2015年3月24日金沢市にて、「能登の里海」公開セミナーが開催されました。能登半島において里海が果たす役割やその魅力について、より深く理解していただくことを目的として開催されたこのセミナーに
は、漁業関係者をはじめ、県内外の専門家、行政職員、地域の方等約60名の方が出席しました。また本セミナーは、OUIKが2015年度に実施を予定している「能登の里海ムーブメント」のキックオフイベントも兼ねていました。
冒頭、能登島ダイビングリゾートの鎌村実氏が自ら撮影した「能登の里海」の水中映像で、普段目にすることのない美しい海中の様子とそこに広がる豊かな生態系が紹介されました。また、里海を生業の場として関わる人々の営みによってそれらが健全に保たれれていることも解説されました。
渡辺綱男 UNU-IAS OUIK所長からは、「自然と共生する社会」というコンセプトが生物多様性条約第10回締約国会議に於いて世界に向けて提唱され、「里山」「里海」はそれらを具現するものであり、能登の「里山里海」は、その代表的な地域の一つとして、国連食糧農業機関の世界農業遺産(GIAHS)にも認定されたという背景が紹介されました。今回のセミナーをきっかけにあらためてこれらの概念の理解が促進されるようにと開催趣旨を結びました。
基調講演では、「里海」のコンセプトを最初に提唱した授柳哲雄氏(九州大学名誉教)より、国内外における里海の研究背景とその発展が紹介されました。 人間による生業と里海の生態系の豊かさと生産性との関係については里山ほど研究が蓄積されておらず、さらに 多くの研究を重ねることが必要だと柳氏は促し、そのためにも日本の里海研究に対してより多くの関心が集まるように国際会議や学会誌等での英語での発信が不可欠だと提唱しました 。
パネルディスカッションでは、モデレーターとして武内和彦国連大学上級副学長が登壇し、国連大学が社会生態生産ランドスケープとシースケープ(SEPLS)を考案した経緯を説明し、里山と里海は別の概念ではなく その生態と社会経済活動との関係性は共通のものであり、それらを理解し研究してゆくことは、高い生産性を創生するために不可欠だと強調しました。
また、 岩本泰明氏(石川県水産課長)は石川県の漁業の現状と多様な伝統漁法について紹介し、石川県漁業士会長で自らも定置網漁を行う木戸信裕氏は「若者が若者を呼ぶ」として、若い世代にとって漁業が魅力的な職業であるためには彼らに主導権を与えるべきだと意見を述べました。木村功商店代表でカキ養殖を営む木村功氏は七尾湾に注ぎ込む栄養豊富でキレイな川水をカキがよく育つ要因として挙げ、森の保全と上流域と下流域の連携が重要だと説明しました。七尾湾活動実行委員会員兼能登島ダイビングリゾート代表の須原水紀氏はダイビングを通して地元の漁船の点検のお手伝いや研究者の水中調査への協力等地域の漁業と里海の保全へ貢献ができると話し、石川県立大学教授榎本俊樹は能登の海産物を利用した
醗酵食文化から能登の里海の豊かさについて報告しました。
最後に、UNU-IAS OUIK研究員イヴォーン・ユーより、能登の海底はゴミが殆どないことから地域の方々が、海を大切にしている様子が伺えると評価し、そういった能登の魅力をより多くの方に知ってもらうよう、能登地域にてシリーズ講座(年間4回)の開催、里海の研究や里海の発信イベントの協力等UNU-IAS OUIKが今年度実施する「能登の里海ムーブメント」について紹介をしました。