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【開催報告】SDGsカフェ#10「『スポーツ×SDGs』から考える金沢の可能性」

日時 / Date : 2020/2/18
場所 / Place : 長土塀青少年交流センター

今年、2020年といえば東京オリンピックの年。日を追うごとにスポーツへの関心が高まっている中で、スポーツとSDGsの関係を考えてみました。

SDGsとスポーツって関係あるの?

まずは、金沢市役所企画調整課の笠間彩さんから、金沢SDGsの5つの方向性の解説とともに、SDGsカフェ#8でもご登壇いただいた広石拓司さんのメルマガの一文を引用し、オリンピックとSDGsの関係について紹介しました。

金沢市企画調整課の笠間彩さん

近年のオリンピックでは「サステナビリティ」が大きなテーマになっていると言います。
競技や試合で生まれる“最高の一瞬”は、日々の努力はもちろん、食事や生活環境などが大きく影響しています。
「もし、その日々食べるものが自然や誰かを傷つけているとしたら、その“最高の一瞬”を心から喜べるでしょうか?」 
そんな広石さんからの問いかけとともに、スポーツでもSDGsは重視されていることを説明しました。

「2030年の金沢を想像しましょう。いま何が問題になっているのか? 誰がなぜ困っているのか? 想像力のスイッチをオンにするとたくさんの気づきがあります。そこから子供たちに引き継ぐべき、2030年の金沢の姿を描いていきましょう。金沢SDGsは市民全員が参加者です。SDGsの基本理念である、『誰一人取り残さない』を金沢から実践していきましょう。そのために、行政は行政、民間は民間、市民団体は市民団体という垣根を取り払って、今後はそれぞれ皆さんの強みを持ち寄って、共通のゴールに向かって進んでいける、そういうプロセスを踏んでいけるまちにしていきたいです」(笠間さん)

2030年の金沢をイマジンしてくれるのは、ツエーゲン金沢の灰田さん

「ツエーゲン金沢」は、金沢をはじめ石川県全県をホームタウンとするプロサッカーリーグ・Jリーグに加盟するサッカークラブ(J2)です。
そのツエーゲン金沢で、事業企画部次長兼ホームタウン推進室室長を務める灰田さちさんに、ツエーゲンの活動と2030年の姿をイマジンしてもらいました。

ツエーゲン金沢事業企画部次長兼ホームタウン推進室室長の灰田さちさん

もともと金沢市のご出身の灰田さんは、高校生の時からJリーグで仕事がしたいと夢を見て、東京でいったん就職するも、大学院でスポーツマーケティングを勉強。その後、念願かなって「サンフレッチェ広島」で5年間働き、地元に帰ってこういう仕事がしたいと思うようになり、2018年の1月からツエーゲンに移ったそうです。

「私はスポーツ好きだと思われますが、実はそんなにスポーツを観るのは好きじゃないし、スポーツをするのも得意じゃないんです」と笑う灰田さんは、「ツエーゲンとSDGsってほんとに関係あるのって思われている方もいらっしゃるのでは?」と問いかけます。

Jリーグには3つの理念があり、その一つに「豊かなスポーツ文化の振興及び国民の心身の健全な発達への寄与」というのがあります。つまり、サッカーだけではなく、サッカーを通じて日本のスポーツ文化を発展させていこうという強い思いが、そこにこめられているのです。

一方、ツエーゲンにもクラブ理念があり、それは「挑戦を、このまちの伝統に。」です。
金沢には伝統という言葉がつくものが多い中、「挑戦する、チャレンジする姿勢を皆さんに示すことで、挑戦というものを石川県の新たな伝統の一つにしていきたい。そういう志を文字化したものがこのクラブ理念」だと言います。

これを実現していくために、「つなぐ」「楽しむ」「夢見る」「育てる」「つくる」の5つの価値で活動していこうとしているそうです。

Jリーグのクラブが行っている地域活動は年間2万回!

地域に愛されるクラブとなるために、ホームタウンの人々と交流するさまざまな活動を実施しています。それがホームタウン活動。

幼稚園の訪問サッカー教室「キッズキャラバン」や、ブラインドサッカーチーム「ツエーゲン金沢BFC」のサポート、精神疾患の患者の心身のリハビリを目的とするサッカー教室などをはじめ、昨年1年間でツエーゲン金沢が行ったホームタウン活動の回数は250回。

Jリーグの全56のクラブが、2019年度1年間でホームタウン活動は、なんと約2万回にも及んでいます。

しかし、これだけたくさんのホームタウン活動を行っているのに、地域の方にあまり認知されていない現実を踏まえ、2年前のJリーグ25周年の時に、ホームタウン活動と合わせて、これからは「シャレン」活動をやっていこうという方針を打ち出しました。

「シャレン」=社会連携活動の略で、これからはクラブと企業、行政、住民、学校など、地域の皆さんと手と手をとりあって、「地域の課題に対してそれを解決できる方法を考えましょう。そういった取り組みをやっていきましょう」という方向に流れが変わってきているそうです。今までは活動の数重視だったのが、質重視へと変化しています。

たとえば、「湘南ベルマーレ」では、中学2年生にスポンサー企業の体験授業を行い、「将来はこういう会社で働きたい。湘南って魅力のあるまちなんだな」ってことを感じてもらい、転出する人たちを将来的に減らしていく取り組みを行っているそうです。

2030年のツエーゲン金沢の姿を想像してみよう

灰田さん個人の思いも込めて、ツエーゲン金沢が今後やっていきたい、めざす姿を語っていただきました。

クラブの中でも、「2030年にどのような姿になりたいか?」という話をしているそうで、その一つ、ホームタウンの視点で言えば、「2030年までに、石川県民の誇り、シンボルのような存在になりたい」と考えているそうです。

灰田さんの頭の中には、そのようなスポーツチームの理想像があり、それは「広島カープ」なのだとか。

「サンフレッチェ広島」時代に広島カープの25年ぶりのリーグ優勝の熱狂ぶりを目の当たりにし、一昨年、カープがリーグ3連覇した時には、この年に広島で大雨の災害がありましたが、仮設住宅で暮らしている老夫婦が、ぼろぼろ泣きながら喜びあっている姿をテレビで観て、たかだか地域のスポーツチームの優勝でこんなに盛り上がるのが、まちのシンボル、誇りという存在なんだなと実感したそうです。これがまさしくツエーゲンが目指していきたい姿だと言います。

この姿になるためにも、シャレン活動は重要。こういった活動をしていくことによって、「ツエーゲン応援しようよ!」となってもらえるようになると言います。

「地域のみなさんと一緒に石川県、金沢を活力のあるまちにしていきたい」という灰田さん。「みなさんと共に石川県をより活力を感じられるまちにしていく、そのためにSDGsに合致するような活動だったり、シャレン活動であったり、そういったことをこれから展開していきたいと思っています」と締め括りました。

アイデア提供する高木超さんは、サッカー留学の経験あり

灰田さんのイマジンを受けて、そのヒントとなるアイデアを提供してくださるのが高木超(こすも)さん。 高木さんは慶應義塾大学や国連大学でSDGsの「策定プロセス」や「モニタリング指標」の研究をされている、SDGsの専門家であり、しかも実はブラジルへサッカー留学の経験もあるという経歴をお持ちの方。

おそらく日本でサッカーとSDGsの関係を語らせたら、高木さんを超える人はいないでしょう。

慶應義塾大学大学院 特任助教 高木超さん

さて、まずはSDGsのことを、わかりやすい例を交えて解説していただきました。
その一つが、日本の内閣とスウェーデンの内閣の集合写真の比較でした。

日本は着ている服がみんな同じで女性が少ない……。

スウェーデンは女性が多く、着ている服はバラバラ……。

「どっちが正しいと言うのではなく、女性が少ないとか若い人が少ないとか、そう言う観点でチェックしていくのにSDGsを使ってもらえれば役に立つと思います。SDGsの視点から日常をいろいろ見ると、新しい発見があるかもしれません」

また、SDGsの重要な理論に、ゴールから翻っていま何をするかを考える「バックキャスティング」というのがあります。これを感覚的に理解するのはなかなか難しいのですが、高木さんはサッカーに例えてわかりやすく説明してくれました。それが以下の通り。

「サッカーが楽しくて続けていって、いつかはプロ選手になれればというのではなく、将来サッカーのプロ選手になりたいという目標を決め、そのためにいま何の練習をしなければいけないかを考えていく、それがバックキャスティングです」

SDGsには17ゴールがありますから、そこから逆算して、いま自分たちは何をやればいいのかを考えていくこと、それがSDGsのひとつの考え方。

SDGsはいずれも高い目標(ゴール)を設定していますが、この目標設定の仕方を「ムーンショット」と呼ぶそうで、アメリカのケネディー大統領の「月に行く」という目標設定のやり方に由来するそうです。

その結果、実際に10年後には月に行くことができました。SDGsも残り10年ですが、掲げられた高い目標も、いま何をしなければいけないかを考えていくことで、達成できると言えるのです。

Jリーグと絡めて、SDGsをどう使う?

SDGsの使い方のひとつに、「整理する」という考え方があります。

例えば「Y.S.C.C.横浜」というJ3のチームは、地域の生活環境が豊かでない地区にチームの栄養士を派遣して、住民と一緒に「栄養バランスのとれた食事を安い金額で作るにはどうしたらいいか」を考え、専門的な知識を使って貢献しています。

この活動はSDGsのゴールの2番「飢餓をゼロに」に貢献しています。でも、これはゴールで見ればすごく広く、なんでも紐づけられると思えてきます。

SDGsには169のターゲットと、その進捗を図る指標というのがあります。ターゲットと指標を見ると「栄養不足をなくそう」という考え方があり、それに貢献していることがわかります。

「SDGsで自分たちの取り組みを整理するときは、ゴールよりもターゲットを見てやってみてください。ターゲットはすごく具体的なので、自分たちの取り組みの意味とかを整理することができます」

「川崎フロンターレ」は、「算数ドリル」を市内の小学生に配っています。問題はフロンターレの年間の勝ち点を計算するとか、算数は嫌いでもサッカー好きなら思わず取り組んでみたくなるようなものです。SDGsのゴールでは4番「質の高い教育をみんなに」で、指標には「算数について、最低限の習熟度に達している子どもや若者の割合」が設定されており、ここにきちんと貢献していると整理できます。

イギリスの「フォレストグリーン・ローヴァーズFC」は世界で一番環境にやさしいクラブということで、国連からも認定されており、スタジアムにソーラーパネルをつけて、スタジアムの電気を全て太陽光発電で賄うという取り組みをしているそうです。このように海外のクラブもいろいろとSDGsに取り組んでいます。

英国では、タバコの吸い殻を回収するゴミ箱を、クイズの投票箱の形式にしたところ、ポイ捨てが減ったという事例もあるそうで、「ポイ捨てをやめましょう、ポイ捨てしたら罰金何万円!とかじゃなく、楽しんでこうやってSDGsに関われる機会を金沢のまちでもたくさん作って、そういう取り組みができるようなまちになればいいなと思います」

SDGsのゴールに「文化がない」という意見もあるそうです。「別に決まりはないので、金沢市民で18個目を作ったって構わない」と高木さんは述べます。

「例えば、『18.豊かなスポーツ文化の醸成』とか作り、金沢の文化を大事にしながら、SDGsを楽しく、うまいこと活用していただければと思います」

金沢らしさを生かせるSDGsのあり方を提案して、高木さんのアイデア提供は終了しました。

グループディスカッションで「スポーツとSDGs」の関係を深めてみる

ツエーゲン金沢のアカデミーのコーチ直伝ストレッチを灰田さんに教えていただき、体を動かす気持ち良さを味わったあとは、スポーツとSDGsを掛け合わせて金沢SDGsを推進していきたいと考えたときに、どんなプロジェクトをやったらいいだろうか? どんなプロジェクトをやったら金沢SDGsの達成につながっていくか? そのプロジェクトをやるにはどんな人とどんな人が協力するといいかなということを、会場の5つのテーブルごとで話し合って、発表していただきました。

それぞれのテーブルでどんな話をしたかということを簡単に共有しましょう。

<テーブル1>

スポーツをめちゃくちゃするっていう方がいない中で、まずは個人でスポーツを楽しもうということや、応援することでスポーツ自体を好きになろうというところまで話した。

<テーブル2>

金沢SDGsの5つの方向性の中の、3番目「子供がゆめを描けるまち」を考え、金沢にはプロスポーツチームがいろいろあるので、子供たちが見て、夢を描いて欲しい。各地域でいろいろな選手を呼んで、子供たちと交流会ができたらいい。

<テーブル3>

健常者ではなく障害を持たれている方がスタジアムに行くための手段や、スタジアムに障害者用トイレが少ないので、それをきっかけに改善されれば、障害者や老人が行きやすくなるのではないか。

<テーブル4>

地域で子供達をスポーツ選手に育てる。また、みんなで参加できるようなイベントで交流も深め、他県や他国の人とも触れ合えるカルチャーになり、それが住みやすいまちづくりにつながれば。

<テーブル5>

スポーツ用品に伝統工芸を取り入れる。また食品ロスの削減につなげて、給食にスポーツ選手とかが出向き、一緒に食べ切る、または栄養バランスを考えながらみんなで楽しく食べるということを体験させる。

スポーツって言っただけで、たくさんの切り口が出てきた今回のSDGsカフェ

文化とか教育とか環境問題とか貧困とか、ちょっと難しそうと構えてしまう人も、「スポーツ」が間に入ることで、途端に興味を持ってくれます。スポーツはそれだけ人の心を動かし、また波及効果もすこぶる大きくなります。これをSDGsのゴールへつなげるために使わない手はないなということを、参加した多くの人か感じたのではないでしょうか。

そしてまた、地域に溶け込むためにいろいろ尽力しているツエーゲン金沢の姿を知り、まずは試合を観に行きたいと思った人も多かったでしょう。

「皆さんの想いとか、力とか、できることとかを持ち寄って、2030年の金沢はみんながハピネスを感じられるようなまちになるように、一歩一歩ゴールへ向かって進んで行けたらいいなと思います」と笠間さんが述べて、10回目のSDGsカフェは終了しました。

ツエーゲン金沢のポスター。よく見ると石川県全市町の名前が隠れている

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