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【開催報告】LGBTと教育ダイアログ

日時 / Date : 2019年9月8日(日)
場所 / Place : 金沢21世紀美術館 市民ギャラリーA

国連大学サステイナビリティ高等研究所いしかわ・かなざわオペレーティング・ユニット(OUIK)では、過去2年にわたり、金沢におけるLGBTの暮らしや学びの場の実態、さらにLGBTを取り巻く環境を共有し、また、日本全国にて進んでいるLGBTムーブメントからヒントや示唆を学ぶシンポジウムを開催してきました。

3年目となる今年は、「金沢レインボーウィーク2019」という9月7日~16日にて開催されたイベントウィークの一環として「LGBTと教育ダイアログ」と題し、会場を金沢21世紀美術館に移して開催しました。今までの学びを元に、LGBTの方々を含めて、“誰もがいきいきと暮らすことができる金沢を実現するためにはどうしたらいいのか?” 具体的に実践できることを、さまざまなセクターのパネリストを交え、対話しました。

 

*前回の様子はこちらをご覧ください

【開催報告】SDGsダイアローグ第13回『LGBTと教育フォーラム』第2回 in 金沢〜SDGs 「誰も置き去りにしない」から考える、地域コミュニティにできること~

LGBTとは?

Lesbian(レズビアン)・Gay(ゲイ)・Bisexual(バイセクシュアル)・Transgender(トランスジェンダー)の頭文字をとった、セクシュアル・マイノリティ(性的少数者)を総称する言葉の一つです。その他にも、好きになる人の性別(性的指向:Sexual Orientatuon)を問わない方や、自分がどの性別かという認識(性自認:Gender Identity)が曖昧な方・決めたくない方、社会的にどの性別で振る舞いたいか(性表現:Gender Expression)が出生時の体の性別と違う方など、さまざまなセクシュアル・マイノリティの方が存在します。
セクシュアル・マイノリティの人たちを指すLGBTに対し、すべての人が持つ性的指向・性自認を表す「SOGI(ソジ)」という言葉も使われるようになりました。

 

OUT IN JAPAN KANAZAWAが今回の会場

金沢21世紀美術館の厚意もあり、世界的な写真家、レスリー・キー氏が撮影したセクシュアル・マイノリティのポートレート写真2067枚を展示する「OUT IN JAPAN」写真展会場で、「LGBTと教育ダイアログ」が行われました。

 

この写真展を仕掛けてきた松中さんによると、カミングアウトをした(あるいはこれをきっかけにする)方々を国内外で撮影するのは、今回の金沢で国内20回目となりますが、参加者は他地域での開催と比べるととても少なく、北陸は同性愛を否定的に思う人の割合が日本一高いという調査結果があるなど、まだまだ北陸や金沢がカミングアウトするには厳しい環境にあります。

セッションA 「地域にできること」

マイノリティが活躍できる社会づくり

馳浩さん、萩原扶未子さん、柴田勝俊さん、松中権さんをパネリストに迎え、モデレーター・永井三岐子でセンションAが始まりました。

自分自身が「女性経営者」という経営者の中でのマイノリティだったため、その痛みを知っているという萩原さんが起業したのは30年以上前。当時は女性が名刺を出しても受け取ってもらえないことが多かったそうです。

何かの会に入ろうとしても、「女性は入れていない」とか、「女を入れるんだったらワシは辞める」といったように、あからさまな女性蔑視があったと回想します。

しかし、今となっては、その頃に拒絶していた男性らも応援してくれるようになったそうです。彼らは別に手のひらを返したというのではなく、「自身の価値観が変わっただけ」と、萩原さんは言います。

「今はまだ、女性起業家とか女性社長とか、何かにつけて女性という言葉がつきますが、これがつかなくなって、はじめて完全な当たり前となるのです。LGBTも、30年経てば当たり前になるのではないかと思っています」

チャレンジを続ければ応援してくれる人が現れ、最終的には世の中を変えていける実体験を持つ萩原さんは、そんな経験からもLGBTの方々にエールを送っています。

多様性を持って子供たちを大事にする

30年以上、学校教育に関わってきた柴田さんは、30年前と比べると教育現場は大きく変わってきていると思う反面で、変わっていないことがあると言います。それは「一人一人を大事にする。一人一人が生きる学校づくり」という教育の方向性です。

どういう風に大事にするかということは、現在では多様性を持って対応していく必要があり、教育する側の多様性も求められています。

子供たちに対する思いは変わらずとも、手の差し伸べ方がいろいろになってきていると言えます。

LGBTの理解を広める

超党派でLGBTに関する課題を考え、議員立法を目指しているという馳さんからは、それぞれが誰を愛するか、それを性別によって制限してはならないと述べ、「マイノリティ」という言葉も差別的意味を感じるために使わないそうです。

そして、LGBTのことを知らない人がほとんどという世の中で、その理解を広めるための法整備が必要なのではないかという見解を述べました。

また、2016年に文部科学省では、学校で子供たちからLGBTに関する相談を受けた場合の対応方法などを記したパンフレットを作成し、全ての小中学校に配布しているといった国の取り組みについても説明がありました。

地域社会に身近なこととして取り込んでいく

萩原さんによると、LGBTの占める割合は約7%で、これはAB型の血液型の人と同じ程度の割合です。そう考えると身近な存在であることに気がつくはず。「LGBTを多様性の中の一つという形で、社会が認識できるようになればいい」と言います。

「地域はLGBTの子供たちにどう寄り添えばいいか?」というモデレーターの永井からの質問に、松中さんは「それを自分ごとにするかにつきます」と述べ、自分の生活とか働いている中でなど、身近なこととしてLGBTを取り込んでいくことが大事だと言います。

LGBTの人は身近に普通にいて、悩み、苦しんでいる人たちもいっぱいいます。馳さんは思春期に自殺念慮を持つLGBTの子が多いことを危惧されています。

まずは知ることから始める

「一人でも多くの方がちょっとだけでもLGBTのことを知るとか学ぶとか、話を聞いてみようとかしてもらえれば、その人の周りにも広まっていくのではないでしょうか」と松中さんの言うように、「自分も何かしたい」と感じた人は、まずは知ることから行動を起こす事が重要と言えます。

当事者でもある松中さんにとっての理想は、他人に「彼氏がいる」と告白しても、別に驚かれることもなく「そうなんだ」で終わる社会だそうです。

そんな社会の実現のために、地域ができることはいろいろあり、それを具体的に、自分達と関係することとして考えていく事こそ、重要だということがわかりました。

「地域づくりと学校の中という両輪でサンドイッチし、両方で変えていくことが必要」と、永井がポイントを挙げ、セッションAは終了しました。

セッションB 「学校でできること」

LGBTを話題にしょう

前田健志さん、松岡成子さん、鈴木茂義さん、藥師美芳さんをパネリストに迎え、モデレーター・永井三岐子でセッションBが始まりました。

こちらのセッションは当事者でもある学校の先生や、子供からカミングアウトされた経験を持つ親など、学校や教育の場面でLGBTと向き合い、その経験を生かして活動されているパネリストに集まっていただきました。

先生は研修ばかりで疲弊しているなどと言った、教員の経験をお持ちのパネリストだから語ることができる、学校現場(職員室)での数々の課題を話していただきましたが、その中でLGBTはまだまだ多く語られることがないとのことです。ようやく、わずかながら教科書にLGBTのことが載るようになりましたが、でもまだ学習指導要領には出ていません。

 

LGBTに限らず、人の多様性について教える

LGBTは13人に1人といわれますが、性の多様性というのはそれに限ったことではなく、その多様性をお互いに受け入れることで、13人中13人の子供が自己肯定できる関係を築くことができるといいます。

小学校教員の鈴木さんは、「LGBTと教育をテーマに考えた時、僕自身が気をつけているのは、『LGBTを子どもたちに教えたいのか?』、『LGBTを通して子供たちに何かを教えたいのか?』の違い」だと述べます。

鈴木さんは、「LGBTを通して人々の違いについて考える」ことを教えたいと思っているそうで、「違いがあっても大丈夫だし、同じところがあっても大丈夫。あなたの違いも価値があることだし、あなたの隣にいる子の違いも価値があること。それを共有できたらいい」と言います。

勝手なイメージを押し付けない

息子さんが20歳の時、ゲイだとカミングアウトされた松岡さんは、「今まで一番辛かったことは?」と尋ねたら、「お母さんだよ」と言われたそうです。無意識のうちに、高校生だった息子さんに何度も「彼女できた?」って聞いたことがあり、その度に嘘を言わなければいけない自分が許せず、それで疲れていったそうです。「一度でもいいから、『好きな人できた?』って聞いて欲しかったと言われたそうです。

自分の中に男女のイメージが当たり前にあって、何の迷いもなくそれを聞いてしまったことで相手を深く傷つけていた・・・。「LGBTに限らず、勝手にイメージを作るのはやめようと思った」という松岡さんのように、周りが変わることで、多様性のある人たち全てが居心地良くなることはたくさんあると感じました。

カミングアウトを特別なことにしない

セッションBでは当事者や当事者に近い関係をお持ちのパネラーが集まったので、お話の端々で「カミングアウト」が話題に上がりました。

松岡さんの活動の目標の一つは、小さいうちからの健診の項目に、LGBTとか発達障害を入れることと言います。当事者を見つけ出すことが目的ではなく、保護者にその可能性を前もって知らせておくことが大事だからです。何も知らずにカミングアウトを受けて、言わなければいいことを言ってしまうことを防ぐことが目的です。

今までに、自分にカミングアウトしてくれた子が2〜3人いて、生き生きと自分らしく成長してくれているのが嬉しいと語る方。

子供たちに「素直であれ」と言っておきながら自分が一番素直でないことを悩んでカミングアウトしたというピュアな心の方。

そして、追い込まれて自殺するかカミングアウトするかの2者択一で、生きるためのSOSとしてカミングアウトを選んだという方。

会場を飾る2000人以上のカミングアウトをしたみなさんのポートレート写真に囲まれ、このような貴重な体験談を聞けたことは、参加された皆さんにとっても素晴らしい体験となったと思います。

トークセッションAで松中さんも言われていましたが、「カミングアウト」はその人の個性の表現のように、普通のこととして受け入れられることができる世の中にしていかないといけないのではないか、そのような世の中でないと持続はできないと、皆さんのお話を聞き、その思いを一層強くしました。

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