12月9日、「国連大学サステイナビリティ高等研究所 いしかわ・かなざわオペレーティング・ユニット」(OUIK)は、「LGBTと教育フォーラム実行委員会」と共催で、SDGsいしかわ・かなざわダイアローグシリーズ 第13回 『LGBTと教育フォーラム』第2回 in 金沢〜SDGs 「誰も置き去りにしない」から考える、地域コミュニティにできること~を開催しました。
今年で2回目となるこのフォーラムでは、LGBTなど性的少数者(セクシュアル・マイノリティー)をテーマに、学校現場で起こっている課題に触れながら、さまざまな立場にいる人たちが、身近でできることについて考えました。
和気あいあいとした雰囲気からスタート
フォーラムは3部構成で、2回のパネルセッションと、LGBTをテーマにした青春映画の傑作「カランコエの花」をセッションの間に上映しました。
さて、セッション1では、「SDGs視点で考える、LGBTと教育の接点」と題して、パネリストに、馳浩(衆議院議員/LGBTに関する課題を考える議員連盟 会長)、西村依子(あおぞら共同法律事務所・弁護士)、新村裕二(金沢市教育委員会・学校指導課長)、永井三岐子(OUIK 事務局長)を迎え、パネルディスカッションが行われました(敬称略)。総合司会はセッション2も含め、女装パフォーマーのブルボンヌさんが務め、軽妙なトークから終始笑いが絶えないフォーラムとなりました。
LGBTとSOGIって知っていますか?
それぞれの自己紹介の後、ブルボンヌさんからLGBTと、最近使われるようになったSOGIについて説明をしていただきました。
――LGBTは、レズビアン(lesbian)のL、ゲイ(gay)のG、バイセクシュアル(bisexual)のB、トランスジェンダー(transgender)のTの頭文字をとったもので、性的少数者の総称として使われています(注:この4つだけが性的少数者ではありません)。一方、SOGIとは、セクシュアル オリエンテーション(Sexual Orientation:性的指向)、ジェンダー アイデンティティ(Gender Identity:性自認)の頭文字。
違いはLGBTが、“人のこと”を表すのに対して、SOGIはすべての人が持っている“状態のこと”を表します。性的指向とは、自分がどんな性別の人を好きになるかという“向き”のこと。性自認とは、自分をどんな性だと感じているかという“感覚”のこと。LGBTと違い、SOGIはすべての人々が「自分はどうなのか」というテーマになるので、分かりやすく、皆さんにも共通の問題として感じてもらいやすいという良さがあります――。
LGBTとどんな風に関わっていますか?
「仕事の中でLGBTとどのような接点があるか? そしてどのようなお考えをお持ちか?」をパネラーの皆さんから発表していただきました。
金沢市教育委員会の新村さんからは、来年度より教科化される中学校の道徳教育では、体の性、心の性、好きになる性、表現する性の4つを説明し、大切なのは「誰もが自分らしく生きること」であることを考えさせるよう、生徒たちを指導していくつもりと述べられました。
弁護士の西村依子さんからは、クラスに一人や複数、そういった子がいてもおかしくない割合であり、苦しい中でも声を上げることができず集団生活を送っている実情を、この問題を学んで想像できるようになることや、このフォーラムのような場の重要性を述べられました。
国会議員の馳さんからは、「多数者の論理でルールができる、少数者だから多数者に配慮して生き方まで遠慮しなければいけない」ということへの疑問を呈され、オリンピックで真剣勝負をすることには、「相手を理解しあうために」という前提があることを紹介しました。性的少数者に対する差別が存在する問題について、超党派で「SOGIの課題を考える議員連盟」を作っており、できれば立法に入りたいと述べました。
OUIKの永井からは、SDGs のゴール5に「ジェンダーの問題を解決する」というゴールが設けられた背景や、そこにLGBTやSOGIの問題が明文化されていない事情を説明。ゴール10の「不平等を無くそう」の中で性的マイノリティーの問題が語られることが多いことや、SDGsの前文にある「私たちは誰も取り残さない旅路を始める」ことをはじめ、国連機関として、間違いなく性的マイノリティーの方を取り残さないというコンセンサスがあるということを強調しました。
動き始めているLGBTを取り巻く環境
昨年1月、人事院が国家公務員にLGBTについてのガイドラインを示し、国が動くと今度は経団連が、そのあと連合と、浸透していくが、このことが国民の心のど真ん中に、人権上きわめて重要な問題だということが伝わっていくことが必要(馳さん)。
ガイドラインができると仕方ないなと思いつつ、講演とかが開催されるようになり、現場に行って血の通った話をすれば、それが分かっていただくきっかけにもなる(ブルボンヌさん)。
先生方の意識を一つにし、それがぶれないように教員研修をしている(新村さん)。
当事者でさえ自分以外の属性のことはほとんど語れないくらい複雑。ちゃんと向きあわないとわからないテーマ。その人たちが決して否定的に扱われるべきでないという気持ちが先生ひとりひとりの中にあれば、子供たちのこれからの未来をふさぐような言葉は出てこない(ブルボンヌさん)。
福岡県弁護士会が行ったシンポジウム「LGBTと制服」は評判だった。規制されると子供たちは学校に行けなくなる(西村さん)。
*「LGBTと制服」の報告集は以下からダウンロードできます。
http://www.fben.jp/report/data/lgbt2017.pdf
性的少数者の問題はいじめに直結。それが一人ひとりのいろいろな可能性をつぶしてしまうことはもったいない(ブルボンヌさん)。
なかなか崩せない!? 年齢の高い層の意識
会場からは、「若い人は頭がやわらかいので理解してくれるが、子供たちの親の世代にどう理解させたらよいか?」という質問が出ました。
パネラーからの回答をまとめると、「価値観を変えることはすごく難しく、企業価値を高めるとか制度ができれば動くようになるけれど、心にしみるまでになるのは簡単ではない。ただし、これからは教育によって新しい価値観を若い世代に作ることができる。世代が変われば、価値観も変わる」という話が出ました。
問題を解決するにはどうすればよいと思うか?
私たち大人がそういう多様性を認める背中を子供たちに見せていくこと(永井)。
誰も取り残さないということを職員全体の共通意識として、どの子も笑顔になれるような環境づくりに取り組む(新村さん)。
より学び、より広げ、困っている人がいたら力を尽くすということに限る(西村さん)。
立法が必要だと思っている。立法事実が必要だという論戦を展開していきたい(馳さん)。
「カランコエの花」の上映、そしてセッション2へ
セッション1の後、多数の映画賞を受賞した「カランコエの花」を石川県で初めて上映しました。
この映画では、とある高校のあるクラスで行われたLGBTの授業を発端に、さまざまな人間模様が展開します。特に結論も導かない結末から、この映画を観る人はさまざまな思いを巡らせることとなる、短編ですが問いかけてくることがたくさんある秀作です。
*あらすじや予告編など、下記のサイトでぜひご覧ください。
カランコエの花 公式サイト
https://kalanchoe-no-hana.com/
セッション2は「学校と地域とLGBT 〜安心できる居場所づくりとは〜」と題して、パネリストに、松中権 (認定NPO法人グッド・エイジング・エールズ代表。金沢市出身)、星野慎二(認定NPO法人SHIP代表)、斎藤みどり(県立高校教頭)、谷口洋幸(金沢大学准教授)を迎えて、より当事者目線をお持ちの方々から、映画の感想とともにリアルな現場の声をいただきました(敬称略)。
カミングアウトによって変わっていく人生
当事者であるパネリストの皆さんからは、自らのことに気がつき、どう思ってどう行動したかという、ご自身の体験談を語ってくださいました。
金沢市出身の松中さんと、岐阜県出身のブルボンヌさんは、地元を出てから、あるいは出る直前にゲイをカミングアウトしたと言い(それだけ、人のつながりの強い地域では言いにくい雰囲気があった)、星野さんは兄弟にゲイであることを告げて受け入れてもらえなかったことを語りました。
一方、斎藤さんは約20年前に行った差別をテーマにした授業の中で、“自分が自分を差別してしまう辛さ”を伝えたくて、初めて生徒たちに自分がトランスジェンダーであることを告げたそうです。この話には後日談があり、その後、すぐに別の学校へと異動してしまい、「あの授業はあれで良かったのか?」とずっと気がかりだった斎藤さんは最近、連絡がつく生徒にアンケートをとったそうです。その一部を紹介。
「視野が大きく広がった。他者への理解が深まり、自分自身の人間力の向上にもつながると考えさせられた」、「先生の最後の授業は私の世界観を揺るがした授業でした」、「世の中において、私を含め、かなりたくさんの人が何らかの分類においてはマイノリティーなんだとたびたび考えます。このような視点を私にもたらしてくれた初めての体験があの授業でした」などなど、今なお鮮明にその時の授業で受けた衝撃を綴ってくれた回答に、そしてその後の生徒の人生に少なからず影響を与えていることに、ようやく授業をしたことの意義を感じたそうです。
当事者が声を上げにくい世の中
長年教師を続けている斎藤さんでさえも、今まで当事者である生徒に出会ったことはないと言います。
横浜で居場所づくりや学校とのネットワークづくりをしている星野さんは、性の多様性を肯定することを目的とした「“好き”にはいろんなカタチがある。」というポスターを教育委員会と一緒に作り、学校に配布しましたが、最初の頃は「カランコエの花」と同じような犯人探しとなることを恐れられ、貼ってもらえなかったと語りました。
パネリストの皆さんが思春期を迎えた頃と現在をくらべると、隔世の念があると言います。しかし、LGBTなど、言葉や知識としては普及してきていますが、当事者がそれを気軽に口にできるまでには至っていない現実があります。
地方ならではの問題も
「金沢だとカミングアウトしている人がほとんどいないところを見ると、東京との差も感じます」と松中さんが言われるように、都会と地方の違いも大きな問題です。
地方だとカミングアウトしにくいというのがあるとすれば、当事者たちがこぞって都会に行ってしまい、「優秀な人材を流出してしまうことになるのでは?」とブルボンヌさんは指摘します。これはSDGsのゴール11「住み続けられる街づくりを」とも相反すること。
日本学術会議でLGBTの政策提言をされている谷口さんからは、大学の講義でLGBTのことを話し、学生がそれを親に話すと変な顔をされることがあるという話が出ました。「当事者であれ非当事者であれ、地域で過ごしていくには困難もありますが、それでも柔軟になってきているのではないかと期待はあります」(谷口さん)
理解をしてもらえない世代や人間への啓発
「みんな都会に行ってしまうから、本物のLGBTに会う機会がないのも問題」(斎藤さん)。
「おじさんたちをどうするかという教育プログラムを作った方がいいかもしれない。それじゃ来てくれなければ、うっかりLGBTを学んじゃうみたいなことをやる、行ったらLGBTを知っちゃうみたいな教育プログラム。地方では必要なのかもしれません。百万石まつりにうっかりLGBTパレードが混ざっているとか」(松中さん)。
「大学教育でもうっかり学ばされることはすごく重要だと思っています。LGBTの講演でなくていろいろな講演の中でLGBTに関連することを少しずつ盛り込んでいくというのはすごく重要な視点だと思います」(谷口さん)
「学校の先生には、この話題をいきなりではなく、小出しにしてほしいとお願いしています」(星野さん)
全ての人にとって居心地の良い社会へ
「学校の中で一人でも理解者を作れば、そこから少しずつ広がっていくことを実感している。そして孤立させずに正しい情報を伝えていくことが大事」(星野さん)、「大変だったけど、身にしみてわかったことは、世の中には本当に助けてくれる人たちもいるんだなということ。生まれ変わってもこの人生をもう一回歩んでもいいなと思えるようになった」(斎藤さん)、「北陸で過ごしている当事者の方が嫌だなと思って、東京や大阪に出ていく数が減るように、何かしらお手伝いしたい。そして、戻ってもいいかもってなる場所にもなったらいいなと思います」(松中さん)と、実体験に基づく力強いメッセージをいただきました。
「やっぱりね、オカマ野郎気持ち悪い!って人だらけと、いろんな人にやさしい人だらけの世の中だったら、私は後者の方がいい世の中だと思うし、生み出されるものも多様な楽しいものが作られると思います。それが本当の「生産性」につながるのではないでしょうか?そういう意味でも、SOGIという考え方、特殊な一部の人ではなく、皆がそれぞれに持っている属性だという風に考えていただきたいです」とブルボンヌさんがフォーラムを締めくくりました。
登壇者・関係者も含めて104名と、たくさんの方にご参加いただき、改めてこのテーマへの関心の高さを感じました。
誰も取り残さないためには、すべての人のことを知ることから始まります。そのためには世界観をより広く持つこと。そして、理解できないものは排除するのではなく、「それもいいんじゃないの」と肯定できるようになることが重要だということ。このフォーラムに参加した皆さんはそれぞれの立場から、そのことを感じていただけたのではないかと思います。