金沢市中心部、長町武家屋敷跡には、大野庄用水の水を取り入れた池泉回遊式の庭園がいくつかあります。10月9日、「SDGsいしかわ・かなざわダイアローグシリーズ第9回」と位置づけ、そのひとつで明治時代中期に作庭された千田家庭園(金沢市文化財・非公開)の掃除を行いました。
これは用水の水とともに流れ込み、堆積した泥を定期的にさらうもので、以前は庭園の所有者が業者に依頼して行っていたもの。所有者が自身ではできない大変な重労働です。
美大生と一緒に庭園の魅力を掘り下げる
この作業は金沢美大の鍔(つば)教授が演習の一環として、毎年この時期に行っているもの。設計士や建築士を目指す学生たちにとっては、貴重な日本庭園に入り、庭の広さや高低差など、空間のスケール感を体感できるめったにない機会で、この経験をこれから住宅設計する際の参考にしてもらうことを目的としています。
この日は環境デザイン専攻の大学2年生約20⼈と、金沢市役所の担当者、そして国連大学IAS-OUIKからは、フアン・パストール・イヴァールス(Juan Pastor Ivars)研究員が参加しました。
現在、フアン研究員が卯辰山山麓の心蓮社で実施している「都市の生態系サービスを将来へつなぐ庭園クリーニングワークショップ」も、ここでの体験がきっかけでした。体験したフアン研究員が、管理が行き届いていない庭園をコモンズとして管理できないか、それを広げていくことができないかと考えてのことでした。
日本庭園がもたらしてくれる恩恵
日本庭園は、観る者の心を癒すだけでなく、生物多様性や、伝統的・文化的価値も提供してくれます。さらに、グリーンインフラとしての役割も期待でき、豊かで暮らしやすい都市環境を考えていくうえで、その存在はますます注目されていくでしょう。
この日本庭園を次の世代へつなげていくためには、維持管理はもはや所有者だけの問題ではなく、社会全体で考えていく時期に来ていると言えます。
ところで、この作業をするには池の水を抜く必要があり、そのため⼤野庄⽤⽔の水を前日の晩からストップさせました。金沢の繁華街の近くを流れている姿からは想像しにくいのですが、この用水は農業用水としての役割があり、田んぼに水が必要な時期は水を止めることはできず、庭園クリーニングは秋から冬の作業となります。
自分で手を入れたからこそ見えてくる風景
鍔教授から学生たちは作業する前、池の底に立って築山の高さや、配置された庭石の大きさなどを肌で感じるようにと命ぜられていましたが、掘っても掘っても出てくる泥にそれどころではなさそう。それでも力いっぱい泥をすくい上げ、池が本来の深さを取り戻していくのと同時に、日本庭園への興味も深まっていったことは間違いないと思います。
ちなみに、この日にさらった土砂の量は土のう袋で200を超えていました。これが2時間たらずで完了できたのは、若い力があったことに他なりません。
途中、鍔教授からは庭園に関する講義が行われました。
庭園の種類や歴史に始まり、草花がよく見えるように、格式の高い家は座敷の北向きに庭園があること、そして庭をいかに広く、また築山が高く見えるよう、細やかな工夫が施されているといった造園の技術的な解説をされました。
さらに、この庭園には水があることで、夏は涼しく、冬は逆に暖かくなること、そして、ホタルが生息していたり、いろいろな種類の鳥がやってきたりすることなど、街なかの自然環境を支えている存在であることも言及されました。実際この日は、泥の中からゴリが見つかり、学生たちもここが都市の自然生態系を担っていることを実感できたと思います。
パートナーシップで庭園を持続可能に
庭園クリーニング作業では、文化財である貴重な庭園を、自らが手入れをすることで、日本庭園が提供する生物文化多様性を体感することができます。
所有者の高齢化などにより、今後維持ができなくなっていく庭園はますます増えていくと考えられています。これらを維持していくため、ひとりでも多くの人が関わっていくことが有効であることは、ファン研究員の研究からも実証されています。
身近な日本庭園を持続可能にすることで、SDGsのゴール11「住み続けられるまちづくりを」、ゴール13「気候変動に具体的な対策を」、そしてゴール15「陸の豊かさも守ろう」の達成につながります。そしてそのためには、ゴール17「パートナーシップで目標を達成しよう」が必要なことは言うまでもありません。
庭園クリーニングのワークショップは、日本庭園でお茶を楽しみながら自然環境や生物多様性を考えるという新たなエコツーリズムのモデルとしても試行されており、地域住民だけでなく、学生や旅行者、外国人など多様な人たちが気軽に庭園にふれてもらえる機会にもなっています。
ご興味があればぜひ参加してみてはいかがでしょうか。