持続可能な開発を続けるため、「働く力」は重要な要素です。SDGsでは17のゴールのひとつ、8に「働きがいも経済成長も」を掲げています。現在、日本でも働き方についてさまざまな問題があり、その変革が求められています。
働き方改革は、働く人の視点から問われることが多いですが、実はこれからの企業が生き残っていくため、最優先で取り組むべき経営課題でもあります。
今回は、国の「働き方改革実現会議」の有識者委員を務められた白河桃子氏を招き、経営側の視点から考えるフォーラムを、金沢市と金沢イクボス企業同盟の主催で開催しました。国連大学IAS-OUIKは、「SDGs いしかわ・かなざわダイアローグシリーズ第7回」と位置づけて、このフォーラムを後援しました。
イクボスをご存知でしょうか?
イクボスとは、職場で共に働く部下・スタッフのワークライフバランスを考え、その人のキャリアと人生を応援しながら、組織の業績も結果を出しつつ、自らも仕事と私生活を楽しむことができる上司をいいます。
金沢市では日本一働きやすいまちを目指して、イクボスを育成するために企業相互が連携協力する金沢イクボス企業同盟を結成しました。
このフォーラムでは、経営者、上司の立場から働き改革に取り組んでいる、いわば「リアル・イクボス」と呼ぶべき株式会社宗重商店の代表取締役宗守重康氏と、金沢信用金庫の理事・経営管理部長西井隆志氏から、最初に事例報告がありました。
働く理由はお金のためだけではない
平成28年度石川県ワークライフバランス企業「優良企業賞」を受賞した宗重商店は、働きがいのある社風を作るため、自分たちの会社を自分たちの手で改善していくナナメ割社内委員会や、飲み会を開いて笑顔の集合写真を提出すると補助金がもらえる制度など、数々のユニークな取り組みを行っています。
お金のためにつらい思いをして、自分の命を切り売りして働くのではなく、成長を自分自身で感じながら、誰かに喜んでもらえる瞬間を幸せに感じられる仕事へと、働き方の改革を行っています。
そして、社員とともに自分たちの会社は自分たちの手でよりよい環境へとつくっていき、100年後も必要とされる会社にしていきたいと述べました。
労働時間短縮には経営者の強い意志が重要
金沢信用金庫では、「従業員が幸せに仕事ができていない状況では、お客様にも何も提供できない」という理事長の考えのもと、労働時間短縮などの働き方改革を進めています。
時短の必要性としては、従業員の健康管理、女性活躍の推進、若年層のモチベーション維持・向上、新卒人材確保、残業代削減などがあり、そのために内部事務削減、業務終了時刻の目標を各店ごとで設定、パソコン強制終了など、半ば強引に進めたそうです。
その結果、多くの従業員が時間を意識して行動するようになり、危惧された営業面、事務管理面とも大きな影響は出ていないそうです。
基調講演「御社の働き方改革 間違っていませんか? 生産性と社員の幸福の好循環」
いよいよ白河氏の基調講演です。最初に働き方改革は、法改正への対応だけではなく、人権問題(過労死、過重労働)、人手不足(多様な人材の必要性)などを解決するために取り組む必要があり、一方で日本的な働き方を変えていかないと、国際社会で生き残っていけなくなるという切実な問題も話されました。
白河氏からはさまざまな企業の働き方改革による成果を紹介していただきましたが、社員の評価軸を、時間当たり生産性に変えた大手人材派遣会社では、一日あたりの労働時間は減り、なおかつ時間当たりの生産性は向上したうえ、さらに女性従業員の出産数や自己研鑽が増えたという、興味深い事例もありました。
紹介された事例の多くでは、労働時間を量より質へとシフトすることで、勤務時間が減るとともに残業代も減っていました。
長時間勤務が評価されなくなったことで子育てをしながらでも結果が出せることから、女性の活躍を推進することにもなっているそうです。最大のマイノリティと言える女性の活躍が広がれば、確実にGDPは上昇すると、白河氏は強調します。
働き方改革は、残業代削減、売り上げ・利益など数字が上がるだけでなく、一緒に働くチームの力が上がり、多様な人の多様な働き方が許容され、さらに自己研鑽をする人が増え、そして心理的な安定性も向上します。このようなイノベーションが起きることが働き方改革の醍醐味と言えます。なかでも一番重要なのは心理的な安定性が得られることであり、そして「ギスギス職場(負のサイクル)」を「ワクワク職場(正のサイクル)」に変えていくことだと白河氏は話されました。
リアル・イクボスの体験談はヒントがいっぱい
トークセッションでは、宗守氏、西井氏、そして株式会社計画情報研究所の安江雪菜氏の3名でさらに突っ込んだ対話が行われました。
西井氏からは「家に帰りたくない人」の抵抗にあいながらも労働時間短縮を成功させた苦労話や、慣例で作っているが実はいらない書類があるのではということなど、会場の皆さんが多少なりとも思い当たる節がある話や、宗守氏からは人が集まってくる会社でないとお金も集まってこないから、人を惹きつける明るい会社にしたいと考えているなど、共感したり、この先のヒントとなったりする話をたくさん聞くことができました。宗守氏、西井氏の共通点として、「社員のことをよく見ている」と安江氏が述べましたが、これはイクボスのあるべき姿と言えるのでしょう。
企業の成長と働きがいはセットで
働き方改革は、企業が生き残っていくために実施しなくてはならないものですが、やり方次第では得られるメリットが大きいことも、このフォーラムで実感できました。そして、経営者はその課題を解決しつつ、メリットを最大限に生かす手法を考え、同時に社員はこの会社で働く幸せについて思い描いてみる、これを一体で行っていくことが、企業の成長と働きがいを両立させると言えそうです。
「働きがいも経済成長も」の達成のため、ぜひ、それぞれの立場から働き方改革について、まずはできることから始めてはいかがでしょうか。