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【開催報告】シンポジウム「文化で都市をよりサステイナブルにするには」

日時 / Date : 2019/10/16
場所 / Place : 金沢市文化ホール3階大会議室

ユネスコ創造都市ネットワークは、文化の資源あるいはクリエイティビティというもので都市を元気にして行くことを目指している世界の都市の集まり。工芸、音楽、メディアアートなど、世界の180以上の都市が参加するネットワークです。
金沢市は2009年に工芸分野で認定され、今回その10周年を記念して金沢市は「ユネスコ創造都市ネットワーククラフト&フォークアート分野別会議2019」を主催しました。このシンポジウムはその関連イベントとして、国連大学OUIKが開催しました。

*は関連するサイトにリンクしています。

ユネスコ創造都市ネットワークに加盟して10年

まずは、国連大学OUIK所長の渡辺綱男より、ユネスコ創造都市ネットワークに金沢市が認定されてからの10年を振り返り、このシンポジウムのテーマ、“文化で都市をよりサステイナブルにするには”の可能性を、「会場の皆さんと一緒に考えていきたいです」と、開会の挨拶を行いました。

続けて、「音楽創造都市ゲントが奏でるSDGsの声」と題し、公益財団法人アーツフランダース・ジャパン館長のベルナルド・カトリッセ氏による文化を活かしたSDGsの取り組みについての基調講演が始まりました。
ベルギーのゲント市は金沢市と姉妹都市であり、金沢市と同じく2009年に音楽分野でユネスコ創造都市ネットワークに加盟しました。アーツフランダース・ジャパンはベルギー・フランダースの文化を日本に紹介する組織で、カトリッセさんは日本に住んで30年も経つそうです(講演は英語でしたが、実は日本語もペラペラ)。

アーツフランダース・ジャパン

理解することは市民のアクションにつながる

ゲント市は「ポケットサイズの大都市」と称され、小さいながら古くから発展しました。ヨーロッパの十字路でもあり、多様な国籍の人が集まり、学生が多い街でもあります。
ゲント市では、“人々が住んで働きたいと思う市、そして将来世代が幸せな生活を送れる都市”にしていくことを基本として、SDGsの実行、達成に注力しています。

ベルギー国内においてゲント市はSDGs推進を担う中心的な立場にあり、2017年には国内5つの都市とSDGsの意識を市民の間で高めていくために、お互いに競争しあうコミュニケーションキャンペーンを開始しました。
例えば、オステンド市とは、できるだけ多くの市民に自転車に乗ってもらおうという競争を、またシント・ニクラース市とは、どちらがベジタリアンに親しみやすい市であるかということで競争。このように遊び心がある活動は大成功し、SDGsに対する市民の認識も高まりました。こういった活動により、2018年には国連SDGsアクションアワード(キャンペーンの分野)を受けました。

さて、一般市民の認識が高まることは、SDGsを政策や方針の中に統合していく上で重要な第一歩です。そして、何よりも重要なのは活動する基盤をできるだけ幅広いものにするということ。そのために市ではさまざまな住民や団体、企業などの声を聞き、SDGsについて胸襟を開いた対話を行ってきました。
2018年からは、「プラスチック無し月間」というキャンペーンを開催。膨大なプラスチックゴミが海洋に捨てられていることへの意識を高めたかったためです。これに多くの店舗や企業が参加し、プラスチックバックなどに代わり、再利用可能な箱が使われ、客が持参した容器に商品を入れて持ち帰る店も現れるようになりました。

さらに、「ゲント・アン・ガルデ」というプロジェクトが始まりました。これは、より持続可能な食品の生産や消費を行っていくものです。
実はゲント市は、知る人ぞ知るベジタリアンの世界的な首都でもあります。木曜日は“ベジタリアンの日”と定め、環境負荷の大きい食肉の消費を抑制する啓発キャンペーンを行っています。これによってベジタリアンの食事が普及し、レストランや学校にも広がりました。
この「ゲント・アン・ガルデ」は2019年9月に、栄誉ある国連グローバル気候アクション・アワード2019を受賞しました。

文化によってSDGsのゴール達成を推進する

社会的に優先される気候や労働、経済、そして加齢といった課題の中に、文化をどのように結びつけるかも重要です。
文化は労働や経済に影響を与えます。また、文化活動への参画と寿命、生活の質の間には密な相関がある通り、文化は大きな社会的な価値を持っています。例えば、高齢者が文化に参加することによって医療費を軽減できるかもしれません。
文化は残念ながらSDGsのゴールの一つとしては言及されてはいません。しかし17あるSDGsのゴールのうち、いくつかに文化を落とし込むことはできます。
例えば、ゴール3「すべての人に健康と福祉を」。健康であるというのは身体的だけでなく、精神状態をも示し、文化はストレスを軽減できる可能性があります。
日本には、個人の幸せを表現する言葉として“生きがい”というものがありますが、生きがいを見つけるために、より多くの人が文化に力を注げる環境が重要。そこに経済的障害があってはいけないと考えています。
また、ゴール16「平和と構成をすべての人に」に文化を取り入れることもできます。持続可能なより良い社会のために、平和と平等、安全保障は必須ですが、文化は間違いなくこの中で貢献できるものです。文化は人々を集め、つなげ、平等感、連帯感を生み出すものなのです。

ゲント市は“文化と音楽の町”です。さまざまな音楽産業の人をゲントに集めるために協議が重ねられ、大きな音楽イベントも開かれ、たくさんの人が集まるようになりました。ユネスコはゲント市のさまざまな要素の中から4つのポイントを重視しました。歴史的な場所をコンサートに用いていること、多くの音楽祭が開かれていること、幅広い音楽教育への取り組みがなされていること、そしてその参画のレベルの高さです。これらによって、2009年、世界に先駆けて音楽分野での創造都市ネットワークの登録を受けることができました。
文化は人々をつなげると申しましたが、特に音楽は万国共通の言葉であり、言葉の壁も文化や背景の違いも超越して人々をつなげることができます。
SDGsを現在、そして将来の政策の中に取り込んでいくことは、将来の人たちが温かい街で生きていけるために、そして、すべての人が安心して生活していける場所を作るために、必須です。

〜以上、ルナルド・カトリッセ氏の基調講演「音楽創造都市ゲントが奏でるSDGsの声」より(抜粋・編集しています)

包摂性は感覚を刺激し、デザインを進化させる

続いて、パネルディスカッションが始まりました。テーマは「暮らしと工芸とSDGsを創造的につなぐ」で、モデレーターは国連大学OUIK事務局長の永井三岐子が務めました。
まずは3人のパネラーから話題提供がありました。
金沢で、そしてタイのチェンマイで、SDGsと連動する、このような先進的で個性的な取り組みがなされていることは、まだまだ知らない人も多かったかもしれません。

最初は、ユニバーサルデザインいしかわ専務理事の安江雪菜氏が、「包摂性を高めるクラフトアートの役割」ということで、金沢でのプロジェクトとその影響について発表しました。

ユニバーサルデザインいしかわ(UDいしかわ)

UDいしかわは、ユニバーサルデザインの考え方をいろいろな領域の問題解決やデザインの推進に役立てていくために設立された一般社団法人です。
一昨年には、さまざまな伝統工芸の総体であり、金沢市民に親しまれている茶の湯を、目や足が不自由な人にも楽しんでいただく、「ユニバーサルデザイン茶会」というものを企画・実施しました。
金沢美術工芸大学の先生の提案で、障害のある人と一緒に手びねりで茶碗を作ることから始め、飲みやすい、持ちやすい形状や厚み、釉薬の掛け方をいろいろ試し、「つかむ形」「のせる形」「つつむ形」という3つの形を抽出したそうです。それぞれ、横から見ると丸、三角、四角の形をしていて、三角は握力の弱い人が手にのせて茶を飲むことができ、安定感のある四角は目が不自由な人が茶碗の存在を安心して確認できる形となります。
今年は金沢美術工芸大学の教育プログラムとしてチャレンジし、障害のある人とコミュニーケーションをとりながら作品を作ることにより、「自分が思いもよらなかった感覚に気づかせてくれ流ことができた」と、学生にも好評だったようです。
工芸のデザインに包摂性を入れたことで、デザインのあり方の多様性が確認でき、利用する人と作る人の対話から、それぞれの思いを体感することができたとそうです。

そして、昨年行ったもう一つの大きなプロジェクトが、「ダイアローグ・イン・ザ・ダーク」でした。これは、10人1グループとなって純度100%の真っ暗闇の中を、視覚障害者のアテンドで、さまざまな体験をしながら進んでいくというエンターテインメントです。この時は「暗闇で感じる工芸」をテーマに設定し、入場者は視覚以外の感覚や他人とのコミュニケーションにより、「深く工芸を感じることができた」と評判でした。視覚を遮断することでの幅の広がり、健常者が気づかなかった新たな領域の提案や発見につながることができたそうです。
「これからデザインを考えていく上で、包摂性というのは重要な要素となります」という安江さん。「障害のある人と豊かな時間と空間を共有することが大事なのではないか」と、これらのプロジェクトを通じて感じたそうです。

工芸とフォークアートで人をつなぎ、都市を持続可能にする

続いて、チェンマイでユネスコ創造都市ネットワークの中心人物であり、チェンマイ大学社会研究所所長のウォララン・ブンヤスラット氏からは、工芸、フォークアートにおける持続可能性について、チェンマイの事例を紹介しました。

チェンマイはタイの北部にある都市で、文化や歴史があり、さまざまな工芸があります。チェンマイの工芸やアートは人気で、観光資源になっているそうです。もともとは、40年以上前にタイの王妃がチェンマイを訪れて、地方の貧困撲滅のために地元の工芸を促進させようとし、それがきっかけとなって現在のように盛んとなったそうです。これは現在のSDGsの取り組みの第一歩となっているとも言えます。現在はさまざまな地球環境の問題にも直面し、持続可能性にも取り組んでいます。

さて、タイの首相は「誰も取り残してはいけない」と連日のように発言し、タイではSDGsの目標達成に力を入れていますが、まだまだ達成しないといけないものがたくさん残っていると言います。そんな中、チェンマイでは、アートと工芸、そして創造性を用いて町を前に進めようとしています。
「アートと文化の素晴らしい都市」を目指し、街の独自性と多様性を重視しつつ、イベントを企画し、市の行動計画を立てています。工芸とフォークアートをプラットホームに、多くの部門が協力し合う形をとっていて、「金沢からもいろいろ学びました」とウォラランさんは言います。
また、歴史的な都市景観を大切にしながら、スマートな新しい都市づくりにも力を注いでいます。スマート輸送手段により、工芸やフォークアートに興味がある観光客には郊外へも足を延ばしてもらいたいと考えているそうです。

「創造都市ネットワークを強化し、次の世代にそれを伝えることは、我々の町にとっても非常に重要」だと強調します。
チェンマイにとって歴史とアート、文化、環境、自然というのが重要な要素であり、人材開発、研修にも力を入れています。「容易ではなくやるべき事は多いが、ぜひ必要なもの」と述べます。外国人やチェンマイ外の人も集めて、プロジェクトを展開させ、地元の人や将来の世代となる学生が、それらの担い手となります。またA Iも使って持続可能性を高めているそうです。
「我々の結果というのは、大きな成果というより、人々に幸せをもたらすこと。みんなを幸せにしたいというのが我々の考えです。工芸とフォークアートを使って、それをもたらし、持続可能性というのを実現していきたいです」とウォラランさん。

人と自然と工芸を結びつける庭園をコモンズで保全する

最後は、国連大学OUIKのリサーチ・アソシエイトのファン・パストール・イヴァールスから「SDGsのプラットホームを育む日本庭園。日本庭園を使っていかにSDGsの目標を達成するか」について、発表しました。

日本庭園は、人とクラフトと自然の3つを結びつける存在だと言います。庭園も工芸も職人が作ったもの。職人は美だけでなく、機能性のあるものを作りますが、庭園も工芸も人と自然を仲介するものとしての機能があると言います。
現在、金沢にある庭園には、例えば漆職人がアトリエにしたり、加賀染職人が糊を洗い落とすのに庭の用水を使ったり、香道と煎茶道の師匠でもある所有者が活動のバックグランドとして用いたり、伝統楽器のコンサートを開いたり、さらにはレストランに転用されたりと、さまざまな工芸や文化と直接結びついているものも少なくありません。
日本庭園に入ると日本に住んでいて良かったと感じることができます。そして、そこには生物文化多様性もあります。しかし、人口が減り多くの庭園が放棄される状況となって、このような庭園の利点が存続の危機にさらされています。
所有者が維持していくために、日頃どのようなことを行って、あるいは、造園業者に頼んでいるかということを調べ、市の補助金だけでは維持できないことから、「ボランティアの人たちにも庭園の維持管理に関わってもらったらいいのではないか?」と考えたそうです。それが「持続可能な都市自然コモンズのサイクル」というモデル。コモンズは公共財であり、このような日本庭園は私有地なのですが、その利点はみんなが享受できるものであるため、コモンズとなります。つまり、私たちみんなが参加して、保存していかなくてはならないということです。
庭園の清掃活動とセミナーをセットにしたものなど、庭園のエコツーリズムをこれまで3年間にわたって複数回実施し、320名以上の参加がありました。これがパイロットのプロジェクトとなって、金沢の自然を保存していく、一つの試みになればと考えているそうです。

「庭園というのは人と自然をつなぐもの。庭園を保存することで人と自然のつながりを維持できます。一方で持続可能で自然を維持するためには、人と人との関係も改善しなければなりません。社会の中でその調和ができれば、自然との親密な関係も促進され、結果として幸福が促進されると考えられます」とフアンは述べました。

 

都市を持続可能にする文化とは、人と人が作り上げていくもの

3人の発表を受けて、会場も交えたディスカッションも行われました。
「プラスチックが環境に悪い影響を与えていることが、なかなか市民に浸透していないのはそうすればいいか?」という会場からの質問に、ウォラランさんからは「タイの人たち、かつては包装にバナナの葉を使っていたんですが、今はもう一度バナナの葉っぱに戻っています」という、少々びっくりする回答がありました。廃棄物ゼロを目指してコンビニやショッピングモールではプラスティックを禁止しようとしているそうで、みんなが竹の籠なども使うようになっているそうです。それらが、ちょっとお洒落な新しいスタイルとして取り入れられているそうです。このような“不便さを楽しみに変えていく”ということは、真似してみたくなり、課題への理解が広まるきっかけとしても期待できます。

さらに、パートナーシップをつなげていくことを繰り返せばそれが実績となり、行政も勇気を持って政策を変えて行けるという、実践的に参考となる話や、さまざまなネットワークで協働していく場合には、共通の価値観を持つことが重要で、それは話し合いと経験の積み重ねによって、少しずつ形成され、広がっていくという話もありました。

「文化は自分に自信を持たせてくれる。文化は一歩外に出ていくときに助けてくれる。自分がもっと自信を持って他の人と触れあうときに、文化は助けてくれるものだと思います。金沢は日本の文化を根強く残しているところ。このような文化や遺産を自らのものにすることで、自信が持て、これまでの域を超えて、他の文化の人たちと触れあいやすくしてくれると思う」と、感想を求められたカトリッセさんは、金沢の強みについて言及しました。

金沢大学特任教授の佐々木雅幸氏は、「地域にしっかりと根付き、持続的に展開されてきた生活文化というものの意味をもう一度深く理解することから、地球のあり方を考える、そのことなしに、SDGsを達成することはできません」と閉会の挨拶として述べ、シンポジウムは閉幕となりました。

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