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【開催報告】生物多様性の日記念イベント「みんなで発見!里海の生き物と豊かさ in NOTO」

国際的な枠組み「生物多様性条約」が1992年5月22日に採択されたことを記念して、毎年5月22日は国連が定めた「国際生物多様性の日」です。

今年の生物多様性の日は、能登地域の高校生を対象に里海の豊かさや、私たちの暮らしとのつながりを体感しながら、生物多様性と里海の未来について考えるイベントを開催しました。今回は石川県立鹿西高等学校、石川県立能登高等学校、石川県立七尾高等学校、日本航空高等学校石川より、30名の生徒がこのイベントに参加しました。

「のと海洋ふれあいセンター」で開催されたこのイベントは「講義」、「フィールド観察会」、「ワークショップ」の3部で構成しました。

森と海をつなぐアカテガニ

石川県立大学特任教授 柳井清治氏

まずは、石川県立大学環境科学科の柳井清治先生から、生物多様性や能登の里山里海の生き物について、講義していただきました。

里海の生物多様性を守るには森と川と海のつながりに配慮した生態系の保全が必要とされています。今回の講義では石川県にも生息する、里山と里海を行き来する、ユニークな生活史をもつアカテガニについて解説してくださいました。

 

「アカテガニは、子どもの頃(ゾエア)は海で生活し、成長すると森に帰ってくる、森と海のつながりを示す重要な生物だと考えています」と柳井先生。

8月の満月の大潮の夜を中心に、アカテガニのメスは幼生(ゾエア)を海に放ちます(放仔)。そして、放った仔を食べに、ボラやアジ、メジナなど、魚たちもたくさん集まってくるそうで、森からやってきたカニが海の生物に大きく影響を与えていることがわかります。

県内の生物多様性の取り組みを紹介する柳井氏

海で成長したアカテガニの仔(メガロッパ)は9〜10月の満月の日を中心に、陸へと戻ってきます。そして、森へ入るためには川沿いに植物があることが重要であり、そのような環境が少なくなってきていることが、能登半島での生息数を大きく減らしている要因と考えられているそうです。

「アカテガニが生息できる環境は、多くの生物が生息でき、健全な里山・里海の指標になります」と付け加えました。

 

能登の豊かな海藻食文化

のと海洋ふれあいセンター 東出幸真氏

のと海洋ふれあいセンターの東出幸真さんからは、能登半島の海藻の紹介がありました。

海草や海藻の生育している場所を「藻場」(もば)と呼び、その機能として、魚の産卵場所、生き物の餌、海の浄化、波を穏やかにする自然の防波堤の役割などがあります。この藻場ですが、北海道、青森に次いで石川県は全国3位の面積を誇り、海域別では能登半島が全国の7.3%を占め、全国1位だそうです。

利用される海藻には、そのまま食べられる海苔や昆布、ワカメ、ヒジキなどと、テングサのように成分を抽出して利用されるものがあります。石川県では400種類ほどの海藻が記録されていて、その中で実際に食べられている海藻は30種類くらいだそうです。能登では天然物が主ですが、養殖技術が向上し、現在は国内の約9割の海藻が養殖になっているのだとか。そして、食文化として息づいてきた地元で細々と採られているものが食べられなくなってきているといいます。
「水温の上昇などの環境変化によって、この先、海藻の種類が変化する可能性があります」と東出さん。

真剣に聞く生徒たち

 

九十九湾の磯で見つかる動物とその生態

のと海洋ふれあいセンター 荒川裕亮氏

のと海洋ふれあいセンターの荒川裕亮さんからは、センターがある九十九湾(つくもわん)で見られる底生動物(ベントス)について紹介がありました。魚やクラゲなどの遊泳動物(ネクトン)と違い、貝などの底生動物は移動能力がないので環境に依存しやすく、そのためユニークな構造のものが多いのが魅力だといいます。

 

 

「底生動物は環境との関係性が高い生き物で、気候変動や工事で環境が変わると、影響を受けやすいという側面もあります。今日、調査の方法を学んでいただき、家の近くでも観察を続けてください」と荒川さん。

いよいよ、浜辺へ移動してフィールド観察会

5つの班に分かれて海に入り、生き物の観察や採取へ。能登に住む高校生らなので、海には慣れているのかと思ったら、見慣れてはいるものの、海に入ることは意外と少ないみたいで、最初は恐る恐る足を入れている人が多かったです。

目を凝らして生き物を探す

イソギンチャクの感触を楽しむ

ゲットしました!

水の感触って気持ちいい!

生き物探索中!

それでも、しばらく経つとだいぶ慣れてきて、アメフラシを捕まえてニオイを嗅いだり、イソギンチャクを触ってその感触に興奮したりと、さまざまな感覚を使い、生き物観察を楽しんでいました。

 

午後のワークショップがはじまりました

班ごとで生き物観察アプリ「Biome(バイオーム)」や「Googleレンズ」、さらには図鑑も使い、先ほど採集した生物の種名調べを行い、班ごとに発表してもらいました。

アプリを使って生物の種名調べ

ホンヤドカリ、ケブカヒメヨコバサミ、クモヒトデ、ウミニナ、ムラサキウニ、アメフラシなどが多くの班で採取されていました。

専門家が答え合わせをし、いずれの班もかなりの正解率で、なかには専門家も即答できない難問もありました。間違いやすいものや見分け方のポイントなどのレクチャーを受け、ちょっとした違いで種類が違うことを体験してもらい、観察眼が養われたのではないでしょうか。

生物の種名調べで専門家の答え合わせ

 

里海の生物多様性を守るために、何ができるか考えてみよう

いろいろな生き物を自分たちで発見して、調べてみて、より里海のことに詳しくなったところで、班ごとに、里海の魅力と課題、そして魅力ある里海を次の世代に残すためには何ができるかについて、みんなで話し合い、それを発表してもらいました。

魅力としては、魚がおいしいことや種類が多いこと、海藻も多いこと、海と陸の距離が近く、またつながっていることなど、身近に里海の魅力を実感しているみなさんだからこその意見が多く出ていました。

魅力は? 課題は? みんなで考え中

 

一方で課題は、海岸のゴミや漁業の衰退、少子高齢化、海に来る人の減少、磯焼けなど、実際に見て感じているだけに深刻な問題として捉えていることも、各班の発表からひしひしと伝わってきた。

解決策については、ゴミ拾いのボランティアに参加する、SNSなどを使って里海や水産業の魅力を発信するなど、すぐにできることもあれば、プラスチックの使用量を削減するために間接税をかける、持続可能な発電方法に変える、海岸を掃除してくれるお掃除ロボットを置く、自然を第一に考えた開発を進める、海水で溶けるプラスティックを開発するなど、将来的にはぜひ実現してほしいアイデアもたくさん出ました。

「里海の生物多様性を守るために、何ができるか」を発表

これから先、里海の魅力も問題もそして解決するためにできることも、身近なこととして考えている高校生が一人でも増えてくれることはもちろん、そのことを発信していく機会も増えることが大切です。今回のイベントがそんなきっかけになれたらと考えています。

 

国連大学IAS OUIK所長 渡辺綱男

最後に国連大学OUIK所長の渡辺綱男は「これからの世界が進もうとしているのは自然を守るだけでなく、より良い状態へ戻していく“ネイチャー・ポジティブ”という考え方です。すべての命と共にある未来を作っていくために、これから何ができるのかをみなさんが考えて提案して、一つ一つ実現していくことが、必ず大きな力になると思います。今日の経験を生かして、これからも考えていっていただければ嬉しいです」と述べて、イベントは無事終了しました。

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