地震、津波、洪水など、金沢市ではどのような災害の発生が想定されるか? そして、その災害に向けた準備・対策は万全か?
災害が発生すると、社会的弱者、特に配慮・支援が必要な人々に被害が集中するというデータがあり、さらに避難所などでの性暴力・DVといった表に出にくい問題も増加します。
今回のSDGsカフェでは、金沢市で起こりうる災害のリスクや、金沢ではまだまだ準備不足な「インクルーシブ防災」への理解を深めました。
防災に関する課題を考えてみる
9月は防災月間でもあり、久しぶりの開催で20回目となるSDGsカフェは、インクルーシブ防災をテーマにオンラインで開催。
防災士でほくりくアイドル部キャプテンの松井祐香里(まついゆかり)さん、石川県の災害リスクや防災に詳しい金沢大学准教授の青木賢人(あおきたつと)さん、国際防災の最前線にも関わっていらっしゃる東北大学助教の原裕太(はらゆうた)さんの3名を、ゲストスピーカーに迎えました。
まずは、松井さんに防災士の視点から、インクルーシブ防災をイマジンしてもらいました。松井さんは、コロナ禍でライブの仕事が激減し、何か地域に貢献できることでアクションを起こしたいと考え、昨年、防災士の資格を取得したそうです。
8月の大雨で被災した能美市で、災害ボランティア活動にも参加した松井さんからは、防災が抱える課題として感じていることを3つ挙げてくれました。
1つ目は女性の防災士が少ないということ。
2つ目は、災害現場をニュースで見ても、どうしても他人事になってしまうこと。数時間ボランティアを行うことだけで、その苦労を痛感することができるといいます。
3つ目はとにかく人手が足りないこと。そして、何が必要なのかという声が届きにくいこと。
「私はきっと大丈夫というのではダメで、障がいを持った人や妊婦さんなど、若者から高齢者まで、もっと幅広い人が防災に興味を持ったり、防災士になったりすることで、いろいろな視点からの課題が見つかるのではないかと思います」と述べました。
金沢市の災害リスクと対策・課題について、インクルーシブ防災の観点から考える
青木先生からは金沢市の災害のリスク、どんな準備が必要か、どんな課題があるのかを教えてもらいました。
今、金沢で大きな災害のリスクがあると考えられているのが、地震と水害の2つだといいます。
金沢のまちの真下には「森本富樫断層帯」という活断層が存在していて、震度6強、マグニチュードは阪神淡路大震災クラスの7.2程度の大地震の発生が想定されています。今後30年間の地震発生確率8%というのは、全国のおもな活断層約200を調査した中で、トップ10に入るもの。「金沢は大きな地震が発生することが切迫している状態」だと青木さんは言います。
金沢の地震で想定される短期避難者は19万人。計算上では市内の避難所に46万人が収容できることになっていますが、国際基準から程遠い基準によって算出されたもので、国際的な「スフィア基準」で計算し直すと、収容人数は13万5000人程度となり、収容しきれない人が出てくるそうです。
インクルーシブ防災の計画が十分立てられていない現状の金沢で地震が起こると、おそらく多くの社会的に立場の弱い人が避難所の中で苦労するか、避難所に入れない可能性があるといい、これを改善するには、インクルーシブ防災の観点を持って避難所の運営計画を事前にしっかり作っておく必要があると、青木さんは強調します。
金沢市の水害に関しても、かなり厳しい想定がされているということを知っておいてほしいと言い、1000年に一度の水害が毎年のようにどこかで起こっている中、「次は金沢かもしれないという覚悟はぜひ持っておいてほしい」と述べました。
現場で起こったさまざまな問題を知っておくことが必要
インクルーシブ防災のスペシャリストの原さんからは、インクルーシブ防災の概念や、避難所での課題の紹介、そして金沢で進めていく上でのアドバイスをしてくれました。
多様になると、自分とは違う人がいて、その人が求めていることや抱えている問題に気づきにくくなります。一定の視点の人しか集まらない中でいろいろなことを決めていくと、配慮しないといけなかったことが抜け落ちて、さまざまな問題が起こってきます。
現場ではどのような課題が顕在化したのでしょうか? 熊本地震で被災した人たちの経験をまとめた『男女共同参画の視点に立った防災 ポイントBOOK』(熊本市男女共同参画センターはあもにい発行)には、女性や男性、若者、高齢者、障がい者、外国人、性的少数者など、熊本地震での避難所などで顕在化したいろいろな問題について書かれています。その中から事例をいくつか紹介しました。
マイノリティー(少数派)といっても、石川県内では、高齢者は30%、14歳未満が12%、障がい者が6%の割合でいて、そして日本おける推定ではLGBTQ +の方も3〜10%を占めるといわれ、さらに妊婦や外国人もと足していけば、決して少数とは言えない数字となります。
「私たちは多様で、いろいろな属性があり、異なる課題を持っている人が大勢います。まずそれを知ることがすごく大事です。そしてあらゆる人が取り残されない対策をどうしたらいいかを考えることがインクルーシブ防災の重要なところ」と原さんは言います。
2015年に仙台市で開催された「第3回国連防災世界会議」で採択された「仙台防災枠組2015-2030」の中の指標が、SDGsの貧困やまちづくりや気候変動の指標にも組み込まれています。「このようなことを通じて、SDGsの理念でもある誰一人取り残さない社会を目指しています」と述べ、話を締めくくりました。
質問の多さから関心の高さを知る
ディスカションセッションでは、質疑応答を行い、「今、金沢で災害が起こったらどうなるか?」、「必要なサポートを早く届けられるようにICTを使ったシステムはできないのか?」など、たくさんの質問が出て、参加してくださったみなさんの関心の高さを実感しました。
最後に、「たくさんの人々を巻き込んで、周りの人々に防災や災害を身近に、そして危機感を持ってもらえるようにしていきたい」(松井さん)、「多様な人に避難所運営計画に関わっていただけたら嬉しい」(青木さん)、「学生時代に過ごした金沢がより良いまちになるように、何か貢献できたら嬉しい」(原さん)と、今後の防災への思いを語ってもらいました。
「どんな人がいて、どんな悩みや苦しみがあるのかをイメージして、その上で知恵や工夫などを持ち寄って、みんなが主体となった防災を作れればいいなと思います」と、進行役の国連大学IAS OUIKの富田が述べ、今回のSDGsカフェは終了しました。