今年2018年に「金沢市における美しい景観のまちづくりに関する条例」の施行50周年を迎えた金沢市で、都市景観をグリーンインフラから考える国際シンポジウムを、金沢大学地域政策研究センター主催、金沢市、国連大学サステイナビティ高等研究所いしかわ・かなざわオペレーティング・ユニット、一般財団法人エコロジカル・デモクラシー財団の共催で開催しました。
金沢らしい景観から、グリーンインフラを読み解く
グリーンインフラとは、多機能性という視点から自然を再評価することによって、持続可能な社会形成を目指した土地利用計画のこと。
「金沢市における美しい景観のまちづくりに関する条例」が施行されたのは、高度経済成長期の真っ只中でした。開発が最優先だった当時、伝統環境保存という景観政策を始めたことは、とても先進的なことでした。
この条例によって、金沢らしい町並み・景観のなかに埋め込まれている斜面緑地、用水、川筋景観、寺社景観、庭園などが保全・再生されてきたのです。
「金沢の都市景観をグリーンインフラとしてとらえ直すことができるのではないか」
これは今回のシンポジウムの目標の一つでもあります。
このシンポジウムに先立って、前日にはエクスカーションとして、金沢市内の用水や庭園、斜面緑地などを、登壇者の皆さんが見て回り、金沢の都市景観をさまざまな角度から眺め、感じてもらうことができました。
まずは、世界の最先端事例から学ぶ
シンポジウムは3部で構成し、第一部は「グリーンインフラを学ぶ」と題し、次の3氏から発表がありました。
西田貴明氏(三菱UFJリサーチ&コンサルティング)
多機能性ということから自然を考えて、人口減少時代に持続可能な社会形成を目指した土地の利用の方法や動向など、国内外のさまざまなグリーンインフラの事例を紹介。
福岡孝則氏(東京農業大学)
住みやすい都市をつくるため、今ある用水とか駐車場とかを使うという視点も大切であることや、グリーンインフラとは地域ごとに定義されるものであるべきと提案。
宋泳根氏(ソウル大学)
ソウル市の都市のグリーンインフラや、自身がかかわってきた取り組みを紹介。ソウルでは大がかりなプロジェクトもスピード感を持って取り組み、成果を出していると説明。
金沢らしいグリーンインフラの可能性を探る
第二部は「金沢の都市景観をグリーンインフラから考える」ということで、おもに金沢のグリーンインフラに関する研究や取り組みを4氏が発表しました。
上野裕介氏(石川県立大学)
金沢市の防災・環境・経済からみるグリーンインフラに関する報告。グリーンインフラによって犯罪の抑止や教育にも関係してくるなど、意外な効果も紹介。
飯田義彦氏(国連大学IAS-OUIK)
水、食、工芸といった金沢の暮らしは、自然資本をよりどころにしていること、そして、用水はインフラとしても機能し、社会構造と歴史が密接にかかわっていることなどを紹介。
ファン・パストール・イヴァールス氏(国連大学IAS-OUIK)
庭園も空き地も所有者だけでは維持管理できなくなりつつあり、持続可能な保全活動の必要性と協働的な管理について紹介。SDGsのゴール11、ゴール15、ゴール17と連動して実現していくことを提案。
エマニュエル・マレス氏(国立奈良文化財研究所)
日本庭園の歴史研究の視点から、日本庭園を起点に置き、周辺部とのグリーンインフラ的なつながりを探求。庭園は都市と密接な関係があり、庭園を活用する考えの新鮮さに言及。
菊地直樹氏(金沢大学)
自然の多機能性を軸にした持続可能性の実現、特に都市景観に注目してグリーンインフラとして活用するためには、取り組みを進めながら評価と見直しをする順応的ガバナンスが必要であるという話。
グリーンインフラの最先端都市を目指す
第三部は「ラウンドテーブル」。コメンテーターに岡野隆宏氏(環境省)、舟久保敏氏(国土交通省)、土肥真人氏(東京工業大学)、佐々木雅幸氏(同志社大学)を迎えて、「都市景観をグリーンインフラとして活用する」について、椅子を放射状に並べ直して、参加者が顔を見合わせながら発言していきました。
グレーインフラとグリーンインフラの比較、自然保護や自然保全をグリーンインフラという言葉に置き換えるメリット、グリーンインフラへの理解を深めてもらうためには、その多機能な効果の可視化をしないといけないなど、盛りだくさんな意見が出ました。
また、金沢のグリーンインフラについては、金沢は400年前からグリーンインフラをやってきた先進的な都市であることや、その一方で、近年、中心部では空き家も増え、グリーンインフラ的計画を進めていく必要性などを議論し、それは歴史都市・金沢でこそやるべきだという意見が出ました。そして、金沢はグリーンインフラの最先端都市になれるのではないかという期待の声も上がりました。
SDGsダイアローグシリーズとしては、さまざまなアイデアを共有しながら、世界共通で持続可能な町づくりをしていくための、都市計画論、グリーンインフラ論をここ金沢から発信していきたいと考え、このシンポジウムがその最初の一歩となった手ごたえを感じています。
グリーンインフラとは、社会のさまざまな課題と結び付けて自然の問題に取り組んでいくものでもあります。そのことが、ひいては自然のためにも新しい展開へとつながります。
そしてグリーンインフラを推進していくためには、皆さんが持ち味を生かし、ひとり一人が主役となれる、そんなパートナーシップをどう作っていくかということが重要です。
OUIKもそのようなパートナーシップづくりのお手伝いをできればと思っており、これからも金沢ならではのグリーンインフラを皆さんと一緒に掘り下げていければと願っています。