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【開催報告】SDGs Cafe×金沢レインボープライド「インクルーシブな職場環境を金沢から」

日時 / Date : 2023/10/7

「LGBTQ+」という言葉が社会でも浸透し、取り組みを始める企業が増えている一方、それが根付いているのは、上場企業においてもまだ少数です。今回はLGBTQ+に関する理解を深めながら、多様性のある職場環境を作るためには何をすればいいのか? 専門家や企業の方、そして当事者の方と、4名のゲストを迎えて、話し合いました。

 

伊藤月菜氏から、「企業のためのLGBTQ+研修」をプレゼンテーション

伊藤さんが所属する株式会社JobRainbowは、多様な職場環境にしたい企業と、多様な職場環境で働きたい人をマッチングさせる求人サイトを運営し、企業に対して研修やコンサルティングも行っています。伊藤さんはD&I (ダイバーシティ&インクルージョン)コンサルタントの仕事をしています。

伊藤月菜(るな)氏は、秋田県で「秋田プライドマーチ」の団体も運営しています

ダイバーシティは多様な人がいる状態を指し、インクルージョンは、多様な人材を認め合ったり、違いを受け入れたり、受容したり、活躍できるような土台を作ったりすることと説明。

LGBTQ+は、人口では全体の8.9%、11人に1人といわれ、日本で有名な苗字の佐藤さん、鈴木さん、高橋さん、田中さん、伊藤さん、渡辺さんの6つの苗字の人を合わせた数よりも多いそうです。この苗字の人に会う機会は多いですが、LGBTQ+の人に会うことは少ないのは、データによると職場でカミングアウトしたいと思っている当事者は42%いる一方で、実際にカミングアウトした人は、同僚に対して5.8%、上司に対しては3.5%しかおらず、存在が社会的にすごく見えづらいものになっているためだと言います。

当事者へのアンケートでは、55.7%の方が職場で頻繁に差別的な発言を見聞きするとの回答があり、カミングアウトできるような環境が整っていなかったり、差別的な発言をされる可能性があると考えたりすると、簡単にはできません。

性のあり方には、①出生児に割り当てられた性、②性自認、③性表現、④性的指向の4つの要素があり、これらの組み合わせで性のあり方は考えられるため、一人一人が全く違います。

「みんなが違うから、それぞれの性のあり方を尊重できる社会になっていくことが一番で、『私はLGBTQ+じゃないから関係ないんだ』という話ではありません」と、伊藤さんは強調します。

さて、企業はなぜLGBTQ+に取り組まないといけないのでしょうか。

LGBTフレンドリーではない職場の場合、当事者の離職率は13倍にも上がり、生産性も40%低下するというデータがあります。仕事に集中できなかったり、離職につながったりと、企業の損失は少なくありません。この現状を当事者だけで変えていくには力が足りず、社会の側がアップデートしていくことが求められます。

LGBTフレンドリーな企業で働きたいという人は89%もいて、非当事者であっても69%はそのような企業で働きたいと思っているといい、確実に社会のニーズは変わりつつあります。さらに、パワハラ防止法により、ソジハラが起きないようにすることが企業の責任として求められていて、取り組むことが企業には義務としてかかってきています。

個人が具体的にできる最初のこととしては、自分の発言が偏見に基づいていないかをチェックすること。

「自分の考え方に無意識の偏見を持ってしまうこと(アンコンシャスバイアス)をなくすのは無理ですが、言葉遣いを直していくだけでも、みんなが働きやすい環境に変わっていくと思います」と伊藤さんは述べました。

 

石川県内でD&I人事を行っている早瀬晋悟氏のプレゼンテーション

早瀬さんが所属する株式会社のうか不動産は、県内5店舗で展開している不動産会社です。

のうか不動産では採用や人材育成を担当する早瀬晋悟(けいご)氏

金沢市が「パートナーシップ制度」をスタートさせた2021年7月に、LGBTフレンドリー宣言を行い、そのときに「適切な知識を知る」、「当たり前を変える」、「理解支援の見える化」、「差別の禁止を規定する」をメインにスタートしました。

「フレンドリーの取り組みが始まることで皆さんどう思いますか?」という社内アンケートの結果では、「とても良い」と「どちらかといえば良い」を合わせると92%となり、自信を持って活動を続けていこうと思ったそうです。

全店舗のトイレを女性専用とオールジェンダーの2つにしたり、会社に申請をした人は社内では婚姻届を出した人と同じようなルールが適用されるようにしたり、差別を禁止する就業規則の見直しを行ったりしているそうです。

 

金沢からどのようにインクルーシブな職場を作っていけるか

当事者のお二人に加わっていただき、トークセッション。

NPO法人プライドハウス東京の時枝穂さんからはトランスジェンダーの当事者として職場での困りごとなどを教えていただきました。
トランスジェンダーは、時間をかけて少しずつ、社会的な性別、精神的な性別、医学的な性別の3つを移行しますが、それを周囲が理解することが難しいと言います。「この移行期について、企業がどれだけ理解できるか、サポートできるかが働きやすさにつながっていくと思います」と時枝さん。
さまざまな場面で自分の性別情報を知られてしまうことがあり、会社がどれだけ守ってくれるかが不安で、そのことで働きづらさを感じていたそうです。

パートナーシップ制度の普及や、同性婚の実現に向けた活動を行う時枝穂(ときえだみのり)氏

4年くらい前まで金沢に住んでいたギリェルメ・カストロさんは、ブラジル出身で日本に来て8年目。2016年から金沢大学で大学生をしていて、旅行会社でアルバイトをしていたそうです。
「カミングアウトについて、皆さんは一生に一回きりのことと思っているかもしれませんが、実はそうではなく、カミングアウトしないといけない場面はほとんど毎日のようにあり、これが一生続きます」とギリェルメさん。
ブラジルにはLGBTを守る法律があって、職場では誰にでも自分はゲイであることを言えたそうです。日本では今が3社目で、最初と現在の外資系の会社では、カミングアウトができたそうですが、2社目の日本の会社では、LGBTQ+に対する方針などはなく、自分のゲイのアイデンティティが守られているのかわからず、自信を持ってカミングアウトすることができなかったと振り返ります。

東京にある外資系企業でITコンサルタントを行うギリェルメ・カストロ氏

インクルーシブでない職場に起こる問題や、法的な制度の遅れが招くビジネスの影響について伊藤さんに尋ねると、安心して働ける会社がないからと、金沢や秋田でも人が出ていってしまう問題があると言います。取り組んでいない、何も発信していないと、働きやすいかどうか以前に、人が入ってこない環境を作ってしまっていると話します。

企業から社会を変えていこうということもありますが、それにも限界があり、法律として変えていかないといけない部分もたくさんあります。
「日本では同性婚ができません。LGBTQ+に関する包括的な差別禁止法というのもありません。今年できたLGBT理解増進法はいわゆる理念法で、違反したからといって罰則はありません」と、時枝さんが述べ、会社の制度でどこまで当事者がカミングアウトしやすい職場づくりができるのかがキーポイントだと指摘します。

事前に受け付けていた質問の一つに、「インクルーシブな職場を作る上で、まず何からしたらいいかがわかりません」というのが複数寄せられていました。
「すでにカミングアウトを受けていて、何かをしなければいけないパターンと、社内にいるかどうかもわからないがきちんと進めておきたいという2つのパターンがあり、前者であれば、何をして欲しいかを当事者に聞いて、できることとできないことの整理を進めながら、一つずつクリアしていきます。後者であれば、まずはどこがインクルーシブじゃないかをチェックすることです」と伊藤さんが回答しました。

「まずは来週会社で本日のセッションのことを話題にしてみるだけでも、一歩先に進めると思います。」と、コーディネイターで国連大学OUIKの富田が述べ、セッションは終了しました。

会場となったのは金沢市中心部にある金沢町家の「金沢にじのま」。ここは多様な人が集えるクリエイティブな居場所とになっています

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