今回は、台風19号の被害が続いている中、もっとも関心の高い話題ともいえる気候変動をテーマに、地球の未来をリデザインする会と共催で、IMAGINE KANAZAWA 2030 SDGsカフェ第7回を開催しました。募集50名を上回る63名の参加があり、このテーマの関心の高さを改めて感じました。
地球の未来をリデザインする会の代表・奥圭奈子さんから、2030年の金沢をイマジンしてもらい、金沢大学河内幾帆(こうちいくほ)さんによる話題提供と、後半は金沢エコライフくらぶ代表の青海万里子さんも加わって、気候変動に対して、“市民一人ひとりは何ができるのか?”を話し合いました。
地球規模のことを、金沢で考えるのが今回のテーマ
まずは国連大学OUIK事務局長の永井から、SDGsやこのカフェの趣旨を説明し、いま金沢で何が起こっているのかを紹介。
「環境のことも、人権のことも、子供のことも、全部を包括的に、全世界で一緒に考えようというのがSDGs。これはとても革新的です」と、永井は強調しました。
続いて、地球の未来をリデザインする会・代表の奥圭奈子さんから、2030年の金沢をイマジンしてもらいました。
この会は発足してからまだわずか50日ほどですが、金沢21世紀美術館で大きなイベントを開催するなど、注目されています。
「私なんかが、前に立ってもいいのでしょうか?」と謙遜する奥さんは、金沢でご主人と一緒に宿泊施設を経営する2児の母。気候変動については、海外の学生のムーブメントなどを見聞きするうちに、“自分も何かしないといけないと思うけど、どうすればいいのか?”と、モヤモヤしていたそうです。
そのような時に、同じような思いを持っている人たちと、とにかくつながろうと立ち上げたのがこの会で、だから会には専門家は誰もいないそうです。
“SDGsも気候変動も、どこかの国で起こっていることと捉えられてしまうと本当に遠くなってしまう。自分たちのこととしてなかなか置き換えられない。置き換えられないから実際の行動に移せないのではないか?”と感じ、「あなたと地球はつながっている」をキャッチコピーに行動を起こしているそうです。
そんな奥さんも、今回の台風の影響で宿泊キャンセルが出て、この“つながり”を痛感されたと言います。
「子供が『大きくなったら消防士になりたい!』と言うんですが、この子が大きくなったら、気候が今とは大きく違っているのではないか? そんなことをすぐに考えてしまいます。未来を否応なしに見させられる存在が近くにいるということはすごく大きい。春になったらお花が咲いて、初夏になったら新緑がきれいになってと、いま子供たちと一緒に体験できる当たり前のことを、子供たちが親になった時でも体験できる金沢であって欲しいです」(奥さん)
そのために“いまどう動くか?”ということを考えて、子供と一緒に話もされているそうです。
ゴア氏から学んだ環境問題に立ち向かう術を共有
気候変動とか、温暖化とか、規模が大きく、専門性が高いこともあって、“毎日の生活にどうやって落とし込めばいいのか?”と悩む問題ではないでしょうか?
金沢大学で環境問題を教える河内幾帆さんから、その答えのヒントにもなる話題提供がありました。
河内さんは、元アメリカ副大統領・アル・ゴア氏が東京で開催した、気候変動問題について学ぶトレーニングプログラム「Climate Reality Leadership Corps Training」に参加したばかり。そこで学んだ気候変動の今を、ゴア氏の心揺さぶられるメッセージとともに、会場と共有しました。
ゴア氏といえば、気候変動の影響が見られなかった30年前から、その問題について啓発活動を行ってきた人。アカデミー賞を受賞したドキュメンタリー映画『不都合な真実』に主演し、ノーベル平和賞を受賞しています。
今回のプログラムの目的は、コミュニティで気候変動に関する啓発活動を行う上で、必要な能力を身に着けること。具体的には、気候変動に関する正しい知識と現状、世界的な取り組み、課題を学び、その情報を「社会にどうやって伝えていくのか?」という方法を教えるもの。
そのスキルを身につけた河内さんは、今回のテーマの話題提供にこの上ない方でした。
その様子をダイジェストで、この記事を読まれている皆さんとも共有したいと思います。
さて、気候変動を語るにあたって、答えないといけない3つの質問があるそうです。
1.変化が必要か?
2.変化が可能なのか?
3.その変化を起こすのか?
ということだそうです。
まずは、温室効果ガスの一番大きな発生源は化石燃料を燃やすことなどといった、気候変動のことをおさらいしました。2016年の日本でのある調査で、「気候変動は人為的なものである」という見解に懐疑的な人がまだ多いということが紹介されました。
しかし実際、過去に遡って気温とCO2濃度との関係を示す図を見ると、その間にシンクロがあるのが分かります。また、年々暑くなってきたと感じるようになり、「記録的な猛暑」というのを毎年聞くようになってきているということからも、この関係は間違いないものと思わざるを得ないでしょう。
しかも、大気温の上昇以上に深刻なのが、海水温の上昇です。大気中に集まった熱は90%が海に吸収されます。海水温が上がると何が起こるか?
日本で影響が懸念されるのは台風が発生しやすくなり、巨大化すること。
台風19号で箱根に起こったような1日の降水量が1000ミリを超えるような大豪雨が、これから頻繁に起こるようになるという可能性を示唆しました。
ということで、質問1の「変化が必要か?」の答えは、「必要だ」となります。そして、私たちが存続していくためになすべきことは、「今の段階で温度上昇を食い止めること」なのです。
温室効果ガス削減はお金がかかるという話も聞きますが、「温室効果ガスの排出は世界経済に対する最大の脅威だ」とも言われているそうです。
では、質問2の「変化が可能か?」について、河内さんからは「解決策がある」と聞いて、ちょっとホッとしました。
その手段とは、自然エネルギー(再生可能エネルギー)への転換だと言います。今のエネルギーは世界的に80%が化石燃料によって保たれていて、20%は自然エネルギーに転換しているそうです。風力発電の能力は飛躍的に向上していて、太陽光発電のコストも大きく下がってきていて、自然エネルギーで全ての電力需要をまかなうことが技術的に可能となりつつあります。
ヨーロッパでは新しく作る発電所に関してはほとんどが自然エネルギーとなり、国内の電力需要を上回る量を自然エネルギーで発電できる国もあるそうです。
しかし、未だ多くを占めるのが石炭火力発電である理由として、その補助金の多さが挙げられ、それでも、世界各国の銀行は自然エネルギーの方へ投資を回すようになりつつあり、今後は、世界的に石炭火力発電への比重は下がっていくと予測されているそうです。
一方、日本でも再生可能エネルギーへの投資は増え始めているそうです。日本は気候変動対策を原子力発電で進めていこうとしてきましたが、東日本大震災でそれが社会的に受け入れられない状況となり、石炭など化石燃料の方にスイッチしてしまいました。
火力発電は比率が高いだけでなく、さらに増やしていく可能性があるようです。そして、発展途上国に石炭火力発電所の設置を国際援助としても行っていて、その援助額は世界で2位に上るそうです。
いま石炭火力発電から手を引くとなると、今まで投資した分が無駄となり、多くの人が“気候変動は人為的なものではないのでないか?”と思っている状況で、この投資を無駄にして、自然エネルギーに転換することに、“社会的な合意が得られるかどうか?” ということが大きなネックとする考えもあるそうです。
そのためにも重要なのが「今の状況を正しく理解すること」だと、河内さんは強調します。
このように変化することは十分に可能なのですが、質問3の「その変化を起こすのか?」は、それぞれの国、そしてそれぞれの一人ひとりが、みんなで考えないといけない問題なのです(まさしく今回のSDGsカフェのテーマ)。
リーダーシッププログラムのクロージングでは、ゴア氏の言葉が会場に集まった約800人の心を一つにしたそうで、そのメッセージを紹介しましょう。
“私たちは、いまの子供達に、将来次の2つの質問のどちらかをされるでしょう。
1つ目は、「どうしてまだ間に合ったときに何もしてくれなかったの?」
2つ目は、「どうやって、あんなすごいことを成し遂げることができたの!?」
私は、世界がこれから化石燃料の使用を0にするというゴールを達成して、気候変動の悪化を我々の世代でくいとめ、彼らが2つ目の質問をしてくれることを心の底から願っています。そしてその答えとして「それは、2019年10月に東京に日本中から集まった800人が一致団結して、協力して日本社会を変える原動力になったからだ」と答えたいと心から思っています“(アル・ゴア氏の言葉より)
10年後、「学生から『どうやってCO2の削減をやったんですか?』と聞かれたい」と語る河内さんは、「そのためにいま私が出来ることをしたいと思っています」と述べました。
多くの人が危機感を抱いている今が、そのスタートとなるか
河内さんの話を受けて、ここからは地域で何ができるのかということを、金沢エコライフくらぶ代表・青海万里子さんにも加わっていただき、会場も一体となって、議論が深まりました。
1992年にブラジルで開催された地球サミットをきっかけにして、以来ずっと環境問題に関わってきた青海さんは、“気候変動の関心の波は今まで何度か来たが、日本人はすぐに熱が下がってしまい、これが大きなうねりを作るきっかけになるところまでつながっていない”と、振り返ります。
今回の台風で、その影響をリアルに感じている人は多く、これがライフスタイルを変えることができるきっかけとなるのではないかと考えているそうです。
「一人ひとりでやるだけでなく、大きなチームで取り組まないと行けないこと。いろんな動きが一つにつながっていくためにどうしたらいいのか? 皆さんからお知恵をいただきたいです」(青海さん)
「使うエネルギーを再生可能エネルギーに変えることがいちばんの手段ではないでしょうか。10年後に、『なんで何もしてくれなかったの?』と言われるより、『実はSDGsカフェというすごいカフェがあって、そこから始まったらしい』って言われたいですよね。そのためには地域の温室効果ガスの排出量をモニタリングして、みんなで下げていく必要があるのではないでしょうか?」(永井)
「金沢市では2013年度を基準年として、2020年に12%削減、2030年に28%(国は26%)削減を目指しています。現在、2016年までの数値をホームページでも公開していますが、現在は横ばいといった感じで推移しています。また、再生可能エネルギーの発電割合(金沢市ではエネルギー自給率という)は概ね8%です」(会場にいた金沢市環境政策課の担当)
さらに、地域で再生可能エネルギーによって発電した電気を買えるようになればいいということや、省エネを実践すれば確実に二酸化炭素の排出量が減らせるということを、会場にいらした環境カウンセラーの方も交えて、情報を共有していきました。
地域には専門的な知識を持った環境カウンセラーがいて、省エネに関する相談に応じてくれますから活用しない手はないという話も。
SDGsに重要な役割を果たすのが企業。その参加を促進したい
企業の活動についても話が上がり、「地元の企業と一般消費者とが一緒になってワークショップをする機会をセットして欲しい」という要望が会場から上がりました。
「SDGsはCSRの一環で“寄付します”ではなく、利益が出るからやりますという企業が入ってきてくれないと成り立ちません」(永井)
「私たちは日々、どこのメーカーから買うか、どこのお店から買うかを、その会社がどういう活動をして、どういう考え方を持っているのかを知った上で、するようにします。これは投票活動と同じ。私たちが日々投票したくなるような会社やお店が地域にたくさんあれば嬉しいし、そういう地域っていいですよね」(奥さん)
「海外では若者が行動を起こしているのに、日本では広まらないのは、“自分さえ良ければ良い”“自分一人が何かしても変わらない”とみんなが思っているから。10年後に“世界がこんなになってしまった”と嘆くのではなく、“自分は変えることができる”と思える子供たちを育てていきたい」(会場にいらした教育関係の方)
10年後、これ以上の気候変動は望まない。そのために変える
また、会場からは「社会的な合意がなされるためにはどうすればいいの? 時間がないと思いますが」という質問が出ました。
「焦らず、急がば回れで一つずつ積み上げて、賛同を得ていく動きにする、今はSNSなど、情報発信力がすごいから、昔よりは簡単にできます」(青海さん)
「気候変動に関して、いま皆さんが不安感を持っていて、何かをしたいと思っています。周りの身近な人の行動を見て波及していくから、“自分だけ省エネしてもしょうがない”と思わず、“自分の行動が他の人に影響を与えるんだ”という意識でやっていけばいい。社会の25%がやり始めると、周りもやり始めます。そこまでじっくり頑張ってやりましょう」(河内さん)
会場では、皆さんがそれぞれの立場から、10年後を見据え、今できることを考え始めたようです。そんなみなさんの想いを、付箋に書き留めていただきました。
そして、「エネルギーの話は大きすぎて個人の力は弱いように思われるかもしれませんが、変えていきましょう!」という永井の呼びかけに大きな拍手をいただき、終了しました。
さて、このSDGsカフェも回を重ねるごとに、会場と一体となって白熱した議論が交わされるようになりました。少しずつSDGsへの関心や理解が深まっていることを感じます。
金沢の2030年がどうなるのかは、一人ひとりの行動にかかっています。ぜひ、お気軽にこのカフェで一緒に考えてみませんか?