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【開催報告】国連気候変動枠組条約(UNFCCC) の適応部ディレクター、ユセフ・ナセフ氏の特別講義を開催しました

日時 / Date : 2023/8/23
場所 / Place : しいのき迎賓館

 ナイロビ作業計画やワルシャワ国際メカニズムなど、国際的な環境政策と外交において30年以上にわたる経験をお持ちのユセフ・ナセフ氏が、このほど石川県に来訪されました。それを記念して、「地域の参加を通じた生物多様性と気候変動適応の向上」と題し、特別講義をしていただきました。

 また、国連大学OUIKのフアン・パストール・イヴァールス研究員から、金沢市で進行中の革新的な持続可能な都市自然プロジェクトについて、紹介しました。

ユセフ・ナセフ氏

 冒頭、「技術的なことではなく、国際的な政治に関してお話ししたい」と述べたナセフ氏は、世界各国の環境問題に対する意識や、その問題に対して取り組む世界的な枠組みを解説。このようなことは数年前に始まったかのように思われていますが、実は1972年にストックホルムで開催された「国連人間環境会議」でできたもので、それから現在に至るまで、状況は良くなるどころか悪くなっていると、現状を紹介しました。

 気候変動が引き起こす問題がどのように人間に影響を及ぼすか、また、たとえば温室効果ガスを削減していく上で、どのような課題があって、さらに、その背景としては立場の違う国やセクターなどによる考え方の違いがあるなど、複雑な事情があることを解説しました。1990年代からは、国際社会がひとつになってこれらの問題に取り組もうとする機運が高まってきており、その中で今、2つの方向で政策が行われていると言います。1つは温室効果ガスの排出を減らすという方向で、もう一つはその気候変動に対して適応していくという方向です。適応することは温室効果ガスを削減するスピードが速くないためです。温暖化を防ぐには気温の上昇を産業革命から1.5度以内に抑えるのが良いと言われますが、そのためには温室効果ガスの排出を2010年のレベルから2030年までに43%程度、2050年までには84%削減をしないといけません。ところが各国の長期間にわたる排出量を計算したところ、プラス10.6%になっており、全く反対方向に向かっていることがわかったそうです。

 COP21でパリ協定が出されましたが、化石燃料への投資はとどまらず、ますます温暖化が進む方向になっていきます。「私たちは世界的にこのマインドセットを変えていきたい」とナセフ氏は強調し、マインドセットを変えるには、より良い将来を作るための明確なビジョンを持つことが大事だと述べました。

 石川県での取り組みからは、脆弱なものでなく、リーダーがしっかり育っており、また、短期的に利益を上げようというものではなく、特にこの地域は里山里海イニシアチブが実行されていて、自然との調和を図り、人間の本質を高めていこうといった動きが見られると評価してくださいました。また、大きなところと比べ、ローカルでは世代間での価値を構築しやすく、子どもや孫、その先の世代へと考えて、長期的に取り組みやすいとも述べました。

 さらに、テクノロジーの目覚ましい進化にもふれ、持続可能な農業という点から、現段階では商業化できるほど進んでいませんが、オートマスシステムの可能性も言及しました。

「一人ひとりが考えて、未来に対してビジョンを描く先見的な考え方を持って、持続可能な未来を作り上げていこうというマインドセットが大事です。これまである考え方に固執せず、『こんなことは不可能だ』と思わないことによって、未来が拓けてきたことは、歴史からもわかることです」と述べ、講義を締めくくりました。

フアン・パストール・イヴァールス研究員

 続いて、国連大学OUIKで都市の自然をテーマに研究しているフアン研究員が、2019年から行っている「持続可能な都市自然プロジェクト」(SUN Project)に関するプレゼンテーションをしました。

 世界では、気候変動と生物多様性の相関関係が取れたやり方で取り組むことが議論されています。金沢では気候変動と生物多様性の喪失とともに、人口減少という社会の高齢化の問題にも直面していて、これが社会生態系のシステムの劣化を加速させていると言います。この課題に対峙するため、「SUN Project」のアプローチは、これらのシステム回復を目指し、マルチレベルでしかも持続可能な方法で、管理されたグリーンインフラの恩恵を通して行おうとしているものです。具体的には、庭園など今ある伝統的なグリーンインフラを保全する、空き家など放棄されているグレーインフラをグリーンインフラに変えていく、現在の社会のニーズに合わせて新たに作られたグリーンインフラを使っていく、この3つの方法を挙げました。

 生物多様性を生み出すことについて、金沢にある日本庭園の生物多様性を評価し、庭園というのは生物多様性にとっては非常に重要なホットスポットであるということがわかったそうです。また、大気中の温室効果ガスの一つである二酸化炭素の削減や減少について、6カ所の鎮守の森での炭素削減の評価をしており、鎮守の森が二酸化炭素の削減に重要な役割を果たしていることが、明確になりつつあると発表しました。

 自然と関わる活動を行う参加者たちにどのような感情の変化があったのかを約300人に調査した結果、自然との触れ合いをしたことで、80%の参加者がポジティブな感情が高まり、否定的な感情については54%が減ったと答えています。自然が幸福の主な源であるということを体験することによって、持続可能な緑のコモンズができる、これは非常に効果がある方法だそうです。SUN Projectは、「市民に関わってもらい、自分たちの町の“庭師”となり、維持していく」ことを目指しています。「その取り組みが、今ある世界的な問題に対処することになるということを伝えて、市民に勧めています」と述べ、締めくくりました。

 その後、質疑応答の時間が設けられました。能登半島のトキの放鳥に関して、「地域住民を巻き込むことへの重要性」を尋ねた質問に対して、「市民を巻き込むことは、市民にとっても自分たちが生物多様性に貢献して、未来を築いていく取り組みが行えるチャンスでもあります」とナセフ氏が回答しました。

申曉萌氏

 今回、ナセフ氏と共に、国連大学欧州事務所副学長および国連大学環境・人間の安全保障研究所(UNU-EHS)所長の申曉萌(シェン・シャオメン)氏、国連大学サステイナビリティ高等研究所の山口しのぶ所長も石川県に来訪され、3日間にわたって能登や金沢のフィールドを見て、地域で活動している人たちを訪ねていただきました。最後にお二人から、この特別講義の総括コメントをいただきました。

山口しのぶ所長

 国連大学OUIKでは、気候変動と生物多様性の2つの条約のつながりに着目をして、地域のアクションを展開していくことが大変重要だと考えています。この特別講義が持続可能な地域社会づくりのための具体的なアクションにつながっていくことを願っています。

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