2017年11月23日、地方の教育現場におけるLGBTの問題を理解し、SDGsの「包摂性」という観点から考えるフォーラムを、「LGBTと教育フォーラム実行委員会」とともに開催しました。大都市圏と違い、LGBTをはじめとする性的少数者(セクシュアル・マイノリティ)がカミングアウトしにくい地方では、課題が著在化しにくく、特に教育現場での理解、配慮が当事者にとって必要であるとともに、周りの 理解促進につながるとされています。
冒頭、OUIK永井事務局長より、SDGsの説明と地域からSDGsをすすめるための社会的対話としてこのフォーラムを位置づけている旨の説明があり、続いて本フォーラム実行委員会を代表して松中権氏からLGBTに関する説明がありました。
第1セッションの「教師という立場から考える、子どもたちが求めるもの」では、谷口洋幸氏(高岡法科大学法学部教授)がモデレータを務め、セッション冒頭 LGBTの子ども達の置かれている現状を、数値なども含め報告しました。続いて、自身もゲイであることをオープンにしている小学校教諭の鈴木茂義氏は、自身がカミングアウトした際の子ども達の素直な反応、保護者からの肯定的な意見、LGBT教育を促進してほしい、中には「子どもをそういう目でみていたのか」という意見もあったことを紹介しました。また、子どもは自ら学び適応していく力があり、LGBTの子どもへの個別配慮に加えて、彼らを受け入れる集団を育てることの大切さを指摘しました。洞庭澄子氏(石川県立二水高校)は、高校でLGBTへの理解を促進する活動を通じた自身の経験を話されました。10数年前に始めた当初は、高校でLGBT教育を行うことに対して否定的な上層部の反応があった一方で、高校生からは自分に多様性を尊重する視点が欠けていたことが学べた、後に大学生活でLGBTの友達を自然に受け入れることが出来たと同窓会で感謝された、などの反応があったことを紹介しました。高校生に、性感染症や性の自己決定などの啓発活動を行なっている森田一矢氏(金沢大学医学部生。IFMSA-Japan・SCORA)からは性に関する正しい知識を普及する重要性と、相談できる第3の相手として高校生にとっての大学生団体の存在意義を説明しました。
議論では、子どもたちへのLGBT教育は、発達段階に合わせたものが望ましい、LGBTの子どもたちへの配慮に関する課題意識は現場レベルでは認識されているものの、教員が正しい知識を学べるしくみが必要とされていること、さらに地域まで目を向けると、学校と保護者との関係作りが大切になるとの意見もありました。
第2セッション「2020年を見据えた、スポーツ・文化を通した教育のあり方」では、スポーツと文化を通してLGBTの情報発信や理解促進を進めることが議論されました。馳浩氏(参議院議員/LGBTに関する課題を考える議員連盟 会長)からは、オリンピックやパラリンピックにおけるフェアプレイの精神がSDGsの包摂性に通じること、LGBT法という名称では当事者の問題と捉えられるので、SOGI法(Sexual Orientation and Gender Identity)と名称を変更したらよいとの指摘がありました。続いて、LGBTを題材にエンターテイメントサイトやる気あり美を運営する太田尚樹氏、かずえちゃん名でYouTuberとして活躍する藤原和士氏がそれぞれより多くの人に向けてLGBTの話題を発信する活動を紹介しました。若い世代が気軽に楽しむことのできるコンテンツをネット上で提供することで、これまでの普及啓発活動とは違ったアプローチで社会に変革を起こしたいと思いを語りました。杉山文野氏 (東京レインボープライド代表、元フェンシング日本女子代表)がモデレータを務めました。
総括セッションでは、「地域におけるSDGs x LGBT ―市民の学びの場づくりとはー」として、先の2つのセッションで指摘のあった点をどのように北陸、金沢にあったアプローチで解決できるかを多様な立場から論じました。
岩本健良氏(金沢大学准教授)の話題提供では、調査などから北陸は全国的に見てもLGBTに対して閉鎖的な地域であること、しかし大学などの証明書の性別記入欄の撤廃、教員採用試験におけるLGBTを排除するような質問事項の撤廃など、少しずつ制度的な変化が現れつつあることが報告されました。河上伸之輔 (金沢青年会議所 2018年室長)からは、JC金沢としてSDGsにコミットし、金沢工業大学、JICA北陸、国連大学とSDGsビジネスを推進していることを紹介しました。LGBTについても、JC金沢としても、自身の企業活動においても前向きに取り組んで行きたいと語りました。松中権氏 (認定NPO法人グッド・エイジング・エールズ)は自身の体験を語り、主催するNPOによるLGBTへの理解促進のための啓発活動などについて紹介をしました。議論では、様々な方々の活動の広がりによって、理解は確実に広がっていること、教育現場ではLGBT教育と配慮へのニーズが高まっていること、など社会的関心は高まっているものの、制度とのギャップがあることが指摘されました。このギャップを埋めるためには、LGBTについてオープンに語れ、集える「場」があるとさらに理解とネットワークが深まると指摘がありました。これを受けて河上氏からは、そういうような場作りへの具体的な協力が表明されました。
会場からは、「知る、学ぶだけでは十分なアプローチではないのではないか、もっとアクティブに働きかけるべきでは」という指摘や、「LGBT問題の解決がグローバル課題とどのようにリンクするのか」、等の質問がありました。前者の質問については「LGBTの当事者が傷つかない形でアプローチすることが大切である」、後者に対しては、「LGBTの方に配慮できる地域は多様性を認める地域である。多様性を受け入れる能力はグローバルな価値の創出といえるのではないか」とのコメントがありました。定員を超える104名の方がフォーラムに参加しました。
「OUT IN JAPAN」と「CLOSET IN HOKURIKU」というLGBT当事者のポートレート等の写真展も兼ねたネットワーキングレセプションでは40名あまりの参加者が情報交換や活動紹介を行いました。