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【開催報告】令和2年度第2回 能登の里海セミナー「里海の保全から考えるSDG14の達成 ―海洋生物多様性の保全―」

日時 / Date : 2020/9/19
場所 / Place : オンライン

2020年6月に開催された「海洋汚染問題を考える」に続き、今回が2回目となる国連大学OUIK「能登の里海セミナー」。

今回は、SDG14の10個のターゲットから、海洋生態系のレジリエンス強化や回復取り組みに関するSDG14.2と14.5について勉強しながら、海洋生物多様生の保全を考えました。

近年の海洋生態系に関する話題や保全取り組みを紹介するとともに、CBD-COP10の愛知目標とも連動する「海洋保護区」の紹介や、実際に能登の里海の生物多様性の保全を行っている2例の活動報告が行われました。

 

能登の里海ムーブメントとSDG14について

セミナー主催者を代表して国連大学サステイナビリティ高等研究所いしかわ・かなざわオペレーティング・ユニット(国連大学OUIK)の永井事務局長から開会の挨拶があり、続いてイヴォーン・ユー(国連大学 OUIK研究員)から、「能登の里海ムーブメントとSDG14について」と題して、このセミナーの趣旨説明がありました。

国連大学OUIKの永井事務局長

 石川県の能登半島は2011年に日本初の世界農業遺産に認定されましたが、そのコンセプトはまさに能登の里山と里海です。認定数年後、地域の人に話しを聞くと、里山の方は農業や森林管理など、認定をきっかけに活動が活発になっている一方、里海の方は、「どのように関わっていけばいいのか?」などと、地域の皆さんの中でも戸惑いがあることが分かりました。それを受けて、2015年から能登の里海を知るための「能登の里海ムーブメント」という活動を国連大学OUIKが開始。セミナーの開催、国連大学OUIKの研究、地域の皆さんの里海保全活動を手伝うというのが活動の3本の柱となっています。

 2015年から2017年までは、金沢市内や能登地域でいろいろなテーマで里海のセミナーを開催してきました。海の森だったり、海士さんの話しだったり、伝統的な漁の仕方だったり、さまざまな課題を通して、能登の里海の魅力などを伝えてきました。そして、2018年から2019年までは、これを受けての情報発信として、東京や海外でも能登の里海のことを発信してきました。

国連大学 OUIK研究員のイヴォーン・ユー

 今年度からはSDG 14に特化した里海のセミナーを開催しております。第1回目は里海開催は6月にSDG14.1に関する海洋汚染問題について勉強しました ここではSDGsの17のゴールのうち、14番の「海の豊かさを守ろう」について詳しくみていきます。SDG14は「持続可能な開発のために、海洋・海洋資源を保全し、持続可能な形で利用する」という目標。2015年に定めたものですが、海がやっと地球規模の課題として取り上げられたと、当時は海の専門家から、たくさんの喜びの声が上がりました。2017年には第1回の「国連海洋会議」がニューヨークで開催されましたが、この時はSDG14がテーマでした。SDG14は今、海を語る上での世界中の共通語となっています。

 

海の保護区は達成が間近の目標

 さて、SDG14の中にはさらに10のターゲットがあります。第1回の里海セミナーでは、ターゲット14・1の「海洋汚染削減」をテーマにしました。そして、今回のセミナーでは14・2「海洋生態系保護・修復」と14・5「沿岸域・海域保全」を中心にみていこうと思います。

 14・2「海洋生態系保護・修復」は、「2020年までに、海洋及び沿岸の生態系のレジリエンス強化や回復の取り組みなどを通じて持続可能な管理と保護を行い、大きな悪影響を回避し、健全で生産的な海洋を実現する」とあります。要するに“2020年までには海の環境を良くしていきましょう。そうすれば海の中の生物多様性も健全に保たれるのではないか”という主旨で作られた目標です。ちなみに2020年というのは、生物多様性条約(CBD)の「愛知目標10」の達成年からとっています。SDGsの中の生物多様性の目標はCBDの目標を参考にしているのです。

 14・5「沿岸域・海域保全」の目標は、「2020年までに、国内法および国際法に則り、入手可能な最適な科学的情報に基づいて、沿岸・海洋エリアの最低10%を保全する」とあります。こちらは、海の10%を守ろうという話で、同じくCBDの「愛知目標11」の中で掲げられているものです。

 今週、「地球規模生物多様性概況第5版」が出されました。これはこの10年間の愛知目標の達成状況などの報告書で、20個の目標はほぼ全部達成できていないという結果が出ています。その中で一部は進捗がある、希望があるというような報告もありました。

 具体的に「愛知目標10」をみると、海の変化に保全活動が追いついていないことや、海の保全を取り巻く制度がいろいろな国でばらつきがあって情報収集に困難しているのではないかなと思い、適切な分析ができていないように感じます。

 また、「愛知目標11」に関しては、陸と海の保護区は達成できる方向ではないかと考えます。実際、11が1番達成できそうな目標ともいわれています。

 海洋の生物多様性を示す図を見ると、日本の海が生物にあふれていることが読みとれます。さらに、人口密度の高い国のほうが生物多様性も多いようにもみえます。課題としては、生物多様性が豊かなだけに保全の仕方にも工夫をしなければいけないと考えます。

 里山と里海のつながり。森・里・川・海のつながりというのがあり、陸の栄養素を海に運び、それが生物の餌になっています。陸に住みながら、海とのつながりを意識すれば、陸からも海に対する保全ができるのです。里山・里海はいろいろな人の力によって守っていけるのです。

*以上、イヴォーン・ユー研究員の発表を要約・編集しました。

 

基調講演:海洋生物多様性の保全~海洋保護区について~

 基調講演は、環境省自然環境計画課の木村麻里子氏にお話しいただきました。

環境省自然環境計画課の木村麻里子氏

 木村さんは自然保護官として10年前に環境省に入省。COP10にも少し関わることができたそうで、その後、日本全国の国立公園や自然環境が豊かな場所にて希少種などの保護増殖などに関わり、現在は自然環境計画課に所属して、海洋生物多様性の担当をしています。

「現状の海洋保護区」「沖合域の新たな海洋保護区制度」「来年以降の海洋保護区」の3つを中心に発表がありました。

 

 国際的な海洋保護区に関する目標は、生物多様性条約の「愛知目標11」と、SDG14・5に設定されています。これをごくごく簡単に言うと、「2020年(今年)までに海の10%を保護区として保全しましょう」という目標となります。

 では、現状はどうでしょうか? 主な海外の大規模な海洋保護区の事例(位置図)を見ると、大規模な保護区が設定されていることがわかります。全海域(公海を含む)の約7.5%、管轄権海域(公海を含まない。EEZ《排他的経済水域》の内側)の約17.3%が保護区となっています。公海に関しては、誰がどうやって海洋保護区を設定するかがまだ決まっていなくて、現在議論をしている最中です。ちなみに、公海を除けば、目標の10%は達成していることになります。

 国別の海洋保護区の設定状況をみていきましょう。1位はイギリスでEEZの47.5%、日本は7位で8.3%です。10%目標にはまだ足りていません。ここで、日本の海洋保護区の制度についてもう少し詳しくお話します。そもそも「海洋保護区」とは何でしょうか? 愛知目標で10%にするとしていますが、その当時は詳しい定義はなされていませんでした。日本ではその半年後に、「海洋生物多様性保全戦略」を策定し、「生物多様性の保全および生態系サービスの持続可能な利用を目的として、法律などにより明確にエリアを決めて管理されている地域」のことを「海洋保護区」とする定義が定められました。

 では、この海洋保護区の定義に合致するものはどれくらいあるのでしょうか? 実は、「海洋保護区」という名前のところはなく、いろいろな制度で管理されている区域を海洋保護区としてカウントしているという状況です。目的別には、「自然景観の保護など」「自然環境または生物の生息・生育場の保護など」「水産動植物の保護培養など」の3つがあり、「水産動植物の保護培養など」の割合が一番多いです。これらを足したものが、先のEEZの内側にある8.3%の海洋保護区となります。

 石川県の自然公園をみてみましょう。能登半島国定公園は50年以上前に指定されたもので、能登半島の変化に富んだ長い海岸線が中心となります。国定公園の制度の中にある海域公園地区は「木ノ浦海域公園地区」と「内浦海域公園地区」の2つが指定されています。

 自然公園というと、ただ守るだけと思われがちですが、実はそれだけではなく、いろいろな人たちに来てもらい、自然環境を楽しんでもらう、要するに利用してもらうということも大事な目的の一つとなっています。利用と保護もどっちも大事な両輪で、このバランスを図って管理をしていくということが自然公園なのです。

 日本の海洋保護区を場所別に「沿岸域」か「沖合域」かで分け、目的別に「自然景観や生物の生息域場等の保護目的」か、「水産動植物の保護培養などの目的」かで分ける4つのブロックにすると、「沖合域」での「自然景観や生物の生息域場等の保護目的」だけが海洋保護区には含まれていません。日本の8.3%という保護区の多くが沿岸域に設定され、また、沖合域での自然景観などの保護は適用可能な法律がなかったため、指定されていないのが現状です。

 日本の沖合域をみてみましょう。日本の管轄海域というのはとても広く、世界で第6位の面積となります(各国が持つ海外領土を除いた場合)。沖合域には多様な環境や生態系が形成されていて、3万種以上の生物がいます。これは世界の全海洋生物種数の14%にあたります。太陽光も届かず、ものすごい圧力を受けている深海にもたくさんの生物がいます。なかなか調査に行けない場所なので、今後調査が進めば、まだまだ新しい生物が見つかるような、未知とロマンが広がっている場所でもあります。

 深海に生息する生物資源利用上の意義というのもあります。その代表的なのは2008年にノーベル賞化学賞をとった、オワンクラゲなどの蛍光タンパク質の利用や、バイオエタノール生産などに活用できるカイコウオオソコエビなどが挙げられます。

 

沖合域の新たな海洋保護区制度

 新たに沖合に海洋保護区を設定することになり、沖合域を守る法律がなかったので、自然環境保全法を改正して、沖合の海洋保護区制度ができました。沖合海底自然環境保全地域と呼ぶ、指定された区域では、鉱物の採掘や底引き網漁での海底の動植物の捕獲は規制されるようになります。最初に指定される海域としては小笠原方面の沖合域が有力視されていますが、現在、2020年内指定に向けて調整中で、仮に案通りに指定されれば、日本の海洋保護区割合は一気に13.3%となり、愛知目標11とSDG14・5が達成されることになります。

 しかし、「これで目標達成、バンザイ!」ということでよいのでしょうか? 問題提起の意味も込めて、最後に来年以降の海洋保護区の話をします。海洋保護区は10%を達成できても終わりではありません。管轄権海域よりも公海の方がはるかに面積が大きいので、公海をどうするのかを決めないと、いくら自国のEEZの中で海洋保護区を設定しても、全海域の保護区の割合を10%にするのは難しい状況です。

 さらに一方で、2030年までに海域の30%を海洋保護区にしようという話もあります。海洋保護区は広いほうが保全が進んでいいと思いますが、それだけの広い面積となると陸からかなり離れた沖合を指定することになります。指定した以上は、そこをちゃんと管理して保全していかないとなりませんが、そのためのコストも膨大なものとなります。実際問題として、どうやって管理や保全をするのかという話もあります。

 なかには自然保護区の野生動植物種に由来のものは一切利用してはダメ、何も手を付けてはいけないという考えの人も一部にはいます。海洋保護区でも一切漁業をしてはダメだという考えを持っている人もいます。しかし、人と自然環境との関わりがある中での持続可能な利用、つまり人が手を入れることで保全されているような面もあり、一切手をつけなくて保全が図られるのかということに、私は疑問を持っています。これに関しては皆さんにもぜひ考えてもらえるといいなと思っています。

*以上、木村麻里子氏の基調講演を要約・編集しました。

 

活動紹介 ①「能登九十九湾におけるアカテガニを介した森と海のつながり」

 能登の里海での活動報告その1を石川県立大学教授の柳井清治氏に発表していただきました。柳井さんは、能登の九十九湾(つくもわん)でアカテガニを指標にして、森と海のつながりを研究しており、その成果をお話しいただきました。

 

石川県立大学教授の柳井清治氏

 九十九湾では、アカテガニが毎年海に卵を放ちにやってきて、また、それを利用するいろいろな魚も集まってきます。そのようなことで、アカテガニは森と海のつながりを象徴するような生きものになっています。

 さて、アカテガニはどんな生きものなのか? 通常は森の中に棲んでいますので、森の中の生態系に含まれています。その子どもはゾエア、そして少し成長するとメガロパといいますが、いったん海に行ってから、陸に戻ってきます。アカテガニはおもに西日本、台湾、中国東部にいます。日本が北限とされています。アカテガニ類の生活史の最大の特徴というのは、陸と海を行き来するということ。親ガニは陸域に棲んでいますが、子どもは海に行って大きくなってまた陸に戻ってきて、森の中で生活をします。

 アカテガニは森の中に棲んでいて木登りが上手。森の中の斜面に穴を掘って棲み、冬眠も穴の中でします。雨水をうまく利用してエラ呼吸をする、森林生活に特化しているカニです。どんなものを食べるかというと、木の葉であったり、木の実であったり、キノコであったり、芋虫も食べます。

 成長したアカテガニは、夏になると卵を海に放つようになります(放仔行動という)。2万から3万の卵を抱えているといわれます。九十九湾には自然の海岸が多く残されており、夏の夜に、たくさんのカニが水辺に集まってきます。もう一つ、面白いのが卵を放つ個体と月齢が同調しているといわれていることです。満月や新月の大潮の時に集まってくるものが多いのです。なぜ大潮がいいのかというと、海に放ったゾエア(子)が効率よく沖合に流されていくからと考えられています。ゾエアがどこまで流されていくのかを九十九湾で調べたら、湾全域に広がっていますが、特に自然海岸が残されている奥の方が密度が高いことがわかりました。

 マアジやボラの仲間をはじめ、ゾエアを狙うたくさんの魚も集まってきます。魚にとっては「夏にごちそうが陸からやってくる」と思っているかもしれません。沿岸に棲む魚にとってはとても重要な餌になっていることも調査から分かりました。

 ゾエアは3週間くらい経つと、カニの形に近くなったメガロパというものになります。メガロパは大潮の時に、自然海岸で小川があるところに大量に戻ってくるということが最近になって明らかになりました。

 

森と海がつながるところにアカテガニは棲む

 能登半島全域でアカテガニが豊富なところを調べると、森と海がつながっていて、自然環境がよく保全されたところという共通点があります。森と海はあっても、その間に防波堤などの障害物があるところは少ないことも分かりました。海から戻ってきた子どもが森の中に帰れるような環境が重要なのです。

 アカテガニを活用した地域・教育活動が九十九湾周辺では盛んに行われています。一つはのと海洋ふれあいセンターが中心になって行っているいしかわ自然学校です。子どもたちを九十九湾に招き、そこに棲むアカテガニなどを観察する会を実施しています。月齢に左右されることや海の中に卵を放つ行動というのはとても感動するものです。

 一方、沿岸周辺の環境が重要だということで、アカテガニが棲む森林を守っていこうということも重要です。環境省が500カ所を選んだ生物多様性保全上重要な里地里山の中に、九十九湾も含まれていて、学生と一緒に森づくり活動も行っています。

 金沢大学が全国の学生を集める公開臨海実習では、「アカテガニに着目した海岸環境の保全に関する実習」を実施。放棄田を整備してアカテガニ・ビオトープを、みんなで泥だらけになりながら整備して、海との連続性もつくっています。

 アカテガニは次世代の子どもを育てる上の環境教育で、とてもいい材料になっているのではないかと思っています。

*以上、柳井清治氏の活動報告①を要約・編集しました。

 

活動紹介 ②「能登里海の生物多様性にダイバーとしての関わり」

 

 能登の里海での活動報告その2を能登島ダイビングリゾートの鎌村実氏に発表していただきました。能登半島の東側に位置する能登島でダイビングの店を開き、17年経つそうです。最初に紹介されたのが、「海の森」の写真。水底から水面を見上げたもので、まるで森の中を歩いているような光景が、海の中でも見れるということに驚かされました。

 

能登島ダイビングリゾートの鎌村実氏

 レジャーのダイビングは熱帯系のところをイメージされることが多いですが、もともとのレジャーのダイビングは、「ちょっと目の前の海に潜ってみようよ」というところから始まっているものです。陸と海とのつながりがあって自然が豊かな能登の海に潜ってみると、山歩きと同じように海の中でもたくさんの楽しみがあります。そこで感じている事をここで紹介しようと思います。

 私は能登の観光・教育に、スキューバダイビングという新たな分野を定着化させることができたのではないかと自負しています。このようなことができている条件として、能登の海の特徴があります。能登半島の西側は季節風の影響を大きく受けて、季節感が楽しめます。一方の東側は季節風の影響が少なく、富山湾の恵みを受けた生態系があります。水深1100メートルの深海がある富山湾の西側となり、水深は浅いですが季節風の影響を受けにくい地域です。その中で、私たちダイバーが入れる浅いところは、海藻の宝庫なのです。

 海藻は多種多様で、生きものを集め、魚のゆりかごともいわれています。海藻があることや、小魚や貝類がたくさんいることで海水の浄化がなされています。そのような景観の美しさは、レジャー・ダイビングにつながってくるところです。しかも、ミナミハンドウイルカというイルカも生息しています。首都圏や関西圏からのアクセスもよく、太平洋側や熱帯地域とは違う海の中の景観が見られることから、人気のレジャー・ダイビングスポットとなりました。

 私は海藻を見る里海のダイビングや冬の日本海に潜るという異日常を体験できるダイビングなどを、新しいレジャー・ダイビングとして提案もしています。一方でこれからの世界を背負って立つ子どもたちにも広めていきたいと思っており、県内の大学や専門学校、高等学校などの学生・生徒を集めて、一緒に潜り、海の中を楽しんでもらっています。

 

漁協とのつながりを持ち、漁業者のサポートにも取り組む

 獲るだけでなく、育てる漁業を考えたとき、「では何をすればいいのか?」ということを、潜水士の視点から提案や協力を行っています。たとえば、能登は定置網での漁が多いのですが、定置網の漁業者に海の中で定置網がどうなっているのかを見てもらうための潜水指導などをしています。また、17年ほど定点観察・撮影を続けていますが、そこで得られた知見を漁業者にフィードバックして、育てる漁業の漁場をどうやってつくっていくかといった場合の潜水作業の手伝いも行っています。

 そして漁業者との協業として、海藻の調査もしています。日本海の海藻は食文化とのつながりが強く、海の中ではどうなっているかを調査して、それを増やす活動を漁業者と一緒に行っています。磯焼けを起こしているところにアマモの種子を植え付けたらどうなるかという研究を、高校の潜水部の生徒に協力してもらって行ったり、もう少し深いところでは、日本海側でよく食べられているアカモクをもっと増やそうと、アカモクの母藻設置も行っています。

 ほかにも真冬に海に潜って牡蠣の生育状態を確認することや、雲丹が増えすぎて海藻がうなく育たないところでの雲丹の駆除の手伝いなどもしています。反対に雲丹を生育したいという場合には、雲丹を育てやすいように雲丹フェンスというものを設置してその中で雲丹を育てていくことをやったりすることもあります。実際の海の中に入って現場を見ながら、いろいろな手伝いする活動をしています。

 現場を見ることで、海洋学や水産学の枠にとらわれず体感してもらうことは学生たちにもしてもらっています。遊びの延長から始めて、中には水産関係の仕事に就く人も出てきました。

 珍しい潜水部がある高校もあり、そこでは部活動としての潜水活動(ダイビングというスポーツ)を通じ、里海での生物多様性を体で感じとっています。また、潜りながら水中のゴミ拾いも行っています。

 海中にはたくさんのゴミがあります。それをきれいに回収して海の生物多様性を守りたいと思っていますが、ダイバー個人のレベルではどうにもならないものがあります。それは、使われなくなった定置網などの漁具。海の中にたくさん沈んでいて、放置されたサザエとりの網に引っかかり、身動きが取れなくなっているサザエもよく見かけます。

 海中に放置した蛸壺をちょっときれいにしたらタコが棲みかに使うようになり、産卵もしました。このようにゴミにちょっと手を加えるだけで、プラスになることもあります。

 

 実際に海に入ることで海と人を結びつける役割を担い、海の資源に付加価値を付け、観光や教育へとつなげ、水産資源を人の手で育て守るなど、能登の里海の生物多様性に関して、ダイバーができることはたくさんあります。

*以上、鎌村実氏の活動報告②を要約・編集しました。

 

引き続き、パネルディスカッションへ

能登半島の西側には冬は荒波が打ち寄せる(撮影/豆本工房わかい)

 

モデレーターをイヴォーン研究員が務め、発表を終えた3人とパネルディスカッションが始まりました。

イヴォーン研究員:木村さん、2人の能登の活動報告を聞いて感想をお聞かせください。

木村さん:陸に特化したカニでも海がないと生きていけないという柳井さんのアカテガニの話を聞き、人間も海の恵をもらって生活しているので狭い範囲では生きていくことはできないと感じました。また、アカテガニのゾエアが沿岸部の魚の大事な餌資源になっていることを聞き、海の生態系を守ろうと思った時に、海だけに向かって何かをしているのでは足りないのではないか? 海と陸の生態系はつながっているということを考えると、海を守ろうと思ったら、同時に陸の生態系も見て、両方合わせて考えていかないといけないということを改めて感じました。

 鎌村さんの写真がすごくきれいで、海の森というのがほんとに言葉通りだなと思いました。高校生たちが一緒になってこのような活動をしていることに感心しました。また、漁業者と一緒になって、漁場を育てて持続可能な漁業を考える活動をされていることはすばらしいと思いました。

イヴォーン研究員:柳井さんと鎌村さんはいかがですか?

柳井さん:海の生態系を守る上で陸の生態系はとても大事だと思います。海と川を行き来する生きものもたくさんいて、その環境もいま非常に悪いです。鮭をはじめ、海を豊かにする生きものがたくさんいるので、森川海の連続性が非常に重要になってくるのではないかと考えています。放仔のシーンは実物を見るとものすごく感動します。しかも月齢に影響していることがとても面白く、宇宙の神秘も感じることができます。

イヴォーン研究員:私もすっかりアカテガニのファンになりました。

鎌村さん:高校生たちは部活動として体力を鍛え、また潜水技術の向上も図っています。それは何かというと、結局は安全に海と親しむためという部分があります。人として地球環境を守る認識を持って巣立っていってくれる子が多いことは、私たちにとっては非常にうれしいことです。

 私の自宅は森と海の間にあり、夏に家の庭を見るとアカテガニがザワザワと歩いています。柳井さんの発表を見て、アカテガニってこうだったんだとすごく勉強させていただきました。

能登半島の先端・珠洲市から富山湾越しに望む立山連峰(写真/豆本工房わかい)

イヴォーン研究員:最後に一般の方でも取り組める海のためにできることを教えてください。

鎌村さん:海を陸上からでなく、ぜひ中をご自分の目で見ていただきたいです。見ることで素晴らしさとか、自分たちが今後何をしていかないといけないのかということが少しでも見えるのではないかと思います。ぜひ海に入りましょう!

柳井さん:ぜひ、陸と海のつながりに感心を持っていただき、森は海に通じるなど、流域全体のことを日頃から気にかけていただければと思います。

木村さん:保全したいと思っている人は多くても、具体的に何をしたらいいのかがわからないということを、私自身も感じることがあります。ただ、その前に、まずは皆さんに海に関心を持ってもらうことが大切だと思います。都会など普段の生活の中で海をイメージすることがない人も結構多いと思います。そういう人にも海に関心を持ってもらい、鎌村さんと同じになりますが、海に入ってもらうということが大事だと思います。

 

閉会の言葉 これからの里海について一緒に考えていきましょう

 

国連大学OUIKの渡辺綱男所長

「皆さんの話から海洋性生物多様性の保全を考えていく上で、とても大事な視点をたくさんいただくことができました。能登の里山里海は世界農業遺産に認定された非常に重要な地。その能登で森と海のつながりをもっと大切にしながら、海とのよりよい関係を目指す取り組みを皆さんと進めていくことができたらすばらしいことだと思います」と、国連大学OUIKの渡辺綱男所長が述べて、セミナーは終了しました。

 

「能登の里海セミナー」は今回が2回めになります。3回目、4回目と続きますので、ぜひ次回以降もたくさんの方に参加いただき、これからの里海について皆さんと一緒に考えていくことができたらと思います。

 

【スピーカープロフィール(登壇順)】

 
イヴォーン・ユー

イヴォーン・ユー

SATOYAMAイニシアティブ国際パートナーシップ(IPSI)事務局

国連大学サステイナビリティ高等研究所いしかわ・かなざわオペレーティングユニット(UNU-IAS OUIK)リサーチ・フェロー

シンガポール出身、農学博士(東京大学)、専門は国際水産開発学。初来日の2001年以降は、宮崎県、シンガポール国家交通省などの勤務を経て、2012年から現職。日本や韓国の世界農業遺産の申請活動を支援するとともに、国連大学の「SATOYAMAイニシアティブ」と「能登の里海ムーブメント」活動にも取り込み、里山と里海の持続可能な発展や、生態系サービスと生物多様性保全を研究。2014年から「能登の里海セミナー」を企画し、里海の研究と保全活動について国内外へ発信。

 

木村 麻里子(きむら まりこ)

環境省自然環境計画課

神奈川県出身。2010年10月に環境省の自然系技官(通称「レンジャー」)として採用。同月に名古屋市で開催された生物多様性条約COP10に関わる。本省国立公園課、釧路(主に知床を担当)、奄美大島(アマミノクロウサギの保護増殖やマングース防除事業を担当)、やんばる(国立公園の新規指定調整を担当)、本省野生生物課(主にワシントン条約を担当)を経て、現在は本省自然環境計画課にて海洋保護区やサンゴ礁保全等の海洋生物多様性に係る業務を行っている。

 

柳井 清治 (やない せいじ)

石川県立大学教授

1956年広島県生まれ。北海道大学農学部卒・同修士課程修了。農学博士。北海道林業試験場流域保全科長、北海道工業大学教授を経て石川県立大学環境科学科教授。研究分野は森林学、砂防学そして渓流生態学など。流域は運命共同体という観点から、環境保全と防災の調和を目指している。2015年に白山手取川上流で発生した大規模崩壊が、流域生態系に与える影響の解明とその復元対策に取り組む。能登半島においては、水産資源に及ぼす森林の役割(魚付き林)の解明をテーマに,九十九湾のアカテガニを介した森と海の相互作用について研究を行っている。また能登半島河川に生息する絶滅危惧種である、カワヤツメの生態調査と保全・増殖をアメリカワシントン州の研究者の協力を得ながら進めている。

 
 

鎌村 実(かまむら みのる)

能登島ダイビングリゾート オーナー

潜水士・ダイビングインストラクター

1959年大阪府生まれ。1978年に始めたスクーバダイビング。1984年にはIT系企業でサラリーマンの傍ら、スクーバダイビング・インストラクター資格取得。1997年独立起業。業務の一部に潜水業を取込み、ダイバー育成に努める。2004年能登の地にダイビング専門企業設立。レジャーダイバーの教育、消防署や専門学校にてプロ潜水士育成、水中撮影などに携わりテレビ番組の誘致、各種団体や漁業協同組合などからの依頼にて海洋及び水産資源調査など担う。現在能登島にて、環境省絶滅危惧種に類される海藻ホソエガサをはじめ能登里海の動植物の情報発信に努めている。

 

セミナーの動画もご覧いただけます。

 

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