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【開催報告】観光とSDGs – 観光とまちの「調和」と連携を考える

金沢市は観光に関わる各ステークホルダーとの連携を生み出し、SDGsを進めることで、市民と観光客双方の「しあわせ」を目指す、持続可能な観光まちづくりを進めています。

このセミナーでは、観光がSDGs達成にどのように貢献していけるのか、そしてどのような行動が必要になるかをテーマに、グローバルな事例や石川県内で活動している皆さんの話を伺い、今後の観光のあり方や観光まちづくりについて考えました。 

持続可能な観光の取組−世界の事例紹介−

まずは、UNWTO駐日事務所*の吉田順子氏の講演。

UNWTOによれば、コロナ禍により旅行者の意識が変化しており、地域の本質を味わい、地域にも良い影響を与える観光、つまり持続可能な観光へのニーズが高まっているそうです。

「若年層は気候変動への問題意識や正義感が強く、この世代が自分で旅行先を選ぶようになると、持続可能な観光に取り組んでいる地域が選ばれるようになることが考えられます。それは日本でも同じこと」と吉田さん。

具体的な事例として、夏に集中していた観光収入を平準化させたカナダのトンプソン・オカナガンを取り上げ、サステイナブル憲章を作り、観光客や観光事業者へのマナー啓発を行うなど、持続可能な観光を推進するためには、地域の努力だけでなく、観光客自身が理解し、協力することが必要であることを強調しました。

UNWTO(国連世界観光機関)は、観光を専門とする国連の機関で、持続可能な観光の促進も行っています。その電子図書館(Elibrary)では、持続可能な観光に関する出版物を見ることができ、駐日事務所のwebサイトでは一部日本語版も公開しています。

 

金沢SDGsツーリズムとSDGsモデルツアー

IMAGINE KANAZAWA 2030推進会議事務局の國本和史氏(金沢市都市政策局企画調整課)からは、金沢市は北陸新幹線金沢開業により賑わいがもたらされた一方で、一部の地域では市民生活への影響が見られ、有形無形の資産が観光により消費されて変質し、中長期的にその価値を失うリスクと隣り合わせである現状が紹介されました。

そのため、金沢市はSDGsの文脈でまちの魅力を磨き高め、世界へ発信し、「責任ある観光客」を世界中から呼び込み、市民と観光客双方の幸せを実現したいと考えており、その思いが、令和2年SDGs未来都市と自治体SDGsモデル事業の選定につながったと述べました。

「自治体SDGsモデル事業では、「金沢SDGsツーリズム」を推進し、観光と市民生活の調和、域内経済の循環と創出を目指しています。SDGsツーリズムを継続的に行うためには、地域の多様なステークホルダーがつながり、行動することが必要。これによりコレクティブインパクトが生まれ、SDGsの達成、持続可能な観光の原動力となります」と、國本さん。

SDGsツーリズムの先導的な取り組みアイデアを募集し、兼六園の要素をSDGsの視点で再編集するプロジェクトなど、2年間で20件を採択して支援しているそうです。

UNU-IAS OUIKの津田祐也研究員からは、「観光とパートナーシップ」と題し、SDGsのパートナーシップに関する解説と、UNU-IAS OUIKが取り組んでいる観光の研究事例として、庭園清掃ワークショップをSDGsツアーに位置づけて実施したモデルツアーを紹介。

モデルツアーで得た知見により、「地域住民、観光客、観光事業者といったステークホルダーの中で意見を集め、ルール形成やビジョン形成といった仕組みづくりが必要」と述べました。

 

まちとの『調和』と持続可能性に向けた連携について討論

日本旅行日本旅行総研の砂子隆志さん、ハイアット セントリック 金沢ハイアット ハウス 金沢の高橋慶さん、TABITAIKENネットの越石あきこさん、白山しらみね自然学校白峰ボーディングスクール実行委員会の山口隆さん、和倉温泉多田屋の多田健太郎さんにご登壇いただき、パネルディスカッションを行いました(モデレーターは津田研究員)。

まずはそれぞれの登壇者から取り組みについて紹介していただきました。

「新たな旅のスタイルに関する、SDGs、DX、ワーケーションといったキーワードの中でも、SDGsは重要なものとして注目しています」という砂子さんからは、これから注目を集めそうな旅行商品の傾向について紹介がありました。
「観光産業は観光資源があってこそで、計画性と責任のある持続可能な観光の普及・浸透が急がれています」と述べました。

「まちとの調和、共生がハイアットの根幹にある要素の一つです」という高橋さんからは、昨年ハイアット金沢が参加した金沢レインボーパレードでの取り組みを紹介。「北陸でダイバーシティやインクルージョンを考えてもらうきっかけになればと思っています。LGBTQ+のマーケットは非常に大きく、金沢が選ばれるデスティネーションになるためにも、こうした活動は続けていきたいです」と述べました。

観光と自然体験から、金沢SDGsツーリズムの取り組みを実践し、いしかわ自然学校のインストラクタースクール主任講師もされている越石さん。2018年からは、旅行者と自然体験を楽しむ「TABITAIKENネット」を開始。地元の自然案内人が旅行者と、自然を通して交流する体験プログラムを提供しており、その内容を紹介していただきました。

「白峰は深刻な人口減少という問題を抱えており、観光客がいないのではなく、担い手となる後継者がいないために観光事業が衰退しつつあります。そこで、数年前からTENJIKU白峰プロジェクトという関係人口を増やす取り組みを始めました」という山口さん。人口減少は関係人口を増やすことで補い、「屋根雪下ろし」など、不便さを旅行ツアーにして経済に変えることなども考えているそうです。

宿泊産業だけでなく、能登の魅力発信産業として旅館を営み、地域に必要とされる会社であり続けることが経営理念の多田屋。「SDGsは自己満足や流行りではなく、私たちが考える豊かな未来への活動の一環として取り組み、多田屋の枠を越えて、人・地域・環境について学び合い、他の企業とも連携して一歩ずつ成果につなげたいと考えます」と多田さんは述べました。

以下、パネルディスカッションの様子を一部抜粋で。

──持続可能な旅行商品開発で越石さんが取り組んでいることは?
「森林資源を活用して森も自然も元気に!をテーマに、和ハーブのクロモジの香りに注目し、リラックスとリフレッシュする体験プログラムを完成させました。宿泊施設から体験メニューを出前でやってもらえないかというオファーも来ています」(越石氏)

──多田屋では料理の献立を全6品の創作料理1種類にしたそうですが、どのような効果がありますか?
「食べ残しや廃棄在庫の削減ができ、洗いものもかなり減りました。料理のバリエーションを減らすことは、地元の小さな農家のおいしい野菜を使うなど、地元産の食材に絞ることができ、品数を減らしたことで、お客様とのコミュニケーションの時間が増えて、地元の魅力をアピールできるようになります。そのことは、働く意欲の向上にもつながっています」(多田氏)

──お客さんとのコミュニケーションで砂子さんが思われていることは?
「消費の数はまだまだですが、SDGsや持続可能な観光を意識されているお客さまは非常に増えていることは間違いありません。考えることとしてはお客さまへのリーチの仕方で、マスメディアに限らず、旅行会社のように消費者にアプローチできる手段を持っているところもメディアと考えて、そこからもアプローチしていくことで、より良いコミュニケーションがとれるのではないかと思っています」(砂子氏)

最後にUNU-IAS OUIKの渡辺綱男所長が、「地域と観光客の両者が支え合う、いい関係で展開していけば、観光事業者や観光客は地域づくりの大事なプレイヤーになりうる」と述べ、セミナーは終了しました。

持続可能な観光のセミナーは今年5回開催する予定です。次回以降もさまざまなテーマで開催していきますので、ふるってご参加ください。

 

セミナーの動画は以下より視聴ください。 ※UNWTOからの発表は発表者側の都合により割愛させていただきます。

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