「小春日和の日曜の朝に、爽やかにパートナーシップを語り合いましょう!」と、国連大学OUIKの永井事務局長の挨拶で始まったSDGsカフェの第8回。今回のテーマは、SDGsのゴール17に据えられたパートナーシップです。
「パートナーシップって、ゴールというより、アプローチでは?」と思われるかもしれませんが、SDGsのゴールはいずれもものすごく幅広く、誰か一人の力で解決できるものではありません。
そこで必要となるのがパートナーシップであり、「それだけ重要だからこそ、17番目のゴールに位置づけられている」(永井)となります。
いろいろな人を招いて、2030年の金沢をIMAGINE(想像)してもらうこのSDGsカフェ。
今回は、前代未聞のアプローチで「金沢SDGs行動計画」を策定している金沢市企画調整課の笠間彩さんがIMAGINEします。
そして、『ソーシャルプロジェクトを成功に導く12ステップ コレクティブな協働なら解決できる! SDGs時代の複雑な社会問題』(みくに出版刊)の著者で、株式会社エンパブリック代表取締役の広石拓司さんから、いろいろアイデアをいただきながら、2030年の金沢について、会場の皆さんと一緒に考えてみました。
金沢SDGsを動かしていく主体は市民であるということ
金沢市と金沢青年会議所(JC金沢)、国連大学OUIKとが、2019年3月にIMAGINE KANAZAWA 2030を立ち上げ、現在、来年からの行動計画を市民と一緒に、まさしくパートナーシップで考えるプロセスが進行しています。
これは、金沢市ではほとんど前例のない方法であり、それを行政が行うのは難しい中で、いろいろ調整し、骨折りしている笠間さんから、パートナーシップで創る2030年の金沢を想像してもらいました。
笠間さんは大学生の時に、地域の皆さんと力を合わせてまちづくりをしたいと思いはじめ、市役所に入り、幸いにもそんな想いを実行するために力を蓄えられる部署を渡り歩いて来たそうです。
ここでまず、金沢SDGsの概要について、おさらいをしておきます。
市とJ C金沢、国連大学OUIKの3者によって、金沢SDGsの5つの方向性を導き出しています。
1. 自然、歴史、文化に立脚したまちづくりをすすめる
2. 環境への負荷を少なくし資源循環型の社会をつくる
3. 次代を担う子供たちの可能性を引き出す環境をつくる
4. 誰もが生涯にわたって学び活躍できる社会風土をつくる
5. 文化や産業に革新的イノベーションが起きる仕組みをつくる
これらをより具体化して、皆さんが実際に取り組んでいくために、「どんなことをやったらいいか?」「具体的にどんな行動をとったらいいか?」ということ(行動計画)を示さなくてはなりません。それは3者だけでなく、40人近くのステークホルダーの方に集まってもらい、「SDGsミーティング」という形で、4回にわたって練られてきました。
並行して、教育、シビックテック、気候変動危機、文化のまちづくりといったことをテーマに、自由な意見交換の場をとなる「SDGsカフェ」を実施。こちらは、今回で8回目となりました。
「フォーラムなどで、“教育”とか“環境”をテーマにすると、今までは、“教育に興味がある人”、“環境に興味がある人”だけが集まることがほとんどでした。しかし、“SDGs”とか“金沢”というワードをつけると、違う分野の人も集まってくださり、そこで『化学反応が起こる』ということをたくさん目の当たりにしています。参加者同士が自然に繋がりはじめ、横のつながりができ、私たちが仕掛けるもの以外に、新しい仕掛けを参加者が作ってくれるようになったんです」(笠間さん)
具体的な行動計画を立てるところから市民に参加してもらい、自分たちが作った目標、自分たちが作った行動計画、さらにはその行動がちゃんとできているかのチェックまで、すべてを自分事として考えることができる、「“金沢SDGsは自分たちのもの”と思えるプロセスをとっていきたい」と強調します。
金沢SDGsの市役所の担当として、笠間さんが学んだり悩んだりしていること
市役所が参画している事で信用されることもあり、また、とりあえずやってみたり、手当たり次第に伝えてみたりすることで、道が開きつつある手応えを感じる一方で、SDGsに対するアレルギー反応も感じているそうです。
SDGsというのが、「みなさんをどこか一つの方向へ持っていこうとするもの」と思われたり、同調圧力や「何かよくわからない」ことからくる恐怖感みたいなものを感じたりする人もいるのだとか。
SDGsを動かすものは、 “個々を活かせるコレクティブな協働”(後述)ですが、その概念を伝えることの難しさを痛感しているそうです。
さらに、フラットな気持ちでいろんな人の意見を聞くと、すべてに一理あることに気がつくそうで、SDGsの誰も取り残さない理念に則り、すべての意見を反映させようとすると、やならければいけないことが膨大となってしまい、「果たしてこれは実現可能なんだろうか?」ということも悩みのタネだとか。
2030年の金沢はどんな風になっているか?
金沢SDGsが描いている“5つの方向性の金沢”になっていることはもちろん、みなさんがまちを良くしたいなと思った時に、金沢SDGsから解決策を見つけられたり、その判断の拠り所になったりしてほしいと笠間さんは言います。
そして何より一番は、金沢の人全員がまちづくりを自分事と捉え、個々の力を活かして、自然に協力しあっている、そんなまちになっていることだそうです。
「2030年には、何か問題を解決したいという時に、みなさんが自然と力を合わせられるようなまちに金沢がなっている事が私の一番の望みというか、夢です」(笠間さん)
SDGsにこめられた想いをおさらいしてみる
引き続き、パートナーシップのいろいろな取り組みをされている広石さんからの話題提供がありました。実は、笠間さんの話を受けて、その悩みに対する答えも、急きょ用意して発表内容を組み直したそうです。
SDGsが2015年に国連で採択され、行政とかに勧めても、「それって国連の話ですよね?」って言われて、当初は関心が低かったそうです。それでも気がつけばビジネスとしての機運が高まり、SDGsをやりたいという人たちもたくさん出てきたと振り返ります。
「パートナーシップ」はプロセスなのかゴールなのかという議論は国連でもあったそうですが、一方で大切なのは、パートナーシップの姿自体が2015年から2030年に向けて変わっていかないといけないのではないか? という議論もあるそうです。
ミレニアム開発目標(MDGs)は途上国の問題を、世界中が協力して解決しようとするものでした。
途上国の問題は、途上国を支援すれば解決するか?――実はそうではなく、いろいろな資源を消費している、つまり先進国の人たちのライフスタイルや考え方を変えていかないといけない事があります。その上、先進国の中にも貧困問題や社会問題が起きています。
途上国、先進国という考え方が前世紀的であって、その問題を一つずつ潰していかないといけないという考え方も現実的ではなくなってきていることに気がつきました。
そこで誕生したのがSDGs。そして、途上国の貧困や環境問題などと、先進国の意識や価値観、ライフスタイルなどとを、共通のこととして橋渡しをするようなゴールが必要となり、それがSDGsのゴールなのです。
問題があるから解決しなければいけない。ソリューションは大事ではあるが・・・
企業でも顧客の困りごとを解決することが価値を生んでいます。その場合、課題が明確になっていなければなりません。
“複雑な問題”と“難しい問題”は別のもの。難しい問題は答え合わせができますが、今の社会の問題は複雑で、多様な要素が相互作用しあい、複雑な文脈が絡み合って生じているため、問題の主な原因を一つに同定できません。
今までは、問題があると一つずつ潰してきました。つまり、あくまでも前提となるのは、 “問題のない状況”なのです。
「果たして問題のない状況というのはどのようなものでしょうか? そして、一つひとつ問題を潰していくというアプローチで本当にいいのでしょうか? 一つひとつ問題を潰すより、いっそのこと、皆が幸せな世界を作っちゃった方が早いし、トータルコストが安く済むのでは?」(広石さん)
システムで起こっている動的な問題、複雑な要因で起こっているものは複雑な解決策が必要です。問題が起こった時に、誰かが何かをやってくれたら解決するというものではなく、自分たちで予防とか早期発見とか解決できるように、地域のコミュニティとか社会がレベルアップしていく事が必要なのだと、広石さんは付け加えます。
複雑な問題を解こうとしている事例紹介
一例として広石さんが取り上げたのがペットボトルについて。海外にあるような水筒(マイボトル)をリュフィルできる環境(給水スポットなど)ができていない中で、ペットボトルを我慢しろという言い方をするのは無理があり、逆に無料でリフィルできる環境ができれば、生活困窮者も安全で質の高い水が飲めるようになり、観光客にも良いし、市民の人たちにも良い――そんな問題解決の仕方。
行政は水の飲める環境を作り、それに呼応して市民も企業もちょっとずつ動き出すことで、変化が起こっている、そんな海外の事例を紹介しました。
また、パリではまちの中に森をどんどん作っているそうです。2014年から20年に、トータル100ヘクタールの屋上緑化を目指し、うち1/3は都市農業の畑にするのだとか。
まちの中に畑をたくさん作る事で、コミュニティーが生まれ、食料問題の解決、貧困対策(貧しい人がコミュニティーに参加して野菜を作る)、ヒートアイランド対策、大気の質向上、建物の温度調整にもなると考えられます。いろいろな問題を一つひとつ潰すのではなく、「都市緑化」一本勝負でそこに投資して、回りにも投資を呼びかける――その方が早いのではないか? そんな解決方法になっているのです。
コレクティブな協働が社会を変えていく
水筒のリフィル設備も都市農業の畑も、一つの取り組みで多面的な問題解決策になり得ます。そして社会システム全体が変わっていく――。これがSDGs的。
このことは単独ではできません。大切なことはみんなで協力をしていこうということ、つまりパートナーシップです。
このパートナーシップの意味も変わってきていて、かつてはよく市民協働とも言われ、計画を作って、約束を決めて、決めた通りのことを役割分担して行っていました。
しかし、解決策や計画を先に決めて動けない現代は、過去に決めたことも状況に応じてどんどんと変化させていかなければいけません。
そこでパートナーシップに求められるのが、“コレクティブ”という考え方です。なるべく違う人たちを集める、それが“コレクティブ”です。
違う人たちを一つにまとめようとするとたいてい反発が起こります。そのためには、「どんな未来ができたら良いか?」という大きな方向性のイメージだけは共有しあいながら、あとはそれぞれが勝手にやってもらうのだそうです。
「勝手にやったらバラバラになっていくのではないか?」という懸念が出てきますが、大きなイメージを共有するための対話の場をいろいろなところに設け、継続的にコミュニケーションし続け、相互評価をし、進捗を共有していくことで、ゴールを目指していけるのではないかという考えです。
欧米人は自分たちのネットワークが社会だと思っているため、社会は簡単に変えられると考えます。一方で日本人は、社会は個人と離れたところにあると思っていて、「社会を変える=国会とか役所とかを動かす=難しい」というイメージになってしまいがち。
しかし、社会を変えるというのは、「いま金沢ってこういう事が起きていて、こういう問題があります。では、あなたはどうしますか?」という風に、問いを分かち合って、一緒に問題に取り組んでいこうという人が増えていくことなのです。
「社会を変えるという事。このカフェはそういったチャレンジをしていける素敵な場だと思っています」と広石さんは話を結びました。
金沢SDGs「5つの方向性」をアクションに移す行動計画を見る
最後に残りの20分と短い時間ですが、ステークホルダー(市民)の方に関わってもらい、作られた金沢の行動計画の素案を、皆さんと共有するセッションを持ちました。
上述の5つの方向性毎に、視点(プログラム)と、さらに具体的な行動(プロジェクト)としての例を挙げてある中から、まずは、とっかかりのあるものや興味のあるものを探してもらい、「これだったら自分にもできる」ことを考え、金沢で自分がこうなったら良いなと思うことを、「他の人に問いかける」という形にして付箋に書いてもらい、共有しました。
「プログラムを回すためにはいろいろな行動が必要で、みなさんがこれを見て、こういう事ができる、これをやりたい、このために起業したい、さらに『これ一緒にやりましょうよ』と市役所に言いにきてくれる人が出てきたりしたらいいなと思っています。行動計画は今年度中に完成させますが、次年度以降もどんどん変化していくものです。みなさんが興味を持って見続けてくださるように工夫してやっていきたいと考えています」(笠間さん)
SDGsはやらなければいけないことではなく、やろうという決意
問題が複雑化して、一つだけの解決策なんてあり得なく、そこで重要となるのがパートナーシップだと紹介しました。これは言い換えると、パートナーシップによって、市民一人ひとりに活躍できる場所があり、誰もが必要とされているとなります。
SDGsは言われてやるのではなく、自分から進んでやる決意なのです。
それはどういう決意か? 話の途中で広石さんは、「貧困を終わらせることに成功する最初の世代になりうるし、地球を救うチャンスを持つ最後の世代になるかもしれないという事を自覚して、その物事に対して取り組んでいく、そういうモードに変えていく決意」だと話していました。
今回も用意した席では足りなくなるくらい、多くの方に集まっていただきました。回を重ねるごと、SDGsへの、そして2030年の金沢のまちのあり方への関心が高まっていることをひしひしと感じています。
みなさんが「自分事として、金沢のまちづくりを考えていける、そんなまちに変えていく」、今回の話が、その決意をするきっかけとなってくれればいいなと思っています。