緒に問題意識を共有すべき
山本さんのIMAGINEを受けて、ESD*に長年携わってきた池端さんからは、シンガポール日本人学校で行っていることや、海外から見てわかった日本の教育の良い点や足りないことなどを紹介してくださいました。
まず、池端さんからは、全ての小中学校がユネスコスクールに認定されている金沢市は、ESDの基本的な考え方による総合的学習の実践が進んでいるという話も出ました。
さて、とかく英語を喋るのが苦手とされる日本人ですが、その環境さえ整えば、英語力がみるみる上達していく、日本人学校ではそんな子供達の成長ぶりに感心させられたそうです。
日本人学校では、今まで行ってきた体験的な学習にSDGsの項目をつけ、子供達に問題意識を持ってもらう教育をしています。年度当初のガイダンスでは、「学校も力を入れるから、みんなも頑張ってやるぞ」と、問題意識を共有して、教師や大人も一緒に成長していくことを目指します。
また、子供達には、情報が生成される「第一次情報」を作るプロセスをアナログ目線で経験させるようにしているそうです。これを知らなかったら、その情報が正しいものかどうかの精査ができず、2次情報、3次情報だけで物事を考えてしまうことになるからです。
教科の学習による知識理解は、深い思考する上で非常に重要です。その上で、どういう問題意識を持つのか? どういう風に問題を解決していくのか? ということが問われます。そして、教員もまた、問題意識を持って成長することが大事だと言います。
特に、環境問題や人権問題など、もう後戻りができず、限界が近づいています。ここでの議論のような場には子供達がきちんと参画して、子供達とともに考えていく、そうしていくべきだと提言されました。
やる気のある学生を支援する会社
株式会社ガクトラボ(企業紹介の動画はこちらで見られます)の仁志出さんからは、全国で唯一、「学生のまち推進条例*」がある金沢で、長期実践型のインターンシップ(ガレナ*)での学生支援の実績の紹介がありました。
スキルはなくてもやる気のある大学生が6ヶ月間、その企業に入って、一緒に挑戦していくことで、さまざまな成果が残せているそうです。学生にとっては、社会で自分の力を試す機会となり、企業にとっては、若い人材と一緒に挑戦できるきっかけとなっています。
また、耕作放棄地を学生が開拓して、日本酒を造り、デザイン、コンセプト作り、販売まで手がけた「N-project*」など、地域を元気にする学生団体の活動も支援もしています。
やる気がある若い人は、SDGsに取り組んでいるようなビジョンを持った企業に魅力を感じると言います。先が読めない時代、やる気があって思考ができる人材は多くの企業が欲するところでしょう。
今は学生のほとんどがインターンシップをしますが、「教育的にも、地域にとっても、経済にとっても、価値のある質の高いインターンシップをいかにするかが大切。体験じゃなくて経験、それもただ経験するだけでは浅い」と仁志出さんは申します。
「学生の街なので数は多いが、質が高く、挑戦できるインターンシップはなかった。しかも、質は一つだけでなく多様なものが必要」と、その時に思った仁志出さんは、学校だけでは多様な選択肢を補完できないと考えて、「自分でやってみよう」と起業したそうです。
若い人たちの意見も主体としてしっかり取り入れつつ、多様性のある教育の仕組みになっていくような場を、ここの皆さんとディスカッションしていきながら作っていきたいと述べました。
この後、質疑応答があって、今日話を聞いた中で、自分は2030に向けて、子供達の教育に対してどんな役割を果たしていきたいと思うか? そのことをそれぞれのグループで話し合い、その思いを付箋に書いていただき、SDGsカフェ#4は終了しました。
なお、ご参加された皆さんが書いてくださった付箋のメッセージは、今後の金沢SDGsの行動計画に結びつけ、そのヒントとして活用していきます。