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【開催報告】公開セミナー SDGsの達成に向けた地域社会のエンパワーメント

日時 / Date : 2023/11/11
場所 / Place : Shiinoki Cultural Complex
エンパワーメント:持っている力を最大限に引き出せる環境を与えること

持続可能な開発目標(SDGs)を達成するために、世界中で必要とされている根本的な変革を促すことに、地方での取り組みは大きな可能性を秘めているといわれます。また、異なる分野に携わる人々を結びつけて目標に向かう点でも、地方での取り組みは重要な役割を果たしています。

このセミナーでは、国連大学サステイナビリティ高等研究所の3名の評議員をゲストスピーカーに、国連大学OUIKのフアン研究員からの発表と合わせ、さまざまな地域で実施された取り組みから、どのように地域社会をエンパワーメントして、知識や行動を高めていったのか、そのアプローチについて発表を行いました。

 

主催者を代表して国連大学サステイナビリティ高等研究所の山口しのぶ所長が挨拶

山口所長は2つの重要なポイントを挙げました。1つは、2030年に達成すべき持続可能な開発目標のゴール達成率の現状について、国連が発表した『持続可能な開発レポート2023年版』や、ニューヨークで行われた「SDGsサミット」でのグテーレス事務総長の発言などを挙げ、現状の達成率の低さを伝えました。

「SDGsのアクションを実行していくための唯一の方法は、そのアクションをローカライズすることだと考えています」と述べて、世界各地でのローカルの取り組みを話すこのセミナーはとてもタイムリーなものだと話しました。

2番目のポイントとして挙げたのが、若い人が関わり、それから深い関係を持ってもらうことが重要だということで、「それがあってこそ世界中でアクションを推進していける」という、グテーレス事務総長のコメントを紹介しました。

 

ストックホルム環境研究所アフリカセンター・センター長のフィリップ・オサノ氏は、
ケニアのマサイ族の人たちが、観光から生計を立てるプログラムについて紹介

アフリカは生物多様性にとても富み、特に大型の哺乳類はたくさんの種類がいます。アフリカにしか生息していないものも多く、国立公園を作って保護していますが、広さが十分ではなく、そこから外に出て人と交差したりして、野生動物の数は現象の一途です。これはSDGsのゴール15番目の野生生物の保護に関わる課題です。

一方、野生動物の近くで暮らしているマサイ族は経済的に恵まれていない人も多く、SDGsのゴール1番目の貧困の撲滅に関わる課題があります。

国立公園の外に出たライオンが家畜や人を襲うことがあり、そのためにマサイ族の人たちはフェンスを作っています。我々はマサイ族の人たちに幾らかのお金を払い、フェンスを作らないようにして動物が自由に行き来できるようにするプログラムを実行しています。これによって恩恵を受けている世帯とそうではない世帯の調査も実施して、このことが暮らしにどのような影響を与えているかを研究しています。

また、このエリアに住んでいる人々にとって、野生動物がいるということを利用して得ている観光の収入が貧困をなくすことに、非常に重要となっていることがわかりました。このプログラムはSDGsのゴール1番目に関わることですが、始めて以来、関係する人々の公平性(イクオリティー)が増してきましたので、ゴール10番目にも貢献しています。

──以上、講演の概要です

 

イェール大学マクミラン国際地域学センター・副所長のメリッサ・ゴッダール氏は、
SDGsの目標達成における大学の役割について紹介

SDGsはグローバルで使えるプラットホームで、本当に素晴らしいのですが、文化も考え方も自分たちの果たしている役割も違う中で、どのように共有して物事を進めていくかが課題です。

共通の目標を掲げて協力し合いながら進めていくために、大学の存在が大切になってきます。その理由は次の6つ。

①知識に集中して活動している。②いろいろな考え方におけるリーダーを何人も輩出して抱えている。③対話することが仕事であり、問題を対話で解決するアプローチを考えられる。④大学のキャンパスや都市の中で、どのようなことができるかを実証して見せていくことができる。⑤コミュニティーに対して、例えば健康や学校教育など、専門分野からサポートしていける組織としても活動している。⑥次の時代のリーダーを輩出する仕事をしている。

大学を通じてSDGsをローカライズしていく中で、イェール大学で始めたプロジェクトには3つの目標があり、1番目はSDGsを利用して、さまざまな分野の人々を一緒に協業させること。2番目は私たちの研究活動が、いかにグローバルでの優先順位の高い問題に関連しているのかを、世の中に示すこと。3番目は大学の役割の大切さを多くの人々に認識してもらうことです。

イェール大学の先生たちがSDGsに関して、どのようなリサーチを行っているかを学生が調査した結果、「健康」「平和」「教育」という強い分野があることがわかりました。その後、ペンシルベニア大学でも同様の調査を、今度はAIを用いて行い、イエール大学と似たような結果となりました。調査にAIを使うことで他の大学でも調査が可能となり、大きなデータベースを作ることができました。この調査から、研究結果とSDGsを繋げることで、さまざまなゴールにおけるギャップ(乖離/進捗状況の低さ)を見つけることができました。

2024年9月に「The Summit of the Future in 2024」が行われる予定で、ここではゴールを達成するためには何をするのか、達成された後にはどうしていくかという話がされます。そこでは、知識を共有したり、ディスカッションを行ったりしていく中で、国連大学をはじめ、大学が大きな役割を果たしていけるだろうと思っています。

──以上、講演の概要です

 

メットライフアセットマネジメント株式会社・代表取締役の小島三津雄氏は、
サステイナビリティとビジネスについて紹介

日本政府も、ようやく国債でグリーントランジッションボンド(GX移行債)を出すことになり、ビジネス界では注目を集めています。環境にいいことにお金を使わなければいけないグリーンボンドの歴史は浅く、始まりは2008年といわれています。その頃は環境問題だけでしたが、環境のEに、社会問題(ソーシャル)のS、企業(ガバナンス)のGが入ったESGという言葉が2015年に出てきました。2015年はCOP21(パリ協定)があった年でもあります。

ここからサステイナブル・ファイナンスも多様的となり、資金的には問題ない世界的な企業も、グリーンボンドを発行すれば世の中に認められるということがわかって、急速に広がっていきました。

トランジションとは移行を意味します。例えば炭鉱の町を想像します。時代は石炭から、海上風力や地熱発電などの代替エネルギーで電気を作るという大きな流れがありますが、一方で炭鉱の町には人が住み、学校もあるし、文化もあります。トランジションというのはその両方をしっかりやっていこうとするもので、これはSDGsの誰も取り残さないという理念と合致します。また、トランジッションの考え方は、地域を大切にするという、日本人がもともと持っている考え方にも合っていると思います。

──以上、講演の一部を抜粋しました

 

国連大学OUIK研究員のフアン・パストール・イヴァールス博士は、
SDGsをローカライズして都市の自然を通じてコミュニティーをエンパワーしようというテーマで発表

国連大学OUIKは2019年に持続可能な都市自然プロジェクト(SUNプロジェクト)を創設し、金沢の豊かな都市自然を世界に対してプロモートしていくと同時に、気候変動や生物多様性の損失などの問題に対応しています。

金沢の都市自然というのはさまざまな強みを持ち、そのことから、このたび国連環境計画(UNEP)が認定する「都市生態系再生モデル都市」に国内で唯一選ばれました。250もの応募の中から、世代間環境回復プロジェクトへ参画する19の都市が選ばれ、金沢市は選定都市の中でも、自然を基盤とした解決策(Nature-based solutions)の優れた実績を持つ11のロールモデル都市の一つとして選ばれました。このプロジェクトは2023年から2025年まで3年間かけて行われます。

このように非常に高い価値を持つ金沢の都市の自然ですが、一方で気候変動や過疎化、高齢化などといった問題を抱えています。都市自然の生物多様性に重要な役割を持つ、伝統的な日本庭園の所有者が高齢となり、手入れができなくなって毎年いくつもの庭園が壊されています。こういう状況を見て、私たちはSDGsをローカライズし、ローカルのコミュニティーにエンパワーしていこうと考えました。

具体的にはSDGsのゴール13番目の気候変動、SDGsの14と15の生物多様性、SDGsの3の健康とウェルビーイング、SDGsの4の質の高い教育に関してローカライズを行いました。

「共有、そして繋げること」を最初に、「提供して評価するということ」、「計画してシミュレーションすること」と、3つの段階によって、都市自然を通じてローカルのコミュニティーをエンパワーしていきました。

──以上、講演の一部を抜粋しました

発表の後、参加者からのQ&Aセッションでも活発な意見交換がなされ、ほぼ満席となった会場は大いにもり上がり、セミナーは終了しました。

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