3月8日は国連が制定した「国際女性の日」です。先日、これを記念して、国連大学OUIKがシンポジウムを開催しました。
「ウーマノミクス」(*1)を世界に向けて提唱したキャシー松井氏を招き、その意義と、今では世界経済に大きな影響力を持つようになったESG投資で変わっていく社会についてご講演いただきました。
第2部では北陸で活躍している4人の女性を迎え、北陸の中で女性の活躍と経済成長をリンクさせていく方策について議論しました。
北陸は女性の就業率が高い一方で、女性が活躍しやすいとは言いづらい側面もあります。労働人口が減り、一方で企業のSDGsへの貢献が必須となっている今こそ、女性が活躍して経済も成長させるということを、広く伝えたいと考えています。
ESG投資で社会を変える
キャシー松井さんからはまず、ESG投資の今とこれからを紹介していただきました。
ESGが注目されるようになった理由としては次の3つを挙げています。
- ESGを重視することによって、新たなビジネス機会が開ける
既存のマーケットの成長性が鈍化した時、男性だけの取締役会では、新しい商品開発や新規マーケットの開拓などのアイデアがなかなか出ません。女性などバックグラウンドの違う多様な視点からの考え方が事業の決定過程に反映できれば、新たなビジネス機会が生まれてきます。
- リスク要因を低減する
バックグラウンドが違えば見つけるリスクも違ってきます。ESGは新しいビジネスだけでなく、リスク低減にもつながります。
- 競争優位性
明日何が起こるかわからない世の中で、競争力を高めるために、ESG経営は不可欠です。
企業の社会に対する成果や価値などを重視するのが今の若者。「有能な人材を採用するには、ESGの考え方や取り組み方が重要になってくると思います」とキャシー松井さんは述べます。
「かつてESG投資は低いリターンでしたが、今では平均以上となる、より高いリターンが得られていることがわかりつつあります。そのためにますますESG投資が増えてくるようになりました」と言われるように、金融の中で、ESG投資は爆発的に伸びています。
コロナ以前はESGのE(環境)とG(ガバナンス)の注目が高く、S(ソーシャル)は定量的に測るのが大変で、幅も広いため、なかなか注目されませんでした。しかし、コロナ禍で、貧困やシングルマザー、メンタルヘルスなどの問題が一気に注目されるようになり、Sの注目度はこれからも増していくと思っているそうです。
ウーマノミクスの意義
続いて、キャシー松井さんからウーマノミクスについてお話しいただきました。
日本の労働力は2055年までに40%減少する見込みといわれます。人口動態問題の解決策は、①出生率の引き上げ、②外国人労働者の受け入れ拡大、③既存の労働力率の引き上げの3つしかないと言います。日本での解決策の選択肢として、「①と②はかなり時間がかかるから、③にフォーカスし、そのもっとも貢献度が高いのは女性だと思います」とキャシー松井さん。
2013年頃から日本では急速に女性の就業率が上がり、就業率がアメリカやヨーロッパの水準を抜いています。新たに雇用の機会を得た女性の大半は、非正規雇用という問題がありますが、今後、日本で就業率の男女格差が解消され、労働時間の格差がOECD先進国の平均なみに低減されれば、GDPを15%程度押し上げる可能性があるそうです。
アメリカの最大手500社で、女性取締役のいない会社と女性取締役が3人以上いる会社の収益性を比較した調査では、後者が大きく上回っており、日本企業でも女性管理職の比率が高くなるほど、増収率や自己資本利益率が高くなる傾向があることがデータからわかっています。その理由としては、前述の多様な視点が関係していると考えられ、「逆に女性だけの取締役会でもダメだと思います」とキャシーさんは付け加えます。
「ダイバーシティーは面倒だし、時間がかかる上にあまり意味がないと思う向きもありますが、このように客観的な分析結果から、エビデンスを提供していけば、納得してもらえるはず」
ジェンダーに限らず、考え方の多様性によって、イノベーションが生まれ、持続可能な成長を実現し、リスクも軽減できることを強調しました。
女性社員の育て方
ダイバーシティーとは平等という観点が主でしたが、日本政府が“成長を促す要因”の文脈で取り上げたことで、その意識が変わり、多様性がなぜ必要かという理解がかなり深まったそうです。ただ、「なぜ」はわかっても「どうやって」がわからず、その教えを乞う依頼がキャシー松井さんの元へ舞い込むようになり、『女性社員の育て方、教えます』(中央公論新社刊)という本を上梓したそうです。
“女性は自己の自信が足りない人が多いので、男性よりも少し多めに励ます”、“自分は愛されているという気持ちをつくるスポンサーシップを考える”、“フィードバックで、女性は改善点の方を深刻に受け止めがちとなる。女性は完璧主義者が多いためで、プラスの部分を強調して勇気づけてあげることも大切”など、自身の経験から得た女性社員を育てるヒントを、講演の最後に披露してくださいました。
女性のエンパワーメントを北陸経済のエンジンにするには
後半のパネルディスカッションでは、志賀嘉子さん(株式会社ウフフ)、谷村麻奈美さん(株式会社エリンク)、灰田さちさん(株式会社石川ツエーゲン)、宮原吏英子さん(株式会社日本政策投資銀行)の4人をお招きし、モデレーターは安江雪菜さん(株式会社計画情報研究所)にお願いしてパネルディスカッションを開催しました。
社会復帰をするママさんは、キャリアには関係なく、“働ける時間帯で仕事を選んでいることがもったいない”と感じ、手作りドーナツを製造販売する会社を起業した志賀さん。「刺激しあえる社内環境だから、自分ももっとがんばってみたいという気持ちが出てくるようです。世の中で、自分が一番課題だと思っていることにそれぞれが打ち込んでいけば、社会はもっと良くなると思います」と、女性が活躍できる社会への思いを語ってくださいました。
母子家庭、高齢者、生活保護の方など、入居困難者へ部屋を提供する不動産会社を立ち上げたのが谷村さん。以前勤めていた不動産会社で入居困難者を断った辛い経験から、自分で会社を設立することを思い立ったそうです。「私はやりたいことをやらせてもらっています。好きなことをやって自分が笑顔でいられれば、そういうお母さんを見て、子どもたちも喜んでくれているのじゃないかと思っています」と、シングルマザーとして仕事に励んできた姿を紹介してくださいました。
高校時代、スポーツが地域の人々をつなげる力を目の当たりにしたのが灰田さん。それ以来、クラブスタッフになることを目指し、サンフレッチェ広島での5年間を経て、2018年からはツエーゲン金沢へ。見事地元で夢を叶えることができ、スポーツで地域の人たちの暮らしがより豊かになるよう、Jリーグ社会連携活動に邁進しています。ツエーゲン金沢のクラブ理念は、「挑戦を、この街の伝統に」だそうで、「挑戦というマインドをこの街の新しい伝統にしていきたい」と、自らも挑戦を続ける姿勢をアピールしてくださいました。
2012年から「北陸地域における女性力発揮」をテーマに、北陸地域における女性の就業や働き方について研究している宮原さん。北陸は老若男女、働き手の多様性があり、女性労働力率が高い一方、女性管理職割合は低く、働き方や関わり方ではまだ課題が大きいと言います。「ダイバーシティーへの一歩は女性が一番身近かなと思っています。基本に立ち返り、女性力をうまく発揮していける地域であるというところから、もう一回振り返って広がっていければいいなと思っています」と、データから北陸の女性の可能性について、述べていただきました。
「女性にやさしい職場は、制度を充実させることだけでなく、やりがいがある仕事や自分が好きな仕事をする環境を作ってあげることが大事」と安江さんは言います。
「女性活躍とESG投資という大きな2つの軸をどうつなげるかという話でしたが、女性をはじめ、多様性ある人たちがそれをつなぐ原動力になっていく兆しを感じています。女性が活躍する意味は、従来型のビジネスではなくて、新しい価値を共創していくということだと思いますので、そういうビジネスがたくさんできるといいと感じます」と安江さんが述べ、パネルディスカッションは終了しました。
以下からイベントの動画も視聴いただけます。