地域との研究活動:アーカイブ
2020年10月13日
2020年6月に開催された「海洋汚染問題を考える」に続き、今回が2回目となる国連大学OUIK「能登の里海セミナー」。
今回は、SDG14の10個のターゲットから、海洋生態系のレジリエンス強化や回復取り組みに関するSDG14.2と14.5について勉強しながら、海洋生物多様生の保全を考えました。
近年の海洋生態系に関する話題や保全取り組みを紹介するとともに、CBD-COP10の愛知目標とも連動する「海洋保護区」の紹介や、実際に能登の里海の生物多様性の保全を行っている2例の活動報告が行われました。
能登の里海ムーブメントとSDG14について
セミナー主催者を代表して国連大学サステイナビリティ高等研究所いしかわ・かなざわオペレーティング・ユニット(国連大学OUIK)の永井事務局長から開会の挨拶があり、続いてイヴォーン・ユー(国連大学 OUIK研究員)から、「能登の里海ムーブメントとSDG14について」と題して、このセミナーの趣旨説明がありました。
石川県の能登半島は2011年に日本初の世界農業遺産に認定されましたが、そのコンセプトはまさに能登の里山と里海です。認定数年後、地域の人に話しを聞くと、里山の方は農業や森林管理など、認定をきっかけに活動が活発になっている一方、里海の方は、「どのように関わっていけばいいのか?」などと、地域の皆さんの中でも戸惑いがあることが分かりました。それを受けて、2015年から能登の里海を知るための「能登の里海ムーブメント」という活動を国連大学OUIKが開始。セミナーの開催、国連大学OUIKの研究、地域の皆さんの里海保全活動を手伝うというのが活動の3本の柱となっています。
2015年から2017年までは、金沢市内や能登地域でいろいろなテーマで里海のセミナーを開催してきました。海の森だったり、海士さんの話しだったり、伝統的な漁の仕方だったり、さまざまな課題を通して、能登の里海の魅力などを伝えてきました。そして、2018年から2019年までは、これを受けての情報発信として、東京や海外でも能登の里海のことを発信してきました。
今年度からは SDG 14に特化した里海のセミナーを開催しております。第 1回目は里海開催は 6月に SDG14.1に関する海洋汚染問題について勉強しました 。 ここではSDGsの17のゴールのうち、14番の「海の豊かさを守ろう」について詳しくみていきます。SDG14は「持続可能な開発のために、海洋・海洋資源を保全し、持続可能な形で利用する」という目標。2015年に定めたものですが、海がやっと地球規模の課題として取り上げられたと、当時は海の専門家から、たくさんの喜びの声が上がりました。2017年には第1回の「国連海洋会議」がニューヨークで開催されましたが、この時はSDG14がテーマでした。SDG14は今、海を語る上での世界中の共通語となっています。
海の保護区は達成が間近の目標
さて、SDG14の中にはさらに10のターゲットがあります。第1回の里海セミナーでは、ターゲット14・1の「海洋汚染削減」をテーマにしました。そして、今回のセミナーでは14・2「海洋生態系保護・修復」と14・5「沿岸域・海域保全」を中心にみていこうと思います。
14・2「海洋生態系保護・修復」は、「2020年までに、海洋及び沿岸の生態系のレジリエンス強化や回復の取り組みなどを通じて持続可能な管理と保護を行い、大きな悪影響を回避し、健全で生産的な海洋を実現する」とあります。要するに“2020年までには海の環境を良くしていきましょう。そうすれば海の中の生物多様性も健全に保たれるのではないか”という主旨で作られた目標です。ちなみに2020年というのは、生物多様性条約(CBD)の「愛知目標10」の達成年からとっています。SDGsの中の生物多様性の目標はCBDの目標を参考にしているのです。
14・5「沿岸域・海域保全」の目標は、「2020年までに、国内法および国際法に則り、入手可能な最適な科学的情報に基づいて、沿岸・海洋エリアの最低10%を保全する」とあります。こちらは、海の10%を守ろうという話で、同じくCBDの「愛知目標11」の中で掲げられているものです。
今週、「地球規模生物多様性概況第5版」が出されました。これはこの10年間の愛知目標の達成状況などの報告書で、20個の目標はほぼ全部達成できていないという結果が出ています。その中で一部は進捗がある、希望があるというような報告もありました。
具体的に「愛知目標10」をみると、海の変化に保全活動が追いついていないことや、海の保全を取り巻く制度がいろいろな国でばらつきがあって情報収集に困難しているのではないかなと思い、適切な分析ができていないように感じます。
また、「愛知目標11」に関しては、陸と海の保護区は達成できる方向ではないかと考えます。実際、11が1番達成できそうな目標ともいわれています。
海洋の生物多様性を示す図を見ると、日本の海が生物にあふれていることが読みとれます。さらに、人口密度の高い国のほうが生物多様性も多いようにもみえます。課題としては、生物多様性が豊かなだけに保全の仕方にも工夫をしなければいけないと考えます。
里山と里海のつながり。森・里・川・海のつながりというのがあり、陸の栄養素を海に運び、それが生物の餌になっています。陸に住みながら、海とのつながりを意識すれば、陸からも海に対する保全ができるのです。里山・里海はいろいろな人の力によって守っていけるのです。
*以上、イヴォーン・ユー研究員の発表を要約・編集しました。
基調講演:海洋生物多様性の保全~海洋保護区について~
基調講演は、環境省自然環境計画課の木村麻里子氏にお話しいただきました。
木村さんは自然保護官として10年前に環境省に入省。COP10にも少し関わることができたそうで、その後、日本全国の国立公園や自然環境が豊かな場所にて希少種などの保護増殖などに関わり、現在は自然環境計画課に所属して、海洋生物多様性の担当をしています。
「現状の海洋保護区」「沖合域の新たな海洋保護区制度」「来年以降の海洋保護区」の3つを中心に発表がありました。
国際的な海洋保護区に関する目標は、生物多様性条約の「愛知目標11」と、SDG14・5に設定されています。これをごくごく簡単に言うと、「2020年(今年)までに海の10%を保護区として保全しましょう」という目標となります。
では、現状はどうでしょうか? 主な海外の大規模な海洋保護区の事例(位置図)を見ると、大規模な保護区が設定されていることがわかります。全海域(公海を含む)の約7.5%、管轄権海域(公海を含まない。EEZ《排他的経済水域》の内側)の約17.3%が保護区となっています。公海に関しては、誰がどうやって海洋保護区を設定するかがまだ決まっていなくて、現在議論をしている最中です。ちなみに、公海を除けば、目標の10%は達成していることになります。
国別の海洋保護区の設定状況をみていきましょう。1位はイギリスでEEZの47.5%、日本は7位で8.3%です。10%目標にはまだ足りていません。ここで、日本の海洋保護区の制度についてもう少し詳しくお話します。そもそも「海洋保護区」とは何でしょうか? 愛知目標で10%にするとしていますが、その当時は詳しい定義はなされていませんでした。日本ではその半年後に、「海洋生物多様性保全戦略」を策定し、「生物多様性の保全および生態系サービスの持続可能な利用を目的として、法律などにより明確にエリアを決めて管理されている地域」のことを「海洋保護区」とする定義が定められました。
では、この海洋保護区の定義に合致するものはどれくらいあるのでしょうか? 実は、「海洋保護区」という名前のところはなく、いろいろな制度で管理されている区域を海洋保護区としてカウントしているという状況です。目的別には、「自然景観の保護など」「自然環境または生物の生息・生育場の保護など」「水産動植物の保護培養など」の3つがあり、「水産動植物の保護培養など」の割合が一番多いです。これらを足したものが、先のEEZの内側にある8.3%の海洋保護区となります。
石川県の自然公園をみてみましょう。能登半島国定公園は50年以上前に指定されたもので、能登半島の変化に富んだ長い海岸線が中心となります。国定公園の制度の中にある海域公園地区は「木ノ浦海域公園地区」と「内浦海域公園地区」の2つが指定されています。
自然公園というと、ただ守るだけと思われがちですが、実はそれだけではなく、いろいろな人たちに来てもらい、自然環境を楽しんでもらう、要するに利用してもらうということも大事な目的の一つとなっています。利用と保護もどっちも大事な両輪で、このバランスを図って管理をしていくということが自然公園なのです。
日本の海洋保護区を場所別に「沿岸域」か「沖合域」かで分け、目的別に「自然景観や生物の生息域場等の保護目的」か、「水産動植物の保護培養などの目的」かで分ける4つのブロックにすると、「沖合域」での「自然景観や生物の生息域場等の保護目的」だけが海洋保護区には含まれていません。日本の8.3%という保護区の多くが沿岸域に設定され、また、沖合域での自然景観などの保護は適用可能な法律がなかったため、指定されていないのが現状です。
日本の沖合域をみてみましょう。日本の管轄海域というのはとても広く、世界で第6位の面積となります(各国が持つ海外領土を除いた場合)。沖合域には多様な環境や生態系が形成されていて、3万種以上の生物がいます。これは世界の全海洋生物種数の14%にあたります。太陽光も届かず、ものすごい圧力を受けている深海にもたくさんの生物がいます。なかなか調査に行けない場所なので、今後調査が進めば、まだまだ新しい生物が見つかるような、未知とロマンが広がっている場所でもあります。
深海に生息する生物資源利用上の意義というのもあります。その代表的なのは2008年にノーベル賞化学賞をとった、オワンクラゲなどの蛍光タンパク質の利用や、バイオエタノール生産などに活用できるカイコウオオソコエビなどが挙げられます。
沖合域の新たな海洋保護区制度
新たに沖合に海洋保護区を設定することになり、沖合域を守る法律がなかったので、自然環境保全法を改正して、沖合の海洋保護区制度ができました。沖合海底自然環境保全地域と呼ぶ、指定された区域では、鉱物の採掘や底引き網漁での海底の動植物の捕獲は規制されるようになります。最初に指定される海域としては小笠原方面の沖合域が有力視されていますが、現在、2020年内指定に向けて調整中で、仮に案通りに指定されれば、日本の海洋保護区割合は一気に13.3%となり、愛知目標11とSDG14・5が達成されることになります。
しかし、「これで目標達成、バンザイ!」ということでよいのでしょうか? 問題提起の意味も込めて、最後に来年以降の海洋保護区の話をします。海洋保護区は10%を達成できても終わりではありません。管轄権海域よりも公海の方がはるかに面積が大きいので、公海をどうするのかを決めないと、いくら自国のEEZの中で海洋保護区を設定しても、全海域の保護区の割合を10%にするのは難しい状況です。
さらに一方で、2030年までに海域の30%を海洋保護区にしようという話もあります。海洋保護区は広いほうが保全が進んでいいと思いますが、それだけの広い面積となると陸からかなり離れた沖合を指定することになります。指定した以上は、そこをちゃんと管理して保全していかないとなりませんが、そのためのコストも膨大なものとなります。実際問題として、どうやって管理や保全をするのかという話もあります。
なかには自然保護区の野生動植物種に由来のものは一切利用してはダメ、何も手を付けてはいけないという考えの人も一部にはいます。海洋保護区でも一切漁業をしてはダメだという考えを持っている人もいます。しかし、人と自然環境との関わりがある中での持続可能な利用、つまり人が手を入れることで保全されているような面もあり、一切手をつけなくて保全が図られるのかということに、私は疑問を持っています。これに関しては皆さんにもぜひ考えてもらえるといいなと思っています。
*以上、木村麻里子氏の基調講演を要約・編集しました。
活動紹介 ①「能登九十九湾におけるアカテガニを介した森と海のつながり」
能登の里海での活動報告その1を石川県立大学教授の柳井清治氏に発表していただきました。柳井さんは、能登の九十九湾(つくもわん)でアカテガニを指標にして、森と海のつながりを研究しており、その成果をお話しいただきました。
九十九湾では、アカテガニが毎年海に卵を放ちにやってきて、また、それを利用するいろいろな魚も集まってきます。そのようなことで、アカテガニは森と海のつながりを象徴するような生きものになっています。
さて、アカテガニはどんな生きものなのか? 通常は森の中に棲んでいますので、森の中の生態系に含まれています。その子どもはゾエア、そして少し成長するとメガロパといいますが、いったん海に行ってから、陸に戻ってきます。アカテガニはおもに西日本、台湾、中国東部にいます。日本が北限とされています。アカテガニ類の生活史の最大の特徴というのは、陸と海を行き来するということ。親ガニは陸域に棲んでいますが、子どもは海に行って大きくなってまた陸に戻ってきて、森の中で生活をします。
アカテガニは森の中に棲んでいて木登りが上手。森の中の斜面に穴を掘って棲み、冬眠も穴の中でします。雨水をうまく利用してエラ呼吸をする、森林生活に特化しているカニです。どんなものを食べるかというと、木の葉であったり、木の実であったり、キノコであったり、芋虫も食べます。
成長したアカテガニは、夏になると卵を海に放つようになります(放仔行動という)。2万から3万の卵を抱えているといわれます。九十九湾には自然の海岸が多く残されており、夏の夜に、たくさんのカニが水辺に集まってきます。もう一つ、面白いのが卵を放つ個体と月齢が同調しているといわれていることです。満月や新月の大潮の時に集まってくるものが多いのです。なぜ大潮がいいのかというと、海に放ったゾエア(子)が効率よく沖合に流されていくからと考えられています。ゾエアがどこまで流されていくのかを九十九湾で調べたら、湾全域に広がっていますが、特に自然海岸が残されている奥の方が密度が高いことがわかりました。
マアジやボラの仲間をはじめ、ゾエアを狙うたくさんの魚も集まってきます。魚にとっては「夏にごちそうが陸からやってくる」と思っているかもしれません。沿岸に棲む魚にとってはとても重要な餌になっていることも調査から分かりました。
ゾエアは3週間くらい経つと、カニの形に近くなったメガロパというものになります。メガロパは大潮の時に、自然海岸で小川があるところに大量に戻ってくるということが最近になって明らかになりました。
森と海がつながるところにアカテガニは棲む
能登半島全域でアカテガニが豊富なところを調べると、森と海がつながっていて、自然環境がよく保全されたところという共通点があります。森と海はあっても、その間に防波堤などの障害物があるところは少ないことも分かりました。海から戻ってきた子どもが森の中に帰れるような環境が重要なのです。
アカテガニを活用した地域・教育活動が九十九湾周辺では盛んに行われています。一つはのと海洋ふれあいセンターが中心になって行っているいしかわ自然学校です。子どもたちを九十九湾に招き、そこに棲むアカテガニなどを観察する会を実施しています。月齢に左右されることや海の中に卵を放つ行動というのはとても感動するものです。
一方、沿岸周辺の環境が重要だということで、アカテガニが棲む森林を守っていこうということも重要です。環境省が500カ所を選んだ生物多様性保全上重要な里地里山の中に、九十九湾も含まれていて、学生と一緒に森づくり活動も行っています。
金沢大学が全国の学生を集める公開臨海実習では、「アカテガニに着目した海岸環境の保全に関する実習」を実施。放棄田を整備してアカテガニ・ビオトープを、みんなで泥だらけになりながら整備して、海との連続性もつくっています。
アカテガニは次世代の子どもを育てる上の環境教育で、とてもいい材料になっているのではないかと思っています。
*以上、柳井清治氏の活動報告①を要約・編集しました。
活動紹介 ②「能登里海の生物多様性にダイバーとしての関わり」
能登の里海での活動報告その2を能登島ダイビングリゾートの鎌村実氏に発表していただきました。能登半島の東側に位置する能登島でダイビングの店を開き、17年経つそうです。最初に紹介されたのが、「海の森」の写真。水底から水面を見上げたもので、まるで森の中を歩いているような光景が、海の中でも見れるということに驚かされました。
レジャーのダイビングは熱帯系のところをイメージされることが多いですが、もともとのレジャーのダイビングは、「ちょっと目の前の海に潜ってみようよ」というところから始まっているものです。陸と海とのつながりがあって自然が豊かな能登の海に潜ってみると、山歩きと同じように海の中でもたくさんの楽しみがあります。そこで感じている事をここで紹介しようと思います。
私は能登の観光・教育に、スキューバダイビングという新たな分野を定着化させることができたのではないかと自負しています。このようなことができている条件として、能登の海の特徴があります。能登半島の西側は季節風の影響を大きく受けて、季節感が楽しめます。一方の東側は季節風の影響が少なく、富山湾の恵みを受けた生態系があります。水深1100メートルの深海がある富山湾の西側となり、水深は浅いですが季節風の影響を受けにくい地域です。その中で、私たちダイバーが入れる浅いところは、海藻の宝庫なのです。
海藻は多種多様で、生きものを集め、魚のゆりかごともいわれています。海藻があることや、小魚や貝類がたくさんいることで海水の浄化がなされています。そのような景観の美しさは、レジャー・ダイビングにつながってくるところです。しかも、ミナミハンドウイルカというイルカも生息しています。首都圏や関西圏からのアクセスもよく、太平洋側や熱帯地域とは違う海の中の景観が見られることから、人気のレジャー・ダイビングスポットとなりました。
私は海藻を見る里海のダイビングや冬の日本海に潜るという異日常を体験できるダイビングなどを、新しいレジャー・ダイビングとして提案もしています。一方でこれからの世界を背負って立つ子どもたちにも広めていきたいと思っており、県内の大学や専門学校、高等学校などの学生・生徒を集めて、一緒に潜り、海の中を楽しんでもらっています。
漁協とのつながりを持ち、漁業者のサポートにも取り組む
獲るだけでなく、育てる漁業を考えたとき、「では何をすればいいのか?」ということを、潜水士の視点から提案や協力を行っています。たとえば、能登は定置網での漁が多いのですが、定置網の漁業者に海の中で定置網がどうなっているのかを見てもらうための潜水指導などをしています。また、17年ほど定点観察・撮影を続けていますが、そこで得られた知見を漁業者にフィードバックして、育てる漁業の漁場をどうやってつくっていくかといった場合の潜水作業の手伝いも行っています。
そして漁業者との協業として、海藻の調査もしています。日本海の海藻は食文化とのつながりが強く、海の中ではどうなっているかを調査して、それを増やす活動を漁業者と一緒に行っています。磯焼けを起こしているところにアマモの種子を植え付けたらどうなるかという研究を、高校の潜水部の生徒に協力してもらって行ったり、もう少し深いところでは、日本海側でよく食べられているアカモクをもっと増やそうと、アカモクの母藻設置も行っています。
ほかにも真冬に海に潜って牡蠣の生育状態を確認することや、雲丹が増えすぎて海藻がうなく育たないところでの雲丹の駆除の手伝いなどもしています。反対に雲丹を生育したいという場合には、雲丹を育てやすいように雲丹フェンスというものを設置してその中で雲丹を育てていくことをやったりすることもあります。実際の海の中に入って現場を見ながら、いろいろな手伝いする活動をしています。
現場を見ることで、海洋学や水産学の枠にとらわれず体感してもらうことは学生たちにもしてもらっています。遊びの延長から始めて、中には水産関係の仕事に就く人も出てきました。
珍しい潜水部がある高校もあり、そこでは部活動としての潜水活動(ダイビングというスポーツ)を通じ、里海での生物多様性を体で感じとっています。また、潜りながら水中のゴミ拾いも行っています。
海中にはたくさんのゴミがあります。それをきれいに回収して海の生物多様性を守りたいと思っていますが、ダイバー個人のレベルではどうにもならないものがあります。それは、使われなくなった定置網などの漁具。海の中にたくさん沈んでいて、放置されたサザエとりの網に引っかかり、身動きが取れなくなっているサザエもよく見かけます。
海中に放置した蛸壺をちょっときれいにしたらタコが棲みかに使うようになり、産卵もしました。このようにゴミにちょっと手を加えるだけで、プラスになることもあります。
実際に海に入ることで海と人を結びつける役割を担い、海の資源に付加価値を付け、観光や教育へとつなげ、水産資源を人の手で育て守るなど、能登の里海の生物多様性に関して、ダイバーができることはたくさんあります。
*以上、鎌村実氏の活動報告②を要約・編集しました。
引き続き、パネルディスカッションへ
モデレーターをイヴォーン研究員が務め、発表を終えた3人とパネルディスカッションが始まりました。
イヴォーン研究員 :木村さん、2人の能登の活動報告を聞いて感想をお聞かせください。
木村さん :陸に特化したカニでも海がないと生きていけないという柳井さんのアカテガニの話を聞き、人間も海の恵をもらって生活しているので狭い範囲では生きていくことはできないと感じました。また、アカテガニのゾエアが沿岸部の魚の大事な餌資源になっていることを聞き、海の生態系を守ろうと思った時に、海だけに向かって何かをしているのでは足りないのではないか? 海と陸の生態系はつながっているということを考えると、海を守ろうと思ったら、同時に陸の生態系も見て、両方合わせて考えていかないといけないということを改めて感じました。
鎌村さんの写真がすごくきれいで、海の森というのがほんとに言葉通りだなと思いました。高校生たちが一緒になってこのような活動をしていることに感心しました。また、漁業者と一緒になって、漁場を育てて持続可能な漁業を考える活動をされていることはすばらしいと思いました。
イヴォーン研究員 :柳井さんと鎌村さんはいかがですか?
柳井さん :海の生態系を守る上で陸の生態系はとても大事だと思います。海と川を行き来する生きものもたくさんいて、その環境もいま非常に悪いです。鮭をはじめ、海を豊かにする生きものがたくさんいるので、森川海の連続性が非常に重要になってくるのではないかと考えています。放仔のシーンは実物を見るとものすごく感動します。しかも月齢に影響していることがとても面白く、宇宙の神秘も感じることができます。
イヴォーン研究員 :私もすっかりアカテガニのファンになりました。
鎌村さん:高校生たちは部活動として体力を鍛え、また潜水技術の向上も図っています。それは何かというと、結局は安全に海と親しむためという部分があります。人として地球環境を守る認識を持って巣立っていってくれる子が多いことは、私たちにとっては非常にうれしいことです。
私の自宅は森と海の間にあり、夏に家の庭を見るとアカテガニがザワザワと歩いています。柳井さんの発表を見て、アカテガニってこうだったんだとすごく勉強させていただきました。
イヴォーン研究員 :最後に一般の方でも取り組める海のためにできることを教えてください。
鎌村さん :海を陸上からでなく、ぜひ中をご自分の目で見ていただきたいです。見ることで素晴らしさとか、自分たちが今後何をしていかないといけないのかということが少しでも見えるのではないかと思います。ぜひ海に入りましょう!
柳井さん :ぜひ、陸と海のつながりに感心を持っていただき、森は海に通じるなど、流域全体のことを日頃から気にかけていただければと思います。
木村さん :保全したいと思っている人は多くても、具体的に何をしたらいいのかがわからないということを、私自身も感じることがあります。ただ、その前に、まずは皆さんに海に関心を持ってもらうことが大切だと思います。都会など普段の生活の中で海をイメージすることがない人も結構多いと思います。そういう人にも海に関心を持ってもらい、鎌村さんと同じになりますが、海に入ってもらうということが大事だと思います。
閉会の言葉 これからの里海について一緒に考えていきましょう
「皆さんの話から海洋性生物多様性の保全を考えていく上で、とても大事な視点をたくさんいただくことができました。能登の里山里海は世界農業遺産に認定された非常に重要な地。その能登で森と海のつながりをもっと大切にしながら、海とのよりよい関係を目指す取り組みを皆さんと進めていくことができたらすばらしいことだと思います」と、国連大学OUIKの渡辺綱男所長が述べて、セミナーは終了しました。
「能登の里海セミナー」は今回が2回めになります。3回目、4回目と続きますので、ぜひ次回以降もたくさんの方に参加いただき、これからの里海について皆さんと一緒に考えていくことができたらと思います。
【スピーカープロフィール(登壇順)】
イヴォーン・ユー
SATOYAMAイニシアティブ国際パートナーシップ(IPSI)事務局
国連大学サステイナビリティ高等研究所いしかわ・かなざわオペレーティングユニット(UNU-IAS OUIK)リサーチ・フェロー
シンガポール出身、農学博士(東京大学)、専門は国際水産開発学。初来日の2001年以降は、宮崎県、シンガポール国家交通省などの勤務を経て、2012年から現職。日本や韓国の世界農業遺産の申請活動を支援するとともに、国連大学の「SATOYAMAイニシアティブ」と「能登の里海ムーブメント」活動にも取り込み、里山と里海の持続可能な発展や、生態系サービスと生物多様性保全を研究。2014年から「能登の里海セミナー」を企画し、里海の研究と保全活動について国内外へ発信。
木村 麻里子(きむら まりこ)
環境省自然環境計画課
神奈川県出身。2010年10月に環境省の自然系技官(通称「レンジャー」)として採用。同月に名古屋市で開催された生物多様性条約COP10に関わる。本省国立公園課、釧路(主に知床を担当)、奄美大島(アマミノクロウサギの保護増殖やマングース防除事業を担当)、やんばる(国立公園の新規指定調整を担当)、本省野生生物課(主にワシントン条約を担当)を経て、現在は本省自然環境計画課にて海洋保護区やサンゴ礁保全等の海洋生物多様性に係る業務を行っている。
柳井 清治 (やない せいじ)
石川県立大学教授
1956年広島県生まれ。北海道大学農学部卒・同修士課程修了。農学博士。北海道林業試験場流域保全科長、北海道工業大学教授を経て石川県立大学環境科学科教授。研究分野は森林学、砂防学そして渓流生態学など。流域は運命共同体という観点から、環境保全と防災の調和を目指している。2015年に白山手取川上流で発生した大規模崩壊が、流域生態系に与える影響の解明とその復元対策に取り組む。能登半島においては、水産資源に及ぼす森林の役割(魚付き林)の解明をテーマに,九十九湾のアカテガニを介した森と海の相互作用について研究を行っている。また能登半島河川に生息する絶滅危惧種である、カワヤツメの生態調査と保全・増殖をアメリカワシントン州の研究者の協力を得ながら進めている。
鎌村 実(かまむら みのる)
能登島ダイビングリゾート オーナー
潜水士・ダイビングインストラクター
1959年大阪府生まれ。1978年に始めたスクーバダイビング。1984年にはIT系企業でサラリーマンの傍ら、スクーバダイビング・インストラクター資格取得。1997年独立起業。業務の一部に潜水業を取込み、ダイバー育成に努める。2004年能登の地にダイビング専門企業設立。レジャーダイバーの教育、消防署や専門学校にてプロ潜水士育成、水中撮影などに携わりテレビ番組の誘致、各種団体や漁業協同組合などからの依頼にて海洋及び水産資源調査など担う。現在能登島にて、環境省絶滅危惧種に類される海藻ホソエガサをはじめ能登里海の動植物の情報発信に努めている。
セミナーの動画もご覧いただけます。
VIDEO
2022年03月08日
今年度5月に能登地域の自治体が組織する「能登地域GIAHS推進協議会」の中に立ち上がった「能登GIAHS生物多様性ワーキンググループ」の第三回目の会合が3月4日に開催され、国連大学メンバーが準備・運営を支援しました。残念ながら今回もオンラインでの開催となりましたが、専門家メンバーや自治体担当者21名がオンライン上で一堂に会して活動の進捗状況の共有や来年度に向けた意見交換などが行われました。
前半では、専門家メンバーが立ち上げた活動チームが応募した自然保護助成基金「プロ・ナトゥーラ・ファンド」に無事採択され、10月から生物多様性のモニタリング体制づくりに向けて取組が進められていること、そしてその活動状況について複数の専門家メンバーから情報共有がありました。後半では、2月19日に金沢大学の里山里海SDGsプログラム主催で行われたトキの放鳥に関する勉強会の報告や、11月に開催された世界農業遺産国際会議の情報共有などがおこなわれ、トキの野生復帰と本ワーキンググループの活動の関係性や、他のGIAHS地域やユースと連携した取組の可能性などについて活発な議論が行われました。
ワーキンググループは設立1年目ということで、手探りな部分も多くありましたが、来年度も専門家メンバー、自治体メンバーと連携しながら、一歩一歩活動を進めていければと思います。
2020年09月28日
「グリーンインフラ」という言葉をご存知でしょうか?
インフラと聞くとダム、道路などの社会基盤を思い浮かべる人が多いかもしれませんが、グリーンインフラとは、多機能性という視点から自然を再評価することによって、持続可能な社会形成を目指した土地利用計画を指します。
金沢市は1968年に全国に先駆けて伝統環境保存条例を制定し、その中で市内緑地や用水も保全対象として武家屋敷や寺社群とともに町並みとして残す努力をしてきました。しかし、まちなかに住む人が減り、市民の生活の場であった景観も駐車場やホテルに変わってきています。
新型コロナウイルス感染症によって、金沢の基幹産業のひとつである観光業は大きな痛手を受けています。北陸新幹線の開通以来、すごいスピードで変わっている金沢のまちですが、このような状況である今だからこそ、あらためてグリーンインフラの視点から、現状を見つめ直してみることにしました。
SDGsカフェでグリーンインフラを取り上げるのはなぜ?
SDGsカフェは、「2030年の金沢がこうだったらいいな」と誰でもIMAGINEしてもらえる会。そして、それを受け、専門知識を持った方に情報提供していただき、皆さんで議論をするというカジュアルなものです。2019年4月から始まり、教育や気候変動、文化、働き方、スポーツ、公共交通など、多岐にわたるテーマを、さまざまな皆さんと話し合ってきました。
今日のテーマのグリーンインフラは、金沢にとってもとても重要な考え方で、今年発表した『金沢ミライシナリオ』の中でも、「古くて 新しくて 心地よいまち」をつくっていくにはどうしたらよいかという部分で、「グリーンインフラをつくり、使う」ということを具体的に挙げています。
今回、グリーンインフラの視点から2030年をIMAGINEしてくれるのは、スペイン・バレンシア地方から来日して11年、日本庭園に魅せられて、京都、金沢と研究対象を広げてきた国連大学サステイナビリティ高等研究所いしかわ・かなざわオペレーティング・ユニット(国連大学IAS OUIK)のファン研究員。金沢の自然、市民の暮らし、歴史が凝縮した、市井にある日本庭園や曲水庭園などの研究を通じて、金沢市のこれまでの緑地の変化、これからのまちのあり方を住民と考える地域に根差した研究を展開しています。2019年には代表著者として『OUIK 生物文化多様性シリーズ#5 金沢の庭園がつなぐ人と自然―持続可能なコモンズへの挑戦―』を執筆しています。
そしてアイデアを提供してくださるのは、三菱UFJリサーチ&コンサルティング在籍時にグリーンインフラ研究会の立ち上げに参画して、現在は京都産業大学で教鞭を取りながら、国内外のグリーンインフラ事例を幅広くまとめた書籍『決定版!グリーンインフラ』、『実践版!グリーンインフラ』の出版に関わるなど、多彩な活動されているグリーンインフラの専門家、研究家、広報官の西田貴明さんです。
金沢市民全員を庭師にすることが夢
フアン研究員はいつも「金沢市民はみんな庭師になったらいい」と言っており、今回はそれをこのカフェのテーマにすることにしました。
京都で6年間日本庭園の研究を行い、バレンシア工科大学で建築の博士号を取得したフアン研究員。現在は金沢での研究のかたわら、地域の住民と交流しながら、町家暮らしと庭園、茶道を楽しみ、日本家屋と庭園の現状を海外に発信しています。京都の人は周りの森や川の景色からインスピレーションをもらい、日本庭園をつくり、京都は素晴らしいまちになったと述べ、京都で毎日庭園を見ていた、本人いわく“夢のような日々”の話からスタートしました。
金沢の伝統的な生物多様性を維持する日本庭園
里山庭園の例として「武家屋敷 寺島蔵人(てらしまくらんど)邸」の庭園を紹介。戦のことを考え、建材や食料となる果実や野菜などを栽培しながら、美しい日本庭園をつくっています。また、茶室をはじめ、建物のさまざまな場所からこの里山庭園を眺め、心を豊かにしていたそうです。
続いて、展望台のある庭園の例として「辻家庭園」を紹介。コケや芝、土を寄せて交流の場をつくり、そこから、空と平地を眺めて、心を豊かにして生活していたそうです。
金沢の曲水(きょくすい)と湧水庭園の例として「兼六園」を紹介。金沢では武士や裕福な町民は、犀川(さいがわ)や浅野川(あさのがわ)の水を庭に取り入れ、庭園の滝や池や小川に水を流して、人の心を癒やしてきました。
白山山系からの雪解け水は、浅野川と犀川と湧き水になり、市民の重要な生命の源となっています。金沢には水源に応じた2つのタイプの日本庭園があり、それはまちなかにある用水網を使った「用水庭園」と、湧き水を生かした「湧水庭園」です。
用水庭園の例として、長町にある千田家(せんだけ)庭園を紹介。大野庄(おおのしょう)用水の水を引き込んだ池の中には、メダカやカメなど多くの生きものがいるそうです。湧水庭園の例としては、卯辰山にある心蓮社(しんれんしゃ)庭園を紹介。湧き水が池をつくり、大雨で水が溢れたら排水溝から流れ出し、少なくなったら湧水により満たされます。この豊かな環境には、ホクリクサンショウウオなど貴重な生きものが暮らしているそうです。
これらの庭園の環境は、多様な生きものだけでなく、工芸の職人や料理人、茶人などの営みにも寄与しています。このように金沢は、庭園があるおかげで生態系学的にも文化的にも多様性に富んだまちになっているということができます。人と人の親密な関係は、自然との親密な関係と調和が取れ、また自然と親密な関係からは人と人の幸せが恵まれるなど、日本庭園から受ける恩恵はたくさんあるそうです。
国連大学IAS OUIKが進める「S.U.Nプロジェクト」とは?
日本庭園とグリーンインフラを合わせた未来のビジョンである「S.U.Nプロジェクト」というものを国連大学IAS OUIKが主宰しています。S.U.NとはSustainable、Urban、Natureの頭文字をとったもので、新たな自然の創出と、自然環境を保全することを目的に、2019年から研究活動を行っています。
日本は急激な人口減少に直面しており、これにより空き家の割合が増加しており、現時点でも、金沢のまちなかでは空き家率が8%もあります。この問題を解決する方法を提案するのが本プロジェクトです。これは、IMAGINE KANAZAWAと連携するプロジェクトでもあり、3つのパートからなります。その1つ「S.U.N1」では、町の小さなエリアで日本庭園とグリーンインフラを統合した研究が始まっています。
「まち・ひと・しぜんの100年」と題した1970〜2070年のそれぞれの変化を示すチャートからは、2010年までは家も人も増え続けてきましたが、2010年から人口が減少するに伴い、空き家が増えていく(都市の縮小)のがわかります。一方の自然は、ずっと減少しつづけていて、何もしなければこのままずっと減少し続けると思われます。
そこで、2030年までに駐車場や空き家などのグレーインフラを緑化することがフアン研究員のIMAGINEする金沢の姿であり、そして、その緑を守り続けていくため、「市民全員が庭師になろう」ということを提案しました。
金沢SDGsの5つの方向性の1番、「自然、歴史、文化に立脚したまちづくりをすすめる」ということや、金沢市が2020年に内閣府から認定された「自治体SDGsモデル事業」の概要の中にも「用水、庭園などによる、水と緑のネットワークづくり」「生物文化多様性の保全・啓発」が具体的に挙げられています。
「『S.U.Nプロジェクト』はこれらの実現にお役に立てるように、調査研究を行っていくつもりです」とフアン研究員は述べて、発表を締めくくりました。
国連大学IAS OUIKの永井事務局長からは、「フアンさんの研究活動自体が、金沢のまちを知ることができる地元観光にもなるのではないかと思っています」とのコメントがありました。
グリーンインフラは市民が主役となって語られることが大切
金沢を緑で一杯にしたいということで、グリーンインフラの出番。西田さんにグリーンインフラとはなにか? そして、グリーンインフラの実践に向けた取り組みについて、話題提供をしていただきました。
「グリーンインフラの概念は、緑をいっぱいつくって人と一緒に活用していくということ。『全員が庭師になろう』と、いろいろな人が参加していくことは大事なポイントだと思います」とフアン研究員のIMAGINEの感想を述べ、まずはグリーンインフラを西田さんが着目するようになった経緯から話が始まりました。
三菱UFJリサーチ&コンサルティングで10年間、生物多様性と社会経済活動をどう両立していくのかということに関わってきた西田さん。“生物多様性で生きものを守ることを目的に社会をつくっていくことだけではなかなか難しいのではないか? もっと別のアプローチはないのか?”と、仕事をしながら議論していた中でひとつ出てきたのが、グリーンインフラという話だったそうです。
グリーンインフラとは概念であり、環境を守るということではなく、環境の価値を活用して、地域の活性化や、防災・減災につなげていこうとするのが定義だそうで、“グリーンインフラ=生物多様性を守るではない”と言います。自然の持っている機能を引き出すことによって、経済と社会とをうまく回していくということが目的であり、その結果として自然が豊かになっていく、そういうことを重視した考え方だと述べました。
具体的にはいろいろなことが考えられているそうです。例えば、雨水貯留機能を備えた植栽帯(小さな貯水施設、防災的な効果も果たせる花壇)も。また、遊水地も生きものの棲みかにしたり、普段は農地にしたり、あるいはイベントの会場にしたりと、いろいろな機能を持たせることもグリーンインフラとして捉えているそうです。
このようなものを作っていこうというのがグリーンインフラですが、SDGsとの関係でいえば、目標を達成するための手段がグリーンインフラとなります。グリーンインフラへの取り組みにより、複数のSDGsの目標達成に寄与している事例は国土交通省のHPでも取り上げられています。「SDGsが注目されて、具体的に何か行動をしたい時、グリーンインフラを考えてもらえたらいいなと思います」(西田さん)
日本でグリーンインフラをなぜ進めるの? その背景とは?
環境だけでなく、後押しとなったもう一つは、人口減少の問題。“国土の担い手がどんどんいなくなっていく中でどうしていくか?” 人口が減っていく中で、インフラの維持コストはどんどん上がっていき、それに対応できるだけの地域的、経済的な余裕も十分でなくなるかもしれません。将来的に社会インフラを現状のままで維持していくのは難しいかもしれないということも背景にあると言います。
また近年、災害リスクがどんどん高まっていることが感じられ、これを今までのインフラだけで守っていけるのでしょうか。さらにリスクの高いものが起こる可能性が高く、今まで行ってきたアプローチだけをやるのではダメだということも背景にあるそうです。
この20年で環境産業は着実に伸びてきています。グリーンインフラなど自然を活用するという視点がビジネスとして魅力となり、生きものを守ろうということよりも、“自然環境の価値を生かしていくことで社会課題を解決できないのか?”ということが、グリーンインフラを進める推進力として期待できるようになってくるかもしれません。
多様な機能があって、経済や環境、安全上もいい、グリーンインフラ
都市のなかで一番現実的なのが「分散型の雨水管理の場としてのグリーンインフラの活用」だと思っているという西田さん。通常では遊水地というのは、地面の下に大きな貯留槽をつくり、それで災害リスクを避けるのが主流ですが、そうではなく緑の空間も雨水貯留機能の場として使い、小さなものをたくさんつなげることによって、災害リスクを下げていきます。さらに、そういう緑の空間がまちなかにあふれる環境を生かして地域活性化につなげ、地域の賑わいを取り戻していこうとするそうです。
先進事例として、アメリカのポートランド市の事例を紹介しました。ここでは、小さな雨水貯水機能の場をたくさんつくったほうが、大きな貯水槽をつくるよりもコストが安かったそうで、さらに、この分散型の植生帯を、みんなで管理したり、みんなで活用したりする仕組みをつくったことが大事だと強調しました。これにより、雨水流出抑制だけでなく、地域の景観が良くなったり、市民が参加して歩く機会が増えたり、人の賑わいが出てきたりしました。その結果、観光客が増えるなどの結果が出てきて、それでお金が入り、それがまた地域に回っていくという好循環ができてきたそうです。「グリーンインフラを都市でやるひとつの理想のモデルが、これではないかと思います」(西田さん)
世界中で今行われているのは、未利用地を緑で再生してみんなで使えるようにしていること。日本にもこれができる余地がたくさんあり、例えば、駐車場や空き家などもうまく活用していくというのが一つ重要なポイントになるといいます。そしてもう一つ大事なことは、分散型の雨水管理をするだけではなく、リスクをきちんと認識していくことだといいます。今、流域治水という概念が注目を集めていて、これは河川だけで災害リスクを抑えるのではなく、あふれた後の対策も含めたリスクをどう捉えるのかということも行っていかないといけないという考え方。リスクとメリットというのを重ね合わせて議論していくことも大事だといいます。
グリーンインフラはこれまでやってきた自然保護や生物多様性保全の延長でもあります。あるべき自然が残されてきて、それをみんなで利用できるような考え方が整備され、よりそれを大事にしながら活用していくという動きが出てきているそうです。
「行政の中で、環境や防災の文脈でグリーンインフラをどう使っていこうかという話が出てきていますが、まだまだ限られていますし、これだけでは経済的に回っていかないところもあります。それをどうつなげていくかというキーワードはいろいろ出てきていますが、まだまだ落とし込めていません。どうやったら落とし込めるのか、どうやったら組み込めるのかという話を、いろいろな形で議論していただければと思います」と述べて、話を締めくくりました。
質疑応答とディスカッションタイム
残り時間は、たくさんいただいた質問に答えつつ、西田さん、フアン研究員、永井事務局長の3人でディスカッションを行いました。
永井:ポートランド市の事例、誰が音頭を取ってこのようなデザインができたのでしょうか?
西田:最初は自治体の下水道部局と環境部局の方が始めたそうですが、その人たちだけでできたわけではなく、どんどん活動が広がっていろいろな連携がある中での意見交換から出てきたと聞いています。
永井:下水の課題解決をきっかけにこのようになったということですか?
西田:内水面氾濫だけでなく、合流式下水道なので大雨の時には汚物が河川に流れてしまい、その水質汚濁が一番の課題だったみたいです。
新しいものをなにかつくるだけでなく、すでにあるものに実はこういった機能を持っていたんだよということを評価できることも大事です。ファンさんの研究などはまさにそうなのかなと思います。緑地や庭園が防災面でこれだけの効果があるということが明らかになれば、かなり注目を集めることになると思います。
永井:ファンさんの庭園の清掃活動は参加してみると楽しいので、いろいろな人が手伝ってくれるようになりましたが、フアンさんはどうしてみんなが関わってくれるようになったと思いますか?
フアン:金沢のまちは規模がちょうどよく、人の関係も強いので、庭園清掃活動の協力を募集すると、たくさんの地元の方がご協力してくださいます。金沢のまちのスケールが丁度いいのではないでしょうか。東京や京都だとまちが大きすぎてここまでうまくいったかどうか。
永井:質問が来ています。「環境がよくなったら、文化や経済に与えるプラスの影響やメリットについて、金沢での具体的な例があれば知りたい」というもの。フアンさん、グレーインフラをグリーンインフラにしたときに、このまちにどのようなメリットがあると考えますか?
フアン:夏のヒートアイランドは経済とも関係がありますが、それが改善できると思います。
永井:「デジタル社会との共存も大切になる。効率優先から持続可能な社会への考え方が変わっていくことが重要だと思うが、パネリストの方々はその切り替えがいつ頃から加速するとお考えか?」という質問が届いています。
私の場合、現在はリモートで家にいますが、家の隣にせせらぎがあり、そこはコミュニティーの人が管理していますが、年配の人が多く、手が回らなくなっていて、私も手入れを手伝ったりするようになりました。グリーンインフラという現場をどう変えるかということもありますが、このように私たちの生活様式をどう変えるかということも大きく関係してくると思っています。そういったところでこの切り替えはいつ頃から加速すると思いますか?
西田:すでに始まっているのではないかと私は思っています。コロナの前の、2018年くらいから大きく変わってきていて、それが今は加速しているような気がします。2010年から2015年ころまではあまり動きが感じられませんでしたが、それ以降は自然とか持続可能性とかの思考が高まっているような気がしています。COP10のころは、理想的というか、倫理的に大事だと言っていたような気がしますが、今は社会的な利益のためにグリーンインフラも必要だし、持続可能なESG投資も大事だし、防災上でも分散型が大事だしと、自然とか持続可能性をきちんと守るということが社会にとってもメリットだということが、SDGsのおかげか広がってきたような印象があります。
永井:コロナによって、今まで変えられないと思っていたことが変えられることを知り、それとともに、心の豊かさを考えるようになったということもあると思います。
フアンさんから、みてグリーンインフラなどをみんなでやっていくムーブメントを推進するためには何がカギになると思いますか? そしてスペインとの違いはどんなふうに感じていますか?
フアン:日本とヨーロッパの緑の考え方は違います。ヨーロッパは公園などの緑が多いですが、日本では公園は少なく、家の庭が多いです。ですから、日本では家の中の緑をどう増やすかということを考え、ヨーロッパではまちの中の緑をどう増やすかということを考えます。緑を増やすためには日本人の考え方を変えていかないとできません。
永井:「グリーンインフラの防災の機能について、平時から防災について市民に考えてもらう工夫も必要では? そんな事例があれば教えてほしい」という質問が来ています。
西田:昔から言われているのは、河川の堤防に桜並木をつくっているのは、普段から堤防などの防災施設の管理を意識してもらうためということ。楽しみと憩いの空間であり、かつ災害がある時に守ってくれる大事な存在だということを意識してもらえます。金沢の用水路も、そのような機能があるということを聞いた気がします。
永井:グリーンインフラは多機能だから、「防災訓練は楽しくないけど、ピクニックならば楽しい」など、別の仕掛けによって意識してもらいやすいのかなと思います。
「金沢には農業用水があるが、暗渠(あんきょ)のところも多い。例えば東京の神田川のように起点から終点まで、景色を楽しみながら歩けるまちになって欲しいと考える。そこで行政が土地を強制的に収容することは可能なのか?」という質問があります。
フアン:土地を利用することができれば、強制収容するほどのことをしなくていいと思います。持ち主はそのままでも、期間を限ってでも、まずはみんなで管理してすばらしい畑とかコミュニティーの場を作れればいいと考えています。
永井:参加いただいた方のコメントを一つ紹介したいと思います。「金沢は地域の生活文化を体験するカタチの観光にとても向いていると思うが、緑を育んで楽しむという観光も実はリピートにつながるのではないだろうか。ひいては持続可能なグリーンインフラにつなげることができそうだと思う。グリーンインフラは観光との親和性もあるかもしれない。そして、日本らしい、金沢らしいグリーンインフラのプロモーションの一つになるのではないだろうか」。
時間となりました。最後に2人から、グリーンインフラの夢や希望を語ってください。
西田:いろいろありますが、まだ始まったばかりですので、これをどうやって広げていくかということに、いろいろ関わっていきたいと思っています。働き方改革やウィズコロナで、より住みやすいまちを作っていく中、グリーンインフラの扱いは、防災とは違う文脈で考えられるべきもの。それをどういうふうに行っていくかについてはまだまだ幅がありますので、さまざまな方とディスカッションしていくことで、よりクリアに見えてくるのではないかと考えています」
フアン:金沢市内の研究エリアで、地元の方と一緒になって、将来のために空き家や空き地が再利用できるようになればいいと思っています。
「今日、参加してくださった皆さんとは、今後またグリーンインフラの推進、そしてそれを金沢で実施していく時、ご一緒できたらと思っています」と永井事務局長が述べ、今回のSDGsカフェは終了しました。
全部通しで見たい、もう一度見たい、という方はコチラからご視聴いただけます。OUIKチャンネルのサブスクライブもよろしくお願いいたします。
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2021年12月26日
金沢ミライシナリオ をパートナーシップで実践するためのプラットフォームであるIMAGINE KANAZAWA 2030パートナーズ 。2021 年12 月10 日現在、170 を超える企業、団体、個人が会員登録されています。パートナーズでは、毎月1 回、パートナーズ交流会という会員間の対話の場を設けています。会員のみなさんがチャレンジしていることや困っていることを持ち寄り、それを起点にディスカッションを行い、会員間や様々な団体との協働を通した課題の解決と金沢ミライシナリオの実現を目指しています。
先日12 月18 日に2021 年度第5 回目、合計第7 回目となるパートナーズ交流会を金沢市で開催しました。今回は、薬薬連携SDGs KANAZAWA 、ツエーゲン金沢、特定非営利活動法人ニットの3 団体がピッチプレゼンを行い、課題を共有しました。20 人を超える方々が参加しました。
薬薬連携SDGs KANAZAWA さんは、薬剤師など医薬品の使用に関わる方々が集まり、薬薬連携を通したSDGs 達成に向けて取り組んでいる団体です。薬局など患者さんの薬を準備する場では、日々、多くのプラスチックゴミが排出されています。多くは包装ゴミで、プラスチックの種類はポリエチレン、ポリプロピレンほか、様々です。世界中でプラスチックゴミが問題になっている中、薬薬連携SDGs KANAZAWAさん でも、職場の状況を省みて、何か解決策がないか検討しています。例えば、ポリエステル繊維などの繊維としてリサイクルし、衣類などに出来ないかと考えています。そして、その売上を途上国支援のために寄付を行えないかと考えています。資源リサイクル分野に詳しい方の協力を得て、プラスチックゴミの問題解決を実現していきたいとのことです。
金沢をホームタウンとするJリーグ のサッカークラブツエーゲン金沢 さん。J リーグは、スポーツ文化の醸成を目指すとともに、サッカーを通して地域を豊かにしていくことを理念 として掲げています。それを背景に、ツエーゲン金沢さんもシャレン活動 (社会連携活動)の強化を進めています。これまではJ クラブ側から地域に出て活動する機会が多かったのですが、地域の他の団体にJ クラブを使ってもらい、お互いの強みを活かしながら地域に貢献する取り組みを増やそうとしています。例えば、本年は明治安田生命保険相互会社やいしかわフードバンク・ネットとともにフードドライブ活動 を行いました。ツエーゲン金沢さんは、地域と人と連携して新しいことがどんどん生み出される挑戦の文化が地域の伝統として根付くことをクラブ理念 としています。そういった意味でも、色々な団体の方の地域活動にツエーゲン金沢さんの強みを活用して欲しいと考えています。
最後に、特定非営利活動法人ニット さんから、認知症になっても安心して暮らしていける社会を目指していくうえでの課題や、認知症患者とその支援団体が抱える課題について共有いただきました。特定非営利活動法人ニットさんは認知症患者の暮らしを支えるサービスを提供している組織です。高齢者の認知症有病率が高い中、このまま高齢化社会が進むと、2050 年には10 人に1 人が認知症患者になると予測されています。また、認知症患者は様々なことで生活に不便を感じています。家族構成が変化して独居世帯や高齢者夫婦世帯が増え、またコミュニティの形が変わる中で、これまでと同じ形で家族やコミュニティで支えていく仕組みではうまくいかないことも生まれています。認知症の方も安心できる「持続可能な」社会であるにはどうすれば良いか、お互いに支え合える社会になるためにはどうすれば良いか、考えていく必要があります。
一方で、認知症患者への誤解や偏見も多く、差別的な発言や何気無い発言がご本人や周囲の人の自信を失わせ、暮らしにくさに繋がっていることも課題となっています。また、認知症患者の生活を支える介護保健サービスについても、待遇が悪いことや社会的評価が低いことなどが原因となり、若者を中心に介護職員への成り手が不足しています。仕事観や価値観の転換が必要となっています。特定非営利活動法人ニットさんとしては、これら課題を解決していくためのヒントやアドバイスが欲しいとのことでした。
ピッチプレゼンの後は、3 グループに別れてグループディスカッションを行いました。各団体の状況についてより詳しく伺い、そして、解決のためにアイディアを共有したり、議論したりしました。薬薬連携SDGs KANAZAWA さんのグループでは、プラスチックボトルをどうやったら減らせるか、そしてどう有効活用できるか議論し、そして、製薬会社と連携していくことやプラチック繊維をボランティアユニフォームや建築資材、そして市の有料ゴミ袋に活用するなどのアイディアが生まれました。ツエーゲン金沢さんのグループでは、ツエーゲン金沢さんの幅広い活動内容、そして、いろんな場面で連携できるポテンシャルの高さを学ぶことができました。また、プロスポーツは強くないといけない中で、地域と連携が進むことでファンも増え、チーム力強化につながるのではとの意見も上がりました。
特定非営利活動法人ニットさんのグループでは、家族や地域も認知症患者の介護の現場の理解が進んでいない問題があり、その中で取り巻く環境や課題について知ることが出来たことが大きな一歩であったことを確認しました。そして、介護の現場とそれを知りたい若者や社会をどのようにつなぐか、そのニーズを探っていく必要性についても確認できました。各グループともたくさんのアイディアが共有されていました。パートナーズの交流の場から、また新しい連携が生まれて、協働プロジェクトが進み、金沢ミライシナリオの実現に向かっていけると幸いです。
IMAGINE KANAZAWA 2030 パートナーズでは会員を随時募集しているほか、交流会でピッチプレゼンしたい企業、団体、個人の方も募集しています。ぜひみなさまのミライを作るアイデアを聞かせてください。
また、IMAGINE KANAZAWA 2030 は、金沢独自のSDGs の目標である「金沢ミライシナリオ」と「持続可能な観光振興」の達成度を測る指標の検討を進めています。この度、その指標案をIMAGINE KANAZAWA 2030のHP で公開しました。2021 年12 月31 日まで、金沢市民のみなさまの幅広いご意見を募集していますので、ぜひアイディアのご投稿をお願いいたします。
2021年12月26日
金沢ミライシナリオ をパートナーシップで実践するためのプラットフォームであるIMAGINE KANAZAWA 2030パートナーズ 。先日11月22日に2021年度4回目、合計第6回目となるパートナーズ交流会を金沢市内で開催しました。パートナーズ交流会は、毎回参加者が「パートナーズのみなさんと協働で実行したいプロジェクト」や「会員のみなさんと一緒に考えたいテーマ」をピッチプレゼンし、それを話題に参加者間でディスカッションを行います。その中で、会員間が協働して取り組む新しいプロジェクトが生まれ育っていくことを目指しています。
今回の交流会では、最初に、金沢市交通政策課からまちなかの公共交通について情報提供がありました。戦禍を逃れ、昔ながらの区画が残る金沢市では、限られた道路空間を有効活用するために公共交通を活かし、人中心の空間に変えていくことが重要だそうです。また公共交通を活用することで環境負荷も低減することができます。金沢市役所は、本年10月に国土交通省と交通エコロジーモビリティ財団が進めるエコ通勤優良事業所 に、県内で3番目に認証されました。健康増進や時間の有効活用のためにも、パートナーズ企業にもエコ通勤に取り組んでもらいたいとのことでした。
続いて、2団体がピッチプレゼンを行いました。一般社団法人HOLAさんからは「DXによるCSVまちづくり」、金沢市企画調整課からは「『金沢ミライシナリオ』の達成度を測る指標について」という内容でお話いただきました。
一般社団法人HOLAさんは、CSV(Creating Shared Value) の考え方を取り入れ、DX(デジタルトランスフォーメーション)によって、環境・人権・子育ての分野などで、まちづくりを推進しようと取り組んでいる団体です。現在は、特にかほく市で、会員の高齢化や会員数の減少などで運営が難しい地域のスポーツクラブ の運営をビジネスの観点からサポートしています。HOLAさんは、HOLA公式LINE を通して市民、ビジネス、地域スポーツクラブがつながる場所と情報提供を行い、その収益をスポーツ振興に活用するアイディアを推進しています。HOLA公式LINEでは「はたらく」(採用情報)、「つかう」(お買い得情報)、「はじめる」(参加する、学ぶ、習い事情報)など、スポーツ施設や企業が情報を提供し、ユーザ登録した市民が情報を得られる仕組みになっています。今回は公式LINEやHOLAさんの取り組み全般に関する推進方法や地域スポーツ振興についてアイディアをいただきたいとのことでした。
「IMAGINE KANAZAWA 2030」プロジェクトの事務局でもある金沢市企画調整課からは、現在検討中の「金沢ミライシナリオ」と「持続可能な観光振興」の達成度を測る指標案 についてお話がありました。金沢市はこれまで市の独自のSDGs推進策として、金沢SDGs「5つの方向性」を定め、その行動計画である「金沢ミライシナリオ」を定めてきました。また、2020年度の国の「SDGs未来都市」及び「自治体SDGsモデル事業」 に選定され、「金沢市SDGs未来都市計画」を策定し、モデル事業である「市民生活と調和した持続可能な観光振興」を推進しています。ですが、実際にSDGs推進や「持続可能な観光振興」がどれくらい達成できているかを測る指標が存在していませんでした。そんな中、IMAGINE KANAZAWA 2030推進会議は昨年度から指標案を検討してきましたが、SDGsの推進は、多様な主体で目標を共有しながら進めるものです。今回の交流会では、参加者から「こんな指標があったらいい」や「ミライの金沢はこうなってほしい」など、自分ごとに出来る指標や欠けている視点についてアイディアがほしいということでした。
ピッチプレゼンの後は、2グループに分かれてグループディスカッションが行われ、各発表者への質疑応答やどうしたら後押しできるか、話し合いが行われました。そして、グループディスカッションの後、各グループでの話し合いの内容が参加者みんなに共有されました。HOLAさんのグループでは、公式LINEにどういった情報が掲載されると良いかという議論があり、コロナ禍で不安を抱える子育て世代がつながる機会や情報が掲載されると良いという意見もありました。また、「金沢ミライシナリオ」と「持続可能な観光」の達成指標について話し合うグループでは、子育てセンターの男性利用者が増加してほしい、車に乗らない日を作る、など、多くの意見が集まりました。また、コミュニティのあり方が変わる中で、回覧板のあり方についても活発な議論が行われました。
今回のパートナーズ交流会も多くの方に参加いただきました。新たな繋がりが生まれて、有意義な議論の場になっていますと嬉しいです。IMAGINE KANAZAWA 2030パートナーズでは、交流会でピッチプレゼンしたい企業、団体、個人の方を随時、募集しています。また、パートナーズ会員も募集しています。ぜひ皆様のミライを作るアイデアを聞かせてください。
2021年12月08日
国連大学サステイナビリティ高等研究所いしかわ・かなざわオペレーティング・ユニット(UNU-IAS OUIK)では、今年度能登GIAHS推進協議会内に設立された生物多様性ワーキンググループ の活動を支援しています。活動の一環として、主に専門家メンバーと協力して、これまでの活動成果と今後の展望をまとめたポスターを作成し、2021年11月25日~27日に七尾市で行われた「世界農業遺産国際会議2021 」にて展示しました。
市民参加型で生物多様性をモニタリングする体制づくりに取組んでいること、活動資金の獲得に向けて取組んでいること、他の世界農業遺産(GIHAS)認定地域とも連携して、幅広いパートナーシップで取組を進めてゆきたいと考えていること、などが記載されています。
詳しくはぜひ以下のポスターをご覧ください。(日英)
GIAHS Biodiversity WG Poster Jp Eng
2020年08月17日
今回のSDGsカフェは⾦沢市の⾼校⽣が主催するセミナーと連携し、2週連続、オンラインで開催しました。
新型コロナウィルス感染症(COVID-19)によって、浮き彫りになった学校教育をめぐる課題──これからの学校や学びはどうあるべきなのか? 持続可能な学校や学びとは? そもそも、現在の学校体制の背景には何があるのか? どういった課題があるのか?──高校生や大学生、社会人、教員など多様な人たちが参加し、 “これからの学校”や“学びの在り方”について、グループディスカッションを行い、それぞれがイメージを深めました。
◆第一部「ゼロベースでこれからの学校や学びの在り方について対話しよう」
7月22日(水)18:30~20:00
◆第二部「他府県・他国ではどう考えているのか?先進事例に触れて対話しよう」
7月29日(水)18:30~20:00
2030年に向けて、学校の在り方はどうする?
最初の話題提供は現役高校生の千代航平さんから
いままでのSDGsカフェとは違い、今回は特別なもの。高校生のからこのような話し合いをしたいという提案があり、SDGsカフェの場を提供する形で開催しました。千代さんは金沢大学附属高校2年生。今回のSDGsカフェではファシリテーターを務めます。
まずは話題提供として、千代さんが考えている理想の学校像について紹介がありました。
「いままでは画一的な教育が求められてきましたが、多様性やグローバルな人材、個性を伸ばす教育などが求められているいま、現状のシステムが果たして則しているかどうかということも含めて、これからの学びはどうあるべきだろうと考えようと、今回のこの場を企画しました」(千代さん)
千代さんは、先生と生徒の対話によって、よりいい学校を作ろうという活動をしているそうで、その活動から、生徒の知らなかった先生らの事情があるということを学んだといいます。そこで、これからの学校というのは先生と生徒がもっとフランクに対話できるようになるべきではないかと思ったのだとか。例えば、行事審議などの職員会議には生徒が出席してもいいのではないか? そのようなことも感じているそうです。
課題研究は先生から与えられるもので、高校生だけで進められているものではなく、主体的になれない人も多くいるのではないか、そう思っているそうです。そこで、高校生同士が情報共有をし、主体となって課題研究が進められるプラットフォームを構想しているそうです。
さらに、新たな学校の在り方の一つの方向を示す具体例として、実際に金沢大学附属高校で行われている地域の外部の人を取り込む教育について紹介がありました。これには、生徒にはモチベーションが上がりやすいとか、素直に意見を聞きやすいというメリットがあり、一方、先生からも、生徒を外の世界にふれさせることで刺激を与えられるなどといった前向きな意見があがったそうです。
学校が光れば、地域も輝く!
能登高校の魅力化に取り組む木村聡さんからの話題提供
能登高校魅力化プロジェクトコーディネーターの木村聡さんは、能登町の地域おこし協力隊としてこのプロジェクトに関わっているそうです。
能登町は過疎化が進んでいて、かつて町内には高校は3校1分校がありましたが、いまは町内に石川県立能登高校の1校しかなく、その1校も廃校の危機を迎えていたそうです。
町としても高校がない地域に人が残ってくれるか? 移住をしてきてくれるか?という問題に立ち向かうために、町が県立高校を支えていくということで、能登高校魅力化プロジェクトを立ち上げたとのこと。プロジェクトのねらいには、「町内からの進学率を高めて高校の存続と発展を図ること」や、「希望する進路の実現の支援」、「地域の未来に貢献する人材を育てる」、「教育環境を充実させて定住・移住の地として選ばれる町となる」という、4つがあるそうです。
木村さんが関わっていることは「地域連携・探究学習支援」。将来、地域で活躍する人材を育てたいという思いは、地域にも高校にもありますが、それをどうやって実現したらいいのかという部分で、木村さんがコーディネイターとして高校と地域をつなぐ役割を担っているそうです。「総合的な探究の時間」のサポートを行い、生徒にとって身近な「地域課題」を素材にして課題解決型学習に取り組んだりもしているとのこと。
社会課題を見つける力を育てるプログラムでは、「SDGsと地域課題とのつながりを学ぶ」と題して、国連大学サステイナビリティ高等研究所いしかわ・かなざわオペレーティング・ユニットの永井事務局長や、「SDGsと能登、SDGsと企業活動について学ぶ」では能登町でSDGsに取り組んでいる数馬酒造株式会社の数馬嘉一郎さんにも話をしてもらい、生徒にはSDGsの視点から地域の課題や世界の課題を考えてもらうきっかけ作りもしました。このように、木村さんは地域の人たちと高校をつなぐ役割を担っているそうです。今年はコロナ禍の中でもありオンラインで「進路探究学習」の授業を行っているそうです。
「地域学」といわれるものも実施しています。これは能登高生の希望者が参加するもので、地域のことが学べる講座です。ただ地域のことが学べるだけではなく、仕事をするというのはどういうことかや、考えたり表現したりするときに使える技を知ること、あるいはイノベーションを起こすとはどういうことかなど、総合的に学べるようになっているとのこと。
普段の学校の授業とは全く違い、地域の人も入ってワークショップ形式で進めています。生徒たちからは「実は地域のことはよく知らなかったが、話を聞いてみるとこの町にポテンシャルがあるということがよくわかった」といった声が寄せられているそうです。
「学校の先生たちは多忙だということが現場を見ているとよく分かり、それは小規模校になるとなおさらです。その中で探究学習だ、地域課題だと、先生たちもやらなければいけないこと、学ばなければいけないことがたくさん増えています。
学校だけでは対応できない問題でもあり、学校のある地域や自治体を巻き込んで、その中でコーディネイターを設置して物事を前に進めていくような仕組みを作るということは、これから先、とても大事なのではないでしょうか」と述べ、話題提供を終えました。
理想の学びって? それを実現できる学校って?
グループでの対話が始まりました
高校生が1名ないし2名ずつ入ったいくつかのグループに分かれ、グループワークを行う「ブレイクアウトセッション」に移りました。
まずはそれぞれ自己紹介をしつつ、「いままでの人生の中で一番いい学びをしたなと思った瞬間は?」ということについて、それぞれが思いを発言しました。
セッション終了後の情報共有で紹介された意見を、いくつか紹介します。
自分の興味がある分野に対して、専門的に学べるというのが、いい教育なのではないか
学校から外に出るフィールドワークで、実際に何か外のものにふれて体験することや、田舎の高校生が都会のビジネスマンと交流して、いままで知らなかった生活をしている人たちとふれあう経験、海外に行ってカルチャーショックを受けた経験など、日ごろふれることがないフィールドでの体験がいい学びにつながったことが多かった
子ども会活動に関わり、進学で東京に行ったが、就職は金沢に戻ることにしたのは、その時の経験がすごく影響している。学校以外の経験というのが自分にとっては良かった
──以上のような意見がありました。
続いて、「これからの理想の学校や学びの在り方について」をテーマに、2回目のブレイクアウトセッションに移りました。いい学びを得るにはどのような学校が理想なのか? 学びというのはどのようなものであったらいいのか?について、引き続きグループで対話をしてもらいました。
セッション終了後に紹介された意見をいくつか紹介します。
「総合的な探究の時間」について、生徒たちはそれをやる意味をあまり理解できていないという問題があり、まずはそこから解決する必要がある
そもそも「理想の学校」という形にはめることがどうなのか?
みんなが同じことを学ぶのではなくて、人それぞれの個性を活かすという上では、人それぞれ興味を持つことは違うから、それを伸ばす教育をするべきではないか。生徒が興味を持ったことを後押しするという教育が求められるのではないか
大前提として「楽しい」ということは大事。ただ、「楽しい」以外にもいい学びや理想の学校というのがあるのではないだろうか。それは生徒一人ひとりが自分で選択することができるということであり、例えば夏休みの宿題にしても、するしないも自分で決めて、しないと決めたならどうやって先生を説得するかなど、すべてが学びにつながる。自分が選択したからには自分で責任を持って最後までやらないといけない。このように、生徒が自分で選ぶということがいい学びなのではないか。そして理想の学校とは、より多くの選択肢を生徒に提供できることではないか
──以上のような意見がありました。
最後に、「どうすれば理想の学校や学びに近づくのか」について、グループで対話をしました。
セッション終了後に紹介された意見をいくつか紹介します。
大学生が高校生と一緒に「課題解決型学習」(PBL)に入れば、自分が数年後にその立場になる人が教えてくれたほうが親近感も湧くし、教えられているというより、一緒に考えているという感覚になれるのがいい
学校の在り方として、知識的な勉強だけを強要するのではなく、アイデンティティの確立のためのスキルを向上させるべきではないかと思う
何かにトライしたりするとき、心理的な安全がある場所として学校を提供できれば理想的
教科を教える先生とは別に、地域とのつなぎ手となる新たな先生がいれば、理想の学びに近づけていけるのではないだろうか
──以上のような意見がありました。
「今日みたいにSDGsカフェの場を使っていろいろな人とつながっていただき、参加してくださった方もいろいろな意見を出してくださり、ムーブメントにつなげていく場にできたことはとても嬉しかったです」と永井が述べて、第一部が終了しました。
一週間後に開催された第二部では、視野を広げつつ、
これからの学校や学びについて考えを深めていきました
第一部で話し合ったことを思い返しながら1週間を過ごし、第二部の「他府県・他国ではどう考えているのか?先進事例に触れて対話しよう」に臨みました。
ファシリテーターの千代さんは、実は今年1年、フィンランドに留学する予定があったそうです。しかし、新型コロナウィルス感染症の影響で行けなくなってしまったのだとか。そこで、第二部の話題提供その1として、千代さんが調べていたフィンランドの事例について、発表がありました。
世界幸福度報告が1位、学習度到達調査PISAが世界トップクラスというこの国ではどのような教育がされているのでしょうか? 調べてみると、フィンランドでは勉強を教える先生とは別に、学校をよりよい環境にするための「チューター・ティーチャー」と呼ばれる先生がいることがわかったそうです。
学び方の多様性を創造する
学校と地域を結ぶコーディネイターの
白上昌子さんからの話題提供
話題提供その2は、ゲストとしてお越しいただいた、白上昌子さんからお話しいただきました。学校と地域とを結ぶ、キャリア教育コーディネイターという肩書で日々活動している白上さん。アメリカの小学校で日本語教師として働いた経験をお持ちで、現在は名古屋市のNPO法人アスクネット顧問、くらしクリエイト代表として活躍しています。
「学び合い育ち合う共同体作り」をミッションとするアスクネットでは、ゲストティーチャーとして社会人を学校に連れてきたり、子どもたちがいろいろな体験を行う場を作ったり、大学生や高校生のインターンシップのプログラムのコーディネーションなども行っているそうです。
その中でも高校の先生から要望が強い、大学・企業をそれぞれ1日ずつ体験できる「キャリア・ブリッジ」というプログラムを紹介しました。
これは愛知県教育委員会と連携して、幅広く高校生に呼びかけているもので、昨年は7つの大学から、経営や教育、福祉など、それぞれのコースから学びたいものを高校生が選び、大学とその学んだ分野に関連する企業での体験から、「大学で学んだことが社会でどう生きるか」などを考える機会となります。その後には、大学と企業で学んだことを元に、自分が今後どのような進路を歩んでいきたいかを考え、レポートにして提出するそうです。ぼやっとした自分の将来イメージが、このように直接触れることで明確になってくるのだといいます。
また、一昨年にエストニアに行った時の話も紹介していただきました。
エストニアはフィンランドのすぐ近くにあり、旧ソビエトから独立した国。現在は電子国家と言われるほど、ITが進んだ国です。学校には、すべての教科にICTを導入するため、そのアドバイスを行うコーディネイター(ICT支援員)がいて、教科横断型の授業では、先生間のつなぎや、プロジェクトの準備も行っているそうです。
「未来」という科目もあり、過去を学ぶだけの教育ではなく、子どもたちの意識を未来に向けさせるべく、「ドローンを使えば、まちのどんな課題が解決できるのか?」ということを学ぶ実践プログラムも進めているのだとか。
会社を作るということを学ぶ「起業家教育」もあり、高校では開業から廃業までを経験するのだとか。「一度これを経験すれば、自分も何かやれるかもしれないという気持ちになるのではないか」と白上さんは感じたといいます。
最後に、SDGsの取り組みにも通じる愛知県立佐屋高校のことを紹介しました。もともとこの地域は白文鳥を飼育するという産業が盛んでしたが、それが衰退してしまい、絶滅の危機に瀕していました。生産農家から地元の農業高校に文鳥を育てるノウハウを学校に移植して、文化・伝統を継続できないかと相談があり、それを受けて、現在では高校で飼育を行い、販売まで手掛けるようになったそうです。
生産者から相談を受け、孵化ができるようになるまで6年くらいかかりました。その間、いろいろな人たちの思いに寄り添いながら命と向き合い、それが先輩から後輩へと引き継がれていったそうです。
これから2030年、あるいはもっと先の社会を見据えた時に、SDGsのいちばん大事な「誰一人取り残さない」ということを考えて、「一人ひとりの思いや命に向き合っていくために、どんな学びの在り方や学校の在り方がいいのかということを考えてみては」と述べて、白上さんは話を締めくくりました。
これからの理想の学校って? 学びって?
再び、グループによる対話が始まりました
第一部と同様に、いくつかのグループに分かれるブレイクアウトセッションに移り、「これからの理想の学校や学びというのはどういうものなのだろう」ということを、話し合いました。
セッション終了後に共有された意見をいくつか紹介します。
前向きな先生もいれば、地域とのつながりを作るのが難しい先生もいるので、コーディネイターという存在は大事かもしれない
プロジェクト型学習というのがキーワードとして出ていたが、責任感を持って学べる学校や授業が大事。これからプロジェクト型地域課題の探究の学習が増えてくると思うが、形だけであったり、自分ごとにならないまま、プラン作って終わったりというパターンも散見されるので、そういったことを先生のサポートも含めて考えることができた
──以上のような意見がありました。
2回目のブレイクアウトセッションでは、より具体的に「どうすれば理想の学校や、学びに近づいていくだろうか」ということをそれぞれの立場から考えて、意見を交わしました。
セッション終了後に共有された意見をいくつか紹介します。
語りやすいのは成功事例。しかしそれはあらゆる条件が揃って成し遂げられたことであって、紹介しても別の場所に持っていったときにその条件が全部揃うかということも考えて語ったほうがいいのではないか。逆に失敗例を語ってもらったほうが、その失敗理由を追求していくことができるので、たくさんの成功事例を並べるよりも失敗例を挙げていったほうがいいのではないか
地域課題と地域を結びつける以前に、生徒と学校が結びついていないから、もっと生徒の声を引き上げられる学校にちゃんとなってほしい
理想の学校として話に出たのは、まず1つ目は自分の将来がどんなふうになるのかと描ける教育。2つ目が自分のしたいことや教科以外のことも調べられること。その理想に近づくためには、まずは生徒の意見を先生に直接伝えられる環境があること。そして、学校と地域とか外部との連携も大事。地域住民と学校が協力していたほうが、自分の将来を描きやすい。生徒の意見を先生ではない大人が直接評価してくれるという点でいい。もうひとつ、家庭環境も大事。家庭の中でニュースを見ながら親と意見を交わしたり、いろいろな職業について話すなど、親と話すことで自分の将来に目標が持てたり夢ができたりすることがある。さらに、親の反対によって学校が動くことも無きにしもあらずであり、そういう意味でも、親は大事ではないか
──以上のような意見がありました。
さらに、学校にどう関わっていくか、学びをどうしていけばいいのかということをもう少し具体的に考えたり、あるいはいまの話をより深めてもらったりしながら、理想の学校や学びの姿を考えてもらうため、最後のブレイクアウトセッションに移りました。
セッション終了後に共有された意見をいくつか紹介します。
東京などの都会だと自分がやりたいことのコミュニティーがすぐに見つかったりするが、地方ではそれがなかなか見つからないということを話したら、東京に縁のある方から、東京はやりたいことは見つかるが、あまりにもいろいろなものがありすぎて、一つに没頭するということは地方の方がやりやすいのではないかという意見があった。いまはコロナの影響で自分のやりたいことをどこでやるのかということの価値観も変わり、自分たちはいままさにそういう過渡期にいることを感じている
日本の形にはめた教育では、教育自体にみんなが興味を持たない。なんのために勉強をしているのかがわからない。海外の事例で、一週間の題材を決めてそれについていろいろな教科の観点から学んでいくというのがあることを聞いたが、何について学ぶのかという目的を定めた上で、さまざまな教科の視点から一つの題材をみるほうが、興味を持つのではないかと思う
コロナウィルスの影響で休校が続いたが、その時の教育格差というのをどうしたら最小限にできるかというのを話し合った。オンラインと動画配信とどっちが有効かという話になったが、結局、受けようと思えば受けることができる環境を作ることが大切だと思う
学校とは人生の目標を叶える場所だと思っている。ただ、進学や就職が目標となってしまい、その目標を最優先するあまり、教科の勉強ばかりに時間が割かれてしまって、地域の問題を見る時間や自分の本当に好きなものを見つけるための時間というのがなくなってしまっている。進学や就職といった短期的なものではなく、人生の長期的な目標がないと、学生の頃から能動的に学ぶというのは難しい。学びの視野が広くなるようなシステムがあればいいと思っていたが、白上さんの話を聞いて、そのような動きが自分の住む地域でもたくさんできればいいなと思った
──以上のような意見がありました。
「2週にわたり、トータルで3時間ほどの対話を行いましたが、この短時間で答えが出る問題ではありませんし、これからもっと考えていかないといけない問題かと思います。対話が深まっていく中で、いろいろな意見や思いが現れてきました。これをうまくまとめていったり、引き続き考えていったりすることが、これから必要になってくると感じています。そして、これからもつなげていきたいと考えています」と千代さんが述べて、2回にわたったSDGsカフェは終了しました。
千代さんやお二人のゲストから紹介があった事例や、多くの参加者が口にしていたことは、“学校の外部の人間が学校に関わることの大切さ”でした。
金沢SDGsでは、さまざまな市民に集まっていただき、『金沢ミライシナリオ 』を作っており、5つの方向性の3番目に「子どもが夢を描けるまち」を挙げています(詳細はこちら )。そのミライシナリオの中にも「いろいろな先生に教えてほしい! NPOなど学外の人材を活用する仕組みを作ろう」というものがあります。
自分たちよりも少し年上の大学生や、あるいは企業でバリバリに働いている社会人、人生経験が豊富なシニアなどから、学校で聞くことができない話に接することで、いろいろな刺激が与えられ、子どもたちの将来の夢が一歩も二歩も前進する可能性は大いにあります。
子どもたちが描いた夢を実現するための学校や学び。それが理想の形かどうかはさておき、学校と地域社会のパートナーシップによって、学校も学びの在り方も良い方向へ向かうことはいろいろあるのではないかと感じました。
【今回のイベントのスピーカープロフィール(登壇順)】
千代航平(せんだいこうへい)
金沢大学附属高校2年
長い休校期間を経て、問い直されつつある、学校行事や、学校、学びそのものの在り方。 今回、様々な人と、様々な視点から、深い対話ができることを楽しみにしている。 1年時では、平和町商店街の活性化、また、現在は、高校生主体の探究活動を行えるプラットフォームの構想や、新たな行事の企画を考え中!問いを持ち続け、毎日歩みを止めないように行動し続けている。
木村聡(きむらさとし)
能登高校魅力化プロジェクト コーディネーター
慶應義塾大学商学部卒。卒業後は日本ガイシ(株)入社。2005年からベネッセコーポレーション。進研ゼミ中学講座の業績管理業務を担当したのち、ベネッセ教育総合研究所の研究員に。退職後、2018年に石川県能登町にIターン。現在は能登町が町内唯一となった能登高校の存続と発展に取り組む高校魅力化プロジェクトのコーディネーターとして、地域探究授業のサポートやふるさとを見つめ直す地域学など、教育と地域をつなぐプログラムを仕掛けているほか、Rakuten IT school Nextや地域みらい留学365(高校2年次での国内留学)の誘致といった新しい学びの機会提供にも尽力している。また、石川県穴水町岩車地区で農漁業・田舎体験プログラムを主催するNPO法人「田舎時間」代表も務める。
白上昌子(しらかみまさこ)
くらしクリエイト代表・NPO法人アスクネット顧問
大学卒業後、アメリカの小学校で日本語教師として働く。帰国後保険会社に勤務し、2006年NPO法人アスクネット入職。教育CSR担当として、トヨタ自動車、アイシン精機など企業の出前講座を手掛ける。2009年代表理事就任。小学生から大学生までを対象としたキャリア教育を推進。2010年高校生を対象とした公募型インターンシップの仕組みを行政と連携してつくる。また、2015年より生活困窮家庭向けの学習支援教室を開始し、教育と福祉の連携に努める。2019年5月に代表理事を退任。現在は「くらしクリエイト」という屋号で研修講師等を務める。文部科学省消費者教育委員会委員。愛知県まち・ひと・しごと創生総合戦略会議専門委員。名古屋市教育委員会事務点検評価委員。
2021年11月24日
世界農業遺産「能登の里山里海」に認定されている能登半島で代々受け継がれてきた「食の知識・技術を伝える」映像制作を行いました。
地域で取れた作物を長期保存する技術や、余すことなく活用する技術、地域に昔から伝わる作物を自家採取で栽培する技術などは、気候変動や食品ロスなどが国内外で課題となり始め、持続可能な社会を目指す動きが活発化し始めている今、その重要性は増してきているのではないでしょうか。
能登半島は、こういった知識や技術を継承されている方々がまだまだ沢山いらっしゃる地域ではありますが、生活スタイルの変化などで急速に失われつつあるものもあります。
この動画を通じて能登半島に伝わる食の知識や技術に触れ、私達の食の未来について一緒に考えてみませんか?
全動画の視聴はこちらから :
なお、本映像制作の企画段階では池森貴彦さん(石川県)、沢谷わたえさん(里山里海食堂「へんざいもん」)、萩のゆきさん(まるやま組)にご協力いただきました。ありがとうございました。
2021年11月18日
昨年度より継続してきたフィリピン、イフガオと能登をつなぐ、国際交流プロジェクト が今回は珠洲市、緑丘中学校とフィリピン、イフガオ、ゴハン・ナショナル・ハイスクール間で行われました。
能登とフィリピンのイフガオは双方が世界農業遺産(GIAHS)に認定されており、里山マイスタープログラムの活動を通じて長年交流を深めてきたという背景があります。またこのプログラムは能登SDGsラボのSDGと共同で開催しています。
今年度の第一回目の交流は11月11日に開催され、お互いの自己紹介と地域の紹介を行いました。
緑丘中学校の皆さんは自分たちで作ったスライドに沿って英語で地域のお祭りや、産業、SDGsや環境問題に関する取り組みを紹介しました。
ゴハン・ナショナル・ハイスクールの皆さんはイフガオのGIAHSや工芸、イフガオ民族の伝統知識について紹介しました。緑丘中学校の皆さんは特にイフガオの彫刻の民芸品に注目している様子でした。
最後の質問セッションでは「イフガオではどんな食べ物をたべますか?」や「好きな歌手は誰ですか?」など様々な質問が飛び交い、生徒たちはお互いの暮らしや文化に興味深々の様子でした。
次回、緑丘中学校とゴハン・ナショナル・ハイスクールの第二回目の交流は1月を予定しています。
2020年07月27日
新型コロナウイルス感染症の流行が、少しずつ落ち着きを見せ始め、さまざまな業種でコロナ前の数字に戻すことが最優先課題となりつつあります。
一方で、「環境にも良い働き方」など、コロナ禍で芽生えた「新しい価値観」や「社会変革の芽」は失いたくないと感じている方も多いでしょう。
自然や環境、働く人々を取り巻く社会課題などの解決と、持続可能な経済発展──その両方を実現させるキーワードが「ESG投資」という言葉です。最近、SDGsとともによく見聞きするようになってきましたが、まだまだ地方に暮らす私たちにとっては遠い存在だと思っていませんか?
実は意外と身近なところで、ESG投資の考え方が生かされていたり、あるいは知らないうちにESG投資と密接な関係があったりします。2030年に向けて、当たり前となっている必要があると考えられるESG投資について、社会変革への機運が高まりつつある今、地方からできることを考えてみました。
老舗六代目とESGのスペシャリストの話に耳を傾けてみましょう
今回2030年の金沢をIMAGINEしてくださったのは、金沢にある伝統発酵食品の老舗・株式会社四十萬谷本舗 (しじまやほんぽ)の六代目・専務取締役の四十万谷正和さんです。
そして、アイデアを提供してくださったのが、サステナビリティ経営・ESG投資アドバイザリーの会社である株式会社ニューラル 代表取締役CEOの夫馬賢治さんです。
最初にここ最近のトピックスとして、国連大学サステイナビリティ高等研究所いしかわ・かなざわオペレーティング・ユニット(UNU-IAS OUIK)の永井事務局長から、6月にIMAGINE KANAZAWA 2030推進会議が設置された報告がありました(詳細は下記をご覧ください)。
「第1回IMAGINE KANAZAWA 2030推進会議」開催
今までESGやSDGsとはあまり関係ないと思っていた
四十万谷さんがイマジンする2030年
四十萬谷本舗は明治8年(1875年)創業の老舗発酵食品の店。その後継者となる四十万谷さん(36歳)は、大学卒業の後、大手食品メーカーで約11年間、主に人事関係の仕事を行い、2017年に家業を継ぐべく金沢に戻ってきました。
まずは四十萬谷本舗の主力商品であるかぶら寿しや大根寿しを紹介。
コロナの影響によって家庭で食事を摂る機会が増え、このような発酵食品を求めてくれるお客さんが増えたそうです。明治時代の商家造りの本店は見応えがあり、「コロナが落ち着いたらぜひ遊びにいらしてください」と誘います。
さて、今回のSDGsカフェの話が舞い込んだ時、最初は「地域にある中小の伝統企業とSDGsの関係がピンとこなかった」という四十万谷さん。しかし改めて金沢SDGsを見直してみたら、自分たちの日々の活動と関わっていることが多いのに気がついたそうです。発表では、金沢SDGsの5つのテーマに沿って、四十万谷さんたちの日々の活動との関わりについて考えていただきました。
*金沢SDGsの「5つの方向性」の紹介はこちら をご覧ください。
「自然、歴史、文化に立脚したまちづくり」から考えてみる
歴史とか文化に関わることが多い、伝統的であって特徴のある発酵食品をたくさん作っていますが、実は「特に若い世代にその価値を伝えられていないのでないか?」という悩みがあるそうです。
「全国各地で伝統的なものを引き継ごうと思っている方は、皆さん同じことを考えていると思いますが、昔からある伝統的なものを作って、『これは大事なものなのです。だから残してください!』とお願いしたところで、お客さんが『やばい、これ残さなくちゃ!』というふうにはほとんどなりません。今の時代には、こんないいことがあるよとか、これ食べたらこんなにおいしいよという、 “いいね!”と思ってもらうことが重要で、そう思われれば残っていけると考えています。どうすればいいねと思ってもらえるか、それを大事にしたいです」
そのために、若い世代に糀や発酵食の良さを伝えるワークショップを開催したり、健康経営を推進されている方たちと組んで発酵の価値を届けるようなことをやったりと、“発酵食のいいね!”を知ってもらうために、多様な取り組みを行っています。コロナ禍もあって、現在はオンラインで「みんなで漬けよう!オンライン糀漬け体験」というワークショップも開催しており、これがかえって今までかぶら寿しとか大根寿しとかにあまり興味がなかった方々にも触れていただく好機になっているそうです。
「環境への負荷を少なくし資源循環型社会を」目指す
「大きなテーマなので、最初は私たちと関係あるのかと思いましたが、3年ほど前に入社して以来、感じていたことに気がつきました。それは、物づくりの段階で廃棄している部分がすごくたくさんあることです」
かぶら寿しとは贅沢な食べ物なので、丸いかぶの真ん中しか使わず、形を整えるためにかぶからはみ出した鰤をカットしますが、それも廃棄されるものもあるのだとか。
「もったいないし、せつないという思いがあります。これをなんとかできないかということは、実は私の父もずっと思っていたそうです」
現在、石川県立大学の学生さんにプロジェクト型のインターンに参加してもらい、使われなかった材料を生かした製品開発をするプロジェクトを始動させたそうです。
また、使うことができない野菜のくずは、自社で機械を導入し、圧縮して肥料に回すことを始めました。四十萬谷本舗には自社農園があり、かぶに関して年間で30トンくらいを廃棄していましたが、全てを肥料にして畑に戻し、かぶの廃棄はゼロになったそうです。
「小さなスケールですけど、自社農園の中で循環しています。廃棄の費用もかからない上、畑の肥料にもなるので、とても良い結果が出せました」
一方で、地方の中小企業でも、地球規模の環境変化の影響を受けることは多いと言います。
「一番大きいのは原材料、昔から使っている原材料の中には、イカやニシンなど、今後入手が困難となりそうなものが結構出てきています。気候が変わってくると取れる作物なども変わってくるので、私たちにとっては大問題です」
さらには、かぶは自社農園と契約農家さんに作ってもらっているそうですが、就農者の高齢化が進み、5年後、10年後まで続けるのはしんどいという声も上がっているそうです。作り手の方々が一緒に発展していける関係にあるのか、若い方が一緒にやってくれる環境にあるのかということも非常に大事だと述べました。
「次世代を担う子供達の可能性を引き出す環境」を作る
子どもたちにこの土地の文化とか発酵食の魅力を伝えていき、そこから何かを感じ取ってもらえたらと考えて、「親子で糠床教室」や「自社農園でかぶ収穫体験」などを、続けていると言います(「誰もが生涯にわたって学び活躍できる社会風土をつくる」について、今回は触れませんでした)。
「文化や産業に革新的イノベーションが起きる仕組み」も始動
今年に入って、四十万谷さんと同じ30代の大都市圏の方に、副業として四十萬谷本舗に関わってもらい、課題を解決しようという取り組みをやっているそうです。
四十万谷さんは夫婦で6代目を継ぐべく金沢にやってきましたが、お二人ともが人事の仕事をしていた関係で、マーケティングの肌感覚もわからないし、テクノロジーが今どうなっているのかも、法務と言われても・・・と、わからないことが多く、悩みを抱えていたそうです。
「家業に入り、日々現場のことをやっていると、発想が現在までの延長線上の改善に偏ってしまいます(知の深化)。それもすごく大事ではありますが、新しい、別の発想を得てきてイノベーションを起こすこと(知の探索)がなかなかできないということがありました」
前職を含め、さまざまな方々とお会いする中から、都市の大企業で働きながら、“自分の力とか知見で地域を良くすることに貢献したい”という、純粋で熱い思いを持っている人がたくさんいることを実感。そういう人たちと一緒にやりたいと考えて始めたそうです。
「私たちはもちろん、彼らも得るものがいろいろあると言います。私たちは小さい企業なので、こういう専門的な方にフルタイムで来ていただくのは難しいですが、このような形で一緒にやれているのがありがたいなと思っています」
これは、四十萬谷本舗に限ったことではなく、都市の人たちと地域の自分たちの関わり方が変わっていくことで、どちらも元気になっていくのではないかと感じているそうです。
地域との関わりが強く、その思いが強くなれば定住・移住となり、これが増えることが望まれますが、それは限定的なこと。四十万谷さんたちがいま行っているのは、地域企業と協働しながらいろいろな人と触れ合い、関係するということで、地域の人は彼らから知見を得て、いまある地域の価値をどんどんブーストしていくことができます。一方の彼らもこの経験をもとに、人との繋がりとか、何かの成長につなげていくことができたりすると言います。
「こういう動きが、この地域に広がっていったらいいなと思っています。ここから新しい発想やイノベーションができたらいいですね」
2030年の金沢の姿。こうなるといいなをIMAGINE
四十万谷さんは、次の3つを挙げました。
①地域内、地域外のつながりと協働がもっと進んでいると、個人的には元気になるなと思っている
②金沢の生活に息づく文化の魅力を私たちが発信できている
意外と地元のものづくりを知らず、地元の伝統を体験することもあまりやってこなかったということを、今回のコロナ禍で気がついたそうで、まずは地元のことを知って、消費して、体感し、それを来るべきもっと移動が盛んになった時に、発信できればいいと考えているそうです。
③各事業に関わる方々が持続的に発展できていると言うこと
最後に、ESG要素と地域中小企業との関係についても整理してくれました。
①地域の中小企業ほど、大きな影響を受ける
ESGやSDGsとの関わりを考えた時、最初は地域の中小企業にはあまり関係がないと思ったそうですが、材料の話、物づくりの話などはダイレクトに影響を受けることを認識。ちゃんと文化を価値あるものとして伝えていけるか、今まで通りの原料で作れるか、影響は大きいと述べました。
②お客様から選ばれるための基準として・・・
お客様がどこから物を買いたいかと言うと、環境とか社会とかガバナンスもしっかりしているところから買いたいという思いがあると述べました。
③多様な人材から選ばれるための基準として・・・
一緒に働く先としてもESGのことをちゃんとしているところが選ばれて、一緒にやっていきたいと思ってもらえるのではないかと述べました。
ESGの本も出し、その流れをずっとウォッチしてきた
夫馬さんからアイデア提供
東京からのリモート参加で、「本当は金沢に行きたかった!」と言う夫馬さんからは、「ESGと金沢」についてお話しいただきました。
夫馬さんによると、ESGの話と地域の話は非常に密接な関係があるそうです。
まずは、ESGについておさらい。
Environmental(環境)、Social(社会)、Governance(統治、あるいは経営)。この3つについて投資家が着目し始めていることから、ESGという言葉が登場したそうです。
また、ESGはSDGsと密接な関係があると言います。SDGsは「持続可能な開発目標」と言いますが、裏を返せば、実は今は持続可能ではなく、持続可能にしなくてはいけないということになります。これは発展途上国だけの話ではなく、ある専門機関がSDGsの17あるゴールの毎年の達成状況を調べているそうですが、例えば日本なら、4段階の評価で一番高い評価を得られているものは3つしかなく、逆に一番低い評価のものが5個もあるそうです。
つまりは日本も持続可能ではなく、持続可能にしていくためにはやらなければいけないことは山ほどあるということです。その中には企業が変わっていかないといけないこともたくさんあって、そこに着目しているのがESGということになります。
「世の中が持続可能であれば、投資家が企業を見るときにESGに着目することはなかったはずで、実はもう持続可能でなくなっていて、さらに今の企業のあり方すら持続可能ではない(つまり倒産するかもしれない)という危機感を持っているので、このESGが重視されています」
ところで、このコロナ禍でESG投資はどう変化したのでしょうか? 一時期メディアからはSDGsという言葉が聞かれなくなり、多くの方がESG投資も減っているのではないかと思われています。しかし、日本ではわずかしか増えていませんが、海外では、2割、3割増と大幅に伸びているそうです。
機関投資家が上場企業でチェックしているESGの観点は多様
二酸化炭素の排出量や水の問題、廃棄物など、環境(E)の方はわかりやすいですが、社会(S)のテーマは非常に多様だと言います。社会の中でいま一番ホットなテーマは、「人的資源」、つまり労働者だといい、社会といっても会社の中にある社会、つまり労働者の方々の評価というものが一番大きなウエイトを占めていると言います。
ガバナンス(G)のところでは、取締役会にどういう専門家がいるか、また取締役会の人はどういう評価制度で評価されているのかというのもあるそうです。
多岐にわたるこれらをチェックして、点数がつけられます。これがいまのESG投資と呼ばれる世界。全て定量評価になっているため、上場企業はその辺りの情報開示をしないと点が上がりません。中身のないことを言っても当然評価されず、かなりシビアな評価がされているようです。
気候変動がもたらす変化により、日本の農林水産関係での被害額も右肩上がりで増加しています。世界的にみると自然災害による保険損害額は大幅に増えていて、東日本大震災クラス以上の被害が世界では毎年のように発生しています。この損害を止めなければいけないという深刻な状況になっているのです。
機関投資家がESGを重視する理由
このような中でESGを重視する機関投資家(公的年金、企業年金、保険などの大口投資家)たちは、何を大事にするか──。やはりCO2 を減らさないといけないということで、投資家自身が各国の政府に対し、「もっと削減をさせるような法制度を入れなさい」と指導をしています。こんなに自然災害ばかりでは企業経営がままならなくなり、投資家たちはそうすると自分たちの投資の値段が下がってしまうために、自らが環境規制を強化しようという動きになっているとのこと。例えばプラスチックの消費を減らそうというのも、このような投資家からの強いメッセージが影響しているそうです。
食品廃棄物を減らすという動きも同様。また、廃棄物から飼料を作ろうという流れがあり、そうすれば飼料の主原料となる大豆の生産を抑えることができます。実はその大豆を育てる農地を作るために、多くの熱帯雨林が破壊されています。アマゾンなどの熱帯雨林を守るために、投資家たちは強く迫り、企業側も自主的に取引条件に課すようになっていて、きちんとしていない原料メーカーからは買いたくないという動きが海外では強くなっていて、日本でも一部の大手小売業者などが取り組み始めています。
これから生産年齢人口が一気に減少する金沢
金沢の社会のSの話。生産年齢人口の話はとても重要です。すでに高齢者は急激に増えつつありますが、いよいよ本格的な人口減少が始まります。生産年齢人口が一気に減少していくというのが、これから金沢市が迎える世界。その中で経営をしていかないといけませんし、地域社会も支えていかないといけないということになります。
金沢は大都市なのでまだましで、日本の将来の人口では2100年には明治維新の頃に逆戻りになると言われています。未曾有の人口減少社会をどう乗り切るか? 労働力不足はますます激しくなります。この10年間、女性の活躍ということで、かなりの人手を確保してきたことは事実ですが、まだまだ女性にとっては働きづらい社会。これからますます人が減る中で女性が働きづらいままだと、女性が実力を出せなくなってしまうでしょう。
さらにもう一つ。この人口減少を乗り切るために、外国人に頼るというのもあります。石川県もこの数年で急激に外国人が増えています。
しかし、厚生労働省が全国の外国人技能実習生という制度を使っている企業の監督指導を行ったら、70%の労働基準関係法令違反があったそうです。このままでは外国の方も来てもらえるか? 難しい状況にあるのではと夫馬さんは危惧します。
実はESG投資はとっても身近な話だった
株式や社債という形で上場企業や大きな銀行に投資している機関投資家はいま、ESGの観点から投資の判断をしています。この話だけでは、地域の方からは少し遠い話だと思われるかもしれませんが、機関投資家は金沢市の地方債の投資家であったりもします。
地方債を買っているのは個人もいますが、機関投資家や銀行が買って、金沢市なりの財政を支えています。すなわち金沢市がこれからESGに対して、どれくらい改善していけるかということが、地方債を出す上でのポイントになってくると言います。
日本の大半の企業となる非上場企業は上場企業から発注を受けたり、銀行からも融資を受けたりします。いま銀行も投資家から評価を得るために、ESGの観点で融資を行うということが大事になってきています。
発注をする上場企業は、「どれだけ持続可能になっていけるか?」ということが経営の判断材料になっています。グローバル企業から一次サプライヤー、二次サプライヤーとつながる中で、取引先の企業から「環境や社会についてはどうしていますか?」と聞かれる時代が始まっています。少しタイムラグはありますが、地方の非上場企業にもこのような話がやってきます。そしてきちんとしていないと、取引をしてもらえなくなるということになります。
金沢SDGs「5つの方向性」の冒頭のメッセージに書かれた「今後さまざまな主体とともに、実現に向けた行動計画を策定します」が、夫馬さんから見るととても大事なポイントだと言います。
行政もESGを測定していかなければならなくなり、地域の自治体向けの指標(ISO37120)もあり、海外では増えてきていますが、日本でこの指標で評価している自治体はまだわずかだそうです。
「金沢がSDGsの行動計画を作っていくときに私から提案をしたいのは数値目標です。現状を数値で評価し、把握して目標を立てる事は非常に大事です」
機関投資家が運用するお金はどこからきているかというと、実は私たちの年金や保険の掛け金です。機関投資家たちはESGで判断していますが、私たちが声を上げていけば行くほど、機関投資家たちはもっとESGのことを考えるようになり、実際にそれが起こっています。
さまざまな主体による連携がますます重要に
地域は事業者の皆さんに元気がないとどうしても萎んでしまいます。事業者の皆さんが持続的に経営していくためには、いま社会にどんな課題があるのか、環境影響をどう受けるのかということを気にしながら経営をしていくことが大事になってきます。そのために考えて、工夫して、さらにイノベーションを起こしていくということは重要です。
イノベーションをしたり、新しいことをしたりするにはお金(資本)が必要です。この資本を支えるためには、例えば銀行が地域の皆さんが何にお金を使おうとしているのか、それが長期的なものであればしっかり支えて行こうとするような長い目で見た金融機関の経営も非常に大事になってきます。
また、市役所が町の課題を数値にしていろいろな方に示してくれると、事業者の人たちにも課題が見えてくるようになってきます。そして、どこに向かっていくのか? 目標を一緒に考えていって欲しいと強調します。
町の生の声は行政が知らなかったりすることもあり、町の中で活動するNPOの方がよく知っていたりするので、プロジェクトにはそう言ったNPOも巻き込み、町の声をしっかり事業者に届けていくことが求められます。そしてこういう社会の変化にも対応していかないといけないということを伝えてくれれば、事業者にとってNPOは、とても頼りになる存在となります。
「主役は事業者の皆さんで、行政と金融機関、NPOと協働する、これこそ私が実現すればいいなと思っている姿です」と述べて、夫馬さんからのアイデア提供は終了しました。
ESGもSDGsもこれからは情報公開が大事になる
お寄せいただいた質問に答えながら、夫馬さん、四十万谷さん、永井の3人のフリートークとなりました。その一部を抜粋してお伝えします。
永井 :「ESG投資の理念はわかるが、一個人が行動を起こせるものにはどのようなものがあるか? また、目先のご飯が食べられないと将来の展望は描くことができない。その辺りはどう考えれば良いか?」という質問が寄せられています。
四十万谷さん :野菜の廃棄のことを紹介しましたが、はじめに高い理念があったのではなく、廃棄物の処理費用が一気に値上げするという話があって、この費用を払っていたらご飯が食べられなくなると思って始めました。このように高尚な理論からではなく、目の前のご飯のことを考えて行動したら、いい結果が得られるということは、もしかしたら相当あるのかもしれません。
夫馬さん :環境面、特に資源やエネルギーに関わるものは、コスト削減でやったら環境にも優しくなったということはしばしばあります。ひと昔前の電球をLEDに変えたのがまさしくその良い例。LEDは電気の使用量が減って環境にも優しいですが、多くの人は電気代を下げたくてやっています。
永井 :大上段からとてもいいことをすると考えるのではなく、目の前の課題を解決しようとするときっとそこにEかSかGに繋がっていくことになるということですね。
ところで、大企業はディスクロージャーの開示義務がありますが、中小企業などのESGの中身を一般の人が理解するにはどうすれば良いのでしょうか。
夫馬さん :消費者の視点で考えた場合、開示がないのは難しく、まだ時間がかかるかもしれません。上場企業はホームページなどで開示されているものが多く、情報はありますが、それでも見分けられないところはたくさんあります。その会社が今後どういう課題に直面しそうかということを自分で考えてみて、その上でその会社の開示されている情報を見て、本当にやっているかどうかを判断することになります。つまり、それで「自分が説得されたかどうか」が大事です。
永井 :企業側の取り組みをESGというか、会社としてのステイタスを上げるための発信という意味で、四十万谷さんは何か心がけていらっしゃることはありますか?
四十万谷さん :私たちの上の世代に多いかもしれませんが、企業がESGとかSDGsの取り組みをしていることをオープンにしようという発想になっていない方もいらっしゃる気がしています。「お客様にはいい品物を届けることが一番」という考えが強く、普段当たり前にやっていることが実は自然のことを考えているなど、それをあえて伝えようとする発想がないのかも。これからは、その情報をお客様に出していくことが必要だということを、それぞれの企業が認識することが大事であり、そのような情報がどんどん出てくれば、買う方も選ぶ材料になります。
夫馬さん :情報を積極的に開示するということはとても大事なこと。知らなければ評価されません。それは消費者からもありますが、銀行からの評価や、行政の方が知ったらもしかしたら応援したいということになったかもしれない、そういう地域には眠っている企業がたくさんあります。開示したことで、たくさんの支持が得られて、事業がやりやすくなったという事例も多くあります。
永井 :最後にお二方から、これから日本のESG投資はどうなっていくかについて、一言ずついただいて、今回のSDGsカフェを閉めたいと思います。
四十万谷さん :今回の機会でESG投資と私たち地方中小企業との関わりがすごく見えたような気がしています。世の中がどんどん変わり、環境的にも洪水が頻発したり、いろいろな廃棄物の問題があったり、そして自分たちの生活も影響を受けている中で、「じゃあどこの企業を応援したいか? どこの製品を買いたいか?」というと、やっぱり「そういうことをちゃんと考えている企業の製品を買いたい」という人が一定以上いらっしゃると思います。そういうことを皆さんと一緒に考えて、少しでも次の世代の世の中で、いい企業活動ができるようにやっていけたらなと思っています。
夫馬さん :地域の方はおそらく都会の方より横のつながりが強いのかなと思います。この分野では「協働する」ということは避けて通れません。他の方々と喋る時間を積極的に作っていただけると、いい意味での地域での資金循環ができてくるかなと思っています。
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