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【開催報告】観光とSDGs – 地域の「しあわせ」を届け、ファンをつくるコミュニケーションは?

日時 / Date : 2022/7/29

豊かな自然や文化、そこに住む人たちのライフスタイルといった地域の魅力をうまく観光客に伝えながら、地域を尊重してもらい、お互いに心地よい関係を築いて持続化していくためには、どのようなコミュニケーションが必要なのでしょうか? 持続可能な観光をテーマにしたセミナーの2回目は、企業のファンづくりが専門の但馬武さんをはじめ、さまざまな知見をお持ちの皆さんと議論を交わしました。

 

お互いの調和や幸せには地域と観光客のコミュニケーションが大事

まずは国連大学IAS OUIKの津田祐也研究員から、持続可能な観光のためのコミュニケーションについて、金沢市が推進している「金沢SDGsツーリズム」の取り組みを説明しました。

また、海外の旅行者は地域への貢献度を重視する傾向がある反面、日本人旅行者は「旅行の時くらいは環境に配慮した行動などは考えたくない」という理由で行動を実施していない傾向があるという話も。

「地域と観光客がコミュニケーションを取ることが重要で、お互いの調和や幸せにつなげていくことは、ファンづくりによって成し遂げられるのではないでしょうか」と述べて、話を締め括りました。

 

愛される地域を目指し、ファンづくりのステップ

但馬武さん

パタゴニア日本支社に20年ほど勤務をし、2019年にはfascinate株式会社を創業し、企業のファンをづくり、ファンと歩む愛される最愛ブランドづくりを行っている但馬武さん。パタゴニアのマーケティング戦略などを例にとり、業種や B to BかB to Cかなどによって手法が全く違うファンづくりのプロセスから、次の3つに絞って紹介していただきました。

 

① 何者かを明確にし、物語を伝える

ブランディングとは、“特別な存在として認識してもらうように”して、INGが付くように“伝え続ける”こと。相手の中に感情が残らなければ、ブランディングにはなっていない。
最初に企業のアイデンティティ、私たちが何を目指すのかということを決め、メッセージも決まったら、そのメッセージ通りのアクションをすること。


② 体験をデザインする

どんなステップで相手がファンになるかをひもとき、それに則ってコミュニケーションを実行していく必要がある。お客様の愛は強いのに企業側が冷たい対応をしてしまえば、お客様の気持ちが離れていってしまうことにも注意を払う。
お客様とより深い関係性をつくる「カスタマーエンゲージメント」を高めていくためには、従業員が最高の体験を提供できるように、従業員の気持ちをケアして楽しい状態をつくっていくことが何より大事。

 

③ 「象使い」ではなく「象」に訴える

象使いは理性、象は直感を示す。パタゴニアを例にとると、商品がオーガニックコットンを使っていることをアピールすると理性で処理されてしまうので、「かっこいい」や「着心地が良さそう」など、心が動く、つまり直感の方に呼びかける。パタゴニアでは購入されたお客様に対してだけ、はじめてオーガニックコットンの話をするというルールがあった。

 

但馬さんは、「SDGsの切り口はどこか冷めた感じになってしまうため、最初の出だしはそこから入ってはいけません」と言います。価値観を同じくする心地よい接客で、直感的なコミュニケーションをしていくことが、パタゴニアから学んだ大事なポイントだと述べました。

“驚き”から“共感”、“信頼”、“愛着”へと、ファンをつくり、維持するには長い道のりがあります。そして、“驚き”と“共感”を得やすいのは、「従業員の熱意」だと付け加えます。

パタゴニアのファンのつくり方、維持の仕方を、金沢や石川県に置き換えて考えてみると、いろいろと発見できることも多かったのではないでしょうか。

 

どのようにファンをつくっていくか? パネルディスカッションで話し合う

観光客は魅力的な旅をしたいと思っていて、それに対して地域住民は、地域を楽しんで欲しいと思っています。一方、観光事業者は魅力を編集し、人々に届けます。コーディネイターを務める但馬さんが、「どのように魅力を定義し、ファンにしていくのか? SDGsの側面で考えましょう」と呼びかけて、パネルディスカッションがはじまりました。

パネリストは、白山市の職員で白山手取川ジオパーク推進協議会・専門員の日比野剛さん、北陸学院大学短期大学部コミュニティ文化学科・助教で旅行業界を熟知している葦名理恵さん、アーテックス株式会社で訪日外国人向け英語版フリーペーパー「eye on Kanazawa」の制作・編集などに携わる影島麻衣子さん、貸切宿「旅音/TABI-NE」などを運営する株式会社こみんぐる取締役の林俊伍さん(リモート参加)の4人でした。

林俊伍さん

*以下、ダイジェストで一部を紹介します(敬称略)。

 

:持続可能な観光への優先度は、街づくりからか、観光誘致からか、決めていないと足並みが揃えられない。個人的には圧倒的に街づくりからだと思う。地元の人が楽しんで生活しているところに魅力を感じで、そこに旅行者を入れてあげるような、暮らすように旅をするのがいい。SDGsの持続可能な観光という観点では、今後は人のつながりが重要になってくると考える。

日比野:地域の人たちがファンになった上で、それを観光客向けに発信するというのが、個人的には一番良さそうに見える。

葦名理恵さん

葦名:新幹線開業当時の旅行者へのアンケートを見ると、「店員さんの態度が冷たい」という回答があった。金沢の人からすれば、恥ずかしくて上手く喋れなかったとも考えるが、お客様を受け入れるホスピタリティーのトレーニングができていなかったのではないか。

:ホスピタリティーの形は一括りにはできず、求めるものが違っていたらそうなる。お客様を選ぶことがすごく重要な気がする。

影島:金沢にやってくる外国人は金沢のことをいろいろ褒めてくれるが、なかでも人の良さは評価が高い。外国人の人からすると商業的過ぎず良いという人も多い。そう思うと金沢はあまり変わらなくて良いのかなという気もする。

影島麻衣子さん

但馬:観光事業者のいろいろなイノベーティブな取り組みが、持続可能な何かを生み出していく、それが誰かの驚きになり、ロイヤルティにつながる取り組みになる気がする。

:我々がどうありたいのかということが重要。その考えがないまま、持続可能が大事だと言い始めると何も面白くないものができ上がると思う。

葦名:観光というのはあくまでも手段であって目的になってはいけない、地域を存続させるための手段であったり、自分たちの生業を続けていくための手段であったり、あくまでも手段の一つ。観光を選択するか否かというところから、この地域にいる一人ひとりが選んでいくことなのかなと感じている。

日比野剛さん

日比野:いろいろな要素を全て繋げて、いかに地域を持続させていくかということに取り組んでいるのがジオパーク。ツーリズムも、断片的ではなく包括的に捉えていかないといけないと思う。

 

「パタゴニアでよく言われていたのが、『死んだ地球ではいかなるビジネスも成り立たない』という言葉で、何かしらの改革をしなければならないことは間違いないです。僕らは残された寿命や活動の範囲の中で、人々に対して何らかのイノベーティブな取り組みがしていければいいのではないかと思っています」と但馬さんが述べて、パネルディスカッションは終了しました。

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